動物心理学年報
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鳥類の育雛期間は人工的に延ばし得るか
丘 直通
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1948 年 2 巻 p. 25-36

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抄録
1) 育雛中に於ける親鳥と雛との關係は極めて密接であるから, 鳥類の蕃殖中に實驗を行うにはこの期間が最も好都合と考えられる。
2) 實驗の目的は次の2つであつた。
成長せる雛を何時までも巣の中に留め置き, 而も親鳥がこれに依然として給餌する場合を生ぜしめれば, 稍不自然ながらも自然に於ける家族形態持續期間に類似のものを目のあたり見る事が出來る譯であり, 果してこれが實驗的に可能であろうかこの點を明らかにせんとするのが目的の第1である。
又蕃殖行動中に見られる可溯性の出現は, 受けたる妨害の程度及び時期により左右されるものではなかろうか, 又然りとすればこの2者の間の關係は如何などにつき解かんとするのが目的の第2であつた。
3) 東京都小石川區内の拙宅の木製木工巣箱内に蕃殖ぜる雀が材料である。第1回蕃殖時には雄 (A) 雌 (B) 及びその雛 (b) が, 第2回蕃殖時には雄 (A) 雌 (C) 及びその雛 (c) が當場した。
4) 巣立眞際の雛を巣箱内に抑留する方法として, 雛の兩翼の風切羽の初列及び次列を根元近くより鋏を以て切斷した。一方巣材の方は, 實驗第1に於ては無精卵を捨て去つたのみにて他は何ら手を觸れす, 實驗第2に於ては産座無精卵などを含めた巣材の全部を外に取り出し, 箱内を全く空にした。
5) 實驗第1は方法の不備により失敗した。
6) 實驗第2に於ては親鳥をして巣立眞近かの雛をその後20日間も育雛せしめることに成功した。而してこの期間の末期に於ては親鳥の蕃殖衝動の弱化が見られ, 雛の死は, 彼自身の趾の病氣にも1部は起因するとも, 親鳥の給餌行動の怠惰化, 更に遂にはその停止が主なる原因をなすものと推察される。
7) 蕃殖行動に見られる可溯性は同一構巣場所を見捨てぬ隈り1蕃殖經過中に現われ得るものではあろうが, 一聯の蕃殖行動の大部を再び繰返さねばならぬ様な大妨害を受けたる時はもはや可溯性として現われず, 次回の新たなる蕃殖行動を促すものの如くである。
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© 日本動物心理学会
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