Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Relation between Excellence and Experience with Regard to Child and Adolescent Psychiatric Inpatient Care
Akiko Funakoshi Sachiko TsuchidaTomoko TsuchiyaKie HattoriYuki MiyamotoJunko GoraAtsuko TanakaMinori Arima
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2014 Volume 34 Issue 1 Pages 11-18

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Abstract

本研究の目的は,児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師の看護実践の卓越性とこれまでの看護経験の関連を明らかにすることである.児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師を対象に,「看護実践の卓越性自己評価尺度」と看護経験について自記式質問紙調査を実施した.「看護実践の卓越性自己評価尺度」の7下位尺度について,児童・思春期精神科病棟での勤務年数,成人の精神科および一般の小児科での看護経験の有無による差を,分散分析またはt検定を用いて分析した.14病院234名(有効回答率69.6%)を分析対象とした.児童・思春期精神科病棟での勤務年数が長い者は,総得点と6下位尺度で統計的に有意に高い看護実践の卓越性がみられた.成人の精神科での勤務経験を有する看護師は,『医療チームの一員として複数役割の発見と同時進行』のみ統計的に有意に高い卓越性を示した.一般の小児科経験の有無による差は認められなかった.児童・思春期精神科看護は専門性が高く,成人の精神科での臨床経験の一部が活かされるものの,主に当該領域の臨床看護の経験によって看護実践の卓越性が高められると考えられた.

Ⅰ.緒言

近年,国内外で子どものメンタルヘルスへの関心が高まっている.子どものメンタルヘルスは,いじめ,不登校,虐待,自殺,少年犯罪などと密接に関係していることから,対策を講じるべき喫緊の社会的課題である.精神疾患に至る問題の多くは,児童または思春期に発生しており,早期に適切な介入がなされるかどうかは,成人してからのメンタルヘルス,ウェルビーイング,生産性に影響するといわれている(Kessler et al., 2007).

世界的な疫学調査では,子どもの10~20%が精神的な問題を抱えていると報告されている(Kieling et al., 2011).わが国でも,医療機関で精神的な問題に対する治療を受けている20歳以下の子どもは,15万人以上にのぼり,過去10年間で1.5倍に増加している(厚生労働省,2011).特に,児童・思春期精神科病棟での入院治療を必要とする複雑で重篤な問題を抱えた子どもが増加している(長沼,2008).

児童・思春期精神科病棟への入院治療の対象となるのは,外来では治療効果がでない場合,症状や状況が急激に悪化した場合,家庭内暴力がある場合,ひきこもりや長期の不登校がある場合などである.気分障害,統合失調症,発達障害圏,強迫性障害など入院の適応となる疾患の種類は多岐にわたる(菊池ら,2008).入院期間は,数日から数年と幅があるが,平均11カ月とする報告がある(Setoya et al., 2011).

児童・思春期精神科病棟での入院治療においては,看護師は子どもの生活全般に関わり,きわめて重要で中心的な役割を担っている.児童・思春期精神科病棟へ入院中の子どもに対して,看護師が行うケアの内容として,『子どもへの個別の関わり』『暴力・暴言への対応』『子どもを知る』『外泊・就学への支援』『家族への支援』『集団への関わり』『医療チームの一員としての関わり』の7つの領域が報告されている(船越ら,2010).これらは,子どもへのケアのみならず,他職種との連携や親への対応など多岐にわたっている.また,精神疾患に罹患した子どものケアでは,看護師は常に最新のアセスメントを行うこと,治療をモニタリングすること,心理的な介入を行うことにおいて,重要な役割を担っていることが明らかとなっている(McDougall, 2009).

児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師がこうした重要かつ幅広い役割を果たし,子どもが抱える複雑で重篤なメンタルヘルスの問題の解決に貢献するためには,質の高い看護を実践することが求められている.一般的に,質の高い看護実践は,患者ケアのアウトカムに大きく影響することが明らかとなっている(Chang et al., 2002; Dugdall et al., 2004; Pearson et al., 2000).

そこで,本研究では,看護実践の質の高さを意味する概念として,看護実践の卓越性に着目した.看護実践の卓越性は,看護経験の年数とその質によって高められる.多くの先行研究が,臨床経験年数が長い看護師ほど看護の質が高いことを明らかにしている(松本ら,1997中野ら,1997).一方で,臨床経験年数と看護の質は必ずしも正比例するものではないという報告(柴田ら,1995)や,経験年数よりも看護師としての職業経験の質の方が看護の質に影響するという報告(鈴木ら,2003鈴木ら,2004)もある.

看護師が卓越した看護を実践していくためには,看護実践の質を適切に評価することが重要である.児童・思春期精神科看護の専門性に基づく看護実践の質を評価する客観的指標は存在しないが,特定の診療科に限定することなく病棟に勤務する看護師の看護実践の質を評価する指標としては,「看護実践の卓越性自己評価尺度—病棟看護師用—」(亀岡,2009)がある.この尺度開発の第一段階として実施された質的帰納的研究では,病院に就業する看護師が展開する卓越した看護実践の全貌を35のカテゴリーで説明している(上田ら,2005).これら35の卓越した看護実践は,前述した児童・思春期精神科病棟における7つのケア領域と関連するものも多い.例えば,児童・思春期精神科病棟でのケア領域の一つである『子どもへの個別の関わり』は,子どもとの一対一のコミュニケーションを通して信頼関係を構築し,子どもの成長・発達を促す個別的な関わりをすることと定義されているが(船越ら,2010),これに関連すると考えられる卓越した看護実践としては,「多忙な業務の中から時間を捻出し,コミュニケーション技術を駆使して信頼関係を形成する」「日常生活援助を媒介として他者を寄せつけない患者との関係を継続する」「頻繁な患者の訴えに根気強く快く応じる」が挙げられる.したがって,児童・思春期精神科看護の実践に特化した評価指標が存在しない現状において,児童・思春期精神科病棟という特殊な環境の中で,一般的に求められている看護実践の卓越性を評価することによって,看護の質の現状を把握することがまずは必要であると考えた.

本研究の目的は,児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師の看護実践の卓越性とこれまでの看護経験の関連について明らかにすることである.看護実践の卓越性と看護経験の関連を明らかにすることで,看護師のキャリア形成,職場環境の改善,看護継続教育の充実などを考える際の有用な示唆が得られると考えた.

Ⅱ.方法

1.用語の定義

本研究では,「看護実践の卓越性」を看護実践の質の高さと定義し,卓越した看護実践とは,質の高い看護を実践していることを意味するものとした.また,卓越した看護を実践する可能性が高いエキスパートナースについて,ベナーは状況の全体像を直感的に把握し,過去に経験した具体的な状況を模範として用いることで適切に問題に対応できる(Benner, 2001/2008)としていることから,看護実践の卓越性とは,臨床判断と看護介入における質の高さを意味するものとした.

2.対象者

対象施設は,オブザーバー施設を含む全国児童精神科医療施設協議会に加盟している27病院(平成19年度)の中で,児童または思春期を対象とした専門病棟(以下,児童・思春期精神科病棟)を有している18病院のうち,調査に協力が得られた病院とした.対象者は,対象施設の児童・思春期精神科病棟に勤務している全ての看護師とした.

3.データ収集

対象者に対して,看護実践の卓越性と看護経験について自記式質問紙調査を平成22年7~8月に実施した.対象者は病棟内で回答し,個別の封筒に調査票を入れ封をした上で病棟に設置した回収箱に提出した.回収箱は,データ収集期間終了後に,対象施設の調査協力担当者によって,研究代表者宛てに返送された.

4.調査内容

調査内容は,年齢,性別などの対象者の基本属性,看護経験,「看護実践の卓越性自己評価尺度—病棟看護師用—」である.看護経験としては,児童・思春期精神科病棟と患者の特性に類似点がみられる小児科・成人の精神での看護経験年数,および,看護経験の質に関連する看護師の背景である職位,学歴,所持資格(舟島ら,2005)について質問した.

「看護実践の卓越性自己評価尺度—病棟看護師用—」は,病棟に勤務する看護師の看護実践の質の自己評価を測定する信頼性と妥当性が確認された尺度である(亀岡,2009).この尺度は,看護実践の質向上とその卓越性への到達を導く7下位尺度35項目で構成されている.尺度の総得点は,看護実践の質の全体的な傾向,各下位尺度の得点は,どの側面の看護実践が特に優れており,どの側面の看護実践が特に改善を要するかを示している.例えば,下位尺度「Ⅰ.連続的・効率的な情報の収集と活用」では,間断のない周辺事態の観察や短時間の効率的な情報収集を行うとともに,わずかな情報から,あるいは多少な情報を組み合わせ,問題を見極め援助に結びつけるという卓越した看護実践を表している.回答者は各質問項目に自己の現在の看護実践が合致する程度を5段階で評価する.尺度得点が高いほど,回答者は,現在の看護実践の質を高く評価していることを示す.

また,「看護実践の卓越性自己評価尺度—病棟看護師用—」は,さまざまな病棟で調査した尺度開発時の総得点および各下位尺度得点の平均値(基準点)と標準偏差を用い,高得点,中得点,低得点の3領域を設定しており,看護実践の質を「低い」「標準」「高い」の3段階で評価することができる.尺度開発時の得点において,看護実践の質が低い領域は,「平均値−1SD」に満たない領域,看護実践の質が標準の中得点領域は「平均値−1SD以上平均値+1SD以下」の領域,看護実践の質が高い高得点領域は,「平均値+1SD」を超えた領域とされている.

5.分析

本研究の調査で得られた看護実践の卓越性自己評価尺度の総得点と各下位尺度毎において,高得点,中得点,低得点の3領域の分布を度数とパーセンテージで示し,児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師の看護実践の質の特徴を一般的な看護実践と比較した.また,看護師としての通算経験年数と児童・思春期精神科病棟での勤務年数について,それぞれ対象者数が均等になるようビン分割した3群において,一元配置分散分析を用いて看護実践の卓越性を比較した.小児科および成人の精神科経験の有無による看護実践の卓越性の差について,t検定を用いて分析した.

6.倫理的配慮

対象者に対して,研究の主旨,匿名性の確保,研究結果の公表,調査への参加は自由意志であること,研究参加への有無や途中辞退によって不利益を被らないことを書面で説明し,調査票への回答をもって研究への同意が得られたとした.また,三重県立看護大学研究倫理審査会による承認を受けた.

Ⅲ.結果

14病院19病棟336名に調査を依頼し,249名(純回収率74.9%)から回答を得た.そのうち,看護実践の卓越性自己評価尺度の8項目(20%)以上の欠損があった15名を除外し,234名を分析対象とした(有効回答率69.6%).対象者の背景と看護経験を表1に示す.対象者は,男性が59名(25.2%),平均年齢は38.2歳(SD=10.2)であった.対象者の看護教育における最終学歴は,3年制専門学校が125名(53.4%)と半数以上であったが,大学・大学院卒の者も合わせて31名(13.3%)いた.なお,准看護師は1名(0.4%)であった.

表1 対象者の背景と看護経験 (N=234)

対象者の看護経験については,看護職としてのこれまでの通算経験年数の平均は15.3年(SD=10.6,範囲:1~48)で,通算10年以上の経験を有する者が62.8%であった.児童・思春期精神科病棟での通算経験年数の平均は5.2年(SD=5.1,範囲:1年未満~36)で,児童・思春期精神科病棟での経験年数が2年以下の者が40.6%であった.また,成人の精神科病棟での勤務経験を有する者は121名(53.0%)で,通算勤務経験年数は平均8.7年(SD=7.4,範囲:1~33),一般の小児科病棟での勤務経験を有する者は75名(32.9%)で,通算勤務経験年数は平均6.1年(SD=6.1,範囲:1年未満~27)あった.

「看護実践の卓越性自己評価尺度—病棟看護師用—」の総得点と各下位尺度について,高得点,中得点,低得点の3領域における得点分布を図1に示す.総得点の3領域における得点分布は,質が低い領域が16.7%,質が高い領域が14.1%であった.また,本研究の対象者の平均値を基準点と比較したところ,総得点では差がなかったものの,下位尺度『臨床の場の特徴を反映した専門的知識・技術の活用』および『医療チームの一員としての複数役割発見と同時進行』では基準点より統計的に有意に低く,『現状に潜む問題の明確化と解決に向けた創造性の発揮』では基準点より有意に高かった(表2).

図1 看護実践の卓越性自己評価尺度 得点の分布(N=234)
表2 看護実践の卓越性自己評価尺度 基準点との比較(N=234)

看護実践の卓越性と看護経験の関連について,これまでの看護師としての通算経験年数を,9年以下,10~20年,21年以上にそれぞれ対象者数が均等になるようビン分割した3群において,看護実践の卓越性を比較した結果,『連続的・効率的な情報の収集と活用』『臨床の場の特徴を反映した専門的知識・技術の活用』『医療チームの一員としての複数役割の発見と同時進行』の3つの下位尺度で経験年数が長い看護師の方が統計的に有意に看護実践の質が高かった(表3).しかし,総得点では,看護師としての通算経験年数による差は認められなかった.

表3 通算看護師としての経験年数別看護実践の卓越性(N=232)

同様に,児童・思春期精神科病棟での勤務年数を,2年以下,3~5年,6年以上にそれぞれ対象者数が均等になるようビン分割した3群において,看護実践の卓越性を比較した.その結果,児童・思春期精神科病棟での勤務年数が長い者は,総得点と『患者の人権尊重と尊厳の遵守』を除く6下位尺度で統計的に有意に高得点であった(表4).

表4 児童・思春期精神科病棟での勤務年数別看護実践の卓越性(N=234)

次に,成人の精神科病棟での勤務経験の有無による看護実践の卓越性を比較した.成人の精神科での勤務経験を有する看護師は,下位尺度『医療チームの一員としての複数役割の発見と同時進行』においてのみ統計的に有意に高得点であった(t=2.038, p<0.01).なお,一般の小児科経験の有無による差は認められなかった.

Ⅳ.考察

第一に,児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師の看護実践の卓越性は,児童・思春期精神科病棟での勤務年数の長さと大きな関連があった.児童・思春期精神科病棟での勤務年数が長い者ほど,看護実践の卓越性は,総得点と『患者の人権尊重と尊厳の遵守』を除く6下位尺度で統計的に有意に高得点であった.一方で,本尺度は臨床経験の少ない看護師は高得点を獲得しにくいとされている(亀岡,2009)にもかかわらず,総得点では,看護職としてのこれまでの通算経験年数によって看護実践の卓越性に差は認められなかった.このことから,児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師の看護実践の卓越性は,看護師としての通算経験年数よりむしろ当該領域の勤務経験年数と大きな関連があることが示された.また,下位尺度『現状に潜む問題の明確化と解決に向けた創造性の発揮』は,看護師としての通算経験年数による差はみられなかった.しかしながら,児童・思春期精神科病棟での勤務年数が長い者は統計的に有意に高得点であり,さらにさまざまな病棟での調査による基準点との比較において,本研究の対象者が統計的に有意に高得点を示した唯一の下位尺度であった.このことから,『現状に潜む問題の明確化と解決に向けた創造性の発揮』は,児童・思春期精神科病棟での看護経験が特に大きく関連している看護実践であり,児童・思春期精神科看護において特に重要な要素であると考えられた.

第二に,児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師の看護実践の卓越性は,成人の精神科での経験とも関連がみられた.成人の精神科での勤務経験を有する看護師は,下位尺度『医療チームの一員としての複数役割の発見と同時進行』においてのみ統計的に有意に高得点が得られた.これは,児童・思春期精神科病棟での看護実践の卓越性のうち,医療チームの一員として質の高い看護を実践するという側面において,成人の精神科での臨床経験が活かされていることを意味する.

以上より,児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師の看護実践の卓越性とこれまでの看護経験の関連は,成人の精神科での臨床経験が一部活かされるものの,当該領域の臨床経験年数が卓越性の多くの側面と関係していることが明らかとなった.このことは,児童・思春期精神科看護が固有の専門性を有しており,他の領域での看護経験が活かされにくい可能性があることを示唆したといえる.しかし,児童・思春期精神科看護に固有の専門性を反映した具体的な看護実践は明らかとなっていない.これまでの児童または思春期の精神科看護の先行研究を概観したレビュー論文によると,今後の看護実践の課題として,看護の特徴と看護師の役割の明確化(野崎ら,2009)や,看護の方法論の確立(郷良,2009)が挙げられている.今後は,児童・思春期精神科看護の専門性を明確にする必要がある.

また,児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師の看護実践の卓越性は,下位尺度によって分布に差はあるものの,総得点においては,質が低い領域が16.7%,質が高い領域が14.1%であり,内科系,外科系,小児科,産科などさまざまな診療科に勤務する看護師を対象とした本尺度開発時の調査結果(亀岡,2009)と大きな違いはなかった.同様に,総得点の平均値は,基準点と統計的に有意な差がなかった.このことから,児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師は,他の診療科と同程度の看護実践の質を有していると推測された.

一般的に求められている看護実践の卓越性の総合的な評価は低くないものの,児童・思春期精神科看護は専門性が高く他の診療科での看護経験が活かされにくい可能性が示唆されたことをふまえると,児童・思春期精神科病棟での看護経験が浅い看護師に対して,看護実践の卓越性を向上させる工夫が必要である.特に,看護師としての経験年数は長いが,児童・思春期精神科病棟での勤務経験が浅い者は,何らかの困難や課題を抱えている可能性が高い.看護実践の卓越性は,経験年数の他にも,経験の質が関係していると指摘されている(鈴木ら,2003鈴木ら,2004).児童・思春期精神科病棟での勤務経験が浅い看護師が看護実践の卓越性を向上させるためには,児童・思春期精神科看護に特有の教育ニーズや,専門性が高い看護実践に着目し,当該領域において質の高い看護を経験することが重要である.思春期精神科病棟に勤務する看護師の教育ニーズとして,Inoueらは,患者の発達段階に応じたケア,患者の自己充足感の促進,家族支援の3点を挙げている(Inoue et al., 2012).これらの教育ニーズの充足を図ることは,児童・思春期精神科看護に特有の看護実践を習得すること,および,これまでの看護経験を児童・思春期精神科看護の場で十分に発揮することにつながると考える.

Ⅴ.本研究の限界と今後の課題

本研究では,児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師の看護実践の卓越性を,対象者本人による自己評価尺度を用いて評価した.そのため,対象者の看護実践の卓越性の客観的評価と必ずしも一致しない可能性がある.また,児童・思春期精神科看護に特有の看護実践の卓越性については,評価されていない.

しかしながら,本研究では,児童・思春期精神科病棟における看護実践の卓越性に初めて着目し,かつ,高い代表性に基づいてその全体像を看護経験との関連によって明らかにすることができた.本研究は,児童・思春期精神科病棟に勤務する看護師の全数調査を試み,高い回答率を得ることができた.子どもが安心して質の高い入院治療を受けるためには,看護師が高い専門性に基づく卓越した看護を実践する必要がある.今後は児童・思春期精神科看護に特化した看護実践について,卓越性を評価し,その関連要因を看護経験の質も含めて特定していくことが求められる.

Acknowledgment

本研究の実施にあたり,アンケート調査に快くご協力くださいました看護師の皆さまに深く感謝申し上げます.本研究は平成22年度科学研究費補助金若手(B)「児童・思春期精神科病棟における看護ガイドラインの開発」(課題番号:22792279)の助成を受けて行った.

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