Journal of Japan Academy of Nursing Science
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A Survey of Ethics Review Boards in Nursing Research Part 1: The State of Ethics Review in Nursing Programs at Universities
Kuniko Ishii Tomoko KameiYukiko KawashiroMihoko MiyawakiIkuko MiyabayashiMika Nomura
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2014 Volume 34 Issue 1 Pages 74-83

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Abstract

目的:看護系大学における研究倫理審査の現状を明らかにし,看護学研究における研究倫理審査体制の在り方を検討する.

方法:全国の看護系大学で看護学研究倫理審査に精通している専任教員を対象に,郵送による無記名自記式質問紙調査を行った.

結果:回答があった看護系大学89校(回収率44.5%)のうち,倫理審査委員会が設置されている87校を分析対象とした.看護単科大学と看護学部・学科のみの運営形態では委員の人数が少なく看護学専門家の割合が高かった.倫理審査に関する規程は,ほとんどの大学が整備・公表していた.委員会の予算があるのは46校(52.9%),研究実施過程のチェックシステムがあるのは28校(32.2%),新委員に対する研修があるのは11校(12.6%)であった.迅速審査の制度があるのは50校(57.5%)であった.

結論:看護学に特化した視点と学際的・多元的な視点を併せ持つ委員構成の実現,迅速審査の適正な導入と予算確保による委員の負担軽減,研究実施過程のモニタリング,倫理的資質の向上,等の課題が明示された.

Ⅰ.はじめに

看護学の発展に「人を対象とする研究」は不可欠であるが,それを実施する際は,対象者の尊厳および基本的人権を守るための倫理的なルールに則って行われる必要がある.研究に伴う倫理的問題の解決に向けての基本的な倫理原則は,ニュルンベルク綱領 (1947: U.S. Department of Health & Human Services, 1949),ヘルシンキ宣言 (World Medical Association, 1964),ベルモントレポート (U.S. Department of Health & Human Services, 1979) 等に提示されている.

現在,看護学研究を行う上で遵守すべきいくつかの指針として活用できるものとして,疫学研究の倫理審査のための国際指針 (The Council of International Organizations of Medical Sciences, 1991),看護研究のためのガイドライン (International Council of Nurses, 2003),疫学研究に関する倫理指針 (文部科学省,2002),臨床研究に関する倫理指針 (厚生労働省,2003,改正2008),看護研究における倫理指針(日本看護協会,2004) 等がある.しかしながら,こうした倫理指針は研究者が遵守してはじめて意味をもつものであり,研究倫理審査委員会には,対象者の人権を保護するために,どうすれば研究者が倫理を守ることができるかについての対応が期待されている.

日本看護科学学会看護倫理検討委員会(以下:本委員会)では,2007年6月に「看護研究上のモラルに関する提言」(2007)を公表してから,現在まで看護学の研究倫理の整備に取り組んできた.2009年度には看護系の研究機関および医療機関における看護研究倫理審査体制に関する調査を実施し,看護学研究に特化した倫理審査体制の整備や人材育成などの課題を浮き彫りにした (中込ら,2012縄ら,2012).その後,看護系大学は増加の一途をたどっているが,現時点における各大学の研究倫理はどの程度整備されているのであろうか.

本委員会では,2011年度に「看護学研究における倫理的環境整備に向けた実態調査」を実施した.本稿では,調査の中から第1報として「看護学研究倫理審査の現状」について報告し,第2報において「若手研究者に対する倫理審査に関連した支援」「看護学研究における利益相反」「介入研究における被験者に対する補償保険」について報告する.

Ⅱ.調査方法

1.調査対象

2011年度日本看護系大学協議会に加盟している全ての看護系大学(200校)の看護学教育研究責任者が推薦する各大学の看護学研究倫理審査に精通した専任教員であり,研究協力の同意が得られた者とした.

2.調査方法・調査内容

調査は,無記名自記式の質問紙を作成し,郵送法により実施した.各大学の看護学教育研究責任者を介して調査対象者に調査票,返信用封筒を渡し,調査協力を依頼した.調査票は回答者の返送により回収した.回収率を上げるために,2月下旬に再度依頼状を送付した.

調査内容は,各大学の看護学研究の倫理審査,若手研究者に対する支援,看護学研究における利益相反,介入研究における被験者に対する補償保険,についてであった.

3.調査期間

2012年1月中旬に調査票を発送し,2012年2月末日までに回収した.

4.分析方法

数量的データは,記述統計により,設置主体,学部構成,設置課程,運営形態,設置年との関連を,一元配置分散分析およびマンホイットニー検定を用いて分析した.自由記載部分は,類似したものを集約しカテゴリー化した.

5.倫理的配慮

調査協力は自由意思であること,調査票に回答者の個人名や大学名は記載せず,匿名性が保証されていること,データは本研究の目的以外には使用せず調査終了後に断裁等により破棄することを,調査協力の依頼文書に明記した.本調査は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2011-043).

Ⅲ.結果

1.分析対象校,回答者の属性(表1表2

看護系大学200校のうち,89校から返送があった(回収率44.5%).このうち,研究倫理審査委員会が未設置の2大学を除いた87校を分析対象とした.分析対象校の設置主体は国立20校(23%),公立27校(31%),私立40校(46.0%)であった.大学の学部構成は,看護単科大学15校(17.2%),医療系学部をもつ医療系大学31校(35.6%),総合大学・その他41校(47.1%)であった.看護系学部・研究科の設置課程は,博士後期課程32校(36.8%),博士前期(修士)課程34校(39.1%),学士課程のみ21校(24.1%)であった.研究倫理審査委員会の運営形態は「看護学部・学科のみで運営」30校(34.5%),「医学部医学科と合同で運営」13校(14.9%),「医療系学部と合同で運営」24校(27.6%),「医療系以外も含む学部で運営」20校(23.0%)であった.研究倫理審査委員会の設置年は「2007年以前」51校(58.6%),「2008年以降」18校(20.7%),無回答18校(20.7%)であった.

表1 調査対象校の属性(n=87)
表2 回答者の属性(n=87)

回答者の役職は教授が57名(65.5%)で最も多く,研究倫理審査委員会における役割は委員長36名(41.4%),委員34名(39.1%)であった.

2.研究倫理審査委員会

1)研究倫理審査委員の人数および構成 (表3表4表5

倫理審査委員の人数(82校回答)は,8.6±2.8名(3~15名)であった.設置主体別では,国立10.3±2.9名,公立8.3±2.7名,私立7.9±2.5名であった(p<0.01).学部構成別では,総合大学・他9.2±2.7名,医療系大学8.6±3.0名に比べ,看護単科大学が6.9±1.8名と最も少なかった(p<0.05).運営形態別では,医学部医学科と合同10.7±2.7名が最も多く,看護学部・学科のみ6.9±2.4名が最も少なかった(p<0.001).設置課程,設置年で有意差は認めなかった.

表3 委員の人数
表4 看護学の専門家の割合
表5 医学の専門家の割合

「看護学の専門家」(81校回答)は,79校において,2.9±1.9名(0~8名)が含まれていた.1名も含まれていない大学が2校,1名のみが20校みられた.「医学の専門家」(81校回答)は57校で含まれており,2.1±2.4名(0~10名)であった.「倫理の専門家」(80校回答)は37校で0.5±0.7名(0~3名)の配置,「法律の専門家」(80校回答)は42校で0.6±0.5名(0~2名)の配置,「それ以外の専門家」(80校回答)は65校で2.4±1.6名(0~7名)の配置,「市民」(回答80校)は30校で0.4±0.6名(0~2名)の配置であった.

全委員における女性委員の割合は,46.4±23.6%(0~100%)であった.

全委員における「看護学の専門家」が占める割合(81校回答)は,37.8±26.5%であった.設置主体別では,私立42.5±28.5%,公立41.0±23.4%に比べ,国立が23.3±22.1%と低かった(p<0.05).学部構成別では,医療系大学32.2±26.5%,総合大学・他35.7±27.4%に比べ,看護単科大学が53.7±18.1%と高かった(p<0.05).運営形態別では,医学部医学科と合同20.4±27.2%,医療系学部と合同26.2±13.4%,医療系以外学部も含む26.2±22.1%に比べ,看護学部・学科のみが59.6±21.6%と高かった(p<0.001).設置課程,設置年による有意差は認めなかった.

「医学の専門家」が占める割合(81校回答)は,21.9±21.4%であった.設置主体別では,私立19.5±21.2%,公立15.6±17.4%に比べ,国立が36.1±21.6%と高かった(p<0.01).学部構成別では,看護単科大学が6.2±9.2%と最も低かった(p<0.01).運営形態別では,医学部医学科と合同が49.9±22.2%と最も高かった(p<0.001).設置課程,設置年による有意差は認めなかった.

2)研究倫理審査に関する規程(表6

看護研究の倫理審査に関する規程は81校(93.1%)がもっており,規程がない大学3校(3.4%),無回答3校(3.4%)であった.規程の公開方法は,「規程集」58校(66.7%),「イントラネット」32校(36.8%),「その他」6校(6.9%)であった.研究倫理委員会の手順書,委員名簿,会議概要の公表に関しては,36校(41.4%)が公表,一部公表34校(39.1%)で,公表していない13校(14.9%),無回答4校(4.6%)であった.設置主体,学部構成,設置課程,運営形態,設置年による有意差は認めなかった.

表6 研究倫理審査委員会の規程・運営(n=87)

3)研究倫理審査のための予算(表6

予算があるとしたのは46校(52.9%),なしとしたのは32校(36.8%),無回答9校(10.3%)であった.運営形態別にみると,看護学部・学科のみ13校(43.3%),医学部医学科と合同8校(66.7%),医療系学部と合同10校(55.6%),医療系以外学部も含む15校(83.3%)で予算をもっていた(p=0.05).設置主体,学部構成,設置課程,設置年による有意差は認めなかった.

4)研究の実施過程のチェックシステム(表6

研究の実施経過のチェックシステムは,あり28校(32.2%),なし55校(63.2%)であった.ありと回答したうちの15校は,中間報告書の提出を課していた.設置主体,学部構成,設置課程,運営形態,設置年による有意差は認めなかった.

5)研究倫理審査委員の基準(表6

研究倫理審査委員任命の基準は,設けている43校(49.4%),設けていない41校(47.1%)であった.教授,准教授,講師以上など,職位による基準を設けている大学が17校であった.設置主体,学部構成,設置課程,運営形態,設置年による有意差は認めなかった.

6)新たに研究倫理審査委員になる教員に対するFDや研修(表6

新任の研究倫理審査委員へのFaculty development(FD)や研修は,あり11校(12.6%),なし74校(85.1%)であった.具体的研修の内容は,年1回の委員の研修,医療機関・大学のネットワークに加入して定期的に研修会に参加するなどがあった.設置主体,学部構成,設置課程,運営形態,設置年による有意差は認めなかった.

3.研究倫理審査のプロセス(表7

1)申請時の提出書類

研究倫理審査申請書は85校,研究計画書は82校,依頼文書・質問紙等の配布文書82校と,ほとんどの大学でこれらが提出書類となっていた.このほか,チェックリスト,利益相反申告書,研究フィールドの同意書,薬物の効能書,契約書,研究者の履歴書,臨床研修・e-learningの受講証控,文献等があげられた.

表7 研究倫理審査のプロセス(n=87)

チェックリストの提出を必要としたのは41校であり,設置課程別では,博士後期課程21校(65.6%),博士前期(修士)課程11校(32.4%),学士課程のみ9校(45.0%)であった(p<0.05).

2)申請者の陪席

申請者の倫理審査への陪席は,あり41校(47.1%),なし32校(36.8%)であった.

3)審査方法

審査は,「申請書とヒアリング」39校(44.8%),「必要時ヒアリングを実施」27校(31.0%),申請書提出のみ18校(20.7%)であった.必要時のヒアリングとは,「委員会が必要性を認めた時」4件,「迅速審査以外」3件,「心身に影響を与える研究内容の時」「介入や測定方法を審査委員会が明確にしたい時」「申請書では判断できない内容の時」「大学院生のみ」「倫理的課題があった時」などであった.審査を一次から三次までに分けている大学も1件あった.

4)審議の判定方法

審査の判定は「委員の合議による審査」76校(87.4%),「委員による表決」8校 (9.2%),その他1校 (1.1%),無回答2校 (2.3%) であった.

5)審査の結果通知から再審査までの期間

再審査までの期間は,16~30日38校(43.7%),15日以内22校(25.3%)で,ほとんどは一か月以内であった.31~60日4校(4.6%),61日以上1校(1.1%),無回答22校(25.3%)であった.

6)再審査の回数

再審査の回数を決めていない大学は78校(89.7%),決めている大学は7校(8.0%)であった(無回答2校).

7)異議申し立ての制度

異議申し立ての制度は,あり51校(58.6%),なし31校(35.6%),無回答5校であった.具体的には,「再審査請求制度」「再審査申し出」「書類の提出」「異議申し立て規程」「10日以内,または30日以内に再審査請求」「委員長に申し出る」「学長に申し出る」「インターネットによる」「事務局に申し出る」等であった.

8)迅速審査の制度

迅速審査制度は,あり50校(57.5%),なし35校(40.2%),無回答2校であった.設置主体別では,国立17校(85.0%),公立12校(46.2%),私立21校(53.8%)で迅速審査の制度があった(p<0.05).

4.2010年度の研究倫理審査委員会の実績(表8

1)開催回数

1年間の開催回数は,9.2±4.7回/年(0~28回/年)であり,回答が最も多かったのは12回/年19校(21.8%)であり,次いで6回/年11校(12.6%)であった.12回/年より多く開催している大学は7校(8%) であった.

表8 2010年度の研究倫理審査委員会の実績(n=87)

2)各回の委員会の平均所要時間

1回の委員会における平均所要時間は109.2±51.8分/回(40~300分/回)であった.平均所要時間が60分/回以下は18校(20.7%),61~120分/回は44校(50.6%),121~180分/回は10校(11.5%),181分/回以上は6校 (6.9%) であった.

3)委員会を運営するための予算

予算なしの回答は23校(26.4%)であった.予算がある28大学における平均予算額は25.0±31.7万円/年(0.4~150万円)であり,5万円未満/年は4校(4.6%),5~10万円/年は8校(9.2%),11~20万円/年は6校(6.9%),21~30万円/年は3校(3.4%),31~100万円/年は6校(6.9%),101万円/年以上は1校(1.1%)であった.

4)年間審査件数

全体の平均年間申請件数は57±83.0件/年 (3~600件/年) であった.50件/年以下は52校(59.8%),51~100件/年は14校(16.1%),101件/年以上は10校(11.5%)であった.さらに50件/年以下では,10件/年以下12校(13.8%),11~20件/年13校(14.9%),21~30件/年12校(13.8%),31~40件/年7件(8.0%),41~50件/年8件(9.2%)であった.

5)審査結果

全申請数における不承認の割合は3.4±6.7%であった.承認,条件付承認,再審査の年間件数については,大学によりそれらの基準は異なっていたため,正確な数を算出できなかった.

6)異議申し立て件数

異議申し立て件数は,0件61校(70.1%),1件4校 (4.6%) と,異議申し立てはほとんどなかった.

5.看護学研究の倫理審査委員会に関する課題(表9

47の自由記述は,【審査基準の統一・標準化】【対象となる研究課題の明確化】【審査委員の資質向上】【多分野審査委員の確保】【看護学研究にふさわしい審査体制の整備】【倫理審査の評価体制の整備】【研究実施過程におけるチェック・支援体制の整備】【審査委員の負担軽減】【事務組織の協力獲得】【審査が難しい倫理的問題・研究課題】【審査申請の質向上】の11のカテゴリーに集約された.

表9 看護学研究の倫理審査委員会に関連する課題

Ⅳ.考察

1.本調査の対象校と研究倫理審査委員会の設置状況

本調査の分析対象87校は,設置主体,学部構成,設置課程の構成割合が母集団である全看護系大学200校と概ね一致していることから,本調査の対象校は母集団の特徴を反映した集団であると考えられる.しかし,調査票回収率が44.5%と過半数に満たなかったことから,調査結果の解釈は慎重に行わなくてはいけない.特に,私立大学(111校中40校の回答,36.0%)および学士課程のみ有する大学(67校中21校の回答,31.3%)の回答率が低かったことから,これらの大学の特徴と調査結果が一致しないこともあり得る.また,研究倫理審査委員会の運営形態の分布は,看護学部・学科を有する大学の多様化を反映していると考えられる.

2.研究倫理審査委員の構成

倫理審査委員会の規模や委員構成にさまざまなパターンがみられたことは,大学の学部構成や倫理審査委員会の運営形態が多様であることを反映していると考えられる.本調査において,看護単科大学または看護学部・学科のみの委員会において,委員の人数が少なく看護学の専門家が占める割合が高いという特徴が浮上した.少ない人数での委員会運営において,臨床研究および疫学研究における倫理指針が求めている「学際的かつ多元的な視点から,様々な立場からの委員によって,公正かつ中立的な審査を行える適切な構成」を実現するためには,倫理や法学,市民といった背景の異なる委員を効果的に含めていく工夫が重要であると考えられる.

一方,看護学研究の専門家の配置をみると,0~1名という極端に少ない大学の存在が明らかになった.2009年度調査でも,看護学以外の委員が大多数を占める中で看護学研究の本質が理解されずに審査が行われている実情が報告されている(中込ら,2012).医学部医学科を有する大学では医学の専門家が多いという従来の傾向が継続しており,総合大学等の大きな委員会組織において看護学研究の独自性を考慮した審査が行えるような委員配置が求められる.

3.研究倫理審査の負担

研究倫理審査委員会の開催回数は,多くの大学が1~2か月に1回定期的に開催されていると推察されるが,月1回以上開催されている大学や,1回の所要時間が3時間を超す大学もあった.2009年度調査でも委員の負担が大きい実情が示された(中込ら,2012)が,本調査においても同様の傾向が確認された.審査方法をみると,申請者自身の審査への陪席やヒアリングを導入している大学が半数を超え,委員の合議により審議を行う大学がほとんどであったことは,ひとつひとつの審査を丁寧に行い,かつ,審査プロセスの中に指導的要素を盛り込んでいる現状を反映していると考えられる.これは,倫理審査および看護学研究の質保証に寄与している一方で,委員の負担を大きくしていると言わざるを得ない.

一方,迅速審査の制度を取り入れている大学は6割程度であった.委員の負担を軽減するために,適正な審査が保証された迅速審査制度の導入を促進する必要があり,看護学研究において迅速審査に委ねることができる事項の明示が望まれる.

また,予算が少ない,事務局の協力が得られないという実情があったことから,外部委員の委託や事務業務の効率化といった円滑な委員会運営のための予算確保も重要である.

4.研究倫理審査委員手順書等の公表

倫理審査規程はほとんどの大学が整備し,約40%は学内イントラネットにより公開されていたが,学外には公開していない大学が約90%と,非公開の方が多かった.倫理審査委員会の具体的な審査手順書や委員名簿,会議概要は84.6%が公表または一部公表していた.倫理審査規程は学内的に公表し,審査請求者が実際に読むことができるように整備されているといえる.また,委員会の概要が公開されている大学も多いことから,臨床研究および疫学研究に関する倫理指針に従い,審査の透明性の確保と情報公開を図っている大学が多いものと考えられる.

5.研究倫理審査の質向上に向けた課題

倫理審査後の研究実施過程をモニタリングしていない大学が6割を超え,【研究実施過程におけるチェック・支援体制の整備】や【倫理審査の評価体制の整備】【審査基準の統一・標準化】が課題に挙がった.また,倫理審査のための研修やFDを行っていない大学が8割を超え,【審査委員の資質向上】が課題に挙がった.終了した研究の適切性,信頼性を確保するシステム構築や倫理審査委員に対する教育研修は,臨床研究および疫学研究に関する倫理指針にも明記されていることから,早急な改善が求められる.

【審査申請の質向上】は,看護学研究そのものの質向上にかかる課題である.看護学研究における倫理教育の不足は,2009年度調査でも指摘されている(中込ら,2012).若手研究者や新任教員に対する研修や支援の充実が求められる.

本調査から,2009年度調査で指摘された看護学研究の倫理審査に相応しい審査組織の編成や審査委員の負担軽減,審査委員への倫理教育の充実といった課題に今後も引き続き取り組む必要があることが示唆された.さらに,研究実施中や終了後の審査,あるいは倫理審査の評価といった新たな課題も浮上した.これらの課題解決に向けて取り組む看護系大学に対し,確実な資質向上を保証するリソースを提供することは,看護系学会が担う役割であると考える.

Ⅴ.結論

全国の看護系大学の看護学研究倫理審査に精通した専任教員を対象に,看護学研究倫理審査の現状について調査した結果,看護学に特化した視点と学際的・多元的な視点を併せ持つ委員構成の実現,迅速審査の適正な導入と予算確保による委員の負担軽減,研究実施過程のモニタリングと倫理審査評価システムの構築,倫理審査委員のFDをはじめとした倫理的資質の向上,等の課題が明示された.各大学がこれらの課題に取り組むためのリソース提供が,看護系学会の重要な役割であると考えられる.

Acknowledgment

本調査にご協力くださいました各看護系大学の研究倫理審査関係者に感謝申し上げます.

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