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Influencing Factors and Nurse’s Strategies in Practicing a Diabetes Education Program for the Elderly by the Expert Nurses for Diabetes Nursing: Comparison with the Adult
Tomoko Sugimoto Mariko ShiramizuYuki MaseRyoko OkuiAkiko YonedaYuriko Kanematsu
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2014 Volume 34 Issue 1 Pages 113-122

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Abstract

目的:高度看護実践者(以下,高度実践者)による高齢者への糖尿病教育プログラム(以下,教育プログラム)実施の影響要因と工夫について,成人との比較により明らかにすることを研究目的とした.

方法:2009年9~10月に無記名自記式調査票による郵送調査を行った.調査では,教育プログラム実施の影響要因はその頻度を4件法で,高度実践者が行っている工夫は自由記載形式で回答を求めた.なお,前者はFisherの直接確率法等の統計的手法により比較・分析をし,後者は記述内容の類似性に沿ってまとめカテゴリー化した.

結果:有効回答の93票を分析した結果,以下が明らかとなった.①教育プログラム実施の影響要因として高齢者では理解度,家族の事情,糖尿病以外の病気を挙げる割合が成人に比べて有意に高かった.②高度実践者による教育プログラム実施上の工夫として,【その人らしさと生活の質の確保】等の高齢者に特有なカテゴリーが抽出された.

考察:高度実践者は,豊富な臨床経験の中で高齢者には自立した生活の継続に対する強いニーズがあることを把握できているため,【その人らしさと生活の質の確保】を維持する関わりを意識的に行っているのではないかと考えられた.

Ⅰ.はじめに

平成23年患者調査の概況によると(厚生労働省,2011),糖尿病患者は270万人にのぼり高血圧性疾患に次ぐ患者数となっている.また糖尿病が強く疑われる人,および糖尿病と言われたことのある70歳以上者の割合は,他の年代層よりも高いことが報告されている(厚生労働省,2012).さらに,高齢者における糖尿病は,糖尿病の合併症はもとより,認知症,うつ,日常生活動作能力(activities of daily living; ADL)の低下,骨折のリスク因子とされている(日本糖尿病学会,2013).これらから,わが国では患者数の増加のみでなく,重篤な合併症を有する糖尿病高齢者の増加が見込まれており,かつ糖尿病の管理と治療に重大な影響を与える認知症をもつ糖尿病患者の増加が問題になっている.

2型糖尿病の発症には食事等の生活習慣が関与する場合が多く,日本ではこのタイプの患者が大多数を占める.そのため,2型糖尿病患者には疾病の重症化と合併症の予防のために生活習慣を自己管理しながら療養生活を送る必要性が生じる.この点に対する医療者の関心は高く,近年では糖尿病患者への教育的介入が行われ,さまざまな効果が報告されてきた(堀井ら,2006南村,2011).

教育的介入によって2型糖尿病患者が習得した自己管理のための知識や技術は,療養生活を送る中で継続的に活用できて初めて疾患の重症化や合併症の予防に役立つものとなる(箱石,2006野海ら,2007).しかし,糖尿病高齢者のADLや認知能力に関する調査の中で,これらの低下が認められる場合には服薬等の自己管理が困難になる可能性が指摘されている(堀川ら,2007横野,2011).加えて,ADLの低下と密接に関係する老年症候群の発症が糖尿病高齢者では非糖尿者よりも多く,自立した生活が困難になると言われている(横野,安田,2012).さらに大野ら(2009)は,認知症患者の糖尿病管理について「とても悩んでいる」または「少し悩んでいる」と答えた看護師の割合が9割以上を占めたという実態を報告している.つまり,糖尿病高齢者の中には加齢に伴い身体や認知機能が低下した者も存在するため,自己管理の導入とその継続には困難が伴うと推測され,臨床現場では特にこれらの患者に焦点化した効果的な介入に関する知見の蓄積へのニーズが高いのではないかと考えられる.

サブスペシャリティを糖尿病看護とする慢性疾患看護専門看護師(Certified Nurse Specialist;以下CNS)や糖尿病看護認定看護師(Certified Nurse;以下CN)は,患者に対して水準の高い看護を実践するのみでなく,臨床現場の看護師に対する指導や教育等の役割を担う.CNSやCNといった高度看護実践者(以下,高度実践者)は,経験を重ねる中で豊富な知識と優れた技術を獲得している者であり,彼らから詳細な意見を収集することにより患者への教育的介入に関する有用な示唆が得られるのではないかと考えられる.

これまでに,高度実践者を調査対象として含み,患者教育や指導について言及したものには山本ら(2013)清水ら(2011)の報告等がある.発達段階と糖尿病の自己管理について西片(2003)は,患者への家族によるサポートの状況や間食の頻度について成人と高齢者で比較した場合に違いが見られたと述べている.加えて麻生ら(2012)は,介護施設で暮らす糖尿病高齢者のセルフケアにおける問題として,認知症のために治療への拒否行為が見られることを挙げている.これらから,発達段階の違いが糖尿病患者の自己管理に影響を与える可能性があると推測される.しかし,前述の高度実践者に関する報告の中ではその点を踏まえた分析がいずれも行われていない.そこで本研究では,高度実践者が高齢者または成人の患者に対して行う糖尿病教育プログラム(以下,教育プログラム)実施上の工夫とその影響要因について明らかにする.特に,糖尿病看護に関する豊富な実践活動に基づく詳細な意見を高度実践者から収集し,発達段階による比較を行うことで,自己管理の導入と継続に困難が伴うことの多い2型糖尿病高齢者に対する教育的介入を効果的に行うための示唆を得ることを目指す.

Ⅱ.目的

研究目的は,高度実践者による2型糖尿病高齢者への教育プログラム実施上の工夫とその影響要因について,成人との比較により明らかにすることである.

Ⅲ.用語の定義

教育プログラムについては,「糖尿病の自己管理に関する基本的な知識,スキルの獲得や動機づけの向上を目的に,ある一定期間あるいはシリーズで企画された集団教育や個人教育」と定義した.具体的には糖尿病教育入院,外来糖尿病教室等を指す.なお,ここでいう個人教育は集団教育と並行して,またはその前後に行われる個人面接等の介入を含むものとした.

また,「65歳以上の者」を高齢者,「20歳以上,65歳未満の成年者」を成人として示すことにした.

Ⅳ.方法

1.調査対象者

CNSとCNに関するリストをWeb上から入手し,その看護師が勤務する医療施設のすべてを本研究の対象施設,糖尿病患者へのケアに携わる上記の看護師を本研究の対象者とした.ただし,1か所の施設に複数名のCN等が勤務している場合には,代表者1名に研究の協力を依頼した.なお調査対象者は,「食事療法」「病態に関する知識」等を教育の項目として含み,入院中あるいは外来に通院する患者を対象として集団または個別に展開する教育プログラムの実施に携わっていた(白水ら,2011奥井ら,2013).

2.調査内容

研究者らが独自に作成した無記名自記式の質問紙を用いた郵送調査を2009年9~10月の期間に行った.この質問紙では第一に年齢や性別,所属施設の規模等,回答者の属性を尋ねた.次に,教育プログラム実施時における発達段階への教育的配慮の頻度,教育プログラムの実施に影響を及ぼすと高度実践者が捉えた要因(以下,教育プログラム実施の影響要因),教育プログラムの実施時に高度実践者が工夫している内容(以下,教育プログラム実施上の工夫)について高齢者と成人に分けて回答を求めた.

前述のように,本研究において教育プログラムは糖尿病患者に対する集団教育もしくは個人教育を指す.黒江ら(2003)は,糖尿病患者に対する教育は治療の一部ではなく,治療そのものであるという理念のもとに教育的なケアが世界各国で行われるようになったと述べている.本研究ではこの点を踏まえ,糖尿病患者が治療を中断した要因に関する山本(2007)および中石ら(2007)の報告を参考にし,「理解度や認識のレベル(以下,理解度)」「動機づけの状態(以下,動機づけ)」「病気や治療に対する誤解(以下,病気の誤解)」「仕事」「経済的理由」「家族の事情」の6つを教育プログラム実施の影響要因の調査項目として設定した.さらに,糖尿病の高齢者には老年症候群や生活機能障害を有する者が多く,かつ老年症候群等の発症により治療が困難になると言われていることから(井藤,2009),「糖尿病以外の病気・けが(以下,糖尿病以外の病気)」を上記に追加し合計7項目の頻度を尋ねることにした.なお,教育的配慮の頻度と教育プログラム実施の影響要因は「配慮は特にない/影響は全くない」「(配慮/影響は)あまりない」「(配慮/影響は)時々ある」「配慮は常にある/影響は頻繁にある」の4件法で回答を求め,教育プログラム実施上の工夫は自由記載形式で回答を依頼した.

3.分析方法

回答者の属性や教育プログラム実施の影響要因等の項目は,記述統計により回答者の割合を算出した.また,教育的配慮の頻度等は4件法で尋ねたため,無回答を除き「配慮は常にある/影響は頻繁にある」を【あり】群,それ以外を【なし】群として2群化し,各群の割合を発達段階に基づきFisherの直接確率法により比較した.

自由記載形式で得た回答は,その記述の中から「高度実践者の工夫」に関わる部分を発達段階ごとに抽出した上で内容を簡潔に表現し,コードとして示した.さらにコードは,内容の類似性に沿ってまとめカテゴリー化した.なお,データ分析の過程における信用可能性と真実性を確保するため,研究者2名が上述の分析をそれぞれに行い,両名でコードやカテゴリーの一致に至るまで検討を行った.さらに,この分析で見いだしたカテゴリー等は研究者グループ間で再度見直しを行い,全体で意見が一致するまで検討を行った.

4.倫理的配慮

書面にて研究目的や方法等を説明し,自由意思による研究への参加協力を求め,質問紙の返送をもって同意が得られたとみなすことを伝えた.本研究の実施にあたり,神奈川県立保健福祉大学研究倫理審査委員会の承認を受けた(承認番号:21-31-007).

Ⅴ.結果

1.回答者の概要

調査票は175施設に郵送したが,宛先不明のために調査対象者の手元に届かなかった調査票が5票あり,これらを予め除外した.最終的に調査票の回収数は95票となり(回収率54.3%),このうち対象者の基本属性に欠損がない93票を有効回答とした(有効回答率53.1%).回答者の年齢は40歳代が46名(49.5%)と最も多く,看護師としての経験年数は平均18.2±6.1年,糖尿病看護の経験年数は平均10.9±3.5年であった(表1).

表1 回答者の属性と教育プログラムの実施における教育的配慮の頻度

2.発達段階への教育的配慮と教育プログラム実施の影響要因に関する比較

教育プログラムの実施時に発達段階への教育的配慮が「常にある」と回答したのは高齢者74名(79.6%),成人63名(67.7%)であった.前述のように,この項目の回答者を【あり】群と【なし】群に分け,Fisherの直接確率法により比較したが有意差は認められなかった(p=0.090).

教育プログラム実施の影響要因として挙げた7項目のうち,「影響は頻繁にある」と回答した割合が最も高かったのは高齢者では理解度の74.2%,成人では仕事の87.1%であった(図1).これら7項目についても同様に回答者を【あり】群と【なし】群に2群化し,その割合を発達段階により比較した.その結果,「理解度(p=.000)」「家族の事情(p=.002)」「糖尿病以外の病気(p=.000)」の3項目は成人に比べて高齢者の【あり】群の割合が,「仕事(p=.000)」は高齢者に比べて成人の【あり】群の割合が有意に高かった.

図1 発達段階による教育プログラム実施の影響要因の比較

3.教育プログラム実施上の工夫に関する比較

高度実践者が2型糖尿病の高齢者または成人に対して行う教育プログラム実施上の工夫について尋ねた.その結果,高齢者に対して安全性の面から予測的に関わることの必要性を指摘した【自己管理の安全性に対する予測と留意】,患者の自己管理に対する準備状況を医療者が把握した上で目標設定をすることの重要性を述べた【疾病受容の状況と療養生活上の目標の把握】,教育プログラムに対する実行可能性を考慮した上で教育内容・方法を選択する必要性を指摘した【身体・認知能力に基づき実行可能性を考慮した教育内容・方法の選択】,教育プログラムに携わる医療者が患者に対して取るべき姿勢や態度のあり様を述べた【患者に対する深い理解と尊重】,教育プログラムを遂行することの重要性を認識しながらも,病いを抱えながらよりよく生きることを目指す医療者の姿勢を示した【その人らしさと生活の質の確保】,教育プログラムの展開場面において医療者の柔軟な対応と時間的ゆとりが求められることを述べた【型にあてはめずゆとりをもって繰り返し行う教育】,医療者のみでなく高齢者の家族も社会資源の1つとして捉え,協力・連携しながら支援体制を構築することの重要性を指摘した【社会資源の活用および医療者と家族の協力・連携による支援体制の構築】,教育プログラムの推進には家族のサポートが欠かせないという医療者の認識を示した【家族のサポート力を見極めつつ参加を推進しながら展開する教育】,高齢者のみでなく,その家族もケアの対象としてみなすことの重要性を指摘した【早期からの家族支援】の9カテゴリーが高齢者への工夫として抽出された(表2).

表2 高齢者に対する教育プログラム実施上の工夫

一方,成人患者の家族を含めて教育プログラムの展開を行うことの重要性を指摘した【家族サポートを得る働きかけの実践】,教育プログラムの導入に先立ち,自己管理に対する患者自身の準備状況を医療者が把握する必要性について指摘した【自己管理にかかわる状況の把握】,教育プログラム導入の促進に寄与する具体的方法について述べた【教育プログラムを受ける準備状態の整備】,教育プログラムに携わる医療者が患者に対して取るべき姿勢や態度のあり様を述べた【患者への寄り添い】,患者が自己管理を身につけることの必要性を指摘した【セルフモニタリング方法の指導の実施】,教育プログラムの展開に際して個別性を重視する必要性について述べた【個別の状況にあった教育プログラム内容の設定】,患者の参加可能性を踏まえて教育プログラムの推進を図ることの重要性を指摘した【社会的・家庭内役割遂行に支障のない受講日程・時間の調整】,自己管理の継続を可能にする具体的方法について述べた【患者とともに自己管理の継続を促す目標・方法の考案】,自己管理を行う中で求められる患者自身の努力や調整に対して医療者が理解を示すことの重要性を指摘した【社会的・家庭内役割遂行と自己管理との折り合いに対する配慮】の9カテゴリーが成人に対する工夫として抽出された(表3).

表3 成人に対する教育プログラム実施上の工夫

発達段階ごとに抽出したカテゴリーを整理し,両発達段階に共通する要素と特有の要素について検討した.高齢者では【疾病受容の状況と療養生活上の目標の把握】【家族のサポート力を見極めつつ参加を推進しながら展開する教育】【患者に対する深い理解と尊重】のカテゴリーが,成人では【自己管理にかかわる状況の把握】【家族サポートを得る働きかけの実践】【患者への寄り添い】のカテゴリーが抽出されていた.これらのカテゴリーは,[個々の患者を尊重し,家族の協力を求めながら個別性に配慮した教育的支援を高度実践者が行っている]という両発達段階に共通する実態を示していた.

また,高齢者に特有なカテゴリーとして【自己管理の安全性に対する予測と留意】【その人らしさと生活の質の確保】【型にあてはめずゆとりをもって繰り返し行う教育】【早期からの家族支援】が見られた.これらは,糖尿病高齢者に対し[厳密な自己管理を求めるよりも安全性を重視し,患者と家族をともに支援の対象とみなして両者の生活の質を高めるための柔軟なかかわりを高度実践者が展開している]状況を表していた.同じく成人に特有なカテゴリーとして,【セルフモニタリング方法の指導の実施】【社会的・家庭内役割遂行に支障のない受講日程・時間の調整】【社会的・家庭内役割遂行と自己管理との折り合いに対する配慮】が見られた.これらは,糖尿病をもつ成人に対し[自己管理を遂行する中で,患者の持てる力が最大限に発揮できるような支援を高度実践者が行っている]ことを示していた.

Ⅵ.考察

1.教育プログラム実施の影響要因

内海ら(2010)の報告では,訪問看護を利用する糖尿病高齢者のセルフケア上の問題は利用者側,家族側,医療者側の3側面に分類され,この中では高齢者のケアを担う家族の介護力が不十分であること,訪問看護の依頼理由が糖尿病療養以外の場合も多いため,糖尿病に関心がないこと,生命や安全が危うい中で高齢者が生活していることを明らかにしている.今回,教育プログラム実施の影響要因として挙げられた内容を見ると,高齢者では「理解度」「家族の事情」「糖尿病以外の病気」の3項目について「影響は頻繁にある」と回答した者が50%を上回り,その割合は成人に比べて有意に高いことが示された.この結果は,高度実践者が高齢者の身体や認知能力に着眼しながら,その家族にも目を向けて日々の関わりを実践している実態を表しており,前述の内海ら(2010)の報告を支持した内容であると言える.また,「理解度」などの先の3要因は包括的高齢者総合機能評価の構成領域(横野,2011)とも合致していたことから,今後はこのような指標を有効活用して糖尿病高齢者の問題点を洗い出し,支援を強化していく必要があると考えられた.

2.2型糖尿病高齢者または成人に対する教育プログラム実施上の工夫の特徴

高度実践者による教育プログラム実施上の工夫を尋ねたところ,【自己管理の安全性に対する予測と留意】【その人らしさと生活の質の確保】等の高齢者に特有なカテゴリーが見いだされた.このうちの【自己管理の安全性に対する予測と留意】には,高齢者が自己管理を遂行する中で生じるリスクに高度実践者が着眼している点が包含されていると言える.すなわち,高度実践者が高齢者の個別の病態や身体的,心理的,社会的背景,特に認知機能が低下すると食事・運動療法の重要性に対する認識やその実践,服薬コンプライアンスの程度,インスリン自己注射の正確度など糖尿病自己管理に重要な因子が大きく損なわれること(横野,2011)を踏まえて,リスクマネジメントや【疾病受容の状況と療養生活上の目標の把握】を行っている現状を示していると考えられる.

中村ら(2006)は,糖尿病高齢者が食事療法を継続する要因として,介護が必要な状態を招き他者の世話になって迷惑をかけることや,合併症による症状への脅威があると報告している.さらには,家族や療養の場の状況によっては,他者からのケアを受けることが困難になる場合があることも指摘されている(内海ら,2010麻生ら,2012).これらから,教育プログラムに参加できる高齢者には健やかで自立した生活の継続に対する強いニーズが存在していると推測される.高度実践者は,豊富な臨床経験の中で上記のような高齢者の状況を把握できているため,【その人らしさと生活の質の確保】を維持する関わりを意識的に行っているのではないかと考えられた.

糖尿病をもつ成人への工夫に関する特有なカテゴリーとして【セルフモニタリング方法の指導の実施】【社会的・家庭内役割遂行と自己管理との折り合いに対する配慮】等が抽出され,高度実践者は成人患者の持てる力が最大限に発揮できるような支援を行っている実態が示された.さらに,成人では教育プログラム実施の影響要因として仕事を挙げる者が80%以上みられた.これらの結果は,高度実践者が一方では患者の自己管理能力を評価し,他方では患者が担う特有の役割の遂行と自己管理の両立に困難を感じている状況があることを示していると考えられる.特に西片ら(2002)は,糖尿病の高齢者と成人を比較し,成人の場合は仕事と疾病の調和を図るというよりは仕事を優先し,生活が不規則になりやすいと述べている.このような状況を回避できるように,患者と共に自己管理の目標や方法を考案し,役割遂行と自己管理の折り合いをつける配慮が高度実践者の工夫として見いだされたと考える.

3.高度実践者による教育プログラム実施上の工夫の特徴

高度実践者が発達段階に対する教育的配慮を常に行う割合を調べたところ,高齢者と成人でともに60%を上回る高い値を示し,両者に有意差は認められなかった.また,教育プログラム実施上の工夫として,高度実践者は糖尿病高齢者と成人に対し,患者の家族の協力を求めながら個別性に配慮した教育的支援を行っていることが示された.その一方で,両発達段階に特有な工夫点が存在することも明らかになった.わが国では,老いや寿命を意識する者の割合が成人と比べて糖尿病高齢者で高いことが報告されているように(西片ら,2002),高度実践者のみでなく教育プログラムに参加する患者自身も加齢の影響を強く意識している可能性がある.さらに,高齢者では【型にあてはめずゆとりをもって繰り返し行う教育】,成人では【社会的・家庭内役割遂行に支障のない受講日程・時間の調整】等の特有なカテゴリーが見られており,高度実践者は患者の発達段階や準備状態に応じて教育プログラムの実施時に学習方式や内容を変化させているのではないかと考えられる.

山本ら(2013)は,高度実践者による初期2型糖尿病患者への教育の特徴として,患者の負担を軽減することや自己管理行動の実行可能性に目を向けた関わりを挙げている.本研究において,高齢者では【社会資源の活用および医療者と家族の協力・連携による支援体制の構築】【身体・認知能力に基づき実行可能性を考慮した教育内容・方法の選択】,成人では【家族サポートを得る働きかけの実践】【患者とともに自己管理の継続を促す目標・方法の考案】等のカテゴリーが高度実践者が行う工夫として抽出されている.これらのカテゴリーは,先に挙げた山本ら(2013)の指摘を支持した内容であると言え,この点が高度実践者による糖尿病患者教育の特徴であると思われる.また本研究において,高齢者では【疾病受容の状況と療養生活上の目標の把握】,成人では【自己管理にかかわる状況の把握】といった学習者の準備状態の評価やアセスメントに該当する内容が,カテゴリーとして抽出された.これらの点も,先の山本ら(2013)の報告内容と合致していたことから,高度実践者の教育の特徴として重要な部分であると考えられた.

多崎ら(2006)の研究では,糖尿病患者教育に携わる看護師の実践に関する実態として「やりがいのある糖尿病教育」がカテゴリーとして挙げられている.その一方で,「難しい糖尿病教育」「目標に近づくため何とかしたい」「目標に近づけない無力感」等のカテゴリーも同時に抽出されている.今回明らかにされた高度実践者の教育プログラム実施上の工夫は,各々の施設の患者特性,教育に関わるマンパワーや施設の条件等により異なるものではあるが,糖尿病患者教育の実践者のみならず,患者アウトカムの改善への示唆に富むものと考える.

Ⅶ.結論

糖尿病看護の高度実践者から教育プログラム実施の影響要因と実施上の工夫についての意見を収集し,成人と高齢者という発達段階による比較を行った結果,以下が明らかになった.

1)教育プログラム実施時に発達段階への教育的配慮が「常にある」と回答した割合は成人67.7%,高齢者79.6%であり,高齢者が成人を上回ったが有意差は認められなかった.

2)教育プログラム実施の影響要因として,高齢者では理解度,家族の事情,糖尿病以外の病気を,成人では仕事を挙げる割合が有意に高かった.

3)高度実践者が糖尿病患者に行う工夫として,高齢者では【自己管理の安全性に対する予測と留意】等の9カテゴリーが,成人では【セルフモニタリング方法の指導の実施】等の9カテゴリーが抽出された.

Acknowledgment

本研究に御協力下さいました看護師の皆様に深く感謝申し上げます.

なお本研究は,2009年度神奈川県立保健福祉大学研究助成B(若手研究)の助成を受けて実施しました.

また,本研究の結果の一部は日本看護科学学会第30回学術集会において発表しました.

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