Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Reports
Cognition of Visiting Nurses Regarding Play Activities for Children with Severe Motor and Intellectual Disabilities in Need of Medical Care
Akiko Yamada Fumiko BesshoYasuko Irie
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2014 Volume 34 Issue 1 Pages 150-159

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Abstract

目的:訪問看護師における重症心身障害児の遊びの実践に対する認識を明らかにし,訪問看護師の遊びの実践に関する示唆を得る.

方法:医療的ケアの必要な重症心身障害児の訪問看護で遊びの実践経験がある訪問看護師10名に遊びに対する認識や実践状況について半構成的面接を行った.データは,質的帰納的に分析した.

結果と結論:訪問看護師は重症心身障害児との遊びを,『訪問看護師と子ども,母親とのつながりづくり』であると認識していた.訪問看護師の【遊びは子どもの全て】であるという思いが遊びの拠り所となっていた.訪問看護師は,子どもの《心と身体に働きかける遊び》と《子どものサインの読み取り》をしながら【遊びの選択と調整】を繰り返していた.訪問看護師は,遊びを通して子どもの自発性を引き出し,子どもが表出するサインの読み取り,さらに母親とのつながり作りに発展させていくことが重要であるといえる.

Ⅰ.背景

近年,周産期医療,救急医療の進歩に伴い,助けられなかった子どもたちが救命されるようになり,高度な医療的ケアを必要とする超重症心身障害児の数は増加傾向にある.そのうちの約70%は,在宅で生活をしている(杉本ほか,2008).重症心身障害児が在宅で生活するためには,訪問看護師の支援が求められている.

重症心身障害児の在宅ケアの成人とは異なる側面として,高橋(2010)は,医療制度やサービスが極端に少なく医療依存度が高いこと,家族の子どもへの思いが強いこと,子どもの育ちや遊びについての視点が必要不可欠であることを挙げている.重症心身障害児の成長発達はゆるやかであるが,日々変化している.このため,長い期間にわたり子どもと家族に関わる訪問看護師には,医療的なケアの提供は当然であるが,子どもの成長発達や遊びを踏まえた看護の展開が求められる.

重症心身障害児の在宅支援について,松平(2012)は,医療的ケアおよび養育者の負担軽減のための取り組みを優先するあまり,「遊び」の重要性についてはほとんど認知されていないと述べている.また看護における遊びの研究では,入院中の子どものケアを対象とする看護師の遊びにおける認識や実践を取り上げた研究がほとんどである.重症心身障害児の訪問看護の実践では,生命維持に必要不可欠な医療的ケアの実践が注目される傾向にあるが,短い訪問時間であっても本の読み聞かせなどの遊びを取り入れていることが考えられる.

重症心身障害児にとって遊びは,訪問看護師など人との関係を深めるコミュニケーションになると考えられる.田中ら(2010)は,A県下の小児訪問看護を実践している訪問看護ステーション調査において,小児訪問看護で困難を感じることとして,子どもとのコミュニケーションを挙げている訪問看護師が多いことを報告している.そこで,訪問看護師における重症心身障害児への遊びの実践に対する認識を明らかにすることが課題であるといえる.また遊びの実践に関する示唆を得ることで,重症心身障害児を看護する訪問看護師の困難感を軽減させることが期待できると考える.

Ⅱ.目的

本研究は,訪問看護師における重症心身障害児への遊びの実践の在り方について明らかにすることを課題に,次の2点を研究目的とした.

  1. 1.   訪問看護師における重症心身障害児の遊びの実践に対する認識を明らかにする.
  2. 2.   訪問看護師の遊びの実践に関する示唆を得る.

Ⅲ.用語の定義

本研究で「遊び」の定義は,以下の太田ら(2011)の定義を用いることとした.「遊びとは,興味や関心から生まれる自発的で自由な活動を示す.子どもにとって,遊びは生活そのものであり,遊びを通して様々な体験をすることにより成長・発達が促されていく.例えば,看護師が子どもの手足を動かしたり,看護師がかかわったりする場面で,子どもがそれに反応することも遊びと捉える.」

Ⅳ.方法

1.研究デザイン

訪問看護師の視点から重症心身障害児への訪問看護における遊びの実践に対する認識と遊びの実践内容を明らかにすることを目的とするため,帰納的質的研究を用いた.

2.研究協力者の選定

研究協力の依頼は,A県内の小児訪問看護を実施している訪問看護ステーション34か所の所長宛てに行い,対象となる訪問看護師を紹介してもらった.訪問看護師から同意が得られた後に,インタビューを設定した.

協力者は,研究協力の依頼をした訪問看護ステーション9か所に所属しており,医療的ケアの必要な重症心身障害児の訪問看護において遊びの実践経験があり,かつ研究同意が得られた訪問看護師17名であった.大島分類1と4に該当する重症心身障害児の訪問看護の体験を語ったのは15名であった.本研究における分析対象者は,この15名のうち訪問看護の経験が6か月未満の者,訪問看護ステーションの管理者として関わった事例等を除く10名とした.

3.データ収集と分析

データ収集期間は,平成24年11月から平成25年1月.データ収集方法は,個別的に半構成的インタビューを用いた.分析対象者10名のうち9名を筆頭著者が行い,残り1名を分担著者がインタビューガイドをもとに行った.インタビューは,研究協力者が指定した場所,主に訪問看護ステーションの個室で行った.

インタビュー内容は,訪問看護で関わった重症心身障害児1事例を挙げてもらい,訪問看護師が実践した重症心身障害児との遊び,遊びによる重症心身障害児と家族の反応,遊びが重症心身障害児,家族,訪問看護師自身にもたらした変化,重症心身障害児との遊びについての訪問看護師の思いを中心に語ってもらった.

インタビューでは,研究協力者の遊びの捉え方が,一般的なおもちゃを使ったやりとりに限定される恐れがあること,および研究者が研究協力者の遊びの語りを誘導する恐れもあると考えた.そこで,研究協力者に対しては,インタビュー開始前に太田の定義を説明するとともに,研究協力者が認識している遊びの経験について,自由に語ってもらい研究者自身が考える遊びの枠組みに誘導しないように留意した.インタビューは,なるべく話の流れを壊さないように自由に語ってもらえるように努めた.インタビュー内容は許可を得た上でICレコーダーに録音した.ICレコーダーの録音内容をすべて逐語録に書き起こした.録音の許可を得ることができなかった1名については,対象者から許可を得てインタビューメモとして記録した.

データ分析方法は,訪問看護師による重症心身障害児との遊びの認識と実践に関する記述部分を抽出しデータとした.抽出したデータの意味を損なわない文脈で区切り,コード化した.コード化した意味内容の類似性と相違性を比較しながら類型化し,サブカテゴリー化した.さらにサブカテゴリーを内容別に類型化して,抽象度を高め,カテゴリー化した.次に,カテゴリーの相互の関連性についてデータをもとに分析した.データ分析の信頼性と妥当性を高めるために,本研究は,3名の研究者間で分析の過程を共有し,要約やカテゴリー化について,繰り返し確認し,検討を行いながらすすめた.

4.倫理的配慮

奈良県立医科大学研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:549).訪問看護ステーションの所長に対しては,本研究の目的と方法およびインタビュー内容,プライバシー保護と匿名性の確保,参加は自由意志であること,途中辞退の自由,結果公表の予定を文書で説明をした.所長の研究協力の承諾を確認後,所長から研究協力者を紹介していただいた.研究協力者に対しては,本研究の目的と方法,プライバシー保護と匿名性の確保,参加は自由意志であること,途中辞退の自由,結果公表の予定を口頭と文書で説明し研究協力の意志を確認後,文書で同意を得た.またインタビュー調査の録音と記録は,研究協力者の同意を得て実施した.

Ⅴ.結果

1.研究協力者の概要

研究協力者の年齢の中央値は,43(39~51)歳であった.訪問看護師としての経験の中央値は,10(3~14)年であり,すべて女性であった.研究協力者10名のうち小児病棟勤務経験者6名,小児科外来勤務経験者3名であり,小児科病棟勤務および外来勤務の経験年数の中央値は,3(1~5)年であった.また子育ての経験のある研究協力者は,9名であった.

インタビューに登場する重症心身障害児の訪問を開始した時の年齢は,中央値3歳6か月(2か月~10歳),訪問を継続した期間の中央値は,2年(1か月~8年)であった.医療的ケアについては,10名全員が喀痰の吸引が必要であり,9名が気管切開をしており,人工呼吸器管理が必要な重症心身障害児は5名であった.インタビュー時間の中央値は,61.5(41~83)分であった.

2.訪問看護師が認識する重症心身障害児との遊びの実践

分析の結果,訪問看護師における重症心身障害児との遊びの実践について,【遊びは子どもの全て】【遊びの選択と調整】【訪問看護師と子ども,母親がつながる】の3カテゴリー,《遊びは子どもの全て》《母親のような気持ち》《遊びの余裕の整え》《心と身体に働きかける遊び》《子どものサインの読み取り》《遊びの選択と調整》《やり取りを楽しむ子どもを感じ取る》《子どもからの癒し》《子どもとつながる》《母親とつながる》《訪問看護師と子ども,母親がつながる》の11サブカテゴリー,41コードで構成されていた.これらのカテゴリーとコードは,表1に示した.

表1 訪問看護師が認識する重症心身障害児との遊びの実践

訪問看護師における重症心身障害児との遊びの実践について,遊びは障害児も健常児も垣根がなく【遊びは子どもの全て】であるとする思いが,訪問看護師の重症心身障害児との遊びの拠り所となっていた.この拠り所をもとに,訪問看護師は,子どもの心と身体に働きかける遊びを実践し,子どものサインの読み取り,【遊びの選択と調整】を繰り返していた.また,子どものサインから,訪問看護師はやり取りを楽しむ子どもの姿や子どもからの癒しを感じ取り,それがさらに訪問看護師の【遊びの選択と調整】を促進させていた.また,この【遊びの選択と調整】の経験を積み重ねることで,子どものサインから子どもとのつながりとともに,訪問看護師と子どもとのつながりが,母親ともつながることを実感し,遊びは【訪問看護師と子ども,母親がつながる】ことをもたらすものであると認識していた.

このように訪問看護師の重症心身障害児との遊びの実践のプロセスは,訪問看護師と子ども,母親とのつながりづくりに至ることを分析することができた.また,すべてのカテゴリーは【遊びの選択と調整】を中心に,【遊びは子どもの全て】【訪問看護師と子ども,母親がつながる】が相互に関連していた.これらのカテゴリーの関連性を図1に示した.

図1 訪問看護師が認識する重症心身障害児との遊びの実践

文中の表記方法は,【 】はカテゴリー,《 》はサブカテゴリー,〈 〉はコード,インタビューのなかでの訪問看護師の語りを引用する場合は,斜字とした.前後の文脈を踏まえて( )に補足を示した.

1)【遊びは子どもの全て】

【遊びは子どもの全て】は,訪問看護師は子どもにとって遊びは全てであると思い,遊びの実践に関わっていた.このカテゴリーは,《遊びは子どもの全て》《母親のような気持ち》《遊びの余裕の整え》のサブカテゴリーが含まれていた.

(1)《遊びは子どもの全て》

訪問看護師は,〈遊びは成長発達の確認と刺激〉だけではなく〈医療処置が優先する子どもに楽しい時間〉をもたらすためにも遊びが必要であると認識していた.また,〈遊びは,障害児も健常児も垣根がなく〉,《遊びは子どもの全て》であり,まずは〈遊びを通して子どもと関わることが大事〉であると認識していた.

(障がいのある子どもは,)健常の子と,差がないっていったらあれやけど,分かってないかもしれないけども,一人の子どもとしてかかわるというのかな,遊びを通してかかわる,だからどっちかいったらほんまに医療ばっかり,医療行為ばっかりが先行しちゃうから,そこの中に一人の子どもとして,(遊びが)かかわる手段の一つっていうか.(ID3)

(2)《母親のような気持ち》

訪問看護師は,母親は一日の大半を〈母親と子どもだけの世界〉を過ごすことが多く,家事や医療的ケアに追われ〈母親は子どもとゆっくり遊ぶ時間がない〉と認識していた.そのために,訪問看護師は,《母親のような気持ち》で子どもの育ちを支援しており,その遊びは,訪問看護師の〈母親としての子育て経験を活かし〉たものであった.

自分の子どもだったらどうするかなってまず考えるんです.ただやさしさだけじゃなくって.最初,スキンシップもあったり,もうちょっと子どもが成長していくために,情緒的なところも成長も発達もしていって,(—以下略—)(ID1)

(3)《遊びの余裕の整え》

訪問看護師は,子どもの訪問は,気持ちに余裕を持つことが重要であり,焦りは子どもに伝わると認識していた.そのためには,訪問看護師は,〈訪問先や訪問スケジュールの調整〉,〈子どもの障がいの程度や体調の把握〉により,遊びのための環境を整えるという《遊びの余裕の整え》が欠かせないと語っていた.

2)【遊びの選択と調整】

訪問看護師は,遊びによる子どもの体調の変化,表情などのサインを観察し,そのサインに意味づけしながら【遊びの選択と調整】を実施していた.このカテゴリーには,《心と身体に働きかける遊び》《子どものサインの読み取り》《遊びの選択と調整》《やり取りを楽しむ子どもを感じ取る》と《子どもからの癒し》のサブカテゴリーが含まれていた.

(1)《心と身体に働きかける遊び》

訪問看護師は,子どもの体幹,手足のマッサージ,抱っこ等子どもとのスキンシップなどの〈身体に働きかける〉遊びを行い,〈子どもの笑顔を引き出し〉ていると認識していた.またマッサージに強弱をつけた触覚への刺激,声のトーンの変化による聴覚への刺激など〈子どもの感覚刺激の提供〉も試みていた.また,訪問看護師は,子どもの緊張が強くてバイタルサイン測定や,経管栄養の注入ができない場合には,抱っこやマッサージ,歌や音楽などをケア前に取り入れて〈身体の筋緊張のほぐし〉という《心と身体に働きかける遊び》を実践していた.

(子どもの)手を上から,(訪問看護師の手で)包み込む.「じゃあ手が冷たいからこう(マッサージ)するよ」とか言って.「痛い,痛くない?もっと激しいほうがいい?じゃあ,もっと激しくするよ」とか.もちろん,声のトーンも,最初は「ちょっと怖い人が来ました,怖い人が来たときはこんな感じ」とか言って,(次に)声で,「優しい人が来ました,お姉さんですよ」とか言って.「お姉さん来ましたー,歌を歌うお姉さんだったら,歌を歌いまーす,今日はいい天気ですねー,どうですか」とか言って,どんどん声のトーンも,低い声から高い声にして.—(中略)—子どもは,もう,ずっと笑うというか喜んで.(ID7)

(子どもが)ベッドで寝ていたら(きょうだいが)お兄ちゃんにもたれるようにこうやって,(きょうだいが)一緒に(本を)見えるようにして読んだら,それも(子どもが)じっと見てるんで,3人で一緒に(本を)読むような.(ID9)

訪問看護師は,子どもの寝ている空間にきょうだいも巻き込みながら,子どもと〈きょうだいと一緒の遊び〉を実践していた.

(2)《子どものサインの読み取り》

《子どものサインの読み取り》では,訪問看護師は〈身体の筋緊張のほぐれの読み取り〉から,筋緊張のほぐれが気持ちをほぐれさせ,眠りを誘う〈リラックスから入眠〉や,子どもが落ち着く音楽を流すと子どもの表情が穏やかになることを,SPO2の上昇と関連づけて〈呼吸状態の落ち着き〉と読み取っていた.このように訪問看護師は遊びを通した〈子どもの身体の動きの読み取り〉や〈子どもの表情の変化の読み取り〉を行い,子どもが表現しようとする〈子どもの思いや気持ちの読み取り〉をしようとしていた.

ちょっと手がぴくっと,反射的なんかどうか分からへんけど,風船すると手が動いたから,もしかして返そうと思ったんかなとか,—(中略)—そういう反応があるって,ボールが来るっていうのを目でちゃんと追っているんやなとか.(ID6)

障害児の子は言いたいことがあっても,もちろん言えないし,何か,そういう反応でしか示せないし.—(中略)—何か言いたいことがあるんじゃないかとか,伝えたいことがあるんじゃないかっていうのを,やっぱり意識しているので.(ID7)

(子どもの)反応はあまりないんですけど,それでも絵本を,見せるほうがじっと見てはるんで.その(訪問看護師の)しゃべっている声とかそんなんでも心地よく聞いているんかなと思うような表情をされるんで,絵を見てなくてもそうやって,話し言葉みたいなんで,ずっといてるよみたいなんがいいのかなと思います.(ID9)

また訪問看護師は,遊びを通した子どもの身体の動きや表情の変化の読み取りに確信が持てないあいまいさも感じていた.しかし訪問看護師は,そのあいまいさを否定せず〈何となく感じる子どもの反応の読み取り〉をしようとしていた.

(3)《遊びの選択と調整》

訪問看護師は,子どものサインから〈子どもの体調,反応を読み取りながら遊びの選択と調整〉を行っていた.

また,訪問看護師は,特別なおもちゃを準備するのではなく,どの家庭にでもある〈子どもの身近なものの取り入れ〉ながら,子どもの興味や関心に応じて〈遊びに変化を持たせる〉ことを実施していた.

その遊びが(子どもにとって)とても楽しいときもあれば,苦痛やったときもあるので,しんどいときは,払いのけたりとか.もう嫌なときは,チャラチャラって,(ベッドサイドの鈴を)鳴らして(嫌ということを)アピールをしてたので,「ああ,嫌なんだな」って思うときは,その遊びを控えるようにっていうこともあったので.(ID8)

(4)《やり取りを楽しむ子どもを感じ取る》

訪問看護師は,子どもが訪問看護師との遊びのやりとりの場面で,子どもが笑顔を見せることや手足を盛んに動かすことを認識していた.この時の子どもの様子から,〈訪問看護師とのやり取りを楽しむ子ども〉を感じていた.

(5)《子どもからの癒し》

訪問看護師は,遊ぶ時に子どもが笑顔を見せるとうれしく幸せな気分になり,子どもが泣いていると抱っこをしたくなると語っていた.訪問看護師は,この場面を振り返り,〈子どもの表情からの癒し〉を受けていたと述べていた.

3)【訪問看護師と子ども,母親がつながる】

訪問看護師は,子どもとの遊びの積み重ねを通して,子どもとのつながりを実感していった.また訪問看護師は,母親とのつながりも築いていけると認識していた.【訪問看護師と子ども,母親がつながる】は,《子どもとつながる》《母親とつながる》《訪問看護師と子ども,母親がつながる》のサブカテゴリーが含まれていた.

(1)《子どもとつながる》

訪問看護師は,訪問当初多くの医療行為を前に子どもとの関わりに緊張していた.しかし,訪問看護師は,子どもとの遊びを積み重ねることにより,子どもについて分かることが増えると〈子どもとの関わりが楽しみに変化〉してきた.訪問看護師は,子どもとの遊びを繰り返すなかで子どもの表情が豊かになるという〈子どもの変化の実感〉し,〈子どもが訪問看護師を認識の実感〉もしていた.また子どもの肌との直接触れあいからも少しずつ〈子どもとのつながりの実感〉をしていった.

最初のころは,早く慣れなきゃ,本当に医療行為もたくさん,この子の人工呼吸器の操作に慣れる.吸引も慣れる.で,本人にも慣れるという意味で,すごく緊張して訪問に行かせてもらってたんですけど.回数を重ねて,その子の好きなものとかをだんだん分かってきたときには,私も行くのが楽しみになって,今日はどんなことしてあげようかなって.(ID8)

何回か(訪問看護を)繰り返すなかで,この人(訪問看護師)は,悪い人じゃないなって(子どもが)思ってくれたんやと思うんですよ.それから,いろんな表情を出してくれるっていう感じになって.言葉はしゃべれないけど,雰囲気でね.喜んでくれてるんかなっていうのが,分かるようになってきて.(ID10)

(2)《母親とつながる》

訪問看護師は,子どもを普通に抱っこして遊んでほしいという〈母親の思いの取り入れ〉は,〈母親に喜んでもらえる〉と認識していた.また,子どもと遊ぶことで子どもに慣れることは,母親が訪問看護師に安心して子どもを任せることができ,〈母親に息抜きや用事をする時間の提供〉ができると認識していた.また訪問看護師に対する母親の信頼から,訪問看護師は友達のような〈母親の気軽な相談相手〉として存在できるとしていた.一方で訪問看護師は子どもの反応の乏しさとの関わりに戸惑いながらも,〈母親の言葉に子どもの喜びの確信〉を得たと語っていた.このことから,訪問看護師の遊びは子どものためだけでなく,〈母親とつながる遊び〉であると認識していた.

子どもにそうやって(遊びで)かかわってくれることで,お母さんからも「この子のことを思ってくれてるんやな」っていうふうに受け取ってもらえたら,信頼関係ってまたできていくのかなーって.その子に楽しませる目的もあるけど,お母さんとのそういう私たちのつながりいうんかな,あの訪問看護師さん,なんかやることだけやって,ぱっと帰っちゃうわみたいな,それも確かにどうかなと思う.(ID3)

(訪問看護師が)遊んでることでお母さんが「ああ,○○ちゃん,喜んでんの.よかったな」って言ってくれはって,「あっ,これでいいのか」というのも,「これで,○○ちゃんが喜んでるんか」って確信することもあります.(ID9)

(3)《訪問看護師と子ども,母親がつながる》

訪問看護師は,母親と同じ口調で子どもに語りかける,母親から聞いた子どもの好きなおもちゃで遊ぶという〈母親のやり方の取り入れ〉,〈子どもとの遊びを母親と共有〉することは,母親と子どもとのつながりを支えるものであった.訪問看護師も〈子どもとの遊びを通して母親とつながる〉と認識していた.また,訪問看護師は,遊びによる子どもの笑顔に母親の気持ちが和らいできたことを実感していった.この和みは,訪問看護師も母親,子どもと感情を共有するものであり,《訪問看護師と子ども,母親がつながる》ことをもたらすと認識していた.

お母さん自体が私をまだ受け入れてないって感じだったから,ちょっとずつお母さんにこの子に対して一生懸命私もやっていきたいっていうのを見てもらうために,本読んだり歌うたったり.その子がキャキャキャッて笑うと,「ああ,笑ってやるやん」っていう感じで,ちょっとずつお母さんもしゃべってくれるようになってきて,—(中略)—ちょっとお母さんも受け入れてくれたなっていうと,どんどん私もうれしくなるし.(ID6)

Ⅵ.考察

本研究では,訪問看護師は重症心身障害児との遊びを,訪問看護師と子ども,母親とのつながりをつくるものであると認識していた.考察では,訪問看護師が実践する遊びの意義について,訪問看護師と子ども,母親とのつながりに視点を置いて考察し,訪問看護師の遊びの実践に関する示唆を得る.

1.子どもの自発性を引き出す訪問看護師の遊び

本研究において訪問看護師は,遊びには障害児と健常児の垣根がなく,【遊びは子どもの全て】であるという認識のもと,子どもの心と身体に働きかける遊びを実践していた.

子どもの遊びについて,及川(2004)は,子どもの生活そのものであり,子どもが楽しみたいとするところの自発的な活動であると述べている.この自発性について,野口(2007)は,重症脳性まひの子どもの抱っこを例に,抱っこをする際に援助者は,子どもの成長する力を信頼し,子どもは自分で快を探すことができる自発性をもった存在であると捉えることが不可欠であると指摘している.つまり,障害の有無にかかわらず子どもにとって遊びとは,楽しみたい,心地よさや快を求めようとする子どもの内部から湧き上がる子どもの自発性であると捉えることができる.

本研究の対象である訪問看護師の事例は重症心身障害児である.子どもの持つ疾患や障害のために,子どもは内部から湧き上がる意思を言葉で表現することが難しいばかりでなく,手足を動かして自由にその意思を伝えることも困難である.それだけに,【遊びは子どもの全て】には,訪問看護師が重症心身障害児である前に一人の子どもとしての存在に向き合い,子どものもつ自発性に近づき,子どもの自発性を引き出すための手段として遊びを用いる意味があると考えられる.

重症心身障害児の日常生活は,生命維持のために医療的ケアが優先される傾向にある.しかし,訪問看護師が遊びを取り入れることで,医療的ケアを受動的に受ける重症心身障害児としての存在だけではなく,遊びを通して重症心身障害児である子どもがその意思を能動的に表出することが可能になるといえる.

2.子どもと気持ちが通じ合う訪問看護師の遊び

本研究における子どもの多くが,思いを表現することが難しいため,他人が子どもの表現するサインを読み取ることが困難な場合が多い.しかし,訪問看護師は,子どもの《サインの読み取り》を行い,確信が持てないながらも,子どもの思いを探り意味づけし,《遊びの選択と調整》を行っていた.これは,訪問看護師が,子どもの意志を読み取り,遊びに対する子どもの思いに応えるという遊びを通した子どもとのやり取りを行っていると考えられる.

このような子どもとのやり取りについて,中島ら(1999)は,子どもの特定の動作と発声,表情等をシグナルとして「読み取り」,それに対して特定の「行動」で応じてくれる他者との関係をコミュニケーションの原初型であると述べている.このことから,訪問看護師の《遊びの選択と調整》は,子どもに遊びを強制するものではなく,子どものサインから遊びを選択し調整するという,子どもの意思とのやり取りであり,コミュニケーションであるといえる.

また,訪問看護師は,子どもとの遊びを通したコミュニケーションから《やり取りを楽しむ子どもを感じる》《子どもからの癒し》を認識していた.これは,重症心身障害児との遊びを通したコミュニケーションが子どもからの癒しという訪問看護師の情動体験につながることを示している.

このような情動体験について,やまだ(2010)は,初期の人(新生児等)とのコミュニケーションは情動的なつうじあいであり,そのプロセスが互いの間に共通のものを創り出す営みであると述べている.また,Wilder & Granlund(2003)は,重症心身障害児と養育者の相互作用は,日常生活経験を共有することにより起こり,相互の反応や相互のやり取りに影響されていたと述べている.つまり,コミュニケーションから派生する情動体験とは,日常の体験の共有という相互作用により共通のものを創り出すことであると考えられる.本研究における訪問看護師は,【遊びの選択と調整】を中心とした遊びの実践において,子どもと遊びの経験を共有することにより,楽しみや癒しという感情を相互にやり取りし,情動的なつうじあいを展開しているといえる.

訪問看護師は,子どものサインを読み取ってはいるが,確信が持てないあいまいさを抱えている.しかし,訪問看護師は,情動的なつうじあいがあるからこそ,あいまいさを自分なりに納得し,子どもとの相互作用を展開することができると考えられる.

3.互いに支え合う関係をつくり出す訪問看護師の遊び

訪問看護師は,〈母親の思いを取り入れ〉て子どもと遊ぶことにより母親に喜んでもらうことができると認識する一方で,子どもの反応の乏しさに戸惑いを感じながらも,〈母親の言葉に子どもの喜びの確信〉を得たことを述べていた.これは,訪問看護師の遊びにより,訪問看護師と母親との関係を,訪問看護師が母親を支える一方向ではなく,母親も訪問看護師を支える双方向に働いていることを示している.

在宅の重症心身障害児における母親支援について,有本ら(2012)は,訪問看護師が母親の子育てを共有するパートナーとなり,子育てを喜びあえる関係を築くことが重要であると述べている.これは,訪問看護師と母親が平等な関係であり,訪問看護師と母親が協働しながら子育てを行うことが重要であると示している.本研究の訪問看護師の遊びがもたらした訪問看護師と母親との双方向の関係は,母親が訪問看護師のサービスの受け手という関係ではなく,子育てを共有する母親と訪問看護師の関係づくり,有本らの言うパートナーシップを形成しているといえる.

4.看護実践への示唆

重症心身障害児の訪問看護における課題として,山西(2009)は,子どもの成長発達や遊びの視点が求められるが,訪問看護師が苦手としているところであると指摘している.訪問看護師自身が重症心身障害児の遊びは高い専門性が問われるものであると考えていることが推測される.

本研究結果では【遊びの選択と調整】が遊びの実践の中心になっていたように,本研究における訪問看護師は遊びそのものの手技よりも,子どもの自発性に基づく意思に近づくこと,遊びにより表出される子どもの内部から湧き上がる子どものサインの読み取りとその意味づけに看護としての専門性を置いていた.

そこで,看護師は,今回明らかになった遊びにおける看護としての専門性を踏まえ,まずは子どもに触れ,そこから子どものサインの読み取り,意味づけしながら,その子どもに応じて遊びを調整し,実践していくことが重要であると考える.この実践の積み重ねが子どもの自発性に近づき,子どもとのコミュニケーションに発展させていくことができると考える.

また,小児訪問看護の特徴として,吉野ら(2006)は,介護者が親であるため,医療者は親との関係づくりに困難を感じることがあると述べている.本研究結果から,遊びを訪問看護に取り入れることは,訪問看護師と母親との関係を築くためには有用であることが明らかになった.

遊びの有用性を発揮するためには,訪問看護師は,子どもと訪問看護師だけで遊びを実践するだけではなく,母親も巻き込みながら,実践していくことが重要であるといえる.その際に重要なことは,訪問看護師は,母親を支援が必要な存在として理解するだけではなく,相互に支えられる存在として理解し関わることが重要である.このことが,母親の子育てを支え,母親と訪問看護師との双方向の関係を作り,さらには,訪問看護師と子ども,母親とのつながりづくりに発展していくと考える.

5.研究の限界と課題

本研究の限界は次の2点である.1点目は研究協力者である訪問看護師は,重症心身障害児の訪問看護における遊びを認識し,遊びに積極的に取り組んでいたことである.2点目は,訪問看護師の遊びについて,訪問看護師側からのデータ収集であり,訪問看護サービスを受けている母親側からのデータが収集されていないことである.したがって,本研究結果を一般化するには限界があるといえる.しかし,重症心身障害児への訪問看護における遊びの認識を訪問看護師の視点で明らかにしたことは,本研究の強みである.

重症心身障害児への遊びについて,医療的ケアに追われ遊ぶ時間がない,遊びは保育士が専門であり,訪問看護師の役割ではないという意見も聞かれる.そこで,本研究で明らかになった重症心身障害児への訪問看護における遊びの実践をより多くの訪問看護師に適用を試みることが課題である.そして,訪問看護師が実践する遊びが,子どもと母親にどのような影響をもたらすか,訪問看護サービスの受け手である子ども,母親の視点からその有用性について検証する必要があると考える.

Acknowledgment

本研究に快くご承諾いただき,ご多忙中にもかかわらず貴重な体験をお話しくださいました訪問看護師の皆様に心より深く御礼申し上げます.

本研究の一部は,第33回日本看護科学学会学術集会にて発表した.

なお,本研究は公益財団法人「在宅医療助成 勇美記念財団」2012年度研究助成(研究課題名:在宅重症心身障害児への訪問看護師の遊びの実践力を高める取り組み)を受けて行った研究の一部である.

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