2014 Volume 34 Issue 1 Pages 160-169
目的:高齢者自身が実施したフットケアによる足部の形態・機能および立位・歩行能力の変化を検討し,介護予防の視点からフットケアの有効性を検証した.
方法:生きがいデイサービスを利用している高齢者にフットケアの指導的介入を実施し,介入の1週間前,6週間後,介入終了後に足部の実態・機能,立位・歩行能力を測定し,変化の比較を行った.
結果:研究対象者は7人の在宅高齢者であった.フットケアによる手段的ADLおよび転倒不安感には変化はなかったが,自己効力感は若干の向上がみられた.足部の変調は,循環状態や筋疲労に関する項目が改善した.足部の皮膚異常も改善や消失がみられた.感覚機能では右の踵部以外の測定部位で有意に向上し(p<0.05),循環機能も有意に向上した(p<0.05).立位・歩行能力も期間全般にわたり有意に向上した(p<0.05).
結論:高齢者によるフットケアは,足部の機能およびADLの維持に不可欠な立位・歩行能力を向上させ,介護予防として意義がある可能性が示唆された.
2006年の介護保険制度改革では,既存の制度の見直しに加え,予防重視型システムの確立が掲げられた.この改革では「地域支援事業」と「新予防給付」が創設され,できる限り要支援・要介護状態にならない,あるいは重度化しないことを目指している (厚生労働省,2006).地域支援事業のうち運動器の機能向上プログラムは,転倒予防を目標に展開されている.転倒は,骨折などの身体的影響ばかりでなく,転倒に対する恐怖感,不安感などの心理的影響を与え,高齢者は活動性の低下や閉じこもりという結果を招くといわれている.したがって転倒予防は介護予防に直結するといえる.
姫野ら (2004) は介護予防が必要な在宅高齢者の足部の形態・機能や転倒経験,立位バランスを調査し,各々の関連性を分析した.その結果,90%以上の高齢者が足部の変調を自覚していること,転倒経験や立位バランスの低下には,足部の皮膚の異常,足底部の感覚機能の低下,冷えやむくみの自覚が示す循環機能の低下が関連していることが明らかとなった.また,これらの足部の実態に即したフットケアを検討し,観察,アルコール清拭,ヤスリがけ,足浴,マッサージ,足部の運動の6つの構成内容のフットケアを実施した(姫野ら,2010).その結果,循環機能とそれに関連する足部の変調や足部の皮膚の状態は改善し,足底部の感覚機能,立位・歩行能力が向上した.足浴の効果については,末梢循環の促進および持続(竹本ら,2007),足関節の柔軟性の向上や足趾部の荷重最大値の増加,歩幅の増加(本多ら,2010a)が報告されており,上記研究結果を裏づけるものである.また,横山ら (1995) は,足底部からの感覚情報の入力減少が立位バランスを低下させると述べている.角質除去による感覚入力機能の向上やマッサージによる足底部の機械受容器の機能向上が立位バランスを向上させた可能性を示唆している.
介護予防は本来,地域や場所を問わず適用が可能で,コミュニティ全体もしくは高齢者が自立して取り組めることが理想である.高齢者自身が取り組めるフットケアプログラムの開発は介護予防として意義があると考える.そこで,足部の改善がみられたフットケア (姫野ら,2010) を高齢者に指導的に介入し,フットケア方法習得のプロセスとケアの効果からフットケアプログラムを開発した.
第1報では,フットケア方法習得のプロセスにおける介入場面の会話を分析し(投稿中),各時期における介入の特徴からケア活動を支援するためのプログラムを検討した.第2報となる本研究では,高齢者自身が実施したフットケアによる足部の形態・機能および立位・歩行能力の変化を検討し,介護予防におけるフットケアの有効性を検証した.
研究の枠組みを図1に示す.
フットケアの効果を評価する項目として「基本属性」,「足部の実態」,「立位・歩行能力」の3項目とし,介入前後における各々の変化を検討するデザインとした.「基本属性」は,「個人因子」と「転倒の実態」とした.「足部の実態」は,「主観的評価」と「客観的評価」で構成し,「主観的評価」は,対象が自覚している足部の変調とした.「客観的評価」は「形態」と「機能」に分類し,「形態」は,“足部の形体”,“皮膚の状態”,“爪の状態”,「機能」は“感覚機能”と“循環機能”に分類した.
2.用語の定義本研究において介護予防とは,自立した生活を維持するための立位・歩行能力の維持・向上とした.また,フットケアとは,姫野らの先行研究 (2004) において立位バランス低下や転倒に関連が見られた足の問題を改善し,立位・歩行能力が向上した6つの構成内容のフットケア (姫野ら,2010) とした.具体的には,足の清拭・観察をはじめとし,足浴,ヤスリがけ,足部のマッサージ,足部の運動であった.
先行研究 (姫野ら,2004) において高齢者の足の実態は多様であったことに加え,介入可能な人数に限界があることから,対象自身がコントロールとなる自己対照デザインとした.
2.対象対象は,介護予防の強化の対象として生きがいデイサービスを利用している在宅高齢者で,①高度な難聴や認知症症状,言語的コミュニケーション障害がない,②立位バランスに影響する中枢神経系あるいは前庭器官系の障害およびその症状がない,③フットケアによる改善を必要とする状況が認められ,かつ医学的治療を優先すべき足病変や糖尿病の診断がない者とした.
3.方法高齢者の足部の実態はさまざまであり,フットケアの効果を検証するためには個々の変化を丁寧に見ていく必要がある.そのため,自己対照デザインとし,フットケア介入の1週間前 (以下,介入前) および介入が終了した1週間後 (以下,介入終了後) のアウトカムを調査し,変化を検討した.さらに,姫野らの先行研究 (2010) との比較を可能にし,時期ごとの変化の実態を把握するため,介入開始6週間後も調査を行った.
1)アウトカムの評価項目(表1)アウトカムの評価項目は,姫野らの研究 (2004) において立位バランスや転倒経験に関連がみられた足部の実態を基盤とし,測定ツールに関する研究(Gertrudis et al., 2008;Wendy & Anemaet, 1999)やフットケアに関する研究(山下ら,2004;高橋ら,2005;平松ら,2005)により構成したのち,姫野らの研究結果(2010)や本研究の目的にそって吟味し,項目の追加および削除を行った.
(1)質問紙を用いた面接調査質問内容は,基本属性,足部に対する主観的評価に関するものである.対象の属性,日常生活活動状況,転倒経験,対象が自覚する足部の変調について面接調査を行った.
(2)観察・検査・測定調査①足部の形態足部の形態は,観察に加えデジタルカメラにより矢状面,前額面,水平面の3直交平面を撮影した.皮膚の状態は,足底部,足背部,足趾間を調査者2人が視診・触診にて評価し,両者の結果を照合・検討した.爪の評価は,爪表面,爪甲下面をデジタルカメラで撮影し,爪疾患カラーアトラス(西山,1993)をもとに評価した.
②足部の機能姿勢調節機能を予測する上で体性感覚の評価は重要な要素である(内山ら,2001).本研究における感覚機能では,姫野らの先行研究(2004)において転倒や立位バランスに有意な関連を示した触圧覚を評価項目とし,知覚障害の評価に広く使用されているモノフィラメント(Semmes-Weinstein Monofilament,アークレイ社)を使用した.この検査は,皮膚にフィラメントをあてた際の負荷を6段階の評価尺度(Evaluation size)で評価するものであり,数値が小さいほど感覚閾値が低いことを示す.測定部位は両足の母趾底面,足底前側部,踵部の6か所とした.なお,神経学的検査は集中力を必要とするため静かな場所で実施した.
また,先行研究(姫野ら,2004)において循環機能の低下が起因する“冷え”や“むくみ”が立位バランスの低下や転倒経験に関連していた.したがって,循環機能のうち末梢血流量はレーザー血流計(ALF21,株式会社アドバンス)を使用し,両足の母趾底面の血流量を測定した.また,皮膚表面温度はサーモトレーサ(TH5104, NEC三栄株式会社)を使用し,足底部全体の温度を測定した.なお,循環機能の測定は,エアーコンディショナーを使用し,皮膚血流が熱的平衡状態となり,かつ体温の温熱的中性域である28°Cに調整した.加えて,研究期間が2月中旬から5月初旬と外気温が異なる時期であったため,入室1時間後に測定を開始した.
③立位・歩行能力立位バランスの評価は,さまざまな測定ツール(Wendy & Anemaet, 1999)のうち迅速で簡便なOne Legged Stand Test(以下,開眼片足立ち)とFunctional Reach Test(以下,FRT)を用いた.歩行能力の評価は,移動能力の推定に用いられている10 m Walking time(以下,10 m最大速歩行),Time Up & Go(以下,TUG)を実施した.また,歩行に重要な下肢筋力の指標である足趾間把持力(足趾力計測器,日伸産業株式会社)も測定した.
2)フットケアの介入方法フットケアの実施は,観察,ヤスリがけ,足浴,マッサージを一連の流れとし,足部の運動はその前後いずれかとした.ケアの実施は,対象が週に1度通所しているデイサービスにおいて,著者らがケアの方法を口頭やジェスチャー等で指導し対象自身が実施する「指導的介入」と,その指導に基づいて対象自身が自宅で実施する2つの方法で構成した.それぞれの方法を週1回ずつ12週間計24回実施した.指導的介入は,6つの構成内容すべてに対して指導を行った.自宅で実施したケアの内容や気づき,疑問をノートに記載し,介入日に持参するよう依頼した.ノートの内容は,個別のフットケアカルテにも記録し,介入の際に活用した.ケアの実施回数はあらかじめ提示したが,その時々の決定は対象に依拠した.なお,ケアの指導的介入は,ドイツのメディカルフットケア実技指導研修への参加ならびにJapan Foot Care協会の代表によるフットケアの講義やデモンストレーションを受けた著者が主として実施した.
4.調査期間調査期間は2009年2月9日~5月8日であった.
5.分析方法基本属性および足部の形態については対象ごとの介入前,6週間後,介入終了後の比較を行った.足部の機能および立位・歩行能力についてはSPSS12.0Jを用い,記述統計および推測統計を行った.推測統計ではデータの正規性が否定されたため,Wilcoxonの符号付き順位検定を行った.
6.倫理的配慮対象には研究の趣旨,目的や方法,参加の自由,途中辞退の保障,匿名性,データ管理等について文書と口頭で説明し,同意書により同意を得た.
本研究は,広島大学大学院保健学研究科看護学研究倫理委員会の倫理審査において承認を得た(承認番号219).
研究の説明当日にデイサービスを利用していた9人全員から同意を得た.しかしながら,90歳であった2名については,指導的介入によるケアの実施はできたものの,自宅でのケアが実施できなかったため,分析対象は2人を除く7人とした.対象の平均年齢は75.1±2.5歳(72~80歳)で全員が女性高齢者であった.脳梗塞の既往を持つ者が1人いたが,立位・バランス機能に影響する後遺症はなかったため分析対象とした.その他,白内障3人,高血圧症4人,骨折3人,眩暈3人,皮膚白癬3人であり,いずれも治療終了もしくは治療中で,本研究に影響するものではなかった.また,過去1年以内に転倒した者はいなかった.
2.フットケアの状況フットケアの実施は,観察,ヤスリがけ,足浴,マッサージを一連の流れとし,足部の運動はその前後とした.軽度のパーキンソン症候群と診断された1人は足浴やマッサージ後の足趾の可動性向上を実感し,ケアの後に運動を実施していた.それ以外の対象は,足部の運動による疲労回復を目的とし,足浴を含む一連のケアを運動後に実施していた.介入当初は少人数制で指導し,対象のケア方法の理解度に応じて1度の指導人数を増やした.また,ケアの総時間数は1時間から30分弱に短縮された.一方,自宅におけるケアは,介入当初は対象自身で実施可能なものについて全員が実施していたが,自宅で実施したケアや生じた疑問をノートに記述し,指導的介入によって徐々に習得していった.このように,デイサービスでの指導介入とセルフケアの反復により,6週間以降は対象同士で指導し合うなど,著者らの介入の必要性は著しく減少した.
3.フットケア介入プロセスにおけるアウトカム評価の変化1)基本属性(手段的ADL・転倒不安感・自己効力感)の変化老研式活動能力指標は13点満点であり,得点が高いほど手段的ADLが高いことを示す.介入前が10.71±1.89点,6週間後が11.00±1.73点,介入終了後は10.86±1.95点であり,有意な変化はみられなかった.転倒自己効力感スケールの得点は7点満点で得点が高いほど転倒不安感が強いことを意味する.介入前が2.29±3.09点,6週間後が1.86±2.96点,介入終了後が2.00±2.45点であり有意な変化はなかった.また,自己効力感評価スケールは16点満点で得点の高さが自己効力感の高さを示しているが,介入前が5.71±4.03点,6週間後が5.86±3.49点,介入終了後が6.00±3.51点であり,若干の上昇はみられたが有意な変化ではなかった.
2)足部の形態・機能の変化(1)主観的評価の変化(表2)対象が介入前に抱えていた足部の変調は,しびれが2人(28.6%),疼痛が3人(42.9%),冷えが4人(57.1%),むくみが5人(71.4%),倦怠感が4人(57.1%),足がつるが7人(100%)であった.しびれは全期間を通して変化がなかった.疼痛は3人中1人のみ6週間後に消失していた.冷えは6週間後4人中3人に改善がみられ,介入終了後も継続していたが,残りの1人は介入終了後に消失した.むくみでは,6週間後に5人中1人が消失,3人が改善し,介入終了後には全員が消失もしくは改善した.倦怠感は,4人中2人が6週間後に消失し,介入終了後には残りの2人も改善した.対象全員に存在した足がつるという変調は6週間後に4人が消失,3人が改善し,介入終了後には全員消失した.
(2)客観的評価の変化①足部の形態の変化(表3)足部の形態については対象全員に異常は認められなかった.
角質化は7人全員にみられ,胼胝は2人(28.6%),白癬様の皮膚剥離は3人(42.9%)に認められた.
角質化は6週間後に3人が消失,4人が改善し,介入終了後には全員消失した.胼胝は6週間後に1人が消失,1人が改善し,介入終了後には2人とも消失した.白癬様の皮膚剥離は6週間後に3人中2人が消失し,介入終了後には残りの1人も改善した.
爪の状態では,陥入爪が6人(85.7%),爪甲下角質増殖が2人(28.6%),爪白癬様所見が1人(14.3%)にみられたが,本研究のケアは爪部に対して実施していないため変化はみられなかった.
②足部の機能の変化(表4)介入前~6週間後の感覚閾値は,右の踵部で低下する傾向がみられ,その他5つの部位で有意に低下した(p<0.05).6週間後~介入終了後では左右の足底前側部に有意に低下し,左の母趾底面は低下する傾向がみられた.
循環機能の末梢血流量および皮膚表面温度では,介入前~6週間後,6週間後~介入終了後,介入期間全般を通して左右とも有意に血流量が増加し,皮膚表面温度が上昇した(p<0.05).
3)立位・歩行能力の変化(表5)立位バランスのうち開眼片足立ちは,介入前~6週間後までは有意に保持時間が延長したが(p<0.05),6週間後~介入終了後では有意な変化はなかった.FRTは,介入前~6週間後まではStart-End Pointが有意に延長したが(p<0.05),6週間後~介入終了後では有意な変化はなかった.
(2)歩行能力の変化歩行能力の指標である10 m最大速歩行およびTUGでは,介入前~6週間後および6週間後~介入終了後において有意な機能向上がみられた(p<0.05).足趾間把持力(右)も介入前~6週間後および6週間後~介入終了後において有意な機能向上がみられた(p<0.05).一方,足趾間把持力(左)は,介入前~6週間後までは有意な向上はなかったが,6週間後~介入終了後では有意に向上した(p<0.05).
対象によるフットケアの実施において,冷えやむくみ,倦怠感,足がつるという血液循環に関連する変調が改善・消失し,循環機能の指標である末梢血流量の増加や皮膚表面温度の上昇がみられた.足浴は,椅子に背をもたれて腰かけリラックスした状態で実施している.血流は自律神経の影響を受けるため,リラックスした状況が血管を拡張させ血流を増加させたと思われる.この結果は竹本ら(2007)の研究結果と同様であった.また,足浴の後に実施したマッサージも静脈・リンパ還流を促進し,疲労物質の除去の一助となるため,循環機能に関連した改善は,これらが影響したと考える.
白癬様の皮膚剥離は,先行研究(Yam et al., 1997;大久保ら,1991;Fujii et al., 2004)に基づき緑茶を使用した足浴を導入した.その結果,6週間後もしくは介入終了後に皮膚剥離の改善が認められた.本研究では,顕微鏡的評価を実施しておらず白癬菌の消失について言及できないが,視覚的な改善はケア実施の意欲にもつながるため,重要なポイントであると考える.しかしながら,高齢者の白癬は無症候性で長い経過をたどることが多いため,介入後もケアの継続が必要である.
感覚機能の指標である足底部の触圧覚は,角質化の改善と同時期に閾値の低下がみられ,角質化の除去が感覚入力の向上に有効(太田ら,1976)との報告を裏付ける結果であった.触圧覚の向上は,角質の除去による感覚入力の向上やマッサージによる機械受容器への刺激(寺澤ら,2002),足浴や足趾の運動による末梢神経組織の活性化(Taylor et al., 1997;井原ら,1995, 1997)の複合的な作用により生じたと考える.
立位バランスでは,開眼片足立ちの保持時間とFRTのStart-End Pointは6週間まで有意に延長した.高齢者におけるFRTのStart-End Pointのカットオフ値は15 cmであり(Duncan et al., 1990),対象は良好な立位バランスを保持していた.また,類似する対象のStart-End Pointは32 cmであり(平松ら,2005),本研究の対象は28.7 cmと短かった.しかしながら,6週間後は34.8 cmに延長し,同レベルとなった.一方,歩行能力では,最大速歩行とTUGは期間全般において有意に速くなっていた.加えて,下腿の筋力に関連する足趾間把持力も左足は期間全般で,右足は6週間以降に向上がみられた.足浴は,全身や遠隔の身体各部の血流も活発化する(山崎ら,1999)といわれており,筋肉の酸素供給にも寄与した可能性がある.また,本多ら(2010b)は足浴は足関節の柔軟性および足趾部の荷重最大値が増加すると述べており,歩行において地面を蹴りだす足趾の力が向上し,歩幅を増加させたと考えられる.さらに,足部の運動は,筋肉のポンプ作用により周辺の血管を刺激し,血行を促進する.複合的なケアの効果は,変調の改善や循環機能の向上,全身の筋肉への酸素供給につながったと推察する.以上のことから,対象自身が実施したフットケアも先行研究同様の効果が得られることが検証された.
次に,期間ごとの変化について考察する.足部の変調および循環機能,歩行能力は,期間全般にわたり,継続的に改善もしくは向上していた.触圧覚や立位バランスは,介入から6週間まで顕著な機能の向上がみられ,以降も向上は継続していた.角質化や胼胝は個々の状況によって消失・改善する時期はさまざまであり,白癬様の皮膚剥離は6週間後あるいは介入終了後に改善が見られた.これらの結果から,足部の状態を改善し,立位・歩行能力の向上を達成するには6~12週間の介入期間が妥当であると考える.
2.フットケアの状況および方法フットケアは,デイサービスでの口頭およびジェスチャーによる指導的介入と,指導を想起し自宅で実施する方法をとった.介入当初,自宅でのケアは実施可能なもののみとした.自宅での実施内容や疑問点は記録するよう依頼し,指導的介入の際に活用した.自宅でのケアはコンプライアンスが高く,全員が実施できたことから,週1回という回数は妥当であったと評価する.また,同意を得た9人のうち90代前半の2名は指導的介入による実施は可能であったが,自宅での実施が困難であったため,分析対象から除外した.これらのことから,本研究におけるセルフケアは,80歳以下の高齢者に適用可能であると考える.
フットケアを実施する順序は,一連のケアの前後いずれかに足部の運動を実施するとし,対象は各々の状況に応じて順序を検討していた.いずれの順序においてもケアの効果は同様であったことから,足部の運動は,運動後の筋疲労や足趾の動き等,個々の目的や足部の状況に応じた順序の決定を支持することが望ましいと考える.新田ら(2002)は,足浴後のマッサージにより,ケア30分後まで有意に温度上昇が持続したと報告している.足浴後のマッサージの実施は,両者の相乗効果を高めるために妥当であったと考える.さらに,ヤスリがけは,足浴やマッサージ後の浸軟した皮膚には適さないため,足浴前に実施することが望ましく,本研究におけるフットケアの一連の流れは適切であったと考える.
3.対象によるフットケアの介護予防への有効性自立した生活を維持するための立位・歩行能力の維持・向上を介護予防ととらえ考察する.姫野らの先行研究(2004)において立位バランスや転倒経験と関連していた循環機能およびそれに起因する変調が改善していた.また,立位バランスの評価項目は,12週間のうち介入前~6週間後に有意な機能向上がみられた.さらに,歩行能力は介入前~6週間後の左足趾間把持力以外,すべての期間で有意な機能の向上がみられた.以上より,対象自身が実施したフットケアは,自立した生活動作を維持するための立位・歩行能力を向上させたことから,介護予防に有効である可能性が示唆された.
本研究の介入に必要な知識と技術を持つ者が著者のみであったことに加え,対象が高齢者であり一連のケアにおける説明や実施状況の確認に1時間弱を要したこと,介入可能な時間に制限があったことにより対象数が限定されたことは研究の限界である.しかしながら,7人という少ない対象数であったにもかかわらず統計学的有意差が認められたことは,ケアの効果が証明されたと考える.今後は,多様な対象への実施により実用的な介入プログラムを提唱したい.
高齢者自身によるフットケアの効果では,自己効力感が若干向上し,足部の変調は,循環状態や筋疲労に関する項目が改善した.足部の皮膚異常も改善や消失がみられた.感覚機能・循環機能ともに有意に向上した.立位・歩行能力も有意に向上した.期間ごとの変化では,6週間まで向上する項目と12週間向上し続ける項目があった.以上のことから,足部の状況に即して対象各々が実施したフットケアは6週間~12週間の実施が望ましく,介護予防に有効である可能性が示唆された.
研究にご協力をいただきました対象者の皆様に心より感謝申し上げます.
本研究において専門的な立場からご指導をいただきました広島大学大学院の新小田幸一教授,小林敏生教授に深く感謝申し上げます.本研究は,平成20~21年度科学研究費助成金(挑戦萌芽)課題番号20659369を充て実施した.なお,本論文は広島大学大学院に提出した博士論文の一部に加筆・修正したものである.