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Acquisition Process of the Motivation to Remain in Nursing among New Graduate Nurses
Masato Oe Setsuko TsukaharaYutaka NagayamaChie Nishimura
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2014 Volume 34 Issue 1 Pages 217-225

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Abstract

目的:新卒看護師が職業継続意思を獲得するプロセスを明らかにする.

方法:新卒看護師6名を研究協力者とし,半構成的面接で得たデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した.

結果:新卒看護師は,看護技術や勤務形態に適応し,先輩看護師や患者からの評価や患者への意識の変化により,【できる実感】を獲得していた.そして,看護師としての自己実現を目指す段階へと移行し,【理想の看護師像へのアプローチ】を進めていた.また,看護師を職業として選択したことの意識化や気分転換により,【仕事として割り切る】ことでストレスを軽減していた.さらに,周囲の人々の支えや,看護師の職業的長所を見出すことで,【意欲の再構成】を行って職業継続意思を獲得するプロセスを支えていた.

結論:新卒看護師が職業継続意思を獲得するプロセスを進めるためには,看護師としての基盤の獲得をスムーズに行うこと,また看護師を職業としてとらえることが有効であることが示唆された.

Ⅰ.緒言

2013年度の調査(日本看護協会,2013)では,新卒看護師の1年以内の離職率は7.5%であり,近年の離職率は減少傾向である.また,看護師全体の離職率は10.9%であることや他の職種での離職率と比較すると,新卒看護師の離職率だけが高いわけではない.しかし,看護師が不足している状況は続いており,次世代の医療を担う新卒看護師の離職を防止することは重要な課題であるといえる.

新卒看護師の離職については,94.3%が勤務中のストレスを抱えていること(神郡他,1996),就職後3カ月時に離職願望を抱いている新卒看護師が7割であること(水田他,2004)が述べられており,多くの新卒看護師が職業上のストレスを抱え,離職を考えている現状が明らかになっている.その原因として新卒看護師は,看護技術や知識の不安,職場での人間関係,患者との関係,配属先などに課題やストレスを感じていることが報告されている(古市他,2006服部他,2010篁他,2009Tei-Tominaga et al., 2009).さらに,新卒看護師の離職の引き金になるとされているバーンアウトやリアリティショックには,仕事の責任の重さ,複数の患者への対応,理想像との相違なども影響していることが明らかとなっている(鈴木,2007平塚他,2009水田,2004).そして,そのリアリティショックからの回復には,新卒看護師に特有の不安定さを抱えながら,看護技術や勤務への適応などの解決課題を解決していくことが必要であるといわれている(渡邊他,2010).

一方,新卒看護師の職業継続の要因については,給与や勤務体制などの組織要因,先輩の相談相手の有無等が関連しているとされている(吾妻他,2007).しかし,それらの要因がどのように影響し合いながら職業継続意思を獲得しているかは明らかとなっていない.

そこで,新卒看護師の職場適応をスムーズに進めるためには,新卒看護師が職業継続意思を獲得するまでにどのような思いを持つか,またそれらの思いがどのように影響し合っているかを明らかにする必要があると考えた.

Ⅱ.目的および意義

本研究は,新卒看護師が職業継続意思を獲得するプロセスを明らかにすることを目的とした.本研究の意義は,そのプロセスを明らかにすることにより,新卒看護師の職場適応への示唆を得ることである.

Ⅲ.研究方法

1.研究デザイン

本研究は,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下,2003)(以下,M-GTA)を用いた質的帰納的研究である.M-GTAはデータに密着した分析を行い,領域密着型の理論を生成することを目的とし,理論的パースペクティブとして象徴的相互作用論(Blumer, 1969)を基盤に置いた研究方法である.

本研究では,新卒看護師が職業継続意思を獲得するプロセスという限定された範囲での理論生成を指向していること,看護師と患者,同僚・先輩看護師との間で社会的相互作用が生じている現象であること,職業継続意思を獲得するプロセスの変化を提示することで実践への示唆を得ることが期待できることから,M-GTAが適していると判断した.

2.研究協力者

研究協力者は,A大学を卒業し,A大学附属病院に勤務する新卒看護師とした.研究協力者が勤務する大学病院では,研修システムが整備されており,就業前研修が実施されるなど職場適応の促進,離職の予防に向けた対策がとられていた.研究協力者の選定は,看護部長の許可を得た上で,複数の病棟師長に離職願望を持っていないと考えられる新卒看護師の紹介を依頼して行った.面接時期は,入職後6~10カ月が経過した頃とした.その時期は,研究協力者が他のスタッフと同様に業務を分担され,夜勤を行う時期であった.先行研究では,新卒看護師は就職後3~4カ月に問題を生じて危機的な状況になると報告されている(水田他,2004).そこで,入職後6カ月を経過しても離職願望を経験しておらず,口頭で職業継続意思を持つと答えた者を職業継続意思を獲得した新卒看護師と判断し,本研究の研究協力者とした.

3.データ収集方法

データの収集は,半構成的面接により行った.インタビューガイドを参考に就職してから現在に至るまで,職業継続意思に関連している経験にはどんなことがあったか,それらの経験は職業継続意思にどのように影響しているかなどの質問から面接を開始し,職業継続意思を獲得するまでの経験や思いを自由に語ってもらった.面接は,研究協力者ごとに1回ずつ行い,録音した内容を逐語録とし,データとした.なお面接は,研究協力者とは利害関係のない他機関に所属しており,大学附属病院での臨床経験・管理職の経験を持つ大学教員と,研究協力者の思いを身近な立場で理解可能な就職を控えた大学生により行った.

4.データ分析方法

M-GTAでは,収集されたデータのアウトライン・文脈に基づいた概念生成が可能となるように,研究テーマに沿って分析テーマを設定する.また,データの中で社会的相互作用の主体となる存在である分析焦点者を設定する.本研究では分析テーマを研究テーマと同じく「新卒看護師が職務継続意思を獲得するプロセス」と設定した.分析焦点者は「大学を卒業し,大学附属病院に就職して1年以内の新卒看護師」とした.

面接により得られたデータを基に,分析ワークシートを用いて概念生成を行った.複数の概念が生成された段階から,概念間の関係性を検討した.概念の統廃合を繰り返しながら,カテゴリー生成も検討した.最終的に概念とカテゴリーの関係性について図式化した.なお,本研究のフィールドにおいて,概念とカテゴリーの生成が追加されないと判断し,生成した概念とカテゴリーを用いて,分析テーマの現象を説明できることを研究者間で確認した時点で分析を終了した.

また,データ分析過程においては,20年以上の臨床経験と10年以上の質的研究歴を有する研究者のスーパーバイズを受け,質的研究の研究業績を有する研究者間の検討により,結果が研究協力者の思いに合致しているかを確認した.

5.倫理的配慮

研究協力者には,研究への参加は自由意思であること,参加を断っても不利益はないことを書面および口頭で説明した.さらに,研究協力者のプライバシー保護に配慮し,データは厳重に保管,個人が特定されないようにすること,データを本研究のみに使用し,研究終了後に直ちに破棄すること,結果を公表する予定であること,職業継続意思の有無や研究において語った内容が業務の評価には影響しないことなどを伝え,研究参加の同意を得た.なお,本研究は,富山大学医学部看護学科教務委員会の承認(個別の承認番号なし)を得て,倫理的な配慮を行った上で実施した.

Ⅳ.結果

1.研究協力者の概要

研究協力者は6名であった.年齢は全員が20代前半であり,勤務病棟は,外科系病棟が4名,内科系病棟が2名であった.面接時間は60分から90分であった.データの収集は,平成18年11月から平成19年1月に行った.

2.ストーリーライン(図1
図1 新卒看護師が職業継続意思を獲得するプロセス

以下,カテゴリーを【 】,概念を〈 〉と表記する.

研究協力者は,勤務を継続しながら,看護技術の獲得や勤務形態に適応することで〈看護師としての基盤の獲得〉をした.そのことが【できる実感】の起点となり,〈先輩看護師とのピア関係〉に支えられながら,〈職場コミュニティの一人としての自覚〉や〈患者からの評価の積み重ね〉により看護師としての自分の価値を高めていた.また,看護師の職業上,避けることのできない患者の死への対処ができるようになることで〈患者の死の受容〉したり,患者の立場に立ったケアを行いたいと考え,〈患者を擁護する意識の芽生え〉を体験していた.

そして,【できる実感】を基にして看護師としての自己実現を目指す段階へと移行し,〈自分にできる看護の模索〉をしながら,経験の蓄積や先輩看護師の姿から〈理想の看護師像の明確化〉を進め,〈理想の看護師像の追及〉に向けて具体的に行動を起こす必要性を感じて知識や技術獲得の意欲を抱いて【理想の看護師像へのアプローチ】を進めていた.

そのプロセスにおいては,看護師として就職することについて〈看護師も仕事の一つ〉として考え,勤務中の困難な出来事から〈前向きに開き直る〉ことにより,【仕事として割り切る】ことで仕事のストレスを軽減していた.

さらに,周囲の人々に支えられながら〈周囲に語ることによる癒し〉や,勤務形態の利点に気付くことや給与を得る喜びにより〈職業特性の魅力〉を感じ【意欲の再構成】を行って職業継続意思を獲得するプロセスを支えていた.

3.概念とカテゴリー

新卒看護師が職業継続意思を獲得するプロセスは,4個のカテゴリー,14個の概念により明らかとなった.抽出したカテゴリーは,【仕事として割り切る】,【できる実感】,【理想の看護師像へのアプローチ】,【意欲の再構成】であった.

以下,カテゴリーを【 】,概念を〈 〉,事例を「太字」で示し,カテゴリーごとに説明する.

1)【できる実感】

このカテゴリーは,〈看護師としての基盤の獲得〉,〈先輩看護師とのピア関係〉,〈職場コミュニティの一人としての自覚〉,〈患者からの評価の積み重ね〉,〈患者の死の受容〉,〈患者を擁護する意識の芽生え〉の6個の概念で構成されていた.この【できる実感】は,新卒看護師が職業継続意思を獲得するプロセスを推進する基点となっており,コアカテゴリーとして位置付けられた.

〈看護師としての基盤の獲得〉は,研究協力者が日常業務に対応できる看護技術を獲得できたことや夜勤などの勤務体系に順応できたことが語られていた.それにより研究協力者は,看護師として勤務し,業務に取り組めるようになったと感じていた.

「検査とかのことやっとわかってきて,なんか必要なものは何とかとか,この人は何時間安静で,とかいうのが大体頭入ってきて,機材とかも大体さわったことあってみたいのができた.」(研究協力者A)

「今までだったら,あ,あれも忘れた,あれも忘れたていうのがもう結局4往復くらいしてたところを,1回で終わらせれるようになったら,結構楽になったんかなと思うけど.」(研究協力者E)

「普段はもう寝れるね.寝ずにこの前(仕事に)行ったら,すごい死にそうやった.眠くて眠くて.」(研究協力者B)

〈先輩看護師とのピア関係〉は,研究協力者が先輩看護師の業務のサポート,自分を育ててくれようとする姿勢を意識したり,就職以前の臨地実習等での指導者・被指導者の関係から職場の仲間として先輩看護師に受け入れられているように変化していることを意識しながら,その重要性を感じている様子が語られていた.

「看護師さん仲間ではすごいみんな助けてくれるし,行動してくれるから,やっていけとる.」(研究協力者B)

「(先輩看護師が)こういうのしといた方がいいよーとか,教えてくれたり.私はこうだったよとか.そう何か目安があったほうがね,やりやすいじゃん.」(研究協力者E)

〈職場コミュニティの一人としての自覚〉は,研究協力者が病棟スタッフの一員として勤務を継続できていることや,先輩看護師からの評価により,看護師としての自分の価値を見出している様子が語られていた.

「確かに私が突然風邪とかで休むって言ったらすごい迷惑かかるのはわかるけど,なんか貢献してるかどうかは全く自信がない.なんだろう,必要最低限の能力だけの,ただ私いたら助かるわーって感じにはまだなってないなと思う.」(研究協力者A)

「先輩とかが,あー,がんばっとるねとかね.そういうふうに言われるようになってきて,やっぱ頑張った分だけ認められるんだなって.」(研究協力者F)

〈患者からの評価の積み重ね〉は,研究協力者が看護ケアに対する患者からの反応に充実感を感じ,自分を認めてくれる患者の存在が看護師としての自分の価値を高めているように感じている様子が語られていた.

「(働いていてよかったと思う時は)やっぱ患者さんに「あんたに来てもらったらうれしいわぁ」とかそういうふうにやっぱ言ってくれる人がいるようになったことかな.」(研究協力者B)

「私あんなうれしいと思わんかったもん.なんかこう自分を頼ってくれることがこんなうれしいとは思わんかったわーとか思ったけど.なんかこう,病院行ったら今日も患者さんのために頑張ろうとか思える.」(研究協力者A)

〈患者の死の受容〉は,研究協力者が何度も患者の死を経験して仕方のないことだと考えるようになったことや,経過の見通しをもった対応ができるようになったことで患者の死の痛みを抱えながらも次の業務に移ることが可能になったことが語られていた.

「最初は,「え,この人まだこんな元気やったのになんで」とか,その経過が予測できなかったけど.やっぱこうもう見慣れてきたら,「あぁこの人もう,お腹に水も溜まってきとるし,黄色くなってきとるしー」とかでなんとなく,もうじきヤバイんじゃないかなっていうのがわかるようになってきたから.その分,わかってたらそういう関わりというか,(気持ちが)変わってくるから,違うから.」(研究協力者B)

「最初みたいになんかそれ(患者の死)で頭いっぱいになって,次の仕事がなんかこうちょっと行きづらいというか,気持ちの切り替えが,最初はやっぱできづらかったけど,今はもう仕方ないことっていうか,もう,すぐ,一応すぐに切り替えるようにはなったけど.」(研究協力者D)

〈患者を擁護する意識の芽生え〉は,研究協力者は就職直後には患者の気持ちを考えるよりもケアを行うことへの不安が強かったが,ケアへの不安が軽減した頃になると患者の立場に立ったケアを行いたいという思いを持つように変化したことが語られていた.

「家族の人来られて,やっぱきれいになんか整っとったら,ねぇ.なんかいいと思うけどそうじゃない姿見たらね,なおさら何かねぇ,ショックっていうか,つらいと思うから.そういうところちゃんとしてかんなんなって思って,心がけてました.」(研究協力者B)

「(点滴を)抜かれたときになんか抜かれるかもしれなかったのに,抑制をしてない自分が悪いって思うのか,これはしょうがないな,でもフリーにしてあげたかったしって思うのかで大分,なんか気持ちの持ち方が違うというか,後に引きずるか,なんかどうなんかっていうのが変わってきた.」(研究協力者C)

2)【理想の看護師像へのアプローチ】

このカテゴリーは,〈自分にできる看護の模索〉,〈理想の看護師像の明確化〉,〈理想の看護師像の追及〉の3個の概念で構成されていた.

〈自分にできる看護の模索〉は,研究協力者が自分自身で行えるようになったケアを理解したうえで,今後どのようなケアを行っていきたいかを考えて実践している様子が語られていた.

「私どちらかといえば世間話とかよくしてるから,そういうのする相手いなかったらその人たち多分,なんだろ,年配の看護師さん冷たい人とかいるじゃん.例えば,そう,同じ年代とかだったらなんかそれなりになんか話も合うし,(患者さんが)和むときもあるかなとは思う.」(研究協力者A)

「よく私を見てくれとる先輩は,「あんたは他の人よりもすごい頻回に患者さんを見に行っとる」って言われて,何回も何回も行くんね,なんか,怖いから,こう確認しに行くんね.」(研究協力者D)

〈理想の看護師像の明確化〉は,研究協力者が先輩看護師の姿や自分自身に芽生えた思いから,理想の看護師像の存在を明確にしている様子が語られていた.

「本当は(患者の死の場面では)そういう動揺とかせずにまぁそうやってやるのが家族からみてもいいのかなと思うけど.なんかでも冷たいような気もするし.あんまりどう関わっていいかはやっぱちょっとわからない.」(研究協力者C)

「もっといろいろ動ける看護師になりたいなぁとは思うけど.一応目標,目標っていうか,いいな,こういう先輩,こういう看護師さんなりたいなっていう人はおるね.」(研究協力者E)

「私はこういうふうになりたくないなとか,もうちょっとこういうふうにできんかなとか,ちょっと自分なりの楽しみを見出してきたというか.」(研究協力者A)

〈理想の看護師像の追及〉は,研究協力者が抱き始めた理想の看護師像に近づきたいという思いを強め,具体的な行動を起こす必要性を感じている様子が語られていた.研究協力者は新たな知識や技術の習得への意欲を持ち,身近な先輩看護師に相談したり,先輩看護師の姿から学んだり,理想の看護師像へと近づく努力をし,看護業務への意欲を高めていた.

「先輩とかで,ちょっとそういう勉強してきた人とかだったらなんか本当に最後の最後まで,なんかうまいことできてるのに,私はできないなーみたいな.なんであんなふうにうまく話を弾めるんだろうとか.で,頑張らんといけんなーとは思うけど.」(研究協力者E)

「最初の頃は,見て覚える,やって覚える,やったけど,もうそんな時期じゃないやろうなっていうのは自分で思っとって.ちゃんと後は勉強して,プラスアルファそれに付け加えれるようになってかんと.多分そこで差が出てくるから,ちょっと頑張らんなんなぁと.」(研究協力者B)

3)【仕事として割り切る】

このカテゴリーは,〈看護師も仕事の一つ〉,〈前向きに開き直る〉の2個の概念で構成されていた.

〈看護師も仕事の一つ〉は,研究協力者が基礎教育での実習や研修等を通して,就職以前から実際に看護師として働くイメージをもっていたことが語られていた.また,研究協力者が社会人として働く辛さと看護師の業務内容による辛さを別のものと考え,働くことの辛さは誰もが抱える思いととらえている様子も語られていた.そのため,研究協力者は仕事をすることや業務内容の辛さを当然のこととして受け入れていた.

「こんなもんなんだないう感じ.これが普通って言うか,普通に受け入れて.」(研究協力者F)

「あの働くっていうか働いてる自分に理想がすごい高過ぎて,なんか楽して働いて金儲けるだけみたいな感じの気持ちでおって就職するから,なんかこんな大変だみたいな感じになるだけ.」(研究協力者A)

〈前向きに開き直る〉は,研究協力者が対応しきれない業務内容については仕方ないと考え,気持ちが落ち込まないように勤務の理想と現実への折り合いをつけている様子が語られていた.

「私はあきらめるよ,いいわって.明日の人やってくれるやろって.明日にかけようみたいな.」(研究協力者D)

「私もでもそんな大して深く考えたら大変やから,考えんようにしとるよ.まだなんかこう,自分がやってあげられることはそんなたいしたことじゃないんだって,自分なりに開き直って,私の中で.ほらなんか,患者さんが普通に生活できるように普通に補完的な役割を果たすだけやと思うから.」(研究協力者C)

4)【意欲の再構成】

このカテゴリーは,〈職業特性の魅力〉,〈周囲に語ることによる癒し〉,〈労働の対価として得る給与の喜び〉の3つの概念で構成されていた.

〈職業特性の魅力〉は,研究協力者が業務内容や交代勤務などの長所を見出し,看護師を続けていくことへの否定的な思いを軽減している様子が語られていた.

「私普通の仕事してる人の方がさ,逆に大変だと思う.ノルマあったりだとか,なんかこれしなきゃいけないとかだってさ,月から金まで働いて,土曜日も仕事行ってさ,日曜日だけ休みでさ,帰ってくるのも23時とかさ,そんなんだって.」(研究協力者A)

「サラリーマンとか友達って月曜日から金曜,多い人土曜日まで働いて,朝の早い時間から結構ねぇ,19時20時とかかね.それを毎日続くよりは,三交代で休みが,間ある方が体的には楽やし.うん,遊ぼうと思えば遊びに行ける.」(研究協力者B)

〈周囲に語ることによる癒し〉は,研究協力者が自分の思いを先輩看護師や患者,友人,家族などに話すことで気持ちを整理し,再び業務に向かう姿勢となっていたことが語られていた.

「なんかあのー,自分の好きな患者さんていたりするのね.(嫌なことがあった時は)ちょっと話を聞いてもらったり.」(研究協力者A)

「話すことは大事かなと思った.自分がどう思っとるかとか,何がしたいかっていうのを友達でもいいし,先輩でもいいし,こう思ってるんですよって,言って出すとちょっと楽だし.それで,それ私も思ってたよとかってなんかこういろいろ聞かせてもらったら,そうなんだってのもあるし.」(研究協力者E)

〈労働の対価として得る給与の喜び〉は,研究協力者が過酷な業務や勤務形態の対価として得られる給与への喜びを感じており,その思いが看護師を続けていく理由のひとつであることが語られていた.

「通帳見て,私働いたのが金額で返ってくるのかと思ったらなんか,おこづかいとは全然違うし.自分で働いて自分で買ったものだっていうのがすごいうれしかった.」(研究協力者E)

「(仕事は)やっぱひどいけどその分収入もね,でかいっていうか,まとまったお金くるわけやし,頑張れるね.やっぱ給料出たら,よし頑張ってよかったって思う.その一ヶ月一ヶ月が.」(研究協力者B)

Ⅴ.考察

本研究により,新卒看護師が職業継続意思を獲得するプロセスが明らかとなった.そのプロセスの獲得について,重要と考えられた以下の3つの視点で考察する.

1.職業継続意思の基盤となる【できる実感】の獲得

研究協力者は,【できる実感】を得ることにより,職業継続意思を獲得し,強化していくプロセスを進めていた.新卒看護師にとっては患者とのかかわりが最も職務満足度を高める要因であるとされており(陣田,2008),【できる実感】が重要であると理解できる.さらに,新卒看護師の看護ケアは,自分に焦点があるかかわりから段階的に患者に焦点を移していくことが報告されている(中納他,2008).本研究においても研究協力者が自分自身の基本的な看護ケアに対する【できる実感】を獲得することで自信を持ち,そのことが【理想の看護師像へのアプローチ】を進めていたと考えられる.しかし,新卒看護師が複数の患者を受け持つことや,患者の死に直面することなどは,看護師として勤務してから初めて経験する(石井,2007平賀,2007)ため,【できる実感】を得るまでには臨地実習ではできない経験を積み重ねるための期間を要する.とはいえ,研究協力者は面接を行った就職後6~10カ月の時点で職業継続意思を獲得していたことから,早期からそのような思いを獲得していけるよう,就職直後からの早期のサポートが必要であると言える.そのような状況において研究協力者は,先輩看護師との関係の中で学んだ体験をもとに専門職としての看護援助を積み重ね,自立への過程を歩む(坂村他,2009)とされており,そのことから〈先輩看護師とのピア関係〉が大切であると推察される.

また,先行研究(水田,2004)において挙げられているリアリティショックや離職の要因と本研究において明らかとなったカテゴリーには,看護実践能力や職場の人間関係,患者の死についてなどの共通した内容がみられた.そのことからも,職業継続意思の獲得を促すことは離職の予防となることがわかった.つまり,実際に病院等において新卒看護師をサポートする際には離職願望の有無にかかわらず,同様のサポートを行うことが有効であることが示唆された.

2.研究協力者が職業継続意思を持ちやすくした要因

研究協力者らは,塚原ら(2007)が報告したシャドウ研修を実施しており,[職場でのイメージの獲得],[患者–看護師間の関係づくりの確認],[質と量の不均衡の理解]を就職直前に体験していた.そのことが【看護師として社会人となる覚悟】を持つ一助となり,新卒看護師にとって困難な業務や辛い出来事を離職願望へとつなげることなく,職場適応をスムーズにしていたと考えられる.

また,研究協力者らが勤務する病院は大学附属病院であり,研修システムや支援体制が手厚く整備されており,十分に先輩看護師とのかかわりを持つ時間があったと推察される.それらの要因が〈先輩看護師とのピア関係〉の構築を促し,【できる実感】,【理想の看護師像へのアプローチ】を得やすくしたのではないだろうか.

3.看護師を職業として捉える視点

看護の継続教育は,医学的知識を基盤とした看護技術中心の教育が行われている.特に研究協力者らが勤務している大学附属病院のように高度医療を提供する場において医学的知識に裏付けされた看護技術の提供は欠かせない.しかし,研究協力者は,【仕事として割り切る】ことや勤務体系や給与の喜びの自覚による【意欲の再構成】を職業継続意思につなげていたことから,社会人となり職業として看護師を選んでいることについても意識化していく必要があると考えられた.新卒看護師の職業的アイデンティティの形成過程には,社会人としてのアイデンティティを確立する時期と看護師として思慮をめぐらす時期の2つがあるとされている(川島他,2010).また,社会人としての態度の育成が新卒看護師の育成を促進するとも報告されている(佐藤,2010).これらのことから,医学的な知識や看護技術だけでなく,社会人としての成長を促すような支援をしていくことも職業継続意思を獲得するために重要であると考えられる.

Ⅵ.研究の限界と今後の課題

本研究から生成された理論はM-GTAの特性上,4年制看護系大学を卒業し,大学病院に勤務する新卒看護師についてのみ説明力をもつという方法論的限定性がある.また,調査は大学病院1施設という限られたフィールドから得られたデータに基づいて分析を行っており,組織の風土やシステムの影響を受けて対象や分析内容に偏りが生じている可能性を考慮しなければならない.今後はさらに継続的なサンプリングを重ね,データの質を深めて調査を進めていく必要がある.

Ⅶ.結論

1.‌新卒看護師の職務継続意思を獲得するプロセスを表すカテゴリーとして,【できる実感】をコアカテゴリーに,【仕事として割り切る】,【理想の看護師像へのアプローチ】,【意欲の再構成】の4つのカテゴリーを抽出し,その関係性が明らかとなった.

2.‌新卒看護師の職業継続意思のプロセスを進めるためには,看護師としての基盤の獲得をスムーズに行うこと,また看護師を職業としてとらえることでその利点を意識し,社会人としての成長を促すことが重要であることが示唆された.

Acknowledgment

本研究の実施に際して研究趣旨をご理解いただき協力下さいました,A大学附属病院の看護部長,看護師長の皆様,そして就職後の大変な時期にもかかわらず貴重な体験を語っていただきました対象者の皆様方に心より御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MO, ST, CNは,研究の着想およびデザイン,データ収集,データ分析,原稿の作成;YNはデータ分析と原稿への示唆,研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を確認し,承認した.

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