2014 Volume 34 Issue 1 Pages 226-234
目的:変形性膝関節症患者(以下,膝OA患者とする)に特化したセルフケア能力を評価できる指標を開発することである.
方法:一次性膝OA患者を対象とした.項目分析,確証的因子分析を用いた構成概念妥当性の検討により尺度を構築し,信頼性,基準関連妥当性の検討を行った.
結果:分析対象は386名であった.分析の結果,5因子20項目モデルが構築された(GFI=0.927, AGFI=0.907, CFI=0.919, RMSEA=0.045).「自己の病気および状況に関心を持ち把握する力」「療養法を遵守し継続していく力」「関節への負担軽減のために生活の仕方を調整する力」「病状悪化予防のために能動的に情報・方略を取り入れていく力」「有効な支援を希求し活用する力」の各因子4項目から成る「膝OA患者のセルフケア能力尺度」が作成された.尺度のCronbach’sは0.813で,外的基準とも有意な関連性が認められた.
結論:尺度の構成概念妥当性および基準関連妥当性,信頼性が確認され,開発した尺度は膝OA患者のセルフケア能力を適切に測定できる可能性が示唆された.
膝OAは運動器の生活習慣病であると指摘されており,OAの進行因子として肥満や筋力低下などが確認されている(Felson et al., 2000).また,膝OAの自然経過において,その病勢は非常に緩徐であるが,内的あるいは外的因子の関与により急速に進行し末期に至ると考えられている(Hart et al., 1999;和田ら,1990;和田,1995).そのような背景から,膝OA患者は長期にわたり,療養生活を継続することを余儀なくされ,膝OAを抱えながらその病勢を強める因子を除去もしくは軽減し,症状や機能障害を上手くコントロールしながら生活していくことが求められる.
Lorig(2006/2008)は,関節症患者の問題に対処するための管理技法として,痛みの管理や栄養,運動,服薬管理,関節の適切な動かし方,活動ペースの加減などを挙げている.これらの管理技法を習得することで,膝OAの病勢や症状,機能障害をコントロールしながら生活していくことが可能になる.近年では,膝OAの病勢コントロールや症状緩和,機能向上を目的とした運動や動作訓練などを中心とした介入プログラムに関する研究も行われており,運動療法の効果として,疼痛緩和や機能障害の改善が認められている(March et al., 2010; Yip et al., 2007;北畠ら,2006;Victor et al., 2005; Barlow et al., 2000).しかし,これらのプログラムにおいては低い継続率,高いドロップアウト率が報告されている.その理由として,OA患者の多くが高齢者のため,プログラム実施会場への移動が困難であったり,グループ活動が魅力的ではないことなどが指摘されている(March et al., 2010).また,Yipら(2007)は,プログラムの参加者に,“誰かに見られている”という気持ちの張りが生産性を高めるというホーソン効果がみられることを指摘している.つまり,指導者との定期的な関わりによって,介入プログラムの実施期間中は患者は運動を継続することができるが,プログラム期間が終了すると,積極的な姿勢を維持することが難しくなることが予測される.このことは,患者が自分自身に必要な管理技法を社会生活の営みの中で自己管理し,継続して実践していくことが容易ではないことを意味している.
健康を障害された患者が自分で実践できる活動,すなわち患者が行う自己管理はセルフケアとみなされている(西田,1992).また,セルフケアを実践,継続していくためにはセルフケアを支える力が重要となり,Orem(2001/2005)は,セルフケア能力を,“生命過程を調整し,人間の構造と機能の統合性および人間的発達を維持,増進し,安寧を促進するケアに対する個人の継続的な要求を充足するための複合的・後天的な能力(agency)”と定義づけている.
わが国では,本庄(1997b, 2001)が慢性病者のセルフケア能力を査定する質問紙として,Orem(2001/2005)が唱えるセルフケア能力の概念を基盤としたSelf-Care Agency Questionnaire(以下,SCAQとする)を開発している.SCAQは,慢性病を持つ人の特徴や日本の社会文化的背景を反映した上で開発されており,これまでに,軽症脳梗塞患者や糖尿病性腎症などの慢性病を持つ人々の看護に活用され(本舘,2010;野月,2007),ケア提供の評価やどのようなケアが患者のセルフケア能力を向上させたのかを明らかにできることなど,その成果が報告されている.SCAQは様々な慢性病者のセルフケア能力の測定に用いられていることから,慢性病者に共通する要素によって構成されたセルフケア能力を包括的に測定できる指標であると捉えることができる.しかし,SCAQの開発時の対象者は65歳以下の壮年期にある患者であり,糖尿病や高血圧,心疾患の患者の割合が多く,高齢者に多い筋骨格器系疾患の者は含まれていない.セルフケア能力は,発達段階や疾病,健康状態の影響を受けていることが指摘されている(Orem, 2001/2005).膝OA患者の場合は,痛みや関節の動かしにくさなどの苦痛が直接的に日常活動性に影響を及ぼし,セルフケアの継続を困難にさせることが推察される.加えて,膝OA患者の多くは高齢者であり,セルフケアを遂行する上で必要な能力は,壮年期の患者とでは異なることが予測される.池上ら(2004)は,特定の疾患群に対する治療や看護などの介入効果の測定には,経時的な変化に対する感度が高い疾患特異的尺度を用いることが望ましいとしている.膝OA患者においては,病勢や痛み,機能障害をコントロールし生活の質を維持していくことが医療の目標である.これまでの介入研究では,患者はプログラムの実施後にも積極的姿勢を維持し,専門家の推奨する管理技法を継続していくことが困難であることが指摘されており,いかにして患者のセルフケアを促進していくかが課題であると考える.このような現状を踏まえると,より反応性の高い指標を用いて,膝OA患者のセルフケア能力を捉え,セルフケアの促進に繋げていく必要があるのではないかと考える.本研究では,セルフケア能力とは,“ある結果をもたらす”目標達成行為を導くための能力,つまりセルフケアをもたらす能力であると捉えている.膝OA患者のセルフケアを促進するには,痛みの管理や関節保護,運動などに対するセルフケアとの関係を説明できる膝OA患者に特異的なセルフケア能力を把握するための指標の開発が必要になるのではないかと考える.
本研究の目的は,膝OA患者のセルフケアを促進する介入の指針を得ることを最終目標とし,信頼性および妥当性を備えた,膝OA患者のセルフケア能力を測定できる指標を開発することである.
膝OA患者に適用できる信頼性・妥当性を備えたセルフケア能力尺度を検討するために以下の手順を踏む.
1.質問項目の準備・作成本研究では,まず,慢性病者のセルフケア能力を査定する尺度であるSCAQについて,膝OA患者のセルフケア能力を測定する指標としての適切性を確認した.SCAQは【健康管理への関心】【健康管理法の獲得と継続】【体調の調整】【有効な支援の獲得】の4因子29項目で構成される.
次に,膝OA患者の“セルフケア能力”を操作的に定義し,その概念を測定するための質問項目を以下の手順で作成した.本研究では,Orem(2001/2005)が唱える概念を基盤に膝OA患者の特徴を加味し,“セルフケア”を「膝OA患者が,膝OAの病勢を強める因子を除去もしくは軽減し,症状や機能障害を上手くコントロールしながら望ましい生活をおくるために,自分自身で開始し,遂行する諸活動の実践であり,個人が意図的に遂行する行為」と定義した.“セルフケア能力”は,セルフケア能力に関する文献(本庄,1997a;Orem, 2001/2005)に基づき,「セルフケアに対する個人の継続的な要求を充足するための複合的・後天的な能力」とした.その上で,膝OA患者に半構造化面接を行い,抽出されたセルフケア能力の要素(谷村ら,2013)を参考にして質問項目を選定した.SCAQ(本庄,1997b, 2001)の29項目からも,膝OA患者のセルフケアを支える能力として適切と考えられる10項目を抜粋し,アイテムプールに加えた.その上で,整形外科看護経験5年以上の看護師2名に質問項目を提示し,膝OA患者への看護を経験している看護職者の立場から,質問項目の意味内容が重複していないか,臨床上必要とされるセルフケア能力の項目が不足していないかを検討してもらい,表現の修正,項目の追加を行った.さらに,膝OA患者12名に,作成した質問項目に回答してもらい,表現のわかりにくいところや回答に迷う項目がないかを確認した.膝OA患者のセルフケア能力の質問項目として最終的に58項目の質問項目を作成した.回答方法は「1:いいえ」「2:どちらかといえばいいえ」「3:どちらともいえない」「4:どちらかといえばはい」「5:はい」の5段階評定を求め,高得点ほどセルフケア能力が高いことを示すものとした.
2.調査期間調査期間は2009年4月から2009年9月であった.
3.対象者調査対象は,山陰地方の総合病院,整形外科医院36施設に通院する,痛みや関節可動域制限などの機能障害を抱えながら地域社会で生活する50歳以上の一次性膝OA患者とした.認知機能が低下していると判断される者,リウマチに罹患している者,悪性疾患や循環器疾患などの症状を有している者を対象から除外した.対象者は,統計上の必要数を保つためには,変数× 5~10の標本数が必要とされる(Gorsuch, 1983).本研究では,欠損値や回収率を考慮して650名を抽出した.
4.調査内容調査内容は,セルフケア能力に関する項目以外に,患者背景因子として,年齢,性別,職業,サポート人数,家族構成,併存疾患の有無,Body Mass Index(以下,BMIとする),膝OAの罹患期間,膝OAに関する症状,機能障害,治療内容を調査した.
5.倫理的配慮本研究は鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認(承認番号1158)を得て実施した.調査説明書には,研究の目的および方法,参加は自由意志であること,調査の参加の有無によって不利益を被らないこと,個人情報の保護等の旨を記載し,質問紙の郵送による返信をもって研究参加への同意とみなした.
6.分析方法1)項目分析項目分析として,欠損値の頻度,通過率,歪度,尖度,項目–全体相関(I–T相関),G–P分析を行った.I–T相関では,相関係数0.3以下の項目は,尺度で測定しようとしているものとの関係が低いと判断した(Nunnally & Bernstein, 1994).
2)構成概念妥当性の検討構成概念妥当性の検討を目的に確証的因子分析を行い,適合度指標を算出し,モデルがデータに適合しているかどうかを検討した.モデルの適合度の判定には,説明力の指標として,適合度指標Goodness of Fit Index(以下,GFIとする)および比較適合度指標Comparative Fit Index(以下,CFIとする),Root Mean Square Error of Approximation(以下,RMSEAとする),安定性の指標として修正適合度指標Adjusted GFI(以下,AGFIとする)を採用した.一般的に,GFI, AGFIは0.9以上(豊田,2007),CFIは0.95以上,RMSEAは0.06以下の値がモデルの受容の目安として推奨されている(Hu & Bnetler, 1999).また,各推定値の有意性は,推定値をその標準誤差で除した値(以下,「t値」とする)で評価し,その絶対値が1.96以上を有したものを統計学的に有意と判断した.
3)信頼性の検討信頼性は,内的整合性を現すCronbach’s α係数を算出し確認した.α係数の基準は0.7以上が望ましいとされている(Schneider et al., 2003).
4)基準関連妥当性の検討基準関連妥当性の検討では,SCAQ(本庄,2001)を外的基準として用い,ピアソンの積率相関係数を用いて併存妥当性を検討した.また,セルフケア能力は,セルフケアを行うための「力」であると捉えられ(本庄,1997a),従来から,セルフケア能力尺度の開発には,セルフケア行動や保健行動との相関関係を確認してきた経緯がある(糟谷ら,2011;Sousa et al., 2010).そこで,本研究においても,「療養行動の継続」を問う項目を外的基準として用い,相関分析を行った.なお,「療養行動の継続」は,膝OA患者に必要な療養行動である運動やダイエットなどを例に挙げた上で,“自分に効果がある療養行動を続けている”という項目に対して,「いいえ」「どちらかといえばいいえ」「どちらともいえない」「どちらかといえばはい」「はい」の5段階評定で回答を求め,順に1~5点を与えて,得点化したものである.
統計解析には,IBM SPSS Statistics 20, IBM Amos 20を使用した.
調査を依頼した650名のうち,505名(回収率:77.7%)から回答が得られ,そのうち,セルフケア能力に関する質問項目に欠損値のみられない386名(有効回答率:59.4%)のデータを構成概念妥当性および信頼性の検討における分析対象とした.
1.対象者の背景対象者の背景は表1に示したとおりである.対象者386名中,男性は86名(22.3%),女性は300名(77.7%)であった.対象者の年齢は,全体で72.7±9.5歳(50~95歳),男性のみの年齢は,73.1±8.5歳,女性のみでは72.5±9.8歳であり,男女に有意差はみられなかった.BMIは平均24.4±3.4 kg/m2であった.家族構成は拡大家族が203名(52.6%)で,“サポートがある”と回答した者が371名(96.1%)で9割以上を占めていた.機能障害の強さでは,痛みは58.7±27.2,関節の曲がりにくさは54.9±30.3,筋力低下は50.8±32.5であった.
確証的因子分析を用いて一次因子モデルにおけるSCAQの適合度を算出した.SCAQの膝OA患者のデータへの適合度は,GFI=0.819, AGFI=0.788, CFI=0.784, RMSEA=0.073であり,受容できる基準を下回っていた.SCAQは一次因子モデルとして作成されているが,一次元性を備えた概念を測定する尺度として,膝OA患者のデータに適合しているか,さらに二次因子モデルを仮定して確認を行った.適合度は,GFI=0.820, AGFI=0.790, CFI=0.783, RMSEA=0.073であり,膝OA患者のセルフケア能力を測定する指標として,受容できる基準には達していなかった.尺度の内部一貫性を示すCronbach’s α係数でSCAQの信頼性を確認したところ,【健康管理への関心】は0.720,【健康管理法の獲得と継続】は0.859,【体調の調整】は0.718,【有効な支援の獲得】は0.677,SCAQ全体のCronbach’s α係数は0.902であり,尺度としての信頼性は確認された.
3.膝OA患者に関するセルフケア能力尺度の検討1)膝OA患者セルフケア能力尺度の開発項目分析の結果,通過率80%を越える偏りのある項目が5項目みられた.I–T分析では,r=0.3以下の項目が3項目あったが,G–P分析では該当する項目はなかった.これらの結果は,確証的因子分析の際に,修正指数とともに項目選定の参考に用いた.本研究では,膝OA患者の面接調査および先行研究から抽出された58項目10因子で構成されるモデルを仮説モデルとしていた.そこで58項目すべてを用い,まず因子ごとに適合度,信頼性係数を算出し,許容範囲を満たしていることを確認した.その後,因子間に相関を仮定する斜交モデルを設定し,確証的因子分析を行った.修正指数,標準化係数に着目しモデルの改良を行った結果,セルフケア能力は5因子モデルに収束した.その5因子を一次因子,「セルフケア能力」を二次因子とする5因子27項目の二次因子モデルを仮説として構築した.5因子27項目の二次因子モデルに対して,確証的因子分析を行ったが,GFI=0.889, AGFI=0.869, CFI=0.866, RMSEA=0.051であり,適合度が受容できる基準に達していなかったため,修正指数の値を参考にモデルの修正を行った.その際,因子ごとの得点を比較し,患者のセルフケア能力の特徴が把握できるよう,各因子に同項目数が配置できるように項目選択を行った.7項目が削除され,最終的に5因子20項目からなる,膝OA患者のセルフケア能力尺度;Self-Care Agency in Patients with Knee OA Scale(以下,SCAKOSとする)が構築された(図1).データとモデルとの適合度は,GFI=0.927, AGFI=0.907, CFI=0.919, RMSEA=0.045であり,指数は受容できる水準を満たしていた.第二次因子から第一次因子のパス係数,第一次因子から観測変数へのパス係数はいずれも統計学的に有意であった(p<.01).
GFI=0.927, AGFI=0.907, CFI=0.919, RMSEA=0.045 パス係数はすべてp<.01 ζ:攪乱変数,e:誤差変数 η1:「自己の病気および状況に関心を持ち把握する力」 η2:「療養法を遵守し継続していく力」 η3:「関節への負担軽減のために生活の仕方を調整する力」 η4:「病状悪化予防のために能動的に情報・方略を取り入れていく力」 η5:「有効な支援を希求し活用する力」
SCAKOSの因子,尺度項目は表2に示すとおりである.η1は,膝OA患者が自分の病状や悪化要因,治療に関する状況に対して関心を持ち理解する能力を示し,「自己の病気および状況に関心を持ち把握する力」,η2は,膝OAの治療を定期的に続け,医療者の助言を守りつつ,膝OAの管理に必要な療養法を継続する意思を持つ能力を示し,「療養法を遵守し継続していく力」,η3は,膝関節保護や負担軽減のために自分なりに活動ペースや内容を加減するなどの自己調整を行う能力を示し,「関節への負担軽減のために生活の仕方を調整する力」,η4は,膝OAの病勢や症状,機能障害の悪化を予防するために情報や具体的な方略を能動的に取り入れていく能力を示し,「病状悪化予防のために能動的に情報・方略を取り入れていく力」,η5は,自分に関する情報を伝えて自分の状況を他者に理解してもらう努力や他者からの支援を能動的に求め,活用する能力を示し,「有効な支援を希求し活用する力」の因子であった.
SCAKOS全体のCronbach’s α係数は0.813,各因子では,「自己の病気および状況に関心を持ち把握する力」は0.744,「療養法を遵守し継続していく力」は0.553,「関節への負担軽減のために生活の仕方を調整する力」は0.564,「病状悪化予防のために能動的に情報・方略を取り入れていく力」は0.637,「有効な支援を希求し活用する力」は0.691であった.SCAKOS全体および5つの因子の得点において,歪度,尖度ともにその絶対値は1.5以下を示し(SCAKOS全体では歪度 −0.355,尖度 −0.328),ほぼ正規分布であることが確認された.
3)基準関連妥当性の検討SCAKOS得点とSCAQの各因子得点とのピアソンの相関関係は,表3に示すとおりであった.SCAKOSの各因子とSCAQの各因子間の相関係数は0.28~0.70(すべてp<.01)であり,低度から中程度の相関が認められた(表3).さらに,外的基準とした「療養行動の継続」得点とSCAKOS総合得点間にも,有意な正の相関を確認した(r=0.38, p<.01).
本研究は,膝OA患者のセルフケア能力に関する因子構造を検討し,信頼性および妥当性を備えた膝OA患者のセルフケア能力を評価できる指標を開発することを目的として行った.
従来,セルフケア能力に関する指標の開発は,探索的因子分析のみで検討されることが多かった.しかし,因子とは変数間の相関関係の高いもの同士を説明している仮説的な構成概念にしか過ぎず,探索的因子分析では,解の不定性や恣意性などの問題がみられ,構成概念妥当性の吟味は十分ではない.探索的因子分析にみられる因子抽出とその解釈の恣意性を払拭するために,本研究では因子構造モデルを構築し,その構成概念妥当性を確証的因子分析により検討した.適合度指標の値から,SCAKOSはSCAQよりも膝OA患者のデータとの当てはまりの良さが示され,SCAKOSの構造が本研究データにおいては妥当であることが示された.また,本研究では,セルフケア能力と各因子間,因子と各項目間の関係性において,統計学的な説明力を有することが示され,「セルフケア能力」を二次因子,5因子を下位因子とする二次因子モデルが構築された.
SCAKOSの構造は,「自己の病気および状況に関心を持ち把握する力」「療養法を遵守し継続していく力」「関節への負担軽減のために生活の仕方を調整する力」「病状悪化予防のために能動的に情報・方略を取り入れていく力」「有効な支援を希求し活用する力」の5因子で構成されていることが確認された.本庄(2001)のSCAQはSCAKOSとは因子数は異なるが,SCAKOSにおける「自己の病気および状況に関心を持ち把握する力」はSCAQの【健康管理への関心】と類似し,「療養法を遵守し継続していく力」は【健康管理法の獲得と継続】と類似し,「関節への負担軽減のために生活の仕方を調整する力」は【体調の調整】に類似し,「有効な支援を希求し活用する力」は【有効な支援の獲得】と類似していた.SCAKOSが,結果的に慢性病患者の包括的なセルフケア能力を測定するSCAQの因子と類似したことは,SCAKOSの構成概念妥当性を裏付ける結果ともいえるであろう.しかし,SCAKOSには膝OA患者独自の因子もみられ,さらに,SCAQと類似している因子においても,その因子を構成する個々の項目のなかには膝OA患者の症状や障害などに影響される,特異的な項目が含まれている.これは,慢性病を持つ人々におけるセルフケア能力といった包括的な概念はあるものの,疾患特異的な側面にも着目しなくてはならないことを示唆しているものと考えられる.特に,「関節への負担軽減のために生活の仕方を調整する力」と「病状悪化予防のために能動的に情報・方略を取り入れていく力」には,膝OA患者に関する特有の情報が加味された質問項目が含まれ,これらの能力は,膝OAの管理のために必要な知識の獲得および膝OAの特徴である関節痛や関節可動域制限などの機能障害,それらによって影響される生活過程を管理するために必要な力であるといえるだろう.さらに,膝OA患者の場合は,痛みや関節の動かしにくさなどの苦痛が直接的に日常活動性に影響を及ぼし,セルフケアの継続を困難にさせることが推察される.加えて,膝OA患者の多くは高齢者である.周囲の人から手段的,情緒的な支援を得る「有効な支援を希求し活用する力」は,膝OA患者のセルフケアの継続にとって重要となるかもしれない.以上のことから,膝OA患者に必要なセルフケアとの関係を説明できる,膝OA患者に特異的なセルフケア能力を評価するための指標が開発されたといえよう.
基準関連妥当性の検討においては,慢性病者の包括的なセルフケア能力を測定する尺度であるSCAQの各因子との間に低度から中程度の相関,セルフケア行動との間に有意な正の相関が得られた.先行研究では,高血圧患者の自己管理度測定尺度(食事,運動)とSCAQの関係において(坪田ら,2005)能力と自己管理行動との間には0.4程度の相関関係が認められている.本研究におけるSCAKOSとセルフケア行動の相関係数の値も同程度の関係が示されており,行動との関係の強さとしては妥当な程度を示しているのではないかと考える.以上のことから,概ね本尺度の基準関連妥当性が支持されたといえよう.
信頼性の検討においては,下位因子のα係数は基準値0.7を下回る結果となったが,SCAKOS全体としては基準値以上のα係数が得られ,研究利用に耐えうる内的整合性であることを確認した.本研究では,各因子4項目と項目数が少ないため下位因子に関するα係数は,やや基準値を下回る結果となったが,SCAKOS全体の内的整合性が確認されたことで,SCAKOSは膝OA患者のセルフケア能力を適切に測定する評価指標として捉えることができるものと考える.
本研究において,SCAKOSの構成概念妥当性ならびに基準関連妥当性,信頼性を確認でき,SCAKOSが膝OA患者の“セルフケア能力”を評価できる指標であることが支持された.
SCAKOSの測定指標としての妥当性は,横断的データによる基準関連妥当性の確認のみに止まっており,予測的妥当性や判別的妥当性が不明なことが本研究の限界点としてあげられる.セルフケア能力は疾病や健康状態の影響を受けることが指摘されており,今後は,膝OAの機能障害や症状などの特徴を適切に反映できるか,病状や治療経過,介入の影響を受けて変化するセルフケア能力を縦断的に捉えられるか,など,更なる妥当性の検討が課題である.また,本研究では,通院治療中の一次性膝OA患者を対象としており,入院患者や二次性膝OA患者において,同じ因子構造が成り立つかについては確認をしていない.交差妥当性の確認や臨床での有用性に関してさらに検討を重ねる必要があると考える.
本研究に快くご承諾いただきました皆様,ご多忙中ご協力くださいました病院スタッフの皆様,論文作成指導に携わってくださった全ての皆様に心からお礼申し上げます.なお,本研究は,平成21~23年度科学研究費補助金若手研究(B)の助成を受けて実施した研究の一部であり,第39回日本看護研究学会学術集会で発表した内容を大幅に加筆・修正したものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:CT, MM, HHは研究の着想およびデザインに貢献;CT, HHはデータ収集に貢献;CT, MMは統計解析の実施および草稿の作成;MM, HHは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.