Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Reports
Study on Effectiveness of Healing Touch for Fatigued Nurses after Work
Yumiko Yoshie Tatsuko Kobayashi
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2014 Volume 34 Issue 1 Pages 255-262

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Abstract

目的:就労後看護師の疲労感軽減に,ヒーリングタッチが有効であるか検討する.

方法:研究デザインは無作為化比較試験(RCT)である.調査対象は,東京都内のA病院に勤務する,日勤勤務終了直後の常勤看護師76名である.調査方法は,対象者を無作為にヒーリングタッチ群または対照群に分け,両群とも20分間の介入をした.測定項目は,主観的評価として,疲労感(VAS)と疲労にまつわる気分(POMS)を介入前後に測定した.客観的評価として,指尖脈波による自律神経活動(心拍数,HF,LF/HF)を介入前・中・後において測定した.

結果:1. VASの変化量は,ヒーリングタッチ群の疲労感が有意に軽減した(p<0.01).2. POMSの変化量は,総合的な気分状態を表すTMD得点が,ヒーリングタッチ群は有意に改善していた(p<0.05).3. 自律神経活動では,ヒーリングタッチ群において介入中にHFが有意に上昇し,副交感神経活動が亢進していた(p<0.05).心拍数,LF/HFは変化が見られなかった.

結論:就労後の看護師がヒーリングタッチにより,疲労感が軽減されることが示唆された.

Ⅰ.緒言

ヒーリングタッチは,補完・代替療法の中にあるエネルギー療法の一つであり,看護技術としてアメリカを中心に定着している(橋本,2004).アメリカにおけるエネルギー療法の技術は学士課程教育の必須技術である(American Association of College of Nursing, 2008).また,全米看護師継続教育のプログラムの一環としてヒーリングタッチの教育が行われており,フロリダ州のSt. Joseph’s Hospitalなどの多くの臨床現場で実践されている.

ヒーリングタッチの技術の礎として,Rogers(1979)が「人間はエネルギーの場(エネルギーフィールド)であり,統合されているもので,開放系として環境と相互作用しながら変化するユニタリヒューマンビーイングズすなわち統一体である」と著述している.ヒーリングタッチはこのエネルギーフィールドを手でアセスメントして介入を行う技術である.

過去のヒーリングタッチの先行研究の対象者は,がん患者,化学療法・放射線療法中のがん患者,慢性疼痛・急性疼痛患者,入院中の小児患者,高齢者,精神科入院患者,ターミナル期患者,自然災害・戦争によるPTSDを起こした患者などである.このような対象者に対して,疼痛,疲労感・倦怠感,不安やストレス,嘔気・嘔吐の軽減,創傷治癒促進,リラクセーションの効果があげられている(Snyder et al., 2006).これらの研究報告はアメリカを中心に1970年代より行われており,エビデンスが確立しつつある.ヒーリングタッチは緩和ケア技術として実践されているが,看護師の疲労感を和らげる効果があるのかどうかについて検討はされていない.そこで研究者は,看護師の疲労感が重要性の高い問題となっていることから,就労後看護師の疲労感に対してのヒーリングタッチの効果を調べることにした.

看護師の就労は,他の職種に比べ疲労感があると指摘されている(原谷,1998).今日,高齢化社会,高度管理社会の到来,急速な技術革新の進展等,現代社会の変化により,看護業務自体の内容や量が増大して,より質の高い看護が求められるようになった.このような社会背景は,医療職場における看護師の心身の健康確保に多大な影響を与えている(浅沼ら,2004).日本看護協会の調査によると,看護師に疲労感があり,医療事故の不安と疲労感との相関関係が認められ(日本看護協会,2010),医療事故の原因に疲労感がある(天野ら,2009).また,看護師自身のヘルスプロモーションも看護ケアを遂行する上で重要なことであり,まず看護師自身が癒されている存在になることの必要性が全米ホリスティック看護協会の実践ハンドブックでも著述されている(Dossey et al., 2005).このことからも,病的ではないが,心身の健康確保に影響を与えている看護スタッフの疲労感を軽減することは重要である.

以上のことから今回の研究で,就労後看護師の疲労感がヒーリングタッチによって軽減するかについて調査した.

Ⅱ.研究目的

就労後看護師の疲労感の軽減に,ヒーリングタッチは有効かについて検討する.

Ⅲ.用語の定義

1.ヒーリングタッチ

ヒーリングタッチは,施術者のみが行うものであり,対象者が特に何かする必要はない.NIC(看護介入分類)においてヒーリングタッチは,「治療的タッチング」として,相手のエネルギーフィールドを調整するために手を用いること,と定義されている(Bulechek et al., 2009).ヒーリングタッチの手順は,①内的自己に意識を「集中」する(centering).その結果,両手から発せられる極めて低い周波数の振動が増幅する.これは,エネルギーが集中している状態でもある(Dossey et al., 2005).②対象者に「最善のことが起こるように」と思いをはせる(attune).③手のひらでエネルギーフィールドをアセスメントする(assessment).④手のひらから得た情報をもとに介入を行うことで,エネルギーフィールドがバランスのとれたエネルギーの流れを促進させるのである.

2.プラセボヒーリングタッチ

Quinn(1989)が対照群として設けた手法である,精神集中のセンタリング(centering)を乱すために,100から7ずつ引いた計算を頭の中でするシリアルセブンズ法を行う介入方法のことである.センタリングを乱すことで動作が同じであっても,エネルギーフィールドはアセスメントしない.

Ⅳ.概念枠組み

Rogers(1979)は,人間にはエネルギーフィールドがあると述べている.このエネルギーフィールドは,疼痛,不安,年齢に相応した発達上の困難などの関連因子によって影響されることで,エネルギーの流れの緩慢化や阻止が起こり,エネルギーフィールドの混乱が起こる(Herdman, 2012).看護師の就労は,過重労働となるとエネルギーフィールドの混乱にある関連因子を持ちやすく,エネルギーフィールドの混乱が起こる可能性がある.ヒーリングタッチはこの混乱したエネルギーフィールドを手のひらに察知する.さらに手を用い整えていくと,エネルギーフィールドが調和されリラックス状態となり,結果疲労感が軽減するのである.ヒーリングタッチの一連の手技に効果があれば,疲労感は緩和されるため,今回はエネルギーフィールドをアセスメントしない対照群と比較した.

Ⅴ.研究方法

1.研究デザイン

本研究は,無作為化比較試験(RCT)を実施した.

2.調査対象および調査方法

1)調査対象

本研究は,東京都内のA病院に勤務する日勤勤務終了直後の,研究の同意が得られた常勤看護師を調査対象者とした.除外条件は,高血圧症,心疾患,糖尿病,精神疾患による内服治療中の者とした.

2)調査期間

2012年7月~8月,調査時間は日勤勤務直後の午後4時~6時に行った.

3)介入方法

就労後看護師の疲労感は休養することで改善するが(市江ら,2008),今回の研究は両群ともに対象者が臥位で安静になるだけではなく,施術者が対象者の体に手を触れたりかざしたりを行い,対象者がヒーリングタッチまたはプラセボヒーリングタッチをブラインドで受けることで,両群の変化を比較する介入方法とした.

①ヒーリングタッチ群

ヒーリングタッチの施術者は研究者ではない第3者が行った.施術者の教育背景は,全米ホリスティック看護協会が推奨した講習で,レベル3以上のプログラムを修了し,3年以上実践経験がある40~50歳代の女性3名とした.

②対照群

対照群は,プラセボヒーリングタッチ(Quinn, 1989; Aghabati et al., 2010)を行った.ヒーリングタッチは,存在すること(presence)がエネルギーフィールドに影響を持つとされている(Dossey et al., 2005).そのため施術者はヒーリングタッチ群とは異なる者が行った.またケアリングの実践方法としてエネルギー療法があることからも,ケアリングの要素が入らないようにするため,エネルギー療法について知識のない,医療や介護関係者ではない40~50歳代の一般成人女性3名が行った.施術者は予め研修を行い,シリアルセブンズ法を用いてヒーリングタッチと同じ動作を習得するまで練習をした.さらに,介入時の挨拶などの言葉もヒーリングタッチ群と同一になるようにし,ヒーリングタッチ群と一致しているか研究者および第3者も交え事前に確認した.

4)調査プロトコルとデータ収集方法

参加者への教示は,研究目的を説明し手技はアメリカで看護技術として定着しているヒーリングタッチを用いることを説明した.ヒーリングタッチ群または,動作は同一だが,内容はプラセボのヒーリングタッチを行う対照群のいずれかとなりうること,調査後にどちらの群であったか告げ,ヒーリングタッチを改めて受けることができること等を説明した.

データ収集方法の手順は以下の通りで行った.

  • (1)‌A病院の院内回覧,病棟ミーティング等で説明を行い,参加者を募った.
  • (2)‌予め設定した日にインフォームドコンセントを行った.
  • (3)‌受付順に,診察室1(ヒーリングタッチ群),診察室2(対照群)に交互に入室を依頼した.また実施日ごとや実施の区切りに場所を交替した.
  • (4)‌介入前の質問紙記入後にベッドに臥床することを依頼した.
  • (5)‌ヒーリングタッチ介入前中後の以下の全過程で指尖脈波を測定した.

    • ①介入前3分間安静保持(介入前指尖脈波).
    • ②ヒーリングタッチ(ヒーリングタッチ群)またはプラセボヒーリングタッチ(対照群)の20分間介入(介入中指尖脈波).
    • ③介入後3分間安静保持(介入後指尖脈波).

  • (6)‌指尖脈波測定中(計26分間)は閉眼し,臥床安静を依頼した.
  • (7)介入後の質問紙記入を依頼し,調査を終了した.

5)調査項目と測定用具

調査項目は,日本疲労学会の抗疲労臨床評価ガイドライン(渡辺ら,2012)に基づき,ヒーリングタッチや他のエネルギー療法の先行研究でも用いられている(Post-White et al., 2003; Aghabati et al., 2010笠原ら,2006)後述の調査項目とした.

(1)主観的評価

①VAS(Visual Analogue Scale)

自覚的な疲労感の尺度として用いた.VAS検査の方法は100 mmの線分とし,日本疲労学会推奨の検査用紙を質問紙として使用した.左端を「これまで体験したことのない,疲れを全く感じない最良の感覚」,右端を「これまで経験したことのないような,何もできないほど疲れきった最悪の感覚」とし,今の状態を線上にチェックした.VASの値は左端より長さを測り,数値が大きくなるほど疲労感が大きくなる.

②POMS(Profile of Mood States)短縮版

疲労にまつわる気分の状態を測定した.今の気分状態を6つの気分尺度の「緊張–不安」「抑うつ–落込み」「怒り–敵意」「疲労」「混乱」「活気」に分けて評価する得点と,総合的な気分状態の評価とするTMD得点(Total Mood Disturbance)がある.項目数は30項目あり,5件法(0~5点)で記入する.質問紙はここ一週間の気分状態を質問するものであるが,今回は今現在の状態として質問した.「活気」以外の6つの下位尺度とTMDの得点は低くなるほど,気分が改善していることを示している.

なお,VASとPOMSの質問紙は介入前後に記入した.また介入後に記載する際は,介入前のデータと比較しないよう用紙は新しいものを用意した.

(2)客観的評価

①指尖脈波

心拍変動解析は高周波成分のHFが呼吸変動に関連しており,副交感神経活動を反映している.低周波成分のLFに含まれる副交感神経成分を除外する目的で比にしたLF/HFは,交感神経活動を反映している(早野,1998安藤ら,1990).このことから,副交感神経活動をHFで交感神経活動をLF/HFとして分析した.自律神経活動は刺激に対し瞬時に変動することから,介入前から介入後まで測定し分析を行う(千葉ら,2011).今回はBACS Advance:株式会社CCI社製を使用し,信頼性と妥当性は先行研究において評価されている(Giardino et al., 2002).

6)データ分析方法

統計処理はSPSS(Ver. 20.0)を用い,主観的評価のVAS,POMSはそれぞれの群の平均値と変化量(介入後–介入前),客観的評価のHF,LF/HFの,正規性を確認したのち,t検定またはMann–Whitneyを用いた.有意水準は両側検定でp<0.05とした.

7)倫理的配慮

対象者の負担や勤務への影響がないよう,事前に希望日時の予約を依頼した.また,対象者に研究の主旨,調査の自由参加,中断が可能であること,個人情報の保護などについて文書と口頭で説明後に,同意書をもって同意を得た.なお,本研究は,山梨県立大学研究倫理審査委員会(承認番号1-3)およびA病院の研究倫理審査委員会(承認番号12-02)からの承認を受け実施した.

Ⅵ.結果

1.対象者およびその属性

対象者の研究参加は80名の応募があった.そのうち3名が降圧剤内服治療中であり,1名が向精神薬内服治療中であったことから,合計4名を除外対象者とした.その結果分析対象者は76名となり,調査協力の同意が得られた.対象者を受付順に割り付けを行い,ヒーリングタッチ群は38名,対照群も38名となった.また途中での辞退者はいなかった.

対象者の属性は表1に示した.全対象者の平均年齢は44.2歳(SD9.0)であった.性別は男性が5名(5.6%),女性が85名(94.4%)だった.看護師歴は15.9年(SD8.5)であった.就労直後の看護師の全対象者の疲労感は,60.4 mm(SD13.6)であり,倉恒ら(2011)の先行研究で慢性疲労患者を疲労感の程度別に3段階で分類した中の,中等症群(38 mm≦VAS>68 mm)閾値内に相当していた.各項目において両群間に有意差はなかった.

表1 対象者の属性

2.疲労感

1)VAS変化量の比較(表2

VASヒーリングタッチ群が介入前61.1 mm(SD13.4)から介入後32.9 mm(SD17.1)に,対照群が介入前57.4 mm(SD14.2)から介入後44.6 mm(SD15.2)と減少し,その変化量はヒーリングタッチ群が−28.1 mm(SD17.5),対照群−12.7 mm(SD12.3)と共に軽減していた.ヒーリングタッチ群と対照群を比較すると有意差が見られた(p<0.01).

表2 VAS変化量の比較

3.気分状態

1)POMS変化量の比較(表3

ヒーリングタッチ群と対照群の群間における,総合的な気分状態を表すTMD得点の比較において,ヒーリングタッチ群−15.0(IQR14.0)が対照群−11.0(IQR14.0)に対し,総合的な気分の改善に有意差が見られた(p<0.05).その他の6つの下位尺度においては有意差が認められなかった.

表3 POMS変化量の比較(介入後値−前値)

4.自律神経活動状態

1)心拍数変化量の比較(表4

介入前と介入中の心拍変化量は,ヒーリングタッチ群−1.4回/分(IQR4.3)と対照群−1.2回/分(IQR3.3)の比較において,両群間に有意差を認めなかった(p=0.85).

表4 心拍数およびHF,LF/HFの変化量の比較

介入前と介入後の心拍変化量の比較においても,ヒーリングタッチ群−1.3回/分(IQR3.8)と対照群−1.9回/分(IQR3.2)であり,両群間に有意差を認めなかった(p=0.17).

2)HF・LF/HF変化量の比較

介入前と介入中のHF,LF/HF変化量の比較においては,HFがヒーリングタッチ群84.1(IQR130.1),対照群23.7(IQR135.0)であり,ヒーリングタッチ群は対照群に対し有意にHFが上昇しており,副交感神経活動はヒーリングタッチ群が有意に亢進していた(p<0.05).LF/HFはヒーリングタッチ群0.1(IQR1.7),対照群0.0(IQR1.8)で有意差が認められなかった(p=0.48).

Ⅶ.考察

1.VASで測定した疲労感の軽減について

今回VASで疲労感を測定した結果,両群ともに介入前から介入後に疲労感が減少し,その変化量はヒーリングタッチ群が−28.1 mm(SD17.5),対照群−12.7 mm(SD12.3)で,ヒーリングタッチを介入した群の疲労感が有意に軽減されたことが明らかになった.Danhauer et al.(2008)は急性白血病患者の疲労感に対して,ヒーリングタッチの介入により疲労感が有意に軽減したと報告している.この研究結果は,本研究の就労後看護師の疲労感を軽減したことと一致していた.

また,倉恒ら(2011)のVASを用いた,慢性疲労患者と健常者の早朝時における疲労感測定の研究では,健常者の疲労状況の平均は21 mm(SD8)であり,慢性疲労患者の疲労感を程度別に,軽快群15.6%(VAS<38 mm),中等症群35.5%(38 mm≦VAS>68 mm),重症群48.9%(VAS>68 mm)の3群に分けていた.この先行研究と比較すると,本研究結果の介入前のVAS値は慢性疲労患者の中等症群閾値内にあったが,ヒーリングタッチ群のVASの値は61.1 mm(SD13.4)から32.9 mm(SD17.1)に軽減した.ヒーリングタッチ群の介入後の値は健常者の早朝の状態には届かなかったが,慢性疲労患者の軽快群の閾値と同程度となっていた.それに対し,対照群の値は57.4 mm(SD14.2)から44.6 mm(SD15.2)に軽減していたが,対照群の介入後の値は慢性疲労患者の中等症群の閾値内にあり,疲労感が依然として残っている状態であると言える.

2.POMSで測定した疲労にまつわる気分状態の改善効果について

ヒーリングタッチを介入した時の疲労にまつわる気分の状態は,POMSの下位項目の改善に有意差がなかったが,総合的な気分状態を示すTMDにおいて,有意に改善が見られた.化学療法中のがん患者にヒーリングタッチを介入したPost-White et al.(2003)の研究においても,TMDの総合的な気分が改善しており,本研究の結果と一致していた.疲労にまつわる気分状態が対照群と差がないことは,対照群も安静臥床し,第3者が手を触れたりかざしたりすることで気分に改善が見られていると考えられる.しかし,下位項目でヒーリングタッチ群がわずかに改善していることから,活気の項目以外の下位項目の合算であるTMDで気分に改善があったと考えられる.

3.指尖脈波測定による自律神経活動の影響について

ヒーリングタッチ介入中のHFは有意に高まり,副交感神経活動が亢進したことを示していた.しかし,ヒーリングタッチが終了した時点では介入前のHFの状態に戻っていた.このことは,ヒーリングタッチによるエネルギーは持続してはいないがヒーリングタッチ介入中のエネルギーは自律神経に作用すると思われる.倉恒ら(2011)は,指尖脈波で自律神経活動を計測した結果,疲労感が増悪すると副交感神経活動が抑制し,相対的に交感神経活動が亢進したと報告している.就労後看護師が疲労を解消しないまま過ごすことは,副交感神経活動を抑制し,交感神経活動の亢進がある状態と推測できる.持続する疲労をヒーリングタッチの介入により一時的にではあっても,副交感神経活動が亢進し,疲労感が軽減することができたと考えられる.

また交感神経の動きを示すLF/HFは,今回の研究結果では,介入中,介入後において変化がなかった.井草ら(2008)の,健康成人に対する足部へのマッサージ介入の研究において,HFが有意に上昇し,LF/HFは有意差がなく,副交感神経活動が亢進しリラックス状態となったと述べている.このことは,本研究と一致しており,ヒーリングタッチの介入は副交感神経活動より交感神経活動は変化しにくいと考えられる.

心拍数は,本研究では両群間で差がなかった.笠原ら(2006)Engle & Graney(2000)の健康な学生にヒーリングタッチを介入した研究においても心拍数に有意な差は見られなかった.また文献検索した限りでは,ヒーリングタッチの介入研究結果に心拍数の変化は見られていないことから,ヒーリングタッチの介入は心拍数への影響を与えにくいのではないかと考えられる.

4.総合的考察

今回の研究で就労後の看護師の疲労感は,ヒーリングタッチによりVASでの疲労感の軽減や,POMSでの疲労にまつわる気分でわずかに改善し,自律神経活動において副交感神経活動を一時的に亢進させていた.ヒーリングタッチは,手でエネルギーフィールドをアセスメントして介入することで,結果就労後看護師のエネルギーフィールドを整え,リラックス状態となったと考えられる.

Rogers(1979)は「人間は部分の総和ではなく,それ以上の存在で環境の場に統合されたエネルギーの場(エネルギーフィールド)である」と述べている.ところが,エネルギーフィールドは科学的に証明されておらず,NANDAで定義されている「エネルギーフィールドの破綻」について(Herdman, 2012),「手から患者にエネルギーが注がれるということが信じられない」という意見もある(中木,2006).しかし,本研究の結果において主観的な効果と生理的な効果が証明されたことは,エネルギーフィールドを手で調整するヒーリングタッチの技術の効果を示しており,対象者のエネルギーフィールドに対し手を用いて良い影響を与えられることを一部実証したと考察される.

本研究の結果より就労直後に安静にすることでも疲労感が軽減していたが,ヒーリングタッチを介入することでさらに軽減することが示唆されることからも,就労直後にヒーリングタッチを受けられる環境が整うことは,看護師のヘルスプロモーションに役立つのではないかと考えられる.

Ⅷ.結語

76名の就労後看護師を対象に,ヒーリングタッチ介入群と対照群の2群で疲労感の軽減に効果があるかを検討した結果,以下のことが明らかになった.

  • 1.主観的評価指標のVASでは,ヒーリングタッチ群が対照群に対し有意に疲労感を軽減していた.
  • 2.疲労にまつわる気分についてPOMSのTMD値が対照群に対し有意に高く,ヒーリングタッチ群は気分状態をわずかに改善した.
  • 3.指尖脈波による自律神経活動では,ヒーリングタッチ群は介入中にHFが有意に上昇し,副交感神経活動の亢進が見られた.介入後は介入前と有意な変化が認められず,ヒーリングタッチ介入中は副交感神経を亢進するが,そのエネルギーが持続しなかった.心拍数は,両群間に有意差は認められなかった.

以上のことから,ヒーリングタッチは就労後看護師の疲労感の軽減に有効な一手法であると示唆される.

Ⅸ.本研究の限界と今後の課題

本研究の疲労に対するヒーリングタッチ介入の成果は,一施設での就労後看護師が対象であるためこの点は研究の限界である.また日内変動を考え日勤後の就労看護師を対象としたが,対象者数を増やし日勤や夜勤,勤務時間,勤務時間帯,連続勤務日数など,勤務の状況で分けて分析することは今後の課題である.今回はヒーリングタッチ1回の介入前・中・後の測定であったが,介入時間や回数,間隔についてヒーリングタッチの効果の有効性を検証していくことは課題である.さらに疾患からの苦痛や疼痛,不快感,気分などの緩和のためのヒーリングタッチによる効果についても今後検討をしていきたい.

Acknowledgment

本研究にご協力いただきました皆様に,深くお礼を申し上げます.

なお,本研究は修士論文の一部を加筆修正したものである.また,第33回日本看護科学学会学術総会にて一部を発表した.

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