Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Life Process Developed by Siblings of Individuals with Autistic Spectrum Disorders
Azusa Kawakami
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2014 Volume 34 Issue 1 Pages 301-310

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Abstract

目的:自閉症スペクトラム障害のある児とともに生活するきょうだいが,生活を構築する過程と様相を明らかにすることを目的とする.

方法:研究方法には,Grounded Theory Approachに基づく継続比較分析法を用いた.

結果:対象者は,12歳から22歳までのきょうだい10名であった.きょうだいが生活を構築する過程には,『まもるための他者への働きかけ』『同胞の世界との距離を保った付き合い』『自身の存在に対するゆらぎ』『親を気遣う』『同胞を切り離せない将来の生活への思考』という概念が存在し,《まもり》という概念を抽出した.

考察:きょうだいは,周囲の人々に対し『まもるための他者への働きかけ』を行いながら,家庭では『同胞の世界との距離を保った付き合い』と『親を気遣う』状況を継続させ,その間に『自身の存在に対するゆらぎ』によって発達し,『同胞を切り離せない将来の生活への思考』を進めるという,生活と存在の《まもり》によって生活を構築していく.

Ⅰ.はじめに

障害のある子ども(以後「同胞」と記す)とともに生活する兄弟・姉妹(以後,「きょうだい」と記す)は,相互に影響を受けながら成長・発達する.そのためきょうだいは,特有な体験やニーズをもっていると考えられる.なかでも,自閉症スペクトラム障害は,社会的な関係性の障害,コミュニケーションの障害,限定されたあるいは情動的な思考・行動様式を特徴とし,症状の強さに従って,いくつかの診断名に分類されるが,その症状は生涯にわたる.脳機能異常に基づく感情や表情の認知,感覚や情報処理の障害がある(門田・山形,2010)とされるが,障害の確定診断をされる時期が遅く,その間保護者が対応に苦慮しきょうだいがその混乱に巻き込まれる場合がある.また,きょうだいには,同胞の興味や感情を共有することが困難なうえに,同胞から予測できないような反応が返ってくるというような苦悩や困難がある(柳澤,2005)とされる.このようにきょうだいの生活は,同胞に大きく影響を受けていると考えられることから,研究や支援が急務であると考える.しかし,これまでの研究の多くは,養育者としての母親を対象としたものが中心であり,きょうだいの生活に関する研究は少ない.

障害のある同胞をもつきょうだいに関する国内外の研究は,1980年代からみられるようになった.障害児・者がきょうだいに与える影響や,きょうだいの障害受容に関する研究,支援に関する研究などがあり,きょうだいが受ける影響を明らかにするものが中心となっている.自閉症のある同胞のきょうだいについては,影響が直接きょうだいへ及ぶ(柳澤,2005)とされているが,きょうだいの意識や行動に影響を与えるのは,障害の種類ではなくむしろ生活の実際の差異からもたらされる(Lobato, 1983)という報告もあり,統一した見解には至っていない.また,生活については,母親の視点から日常世界や生活を明らかにしようとしたものがあり,知的・自閉的障害のある子どもの母親の生活困難が,子ども,家族,専門職,地域,情報などとの関係により規定されることを明らかにしている(朝倉,2007)が,きょうだいの生活について,また生活困難の詳細については触れられていない.

先行研究(川上,2009)において,自閉症スペクトラム障害のある児のきょうだいは,同胞に関連する役割をもち,親とは異なる方法で同胞と関わり,きょうだいの関係を築いていた.その過程で,親や友達との関係のなかで傷つき,自己の存在価値に対して戸惑いを抱く体験もしていた.このことから,きょうだい支援のためにはきょうだいの生活や,体験の詳細を明らかにすることが必要であると考えた.

Ⅱ.研究目的

きょうだいの日々の営みは,同胞に自閉症スペクトラム障害があることで,大きく影響を受けると考えられる.このことから,同胞とともに家族として生活し,関係を築き役割を取得しながら発達するきょうだいの,生活を構築していく過程やその様相を明らかにすることを目的とする.

Ⅲ.用語の定義

本稿では「きょうだい」を,同胞とともに家族成員として同一の家庭で過ごし,親,兄弟,姉妹の相互作用のなかで関係を築き,変化させ,役割を取得しながら発達する存在であるとする.さらに,きょうだいを,家族成員としての営みを体験している存在ととらえ,この過程で行う営みをきょうだいの「生活」とする.そして,きょうだいと同胞の生活は,築いていく過程であるととらえ,生活構築と表現する.すなわち,きょうだいの「生活構築」とは,きょうだいが家族成員として,同胞や家族との日々の営みのなかで,自分の置かれている状況に自ら関与し関係を築き,変化させ,役割を取得しながら活動していく過程である.

Ⅳ.研究方法

1.研究デザイン

研究対象とするきょうだいは,発達途上にあっても,一人の個人として,取り巻く環境の影響を受けながら主体的な存在として生活している.本研究では,きょうだい自身,同胞や環境との相互作用,そこで知覚したことや行動の意味を明らかにする必要がある.そのために,人々の相互作用の過程に焦点を当て,心理・社会的現象に共通した現象を説明するグラウンデッド・セオリーの研究方法を用いた.

2.研究協力者

本研究においては,自閉症スペクトラム障害のある同胞の固有の状況を明らかにするため,同胞は身体障害をもたないこととし,きょうだいについては以下を考慮した.

①自閉症スペクトラム障害のある児(同胞)とともに家庭で生活しているきょうだい.②きょうだいに基礎疾患がなく,言語的コミュニケーションが可能である者.③きょうだいの発達段階は,生活上の体験やその過程,思いが十分に表現できる可能性がある学童期後期から青年期とする.なお,この青年期については心理・社会的な適応過程の時期であることを重要視(服部,2000)し,22歳頃までとする.④きょうだいの性別が男で,きょうだいが同胞より年下である場合に問題を抱えやすい(槇野・大嶋,2003)とされていることから,きょうだいの性別,同胞との順位については,偏らないよう留意する.

3.データ収集

1)協力者の選定は,障害児に関する事業で知り合った保護者に対し研究の目的,意義などについて説明,協力を依頼し了解を得た後,研究者より改めてきょうだいに研究の目的や意義,方法を説明し,了解を得た.

2)データ収集は,面接ガイドを基に,個別の半構造化面接調査とした.面接ガイドは,「母親がとらえた障害のある同胞をもつきょうだいの体験」(川上,2009)を基に,きょうだいが体験した出来事や生活における困難な状況を把握し,以下の内容とした.①基礎データ:家族構成,心身の不調の体験の有無や程度.②質問項目としては,きょうだい関係,家族,役割などについてであり,印象に残っている同胞との出来事を中心に聴き,その内容を発展させ,きょうだいがとった行動,気持ち(感情),思ったこと(考え方)を聴いた.

4.分析のプロセス

まず,データを繰り返し読み,全体を把握し,データを意味のまとまりごとに切片化によってコード化し,その内容を適切に表現するラベル名をつけた.

次に,ラベルの類似性に注目しながらオープン・コード化し,カテゴリーを識別しそれらの特性と次元を発見した.カテゴリーを説明する具体的なカテゴリーをサブカテゴリーとした.そして,カテゴリーとカテゴリーを関係づけ,構造とプロセスを把握して現象をとらえ概念とした.各カテゴリーが示している特性を確認し,データの収集と分析を繰り返した.きょうだいの性別や順位,同胞の障害の特性が偏らないように考慮し,5事例を分析した時点で,重要な概念を把握した.その後,事例を追加し,きょうだいの数等を考慮した理論的サンプリングを行い,カテゴリーが示している概念を確認した.

妥当性の確保,整合性の確認のために,概念がほぼ抽出できたと判断した時点で,自閉症スペクトラム障害のある同胞をもつ成人期の女性2名に,概念の内容を一覧にした資料を示し,概念の内容や関係性について説明を行った.その際質問には具体的に返答し,分析内容に納得との評価を得た.この協力者については,自閉症スペクトラム障害の同胞をもち,現在,障害者やその家族の支援活動を行っており,多数の事例を把握していることから,学童期から青年期におけるきょうだいの状況を客観的に評価できる能力があると判断し選定した.分析は,偏りをなくすため全行程において質的研究者のスーパーバイズを得て実施した.

5.倫理的配慮

研究への協力は,保護者の了解が得られた後,きょうだいに改めて研究の趣旨等を記載した文章を用いて文書と口頭で説明を行い,了解を得て同意書への署名を依頼した.きょうだいが15歳以下の場合には,同意能力の観点から,保護者にも連名で署名を得た.また,研究への協力はなんら強制するものではなく,協力を断っても不利益を被ることがないこと,話したくない内容は話さなくてもよいこと,個人情報の保護,公表について,文書および口頭で説明した.なお,本研究は,兵庫県立大学看護学部研究倫理委員会の承認(平成21年,博士4)を得て実施した.

Ⅴ.結果

1.協力者およびデータ収集

協力が得られたきょうだいは,表1に示す12歳から22歳の10名であった.

表1 きょうだいと同胞の属性

面接時間は,43~114分,平均69分であり,データ収集期間は平成21年12月から平成23年12月であった.

2.抽出された各概念

カテゴリーの生成と洗練を続け,10事例を分析し『まもるための他者への働きかけ』『同胞の世界との距離を保った付き合い』『自身の存在に対するゆらぎ』『親を気遣う』『同胞を切り離せない将来の生活への思考』の5つの概念を抽出した.これらの概念『 』を構成する,カテゴリー【 】,サブカテゴリー「 」を表2に示す.

表2 概念とカテゴリーおよびサブカテゴリー

『まもるための他者への働きかけ』は,きょうだいと同胞が社会生活を営むうえで欠かすことのできない,周囲の人々との関係とその関わりであり,きょうだいは,自身や同胞に関する納得できない対応に対して,その必要性が生じた時に働きかけを行う.その働きかけは,他者の同胞の障害に対する理解に影響を受け,きょうだいと同胞の生活範囲や関わる人によって方法が変化した.

『同胞の世界との距離を保った付き合い』は,きょうだいと同胞の日常生活における関係であり,幼少期より築かれ,つかず離れずの付き合いを継続する.

『自身の存在に対するゆらぎ』は,きょうだいが自己を確立していく過程における不安定な状態である.このゆらぎは,自己を確立する思春期の時期が中心となった.

『親を気遣う』は,きょうだいと同胞にとって大きな存在の親に対して思いやる状況であるが,きょうだいが親に対して距離をおく側面も認めた.

『同胞を切り離せない将来の生活への思考』は,きょうだいにとって切り離せない存在である同胞との将来の生活を思考するものである.

きょうだいは,家族の主要なメンバーとして,それまでに得た能力をもとに,自分の置かれている状況や出来事を評価,解釈し行為していた.この行為によって,同胞や親,周囲の人との関係を築き,自身の役割を遂行しながら生活を構築していた.

きょうだいが,生活を構築していくプロセスのストーリーラインを記す.なお,概念を『 』,カテゴリー【 】,サブカテゴリー「 」,○は同胞を示し,語られた内容の一部を( )とする.

自閉症スペクトラム障害のある児のきょうだいは,日々の同胞との関わりのなかで,(○は,なんか好きなことがほんとに大好きで,専門家なみに大好きで,でもそれ以外のことには全く興味がない.事例5)同胞が認知,感覚,空間の【固有の世界をもっている】ことをとらえ,【同胞がもっている世界の理解しづらさ】,【同胞の行為に対する葛藤】や(○は,きっとたぶん言いたいことを全部言えてないんで全然わからなくて.事例2)というような【思いがつながらない】ことを体験しながら過ごしている.その過程では,(無理に合わせない.事例2)などの【つかず離れずの付き合い】で,同胞との関係を築き,同胞を支援し,距離を保つことで同胞の固有の世界に巻き込まれることを防ぎ,自分をまもりながら生活する.また,きょうだいは共に生活する【大きな存在】の親が,(ずっと○に付きっきりで,○が寝たら,母も疲れて寝てしまう.事例3)【同胞の世話による親の疲弊】する姿を見ながら生活することとなり,「同胞の世話を手伝う」という方法や,自分のことで【親に負担をかけない】という方法で親をまもり,『親を気遣う』.さらに,生活していくうえでは他者との関わりが不可欠となるが,きょうだいと同胞が関わる他者のなかには,同胞への理解がない人もおり,きょうだいはそれらの人々からの(○を笑うんです.冷やかしの目と普通に面白くて笑ってるのと目がちがいます.事例7)というような【同胞が受ける納得できない対応】や,(○が先生とかに話を聞かれると,俺が呼ばれて説明させられる.事例7)等の【同胞に関連して自分に起こるやっかいな出来事】と判断した場合には,説明することによって理解を得ることで【自分のためのまもり】【同胞のためのまもり】の行為を行う.きょうだいは,このような行為を起こしながら生活し,発達していくが,自己を確立していく時期には,(○にとって父と母の存在はゆるぎないんですけど,私と犬はー,わからないですね.事例2)というような【同胞にとっての自分の存在のあいまいさ】や,(一度母が言ったことがあるんです.○をおいて先に死ねないって.事例9)というような【親と同胞の強い関係】の認識のなかで,(○と一緒に出かけたくないと思ってしまう.事例3)等の【他者の評価への苦悩】を体験しながら,『自身の存在に対するゆらぎ』が生じ不安定な状態になる.しかし,この体験により【大人に近づく】体験もし,自己を確立することによって自身をまもることとなる.さらに,同様の時期に【進路の選択】に迫られ,【自身の将来の生活への思考】をするが,その際には,【生活に支援が必要な同胞】の存在や【親の意向の把握】をし,同胞を切り離すことはできず,『同胞を切り離せない将来の生活への思考』をすることとなる.その思考は,具体的になることもあるが,決定できない状況となることもある.

3.中核となる概念

中核となる概念は分析力をもち,他の概念をまとめて説明全体を形作る能力がある.また,概念内にみられる多種多様なバリエーションが説明できなければならない(Strauss & Corbin, 1998)とされる.分析の過程において,各概念の特性を確認し,きょうだいが,同胞や親,周囲の他者との関係を築き,役割を遂行しながら生活を構築する過程において,中核となる概念を『まもるための他者への働きかけ』として,《まもり》を抽出した.「まもる」とは,見守る,保護する,守護する,大切なものとして扱う,尊守する,とされる(日本国語大辞典,2001).きょうだいが行う《まもり》は,『まもるための他者への働きかけ』『同胞の世界との距離を保った付き合い』で認められる同胞や自身のまもり,『親を気遣う』『同胞を切り離せない将来の生活への思考』で認められる,同胞や親を大きな存在,切り離すことができない存在として守る,大切にする,《まもり》である.また,このように複数の要素が含まれることから,平仮名で《まもり》と表現する.

Ⅵ.考察

本論文では,抽出した概念《まもり》を中心に考察する.

1.各概念に認められる《まもり》

『まもるための他者への働きかけ』は,同胞のコミュニケーションの質的な障害や活動と興味の範囲の著しい限局性(太田,2009)が他者の理解を得られず【同胞が受ける納得できない対応】や【同胞に関連して自分に起こるやっかいな出来事】となり,【同胞のためのまもり】【自分のためのまもり】として説明や謝罪等の行為となった.同胞の障害の理解が介在し,同胞を保護する,自分を保護する必要性を認知し起こした行為であると考えられ,この行為はそれらの出来事が起こった時に強化されるという状態の特性と,そのことを解消するという目的があった.この働きかけによって,自身と同胞の存在をまもっていた.

『同胞の世界との距離を保った付き合い』では,【同胞が固有の世界をもっている】との認識に基づき,興味関心の偏りがある同胞に【つかず離れずの付き合い】をすることで,同胞の日常生活を支援した.また,この付き合いには,きょうだいと同胞との間に心理的距離が存在することから,きょうだいは同胞の固有の世界に巻き込まれることを回避することとなり,自身をまもることにつながった.

『自身の存在に対するゆらぎ』は,【他者の評価への苦悩】や【親と同胞の強い関係】のなかで【同胞にとっての自分の存在のあいまいさ】を認識し,存在と価値観がゆらぐ不安定な状態であった.葛藤し,【自分のことで精一杯】になりながらも,ゆらぎを経て自己を確立することで人格の発達につながり,自身をまもっていた.

『親を気遣う』には,【同胞の世話による親の疲弊】を認識しながら【親の自分への思いの気付き】を自覚しているきょうだいにとって,【親を助けたい】【親に負担をかけたくない】という親に対するまもりの行為と状況を認めることができた.このことによって親の生活と存在,世話を受ける同胞の生活,さらに親を気遣うことにより自身の存在をまもった.

『同胞を切り離せない将来の生活への思考』は,きょうだいが【生活に支援が必要な同胞】と認識することによって,自身の将来を思考する場合に同胞の将来を切り離すことはできず【同胞を意識した将来の生活の想像】をしており,自身と同胞の将来の生活と存在へのまもりを認めた.

以上のことから,自閉症スペクトラム障害のある児のきょうだいが生活を構築していくプロセスにおいて,きょうだいは,生活と存在をまもっていると考える.

2.きょうだいの《まもり》

きょうだいは生活構築において,自身,同胞,親の,生活と存在をまもっているが,この《まもり》は,きょうだいが,出会う対象や状況によって変化させ,遂行していく行動様式であると考えられ,同胞へ関わる親の行為や【親の自分への思いの気付き】により,まもる行為やまもられている状況を学習することで得た行動様式ではないかと考える.

‘まもり’について谷(1990)は,広辞苑を基に,まもりとは人間の心と肉体に対する,安心感,安全性を確保する一切をふくんでいるとしている.家族関係や社会関係の立場や地位のなかで,主に心に関連し,安心感に通じるものが存在のまもりであり,肉体に関連し,安全性に通じるものが日々の営みによる生活のまもりであると考える.また,この生活は,生活習慣・社会的活動といった日々の営みの機能的側面と,意味の側面が関連し合っていると考えられ,生活の意味の側面とは,同胞と親,自身の認識や価値観に関連し,存在をまもることに通じているのではないかと考える.

きょうだいが,日々の営みを遂行することによる,自身および家族の安全性と,同胞と親,自身の存在に対する安心感を得ることによって,《まもり》につながっていると考える.

3.きょうだいの生活構築の構造

自閉症スペクトラム障害のある児のきょうだいが生活を構築する過程には,《まもり》という概念が存在した.図1に生活構築の構造を,中核概念である『まもるための他者への働きかけ』を中心に《まもり》の視点から,各概念との関連を示す.図の横軸は,きょうだいとして歩んできた時間としての時間軸とする.

図1 きょうだいの生活構築の構造

『まもるための他者への働きかけ』は,きょうだいと同胞の生活範囲や関わる人の拡大およびきょうだいの発達段階によって三期に大別された.この働きかけは周囲の人の障害の理解に影響を受けることから,今後社会生活を営むうえで,必要性は継続すると考えられる.

『同胞の世界との距離を保った付き合い』は,日常生活のなかで幼少期より築かれ,きょうだいと同胞の相互作用によって繰り返され,継続,進展していく.

『自身の存在に対するゆらぎ』は,きょうだいが自分自身との相互作用のなかで,自己を確立していく過程における不安定な状態であり,自己を確立する思春期の時期が中心となる.

『同胞を切り離せない将来の生活への思考』は,きょうだいが,思考することによって,将来の生活をまもることにつながる.この思考は,進路の決定時期から生じ,決定に至らないこともあり継続される.

『親を気遣う』は,同胞の世話を手伝い,親に負担をかけないことで親を助ける.親が大きな存在という認識,同胞の世話が継続されることで,この概念も継続する.

中核概念である『まもるための他者への働きかけ』と他の概念の関連については,きょうだいと同胞が社会生活を営むうえで,他者との関わりを避けることができない必然性により,きょうだいの生活も大きく影響を受ける.そして,その背景には,他者の同胞の障害の理解や評価が介在する.

同胞の障害の理解や評価がきょうだい自身の価値観や認識に影響することで,『自身の存在に対するゆらぎ』と関連した.また,きょうだいが,障害とされる固有の世界をもっている同胞を思いやるがゆえに他者の理解や評価によって働きかけることとなり,『同胞の世界との距離を保った付き合い』と関連した.さらに,きょうだいが,同胞と自身の将来の生活を想像する場合,将来においても他者の同胞の理解,評価を受けるうえで他者への働きかけは不可欠となり,『同胞を切り離せない将来の生活への思考』と関連した.また,きょうだいは,他者との関係のなかで,同胞への理解や評価が影響し起こった出来事について,親に負担となることは報告せず,『親を気遣う』ことと関連した.

きょうだいは,『まもるための他者への働きかけ』を行いながら,『同胞の世界との距離を保った付き合い』と『親を気遣う』状況を継続させ,その間に『自身の存在に対するゆらぎ』によって発達し,『同胞を切り離せない将来の生活への思考』を進めるという《まもり》によって生活を構築していく.

Ⅶ.看護への提言

本研究で抽出した概念には,それぞれに危惧される要素があり,バランスが保たれていることで《まもり》が維持できていると考えられる.具体的には『まもるための他者への働きかけ』は,他者の同胞に対する理解の状況に影響される.また,『自身の存在に対するゆらぎ』は,きょうだいがもっているゆらぎに対応できる能力に影響され,能力を超えた場合には危機に陥る.『親を気遣う』では,きょうだいの親に対する感情表出の抑制が懸念される.さらに『同胞を切り離せない将来の生活への思考』では,思考が解決につながらない場合の精神的苦痛であり,『同胞の世界との距離を保った付き合い』『親を気遣う』は,きょうだいの思いやりや関心に影響を受けることから,これらが過度になった場合には負担となる.きょうだいの生活状況を把握し,きょうだいが《まもる》ために働きかける行為の方法,距離の取り方,能力の程度,感情表出の様子,思考の状況を判断し,負荷を早期に見抜くこと,そのことを考慮した個別性のある負荷の緩和方法が生活構築への支援につながると考える.そのためには,同胞の受診に同行する保護者に対して,看護師が,きょうだいに関心をもち声をかけること,看護外来等できょうだいの相談や支援を行う場を設けることが必要であると考える.

Ⅷ.研究の限界と今後の課題

本研究は,支援が重要視されている発達障害のなかでも自閉症スペクトラム障害を特定した研究であり,きょうだいの生活構築の全てを対象とした研究ではない.また,協力者は,これまでの生活における困難を乗り越え研究に協力できる状況にある家族,きょうだいであること,同胞との年齢差,障害の程度による違いなどの詳細は明らかにできていない限界がある.きょうだいの生活は,今後も継続され発達段階によって課題は変化し,まもりにも変化が生じると考えられることから,その変化を明らかにすることも今後の課題としたい.

Ⅸ.結論

自閉症スペクトラム障害のある同胞をもつきょうだいの生活構築には,『まもるための他者への働きかけ』『同胞の世界との距離を保った付き合い』『自身の存在に対するゆらぎ』『親を気遣う』『同胞を切り離せない将来の生活への思考』という概念が存在した.きょうだいは,周囲の人々へ同胞を『まもるための他者への働きかけ』を行い,『同胞の世界との距離を保った付き合い』と『親を気遣う』状況を継続させながら,関係を築くとともに役割を遂行していく.またその間に『自身の存在に対するゆらぎ』によって発達し,『同胞を切り離せない将来の生活への思考』を進めるという,生活と存在の《まもり》によって生活を構築していく.

Acknowledgment

本研究にあたり,ご指導いただきました兵庫県立大学大学院看護学研究科片田範子教授,野並葉子教授,金外淑教授,関西福祉大学看護学部牛尾禮子教授に深謝致します.そして何よりご協力いただきましたきょうだい・保護者の皆様に感謝致します.本研究は2012年度兵庫県立大学大学院看護学研究科博士論文の一部に加筆・修正したものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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