2015 Volume 34 Issue 1 Pages 321-329
目的:小児がん治療中の患児に対する身体活動介入の効果を,メタ分析によって検討した.
方法:発行されているレビュー論文4編の内容検討,および2009年以降の文献検索の二段階で抽出した計823編のうち,採択基準をすべて満たした6編の文献をメタ分析の対象とした.解析方法は,各結果指標を概念化し,その概念の効果量(Hedges’ g)および95%信頼区間(CI)を算出した.
結果:小児がん患児に対する身体活動介入による各結果指標への影響は,QOL【g=0.17, 95%CI=−0.48 to 0.57】,がんに伴う倦怠感【g=0.25, 95%CI=−0.16 to 0.67】,ヘモグロビン値【g=0.11, 95%CI=−0.32 to 0.75】,睡眠【g=0.22, 95%CI=−0.32 to 0.47】,活動性【g=0.14, 95%CI=−0.95 to 1.23】,足関節可動域【g=0.47, 95%CI=−0.32 to 0.75】,体重【g=0.16, 95%CI=−0.76 to 1.07】およびBMI【g=−0.12, 95%CI=−1.04 to 0.80】であった.
結論:小児がん患児に対する身体活動介入の効果は,対照群と比較して大差がなかった.本研究の対象文献数が少なく,介入内容や結果指標のばらつきの大きいことが介入効果に影響した可能性があり,今後は小児がん患児における身体活動の研究を集積していくことが必要である.
小児がんは,わが国で年間2000~2500人しか発症しない希少な病気であるが,治療薬や治療方法の発展に伴い,治療成績が向上している.一方で,長期の入院治療を余儀なくされる小児がん患児は,治療前後の長期安静に伴う廃用や抗がん剤使用による副作用などが原因で,筋力の低下や微細運動・粗大運動の障害(高橋ら,2006;Azner et al., 2006; Winter et al., 2009; Kelly, 2011),および日常の活動性低下に伴う肥満が生じる(Rogers et al., 2005).寛解状態に至り退院した患児においては,体力・筋力の低下を退院後の生活上の困難と認識しており(武井ら,2013),小児がん治療に伴う体力・筋力の低下によって,入院中のみならず退院後における患児の日常生活に支障をきたし,生活の質(以下QOL)の低下を引き起こしている(San Juan et al., 2011).
体力・筋力の低下を予防するために,リハビリテーションを含む身体活動の果たす役割は大きく(Stolley et al., 2010; Götte et al., 2013),身体機能の維持・回復のみならず,患児の健やかな成長発達という点においても重要である.身体活動は,骨格筋の活動によって安静時よりエネルギー消費量の増大がもたらされるすべての営みを指し,体力の維持・増進を目的とした「運動」,および運動以外の姿勢の保持,歯磨き・着替えなどの身支度といった「生活活動」の2つから構成される(田中ら,2010).
がん患者における身体活動は,病状そのものに肯定的に影響を与える可能性はないが,治療の一部として,身体的(例えば,疲労,嘔気,体重の変化)および心理的(例えば,QOL)機能の両方を改善する可能性がある(Friendenreich & Courneya, 1996; Biddle & Mutrie, 1995/2005; Velthuis et al., 2010; Mishra et al., 2012; Dhillon et al., 2012; Tanir & Kuguoglu, 2013).がん患者における身体活動は,身体活動の中でも有酸素運動やレジスタンストレーニングなどの「運動」が,主にリハビリテーションとして取り入れられており(Spence et al., 2010),それらは小児がん患児においても例外ではない.小児がん患児の筋力・体力の低下を予防するためには,リハビリテーションの早期導入のみならず,彼らの入院生活における生活活動量を向上させる支援,すなわち身体活動量を向上させる支援がその一助となると考えられる.しかしながら,小児がん患児に対する身体活動の有効性に関する報告や,身体活動支援に関する報告が少ないことから,小児がん治療中の患児における身体活動介入の効果,および意義・役割が明確でない.
そこで本研究は,小児がん治療中の患児に対する身体活動介入の効果について,研究知見を統合するメタ分析によって検討することを目的とした.
本研究では,メタ分析の対象文献について,発行されている小児がん患児に対する身体活動に関するレビュー論文の内容検討,および2009年以降(過去5年間)の文献検索の二段階で抽出した.本研究において二段階の文献抽出法を選択した理由として,発行されているレビュー論文は,本研究と着眼点が異なるものの,小児がん患児および小児がん経験者を対象としており,ターゲットとする身体活動介入について有益な結果が示唆されていたためである.しかしながら今回参考にしたレビュー論文は,本研究において着目している小児がん治療中の患児のみを対象としている点,および運動ならびに生活活動を含めて身体活動として扱っている点が不足していた.そこで本研究では,1)身体活動介入のレビュー論文(Winter et al., 2010)と運動介入のみのレビュー論文(Huang & Ness, 2011; van Brussel et al., 2011; Braam et al., 2013)を統合させ,身体活動として扱う点,2)小児がん治療中の患児に対する身体活動介入について言及する点,および3)メタ分析によって小児がん患児に対する身体活動介入の効果を検討する点,という3点に着眼点を置き,本研究と発行されているレビュー論文の相違点として捉えた.
文献抽出の方法としては,まず,諸外国において,小児がん患児に対する身体活動(運動のみを含む)介入に関する4編のレビュー論文(Winter et al., 2010; Huang & Ness, 2011; van Brussel et al., 2011; Braam et al., 2013)の対象文献52編の中から,重複論文15編を除いた18編を吟味した.
続いて,2009年~2013年9月(過去5年間)に発行された文献を検索した.国外における文献収集は,PubMed, MEDLINE,およびCINAHL Plus with Full Textのデータベースを用い,‘children’ AND ‘cancer’ OR ‘oncology’ OR ‘leukemia’ OR ‘lymphoma’ OR ‘tumor’ AND ‘physical activity’ OR ‘exercise’ OR ‘daily activity’ OR ‘life activity’をキーワードとして検索を行った.国内文献の収集は,医学中央雑誌Web版およびCiNiiの検索データベースを用いた.キーワードは,‘小児’AND‘がん’OR‘腫瘍’OR‘白血病’OR‘神経芽腫’AND‘身体活動’OR‘運動’OR‘生活活動’であった.国内外合わせた検索結果771編のうち,論文題目と要旨を確認し,横断研究論文,レビュー論文,総説論文および重複論文340編を除いた19編を吟味した.
文献は,小児看護学を専門とする3名の研究者がレビューし,次の6点の基準を満たすものを採択した.それらは,1)18歳以下の小児を対象としている論文,2)小児がん治療を受けている患児を対象としている論文,3)身体活動に関する介入を実施している論文(ランダム化比較試験,準実験研究),4)効果量を計算するための情報が記載されている論文,5)本文が英語または日本語で記載されている論文,および6)会議録を除き学術雑誌に掲載されている論文,であった.除外基準は,身体活動介入の安全性について検証している場合とした.なお,本研究では,対象疾患の特性上,身体活動介入に関する研究数が少ないことから,メタ分析の対象文献をランダム化比較試験による研究のみならず,2群間で効果の比較を行っている準実験デザインの研究を含めることとした.また,身体活動介入の効果を評価する指標は,客観的指標として歩数・活動量や体重・BMIなどがあり,主観的指標としてQOLなどがあるが,これらの結果指標を採択基準に含めた場合,対象文献数が極めて少ないため,結果指標に関する制限を採択基準に含めなかった.
上記二段階における文献抽出の結果,本メタ分析の対象文献は,レビュー論文中の対象文献5編,および文献検索による1編の合計6編とした.
2.メタ分析の方法1)コーディングメタ分析の対象となる研究について,対象者数,群の各結果指標の平均をコーディングし,概念にまとめた.コーディングは,身体活動の効果を反映する結果指標(概念)を特定し,その概念に関わる特定の操作的定義を対象とした.コーディングの結果,身体活動による各結果指標に対する効果(結果指標としての概念)は,QOL,がんに伴う倦怠感,ヘモグロビン値,睡眠,身体活動(活動性),身体活動(足関節可動域),体重およびBMIの8項目を抽出して用いることとした.なお,Moyer-Mileur et al.(2009)の研究において評価されている体重およびBMIの結果指標は,Zスコアによる数値であったため,Chamorro-Vina et al.(2010)の研究の体重およびBMIのみをコーディングし,概念とした.さらに,複数の測定時期(介入前,介入終了直後,3ヵ月後フォローアップなど)で結果指標を評価している研究は,ほとんどすべての研究で報告されており,介入後の期間の違いも気にしなくてよいという理由から,介入直後の測定値を用いることが多い(山田ら,2012).そのため,介入直後における結果指標の測定値が記載されている研究を中心にコーディングした.
2)分析手続き本メタ分析は,山田ら(2012)に倣い検討した.効果量(effect size)の算出方法は,標準化された平均値差としてHedges’ gを用いて,各研究の結果指標ごとの効果量(g)を算出した.なお,概念として算出した効果量は,1概念につき下位尺度数が異なる等の場合,各下位尺度の効果量の平均値を求めることで,1研究について1つの効果量とした.例えば,ある研究①では,6項目の下位尺度から構成される小児用QOL尺度を用いて介入効果が報告されており,他方,ある研究②では2項目の下位尺度から構成される小児用QOL尺度を用いて介入効果が報告されている場合には,各下位尺度の効果量を算出し,それらの平均値をその概念の効果量として用いた.
以降の分析は,「研究ごとに真の効果量は異なり,ある値を中心に一定の幅を持ってばらつく」と仮定する,変量効果モデルによる計算方法により算出した.変量効果モデルを選択した理由として本モデルは,研究間分散を加味しているため,本研究のような均質性のない研究データの統合が可能となるためである.
まず各研究の結果指標(概念)の効果量(g)を算出後,研究内分散(Vd)および重みWiを算出した.各研究で求められた効果量の統合は,重み付きの平均効果量を求めた.効果量を統合するための重み付き平均効果量は,効果量の分散Vi*(研究内分散+研究間分散),効果量(g),および重みWi*により計算した.効果量の推定の精度は,95%信頼区間(confidential interval:以下CI)を算出した.母効果量のCIは,平均効果量の標準誤差を求めた後に,CIの下限および上限を算出した.
3)分析結果の解釈介入効果の大きさを示す効果量gの基準は,g=>.20(小さな効果量),g=>.50(中程度の効果量),およびg=>.80(大きな効果量)とした(大久保ら,2012).信頼区間(CI)とは,あらかじめ定められた確率,すなわち信頼水準(95%とする場合が多い)において,母集団の平均値差の値を含む区間であり(石井,2005),母平均がこの範囲に95%の確率で存在する区間を意味する(大久保ら,2012).CIの解釈として,それぞれのCIは母平均を含むか,含まないかの2値で表し,一般的に,標本サイズが増えるとCIは狭くなる(大久保ら,2012).
表1に小児がん治療中の患児に対する身体活動介入研究の概要を示す.対象患児のがん種は,全6編の文献において小児白血病が含まれていた.治療法は,記載がない文献1編を除き,化学療法4編,骨髄移植1編であった.身体活動介入を実施するにあたり,介入開始時の血液データの基準は,記載がない文献4編を除き,ヘモグロビン値8 g/dl以上および好中球数500/µl以上というLucia et al.(2005)の研究を参考に実施していた.身体活動介入を実施する時期は,骨髄移植前後や,化学療法後20週以上経過した時点など様々であった.
小児がん治療中の患児に対する身体活動介入の内容は,自転車エルゴメータによる運動5編,柔軟・ストレッチ3編,ウォーキング3編,ダンス2編,筋力強化2編,および階段昇降などであった.身体活動内容を「運動」および「生活活動」に分類した場合,「運動」に該当する項目が大半を占めており,「生活活動」に該当する項目は階段昇降のみであった.
小児がん患児に対する身体活動介入の効果を評価する指標は,多岐にわたっており,統一された結果指標を用いていなかった.具体的には,小児がんQOL尺度や関節可動域,血液データおよび粗大運動機能などの結果指標で評価を行っていた.
2.身体活動介入が結果指標に及ぼす効果小児がん患児に対する身体活動介入が,QOL,がんに伴う倦怠感,ヘモグロビン値,睡眠,身体活動(活動性),身体活動(足関節可動域),体重およびBMIの8項目の概念に及ぼす効果を表2に示す.身体活動介入の効果をQOLで評価していた研究は,2編であった.Tanir & Kuguoglu(2013)の研究では,身体活動介入群の方が小さな効果量(g=0.33; 95%CI=−0.37 to 1.03)であることを認めた.一方でMarchese et al.(2004)の研究では,効果量がg=−0.04であり,統制群の効果が大きいという結果を示した.2つの研究のQOLに対する効果を統合した結果では,重み付き平均効果量が0.17であった.
がんに伴う倦怠感に対する身体活動介入の効果は,2つの研究で評価されていた.Yeh et al.(2011)の研究では,小さな効果量(g=0.31; 95%CI=−0.52 to 1.14)が認められた.一方,Hinds et al.(2007)の研究では,g=0.06(95%CI=−0.79 to 0.91)であり,身体活動介入群の効果が認められなかった.2つの研究のがんに伴う倦怠感に対する効果を統合した結果では,重み付き平均効果量が0.25と中程度の効果量であることが認められた.
ヘモグロビン値に対する身体活動介入の効果は,Tanir & Kuguoglu(2013)の研究において中程度の効果量(g=0.52; 95%CI=−0.11 to 1.15)が認められ,Hinds et al.(2007)の研究において小さな効果量(g=0.41; 95%CI=−0.43 to 1.26)を認めた.しかしながら,Marchese et al.(2004)の研究では,統制群に効果が認められた(g=−0.74; 95%CI=−1.51 to 0.33).3つの研究のヘモグロビン値に対する効果量を統合した結果,重み付き平均効果量は0.11であった.
睡眠の指標で身体活動介入効果を評価していた研究は,Hinds et al.(2007)のみであったが,小さな効果量(g=0.22; 95%CI=−0.32 to 0.75)を認めた.身体活動(活動性)の指標で介入効果を評価していたMoyer-Mileur et al.(2009)では,効果が認められなかった(g=0.14; 95%CI=−0.95 to 1.23).身体活動(足関節可動域)の指標で介入効果を評価したMarchese et al.(2004)の研究は,小さな効果量(g=0.47; 95%CI=−0.32 to 0.75)を認めた.体重の指標(Chamorro-Vina et al., 2010)はg=0.16(95%CI=−0.76 to 1.07)であり,BMIの指標(Chamorro-Vina et al., 2010)は,g=−0.12(95%CI=−1.04 to 0.80)であり,体重およびBMIともに介入効果が認められなかった.
小児がん治療中の患児に対する身体活動介入の効果は,身体活動介入を実施していない群と比較した場合,各研究を統合した重み付き平均効果量において,小さい効果量から中程度の効果量を認めた結果指標が存在した.しかし,95%CIを加味した場合,介入群および対照群における介入効果は大差ない結果となった.この要因として,表1の結果指標の項目からわかるように,各研究における身体活動介入の効果を評価する指標は多岐にわたっており,共通の結果指標を用いていない点,および身体活動介入の効果を適切に評価する指標を含んでいない点が挙げられる.そのため本結果は,身体活動介入の効果というよりも,小児がん治療の効果という側面に焦点があてられた評価であった点が否めない.今後は,小児がん治療中の患児に対する身体活動介入の効果について,適切な結果指標を用いた研究を実施していくことが課題である.
身体活動介入が小児がん治療中の患児における睡眠およびがんに伴う倦怠感に及ぼす効果は,小さい効果量から中程度の効果量であることが明らかになった.がん患者における身体活動は,前述したとおり,心理的機能および身体的機能を改善する可能性があり,効果量の側面で判断する場合,小児がん患児においても同様の結果を示したといえる.しかしながら,身体活動が小児がん治療中の患児のQOLに及ぼす効果は,認められなかった.この結果は,様々な下位概念を包括して捉えるQOL尺度の概念による影響,小児におけるQOL評価指標が複数存在する影響,および小児がん治療中の患児に限定した影響によるものと考える.小児がんにおけるQOLの評価は,小児がん経験者を対象としている場合が多い(Penn, 2008).そのため,小児がん治療中の患児におけるQOL評価は,長期入院による治療の影響を考慮し,退院後を含めた長期的効果を検討することで,身体活動がQOLに寄与する結果を示すことに繋がると考える.したがって,小児がん治療中の患児における身体活動を捉える場合は,QOLのような包括的概念による評価よりも,歩数や活動量などの身体活動量の計測,心理社会的な下位概念(睡眠,倦怠感など)による評価の方が適している可能性が示唆された.
身体活動介入による足関節可動域に対する効果について,効果量の側面で判断する場合は,小さい効果量が認められていることから,身体活動の直接的効果が客観的に評価できる可能性が示唆された.一方で身体活動介入が活動性,体重およびBMIに及ぼす影響については,効果が認められなかった.これらの結果は,身体活動介入の内容に伴う結果指標・アウトカムが適切に評価されているか,という点が大きく関与する.そのため,身体活動介入の内容に適した客観的指標および主観的指標を用いた結果評価が望まれる.
小児がん患児に対する身体活動介入の実行可能性および安全性は,すでに報告されており(Ladna et al., 2006),さらに小児がん経験者を対象とした身体活動介入に関する報告(Stolley et al., 2010; Wolin et al., 2010)も近年増加している.小児がん治療中の患児を対象とした身体活動介入に関する報告は少ないものの,彼らを対象とした身体活動介入の効果を示したという点では意義があると考える.しかしながら,米国医療政策研究局によるエビデンス分類に基づき,本メタ分析の対象文献を評価した場合は,エビデンスレベルの高い研究のみを抽出したとは言い難い.それは,本メタ分析の対象文献数が少ない点を考慮し,ランダム化比較試験による研究のみならず,準実験デザインによる研究を対象文献に含めて検討したためである.エビデンスレベルの限界点がある一方で,本研究の対象文献抽出の第1段階で取り上げたBraam et al.(2013)の研究は,コクラン共同計画より発行されたメタ分析であるが,その対象文献数は5編であった.彼らのレビュー対象文献数が5編であることからもわかるように,小児がん治療中の患児を対象とした身体活動介入に関する研究数は,世界的にも少ないことがうかがえる.今後は,小児がん治療中の患児に対する身体活動の介入研究を蓄積していくことが望まれる.
2.小児がん治療中患児における身体活動の意義および役割小児がんの患児は,長期入院による集学的治療を要し,運動や食事などの日常生活が制限され(Braith, 2005),長期入院,生活の場の変化,および隔離環境などがストレス源となり,心理社会的影響のみならず身体的影響が生じる(Decker, 2006; Pai et al., 2006; Wechsler & Sánchez-Iglesias, 2013).子どもにとって運動が制限されるということは,日常生活や心身の発達に影響を及ぼし,衝動コントロールやストレス対処手段が奪われることを意味する(村田,2005).小児における身体活動は,子どもの正常な発育・発達の刺激として必要であり,知的・情緒的・社会的発達を促すことから(岩崎,2009),小児がん治療を受けている患児においても,身体活動は意義があり(White et al., 2005),さらに主観的評価指標(睡眠の質や倦怠感など)を向上・改善する可能性も考えられる.また,小児がんの身体活動介入を開始する血液データの基準例が示されていることから(Lucia et al., 2005),日常生活をケアする看護師は,患児の血液データ,体調・症状および気分などを考慮し,入院中においても実施可能な身体活動を促す関わりや支援を実施することが必要である.
3.本研究の限界点および今後の課題本研究における3点の限界点について述べる.1つ目として本メタ分析は,小児がん治療中の患児を対象とした研究に限定したため,対象文献数が少ない点が挙げられる.6編の研究知見の統合だけで,小児がん治療中の患児における身体活動介入の効果を結論付けるには限界がある.2点目として,本メタ分析で抽出した論文は,身体活動介入の効果を評価する指標が多岐にわたっていたことから,統一された結果指標によって身体活動介入の効果を評価したものではない.一般的に,身体活動量の評価は,歩数・活動量,BMI・体重などによる客観的な指標と主観的な指標を併用する場合が多い.しかしながら,本メタ分析の対象文献では,身体活動量を評価する指標を用いている文献が4編であり,さらに統一された結果指標が用いられていなかった.最初に述べたように,本研究の対象文献が少ないことから,本メタ分析の対象文献の採択においては,結果指標に関する条件を含めなかった.そのため今後は,文献抽出の際の採択基準や除外基準を検討する必要があると考える.最後に3点目として,本研究では身体活動の介入内容別の効果について言及していない.したがって今後は,身体活動介入の詳細を検討し,身体活動介入の内容別におけるメタ分析を実施することで,効果的な身体活動の内容を明らかにすることが課題である.
メタ分析による小児がん治療中の患児に対する身体活動介入の効果は,対照群と比較して大差がなかった.その理由として,本メタ分析の対象文献数が少なく,介入内容や結果指標のばらつきの大きいことが介入効果に影響した可能性が考えられる.しかしながら,小児がん患児の筋力・体力の低下を予防するためには,患児が入院中に実施可能な身体活動を促す関わりや看護支援が重要であることから,今後は小児がん治療中の患児における身体活動の研究を集積していくことが必要である.身体活動介入に関わる研究を遂行する際は,身体活動介入の効果を適切な結果指標で評価していくとともに,退院後を含めた長期的な効果を検証する必要がある.さらに,小児がん治療中の患児に対する身体活動介入の支援内容を検討していく必要性が示唆された.
本研究は,日本学術振興会(JSPS)科学研究費25463489により実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.