Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Translation and Face Validity of the Japanese Version of the Self-Directed Learning Readiness Scale for Nursing Education
Yumiko Oyama Rumi MaedaMitsue Maru
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2015 Volume 35 Pages 38-42

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Abstract

自己決定型学習とは,自らの学習ニード把握から適切な学習方法の実施・評価まで個人が学習のイニシアチブを取る一連のプロセスを指し,成人の学習や高等教育の場面で求められる学習姿勢である.自己決定型学習準備性とは,そのために求められる個人特性や態度等をその人がどれだけ持っているのかの程度である.看護学の成人学習者の自己決定型学習準備性の測定にはFisherらが開発したSelf-Directed Learning Readiness Scale for Nursing Education(SDLRSNE)を用いることができ,また様々な国・職種を対象に翻訳がされているため国際的な比較も可能である.本研究の目的は,本尺度を翻訳し日本語版SDLRSNEを開発することである.日本語版SDLRSNEの作成は開発者であるFisher氏の許可を得た上で,順翻訳,逆翻訳,ウェブ調査によるパイロットテストの順で実施した.その結果,表面妥当性のある日本語版SDLRSNEが完成した.本尺度は看護学の成人学習者を対象にした教育の方法の検討やその効果を測定する際に活用することができると考えられる.今後,信頼性・妥当性を検証し結果を報告していく予定である.

Ⅰ.はじめに

自己決定型学習とは,「他人からの助けの有無に関わらず,自分の学習ニードの把握,ゴールの設定,学習のために必要な人的・物的リソースの把握,適切な学習方法の実施,学習アウトカムの評価を行うことで個人が学習のイニシアチブを取るプロセス」と定義され(Knowles, 1975),高等教育の場面で求められる学習態度であり,成人学習の中核となるものといわれている(Fisher et al., 2001).またこのようなプロセスを,生涯を通じて行っていくことが医療専門職には求められており(藤倉,2012),看護師が看護実践能力を向上していくためにも欠くことのできないものである(文部科学省,2011).そして,自己決定型学習のために求められる特性や態度をその人がどれだけ持っているのかの程度を表したものが自己決定型学習準備性である.

自己決定型学習準備性を測定する尺度として,Guglielmino(1977)が開発した自己決定型学習準備性尺度(Self-Directed Learning Readiness Scale; SDLRS)が知られており,世界各国で翻訳され看護を含む国内外の様々な分野で広く用いられている(Linares, 1999; 西薗,2013; Premkumar et al., 2013).Guglielmino版SDLRSは開発当初は41項目8因子で構成されていたが,その後項目が追加され58項目になった.しかし,58項目になってから尺度の信頼性・妥当性が検証されておらず使用を推奨しないとする報告があり(Field, 1989),また41項目版の時点でも因子数が多いこと,使用料が高額であることによる使用のしにくさが指摘されていた(Fisher et al., 2001; 松浦ら,2003).

そこでFisherらはGuglielmino版SDLRS等を参照に項目のアイテムプールを作成し,新たなSDLRSを開発した(Fisher et al., 2001).Fisher版SDLRSは,全40項目であり,自己決定型学習に必要な学習者の個人特性に関するSelf-management(13項目),Desire for learning(12項目),自己決定型学習のプロセスにおける学習者の自律性に関するSelf-control(15項目)の3因子で構成される.各項目は5点のstrongly agreeから1点のstrongly disagreeの5件法のリッカート尺度で評定され,すべての項目の点数を加算し合計点を算出する(40項目中4項目は反転項目).得点範囲は40点から200点であり,得点が高いほど自己決定型学習準備性が高いと解釈でき,150点以上を「自己決定型学習の準備ができている状態」のカットオフポイントとして使用することができる.

2001年にFisher版SDLRSが開発されて以降,本尺度は保健医療の様々な分野の調査で用いられてきた.しかし,Fisher版SDLRSは高い信頼性が報告されてきた一方で,妥当性は十分ではないことが指摘されていた.そこで2010年にFisherらはFisher版SDLRSの項目数の改訂と妥当性の検証を実施した.その結果,Fisher版SDLRSの妥当性が確保されたものの,項目数を29項目へ減らした改訂版に関しては妥当性を確保できなかった(Fisher & King, 2010).そのため40項目のFisher版SDLRSの使用を推奨すると結論づけられ,この時点で40項目のFisher版SDLRSは正式に看護教育用自己決定型学習準備性尺度(Self-Directed Learning Readiness Scale for Nursing Education; SDLRSNE)という尺度名で報告された.

SDLRSNEは因子構造が比較的シンプルであり理解がしやすいこと,また使用料もかからないため,看護教育者が学習者の学習ニーズの把握や看護教育の効果評価を行う上で利用しやすく,有用であると考えられた.また,SDLRSNEの開発の際の調査は看護学生が対象となり実施されているが,因子構造がGarrisonの自己決定型学習の原理に基づいており(Garrison 1997; Song & Hill, 2007; Zachariah et al., 2011),看護学を学ぶ成人学習者に広く適用しうる可能性があると考えられた.そこで今回著者らはSDLRSNEを翻訳し日本語版SDLRSを作成したため報告する.

Ⅱ.研究方法

1.日本語版SDLRSNEの作成

日本語版SDLRSNEは,表面妥当性を担保した翻訳作成のガイドラインに準じて実施し(Guillemin et al., 1993),1)日本語版SDLRSNE第1案の作成,2)パイロットテストの2つのステップを経た上で最終版を作成した.

1)日本語版SDLRSNE第1案の作成

まずSDLRSNEの開発者であるFisher氏に日本語版作成に関する承諾を得た上で,日本語を母語にする2名の翻訳者(尺度の使用目的を知る研究者1名,専門業者の翻訳者1名)が独立して英語を日本語に順翻訳した.次に2つの翻訳を尺度の使用目的や因子構造を知る研究者3名で議論した上で統合し,暫定の日本語版とした.次に,逆翻訳は翻訳の専門業者(順翻訳の翻訳者とは別の翻訳者)に依頼し,暫定の日本語版を英語に逆翻訳した.逆翻訳されたものを開発者に送付し,オリジナル版の英語と相違がある項目は修正した上で,日本語版SDLRSNE第1案とした.

2)パイロットテスト(ウェブ調査)

作成した第1案の質問項目の表面妥当性を検討する目的で,2014年9月にウェブ調査によるパイロットテストを実施した.対象者は,A大学の博士後期課程に在籍する大学院生で看護師免許を有する者50名とした.まず研究者がパイロットテストの概要と回答フォームのURLを記載した協力依頼のメールをA大学の事務へ送信し,対象者へはA大学の事務を経由しメールが配信された.対象者には日本語版SDLRSNE第1案へ回答をしてもらい,その上で意味のわかりにくかった質問項目の有無,有ると回答した場合その具体的な内容についてのコメントを記入してもらった.

3)日本語版SDLRSNE最終版の作成

パイロットテストの結果を踏まえ,研究者と専門業者の翻訳者で議論し表現を微修正した上で,日本語版SDLRSNEの最終版を作成した.

2.倫理的配慮

本研究は東京医科歯科大学医学部倫理審査委員会の承認を受け実施した(第1870番).対象者へは電子メール・回答フォーム上で研究目的,意義,方法,匿名性の保持,参加の自由性,不参加による不利益はないことを説明し,回答フォームの送信をもって研究参加の同意とみなした.

Ⅲ.結果

パイロットテストへの回答数13名(回答率26%),うち意味のわかりにくかった質問項目が有ると回答したのは7名であり,項目6, 10, 11, 16, 18, 27, 29, 33, 34, 38, 39の11項目に関してコメントの記載があった.項目6, 11, 34, 39のオリジナル版の項目は“I prefer to…”であり,「~のほうが好きだ」としていたが,具体的な比較対象を想定してしまい答えにくいというコメントが複数あったこと,項目16, 29, 38 “I like to…”の「~が好きだ」の表現と区別するため,「~することを好む」へ修正した.項目27は“I set specific times for my study”であり,「私は勉強するために特定の時間を設定する」としていたが,「特定の時間」を指すものがわかりにくかったことから,「私は時間を決めて勉強する」とした.それ以外の6項目に関しても研究者間で検討した上で,翻訳の内容に問題はないと判断し,日本語版SDLRSNEの最終版とした(表1).

表1 日本語版SDLRSNE最終版

Ⅳ.考察

今回,Fisherらの開発したSDLRSNEの翻訳を行い,表面妥当性の保たれた日本語版SDLRSNEを完成した.本尺度は様々な国と職種を対象に翻訳されており,日本語版が完成したことで職種を超えた国際比較が可能となる.またSDLRSNEのスコアと学習者が好む学習方法に関連があることも報告されており(Fisher et al., 2001),看護学の成人学習者を対象にした教育方法の検討やその効果を測定する上で有用であると考えられる.現在,日本語版SDLRSNEの信頼性・妥当性の検証を実施中であり,今後報告をしていく予定である.

Ⅴ.結論

表面妥当性の保たれた日本語版SDLRSNEを完成することができた.今後は信頼性・妥当性の検証を行い,尺度の精度をさらに検討していく.

Acknowledgment

We wish to express our strong appreciation to original developer of the SDLRS, Dr. Fisher of the University of Sydney, for his valuable advice and support in the translation process.

利益相反:本研究による利益相反は存在しない.

著者資格:OYおよびMRは研究の着想およびデザインに貢献;OYは草稿の作成;OY, MR, MMは原稿への示唆;すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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