Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Reports
The Effects of Family Support, Motivation Factors and Patient’s Subjective General Evaluations in Self-Management Behavior on Motivation to Self-Manage in Outpatients with Diabetes
Hisako Adachi Junko IwasakiKazunari Kobayashi
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2015 Volume 35 Pages 118-126

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Abstract

目的:家族から支援のある通院中の糖尿病患者の自己管理へのやる気に,家族による支援,動機づけ要因(満足,自己効力感),糖尿病自己管理行動への患者による主観的な総体的評価が与える影響を検討した.

方法:通院中の糖尿病患者208名に無記名自己式質問紙調査を行った.

結果:家族から支援のある患者数は,55名(26.4%)であった.患者の平均年齢は59.8歳,HbA1c値の中央値は6.4%(JDS)であった.パス解析の結果,家族からの支援に対する満足から,自己管理へのやる気へのパスは有意(p<.05)であった.糖尿病自己効力感との間に有意(p<.01)なパスを示した糖尿病自己管理行動に対する主観的な総体的評価から,自己管理へのやる気へのパスは有意(p<.05)であった.

結論:通院中の糖尿病患者の自己管理へのやる気に,家族からの支援に対する満足と糖尿病自己効力感と関係のある糖尿病自己管理行動に対する主観的な総体的評価が肯定的な影響を与えることが示された.

Ⅰ.はじめに

糖尿病の治療の目的は,糖尿病の合併症である網膜症・腎症・神経障害などの出現あるいは悪化を防ぐために,血糖値を基準値に近い状態に維持することである.患者には日頃の生活習慣を改善し,それを自己により管理することが求められてくる.日々の生活で生じる様々なできごとの中に,食事療法,運動療法,薬物療法を工夫しながら取り入れ,継続するよう努めなければならない.

しかしながら,糖尿病は,明確な自覚症状が出現することなくゆっくりと進行していく病気であるゆえに,患者にとって自己管理の実施は難しい.Thoolen et al.(2008)も糖尿病と診断されて間もない患者は自覚症状もほとんどなく,病気の自覚も乏しいゆえに,特に自己管理は難しいとしている.自己管理を継続していたとしても,再受診がしづらい(中石ら,2007),用事と重なる,受診しても良くならないなど(山本,2007)の理由により自己管理を中断してしまう場合もある.村上ら(2009)は,糖尿病患者の自己管理を阻害する要因に「糖尿病である自分自身や生活が重荷になる」ことを示している.このような事態を防ぐために,いかに患者を自己管理行動に動機づけるかが問われ,Shigaki et al.(2010), Kadirvelu et al.(2012)は,効果的な自己管理行動に動機づけの重要性を強調している.

その動機づけを説明する要因のひとつに認知的動機づけのセルフ・エフィカシー(自己効力感)があり,それは自己管理行動に導くアプローチに有用である(安酸,1997Kadirvelu et al., 2012).いくつかの研究は,糖尿病患者の自己効力感と自己管理との間に肯定的な関係を示した(藤田ら,2000松田ら,2001根本,2003Al-Khawaldeh et al., 2012).家族支援と自己効力感との関係では,糖尿病を含む慢性疾患患者を対象に行った金ら(1998)の調査結果において,家族からの行動的支援が患者の健康行動に対するセルフ・エフィカシーの向上に有効であることが示された.糖尿病患者を対象にした布佐ら(2002)の調査でも同様の結果であった.このほか,家族との親密さや支持的な関わりは,長期的に患者の自己効力感の維持・強化に関係するという報告がある(宮本ら,2008).家族支援と自己管理との関係については,家族や友人からの支援と食事療法,運動療法,足のケア,血糖自己測定,薬物療法との間の肯定的な関係性を示した報告(Chlebowy et al., 2010)がある.木下(2002)は家族からの協力が壮年期にある糖尿病患者の自己管理への行動に大きな影響を及ぼすとし,DAWN Study(2002)は,成人糖尿病患者の効果的な自己管理に家族支援が重要不可欠だとしている.

このような報告から,家族からの支援により患者の自己効力感が向上すると,それが自己管理への効果的な動機づけとなり,行動の実施にいたると推測される.服部ら(1999)は,自己管理行動と自己効力感・家族サポートの関係で,食事・運動に対する自己効力感が高いほど自己管理行動が行われており,運動に対する家族ポジティブサポート低値群で運動自己管理行動が有意に行われていなかったとしている.

これまでに,自己効力感と自己管理,家族による支援と自己効力感,家族による支援と自己管理行動との2者間の関係は検討されている.しかし,家族による支援,自己効力感,自己管理行動の3者間の相互関係を検討した報告は見当たらない.また,自己管理行動については,認知的動機づけとの関係から検討されてきたが,認知のほかに動機づけを説明する要因に情動(感情)がある.動機づけに優れた業績のある上淵(2005)によると,人間は情動に左右されるゆえに,情動を無視して動機づけを語ることは不可能であるとしている.家族からの支援による満足は自己管理への動機づけとなり,行動にいたると推測できる.

動機づけは,日常的にやる気という言葉で表現される場合が多い.やる気とは,広辞苑(新村,2008)では「物事を積極的に進めようとする気持ち」とされており,上淵(2005)は動機づけを簡単に言うとこのやる気の心理現象を問題にすると述べている.本研究では,やる気を動機づけと同じような用語として用いることにした.

本研究の目的は,家族から支援のある糖尿病患者の自己管理へのやる気を問題に,家族による支援と家族からの支援に対する患者の満足,糖尿病自己効力感,糖尿病自己管理行動に対する患者による主観的な総体的評価との間の相互関係を検討することである.

Ⅱ.研究方法

1.調査対象者

G県内にある一般病院と一般診療所に通院中の糖尿病患者208名であった.

2.調査期間

2010年7月から2010年12月までの6ヶ月間であった.

3.調査方法

外来での待ち時間内に調査協力依頼文,および無記名自記式質問紙調査用紙を外来看護師が配付し,回答が得られた調査用紙は鍵付きボックスにて留め置き,1週間後に調査者が回収した.

4.調査内容

質問紙法を用いた.木下により開発された家族支援に関する質問紙(1996)と糖尿病自己効力感に関する質問紙(1996)を用いた.

家族支援に関する質問紙は,実践的支援の食事療法への協力の1項目,情緒的支援の2項目(励まし,耳を傾ける)から構成されている.糖尿病自己効力感に関する質問紙は,食事療法と運動療法の2領域から構成されているゆえ,家族支援に関する質問項目に調査者が作成した実践的支援の運動療法への協力の1項目を追加した合計4項目とした.運動療法への協力に関する質問は,運動の種類の中で最も高い率で取り組んでいるとされている歩行(井手ら,2008)に関する問いである.各項目に対して,「全くしてくれない」から「とてもよくしてくれる」の5段階尺度で回答を求めた.各尺度のCronbachのα係数は,0.83~0.91であった.得点が高くなるほど家族からの支援の程度が高くなる.

Bandura(1986)の自己効力感に依拠して作成された木下(1996)による糖尿病自己効力感に関する質問紙は,食事・運動療法に関するそれぞれ4項目の合計8項目で構成されている.「ほとんどできないと思う」から「確実にできると思う」までの5段階尺度で回答を求め,得点が高くなるほど糖尿病自己効力感は高くなる.

そのほか,独自に作成した項目で,家族からの支援に対する患者の満足の程度,家族による支援が自己管理にやる気を与える程度を5段階のリッカート尺度で回答を求めた.自己管理行動に対する評価を血糖コントロールのために日々の生活の中で余儀なく求められる糖尿病自己管理行動に対する患者自身による主観的な総体的評価とし,自己管理のできている程度をそれぞれ5段階のリッカート尺度で回答を求めた.得点が高いほどその程度は高くなるとした.

基本属性として,性別,糖尿病のタイプ(1型,2型),治療法(インスリン療法,非インスリン療法),合併症の有無,現在のHbA1c値を尋ねた.

5.仮説モデル

先行研究の結果から(家族支援と自己効力感:金ら,1998布佐ら,2002宮本ら,2008,自己効力感と自己管理:藤田ら,2000松田ら,2001根本,2003;家族支援と自己管理:木下,2002Chlebowy et al., 2010),第1に,「家族による支援」は,動機づけを説明する要因の「家族からの支援に対する満足」と「糖尿病自己効力感」の向上に関係し,これらの向上は,「自己管理へのやる気」に繋がると想定した.第2に,「家族による支援」は「家族からの支援に対する満足」と「糖尿病自己効力感」の向上に関係し,これらの向上が「自己管理行動に対する主観的な総体的評価」を高め,「自己管理へのやる気」に繋がると想定した.「家族からの支援に対する満足」と「糖尿病自己効力感」の向上によって導かれた「自己管理行動に対する主観的な総体的評価」は,「自己管理へのやる気」を喚起すると考える.第3に,餘目(2012)による糖尿病男性患者を対象とした調査において,約半数の者が配偶者に調理を任せていたという報告や女性は家庭を守るべきという伝統的性別役割分業観念により,患者が女性の場合,家族からの支援に対する満足や糖尿病自己効力感に性別が影響を与えると想定した.このような想定を仮定して,「自己管理へのやる気」「家族からの支援に対する満足」「自己管理行動に対する主観的な総体的評価」「女性」を観測変数,「家族による支援」と「糖尿病自己効力感」を潜在変数とした図1のような仮説モデルを構築した.

図1 仮説モデル

6.分析方法

分析の対象者は家族から支援のある患者全体と,その患者を日本糖尿病学会(2012–2013, JDS)の分類に従いHbA1c値6.5%未満,6.5%以上の2群に分け,前者を血糖コントロール良好群,後者を血糖コントロール不良群とした患者である.家族からの支援に対する患者の満足の程度,自己管理行動に対する主観的な総体的評価の程度,自己管理へのやる気の程度については,基本統計量を算出した.

患者の自己管理へのやる気を最終アウトカムとした最適モデルを検討するために,AMOS 16.0を用いたパス解析を行った.モデルの適合性の判断にGFI(適合度指標),CFI(比較適合度指標),RMSEA(平均二乗誤差)を用いた.要因間の関係を示す標準化されたパス係数の統計的有意水準は,5%とした.

7.倫理的配慮

本研究は,岐阜大学医学研究等倫理審査委員会の審査(書類,面接)にて承認を得た後に実施した.病院および診療所において,調査の趣旨を病院長に口頭および書面にて説明し同意を得た.調査対象となる個人には,研究の趣旨と目的,調査への参加は自由意思に基づくものであり,個人情報保護のために質問紙は無記名とし匿名性を確保するためにデータの管理,処分方法とデータは本調査以外の目的では使用しないことなどを研究説明書にて説明を行い,質問紙の回答をもって調査への参加の同意とした.質問紙に使用した調査項目については,作成者に使用の承諾を得た.

Ⅲ.結果

記入不備を除いた有効回答者数は84名(男性:57名,女性:27名)で,有効回答率は40.4%であった.対象者の年齢は平均59.6±11.0歳,罹患期間は平均14.0±11.1年であった.HbA1c値(JDS)の中央値は,6.5%であった.

木下による家族支援に関する質問紙で,すべての項目で「全くしてくれない」と回答した者を除く55名(65.5%)を家族からの支援ありとし,分析の対象とした.

1.対象者の特徴

患者55名(男性:39名,女性:16名)の平均年齢は59.8±11.5歳,平均罹患期間は13.4±11.9年であった.HbA1c値(JDS)の中央値は6.4%であった.性別,性別ごとの平均年齢,糖尿病のタイプ(1型,2型),治療法(インスリン療法,非インスリン療法),合併症の有無,HbA1c値による血糖コントロール良好群と不良群は,表1に示した通りである.家族からの支援に対する患者の満足の程度の平均は3.5±0.7,自己管理行動に対する主観的な総体的評価の程度の平均は3.1±0.6,自己管理へのやる気の程度の平均は3.5±0.8であった.

表1 対象者の特徴

家族支援者となる家族員は配偶者,嫁,祖母,実母,実姉,子どもであった.

2.家族による支援,家族からの支援に対する患者の満足,糖尿病自己効力感,自己管理行動への主観的な総体的評価が自己管理へのやる気に与える影響

パス解析の結果を,図2に示した.「家族による支援」から「家族からの支援に対する満足」へ,「糖尿病自己効力感」へのパスは有意(p<.05)であった.「家族からの支援に対する満足」から「自己管理へのやる気」へのパスは有意(p<.05)であった.「糖尿病自己効力感」から「自己管理行動に対する主観的な総体的評価」へのパスは有意であり,「自己管理行動に対する主観的な総体的評価」から「自己管理へのやる気」へのパスも有意(p<.05)であった.

図2 パス解析結果(全体)

1)血糖コントロール良好群

血糖コントロール良好群(男性:24名,女性:5名)におけるパス解析の結果を,図3に示した.「家族による支援」から「家族からの支援に対する満足」へ,「糖尿病自己効力感」へのパスは有意(p<.01)であった.「糖尿病自己効力感」から「自己管理行動に対する主観的な総体的評価」へのパスは有意(p<.01)であったが,「自己管理行動に対する主観的な総体的評価」から「自己管理へのやる気」へのパスは有意な傾向であった.

図3 パス解析結果(血糖コントロール良好群)

2)血糖コントロール不良群

血糖コントロール不良群(男性:15名,女性:11名)におけるパス解析の結果を,図4に示した.「家族による支援」から「家族からの支援に対する満足」へ(p<.01),「家族からの支援に対する満足」から「自己管理へのやる気」へのパスは有意(p<.01)であった.

図4 パス解析(血糖コントロール不良群)

3.家族による実践的支援(食事,運動)・情緒的支援(励まし,話を聴く),支援に対する患者の満足,糖尿病自己効力感,自己管理行動への主観的な総体的評価が自己管理へのやる気に与える影響

潜在変数である「家族による支援」の観測変数は,実践的支援の食事療法と運動療法,情緒的支援の励ましと話を聴く,である.患者の自己管理へのやる気を最終アウトカムとしたパス解析の結果では,食事療法への支援と話を聴くから,支援に対する満足と糖尿病自己効力感へのパスは有意でなかった.そのため,この2つのパスを削除し,モデルの適合度を検討したところ,図5のようなモデルが得られ,パス解析の結果は示した通りである.

図5 パス解析結果(全体)

「家族による運動療法への支援」,「家族による励まし」から「支援に対する満足」へ(p<.01),「支援に対する満足」から「自己管理へのやる気」へのパスは有意(p<.01)であった.「女性」から「支援に対する満足」への負のパスは有意(p<.01)であった.「家族による励まし」から「糖尿病自己効力感」へ(p<.01),「糖尿病自己効力感」から「自己管理行動に対する主観的な総体的評価」へ(p<.01),「自己管理行動に対する主観的な総体的評価」から「自己管理へのやる気」へのパスは有意(p<.05)であった.

1)血糖コントロール良好群

血糖コントロール良好群(男性:24名,女性:5名)におけるモデルの適合度に関して,χ2値は19.881(p=0.030),GFIは0.863, CFIは0.848,RMSEAは0.188であり,パスモデルの適合性はあまりなかった.

2)血糖コントロール不良群

血糖コントロール不良群(男性:15名,女性:11名)におけるパス解析の結果を,図6に示した.

図6 パス解析結果(血糖コントロール不良群)

「家族による運動療法への支援」,「家族による励まし」から「支援に対する満足」(p<.05)へ,「支援に対する満足」から「自己管理へのやる気」へのパスは有意(p<.01)であった.

「家族による運動療法への支援」から「糖尿病自己効力感」への負のパスは,有意(p<.05)であった.

Ⅳ.考察

本研究では,家族による支援のある糖尿病患者の自己管理へのやる気と家族からの支援に対する患者の満足,糖尿病自己効力感,自己管理行動に対する主観的な総体的評価との間の相互関係を仮説モデルに提示し,Amosのパス解析を用いて検討した.

1.対象者について

対象者は家族から支援のある通院中の糖尿病患者で,平均罹患期間は13.4±11.9年と長く,HbA1c値の中央値が6.4%で血糖コントロールは良好の状態にあった.これは,定期的に医療機関を受診し,治療法に遵守した自己管理を実施してきたような病気と自己管理に関心のある対象者とその家族ではないかと推察できる.

2.家族による支援,家族からの支援に対する患者の満足,糖尿病自己効力感,自己管理行動への主観的な総体的評価が自己管理へのやる気に与える影響

患者の自己管理へのやる気に,家族からの支援に対する満足と糖尿病自己効力感が関係していた.家族からの支援に対する患者の満足は直接的に自己管理へのやる気に関係するが,糖尿病自己効力感は自己管理行動への主観的な総体的評価を介して間接的に自己管理へのやる気に関係していた.Banduraの自己効力理論(1986)によれば,行動変容の先行要因に予期機能があり,それには結果予期と効力予期がある.自分に「できそうだ」,「できると思う」という成功への期待が自己効力感である.本調査の対象者である糖尿病患者において,このような糖尿病に関する自己効力感が,自己管理行動が実際に「自分にできている」あるいは「あまりできてない」,「できていない」などの患者の主観的な評価を介して自己管理へのやる気に影響を与えていた.成功に向けた実際の自己管理行動を主観的に評価することで自己の課題が明確になり,それに取り組みたいという欲求が自己管理へのやる気を喚起させたと推測できる.この欲求も認知と感情と同じように動機づけを説明する要因である.

これらのことから,自己管理行動を中断することなく継続できるようやる気を喚起させるのに,2つのことが示されたと考えられる.ひとつは,家族からの支援に対する患者の満足である.もうひとつは,糖尿病自己効力感を介した自己管理行動に対する患者の主観的な総体的評価とそれによる自ら改善すべき課題の発見である.

次に,血糖コントロール良好群では,家族による支援は,家族からの支援に対する満足と糖尿病自己効力感の向上に関係し,糖尿病自己効力感の向上は自己管理行動への主観的な総体的評価を介して自己管理へのやる気に間接的に関係していた.血糖コントロール不良群では,家族による支援は支援に対する満足の向上に関係し,それが自己管理へのやる気に直接的に関係していた.しかし,良好群のように家族による支援から糖尿病自己効力感へ有意な関係はなく,自己管理へのやる気にも関係しなかった.満足という快の感情には,糖尿病という病気に約40%の患者(DAWN, 2002)が感じている血糖コントロールに否定的な影響を与えるストレス(Peyrot & McMurry, 1992)を緩和する作用があると考えられる.しかしながら,血糖コントロール改善に向けた自己管理行動にやる気を生じさせるには,家族からの支援による満足からだけでは難しく,糖尿病自己効力感を介した自己管理行動に対する患者の主観的な総体的評価が重要であると考えられる.

自己効力感,セルフケア行動とHbA1cの3者間の相互関係を検討したSousa et al.(2005)Gao et al.(2013)は,自己効力感と関係したセルフケア行動は血糖コントロール(HbA1c)にも関係していたとしている.

3.家族による実践的支援(食事,運動)・情緒的支援(励まし,話を聴く),支援に対する患者の満足,糖尿病自己効力感,自己管理行動への主観的な総体的評価が自己管理へのやる気に与える影響

患者の自己管理へのやる気に,家族による実践的支援の運動療法への支援と情緒的支援である励ましが,支援に対する満足を介して影響を与えていた.

糖尿病の基本的治療法は,運動療法と食事療法である.食は人間にとって食欲というように誰もがもつ生理的な欲求であり,甘い物が好きだとか,濃い味付けが好きだとか,それぞれ食に対する好みがある.また,食には他者との社会的交流の機会をもたらすという側面もある.そのため,日々の生活の中で繰り返される食事療法の遵守は,患者に多くの困難をもたらし,負担感や重圧感を与える(西方,2009餘目,2012)場合もある.QOLの低下にも影響を与えるとする報告もある(足立,2008).運動療法はこのように生得的な欲求でもなく,その人の生活に与える影響も低く,日常生活に取り入れやすい治療法である.しかし,運動療法の実施率は40~60%と低く(日本糖尿病療養指導士認定機構,2014),運動療法を行っていない理由に運動する時間がない,運動が嫌い,運動すると痛くなるところがあるなどがある(佐藤,2013).また,運動療法の継続に関する井手ら(2008)の報告では,継続できない理由に仕事や家事の多忙,単身赴任や一人暮らしなど,継続できる理由に家族の協力を示している.このようなことから,運動療法は日常生活に与える否定的な影響は低く,家族からの協力により実施,継続が可能となるゆえに,家族からの支援に対する満足が向上したと考えられる.そして,自己管理へのやる気にも肯定的な影響を与えたと推測される.

支援に対する満足とともに糖尿病自己効力感にも影響を与えたのは,家族による励ましであった.励ましは,Bandura(1986)による自己効力の形成や変容に関わる4つの情報源のひとつの社会的説得である.そのため,糖尿病自己効力感の向上に関係し,その向上は成功に向けた実際の自己管理行動を自己にて評価するという主観的評価を介して,自己管理へのやる気に関係すると考えられる.しかし,女性では,家族からの支援に対する満足が下がるという結果であった.菊池ら(2001)が,糖尿病とともに生きていく過程で「家族が気持ちをわかってくれない」が女性糖尿病患者の不安を高くしたと報告したように,女性糖尿病患者の心理的特徴が影響を与えていると考えられる.また,「男性は仕事,女性は家庭を守るべき」という性別役割分業観念の影響もある.2012年に内閣府の行った「男女共同参画社会に関する世論調査」で,今回の対象者の年齢層である60~69歳の女性の44.2%,男性の37.3%がこの考え方に同意していない.60%の男性は,女性に家族の世話や家事などの役割を期待していると考えられる.高岡ら(2006)は女性糖尿病患者は家族に対するこのような役割を果たす責任を優先するゆえ,糖尿病という病を自分自身の問題として対処している,岩崎ら(2014)は女性糖尿病患者は,認知症の介護,家事,病人の世話等を求められるゆえ,家族からの支援が得られにくい,としている.このような報告から配偶者やその他の家族員から支援があっても,患者の望むような支援内容を家族に求められない現状も予測される.

次に,血糖コントロール不良群では,家族による励ましは,支援に対する満足とともに糖尿病自己効力感の向上に関係していた.糖尿病自己効力感の向上は自己管理行動への主観的な総体的評価の向上に関係したが,その向上は自己管理へのやる気には関係しなかった.実際の自己管理行動を主観的に評価し,自己の課題が自覚できたとしても,なぜ,自ら取り組みたいという欲求が生じないのか,疑問である.社会的説得の励ましにより「できそうだ」という成功への期待があっても,自己管理への意欲が低いためではないかと考えられる.この点については,今後検討しなければならない問題である.また,家族による運動療法への支援は支援に対する患者の満足の向上に関係し,その向上は自己管理へのやる気に直接関係していたが,糖尿病自己効力感の低下に関係していた.これは,患者の変化ステージの段階に応じて,自分に「できそうだ」という成功への期待が実現できるような個人の生活状況に応じた実施可能な運動内容を示したり,取り組み方について個人の状況に応じて工夫できるよう支援する重要性を示した.具体的には,運動できる時間帯,運動の強度,運動の総時間量,運動の種類,運動の頻度などを患者とともに考え,スモール・ステップ法などを用いて患者自身で実施できるようにする支援である.

Ⅴ.研究の限界と今後の課題

今回の調査には,一部の地域に限定された一般病院や診療所に通院中の糖尿病患者で,家族から実践的(食事,運動)・情緒的(励まし,耳を傾ける)支援のある対象者数も少なく,血糖コントロールも良好な状態にある者など,データに偏りがないとは言いにくく,得られた結果の一般化は難しい.

今後は,一部の地域に限定することなく対象者数を増やし,家族による患者へのひとつひとつの自己管理への支援とそれに対するそれぞれの自己管理行動を実施した患者による主観的評価との関係から,患者のやる気の問題を検討したい.

Acknowledgment

本研究に快く御理解,御協力いただいた通院中の糖尿病の患者の皆様,病院関係者の皆様に深謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反はない.

著者資格:AHは,研究の着想,デザイン,データの分析解釈,原稿の作成を行った.IJは,データ収集と入力,原稿への示唆,研究プロセス全体への助言を行った.KKは,統計解析の実施,原稿への示唆,研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は,最終原稿を読み,承認した.

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