2015 Volume 35 Pages 127-135
目的:看護学生の臨地実習での技術の経験と主観的到達度(以後,到達度)の実態および,到達度に影響する因子を明らかにし,到達度向上のための方策を検討する.
方法:卒業前の看護学生300人を対象に,属性と臨地実習での29技術の経験の有無と到達度,経験回数について自記式質問紙調査を実施した.分析は,属性と経験回数は単純集計,経験回数の到達度はMann–WhitneyのU検定により比較し,到達度への影響する因子については,判別分析を行った.
結果:バイタルサインの測定は経験率,到達度ともに100%であったものの,排泄の援助など7技術の経験率は50%以下であった.また,大学と専門学校を対象とした到達度に関しては,最も影響する因子は,23技術が「経験の有無」,2技術が「教育課程」,1技術が「性別」であった.すべての技術の到達度は,「3回以上」で有意に向上していた.
結論:技術により到達度に最も影響される因子が異なっていた.また,臨地実習で技術を3回以上経験することで到達度の向上が期待できることが示唆された.
近年,医療の高度化に伴い,看護師は高度な実践力が要求される中,看護基礎教育においても,実践力を有する人材育成が求められている.実践力の育成には,学内で学んだ知識や理論を臨地実習の中で現実の対象に実施し,習得していくという学習過程が不可欠である.しかし,受け持ち患者や実習時間,学生の準備状況,リスク管理,倫理的制約などのために,臨地実習における技術経験の範囲や回数には限界があり(青木ら,2006),学生が実施する機会も限られるため,就職後,初めて実施する技術も少なくない.
そうした状況の中,厚生労働省は看護基礎教育で習得する看護技術と臨地実習で求められるものにはギャップがあるため,実践力の強化,看護技術の確実な習得を目指したカリキュラム改正を2008年に実施した.さらに,2010年4月には「保健師助産師看護師法および看護師等の人材確保の促進に関する法律」の一部改正により,新卒看護師に対する臨床研修制度を「努力義務」として位置付けた.しかしながら,卒業直後の実践力と臨床で求められるレベルには依然として大きなギャップがあり,多くの新卒看護師が看護技術に対してストレスを感じ(高原,2013),新人看護師の離職原因の1つとされている(並川,2013).
離職防止策としては,臨地実習時の経験回数が自信につながり,看護基礎教育と臨床現場の乖離によるリアリティーショックを軽減する効果があると報告されている(野口ら,2011).さらに,就職後「1年以内では一人でできない」技術項目が多いほどバーンアウト得点が高い(野口ら,2011)ことからも,実習で経験を積み,卒業時に「1人でできる」看護技術を身につけ自信をもつことは,バーンアウト予防にも有効といえよう.
先行研究では,単一の教育機関で卒業時の到達度について調査し,実習経験の有無と到達度について分析がなされている(青木ら,2006;遠藤ら,2007;中原ら,2006;野口ら,2011)が,看護技術に関する教育内容および卒業時点での到達目標は,個々の学校により異なり,卒業直後の技術能力にも格差が生じている(厚生労働省医政局看護課,2007)ことから,学生が自覚する主観的到達度(以後,到達度)の認識にも教育課程や実習病院の特徴などが影響することが予測され,一般化には限界がある.そこで,本研究では,中国地方にある教育課程の異なる複数の看護系教育機関に在籍する卒業前の学生を対象とし,臨地実習での技術経験と到達度の実態および教育課程などが到達度に影響しているかを明らかにし,到達度向上のための方策を検討することを目的とする.
中国地方にある看護系教育機関であり,准看護師のコースのない10校(看護系大学3,短期大学2,専門学校5校)を無作為に抽出し,卒業直前の学生を対象とした調査を依頼した.その結果,看護系大学2校122人,看護系短期大学1校54人,統合カリキュラム指定養成施設(3年課程)1校60人,看護専門学校(3年課程)3校186人の計7校422人より協力が得られ,自記式質問紙調査を実施した.本研究では,教育課程の異なる学校を,できるだけ複数の看護系教育機関を対象とすることで,一般化を試みた.
2.質問紙の構成質問紙の内容は,属性として「学校」「性別」「年齢」「教育課程」「附属病院の有無」の5項目とした.性別に関しては,男子学生や男性看護師は,男性という理由で,女性患者の援助時に気まずさを感じたり,ケアを拒否された経験をもち(出口,2009;市川ら,2013),技術によっては,女子学生と男子学生で到達度が異なると考えたためである.また,年齢については,高校卒業後,すぐに看護学校に進学した学生より,2~3年年齢が高い学生は,授業の熱意や職業への思考性などが異なることが報告されている(江頭ら,2008)ため,年齢を確認し,24歳以上を社会人として分析した.また,附属病院の有無については,学生にとって,附属病院で実習をすることで,病院の構造や物品の位置,システムへ早く適応できる(平岡,2000)ことで,技術の到達度が異なる可能性があるため,附属病院の有無を確認した.学校,教育課程については,先行研究で明らかになっていないため,本研究で明らかにすることとした.
看護技術項目については「看護基礎教育の充実に関する検討会報告書」(厚生労働省医政局看護課,2007)を参考に,学生が到達度を評価しやすい技術で,臨地実習で実施可能な技術として研究者間で話し合った結果,8項目29技術を選択した.そして,各技術に対して臨地実習時の技術の到達度を「1人でできない」「1人でできる」の2件法で尋ねた.また,経験回数としては,「経験なし」「1~2回」「3~9回」「10回以上」の4件法で尋ねた後,「経験なし」群,「1~2回」群,「3回以上」群に分類した.
経験率および到達度については,対象学生数に対する各技術の経験者数の比率を経験率として,到達度は「1人でできない」を0点,「1人でできる」を1点として比率で示した.また,経験回数の分類としては,経験回数の経験率が80%以上の場合は経験回数が2.20~56.1回とばらつきがあり,経験率が50~80%は3回以下,経験率が50%未満は1回未満である(成ら,2012)こと,および,経験回数と到達度については,1回実施した場合は36%,2回実施は56%,3回以上は86%と実施回数に応じて到達度が向上する(本間ら,2007)ことの2点を勘案し,本研究では,経験回数を「経験なし」群,「1~2回」群,「3回以上」群の3群として分析した.
3.調査期間実施期間は2012年1月~2月に実施した.
4.分析方法属性については,単純集計を行った.経験率は,対象学生数に対する各技術の経験者数の比率とし,到達度は,先行研究(小島ら,2012;西田ら,2008)を参考に80%以上の技術を高い到達度として分析をすすめた.
さらに,到達度との関係を明らかにするために,目的変数を「1人でできない」:0,「1人でできる」:1と設定し,説明変数は教育課程の中で対象者の多かった専門学校と大学の学生をそれぞれ,「大学:0,専門学校:1」とダミー変数化した.また,「性別(女性:0,男性:1)」,「附属病院の有無(無:0,有:1)」,「社会人の有無(23歳以下:0,24歳以上:1)」,「経験の有無(無:0,有:1)」の5項目をそれぞれダミー変数化し,数量化II類として判別分析を行った.さらに,経験回数と到達度との関係を明らかにするために,Mann–WhitneyのU検定を用いて,「経験なし」群と「1~2回」群,「経験なし」群と「3回以上」群の比較を行った.すべての統計解析はIBM SPSS 20.0J for Windowsで行い,有意水準は5%未満(p<.05)とした.
5.倫理的配慮対象者の所属する看護系教育機関の看護学科長,あるいは学校長,副学校長,教育主事のいずれかに研究の趣旨を伝え,許可を得たのちに,対象者に文書にて説明し,無記名の自記式質問紙を配布した.回収については,対象者は個別の封筒に入れた後に各学校の回収箱あるいは回収袋に提出するようにし,後日,学校ごとに郵送を依頼した.その際,質問紙の記入をもって研究協力の同意が得られたものとした.なお,本研究は岡山大学大学院保健学研究科看護学分野倫理委員会の承認(T11-13)を得て実施した.
対象者学生422人のうち,337人から回答を得た(回収率79.9%).そのうち,90%以上回答のあった300人を分析対象とした(有効回答率89.0%).
1.基本的属性性別では,男性15人(5.0%),女性281人(93.7%),不明4人(1.3%)で,平均年齢は,22.1(SD2.73)歳(範囲:20–43歳),附属病院については,大学1校と専門学校2校が附属病院で実習しており,188人(62.7%)が該当した.また,社会人は,24人で全体の8.0%を占めていた(表1).
技術経験の実態については,表2に示した.29技術のうち,経験率が80%以上は,「ベッドメーキング」「おむつ交換」「車椅子移送」「臥床患者の体位変換」「輸液ライン等の入っていない臥床患者の寝衣交換」「チューブ類の留置のない臥床患者の全身清拭」「臥床患者の陰部洗浄」「足浴」「嚥下障害のない患者の食事介助」「点滴の管理(漏れや止まっていないかの観察)」「点滴の管理(副作用の観察)」「血圧測定」「体温測定」「脈拍測定」「ゴム製の氷枕の準備」の15技術であった.そのうち,全員が経験していた技術は「血圧測定」「体温測定」「脈拍測定」であり,90%以上が「車椅子移送」「チューブ類の留置のない臥床患者の全身清拭」「足浴」「嚥下障害のない患者の食事介助」の4技術であった.
一方,経験率が50%以下の技術,つまり半数以上の学生が経験していなかった技術は,「床上での尿器挿入」「床上での便器挿入」「ゴム製の湯たんぽの準備」「酸素吸入療法(管理)」「ネブライザーの管理」「滅菌物の取り扱い」「ガウンテクニック」の7技術であった.
3.到達度の実態到達度80%以上の技術は,「ベッドメーキング」「車椅子移送」「足浴」「嚥下障害のない患者の食事介助」「血圧測定」「体温測定」「脈拍測定」「ゴム製の氷枕の準備」の8技術であり,先ほども述べたように,経験率は80%以上であった.一方,到達度が80%未満の技術は,到達度の高い順に「チューブ類の留置のない臥床患者の全身清拭」「ゴム製の湯たんぽの準備」「輸液ライン等の入っていない臥床患者の寝衣交換」「臥床患者の陰部洗浄」「点滴の管理(漏れや止まっていないかの観察)」「臥床患者の体位変換」「おむつ交換」「臥床患者の洗髪」「入浴時の断続的観察」「綿棒を用いた口腔ケア」「点滴の管理(副作用の観察)」「床上での尿器挿入」「臥床患者のシーツ交換」と続き,50%以下は「床上での便器挿入」「滅菌物の取り扱い」「膀胱留置カテーテルの管理」「ガウンテクニック」「ネブライザーの管理」「ストレッチャー移送」で,到達度30%以下は「輸液ライン等の入っている臥床患者の寝衣交換」「酸素吸入療法(管理)」の2技術であった.到達度が27.8%と最も低い「酸素吸入療法(管理)」は,経験率も49.2%であり学生の半数以上が未経験であった.
4.各技術の到達度が影響される因子各技術の到達度が,5因子「教育課程」「性別」「附属病院の有無」「社会人」「経験の有無」に影響されているかを明らかにするために,大学生86人,専門学校生152人の計238人を対象として,判別分析を行った(表3).
正準判別関数係数の結果より,すべての技術の「1人でできる」に寄与する因子は「経験の有無」であった.特に,「臥床患者のシーツ交換」「おむつ交換」「床上での尿器挿入」「床上での便器挿入」「膀胱留置カテーテルの管理」「車椅子移送」「臥床患者の体位変換」「輸液ライン等の入っていない臥床患者の寝衣交換」「輸液ライン等の入っている臥床患者の寝衣交換」「チューブ類の留置のない臥床患者の全身清拭」「臥床患者の洗髪」「足浴」「入浴時の断続的観察」「綿棒を用いた口腔ケア」「嚥下障害のない患者の食事介助・援助」「点滴の管理(漏れや止まっていないかの観察)」「点滴の管理(副作用の観察)」「ゴム製の氷枕の準備」「ゴム製の湯たんぽの準備」「酸素吸入療法(管理)」「ネブライザーの管理」「滅菌物の取り扱い」「ガウンテクニック」の23技術は「1人でできる」に「経験の有無」が最も寄与していた.残り3技術のうち,「ベッドメーキング」「臥床患者の陰部洗浄」の2技術は「教育課程」の専門学校,「ストレッチャー移送」は,「性別」の男性がそれぞれ最も高い寄与率を示していた.
5.経験回数別の到達度の実態「血圧測定」「体温測定」「脈拍測定」の3技術はすべて3回以上経験し,到達度も100%であったため分析対象から除外し,残りの26技術を分析した.各技術で「経験なし」群の到達度は,「ベッドメーキング」が73.1%と最も高く,最も低い技術は,「点滴の管理(副作用の観察)」3.6%と技術により幅広く分布していた.すなわち,臨地実習で技術の経験がない場合の到達度は,技術によって異なることを示していた.
実施回数による到達度については,「経験なし」群と「1~2回」群とを比較した場合,「おむつ交換」「床上での尿器挿入」「床上での便器挿入」「輸液ライン等の入っていない臥床患者の寝衣交換」「輸液ライン等の入っている臥床患者の寝衣交換」「臥床患者の洗髪」「臥床患者の陰部洗浄」「足浴」「入浴時の断続的観察」「綿棒を用いた口腔ケア」「嚥下障害のない患者の食事介助・援助」「点滴の管理(漏れや止まっていないかの観察)」「点滴の管理(副作用の観察)」「ゴム製の氷枕の準備」「ゴム製の湯たんぽの準備」「酸素吸入療法(管理)」「ネブライザーの管理」「滅菌物の取り扱い」「ガウンテクニック」の19技術では,経験を1~2回することで到達度が有意に向上し,残りの7技術は向上しなかった.つまり,19技術では,「経験なし」群と比べて「1~2回」群が,到達度の向上に有効であることが明らかとなった.さらに,「経験なし」群と「3回以上」群では,すべての技術で到達度が有意に向上したことより,「3回以上」経験することで,すべての技術の到達度の向上に有効であることが明らかとなった.
看護学生の卒業前の看護技術の到達度は,全員が血圧測定,体温測定,脈拍測定は「1人でできる」と回答していたものの,「酸素吸入療法(管理)」など患者に侵襲を与える危険性の高い技術や,患者が学生に対して羞恥心を抱く排便の援助などは,半数以上の学生が「1人でできない」と回答していた.到達度に最も影響される因子は,臨地実習での「経験の有無」が26技術中23技術に影響され,「教育課程」の専門学校が2技術,1技術が「性別」の男性に影響されていた.このことより,技術によって到達度に影響される因子が異なることが示唆された.また,臨地実習で技術を3回以上経験することが,到達度の向上に有効であることも明らかとなった.
1.臨地実習での看護技術の経験率と到達度の実態対象技術29技術のうち,「血圧測定」「体温測定」「脈拍測定」の3技術は,経験率100%で,経験回数が3回以上であった.これまでにも,血圧測定などバイタルサインの測定については,経験回数も多く(浅川ら,2008)ほとんどの学生が「1人でできる」と実感し,臨地実習で到達できている技術とされている(木村ら,2011;小島ら,2012;西田ら,2008)が,本研究でも同様の結果であった.
一方,経験率が50%以下の技術は,「床上での便器挿入」「床上での尿器挿入」「ゴム製の湯たんぽの準備」「酸素吸入療法(管理)」「ネブライザーの管理」「滅菌物の取り扱い」「ガウンテクニック」の7技術であり,先行研究(遠藤ら,2007;中原ら,2006)と同様の結果であった.これら7技術の経験率の低下の要因として羞恥心を伴う技術や,患者への侵襲のリスクの高い技術であるため,臨地実習での経験の機会が限られていることが影響していると考える.
2002年に日本看護協会が行った調査では,新卒看護師の7割以上が入職時1人でできると認識していた技術は,看護基本技術103項目のうちわずか4項目であり(國井,2003),2008年に発表された西田ら(2008)の研究でも,「1人でできる」と自覚している技術はバイタル測定100%,車椅子移動100%,足浴98%,ベッドメーキング97.9%,食事介助91.9%であった.また,福井(2009)は,入職直後の3447人の新人看護師を対象として看護基本技術の実態調査を行ったが,99項目の技術に対して「1人でできる」と答えた割合は,「基本的なベッドメーキング」が84.8%であったが,本研究では90.3%であった.同様に「呼吸,脈拍,体温,血圧を正しく測定」は83.1%で本研究では100%,「清拭」66.1%に対して本研究では79.0%,「車椅子での安全な介助・移送」は64.0%で,本研究では92.3%,「洗髪」56.2%に対して63.7%,「寝衣交換」51.1%で76.0%,「オムツ交換」42.0%であったのに対して本研究では,65.3%と本研究結果は福井の結果より,ほとんどの技術で到達度が向上していた.つまり,2008年以降,学生にとって「1人でできる」を実感できる技術が増加している可能性が示された.
2.到達度に影響される因子本研究では,到達度に影響される因子を明らかにするため,「教育課程」「性別」「附属病院の有無」「社会人」ならびに「経験の有無」の5因子を説明変数としてダミー変数化し判別分析を行った.その結果,26技術すべての「1人でできる」に寄与していたのは「経験の有無」であり,経験することが到達度に寄与すること(青木ら,2006)が改めて示唆された.特に,26技術中23技術は5因子の中で「経験の有無」が寄与していたことからも,臨床実習で実際に患者に実施した経験があることが到達度に大きく貢献することが示唆された.また,残り3技術のうち,2技術の「ベッドメーキング」「臥床患者の陰部洗浄」は「教育課程」の専門学校が最も寄与し,「ストレッチャー移送」は,「性別」の男性が最も寄与していた.つまり,「ベッドメーキング」「臥床患者の陰部洗浄」の2技術は「教育課程」の専門学校により影響を受けたものと思われる.なかでも,「ベッドメーキング」は,経験がない場合でも到達度が73.1%と他の技術より高かったことから,学内での講義・演習内容が影響されたと思われる.同様に,「臥床患者の陰部洗浄」も,「専門学校」が到達度に影響されていたことから,専門学校と大学では,修業年限が異なり,その中で実習指導方法や実習時間数の違いが,到達度に影響されたと思われる.
残りの1技術「ストレッチャー移送」は,「性別」の男性が最も寄与率が高かったことから,到達度に影響されていたと思われる.男性看護師のやりがいについての研究(村住ら,2006)によると,男性の力強さは,安楽に安心して移乗や力のいる介助ができ,患者の信頼関係も築けるとあるように,学生にとっても,ストレッチャー移乗は,力のいる技術であり,女性より男性がやりがいを感じることで,より到達感の得られる技術であったと思われる.
3.リアリティーショックを回避する経験回数日本看護協会が実施した調査(日本看護協会,2013)によれば,新人看護師の離職率は2009年度が9.2%, 2011年度は7.5%と減少している.その背景には,カリキュラム改正や臨床研修制度など様々な取り組みが奏功したものといえよう.しかしながら,看護師を確保し質の高い看護ケアを維持するためには,看護職の離職防止を検討し続けていかなければならない.新人看護師の離職の原因の1つとして,リアリティーショックが挙げられ,さらに,リアリティーショックはその後のキャリア発達に影響しているといわれている(Kramer, 1974).できるだけ,リアリティーショックを最小限に止めることが離職率や質の高い看護師の育成には重要とされている(高橋ら,2011)ことからも到達度を向上することが,自らがポジティブな感情を増やし,ネガティブな感情を減少する支援(高橋ら,2011)となり得る.特に臨地実習での技術の経験は,学生にとって技術への自信となり,その結果,肯定的な自己評価を可能とする(川嶋ら,2003).本研究結果においても,ほとんどの技術で,「経験あり」群が「1人でできる」に影響されていたことから,先行研究(犬飼ら,2012;野戸ら,2004)を踏襲する結果といえよう.さらに,単に「経験あり」だけでなく,到達度は「経験なし」群より「3回以上」群で有意に高くなっていたことより,経験の有無だけでなく,繰り返し経験することが到達度の向上には欠かせないものといえよう.
近年,シミュレーション教育(村井ら,2011)や,認知・精神運動・情意領域を含む教育方法と客観的な評価方法のシステム化を目的としたObjective Structured Clinical Examination(OSCE)(光木ら,2011)の効果について報告されているが,臨地実習での経験に限界が生じるならば,こうした教育方法を取り入れ,なおかつ,臨床の環境に近い状況を創りだし,学内で練習を積むことも有効かもしれない.今後は,少しでも学生1人1人が「1人でできる」を実感できるよう,到達度を向上するための教育方法についてさらに検討を加え,有効な教授方法,実習方法を明らかにしていくことが必要と考える.
本研究では,一般化を目指し,中国地区の複数の看護系教育機関を対象としたが,地域が限定されており,一般化までには至らなかった.しかしながら,複数の看護系教育機関を対象としたことから,異なる教育課程や性別,経験の有無がそれぞれの技術の到達度に影響することが本研究によって初めて明らかとなった.
また,本研究は技術の到達度を学生の認知により判断したものである.つまり,個人の目標や評価基準に照らした評価(梶田,2001)であり,必ずしも各技術の到達度を正確に評価しているとはいえない.
さらに,本研究は横断的調査であったため,技術の経験回数によって自己評価が形成されていくか否かは断定できない.しかしながら,臨地実習中に技術を経験する中で「1人でできる」を実感し,到達度の向上へとつながる可能性が示唆された.今後は,客観的な評価も加えながら到達度を縦断的に調査し検討する必要があると考える.
卒業前の看護学生の臨地実習における29技術について技術経験の実態と主観的な到達度について調査した.血圧測定をはじめとするバイタルサインの測定については,全員が3回以上経験し,「1人でできる」と実感していたものの,排泄の援助技術など7技術については半数以上の学生が,臨地実習で経験していなかった.
技術の到達度には,「経験の有無」や「教育課程」,「性別」が影響されていた.特に,26技術中23技術で到達度「1人でできる」に,経験が最も影響されていた.経験回数による到達度の比較では,「経験なし」群と「1~2回」群,「経験なし」群と「3回以上」群を比較した結果,すべての技術で「3回以上」群が有意な上昇を認め,臨地実習では,到達度を向上するためには「3回以上」経験することが有効であることが明らかとなった.つまり,「1人でできる」まで到達するためには,単に経験の有無だけでなく,経験回数も3回以上経験することが重要と思われる.
本研究にご協力いただきました学生の皆様に心から感謝申し上げます.
なお,本研究は平成23年度岡山大学学長裁量経費の助成を受けたものである.本研究の一部は,第40回日本看護研究学会学術集会(2014年8月)にて発表した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SOは研究の全プロセスに貢献;AOは研究のデザイン,原稿への示唆.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.