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The Meaning of Peer Support among People with Psychiatric Disabilities upon Recovery
Yuki Hamada
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2015 Volume 35 Pages 215-224

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Abstract

目的:精神障害をもつ人のリカバリーにおけるピアサポートの意味を明らかにすることである.

方法: Denzinの解釈的相互作用論を理論的前提とする質的研究デザインである.精神疾患と診断され,電話相談によるピアサポートを行う人20名に,リカバリーにおけるピアサポートの経験について半構成的面接を行った.

結果:リカバリーにおけるピアサポートの意味は,1. 他者との出会いによって固有の人生を生きること,2. 他者の幸せに自分を生かすこと,であった.〈他者との出会いによって固有の人生を生きること〉は,1)精神病による画一性からの解放と,2)固有の人生を模索すること,という様相から,〈他者の幸せに自分を生かすこと〉は,1)痛み・気遣い,2)ありのままを受け入れてもらう経験,3)つながり・連帯,4)他者に対する有責感,5)他者支援に自分を生かすこと,6)意味ある人間関係を本質とする仕事,という様相から捉えられた.

考察:Lévinasの他者論から,これらの結果は,「他者」との出会いによる固有性の再獲得と,痛みをもつ他者に対する倫理的な応答としての主体性の確立と解釈された.

Ⅰ.はじめに

20世紀に入り,精神障害をもつ人の主観的な回復の実体験を意味する「リカバリー」という概念が,障害をもつ人々の手記を源泉として生じてきている(Anthony, 1993/1998).今,この新しい回復の概念である「リカバリー」を理解し,看護専門職としてリカバリーを促進するための支援方法を構築することが求められている.

米国は,2003年に大統領新自由委員会によるメンタルヘルスの報告書において,メンタルヘルスケアの目標はリカバリーであることを明示した(The President’s New Freedom Commission On Mental Health, 2003).またリカバリーが生じるのに,精神障害の経験をもつ人々による対等で相互的な支援である「ピアサポート」が重要な契機となることが明らかになってきた(the National Association of State Mental Health Program Directors, 以下NASMHPDとする,2003).ピアサポートは専門家が提供し得なかったリカバリー指向のオルタナティブな支援を提供してきた歴史をもつ.米国では,ジョージア州で2001年に認定ピアスペシャリスト制度が創設され,州によって保険の償還対象となっている.米国保健福祉省の薬物乱用・精神衛生管理庁(Substance Abuse & Mental Health Services Administration, 以下SAMHSAとする,2011)によるリカバリー指向の実践を行うためのプロジェクト“Recovery to Practice”は,認定ピアスペシャリストを含む6専門職団体と協働したプロジェクトであり,いまやリカバリー指向のメンタルヘルスシステムの構築にピアサポートは欠くことのできないものとなっている.米国精神科看護師協会もこのプロジェクトに参加し,リカバリー指向の看護ケアの構築を研究・実践のレベルで行っている(The American Psychiatric Nurses Association, 以下APNAとする,2011).

一方我が国をみると,1960年代頃より患者会やセルフヘルプ活動が発展してきた歴史があるが,リカバリー概念の導入が遅れ(野中,2005),ピアサポートの実践は欧米に比べて発展しているとはいえない状況にある(濱田,2014).看護専門職として,リカバリーを促進するための支援方法を構築するために,すでに我が国においてピアサポートを実践している人々の経験から,リカバリーに有効とされるピアサポートがどのような意味をもつのかを学び,日本の社会制度との関連で検討する必要がある.そのことにより,障害をもつ人の主観的な回復の経験を中心に据えた看護学の構築に示唆を得ることができるものと考える.

Ⅱ.研究目的

本研究の目的は,精神障害をもつ人のリカバリーにおいてピアサポートの経験がどのような意味をもつのかを明らかにすることである.

Ⅲ.用語の定義

本研究では,ピアサポートを「同じ経験をもつ者同士の支え合い」と定義した.ピアサポートには,自然発生的なものから,ピア電話相談やピアカウンセリングのように組織的に提供されるものまでさまざまな形態がある.またピアサポートは,ピアサポートを受けること,ピアサポートを提供することの両方を含む相互的な関係である.本研究では,これらのすべてのピアサポートの経験を捉えるものとした.

リカバリーについては文献検討(Deegan, 1988; Ragins, 2002/2005)から,「障害への挑戦を受け入れ,克服し,人間らしく生きられるという実体験であり,希望,エンパワメント,自己責任,生活の中の有意義な役割,関係という要素を特徴とする過程である」と定義し,すべての人がリカバリーの過程にあるものとして理解した.

Ⅳ.研究方法

1.研究デザイン

本研究の研究デザインは,Denzin(1989/1992)の解釈的相互作用論に基づいた質的帰納的研究デザインである.解釈的相互作用論は,ハイデッガーらの現象学,解釈学とシンボリック相互作用論とを統合するものであり,「個人的トラブルとこれらの個人的諸問題をゆだねるために作り出された公的な諸政策や諸制度との関係性を検討するために用いられる」研究方法論である(Denzin, 1989/1992).その主題は,個人誌的経験であり,エピファニーと言われる「人びとの生活の中の転換点」を証言する物語,説明,語りの収集と分析に基づく(Denzin, 1989/1992: 46).

精神障害をもつ人の個人誌であるリカバリーの過程において,ピアサポートは生活の転換点となるような相互作用を含む可能性が高く,それらの経験から我が国の精神障害者支援の諸制度を検討できる点において,解釈的相互作用論は本研究に適した理論であると考える.

2.研究参加者の選定基準と募集

研究参加者の選定基準は,精神科に通院し,ピアサポートの一形態である電話相談(以下,ピア電話相談とする)を過去3年間のうちに半年以上経験したことのある者とした.研究参加者をピア電話相談を行う人に限定したのは,意図的なピアサポート提供の経験をもつことで,それまでの自然発生的なものも含めたピアサポートの経験を言語的に語ることが可能であると考えたからである.また物質関連障害では,独自のピアサポートの歴史や活動形態があるため,物質関連障害のみの診断の者は除外した.

研究参加者の募集は,ピア電話相談を実施する精神保健福祉施設または精神障害者当事者団体等への依頼,および研究者のネットワークを通じた雪だるま式サンプリング法で行った.

3.調査期間

調査期間は2013年2月から2014年3月であった.

4.調査方法および分析方法

インタビューガイドを用いて半構成的インタビューを行い,研究参加者に「自分自身のリカバリーにおいてどのようなピアサポートを経験したか」について自由に語ってもらった.インタビューは研究参加者各1回で,平均インタビュー時間は82分であった(範囲:50~113分).データの解釈は,解釈的相互作用論における個人誌を解釈する方法(Denzin, 1989/1992)によって行った.研究参加者が語るリカバリーストーリーという個人誌の中で語られたピアサポートの経験を単位として下位に分化し,それらが研究参加者のリカバリーという個人誌においてどのような意味をもつのかを解釈し,テーマをつけた.各研究参加者の経験およびテーマを比較・検討することから,精神障害をもつ人々が共通して経験するピアサポートという相互作用の様相と,それらの様相が構成するリカバリーにおけるピアサポートの意味を抽出した.

5.倫理的配慮

研究参加者に対して説明文書をもとに,本研究の趣旨,研究方法,倫理的配慮等について説明を行い,同意書への署名によって研究参加への意思を確認した.インタビューは研究参加者の希望にそって場所や時間を設定し,インタビューによる心理的負荷が生じる場合には中断の申し出を予定するなど,不利益が最小限となるよう配慮した.研究参加者の氏名等個人を特定する情報については,連結可能匿名化し,結果の公表の際の匿名性を確保した.本研究は東京女子医科大学倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号2737).

Ⅴ.結果

1.研究参加者の概要

研究参加者は20名であり,性別は男性15名,女性5名,年齢は31歳から69歳(平均47.2歳,SD=11.61)であった.診断名は統合失調症が12名,気分障害が6名,解離性障害が1名,不明が1名であった.ピア電話相談の経験年数は,7か月が3名,1年以上5年未満が2名,5年以上10年未満が11名,10年以上が4名であった.

研究参加者は全員,調査時点においてピア電話相談を行っていた.地域活動支援センターや精神障害者当事者団体等で電話相談を行っている者は,非常勤職員,有償ボランティアなどの形で,ピア電話相談に対する賃金報酬を得ていた.自宅で電話相談を行っていた3名は,電話相談を当事者活動の一環として行っており,かかる経費を自己負担していた.ピア電話相談を行うにあたり,18名はピア電話講座やピアカウンセリング講座を受講するなどのトレーニングを受けており,2名は特に何もしていないと回答した(表1).

表1 研究参加者の背景

2.精神障害をもつ人のリカバリーにおけるピアサポートの意味

精神障害をもつ人のリカバリーにおけるピアサポートの意味は,1. 他者との出会いによって固有の人生を生きること,2. 他者の幸せに自分を生かすこと,という2つの意味で捉えられた.〈他者との出会いによって固有の人生を生きること〉という意味は,1)精神病による画一性からの解放,2)固有の人生を模索すること,というピアサポートの経験の様相として見ることができた.〈他者の幸せに自分を生かすこと〉という意味は,1)痛み・気遣い,2)ありのままを受け入れてもらう経験,3)つながり・連帯,4)他者に対する有責感,5)他者支援に自分を生かすこと,6)意味ある人間関係を本質とする仕事,というピアサポートの経験の様相として見ることができた.

各研究参加者のリカバリーにおけるピアサポートの意味に関するテーマの一覧は表2の通りである.ピアサポートの経験を示す研究参加者の語りを用いながら,ピアサポートの意味とそれを示す様相の詳細について述べていく.

表2 研究参加者のリカバリーにおけるピアサポートの意味:研究参加者ごとのテーマ

1)他者との出会いによって固有の人生を生きること

精神障害を経験した人々は,「精神病になってしまった」という思いや,「精神障害」という画一的なイメージに囚われて苦しんでいたが,ピアサポートを通じて同じ精神病になっても人はさまざまであることに気づく経験をしていた.この気づきは,《精神病による画一性からの解放》をもたらし,自分はどう生きるのかを考える契機となり,その後さまざまに《固有の人生の模索》をしていた.精神障害をもつ人のリカバリーにおいてピアサポートは,《精神病による画一性からの解放》,《固有の人生を模索すること》という様相として見ることができ,〈他者との出会いによって固有の人生を生きること〉という意味をもつものとして解釈できた.

(1)精神病による画一性からの解放

《精神病による画一性からの解放》とは,精神疾患の診断を受けることで「精神病」がもつ画一的なイメージに囚われていた人が,ピアサポートを通じて同じ精神疾患をもっていても人がさまざまであることに気付き,その画一性から解放されることである.

Aさん(30代女性,解離性障害)は次のように語っている.

「私がやっぱり考え方を変えたのは,今まで自分がもう精神疾患だっていう自分に偏見を抱いていたものを,自分の立場と似ている人といろんな話をすることで,話した人の数だけ考え方とかそういうふうな数になるわけで,それを知ることで私も,精神疾患っていうものに囚われていないで,確かに私は病気になっちゃったんだけれど,これからどう生きていくのかっていうことに考えがシフトしていったんですよね.」

またEさん(30代男性,統合失調症)は,病気のために就職や結婚がうまくいかないことが「普通」からのドロップアウトと感じられて,長く苦しんだと語った.「精神病」に囚われることの裏返しのように「普通」に囚われていたが,その後精神病になっても前向きに生きる人たちがいることを知り,自分自身も前向きになることができたと振り返った.

ピアサポートを通じてさまざまな生き方をする他者と出会うことは,「精神病」がもつ画一的なイメージへの囚われから解放され,本来の自分の人生を生きることを取り戻す契機となっていた.すなわちピアサポートは,〈他者との出会いによって固有の人生を生きること〉という意味をもっているものと解釈された.

2)固有の人生を模索すること

ピアサポートによって,精神疾患をもっていても自分と異なる生き方をする他者と出会うことを通じて,その後それぞれが自らの生き方を模索していた.

研究参加者は,ピア電話相談の中で自分の傾向を理解したり,当事者会の立ち上げやイベントの企画等仲間とするなかで,病気になって見失っていた本来の自分だと思える自分を取り戻したりしていた.また,一方で,障害をもって生きる人々の生き様から,病気をもちながら生活することを具体的に理解し,その後の自分の人生を生きることができるようになっていた.中には,新たな職種としてのピアスタッフとしての自分の生き方を模索したり,専門職と協働した新しい当事者活動のあり方を模索するなど,ピアサポートを通じて新たな生き方を獲得している人もいた.

このようにピアサポートという他者との相互作用を通じて,自分の人生の課題を理解したり,自分の人生を生きていくという,固有の人生を模索する契機となっていたのである.すなわちピアサポートは,〈他者との出会いによって固有の人生を生きること〉という意味をもつものと解釈された.

3.他者の幸せに自分を生かすこと

精神障害をもつ人のリカバリーにおけるピアサポートのもう一つの意味は,〈他者の幸せに自分を生かすこと〉というものであった.これは,1)痛み・気遣い,2)ありのままを受け入れてもらう経験,3)つながり・連帯,4)他者に対する有責感,5)他者支援に自分を生かすこと,6)意味ある人間関係を本質とする仕事,という6つの様相から見ることができた.

1)痛み・気遣い

ピアサポートという相互行為は,自らも精神障害を経験しているがゆえに感じられる痛みを感じることによって他者を気遣うものであり,ピアサポートは〈痛み・気遣い〉という様相としてみることができた.

Eさん(30代男性,統合失調症)が担当するピア電話相談では,7割方が常連と言われる人たちで,彼らは長年にわたって電話をかけ続けている人たちである.Eさんは一時の辛さや痛みを和らげたいというような思いで話を聞いているが,しかしながらそのような彼らに気遣ってもらったり,励まされることも多く,その相互性が専門職との関係とは違ってよいと感じている.

「ピアの電話相談にかけてくる方って7割以上が常連の方なんですね.もう何年も携わって,顔も名前もちゃんと知らない方が多いんですけど,もしもしって声を聞くとあの人なんだなって.だからその7割以上を占める常連の方と話すことっていうのは,リカバリーっていうよりもなんて表現すればいいのかわからないんですけど,一時の辛さとか痛みを和らげたいっていうニュアンスのほうが強いって気が僕もしてますね.」

ピアサポートは,互いに痛みに寄り添い気遣う経験であり,それは痛みを経験した身をもって他者を気遣うことが可能となるものであり,すなわち〈他者の幸せに自分を生かす〉という意味として捉えることができるものである.

2)ありのままを受け入れてもらう経験

相手の痛みを感じ,気遣うというピアサポートの相互作用は,もう一方側の経験として,弱さをもつ自分をありのままを受け入れてもらうという様相としてみることができた.

Qさん(60代男性,統合失調症)は,病気である自分を認めることができるようになった理由として,ピアである仲間が自分を受け入れてくれたことについて,次のように述べている.

「自分が病気だとね認めた時にね,すごく落胆がありました.というのは,病気でしかなかったんだなっていうかね.それまで16年間,何のために戦ってきたんだろうなっていう,一人相撲にすぎなかったのかなっていう落ち込みがあって.病気だっていうことを認めてしまうことで,自分のできない部分のほうに目が向いてしまったんですね.根気力がないとか,注意力がないとか,疲れやすいとか,そういう自分のできない部分があって.その頃やっぱり自殺考えました.そういう落ち込みを救ってくれたのが私の場合はやっぱり仲間でした.まあ生きてていいんだよって声にだしてそんなことは言わないですけれども,触れ合う中でね.こんな私でも生きてていいんだなっていうふうに思わせてくれたというか.そういうのは仲間の力が大きかったですね.」

リカバリーにおいてピアサポートは,同じ痛みをもつ仲間に,弱さをもつ自分をありのままに受け入れてもらうという経験であり,痛み・気遣いを受ける相互性から,〈他者の幸せに自分を生かすこと〉という意味として捉えるものとした.

3)つながり・連帯

つながり・連帯は,相手の痛みを感じ,気遣うことからさらに互いに近づき,同じ痛みをもつもの同士がつながり・連帯をもつことで互いに力を得るという様相である.

Cさん(30代男性,統合失調症)は,自殺未遂後の絶望的な状況の中でインターネットを通じて統合失調症をもつ人々とつながり,現在では統合失調症をもつ人たちの話し合いを掲載するウェブサイトを仲間と数人で運営するようになっている.ウェブサイトでは,自分たちにしか語れないことを語らなければならないと話している.

「(ウェブサイトでは)うちらしか語れないこと語らないとだめだよねって.タブーとされてた自殺のことも扱ったし,タブーとされてた出産と子育てっていうテーマに対しても,(当事者活動の仲間から)“実は妊娠して出産することになったから”って言われて…(中略)…いろんな人が親が統合失調症だと子供にも遺伝するよっていうけど,実際どうなんだろうと思って,僕が専門書を読んでまとめて掲載して.」

同じ経験をした当事者として互いにつながり,連帯をもつことによって,社会に対して当事者としてのメッセージを発信するような力を得ているのである.社会に当事者としてメッセージを発信することは,同じ障害をもつ仲間のための活動となっており,〈他者の幸せに自分を生かすこと〉というピアサポートの意味を示す一つの様相として理解できるものである.

4)他者に対する有責感

これは,精神障害をもつことによって傷ついた他者を前にして,同じ痛みをもつ自分が何かをしなければいけないと思い立つ様相である.精神障害という同じ痛みを経験した者として,目の前にいる具体的な誰かのためだけではなく,まだ見ぬこれから現れる他者が同じ思いをしないようにという思いのなかで生じている.そのような思いは,〈他者の幸せに自分を生かすこと〉という意味として理解することができる.

Kさん(60代女性,統合失調症)は,姉の精神病の発病を経験した後に,結婚して二人の子供の子育てをしている最中,自分自身も統合失調症を発病した.姉の発病では仕事や親族の結婚などで精神障害に対する無理解や偏見を実感したという.新聞で全国精神障害者団体連合会の結成を知り,姉や自分の発病で経験した周囲の無理解から,自分が活動しなければという思いで当事者活動に参加するようになった.病気そのものの辛さと家事も子育てもしなければならなかった自分自身の苦労や,子供たちにさせた苦労を思うと,他の人にこういう辛い思いをさせたくないという気持ちから当事者団体の運営に関わり,自宅を事務局に電話相談を行ってきた.自分は仲間と子供によって回復してきたと思うので,その姿をみてもらい少しでも前にすすんでほしいと思っている.

「私が精神障害者になって,子供たちに苦労かけたから,もう2度とそういう苦労をね,味あわせたくないっていうかね,みんなにね.できるならそういう苦労がないようにって.死にたいって言われたら,家族の人がどんなに悲しい思いをするかわからないから,携帯番号教えて,いつでも電話してきてくださいって言って.」

こうしたピアサポートは,病いや障害の経験の中で自分や仲間が味わった無念や苦労を,それを味わった者の責任として自分たちの他に味あわせてはいけないという強い意志によるものである.このようなピアサポートは他者に対する有責感という様相として見ることができ,〈他者の幸せに自分を生かすこと〉の例として理解することができるものである.

5)他者支援に自分を生かすこと

他者支援に自分を生かすこととは,これまでの病いや障害をもってからの人生の中での経験や学びを他者の支援の中で生かすことである.

Gさん(30代男性,統合失調症)は,小学校のいじめと不登校をきっかけに始まった苦悩の経験から,「人間誰しも失敗することがあっていい,許せばいい」という学びを得て,自分もそうしかできないからこそ,他の人もそうであっていい,支援というものはそうするものだという思いをもつに至っている.電話相談では,相手の話のなかに自分も同じような経験をしたと思うことがあり,そのことによって癒されたり,やりがいを感じることがある.そういった仕事の中で,自分も人も同じように失敗し許されているのだという思いが重なる機会になっている.それは苦悩の中で到達した思いを,支援という具体的な行為で表現し,共有する方法となっていた.

「それでも失敗することあるじゃないですか? そういうことがあっても,人が失敗しても許してあげればいいんだっていう気持ちで生きています.そうするしかないでしょう,自分だってしちゃうんだから.」

リカバリーにおいてピアサポートは,病いや障害のなかで学んだ自分の経験を他者支援に生かす経験であり,それはすなわち他者支援に自分を生かすという様相としてとらえることができ,〈他者の幸せに自分を生かすこと〉を意味するものとして理解することができる.

6)意味ある人間関係を本質とする仕事

ピアサポートは,その関係そのものが意味のある人間関係として感じられ,それらを提供する活動が有意義な仕事として経験される様相としてみることができた.

人間関係が苦手だったBさん(60代男性,うつ病)にとって,ピア電話相談は,職員にすすめられて始めたものであった.しかしピア電話相談の講座などを通じて「傾聴する」ということがわかるようになってからはだいぶ楽になり,やめようかと思う時もあるものの,人間関係の大事な部分であるような気がしてやめずに8年間続けている.

「(ピア電話相談は)やめようと思って説得されて続いたっていうのがあるんですけど.やっぱり,自分に大事な部分なんですよね.それは1対1で大事なことを話すって,なかなか日常生活にないことなんですよね.1週間に1ぺんとか2へんとか,お互いに話す,そうするとこう人間関係の練習って言っちゃおかしいですけど,人間関係のなんかこう基礎みたいな部分で,感情のやりとりっていうか,そういうのができるっていうのがあって.うまくできた時には充実感っていうか,そういうのもありますし.」

リカバリーにおいてピアサポートは,有意義な,意味ある人間関係を本質とする仕事という様相としてみることができ,〈他者の幸せに自分を生かすこと〉という意味をもつものとして理解することができる.

Ⅵ.考察

1.固有の人生を取り戻す契機としてのピアサポート

本研究の結果から,精神障害をもつ人のリカバリーにおけるピアサポートの一つの意味は,〈他者との出会いによって固有の人生を生きること〉として捉えることができた.リカバリー概念に関しては,さまざまな定義があるが,個人の中で起こる唯一の過程,すなわち「固有のプロセス」であることは,その本質的な特徴である(Anthony, 1993/1998; Deegan, 1988; SAMHSA, 2011; Ragins, 2002/2005).その「固有性」を取り戻すことに,同じ精神病・精神障害になっても人はさまざまであるということに気付く契機としてピアサポートが貢献していたと言える.精神病・精神障害にはスティグマが付与され,精神障害者のすべての行動を精神病に帰属させる社会的作用があることが指摘されている(Rapp & Goscha, 2012/2014).リカバリー概念がインパクトをもって迎えられたのは,精神障害が人生の一部にしかすぎないことを改めて理解することの重要性を示したからである(Deegan, 2001/2012).ピアサポートは,その〈精神病という画一性からの解放〉をもたらし,そのことによって〈固有の人生を模索すること〉を可能とするものであり,まさにリカバリーに欠くことのできない貢献をしているものと考えられた.

現在,我が国における精神保健医療福祉施策へのピアサポートの導入は,「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」の実施要綱にピアサポートの活用が明文化され,活動費用が計上されているのみである.ピアサポートはさまざまな形で行われているが,ピアサポートに特化した法的,財政的保証は行われていない(濱田,2014).対等で相互的な関係であるピアサポートは,専門職が提供する保健医療福祉とは異なる,固有の人生を生きるというリカバリーへの独自の貢献をするものと考えられる.自然発生的なピアサポートだけでなく,さまざまな機会にピアサポートにアクセスできるように精神保健医療福祉施策を整備していくことは,リカバリー志向の社会構築にむけた課題である.

2.主体性が生じる契機としてのピアサポート

精神障害をもつ人のリカバリーにおけるもう一つのピアサポートの意味は,〈他者の幸せに自分を生かすこと〉であった.精神障害による痛みを先に経験した者として,同じ痛みをもつ者に対し,《痛み・気遣い》を持ち,それは同時にその相互作用のもう一方側の経験として《ありのままを受け入れてもらう経験》であり,《つながり・連帯》へと通じ,《他者に対する有責感》となって,ピアサポートをする人自身にも力を与えるものとなっていた.ピアサポートという活動の中で,これまでの病いや障害をもってからの人生の中での経験や学びを《他者支援に自分を生かすこと》であり,それは《意味ある人間関係を本質とする仕事》という様相からみることができた.

こうした他者との関係のあり方は,どのようにリカバリーに貢献しているのであろうか.Lévinas(1961/2006)は他者論において,他者とは理解不能なものであり,弱さをもってまなざす顔をもつ存在であるとしている.さらにこの理解不能な他者との関係について,他者が示す弱さに対して自らの責任において生じる倫理的応答によって関係が結ばれると説明している.本研究で明らかになった〈他者の幸せに自分を生かすこと〉という意味でのピアサポートは,Lévinasのいう弱さをもってまなざす他者に対する倫理的応答として理解できるのではないかと考えられた.倫理的応答が自らの責任において生じる点において,主体性が立ち上がるのであり,このことがリカバリーに通じる重要な契機となっているものと考えられた.自らの人生を自らのものとして生きるリカバリーという主体的な生き方に通じる契機であると同時に,研究参加者の多くがピアサポートを人としての本質的で有意義な活動と感じており,有意義な役割というリカバリーの要素(Ragins, 2002/2005)とつながっているものと理解できた.

3.看護への示唆

精神障害をもちながらリカバリーする人々は,画一的な精神障害とそこからの回復のイメージを超えて生きることにより,新たな精神障害および回復についての意味を生成し,ピアサポートを通じて画一性に囚われる人々を解放し,人々が新たな人生を模索することに貢献しているものと考えられた.またピアサポートは,同じ痛みをもつ他者に対する倫理的応答として理解することができ,そのことによって立ち上がる主体性はその人の人生を主体的に生きることを可能にし,相互に支えあうという本質的な人間関係を含む有意義な活動を実感するものとしてリカバリーを可能にしていた.

戦後入院中心の精神科医療が継続され,今なお先進諸国に比べて病床数が多く,入院期間の長い我が国において,精神障害をもつ人々がリカバリーできる支援方法を構築することは,専門職が取り組まなければならない新たな課題である.看護専門職者への示唆として,精神障害をもつ人の固有性や主体性に関与する自らのありようを自覚し,リカバリーしている人々から学び,変化していく必要があることが示唆される.

Ⅶ.おわりに

本研究の限界として,ピア電話相談を行う人のみが参加したものであり,ピアサポートの多様なありようを考えるとその経験の一部しか明らかにできていない.多様なピアサポートの経験や意味を探求することにより,精神障害をもつ人のリカバリーが生じる契機を精神保健医療福祉制度の中に布置することが可能になると考える.

Acknowledgment

精神障害による困難な状況を経験しながらも,同じ状況にある人々のために熱心な活動をし,本研究にご協力下さいました研究参加者の皆様に心よりお礼申し上げます.本研究をご指導下さいました東京女子医科大学田中美恵子教授に感謝致します.本研究は,東京女子医科大学大学院博士後期課程学位論文の一部を加筆修正したものである.また日本精神障害者リハビリテーション学会第22回大会にて一部を発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

References
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