Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
Material
The Characteristics of Psychosocial Burden and Coping among Palliative Care Nurses in Less than 2 Years Who Have Clinical Experiences
Kumiko InagakiAyako FuruzawaTomoko Murase
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 36 Pages 41-50

Details
Abstract

目的:一般病棟で臨床経験を有する看護師が,初めて緩和ケア病棟に配属された後,2年未満に感じる心理的負担と対処の特徴について明らかにする.

方法:質的記述的研究方法とし,半構成的インタビュー法を用い,得られたデータを質的帰納的に分析した.

結果:7名の緩和ケア病棟看護師の個別分析結果を統合し,4段階の分析過程を経て,心理的負担は8の上位カテゴリーに集約され,心理的負担への対処は9の上位カテゴリーに集約された.

結論:1)緩和ケア病棟看護師が配属後2年未満に感じる心理的負担の特徴は,【自分の経験がゼロになったような無力感と戸惑い】が中核となり,三層に構造化され,この中で,心理的負担は看護経験を重ねる過程で変化していたが,その一方で経験を重ねても抱き続ける心理的負担もあることが明らかになった.2)心理的負担に対して,看護経験を重ねる過程で後ろ向きの対処から前向きな対処へと変化しており,これらの変化に影響を与える要因には,緩和ケア病棟看護師のレジリアンスが関係していると考えられた.

Ⅰ. 序論

緩和ケア病棟では,がん患者とその家族に対し,多職種が協働し支援にあたっている.緩和ケア病棟看護師は,一般病棟での臨床経験を有する者が多いことが推察され(和田・佐々木,2006),緩和ケア病棟へ配属後,心身の苦痛緩和が思うように図れず看護師として対応の限界を感じたり,回避できない死になす術もない無力感や罪悪感や喪失感を覚えるなど,これまで経験したことのない看護場面で心理的負担を感じている(名越ら,2012小銭ら,2008伊藤ら,2008畠山・手島,2007武井,2007).緩和ケア病棟看護師が,他の分野の看護師に比べてストレスが高いことを証明する有力なエビデンスはなく(Peters et al., 2012),年齢や臨床経験の少なさとバーンアウトとの関連が示唆されている(和田・佐々木,2006黒瀬ら,1999).しかし,一般病棟での臨床経験を有する看護師が,緩和ケア病棟配属後の間もない時期に感じる心理的負担と対処過程の特徴については明らかになっていない.そこで本研究は,それらの心理的負担と対処過程の特徴を明らかにすることを目的とし,恒常的に行われている病院内異動による看護師の心理的負担軽減の一助としたいと考える.

Ⅱ. 用語の定義

本研究における「心理的負担」とは,緩和ケア病棟看護師が,患者・家族に対して看護ケアを行う際に感じた困難感,困難,葛藤,ジレンマ,ストレスなどの気分や陰性感情とする.また,「対処」とは,緩和ケア病棟看護師が,心理的負担に対して意図的に行う方略としての認知的努力と行動とする.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究

2. データ収集方法

データ収集期間は,2014年5月~7月であった.インタビューガイドを用いた半構成的インタビュー法とし,緩和ケア病棟に配属されてから2年未満に患者のケアをする際に感じた心理的負担と対処についての語りをデータとした.

3. データ分析方法

逐語録におこしたインタビュー内容をフィールドノートとともに精読し,質的帰納的に分析した.その後,心理的負担と対処について,それぞれ意味のまとまりごとにコード化し,心理的負担と対処過程を分析視点としてカテゴリー化を繰り返す中で,共通性と差異性をもとに分類,整理した.7名の個別分析結果をもとに統合分析を行った.データの解釈や分析過程の真実性の確保については,全分析過程において質的研究の経験がある複数の研究者のスーパーバイズを受け,データの分析過程における主観的捉え方や解釈を排除した.

4. 倫理的配慮

日本赤十字豊田看護大学の研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2523号).

Ⅳ. 研究結果

1. 研究参加者の概要

研究参加者は,研究協力の同意が得られた病院の看護部長に,緩和ケア病棟以外での臨床経験3年以上で緩和ケア病棟経験2年未満の候補者を紹介してもらい,個別に研究の趣旨を説明して同意が得られた2施設の緩和ケア病棟看護師7名であった(表1).全員が女性,年齢は20代後半~50代後半,臨床経験年数は平均13.1年,緩和ケア病棟経験年数は平均11.4ヶ月,また,インタビュー時間は平均61分であった.

表1 研究参加者の概要とインタビュー時間
研究参加者 A氏 B氏 C氏 D氏 E氏 F氏 G氏
性別
年齢 30代前半 20代後半 30代前半 30代前半 50代後半 30代後半 40代前半
臨床経験年数 6年 5年 10年 9年 38年 10年 14年
緩和ケア病棟経験年数 8ヵ月 1年1ヵ月 8ヵ月 6ヵ月 10ヵ月 1年3ヵ月 1年8ヵ月
緩和ケア病棟配属希望
インタビュー時間 62分 48分 96分 52分 66分 56分 47分

2. 分析結果

7名の個別分析結果をもとに統合分析を行った.その結果,一般病棟で臨床経験を有する看護師が緩和ケア病棟配属後2年以内に感じた心理的負担は,3段階の分析過程を経て8の上位カテゴリーに,対処は9の上位カテゴリーに集約された(表2-12-2).以下に,特徴的であった心理的負担と対処の上位カテゴリーについて述べる.(以下の表記で,【 】は上位カテゴリー,「 」は語りを示す.)

表2-1 一般病棟での臨床経験を有する緩和ケア病棟看護師の心理的負担(下位カテゴリーは省略)
上位
カテゴリー
中位カテゴリー コード(一部抜粋)
自分の経験がゼロになったような無力感と戸惑い 緩和ケア病棟は,一般的なことにプラスしてより高い技術を求められるが,太刀打ちできない自分に悩み,患者の言葉が突き刺さり,辛くて涙が出るが,最終的な正解がなく,ずっと悶々としている負担 緩和ケア病棟は,一般的なことはやれて当たり前で,心身の苦痛を取り除くプロとして,そこにプラスしてより高い技術を求められるため,まだまだ十分出来ないままの自分をどこでどう修復したらいいのか,いまだに悩み(E氏)
慣れないことや経験してないことも多く,薬剤の使い方に困り,悩み,症状コントロールに全然太刀打ち出来ず,何が正解か答えがないまま,ずっと悶々として,いまだに尾を引く(E氏)
患者から,もう楽にしてくれ,早く逝かせてくれ,何のために緩和ケア病棟に来たのか,という言葉が出ると,本当にグサッときて辛くて涙が出てくるが,何が出来たのか,どうしたらよかったのか,最終的な答えがない負担(E氏)
緩和ケア病棟は経験豊富な看護師それぞれの看護観で動いており正解がない(A氏)
応用が必要なことばかりで,このままやっていけるのか,壁にぶち当たり,結構落ち込み,振り出しに戻ったような,自分の今までの経験がゼロになってしまったような気持ち 以前働いていた際の経験や常識が使えない辛さ(A氏)
応用をきかせなければならない事ばかり(D氏)
自分の勤務後の記録を見ることで,そこに答えが出てくるが,結構落ち込む(E氏)
先輩看護師と同じような関わりをしたいが,出来ず,自分は未熟だと思う(C氏)
前の病棟の方が配属当初から自分で判断してやれていた実感があるが,緩和ケア病棟は新人のように相談している事が多く,振り出しに戻ったような,自分の今までの経験がゼロになってしまったような気持ちになり,このままやっていけるのかという壁にぶち当たっている(D氏)
一般病棟でもターミナルケアをやっていたつもりだったが,いざ緩和ケア病棟に来てみると,自分だけで対処できることは少なく,言葉に詰まったり,不十分(D氏)
いろんながんの末期の患者が対象なので,判断するところが多く,麻薬を使うタイミングや患者・家族の対応など負担(G氏)
新人ではないので患者対応しなければならないが,自分の判断に不安や迷いもあり,壁にぶち当たったまま,悶々として彷徨い,複雑な気持ちをずっと消化できずに引きずり,こんなに悩むと思わず,対応に躊躇している自分への戸惑い 緩和ケア病棟は患者とじっくり関わる時間がある分,問題もまた多くなり,いろいろ考えすぎて自分が悩むことも多くなり,戸惑った(E氏)
新人ではないので,患者対応しなければならないが,間違えることは出来ないし,自分に判断できるか不安もあり,最初はナースコールが鳴っても躊躇する自分に対し,まさか自分が判断に迷う事があるとは思わなかったので,そういう自分にも戸惑い,複雑な気持ち(D氏)
緩和ケアとはなにかといった壁にぶち当たったまま,はっきりした道筋もなく,今でもずっと消化できずに,ずるずると引きずっている感じ(D氏)
何を目指してきたのか,やりがいを見いだせるのか,自分に何ができるのか,半年くらいは悶々として彷徨い,仕事でこんなに悩むとは思わなかった(F氏)
日々やり尽くしたという思いで,看護しながら感じる自分の限界 すぐに患者の症状緩和してあげたいが,それができず,日々やり尽くしたという自分の限界を感じる(D氏)
見ている家族も看護師もいちばん辛い呼吸苦や,夜間不眠,疼痛コントロール不良の患者に対し,判断に迷い,どうしてあげたらいいのか分からず,感じる無力感 どうしたらいいか分からず,何もできないまま夜勤が終わったことが本当にきつかった(A氏)
どうしてあげたらいいのか分からず何もできなかったという無力感(B氏)
他の看護師ならもっとうまく対応できたと思うと申し訳なくストレスを感じ自分は無力(C氏)
痛みに対し薬剤使用のタイミングの判断に迷いどうしてあげることも出来ない無力感(D氏)
疼痛コントロール不良や,寝るのが怖いと眠剤拒否する患者に,どうしてあげたらいいのか分からない(G氏)
呼吸苦がある患者は見ている家族も看護師もいちばん辛い(C氏)
死の恐怖と嫌悪感からの逃避 麻薬や睡眠導入剤を使う際の恐怖と,他看護師が対応して患者が亡くなったことを知り,自分だったらという嫌悪感 自分の次の勤務者が麻薬を内服させ,患者が亡くなり,自分の勤務で内服させてしまって,同様の結果になっていたら嫌だと思う(B氏)
麻薬や睡眠導入剤を使う際,とっても怖い(E氏)
最初の頃は,死を受け入れる事が一つの壁で,亡くなる患者の多さや,間隔の短さから,寂しく辛い気持ちを消化できないまま,蓄積することでバランスが崩れてしまい,他の仕事に影響したり,仕事の後も辛い気持ちを引きずり,仕事に来るのが嫌になるほどのストレス 以前働いていた病棟は元気に退院していく患者を笑って見送れたが,緩和ケア病棟に異動して,本当に亡くなる患者が多く,家族との関わりも大変だと思い,最初はすごく辛かった(C氏)
今まで死に直面する機会が少なく,自分が死を受け入れることが一つの壁で,患者が亡くなると寂して,辛くて,ストレスを感じて,泣けてしまい,他の仕事にも影響するほど,表情も気持ちもへこむ(F氏)
緩和ケア病棟は苦しんで最期に悲しみという,今までにない光景にショックを受け,配属後初めて死を経験した時,胸が痛くなるような,締め付けられるような鮮明な感覚(F氏)
仕事の後も亡くなった患者を思い出して,気持ちを引きずることがあり,他の仕事に影響したり,仕事に来るのが嫌だった(C氏)
以前働いていた病棟は,患者が亡くなる間隔が開いていたので,自分の中でバランスが取れていたが,緩和ケア病棟は間隔が短く,亡くなる患者も多いため,気持ちを消化できないままどんどん蓄積することで,バランスが崩れてしまい,最初はかなり辛かった(C氏)
患者の死など嫌なことがあったり,自分には出来ないと考えることから生じる逃げや,辞職への思い 今でも,自分には出来ないので,いつ辞めようかと思っている(A氏)
緩和ケア病棟で頑張るつもりだが,時々逃げたくなる(C氏)
命の代わりに自分に与えられた役割を考えるが,嫌なことがあったり,患者が亡くなると,仕事を辞めたいと思うこともある(E氏)
居場所のなさと仕事継続への揺れ 希望していないタイミングで緩和ケア病棟に配属されたことへの驚きと,居場所のない思い 将来緩和ケア病棟で働きたいと思ってはいたが,ブランクから復帰後すぐに配属された(A氏)
希望ではない緩和ケア病棟の配属が決まり驚いた(C氏)
緩和ケア病棟しかないと思った時に配属されず,一般病棟でやりたいことをやろうと思った矢先に勤務交替と言われ,異動しても自分の居場所がないと思い,とても苦痛だった(E氏)
ゆくゆくは緩和ケア病棟を考えていたが,最初から配属され重症も多く,えーっと思った(F氏)
家庭と仕事の両立が難しく,仕事が継続できるかという悩みと揺れ 家庭と仕事との両立が難しく,ちゃんと仕事が続けられるのか悩み,揺れている(G氏)
プロになりきれていない自分への後悔と落ち込み 患者対応が重なりどうにもならなかったが,応援依頼する事への躊躇 患者の対応が重なり,夜勤看護師二人ではどうにもならなかった時,当直課長を呼ぶことに躊躇(G氏)
時間帯により医師に連絡,相談するタイミングに悩み,モヤモヤ感を感じるが,躊躇して対応が後手に回り,患者が苦しむ姿を見て感じる,プロになりきれていない自分に覚える後悔と落ち込み 看護師としてやれることがなく,様子見の中で,医師に相談するタイミングへの悩み(A氏)
患者がひどくパニック状態になった時,まだ使える指示がある状況で,医師に連絡することへの躊躇(D氏)
夜間など時間帯によって,医師に連絡することへの躊躇とモヤモヤ感(B氏)
医師への連絡を躊躇したり,連携がうまく取れなかった時や,対応が後手に回り,患者が苦しむ姿を見て感じる,プロになりきれていない自分に対する後悔と落ち込み(E氏)
医療者優先でタイミングを逃すことに対する申し訳なさと葛藤 患者対応が重なると待たせたり,死生観など聴くタイミングを逃してしまうことから生じる申し訳なさと葛藤 異なった患者対応をする診療科への対応の難しさと,人員不足のため患者・家族対応への遅れや不十分さ(G氏)
人員不足のため,患者対応重複時に死生観など聴くタイミングを逃す申し訳なさと葛藤(B氏)
看護師の都合を優先し,患者の希望に沿ってケアをしたり,タイミングよく話を聞くことが出来なかった自分に対する,後悔と反省 死に直結することを聞くタイミングは難しく,あの時聞けば展開が違ったと思うと,タイミングを逃した後悔(E氏)
患者が希望した時に叶えてあげたいという思いはあるが,どうしても看護師の都合になってしまい,タイミングよくケア出来ないことへの後悔と反省(F氏)
認識が分かち合えない家族へのケアのやり辛さ 患者の家族が医療関係者の場合のやりづらさ 患者家族が医療関係者の場合,様々な訴えや勝手にする看護行為を許さざるを得ないやりづらさ(G氏)
家族の意見の相違がある場合の迷い 家族の意見の相違があり,セデーションが開始できない場合の迷い(G氏)
自分の病体験から生じる苦悩 自分の病体験から,寝たら一生起きられないという,夜の不安や怖さへの援助をしたいが,その援助がその人らしい生活なのかと苦悩 自分もそうだったが,夜は,今度寝たら一生起きれないんじゃないかという不安がすごくあり,目が覚めると一番怖い時だと思うので,強制的にでも眠らせてあげることがいちばんだと思うが,その人にとって本当にそれがその人らしい生活なのかと考えると,いつもすごく悩む(E氏)
経験を重ねても堂々巡りする亡くなった患者への対応の後悔 十分な関わりが持てないまま患者が亡くなり,ショックを受けたり,正解が分からない事が辛くても,他の気持ちが上書きされたように時間が経過する中で,自分の頭の片隅に出来なかったことが切り取られたように残り,類似した場面や患者に遭遇すると思い出すという堂々巡り 患者が亡くなったことを知りショックを受けても,日々の忙しさに忙殺され,誰にも気持ちを伝えられないまま,他の気持ちが上書きされたように時間が過ぎてしまった(C氏)
在院日数の短い患者の多くは,十分な関わりが持てないまま亡くなるため,最終的な正解が分からないことがいちばん辛く,自分の頭の中にはやっぱり残る(E氏)
頭の片隅に辛い経験が切り取られたように残り,何かある時にふと思い出す(A氏)
似たような場面や患者に遭遇すると,その患者を思い出し,出来なかった事を振り返り堂々巡りしている(C氏)
理想と現実は違うが,自分の思いを押し付けているのか,家族を呼ぶタイミングを図ることへの苦悩 患者と家族が悔いなく最期を迎えられるよう,いつ家族を呼ぶか悩むが,自分の中にある家族の死のイメージが強すぎて,押し付けてしまっているかと思う(F氏)
個別の患者に100%のケアをしたいという理想と現実は違う(A氏)
自分の対応への後悔もあり,亡くなった患者の家族に対し申し訳ない気持ちをずっと引きずり,自分に対する自信のなさ 自分の対応への後悔や,看護への自信のなさから,亡くなった直後の家族のお礼を素直に受け止められず,辛さより申し訳ない気持ちになり,デスカンファレンスまでずっと引きずる(C氏)
ちゃんと患者と関わっていけるのか,自分に自信がない(G氏)
自分の勤務帯では何も変えず他看護師に判断を委ねるほど自分の看護に自信がない(A氏)
緩和ケア病棟で働く自分の中にある,何年働いても言葉に出来ない精神的負担 緩和ケア病棟では,患者と深く関わることも負担であるなど,言葉に出来ない負担が自分の中にあり,先輩看護師に聞くとそれは何年働いても抱え続ける一般的なことで,体力的な負担より,精神的な負担の方が大きいと思う(D氏)
表2-2 一般病棟での臨床経験を有する緩和ケア病棟看護師の心理的負担への対処(下位カテゴリーは省略)
上位
カテゴリー
中位カテゴリー コード(一部抜粋)
責任の分配と引き継ぎや祈りによる逃げ道の確保 自分の経験や引き出しの少なさを補完するため,看護師同士でのフォローのし合いや,相手の意見を尊重するという逃げ道の確保,責任の重さの分配 自分は経験も引き出しも少ないと考え,先輩看護師やチームの看護師を捕まえて相談したり,一つ一つの症状や環境状態を見てもらう(F氏)
緩和ケアには正解がなく,それぞれの看護観があるため,他の看護師の意見を尊重して判断を委ね,自分の勤務帯では何かを変えることはしない(A氏)
他の看護師と相談することで,責任の重さも分配でき,気持ちは軽くなる(B氏)
自分にできることをしても改善が見られず,先輩看護師に相談し,一緒に対応することで気持ちが楽になった(C氏)
何かあっても相手の夜勤者を呼べるという自分の中で逃げ道があるので少し気が楽(C氏)
看護師同士お互いフォローし合い,判断が難しい時はその都度確認(E氏)
夜勤帯は朝が来ることを願いながら医師の指示でしのいだ後,次の勤務者へ引き継ぎ,対応を任せることによる安心感と精神的な開放 自分が不安を表出することで患者を余計不安にさせないよう配慮し,もう一人の夜勤者と相談しながら効果を期待して,医師の指示を見て点滴を繰り返し使いながら朝までしのいだ(D氏)
朝が早く来ることを願い,朝が来るとホッとする(B氏)
夜勤を終えた時点で精神的に解放される(A氏)
患者の症状コントロールや,語りかけて聞けなかった死生観など,次の勤務者へ引き継ぐことで,申し訳ないという気持ちが少しは楽になる(B氏)
朝を迎え,次の勤務者や医師に引き継ぎ,その後の対応を任せるとホッとする(C氏)
夜勤は二人で考えなければならず,日々やり尽くして限界だという思いを感じながら看護することが多いが,日勤は相談できる人も多く医師もいるため,後は安心して任せた(D氏)
ナースコール対応への躊躇と,ナースコールが鳴らないよう祈る気持ち もう一人の夜勤者が仮眠中に,相手チームのナースコールが鳴らないことを祈る(A氏)
最初はナースコールが鳴ってもすぐ行くことができず,患者に待つよう言うしかなかった(D氏)
心身の負担への両価的対処 少しずつ記憶が薄れる一方,忘れられない貴重な体験 辛いことも少しずつ記憶が薄れていく,その一方で,忘れられない貴重な体験だと考える(A氏)
頑張りたい思いと,時々逃げたくなる辞職への思い せっかく配属されたので頑張ろうと思うが,やっぱり時々ちょっと逃げたくなる(C氏)
自分には出来ないと考え,いつ辞めようかと考える(A氏)
自己防衛による理想と現実の折り合い 睡眠欲求時のイライラ感や悔やみに対し,諦めたりして,自分を守るための理想と現実との折り合い 理想と現実の折り合いをつけている(A氏)
睡眠欲求が強く,夜勤中イライラしてきても仮眠を取ると落ち着き,人間だからしょうがないと思うことで楽になる(B氏)
慣れないと落ち込んでやっていけないと考え,仕方がないとあきらめる(C氏)
こういう職業だという諦めではないが,次に悔しい思いをしないよう自分を守るしかない(E氏)
言葉にできない負担は経験を重ねても抱き続ける緩和ケア病棟看護師の特徴 先輩看護師の何気ない話から,自分の中にある言葉に出来ない負担は自分だけが感じていることではなく,何年経っても抱える緩和ケア病棟看護師の特徴ということに辿り着いた(D氏)
光が射す感覚をきっかけに身につく技 自分の病体験と,患者からの一言や,亡くなった家族からの感動的なフィードバックから得るエネルギーややりがいから身につく,ここでやれると思い込む技 緩和ケア病棟はほとんどの家族が退院後に挨拶に来られ,フィードバックがあることに感動し,自分達が一生懸命ケアした成果と思うとやりがいはあり,緩和ケア病棟に来て良かった(G氏)
自分が周囲に救われた分,今苦しんでいる人に手を差し伸べることがこの命の代わりに与えられた役割と考え,患者からのフィードバックの一言が自分のエネルギーになる(E氏)
亡くなった患者の家族がスッキリした表情で挨拶に来たり,手紙をもらうなど,直接的なフィードバックから,自分に出来ていた看護が分かり,次の患者に関わる(B氏)
患者・家族から感謝されたり,手紙をもらうことで,ここでやれると思い込む技を身につけ,患者・家族,同僚に対して抱く感謝の気持ち(F氏)
医療関係者である献身的な家族が満足できる最期だったことを聞き,これで良かったという思い 医療関係者である患者家族への対応について,医師や上司に相談して,スタッフ間で情報共有し,献身的な家族が満足できる最期だったと思うことで得る安心感(G氏)
面会時から積極的に家族と関わり,最期が楽そうだったと聞くとこれでよかったと思える(B氏)
正解のない自分の仕事に満足できるよう,患者の結果をプラスに捉え,自分の気持ちをコントロールすることでの切り替え 分からないこと,悩んだことは,いつまでも溜め込まず,ちゃんと意見を言ってくれる人を選んで聞いたり,みんなに投げかけ,自分の中で切り替えている(E氏)
自分が満足しなければ,この仕事はやっていけないと思う(E氏)
患者はこれだけ苦しんだのだから,ちょっとでも楽な生活が送れて,夜は強制的にでも眠りに誘い,朝しっかり起きれるなら,患者にとって良かったと自分に言い聞かせるしかない(E氏)
結局正解はなく,自分の気持ちのコントロールの仕方次第だということが分かり,患者の結果をプラスに捉えることで,気持ちが楽になった(B氏)
環境や周囲の支えから,出来ることが見えてきて,配属されて良かったという思い 精神的な負担はあると思うが,嫌だとか逃げ出したいという気持ちにはならず,スタッフに支えてもらえる職場環境で,自分に向いていると思えたり,看護として出来ることが見えてきたので,身につけたい,もう少しやってみたいという気持ち(D氏)
まだ発展途上中だが,環境に救われ,同僚のフォローもあり,いろんな不安や悩みを乗り越えて今に至ったので,緩和ケア病棟に配属されて良かったと思う(F氏)
スタッフの支えもあり,患者とゆっくり関わることができ,緩和ケアの勉強が出来たので,結果的に良かったと思う(B氏)
適切なアドバイスや,一期一会の看護への思いなど聞くことで,気持ちをスッキリさせ,次に活かして実感できた時の,光が射す感じ 手当たり次第先輩看護師に質問する中で,一期一会で患者へのケアをしているという思いを聞き,可能な限り患者の希望を叶えてあげたいと思った(F氏)
緩和ケア病棟では,専門の看護師から適切なアドバイスが聞ける(E氏)
先輩看護師に相談し,アドバイスをもらい,次に活かそうと考えた(A氏)
相談したり,カンファレンス,デスカンファレンスで他の看護師からアドバイスをもらうとモヤモヤした気持ちがスッキリして,試して実感できると,光が射すような感じ(C氏)
立ち止まらずに前向きに考え,次に活かそうと考えることを自分の強みと捉え,プロとして追求し,いろんな経験を積ませてもらえることへのありがたさ 辛いと思うことも一つの教訓にはなるが,ずっと立ち止まっている訳にはいかないので,出来なかったことをアセスメントするなどプロとして追求して,次に活かすしかなく,今いろいろな経験を積ませてもらえてありがたい(E氏)
自分ががん告知を受け,やり残すことがないよう生きていこうと思った体験がいちばんのきっかけで,いいことやハッピーなことをいっぱい作って,出来るだけ前向きに考え,次に活かそうと考えることは自分の強みだと思う(E氏)
スタッフで情報共有して楽になる気持ち 医療関係者である家族への対応をスタッフで情報共有することで気持ちが楽になる(G氏)
患者が寂しく逝った時の寂しい気持ちは,医師に言うことで引きずることはない(G氏)
包み隠さず自分をさらけ出し,周囲から反応がもらえるよう声に出して表現することで,自分の中に答えが出てくるよう身に付けた技 包み隠さず分からない自分をさらけ出したことで,気持ちが軽くなり,自分の緊張状態を独り言として周囲に聞こえるように話すことで,返事がもらえる技を身に付けた(F氏)
大号泣し,辛い気持ちをいろんな先輩看護師に聞いてもらった(A氏)
友達や家族など誰かに辛い気持ちや弱音を吐いたり,話を聞いてもらうことで楽になる(C氏)
同じ苦しむならみんなに助けてもらって少しでも楽になれるよう,自分の中で抱え込まず,オープンにすることがいちばん大事で,声に出して表現することでアドバイスも聞けるし,自分の中に答えが出てくると思う(E氏)
看護を頑張る過程で気づく未熟な技術の中にある実践力 麻薬や睡眠導入剤の使用時,頻回に患者の様子を観察しながら寄り添い,十分な症状緩和に向けた一人での頑張り レスキューの内服,付き添って体をさするなど,一人で頑張り対応(A氏)
他の患者対応の合間に,患者の様子を見に行き,体位の調整,酸素の増量,酸素飽和度を確認しながら,しばらく寄り添った(C氏)
他の看護師の方法を試した場合,結果は患者の状態にもよるので,自分の中で今回の条件をアセスメント(E氏)
痛みが十分緩和できるよう考えて対応し,薬剤コントロールがうまくできたかしっかり観察(E氏)
意向に沿った看護,家族の冗談への付き合い,患者が楽になる実感を得て覚える,未熟ながらもできている自分の実践力 患者の意向に沿った安楽な体位を提案したり,家族の冗談に付き合うことで,患者と家族を安心させた(B氏)
痛みを訴える患者に対し,家族と一緒に観察して麻薬を使ったり,背中をさすったり,冷やしたり,温めたり,向きを変えたり,出来る範囲でいろいろやっている(G氏)
背中をさすったり,話を聞くなど寄り添うことで,患者が楽になることを実感できると,未熟ながらも自分にできることが見えてくる(C氏)
家族が患者の死を受容できるよう,言い方を考えた労いの言葉かけ 患者の死を受容していない家族に対し,受容できるよう状態の変化を伝えたり,看取りに間に合わなかった家族に最期の様子を伝えたり,言い方を考えながら労いの言葉をかける(G氏)
患者や家族とのお互いの意図についての十分な話し合い 後日,誤解を解くために患者,家族とお互いの意図を十分話し合い,誤解が解けたので,引きずることはなかった(D氏)
経験を重ねることで再獲得する自分の判断への自信 今までの経験が活かされていることも多く,目指してきた看護が間違っていなかったことを確認できたので,緩和ケア病棟で十分頑張っていけるという思い 麻薬を使うタイミング,患者・家族の対応など,今までの経験が微妙に役立っている思い(G氏)
以前勤務していた一般病棟で終末期患者や家族と触れ合い,様々な経験が今に活かされていることも多く,自分たちが目指しやっていたことが間違っていなかったことを確認出来たので,緩和ケア病棟で十分頑張っていけるという思い(E氏)
長年の経験から自然にできていたことを,周囲から教えてもらうことで気付いた自分への自信 自分の長年の経験から,自然にできたことを周りから教えてもらうことで気づき,少し自信を持っていいのかなと思う(G氏)
上司から大いに悩むようアドバイスをもらい,やれている自分にも気付いた(F氏)
経験を重ね,時間の経過と共に楽になってきた気持ち 時間の経過とともに少しずつ気持ちは楽になってきていると思う(C氏)
経験を重ね,早めの対応ができるようになり,異動当初より少し落ち着いてきた(E氏)
少しずつ仕事に慣れ,最初の頃の漠然とした不安から,具体的な不安に変わり,聞けば解消出来ることが多くなった(F氏)
最初の頃は患者の死を受け止めることが辛かったが,今は最期に立ち会わせて頂きた感謝の気持ちが強くなり,気持ちも楽になった(F氏)
自分なりに判断した上で,タイミングを考えながら指示を受け対応した結果から,自分の判断は間違っていなかったという思い 疑問があれば対応を確認しており,あらかじめ医師からの指示も受けている(D氏)
医師の処遇に対して同情し夜間電話連絡することを躊躇することもあるが,そのために悔しい思いをした経験があるので,患者のため前もって自分なりに判断をした上で勇気を出して連絡し,結果的に患者が楽になっているので,自分の判断は間違っていなかったと思う(E氏)
先輩看護師のアドバイスで,電話で医師の指示を受け,対応した(A氏)
医師に連絡するタイミングを考えた(D氏)
人生経験を乗り越えた自負から生じる自己の役割認識 苦労を重ね乗り越えてきた自負があり,緩和ケア病棟でのピラミッドが崩れないように支える人材として配属されたという思い 人間は苦しんだ分,必ず幸せが来ると思っているので,落ち込むこともあるが,這い上がって,立ち直るスピードは速いと思う(E氏)
自分が一番年上で,人生経験としては本当に苦労を重ね,乗り越えてきた自負があるので,緩和ケア病棟のピラミッドが崩れないよう,みんなにいい影響を及ぼす人材として配属されたと思って仕事をしている(E氏)
気持ちの切り替えとエネルギーの分配 人が亡くなることは普通のことだと考え,エネルギーを分配したり,プライベートでストレス発散することでの気持ちの整理と引きずり感の消失 人が亡くなることは普通のことなので,次に来た患者にエネルギーを使いたいと考え,エネルギーを分配している(B氏)
他の患者へ目を向けるよう気持ちを切り替えたり,仕事のことから自分を切り離し,プライベートな時間を過ごすことで,気持ちの整理をつける(C氏)
プライベートで好きなこと,やりたいことを満喫してストレス発散する方法を自然に学び,自分には誰よりもパワーがあることが強みだと考える(E氏)
意識的な気持ちの切り替えや,バランスのとり方を模索 意識的に気持ちを切り替えている訳ではなく,どうバランスを取っているのか分からない(C氏)
辛い気持ちへの対処方法を模索している段階だと思う(D氏)
行うべき課題と捉え今の立場を利用してスキルアップ 眠剤拒否する患者対応が課題 眠れない患者が眠剤を拒否していれば,どうしたらいいのか課題だと考える(G氏)
求められているのであれば,自分たちが行うべき課題という考え 難しく無理だと思っても,瞬時に患者の気持ちを汲み取ることを求められているのであれば,自分たちが行うべきこれからの課題だと考える(E氏)
今の立場を利用して,先輩看護師へ相談し,実際の対応を見て勉強し,少しずつ身に付けたいという思い カンファレンスの内容から考えたり,休憩中や業務終了後,夜勤帯に先輩看護師に相談し,先輩看護師の実際の対応を見て,感じて,少しずつ身につけていくしかないと思う(D氏)
一番下という今の立場を利用して患者に合った対応ができるよう勉強しておきたい(A氏)

1) 心理的負担

(1) 【自分の経験がゼロになったような無力感と戸惑い】

これは,症状コントロールなど,自分の看護力では太刀打ちできないことに悩み,今までの経験がゼロになってしまったような無力感と,患者対応に躊躇している自分自身への戸惑いというカテゴリーである.

E氏は,「(症状緩和は)全然太刀打出来ないですね」と語っており,D氏は,「自分の今まで経験して来たことが,本当,ゼロになっちゃったんじゃないか,っていう位の気持ちになった」と語り,ナースコールが鳴っても,新人ではないのに患者対応ができない不安を持つ自分自身に戸惑いを覚えていた.

(2) 【死の恐怖と嫌悪感からの逃避】

これは,麻薬や睡眠導入剤の使用が患者の生死を左右することに繋がる恐怖と,自分が最終実施者になり患者が亡くなることや度重なる患者の死への嫌悪感により,仕事から逃げたくなる程の心理的負担を覚えるというカテゴリーである.

B氏は,呼吸苦を繰り返していた患者に対し,次の勤務者が麻薬を内服させた後に,患者の状態が悪化して最終的に亡くなったことを知り,「(自分が)飲ませて同じ結果になっていたら」と,自分が最終実施者になることへの嫌悪感について語っていた.また,C氏は,「緩和病棟だと,前日亡くなりました,今日も亡くなりました,で,また次来た時も亡くなりました,みたいなこととかもあるじゃないですか.そうするとやっぱり,全然,前の患者さんのことが消化できていないまま次の患者さんも亡くなって,どんどんどんどん蓄積しちゃう感じで」と語り,心のバランスが崩れ,仕事に来るのが嫌になった経験もあった.

(3) 【医療者優先でタイミングを逃すことに対する申し訳なさと葛藤】

これは,患者対応が重なると,看護師の都合を優先し,終末期にある患者の今,この時は二度と来ないことが分かっていながら,そのタイミングを逃してしまうことへの申し訳なさと葛藤というカテゴリーである.

B氏は,患者が死生観など話し出した際,「(ナースコールが鳴っていると)患者さんも『あっ,ごめんね.いいで行きな』とかいう人もいらっしゃるので,そうすると,ああ申し訳ないな,…(中略)…っていう葛藤はありますね」と語っていた.

(4) 【経験を重ねても堂々巡りする亡くなった患者への対応の後悔】

これは,自分に対する自信のなさや患者対応への後悔から,患者・家族に対する申し訳ない気持ちをずっと引きずり,何年働いても類似した場面に遭遇すると思い出し,言葉に出来ない辛い気持ちが堂々巡りしているというカテゴリーである.

C氏は,対応に苦慮し後悔が残る患者と類似した事例を目の前にすると当時のことを思い出し,「何かもっとしてあげられることはなかったのかなとか,ずっと堂々巡りで繰り返している」と語っていた.D氏は,「何か,その言葉にできない(精神的)負担が自分の中にあって」と語っていた.

2) 心理的負担への対処

(1) 【責任の分配と引き継ぎや祈りによる逃げ道の確保】

これは,他の看護師に相談して方針を決めたり,医師や次の勤務者へ引き継ぐことで責任の重さを分配することや,患者対応がないことを祈るというという方法で逃げ道を確保するというカテゴリーである.

B氏は,他の看護師と相談することで「ちょっと気持ちの軽さはあるかもしれないですね」と語っていた.D氏は,「(夜勤帯で自分は)もうやり尽くして限界ですって思ってたので,(朝になって)やっと先生来てくれた」と,医師や日勤看護師へ引き継ぎ,対応を任せることで安心感を得ていた.A氏は,「相手のチームのナースコールが(もう一人の夜勤者仮眠中に)鳴らないことを祈るだけです」と語っていた.

(2) 【光が射す感覚をきっかけに身につく技】

これは,患者や家族からの感動的なフィードバックからエネルギーを得て,看護できたと感じる光が射す感覚をきっかけに,ここでやれると思い込む技や,答えを見出す技を身につけるというカテゴリーである.

E氏は,患者や家族からのフィードバックが,「私のエネルギーになっている」と語り,C氏は,看護ができたという感覚を「光が射すみたいな,こういうふうにするんだとか,そんな感じです」と語っていた.そして,「言葉にして表現する」(E氏),「独り言のように話す」(F氏)ことで,周囲からの反応を得て答えを見出す方法を,「ここで身に着けた技」と語っていた.

(3) 【看護を頑張る過程で気づく未熟な技術の中にある実践力】

これは,自分に出来る範囲で看護しようと頑張る過程で,今までの経験が活かされ未熟な技術ながらも出来ている自分の実践力に気づくというカテゴリーである.

C氏は,「背中さすったりだとか,傍にいたりしたことで,『はあ,ちょっと楽になってきた』って言われると,なんかちょっと実感が得られるのかな」と,今までの経験を活かして看護した結果,自分の実践力に気づいたことを語っていた.

Ⅴ. 考察

統合分析により集約された上位カテゴリー間の関係性について,緩和ケア病棟配属後の時間経過に従い,構造化を試みた(図1).

図1

緩和ケア病棟に初めて配属された一般病棟での臨床経験を有する看護師の心理的負担と対処の構造

1. 緩和ケア病棟に初めて配属された看護師の心理的負担と対処の構造

心理的負担は,さまざまな臨床経験を持つ参加者全員が配属当初に強烈に認識していた【自分の経験がゼロになったような無力感と戸惑い】を中核に配置した.2層目には緩和ケア病棟での経験を積み出来ることが増えてきた中で感じる心理的負担,3層目には経験を積み重ねても潜在的に抱き続ける心理的負担を配置した.また,対処には,2パターンが認められ,配属当初は自己防衛による逃避などの後ろ向きの対処(下向き矢印)が多くみられたが,経験を重ねる過程でスキルアップを目指すなど前向きな対処(上向き矢印)へと変化すると考えられた.

Lazarus(1999/2009)は「障害や危険を乗り越えられる能力に自信をもっていればいるほど,脅威を感じるより挑戦されていると考える」(p. 92)と述べており,能力に自信をもつことによって捉え方が変わると考えられる.本研究で得られた心理的負担と対処の過程には,自己の能力に自信をもつ経験が継続的に繰り返される中で,心理的負担と対処が相互に関係しながら変化するという特徴があった.しかし,その一方で,経験を重ね,時間を経ても対処しきれず,潜在的に抱き続ける心理的負担があることも明らかになった.

2. 緩和ケア病棟に初めて配属された看護師の心理的負担と対処の特徴としてのレジリアンス

先行研究においては,病院内異動した場合に前部署で発揮した能力が活かせないと感じていること(吉田ら,2013),何もできない無力感や自身の判断を求められることに苦しさを感じていることが示唆されていた(畠山・手島,2007名越ら,2012).しかし,本研究では,一人前あるはエキスパートとして十分な臨床経験を積み重ねてきた看護師であるにもかかわらず.異動後に,自分の臨床判断に不安や迷いが生じ,自分の看護に限界を感じるとともに,対応に躊躇する自分自身にも戸惑いを覚えていた.それは【自分の経験がゼロになったような無力感と戸惑い】という,今まで獲得してきた自分の看護への自信を全て喪失してしまうほどの強度な心理的負担であった.

また,緩和ケア病棟では患者対応が重なると,“今,この時”が二度とこないかもしれない一期一会の看護のタイミングを逃してしまう葛藤,自分の行った看護行為が患者の生死を左右することへの恐怖と嫌悪感,患者を喪失した寂しく辛い気持ちが消化できないまま蓄積し,類似した場面や患者に遭遇した時に思い出すという心理的負担を覚えていた.本研究の参加者は,将来的な配属を希望していた者を含めると,7名中6名が緩和ケア病棟を希望していた.それにもかかわらず,配属後には理想と現実とのギャップに戸惑い,時には辞職すら考えながらも多様な対処を行いながら仕事を継続していた.八木・渡邊(2014)は,「ストレスとレジリアンスは一心同体の現象であり,とくに『生体のストレス状態には常にレジリアンス活動が内在している』」と述べている.本研究の参加者は,様々な心理的負担に対して,配属当初は逃避しようとするなど後ろ向きの対処を行っていた.しかし,経験を積み重ねる中で,【光が射す感覚をきっかけに身につく技】を身につけ,これをターニングポイントとして,今までの看護経験が活かされている実感を得て,自分の判断への自信の再獲得や,意識的な気持ちの切り替えとエネルギーの分配,自己の役割認識,今の立場を利用してスキルアップを目指すという前向きな対処へと変化していた.このような心理的負担と対処の変化過程には,緩和ケア病棟看護師のレジリアンスが関係しているのではないかと考える.

本研究の結果から,配属されて間もない緩和ケア病棟看護師の心理的負担を軽減し,早期に自信を再獲得できるような教育プログラムやサポート体制について検討していく必要性が示唆された.

3. 本研究の限界と今後の課題

研究参加者の性別に偏りがあること,2施設に限定されていることが本研究の限界である.よって,男性看護師や他施設を対象として研究を継続していくことで,新たな知見が得られる可能性がある.

Ⅵ. 結論

緩和ケア病棟看護師が配属後2年未満に感じる心理的負担と対処の特徴を構造化することができ,心理的負担と対処の双方が看護経験を積み重ねる過程で変化することが示唆された.また,心理的負担と対処の変化過程には緩和ケア病棟看護師のレジリアンスが関係していると考えられた.

謝辞:本研究を行うにあたり,ご理解とご協力をいただきました各病院の病院長をはじめ,看護部長,病棟看護課長,病棟看護師の皆様に,心より感謝申し上げます.なお,本稿は日本赤十字豊田看護大学大学院看護学研究科に提出した修士論文の一部に加筆・修正したものであり,本稿の一部は第35回日本看護科学学会学術集会において発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:KIは研究デザインと実施,分析,執筆のすべてを行った.TM,AFは,研究デザインと質的分析に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2016 Japan Academy of Nursing Science
feedback
Top