2016 Volume 36 Pages 85-92
目的:新人看護職が支援者とともに臨床体験のリフレクションを複数回経験したことによる新たな学びや発見したことと新人看護職が認識した効果的なリフレクション支援を明らかにする.
方法:複数回の臨床体験のリフレクションを実施している2施設で,新人看護職の時にリフレクション支援を受けた7名に面接を実施し,質的記述的分析を行った.
結果:複数回のリフレクション支援による新人看護職の新たな学びや発見は,【見えなかった自己の弱みへの気づき】【自分が大切にしていることへの気づき】【対話によって具体的な行動に気づける】などの5つであった.新人看護職が認知するリフレクション支援は,【新人看護職個々を尊重した対応】【新人看護職の行動の承認】などの効果的な支援と【一方的な助言】【新人看護職の状況を理解しない断定的な指導】などの非効果的な支援であった.
結論:複数回のリフレクションを支援者と行うことによって,新人看護職と支援者のお互いの理解が深まることによって,新人看護職個々を尊重した支援が得られたことが示された.その結果,単回のリフレクションよりもより気づきが促進され,新人看護職の自己理解や実践につながる思考が促進されることが明らかになった.
医療提供環境の変化に伴って看護師への社会的ニーズも多様化・高度化していることから,看護師には複雑多様な状況に応じて考え対応できる能力の育成が求められる.その教育方法の一つとして,我が国では2000年初頭から看護学生,看護職,看護教員を対象に内省,省察の意味を持つ臨床体験のリフレクションの研究が報告されるようになった.Bulman & Schutz(2013/2014)は,看護におけるリフレクションについて,経験から学び,「自身」を批判的に見つめ,実践の中で「考えが変化」し「よりよく行う」ためのプロフェッショナルな動機づけにつながると述べている.看護実践は全て合理的な根拠があって遂行できるものではなく,経験を通してまたは後で,人の思考力や洞察力が向上し,成長するプロセスでよりよい実践へ繋がっていくものと考える.
リフレクションには自己リフレクションや臨床体験を支援者に話して個別で行う他者とのリフレクション,ファシリテーターを含む同僚数名で構成し,一人の体験に基づき思考を深めていくグループリフレクションと様々な方法がある.萩原ら(2010)は新人看護師のグループリフレクションを年1回行った結果,【共感と共有】【今後への励み】などのリフレクション達成のポジティブカテゴリが92.5%を占めた一方で,【意見が言えない】【辛い思い】などネガティブカテゴリが7.5%抽出されたことを示している.このようにリフレクションの進め方や支援方法によっては,非効果的な影響をもたらすことが考えられるが,リフレクション支援者に対する教育プログラムを具体的に示した研究は少ない.
Duke & Appleton(2000)はクリティカル・リフレクションに必要な,より高レベルのスキルは発達するのに困難を要することを明らかにしている.中村ら(2014)は,新人看護師教育にリフレクションを2カ月毎に5回取り入れた結果,【自己への気づき】を基軸として【創造的な看護実践の学び】につながる構造が明らかになり,専門職業人の成長に継続的なリフレクションは欠かせないと述べている.リフレクティブなスキルは時間をかけて身につくものである(Duke & Appleton, 2000)が,我が国で報告されている継続教育におけるリフレクション研修は単回のものが多く,複数回のリフレクションの効果を明らかにした研究はない.そこで,看護職の臨床体験からの学びを十分引き出せる支援者の育成のためには,継続的にリフレクションを行ったことがある新人看護師を対象にして,リフレクションの効果を明らかにする必要があると考える.
新人看護職へのリフレクション支援者に対する教育プログラム作成の基礎資料を得るために,本研究では,支援者とともに臨床体験のリフレクションを複数回経験したことによる新人看護職の新たな学びや発見したことと新人看護職が認識した効果的なリフレクション支援を明らかにする.
リフレクション:看護師が患者や家族との関わりの後に,または対面せずその場を離れて,その体験での実践を意識的に振り返り,気づきや考えたことの意味を再考し,新たな学びを発見するプロセス.
臨床体験のリフレクション:印象深い臨床体験を自己で振り返り,体験の事実や気づきの記述を基に支援者と共に振り返るという2段階の振り返りのこと.
リフレクション支援:新人看護職の印象深い臨床体験を基に支援者が新人看護職の気づきや思考を促進させる関わり.
新人看護職への半構造的インタビューによる質的帰納的記述研究デザインである.
2. 対象者複数回の臨床体験のリフレクションを新人看護職の教育に取り入れている施設を2012年6月にWeb上で検索して16施設を抽出し,それらの看護部長に研究の趣旨を文書で説明した.その結果,4施設から研究協力が得られた.
看護部担当者から対象者に研究参加依頼書,研究計画書,同意書,研究同意の取り消し書の配布を依頼し,同意書は個別に郵送で回収した.その結果,同意が得られた看護職7名を対象者とした.
3. データ収集期間2013年5月26日~2013年9月25日
4. データ収集方法面接日時は対象者の都合に合わせて調整し,面接時に再度研究の概要や研究参加の自由意思の尊重,研究同意の撤回の権利について口頭で説明して研究参加の同意を確認した.
インタビュー・ガイドは,一人で体験を振り返ったときの気づきと自己の傾向,支援者と共に振り返ったときの気づきと行動を洞察できた問いかけ,支援者と共に行う振り返りの効果と問題等とし,インタビューは同意を得てICレコーダーに録音した.
5. データ分析方法録音した内容は逐語録にして,複数回のリフレクション支援を受けたことによって生じた新人の認知を中心に新人看護職が新たに学んだことや発見したこと,新人看護職への効果的・非効果的支援の視点で言語データの意味を読み取り切片化しコード化した.分析は質的帰納的に行い,類似性を確認しカテゴリ化した.分析の確実性の確保として,言語データの抽出,カテゴリ化,カテゴリ名の命名において2名の研究者,各々で検討した後に照らし合わせ,その後,意見が一致するまで検討した.
6. 倫理的配慮対象者には本研究の目的及び方法,研究参加の任意性,同意後の撤回の権利,データは本研究以外に使用しないことなどを説明した文書を看護部担当者から配布してもらい,同意書は個別に郵送で回収した.データは匿名化した.本研究については熊本大学大学院疫学・一般研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(倫理第561号).また,A施設は看護部倫理委員会の承認を受けて実施した.
対象者は看護部長に研究協力の得られた4施設の内,同意書が郵送された2施設7名となった.対象者は表1に示すように看護師6名,准看護師1名(進学課程在籍中)であった.看護職の経験は2~3年目であり,リフレクションの支援者は全員がプリセプターであった.また,リフレクションに関するプリセプターへの教育はA病院では年間2回以上の自己リフレクションを体験して翌年のリフレクション支援を行う体制であり,B病院ではリフレクションについて県看護協会主催の実地指導者研修と院内のプリセプター教育において概念や支援方法の研修を受けた後に,新人のリフレクション支援をしながら集合教育でフォローされていた.
施設 | 対象者 | 資格 | 年齢 | 経験年数 | リフレクションの支援者 |
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A病院 | A | 看護師 | 20代 | 2年1ヵ月 | プリセプター |
B | 看護師 | 20代 | 2年1ヵ月 | プリセプター | |
C | 看護師 | 20代 | 1年1ヵ月 | プリセプター | |
B病院 | D | 看護師 | 30代 | 2年3ヵ月 | プリセプター |
E | 看護師 | 20代 | 2年4ヵ月 | プリセプター | |
F | 看護師 | 20代 | 2年5ヵ月 | プリセプター | |
G | 准看護師 | 20代 | 2年4ヵ月 | プリセプター |
A病院は新人看護職の臨床体験のリフレクションをプリセプターが年3回行い,同期同士のグループによる臨床体験の語りと傾聴も年3回行っていた.B病院は新人看護職のプリセプターがリフレクション支援を個別に年4回行っていた.リフレクションは2施設共に個室で実施され,お互いの負担を配慮し,時間は30分程度であった.
3. 複数回のリフレクション支援による新人看護職の新たな学びや発見複数回のプリセプターのリフレクション支援による新人看護職の新たな学びや発見は,18コードからなり,11サブカテゴリ,【見えなかった自己の弱みへの気づき】【看護実践につながる経験の積み重ねの重要性】【自分が大切にしていることへの気づき】【対話によって具体的な行動に気づける】【常に支援者が入いるという安心】の5カテゴリが抽出できた(表2).以下,カテゴリを【】,サブカテゴリを〔〕,参加者の語りを「」で示した.
カテゴリ | サブカテゴリ | コード |
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見えなかった自己の弱みへの気づき | 同じことで迷っている自分の発見 | 自分は患者の思いと安全の狭間で迷っていることが多いと感じた |
リフレクションしたどの内容からも自分はコミュニケーションの方法で迷っていることが多いと感じた | ||
困った場面しか印象に残っていない自分の発見 | 自分がリフレクションで取り上げる出来事は困ったことしか出てこない | |
冷静になれないときの自分の傾向への気づき | 仕事量が増えると周りが見えなくなって失敗してしまう | |
慌てやすい面やゆっくりな面などの性格の見直しができた | ||
考えようとしない自分への気づき | 質問するばかりでなく,先ず自分で図書やカルテで調べる重要性に気づいた | |
継続的な関わりだからこそ,新たな自分の足りない点に気づける | 支援者の継続的な関わりによって新人のレベルに合った指導を受けられ,足りない点に気づくことができた | |
看護実践につながる経験の積み重ねの重要性 | 経験を積み重ねることの大切さの実感 | リフレクション支援を受けながら,指導者も経験が少ないことがあり,経験を積み重ねることが大事であることを実感した |
リフレクションの対話によって手順書にない支援者の体験から得られたコツを聞けた | ||
自分が大切にしていることへの気づき | 患者への関わりにおいて自分が大切にしていることへの気づき | 自分が患者へどのように関わりたいのか考えられた |
度々先輩から言われたことを大切にしている自分 | リフレクションを通して先輩から度々言われていた患者への声かけを大切にするようになった | |
毎回,先輩と関わりで困ったことの体験を話し合ったから,先輩が言われたことを気をつけていこうと思った | ||
対話によって具体的な行動に気づける | 対話を通してじっくり考えることで具体的な行動を考えられる | 自分だけだと独りよがりになるが,プリセプターと対話することで,振り返りが十分できて次の実際的な行動という新たなことに気づくことができる |
先輩とのリフレクションは自分にとってじっくり考える機会になった | ||
常に支援者がいるという安心 | 支援者との共通性の発見 | リフレクションの場面と同じ支援者自身の迷いの体験を聴き,支援者も迷いながらここまで来たんだと感じた |
支援者の存在から得られる安心感 | 自分の慌てやすい傾向に気づき,慌てたときに常に落ち着いてという声かけをしている支援者の存在 | |
自分を見てくれる人がいるという環境の嬉しさ | ||
支援者は失敗しても責めずにそのプロセスを押さえてくれる味方 |
【見えなかった自己の弱みへの気づき】には,「患者さんの思いと安全というところで迷うことが多いなということに気づきました(A氏)」のように〔同じことで迷っている自分の発見〕や「やっぱり3カ月後,面接をしても,今困っていることしか出てこない(F氏)」のように〔困った場面しか印象に残っていない自分の発見〕や〔冷静になれないときの自分の傾向への気づき〕などが含まれていた.いずれも複数回のリフレクション支援を受けて見えてきた自己の傾向であった.
【看護実践につながる経験の積み重ねの重要性】には,「自分を振り返ることで,やはり指導してくれる方でもまだあまりしたことないことがあるみたいで,ずっと経験することが大事だなとか,そういうことを思いました(E氏)」のように〔経験を積み重ねることの大切さの実感〕が含まれていた.
【自分が大切にしていることへの気づき】には,「何か,私は患者さんとの関わりを大事にしています.だから先輩から『患者さんの所にちゃんと声掛けに行ってね』って.それを機に,私はそういう関わりを大切にしていると思います(F氏)」のように〔患者への関わりにおいて自分が大切にしていることへの気づき〕や〔度々先輩から言われたことを大切にしている自分〕が含まれていた.
【対話によって具体的な行動に気づける】には,「何か自分の中だけだと,結局そんなに広がらないというか,自分の中だけでこうだろうというふうな考えに終わってしまうんですけどプリセプターの人に話を聞いてもらってアドバイスをもらうことで,次はこうしてみようというふうな,実際的な行動を考えられるというか,自分の振り返りが本当にちゃんとできて,新たなことに気づける(C氏)」のように〔対話を通してじっくり考えることで具体的な行動を考えられる〕が含まれていた.
【常に支援者がいるという安心】には,「プリセプターさんも「私もそういうのよく迷った」という話もしてくださっていたので,今はすごく普通に仕事をされている先輩でも,そういう迷いというのを思いながらここまで来たんだな(G氏)」のように〔支援者との共通性の発見〕や「僕の思いを言えたし,それをしっかり聞いてくれたし,返答もしっかりしてくれてちゃんと対応してくれるのは嬉しかった.そういうふうに自分を見てくれる人がいるという環境はすごく素敵なことかな(B氏)」のように〔支援者の存在から得られる安心感〕が含まれていた.
4. 新人看護職が認知した効果的並びに非効果的リフレクション支援 1) 新人看護職が認知した効果的なリフレクション支援新人看護職が認知した効果的なリフレクション支援は26コード,14サブカテゴリ,【新人看護職個々を尊重した対応】【新人看護職の行動の承認】【新人看護職個々に合わせた助言】【看護実践に伴う思考を深めるような働きかけ】【周囲への相談を促す助言】【プリセプターの自己開示】【安心して話せる場所の配慮】の7カテゴリが抽出できた(表3).
カテゴリ | サブカテゴリ | コード |
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新人看護職個々を尊重した対応 | 新人看護職のペースに合わせて話を聴いてもらえた | 聴くべきところはしっかりと話を聴いてもらえた |
新人が考えながら話すのをずっと聴いてくれた | ||
新人看護職の話すペースに合わせて全部聴いてからプリセプターの思いを話してくれた | ||
新人看護職の気持ちに共感してくれた | 先輩が新人の気持ちを理解してくれ,同調してくれた | |
業務上のことだけでなく体験で感じた感情を話し,先輩が共感してくれた | ||
迷うことが多いことに同調してくれた | ||
失敗した時でも新人看護職を理解してくれた | 失敗した時,責めるのではなくその理由を理解してくれた | |
新人看護職の質問にきちんと対応してくれた | 質問したことに返答してくれきちんと対応してくれた | |
新人看護職の行動の承認 | 新人看護職の判断や行動を支持してくれた | 分からないときのリーダーへの相談を支持してくれた |
話を聞くことしかできなかったが傾聴することが大事と支持してくれた | ||
判断や行動を否定されなかった | ||
新人看護職個々に合わせた助言 | 新人看護職の傾向に合わせた適切な助言をしてくれた | ゆっくり仕事をする自分に対し,仕事の段取りを助言してくれた |
分からないことは先に自分で調べることによって理解できると言われた | ||
看護実践に伴う思考を深めるような働きかけ | 患者の反応や気持ちを汲み取るように助言をしてくれた | 自分が行ったことへの患者の反応を常に問われた |
患者の気持ちを捉えて行動するようにと度々言われた | ||
言葉が分からなくても直ぐにあきらめないで何度も患者に聞いて欲しいと言われた | ||
行動の意味を深める助言を受けた | 答えを出すというより,行動の意味を深めてくれる方法であった | |
患者への関わりに対して,自分がどう思ったかを問われた | ||
新人看護職はどうしようと思ったかを問われた | ||
新人看護職と一緒に考えてくれた | 新人看護職の質問に対する対応にプリセプターも一緒に考えてくれた | |
思考を深める場面を提案してくれた | 振り返りに効果のある場面を提案してくれた | |
周囲への相談を促す助言 | 先輩に相談する必要性を示された | 一人では全部に対応できないので,聞きやすい先輩に声をかけてと言われた |
相談することに安心感を与える助言をしてくれた | 先輩も迷うところなので,相談するように話してくれた | |
プリセプターの自己開示 | プリセプターは正直に自分を表出してくれた | プリセプターは分からないことは分からないと言ってくれた |
同じように迷ったプリセプターの体験を話してくれた | ||
安心して話せる場所の配慮 | 2人だけの場所で振り返りを聴いてくれた | 誰にも聞かれない場所で新人の振り返りを聴いてくれた |
【新人看護職個々を尊重した対応】には,「いつも私が結構考えながら喋ったりするタイプなので,ずっと話を聞いてくれて(A氏)」のように〔新人看護職のペースに合わせて話を聴いてもらえた〕や「日常的なことで業務上のことだけではなくて,こういうことをされて嫌だったとかこういうことが辛かったとか,自分の感情を話す機会なので,すごく先輩は共感してくれた(C氏)」のように〔新人看護職の気持ちに共感してくれた〕や〔失敗した時でも新人看護職を理解してくれた〕などが含まれていた.
【新人看護職の行動の承認】には,「『話を聞くしかできない』と書いたんですけれども,それに対して『それが一番大事なことなのではないか』と.(B氏)」支持されたことの語りが含まれていた.
【新人看護職個々に合わせた助言】には,「自分の性格もあるかもしれないですけど,自分は仕事をてきぱきこなすよりも,どちらかというとゆっくりという感じなんですよね.その辺を「どうしたらスムーズに行くよ」とか,そういう感じのことは(言ってくれた)(D氏)」のように〔新人看護職の傾向に合わせた適切な助言をしてくれた〕が含まれていた.
【看護実践に伴う思考を深めるような働きかけ】には,「私が患者さんに対して言ったこととかしたことに対して,患者さんはどういう反応をしていたかとか(A氏)」のように〔患者の反応や気持ちを汲み取るように助言をしてくれた〕や「何か一つの答えを出すというよりは,私の行動がこの場合はどうだったかなというところを深めてくれるやり方だったかなと思います(A氏)」のように〔行動の意味を深める助言を受けた〕などが含まれていた.
【周囲への相談を促す助言】には,「『全部1人で対応できるというわけではないので,自分の中で聞きやすい先輩とか言いやすい先輩,誰でもいいから取りあえず声を掛けて』ということは言われました(C氏)」のように〔先輩に相談する必要性を示された〕や「1年生だけではなくて,先輩もみんな『そういうところはいつも迷うから,相談すればいいんだよ』というふうに話してくださっていた(A氏)」のように〔相談することに安心感を与える助言をしてくれた〕が含まれていた.
【プリセプターの自己開示】には,「先輩も分からないことなんだなとか.そういうことを結構あっけらかんと言ってくれる先輩だった(B氏)」の語りが含まれていた.プリセプターの自己開示が読み取れた他の発言は,「今はすごく普通に仕事をされている先輩でも,そういう迷いというのを思いながらここまで来たんだな(A氏)」「私が聞いた質問に対して,『私も分からんわ』みたいなことを言ってくださって(B氏)」「『私もそうだったよ』とかいうふうに言ってくれて(C氏)」などがあり,プリセプター自ら同じような体験をしたことを新人看護職に話し,前述した【常に支援者がいるという安心】に繋がっていた.
【安心して話せる場所の配慮】には,「スタッフステーションの隅で誰かが聞くかもしれないというような場所ではやらなくて,休憩室で本当に2人しかいない状態でやってくれたので,わりと話しやすかった.(C氏)」と新人看護職が安心して語りに集中できる場所への配慮が述べられていた.
2) 新人看護職が認知した非効果的なリフレクション支援新人看護職が認知した非効果的なリフレクション支援は5コード,3サブカテゴリ,【一方的な助言】【新人の状況を理解しない断定的な指導】の2カテゴリが抽出できた.
【一方的な助言】は,「(分かるよねと言われると)もう聞けないから,『分かります』と嘘ついてしまいます.(G氏)」の語りが含まれていた.
【新人の状況を理解しない断定的な指導】には,「『これは分かるもんね』みたいな問いかけだったので,『分かる』と言わないといけないかな(G氏)」のように〔断定的な言われ方に発言できなくなった〕などが含まれていた.
Atkins & Murphy(1993)は,リフレクションの基本スキルとして,自己への気づき,説明(記述),批判的分析,総合及び評価の5つを示している.
本研究でも新人看護職は,プリセプターのリフレクション支援によって,迷っている自分や困ったことしか取り上げない自分など【見えなかった自己の弱みへの気づき】が抽出できた.この自己への気づきは批判的分析によって得られる重要な効果である.中村(2011)は,自己への気づきが土台となり,批判的思考力や自己啓発力などが獲得され,創造的な看護実践となることを示した.
本研究でもリフレクション支援によって患者との関わりを重視し,自分で考える態度に変化したなどの【実践力向上に必要な自分で考える姿勢】が抽出された.臨床体験の少ない新人看護職にとっては,状況や自己と対話して内的に吟味するという自己対峙は難しく,多くの気づきを得るためには心をオープンにして話せる他者の存在とリフレクション支援が重要である.奥田(2012)は,1回のファシリテーターとの対話リフレクションによる臨床看護師の学びの構成要素をGibbsのリフレクティブサイクルを参考に概念化した結果,【起こった結果に対する要因の分析】【状況の見方に対する新たな気づき】【看護師としての今後のあり方の表明】が抽出されたことを示している.サブカテゴリには自己への気づきや具体的な解決策の検討も含まれ,本研究で抽出できた【見えなかった自己の弱みへの気づき】【対話によって具体的な行動に気づく】【自分が大切にしていることへの気づき】は,1回のリフレクションの結果と類似しているようであるが,「患者さんの思いと安全というところで迷うことが多いなということに気づきました(A氏)」や「やっぱり3カ月後,面接をしても,今困っていることしか出てこない(F氏)」のように複数回のリフレクション支援を受けて見えてきた自己の傾向であった.特に自分が大切にしていることはそれまでの臨床体験と統合させた上に出てきた発見であり,看護観を育むことにも通じていくと考える.
奥野(2010)は新卒看護師のリフレクションの特徴から「可視化の保証」と「聞くことの保証」の2つの支援が重要であることを示した.〔新人看護職のペースに合わせて話を聞いてもらえた〕と実感し,〔新人看護職の気持ちに共感してくれた〕という【新人看護職個々を尊重した対応】や【新人看護職の行動の承認】,また【安心して話せる場の配慮】という「聞くことの保証」が得られた結果,話せる安心を得ていた.さらに新人看護職の経験に関連したプリセプターの経験を聞く機会も得られて,【看護実践につながる経験の積み重ねの重要性】を発見できていた.また,【常に支援者がいるという安心】を感じられる環境の中で,プリセプターという特定のスタッフから徐々に全スタッフとの関係性が築いていけたことが語られており,このことは新人看護職が就業継続できるための“居場所への安心”にも繋がるものであると考える.しかし,今回のリフレクション支援者は自己リフレクションやリフレクションに関する研修を受けていたにも関わらず,【一方的な助言】【新人の状況を理解しない断定的な指導】という非効果的な支援が抽出された.新人看護職の思考や発言を遮るようなプリセプターの負のメッセージやイメージが存在するとリフレクションの目的達成が難しいことも示された.リフレクション支援は,相手の思考を促進し発言を引き出すことに重点を置いた対話の意識ができていない場合,一方的な指導の場になってしまう危険性がある.Schön(1983/2001)は学習者とコーチのリフレクションが成立する前提条件として,対象者を見る時間の保証,素材が語りかけてくるものを聴こうとする忍耐,そして他者に開かれた開放性を指摘している.プリセプターの支援について適宜フィードバックの機会を設定したり,支援スキルを取得するまで複数年担当するなど,リフレクションの支援スキルを体得できるような教育が必要である.
今回の多くの対象者は「聞くことの保証」が得られた状況において【新人看護職個々に合わせた助言】といった可視化を保証され,【見えなかった自己の傾向への弱みへの気づき】へとつながり,【実践力向上に必要な自分で考える姿勢】に変化していたものと考える.萩原ら(2010)は,新人看護師同士のグループリフレクション達成のポジティブカテゴリは「話せた」であり,ネガティブカテゴリは「意見が言えない」であったと報告している.田村・池西(2014)は,フィードバックが効果的であるためには,リフレクション学習をするために適切な相手を選択することと述べている.これらのことから新人看護職に対する効果的なリフレクションの促進には,先ず「聞くことの保証」が与えられることが必要だと考える.
新人看護職が発見したものとして示された【常に支援者がいるという安心】は,複数回のリフレクションによって,仕事の方法を考えるだけでなく,感情を素直に出せることやプリセプターとの共通性の発見によって,プリセプターとの距離が接近したことを意味している.また,複数回の支援を通してプリセプターのリフレクション支援スキルが獲得された結果も示していると推察する.
太田(2001)は,看護教師に対話的リフレクションがもたらすものとして,対話による他者との分かち合いや相互に見つめ直すことによって,自分一人では見えなかった問題に気づくことを挙げている.本研究の対象者は新人看護職であったが自分のことを理解してくれている支援者との安心した空間で,対話を通して新たに看護実践を振り返ることによって,自己リフレクションでは見えなかった何かに気づくことができたのではないかと考えた.
効果的なリフレクションの促進には,先ず,新人看護職個々の尊重や行動の承認によって「聞くことの保証」が新人看護職に与えられることであり,そのことによって新人看護職は話すことの安心を得て,思考や発言が促進されると考える.加えて,オープンな支援者との関係がスタッフとの関係に進展することによって,相談や発言ができるようになると新人看護師の居場所の確保と自信に繋がるものと考える.
研究の限界と今後の課題本研究の対象者は2施設の新人看護職7名と少なく,リフレクション支援の特徴について,全てを網羅できたとは言えない.しかし,教育体制の異なる2施設の複数回のリフレクション支援による効果的な支援の共通性を見出すことができた.今後は,本研究で得られた結果を参考にリフレクション支援者育成の教育プログラム開発に取り組みたいと考える.
1.複数回のリフレクション支援による新人看護職の新たな学びや発見は,【見えなかった自己の弱みへの気づき】【看護実践につながる経験の積み重ねの重要性】【自分が大切にしていることへの気づき】【対話によって具体的な行動に気づける】【常に支援者がいるという安心】の5つであった.
2.新人看護職が認知したリフレクション支援の特徴は,【新人看護職個々を尊重した対応】【新人看護職の行動の承認】【新人看護職個々に合わせた助言】【看護実践に伴う思考を深めるような働きかけ】【周囲への相談を促す助言】【プリセプターの自己開示】【安心して話せる場所の配慮】の効果的な支援と【一方的な助言】【新人の状況を理解しない断定的な指導】の非効果的な支援であった.
以上の結果から,複数回のリフレクションを支援者と行うことによって,新人看護職と支援者のお互いの理解が深まり,新人看護職個々を尊重された支援となり,単回のリフレクションよりもより気づきが促進され,新人看護職の自己理解や実践につながる思考が促進されることが明らかになった.
謝辞:本研究にご協力いただきました看護職の皆様に深く感謝いたします.なお,本研究は平成23~26年度科学研究費補助金挑戦的萌芽研究(課題番号23660010,研究代表者前田ひとみ)を受けて実施した.また,結果の一部を第34回日本看護科学学会学術集会で発表した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MMは研究の着想,デザイン,データの入手,分析,草稿の作成に貢献;HMは研究デザイン,データ分析,原稿への示唆,および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.