2016 Volume 36 Pages 103-113
目的:介護支援専門員が高齢者の健康生活を確認できる,高齢者のウェルネス型健康生活チェック表を作成し,その内容妥当性を検討した.
方法:看護師資格を有する介護支援専門員19名を対象に,デルファィ法を用いて「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表(案)」の領域および項目への質問紙調査を実施した.9領域66項目を各々「1:まったく適さない」から「9:非常に適切である」の9段階で評価してもらい,そのコメントをふまえて研究者間で修正した.
結果:調査の有効回答率は94.7%であった.デルファイ3回目では項目の平均スコア範囲は6.7~7.9で,全項目が「適切」以上であった.コメントを基に領域と項目の表現を話し合った結果,9領域55項目で収束した.
結論:介護支援専門員の合意により「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表」は,介護支援専門員が高齢者の健康生活を確認でき,些細な変化を知ることで適切な支援を提供し,介護予防に役立てられることが示唆された.
高齢社会の中では,単に平均寿命の伸長ではなく,健康寿命を延伸することが求められている(内閣府,2014).そのため「健康とは身体的,精神心理的,及び社会的に完全な良好状態」と,病気がないことだけが健康ではないとした世界保健機構の健康の定義(World Health Organization, 2006)を積極的に解釈し,あらゆる健康状態の人にあてはまる,自分の価値観や人生観に基づいた生きがいや,生活の張り合いの有無を含めたウェルネスの視点の必要性が指摘されている(Dunn, 1959).
高齢者が自立して生活を営む機能は,高齢者総合的機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment: CGA)を用いることにより,医学的評価だけでなく日常生活動作(ADL),手段的生活動作(IADL),精神心理機能,社会環境機能を総合的にアセスメントできる(Stuck et al., 1993).退院療養計画や,介護計画作成に必要な問題点に対してどの程度の介助を要するかという,援助を行う側の評価視点によって看護の必要度が算出されている(小澤,2002).一方,2006年の介護保険法改訂では介護予防が重視され,IADL,運動・口腔機能,閉じこもりや認知症,うつを含めた25項目の健康度評価のための質問票(以下,基本チェックリスト)が作成された.これは介護予防事業のなかで,要介護または要支援状態になる恐れがあると考えられる高齢者(旧:特定高齢者)の,早期把握と介護予防の取り組みに役立てられている.このように,医療機関や地域包括支援センターにおいてはヘルスプロモーションやリスク対策の観点から虚弱高齢者や要介護高齢者の生活機能アセスメントを行い,サービス等につなぐ評価領域と調査票は既に存在している.しかし,高齢者のウェルネスの視点は含まれていない.要介護状態となった際に,本人主体のケアを行うためには,地域で自立した生活を営む高齢者の健康生活に関する評価をケアプランやサービスに生かすことが必要である.そのため,障害による生活上の不自由や困難状況を評価する調査票よりも,できている生活機能に焦点をあて,必要時には予防的ケアサービスを提供し,自立した生活が維持できるよう支援していくための高齢者のウェルネス型健康生活チェック表の作成が求められている(全国老人保健施設協会,2009).
よって本研究は,介護支援専門員が要介護状態となる前の高齢者に用い,健康生活を確認できる,高齢者のウェルネス型健康生活チェック表を作成し,その内容妥当性を検討することを目的とした.
本研究は,1)「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表(案)」を作成し,2)デルファイ法による質問紙調査を実施した.
1) 「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表(案)」の作成介護支援専門員が要介護状態に相当する以前の高齢者の生活を評価し,より健康的な生活へ向けた道標となるツールの作成を目指した.生理的加齢変化,および生活機能を国際生活機能分類(International Classification of Functioning: ICF)からとらえ,高齢者におけるウェルネスを含めた基本的生活行動,精神・心理的生活行動,社会的生活行動,環境の診断指標を検討した(小玉ら,2005).次に,実用に向けて領域を整理統合し「高齢者のためのウェルネス型健康調査表」を作成した(小玉,2007).本研究では,さらに「セルフケア」および「家庭生活」に注目し,高齢者の自立の部分が具体的に把握でき,家庭生活の充実を日課からとらえるよう質問の構成や表現を検討して追加した.これらの領域内の各項目の表現と選択肢を振り返り,領域ごとに各3~9項目の内容から構成した計9領域66項目の「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表(案)」を作成した(表1).
高齢者のウェルネス型健康生活チェック表(案)
専門職に質問紙の回答を依頼し,分析・フィードバック・回答という過程を同一対象者に複数回繰り返すことによって,意見・予測・判断の全体の合意を得た(Sackman, 1975).デルファイ法では,対象者は1回目の回答の全体分布を見ながら,2回目の回答を検討することができる.そのため,より確信が高い意見を得られると考えられている.さらに,会議などで生じ得るグループにおける権威者や,発言力のある特定人物の意見が結果に作用するなどの可能性が考えにくい.よって,コンセンサスを得るのに適切である(Mckenna, 1994).
2. 用語の定義 1) 高齢者在宅で自立した生活をしている65歳以上の者とした.
2) ウェルネスとウェルネス型ウェルネスとは「病気や障害の有無で健康を考えるのではなく,より幸福でより充実した人生を送るために,自分の現実の生活(習慣)を点検し,自分で変えなければならないことに気づき,変えていく総合的な機能」を指している(Dunn, 1959).本稿では高齢期という発達段階をふまえ,高い状態に向かっていくウェルネスの機能そのものを評価するのではなく,高齢者それぞれにおける属性をとらえるため,ウェルネス型と命名した.
3) 健康生活チェック表健康生活とは,疾患や心身の不自由があってもその人なりに自立して暮らしている包括的な概念を指す.健康生活チェック表は,要介護または要支援状態となる以前の在宅生活を送る高齢者が,自ら管理している健康状態,生活機能,および日常生活上の細やかな不都合を確認できる質問紙とした.
3. 研究の手順(1)複数の地域包括支援センター,介護支援専門員協会に対象者を依頼した.
(2)対象者は,健康状態と生活状況の両面をみることができる看護師資格を有する介護支援専門員で,介護予防の視点で健康高齢者および虚弱高齢者とかかわっている,さらに5年以上の経験を有する者とした.
(3)推薦された介護支援専門員で同意が得られた者に,「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表(案)」を郵送し,期限を設けて匿名での返送を依頼した.
(4)アンケート内容:「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表(案)」の領域と項目について,9段階のスコア(「1:全く適さない」「2:かなり適切でない」「3:あまり適切でない」「4:やや適切でない」「5:どちらでもない」から,「6:やや適切である」「7:まあ適切である」「8:かなり適切である」「9:非常に適切である」)で回答を求めた.さらに領域ごとにコメント欄を設け,表現や内容,領域の設定などに対し,対象者の経験や知見に基づく評価,および意見の記述を求めた.
(5)各項目の平均スコアを算出した.コメント欄の記述は,意味内容ごとにまとめて集計し,研究者全員で内容の修正に用いた.集計結果と修正(案)は対象者にフィードバックした.この過程を繰り返し,3回目での収束をめざした.
(6)回収方法は,アンケート依頼書に返送用封筒の同封し,約2週間の期限を設けた.期限内に全員から返信がない場合は,文書により再度返送を依頼した.
(7)デルファイ法3回目の終了後,対象者全員に完成した「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表」を報告した.全調査期間を通して,対象者が一堂に会することはなかった.デルファイ第1回目から3回目の流れを図1に示した.
研究の流れ
年代,性別,保健師または看護師としての経験年数,介護支援専門員としての経験年数,1か月の平均相談件数を尋ねた.
2) 領域と項目「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表(案)」は,家庭生活における計9領域と質問66項目(以下,領域を〈 〉,項目を「 」で示す)で構成した.内訳では,〈食事〉は「1日に3回きちんと食べる」など9項目,〈排泄〉は「排便の間隔,一日の排尿回数がわかる」など7項目,〈身づくろい〉は,「毎朝の洗顔・歯磨き,ひげそりを一人で支障なく行っている」など9項目,〈活動〉は「家の中では,自由に歩ける」など9項目であった.〈睡眠〉は「毎日の就寝と起床の時間がほぼ一定している」など4項目,〈家事〉は「炊事,掃除,洗濯などの必要な家事を自分で行っている」など4項目,〈服薬・金銭管理〉は「薬の説明書は,読んで理解できる」など9項目,〈趣味・地域活動〉は「周囲に力になってくれる人がいる」など6項目,〈加齢の受けとめ・生きがい〉は「加齢による変化を感じる」など9項目であった.(表1)
3) 調査期間2010年9月から翌2011年2月に実施した.
5. 分析方法 1) 合意形成のプロセスと判断方法対象者から返送された結果の判断方法として,各項目を1~9段階で得点化した(以下,評価スコア).評価スコアの中間点を5点とし,6点以上を「有効」,さらに6.5点以上を「合意が得られた」とした.また5点未満を「適切性に欠ける」と判断した.
2) コメント欄に記載されている意味内容,表記等の検討高齢者看護学を専門とする研究者5名は,各々1または2領域を担当し,個別にデルファイのコメント欄の記述を意味内容ごとに抽出し,集約した.その後,研究者全員による検討会議を設け,領域の各項目の削除と統合,および内容と文章の吟味を行った.
6. 倫理的配慮対象者に研究の趣旨,参加の任意性,途中であっても辞退可能であり,一切不都合が生じないことを口頭と文書で説明し同意を得た.また,アンケートは個人が特定されないよう匿名性を確保し,答えたくない項目には記載しなくてよい旨を伝えた.個人情報は限られた者が施錠できる場所に保管した.なお,聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認(10-039)を得て実施した.
対象者は,都内A区,近隣の地域包括支援センターから協力が得られた19名で,全員が女性であった.年代は40歳未満4名(21.1%),40歳代7名(36.8%),50歳以上8名(42.1%)で全員が看護師資格を有していた.看護師または保健師としての経験年数が20年以上(57.9%)の者が最も多く,介護支援経験年数は平均7.4年(SD3.0),ひと月あたりの平均相談回数は45.9件であった(表2).有効回答率は,1回目18名(94.7%),2回目19名全員(100%),3回目17名(89.5%)であった.全体の平均回答者数(有効回答率)は18名(94.7%)であった.
全体† n = 19 | ||
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人数 | (%) | |
性別(女) | 19 | (100) |
年齢(歳) | ||
30未満 | 1 | (5.3) |
30–39 | 3 | (15.8) |
40–49 | 7 | (36.8) |
50–59 | 8 | (42.1) |
保健師または看護師経験(年) | ||
6–10 | 3 | (15.8) |
11–20 | 5 | (26.3) |
21–30 | 11 | (57.9) |
介護支援専門員経験年数‡ | 7.4 | (SD3.0) |
月平均相談件数‡ | 45.9 | (SD33.9) |
†:研究協力者の総数
‡:数値は平均(標準偏差)
各領域の平均評価スコアの範囲は4.7~8.3であった.5点以下で「適切性に欠ける」と判断した「経済的な理由の食事への影響の有無」など3項目を削除した.5点台で検討を要する項目は,「ここ1ヶ月での食事量の変化(増減)の有無」「尿とりパットやパンツ,…ストマ用品使用の有無」「ここ1か月間,寝つきの具合い」の3項目であった.また,各項目に対し計220件のコメントを得た.コメントの内訳は〈食事〉55件(25.0%),〈排泄〉35件(15.9%),〈活動〉29件(13.2%)の順に多かった.コメントを踏まえ,項目全体を高齢者にわかりやすい文言へと修正し,10領域52項目とした.
2) 2回目の結果1回目と同様に検討した結果,各領域の平均評価スコアの範囲は6.3~8.2で,「適切性に欠ける」に該当する項目はなかった.6~6.5点の「有効」は2項目,他は「合意が得られた」項目であった.一方,各項目に対し計82件のコメントがあった.内訳は〈食事〉21件(25.6%),〈排泄〉18件(22.0%),〈身づくろい〉〈活動〉8件(9.8%)の順に多かった.ここは11領域57項目に修正した.
3) 3回目の結果各領域の平均評価スコアの範囲は6.7~7.9と上昇した.すべての項目で「合意が得られた」と判定された.各項目および領域へのコメントは計58件と減少した.内訳は〈食事〉14件(24.1%),〈排泄〉〈身づくろい〉7件(12.1%)で,項目や付記の内容に対し「わかりやすくなった」などの評価があった.最終的に9領域55項目で収束した.
3. 各領域の項目内容の検討プロセスと表現の精緻化の結果〈家事〉を他の生活機能とまとめ,新たに〈からだの症状〉を項立て9領域とした.内容は高齢者の特徴に沿って選定し,各領域2~8項目となった.対象者のコメントから,専門用語は避け,具体的で伝え易い表現とした(表3).
高齢者のウェルネス型健康生活チェック表へのコメントと最終修正項目
摂食・嚥下機能の視点から,食欲の有無,食材や食品の選択,腕や指を使用して口に運ぶ動作,飲み込む等の一連の流れに沿って項目の順番を修正した.また,「自分で,箸やスプーンを使い食べている」,「食べ物をしっかりかめる」の項目を追加した.食事は家族に依存している場合もあるため,セルフケアの意味から「自分で」を加えた.また水分量を「日にコップ5杯(1リットル)以上のお茶やお水を飲んでいる」,蛋白質量を「ほぼ毎食,肉・魚・豆・牛乳・卵のいずれかを食べている」と具体的に問い,高齢者が理解しやすい項目とした.
2) 〈排泄〉領域4項目尿便意を感じる,起居移動,衛生保持などの連続した高次な動作であることから「1人で支障なく,トイレでの排尿・排便をしている」などの自立の状況を尋ねた.さらに,「排尿排便に関する用品を使用している」状態であっても対処できていればよいとする項目とした.対象者からは尿漏れや尿が出にくいなど,高齢者の排泄での困りごとが具体的に示された.質問全体では「目の前に高齢者がいたとして,この言葉では質問しない」との意見を得たことから,直接排泄に関する質問には回答を躊躇しやすいなど,高齢者の羞恥心にも配慮し,「排泄の心配事(悩み事)がある」を別途に問う方法とした.
3) 〈身づくろい〉領域8項目風呂や着替えの清潔行動と,「洗顔,歯磨き,整髪,髭剃り,化粧」など身だしなみを聞いた.また「爪きり」では指の巧緻性と目と手の協調性,筋力や関節可動域,柔軟性は更衣,衣服を「気候や場所に合わせる」などは心理的な影響も関係するため,「1人で」行い,習慣化しているかどうかの視点を含めた.
4) 〈移動〉領域6項目動作・歩行や移動手段の範囲が不明瞭との指摘に対して,「1人で,階段の上り下りをしている」「1人で,立ったり座ったりしている」など主体的で身近な動きをとらえることに主眼を置いた.対象者からは「(つかまってもよい)」を捕捉することで,より高齢者の健康生活の維持が図れるとの意見があった.
5) 〈睡眠〉領域2項目対象者から「睡眠剤を使用していても管理できればよい」,「問題があるかどうかがわかればよい」との意見を得た.よって睡眠の時間帯や実際の長さではなく,目覚めと睡眠が得られているか,高齢者本人の主観を問うものとした.
6) 〈家事・服薬管理・金銭管理〉領域8項目「自分で,日用品の買い物をしている」と「炊事,掃除,洗濯,片付けなど必要な家事をしている」は,自己評価として性差があると指摘があった.また,「自分で食料品管理(賞味期限が守れるなど)をしている」と「薬の作用・副作用など注意点がわかる」では,高齢者の理解力を測れる点にも着眼した.
7) 〈趣味・地域生活〉領域4項目「力になってくれる人」の解釈が幅広い,また「趣味活動,社会活動」をもっていないことが問題であるように解釈されるとの指摘があった.しかし社会交流の観点からは「日課として毎日行うこと」「趣味や学習活動,仕事や地域の活動をしている」が,加齢,疾病や障害の有無だけでなく,個人的にも社会的にも生きがいや張り合いにつながるため必要と判断し,項目に加えた.
8) 〈加齢への受け止め・生きがい〉領域6項目「加齢による変化」,「虚しさ」の設問が具体的でないことが指摘され「生活のハリ,励み,心のよりどころ,楽しみ,生きがい」などに表現を修正した.「新しく始めたいことや,やってみたいことがある」,「不安な気持ちや虚しさを話せる人・場所がある」は,生活意欲や主観的満足感だけでなく,高齢者の問題解決手段として,身近な人の存在の有無も含めて問う項目とした.
4. 追加した領域と付記項目生活の質(Quality of Life: QOL)に関連する状況や程度を尋ねるため,〈排泄〉〈服薬管理〉〈からだの症状〉領域に関する付記項目を検討した.先ず支障の「ある,なし」を問い,その設問の中に星印(*)で問いを追加した.「排尿排便に関する用品を使用している」では,選択式で品名を列挙した.「医師から処方されている薬がある」では,実際の自己管理を聞いた.さらに,対象者からは加齢変化としてあらわれやすい慢性疼痛や痒みも問うべきとの意見があり,〈からだの症状〉の領域9項目を加えた.「痛み・しびれがある」では,頭~足までの11部位から該当箇所を選ぶ形式とした.また,高齢者に特徴的な「痒みや皮膚の心配事」,徐々に進行するために気づきにくい「ものが見えにくい」や「聞こえにくい」などの感覚器の変化,認知機能低下のトリガーとして「もの忘れをしやすい」「イライラしたり,気分が沈んだりする」を付記した.
5. 語句の表現「補食」「経済的理由」のように高齢者が理解しにくい表現を除いた.「不自由なく食事ができる」は抽象的で個人で受けとめ方が異なるため,「箸,スプーンを使い」に言い換えた.文章構成では「食べ物をしっかりかめる」など文頭に目的語を置いて動作を問い,自立の様子を尋ねる形式へ修正した.高齢者へは「~できない」など否定的な表現より,肯定的な状態を選択肢にした方がよいとの対象者からの意見を受け,「寝巻のまま1日中過ごすことがある」を「寝巻きのまま1日中過ごすことはない」へ変更した.〈活動〉は意味の幅が広いために〈移動〉と表現を変更した.さらに,「1年間」「2~3か月」など,期間のばらつきを「1か月」に揃えた.ただし,体重変化は「6か月」とした.
介護支援専門員は,保健・医療・福祉の専門職としての実務経験を有し,居宅介護支援事業者において介護サービス計画を作成する専門職である.本研究の対象者は,概ね主任以上の管理職で,行政と居宅サービス事業者,介護保険施設などの調整を行う役割であり,「要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門知識及び技術を有する者」であった(介護保険法,2014).介護保険制度の基本理念は高齢者の自立支援である.高齢者が要介護状態になっても,尊厳を保持し,その有する能力に応じて自立した日常生活を送ることができるよう支援を提供する.介護支援専門員のケアマネジメントにおいては,利用者本位のQOLの向上が求められている.対象者らは,日頃から要介護,要支援者となり得る高齢者らの相談を受け,介護予防事業に関わっていた.さらに全員が看護師資格を持つことから,高齢者の心身を的確に把握し,変化を踏まえたアセスメントができると考えられた.また,平均回答率が94.7%であったことから,専門職としての回答の妥当性が確保できたと考えられた.
2. 「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表」の領域と項目の内容妥当性高齢者のウェルネス型健康生活チェック表(以下,本チェック表)は,CGAで用いられる領域と評価項目のADL,IADL,転倒・バランス,視力,聴力,栄養状態,服薬管理を含めているだけでなく,精神的機能として,認知,情緒の問い,および社会的評価として経済状態,身近な人の存在の有無を網羅している.地域包括センターの介護予防事業で用いられている,25項目の基本チェックリストと本チェック表を比較すると,〈食事〉で3項目,〈移動〉で5項目,〈家事・服薬管理・金銭管理〉では2項目が類似した内容である.しかし,基本チェックリストでは「~固いものが食べにくくなりましたか」「~むせることがありますか」と,実際の不都合を問い,「はい」と答えることで,できなくなった自分を確認する文言となっている.また,「転倒に対する不安は大きいですか」「階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか」など,比較が難しい問いや,補助が不要である状態を重視した問いが設けられている.高齢者は,自らの加齢に伴う心身の衰えを感じ,気にしながらも慢性的な変化は自覚しにくい特徴がある(三浦,2011).介護支援専門員は本チェック表から,客観的に高齢者の「できている」生活機能を把握できる.ICFモデルの心身機能・活動・参加の3つのレベル全体を見落としなく理解できることにより,高齢者が生活機能の低下を自覚する以前から,今後の生活上の変化を予測することが可能となり得る.よって,本チェック表の領域と項目は妥当と考えられた.
3. 「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表」の活用〈排泄〉〈身づくろい〉〈加齢の受けとめ・生きがい〉に含まれる項目は基本チェック表には見当たらなかった.高齢者自身が強く意識しないうちに,排尿回数を減らすために飲水を少なくしてしまう場合もあることから,意識的に水分を取っているかを問う項目が適している(梶井,2012).本チェック表では1日にどの程度の水分が必要であるかが,質問に答えることで意識付けられる.また,虚弱高齢者においては,整容やラジオを聴くといった身近な行動を促すことにより,生活行動全般を活性化できると報告されている(河野・金川,2000).どの程度の介助を必要としているか身体機能面から生活機能を推し量るばかりではなく,〈身づくろい〉を問うことによって,判断力や見当識など認知機能と関連した評価が可能となる(Galanos et al., 1994).このように,日課の多寡といった些細な生活行動は,健康な高齢者にとって最初に変化がみられる部分と報告されている(岩谷ら,2005;小玉ら,2005).本チェック表を使用した介護支援専門員のアセスメントは,高齢者のできることを引き出し,やりたいことが続けられるよう職員間で共有し,方向性を揃えた援助に役立てられる.よって,本チェック表を用いて丁寧に,継続的に情報を整理することは有用といえる.
4. 高齢者におけるウェルネスと介護予防サービスの連携ウェルネスという健康の概念では,疾患や障害をその人の一つの側面として,身体的,精神的,社会的側面を含めて総合的に健康を意味づけていくことが可能である(野崎,2001).高齢者の発達段階から見ると,身体的には回復や発達は乏しく,社会的な立場からの引退が現実である.そのため精神面の豊かさを問うことができる〈加齢の受けとめ・生きがい〉の問いにより,日常生活における心のよりどころや楽しみ,自己効力感を得られる物事,および話し相手の存在を知ることができる.高齢者にとって健康は「日々の生活の営みにおいて創り出し,獲得し続ける主体的なもの」(大森,2004)であり,自分らしく生き抜こうとする姿勢そのものをとらえ,維持・改善を図ることができる.
高齢者の約半数が何らかの自覚症状を訴えるものの,約8割が大きな支障なく生活を送っていることが報告されている(井上・大川,2000;内閣府,2015).加齢や疾患による心身機能の変化は個人差が幅広く,慢性的変化が生活行動や社会性に大きく影響しながら生活行動の全てに連動している(折茂ら,1997).そのため,要介護状態となってから高齢者にかかわる介護支援専門員は〈からだの症状〉の問いから,痛みや悩みを抱え,その対応も含めた高齢者の生活像を知ることができる.これまでの人生観や生活において大事にしている習慣を守り,維持・改善を図りながら機能の変化を見据えた援助を考えることができる.介護が必要な状態となってから行われる基本調査では,その人が過ごしてきた在り様がケアプランに生かされないことが懸念される.本チェック表を用いることにより,介護支援専門員は高齢者の「こうありたい」という生き方に対する思いを尊重しつつ喫緊のADLならびにIADLの変化を予測し,できることを維持していく予防の視点,家族や身近な人の存在や協力,および地域資源や多職種連携に基づくサービスの提供に役立てられると考えられた.
本研究は看護師資格のある介護支援専門員を対象としたが,全員女性であったことによる性差,および地域生活の中で高齢者と接する社会福祉士や保健師等を含めなかったことによる,さまざまな障害者や介護予防の視点に関する影響が否めない点は限界である.今後は介護予防事業などのさまざまな場面において,要介護や要支援認定を受けていない高齢者に本チェック表を用い,健康生活の維持や介護予防,必要な支援に役立てる有用性を検証していく必要がある.
高齢者の自立した生活を維持するための「高齢者のウェルネス型健康生活チェック表」を作成し,介護支援専門員19名によるデルファイ法を3回実施した.その結果,9領域55項目に収束し,領域と具体的な項目に対して内容妥当性と対象者の意見の一致を確認することができた.地域で自立して生活する高齢者の生活を介護支援専門員が定期的にチェックし,些細な変化を知ることで適切な支援を提供し,介護予防に役立てられることが示唆される.
謝辞:本研究を実施するにあたり,ご協力いただいた介護支援専門員の皆様に心から感謝申し上げます.また,本論文作成に際しご指導いただいた先生方,皆様に厚く御礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YYは研究デザイン,データ収集と分析,草稿の作成;KTは研究対象者の交渉,草稿への示唆;KTは研究全体の流れ,分析への示唆;UKは質的データ収集と草稿への助言;全ての著者が最終原稿を確認した.