Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Development of a Self-evaluation Questionnaire to Measure the Self-image of Nurses in the Early Stage of Their Mid-Careers
Akemi TsurutaHitomi Maeda
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2016 Volume 36 Pages 156-162

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Abstract

目的:中堅前期看護師の自己イメージ評価表を作成し,その信頼性と妥当性を検討することである.

対象と方法:臨床経験3年以上20歳代看護師1,458名を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した.項目分析,因子分析を用いた構成概念妥当性の検討により評価表を構築し,内的整合性,併存妥当性の検討を行った.

結果:分析対象は569名であった.分析の結果,16項目5因子構造【疲れている私】【孤独な私】【迷っている私】【未熟な私】【頑張っている私】の「中堅前期看護師の自己イメージ評価表」が完成した.評価表全体のCronbach’s α係数は.872,下位因子の係数は.544から.816であり内的整合性が得られた.併存妥当性は自尊感情尺度(Self-Esteem Scale)と有意な正の相関,抑うつ自己評価尺度(CES-D)と有意な負の相関が認められた.

結論:信頼性と妥当性が確保された16項目5因子構造の中堅前期看護師の自己イメージ評価表を作成できた.

Ⅰ. 緒言

医療現場の先進化・複雑化に伴い,専門性を基盤とした質の高い看護を提供できる看護師の確保は,将来にわたり看護の質を保証する上での重要課題である.多くの臨床現場では,臨床経験年数が3年以上になると,新人・後輩への指導,委員会活動など多面的な役割が任され,日々の業務遂行においてもリーダー役割が課せられるようになる.

臨床経験3年以上20歳代の看護師(以下,中堅前期看護師とする)は,看護基礎教育終了年齢が概ね21歳から22歳であることをふまえると,24歳から29歳に該当する.この世代は,職務上では新たな役割や責任範囲の拡大に伴う過負荷が生じやすく,私生活では,結婚,出産,育児などのライフイベントを経験する時期である.そのため仕事と家庭との両立困難による心身疲労が蓄積しやすい状況にあり,このことが離職願望の生起につながる可能性が高い(鶴田・前田,2009).看護師の離職願望は,自尊感情の低下が始点となって抑うつ状態に移行した後に生起する(古屋・谷,2008).そのため,離職願望の生起を未然に防ぐには,自尊感情の低下を防ぐことが重要となる.

自尊感情への影響要因のひとつに自己イメージがある.自己イメージとは,自らが自己を対象(客体)として把握した概念で,自分の性格や能力,身体的特徴などに関する,比較的永続した自分の考えであり,周囲の人々のその人に対する言動や態度,評価などを通して形成される(遠藤,2009).自己イメージは自尊感情の基盤を成し,自己イメージの不安定さは自尊感情の低下に結びつく(小塩,2001).そのため,肯定的自尊感情の向上や否定的自尊感情の改善には,自己イメージへの介入が有効であるとされている(原田,2008).したがって,中堅前期看護師の自己イメージを的確に把握することができれば,早期に自己イメージを改善するための介入支援が可能になり,離職願望の生起を予防することができると考える.

心理学領域において,自己概念や自己評価を測定する尺度は多くみられるが,現在のところ中堅前期看護師の自己イメージを明らかにした研究や,中堅前期看護師の自己イメージを測定できる指標はない.そこで,本研究では,信頼性・妥当性を備えた中堅前期看護師の自己イメージ評価表を作成することを目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

1. 自己イメージ

自己イメージとは,自らが自己を対象(客体)として把握した概念で,自分の性格や能力,身体的特徴などに関する,比較的永続した自分の考えであり,周囲の人々のその人に対する言動や態度,評価などを通して形成される(遠藤,2009).本研究では,「今の私は~」の刺激文に続く文章完成法よって得られた記述内容の分析を基に,現在の自分自身をどのように評価しているか,反映したものと定義した.

2. 中堅前期看護師

医療施設に勤務する臨床経験3年以上20歳代の看護師とした.

Ⅲ. 研究方法

1. 評価表原案作成のプロセス

評価表を構成する項目を収集するために,第一次調査としてA県内の研究協力が得られた病床数100床以上の看護師996名を対象に,2009年6月から7月に郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した.調査項目は,基本的属性と「今の私は~」の刺激文に続く文章を記入する文章完成形式での質問とした.

文章完成形式により得られた記述内容について,2名の研究者で内容分析を行なった.記述されている内容について一文一意味になるようにコード化した結果,535のコードが得られた.それらを,意味内容の類似性と差異性により分類したところ47の項目が抽出できた.さらに,新人および現任教育に携わっている看護師3名に加わってもらい,質問項目の内容の妥当性,表現の適切性,追加すべき質問項目の有無等について検討し,40項目からなる「中堅前期看護師の自己イメージ評価表原案」を作成した.選択肢は「非常にそう思う」,「ややそう思う」,「どちらともいえない」,「あまり思わない」,「全く思わない」の5件法とした.

2. 評価表の項目選定と信頼性,妥当性の検討

1) 調査方法

作成した「中堅前期看護師の自己イメージ評価表原案」について,研究協力が得られた全国の一般病床数200床以上の41施設に勤務する中堅前期看護師1,458名を対象に,2011年10月に郵送による無記名自記式質問紙調査を実施した.

2) 調査内容

(1)基本属性

年齢,性別,婚姻状況,臨床経験年数,現在の所属部署の経験年数.

(2)測定尺度

①中堅前期看護師の自己イメージ評価表原案 40項目

質問に対する回答は,「非常にそう思う」から「全く思わない」までの5件法で回答し,高得点ほど肯定的な自己イメージとなるよう配点した.

②Rosenbergの自尊感情尺度(Self-Esteem Scale;以下SEとする)10項目

星野(1970)の翻訳によるもので,個人が自己を尊敬し自己を価値あるものと考えるかの感情を測定する尺度である.高得点ほど自尊感情レベルが高い.

③抑うつ自己評価尺度(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale;CES-D)20項目

島ら(1985)によって作成された抑うつ状態のスクリーニング・テストである.高得点ほどうつ度が高いことを示し,一般には評価基準指標である16点以上を抑うつ傾向ありと判定する.

3. 分析方法

1) 対象者の特性および評価表の記述統計値

対象者の特性,評価表および尺度の記述統計値は,度数,平均,標準偏差を算出した.作成した評価表の総得点の分布に関する正規性の検定は,Shapiro-Wilk検定を行った.

2) 項目分析

天井効果・フロア効果は,平均値±標準偏差と得点分布の確認を行い,平均値±標準偏差が5.0以上,1.0以下を削除基準とした.項目間相関分析は,0.7以上を基準とし質問項目相互の内容を照合し類似性がある場合には削除対象とした.その後,最尤法,プロマックス回転による探索的因子分析を行った.因子数の決定は,スクリープロットの結果を参考に固有値1.0以上を基準とし(堀,2005),質問項目は因子負荷量が0.4以上を示す項目を採択した(小塩,2012).しかし,同一因子への因子負荷量が0.4未満であっても,質問項目として不可欠であると判断した場合は採択した.I-T(項目-全体)相関分析は,0.3未満(小笠原・松木,2007)を削除基準とした.

3) 信頼性・妥当性の検討

評価表の信頼性は,評価表全体および下位因子についてCronbach’s α係数(以下,α係数とする)による内的整合性の検討を行った.併存妥当性の検討は,外部基準としてSE,CES-Dを使用し,評価表の総得点と下位因子得点とのSpearman順位相関係数を検討した.

なお,データの統計解析には,統計ソフトIBM SPSS Statistics 22.0 for Windowsを使用し,すべての分析で有意水準を5%未満とした.

4. 倫理的配慮

本研究は,熊本大学大学院生命科学研究部疫学・一般研究倫理委員会の承認を得て実施した(倫理第312号,倫理第441号).

調査においては,対象施設の看護管理者に,研究の趣旨,研究方法,対象者の権利,質問調査表の配布方法,研究結果の公表等について説明した文書を郵送し,調査協力意思は承諾書によって確認した.調査対象者に対しては,研究協力の任意性,プライバシー保護,データの取り扱い,研究結果の公表等について文書で説明し,質問紙の投函をもって同意が得られたものとした.

Ⅳ. 結果

41施設1,458名の対象者の内592名(回収率40.6%)から回答が得られた.そのうち有効回答が得られた569名(有効回答率96.1%)を分析対象とした.

1. 対象者の特性

対象者の年齢は,26歳が20.4%と最も多く平均年齢は26.5 ± 1.7歳であった.性別は女性95.8%,男性4.2%であった.婚姻状況は未婚が73.5%であった.臨床経験年数は4年が22.0%と最も多く,平均臨床経験年数は5.0 ± 1.7年であった.現在の所属部署の経験年数は3年が21.4%と最も多く,平均経験年数は3.5 ± 1.9年であった(表1).

表1 対象者の基本属性 n = 569
項目 n %
年齢(歳)
24 77 13.5
25 87 15.3
26 116 20.4
27 106 18.6
28 96 16.9
29 87 15.3
性別
男性 24 4.2
女性 545 95.8
婚姻状況
既婚 151 26.5
未婚 418 73.5
臨床経験年数(年)
3 118 20.9
4 125 22.0
5 110 19.3
6 107 18.8
7 62 10.9
8 29 5.1
9 17 3.0
現在の所属部署の経験年数(年)
1 103 18.1
2 77 13.5
3 122 21.4
4 105 18.5
5 68 12.0
6 53 9.3
7 28 4.9
8 10 1.8
9 3 0.5

SEとCES-Dの平均得点は,SEは23.5 ± 4.7点,CES-Dは18.0 ± 9.4点であり抑うつ傾向があるとされる16点以上の割合は56.4%であった.

2. 評価表の項目分析

40質問項目について,天井効果・フロア効果を確認した.天井効果に該当した質問項目は「今の私は母である」「今の私は妻である」の2項目,フロア効果に該当した質問項目は,「今の私は看護師である」の1項目であり,これら3項目は削除した.

40質問項目の項目間相関係数が0.7以上の項目は「今の私は無気力である」と「今の私は憂鬱な気分である」の一組であった(ρ = .727).しかし,この2項目の内容は中堅前期看護師の心情を反映しており,自己イメージとして重要であると判断し分析対象として残した.

37項目について,最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った.基準にもとづいて項目を削除した結果,5因子構造16項目からなる「中堅前期看護師の自己イメージ評価表(以下,自己イメージ評価表とする)」が作成できた(表2).因子抽出後の累積寄与率は52.76%であった.第5因子の質問項目である「今の私は充実している」は,因子負荷量が.390であり基準値の0.4を下回っていたが,充実感は自己イメージの肯定的側面を反映する重要な項目と判断し採用した.I-T相関は.382から.740であり,削除項目はなかった.

表2 中堅前期看護師の自己イメージ評価表の因子分析結果(最尤法-プロマックス回転)
因子名・項目 因子 共通性
NO 全体 α = .872 1 2 3 4 5
第1因子:疲れている私 α = .816
1. r 今の私は「疲れている」 .732 –.135 .110 .071 –.218 .439
20. r 今の私は「憂鬱な気分」である .730 .117 .007 –.001 .043 .711
19. r 今の私は「無気力」である .720 .065 –.002 –.126 .187 .686
16. r 今の私は「眠りたい」 .671 –.029 –.129 .107 –.295 .303
8. r 今の私は「やる気が起きない」 .543 .096 .065 –.024 .232 .636
第2因子:孤独な私 α = .758
30. r 今の私は「孤独」である –.085 .912 .013 .004 –.149 .611
37. r 今の私は「周囲が信じられない」 .053 .741 .011 –.023 –.163 .467
32. r 今の私は「何もない」 –.063 .712 .026 –.027 .081 .527
第3因子:迷っている私 α = .788
3. r 今の私は「迷っている」 –.063 .019 .896 –.072 –.034 .678
7. r 今の私は「悩んでいる」 .068 .023 .763 .046 –.051 .667
第4因子:未熟な私 α = .722
5. r 今の私は「まだまだ未熟」 .055 –.092 –.043 .800 –.099 .541
25. r 今の私は「自信がない」 .077 .212 –.082 .578 .133 .606
6. r 今の私は「中途半端だ」 –.003 –.025 .267 .435 .196 .509
第5因子:頑張っている私 α = .544
10. 今の私は「頑張っている」 –.394 –.011 –.015 .039 .702 .363
15. 今の私は「将来に向けて実力をつけている」 .016 –.182 –.032 –.038 .688 .329
2. 今の私は「充実している」 .158 .205 –.067 –.018 .390 .369
回転後の負荷量平方和 4.380 4.190 3.468 2.629 3.117

rは逆転項目

各因子については下記のように命名した.

第1因子は5項目で構成されており,「疲れている」「憂鬱な気分」など,疲労感や気分の落ち込みを反映している内容であったことから【疲れている私】と命名した.第2因子は3項目で構成されており,「孤独である」「周囲が信じられない」など,周囲との関係が希薄になっている状態を反映している内容であったことから【孤独な私】と命名した.第3因子は2項目で構成され「迷っている」「悩んでいる」など,模索している状況を反映している内容であったことから【迷っている私】と命名した.第4因子は3項目で構成されており,「まだまだ未熟」「自信がない」など,未熟さや自信のなさを反映している内容であったことから【未熟な私】と命名した.第5因子は3項目で構成されており,「頑張っている」「将来に向けて実力をつけている」など,将来に向けて努力している内容であったことから【頑張っている私】と命名した.

評価表の各項目の得点は,1点から5点であり,項目の得点を加算し総得点を算出する.総得点は16点から80点であり,得点が高いほど自己イメージが肯定的であることを意味する.下位因子の各得点は,第1因子が1点から25点,第2,4,5因子は3点から15点,第3因子は2点から10点である.第1因子から第4因子は逆転項目であるため,得点が低いほど【疲れている私】,【孤独な私】,【迷っている私】,【未熟な私】という自己イメージが強く,第5因子は得点が高いほど【頑張っている私】という自己イメージが強いことを意味する.

3. 評価表の信頼性・妥当性の検討

16質問項目の総得点は,18点から71点の範囲であり,平均得点は44.5 ± 9.4点であった.各因子の平均得点は,第1因子【疲れている私】は13.3 ± 4.0点,第2因子【孤独な私】は10.8 ± 2.8点,第3因子【迷っている私】は4.7 ± 1.8点,第4因子【未熟な私】は6.2 ± 2.1点,第5因子【頑張っている私】は9.5 ± 1.9点であった.Shapiro-Wilk検定の結果,評価表の総得点は正規分布に従うことを示した(P = .435).

内的整合性を表すα係数は,評価表全体は.872であり下位因子は.544から.816の範囲であった(表2).5つの下位因子の因子間相関は,互いに有意な正の相関を示した(表3).

表3 自己イメージ評価表とSE,CES-Dとの相関 n = 569
自己イメージ評価表 SE CES-D 第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 第5因子
第1因子:疲れている私 .469** –.627**
第2因子:孤独な私 .501** –.606** .532**
第3因子:迷っている私 .340** –.428** .460** .388**
第4因子:未熟な私 .643** –.439** .451** .407** .460**
第5因子:頑張っている私 .421** –.344** .277** .304** .238** .340**
総得点 .646** –.707** .846** .756** .654** .695** .526**

Speamanの順位相関係数 **P < .01

併存妥当性の検討は,評価表の総得点および下位因子得点とSE,CES-Dとの関連を検討した.その結果,総得点,下位因子得点ともにSEと有意な正の相関,CES-Dと有意な負の相関が認められた(P < .01)(表3).

Ⅴ. 考察

1. 自己イメージ評価表の構造

第1因子【疲れている私】は,疲労感,憂鬱,無気力など抑うつ状態を反映した質問項目で構成されていた.臨床経験4~6年の看護師は,職業への不適応感や将来への不安感が対人不安や抑うつ性につながるという特徴がある(高間ら,2002).また,20歳から29歳の女性看護職では,軽度から重度のうつ状態の割合が77.9%であったと報告されている(中尾,2005).本研究対象者の平均年齢は26.5 ± 1.7歳,平均臨床経験年数は5.0 ± 1.7年であった.また,CES-Dの平均得点は18.0 ± 9.4点であり,抑うつ傾向がある者の割合は56.4%であった.中尾の結果は,女性看護職者を対象とし自己評価式抑うつ性尺度(SDS)を用いた結果であるため本研究結果と厳密な比較はできないが,中堅前期看護師は半数以上が抑うつ傾向にあり,職業への不適応感や将来への不安感が要因になっている可能性が考えられた.

これらのことから,第1因子【疲れている私】は,中堅前期看護師の抑うつ状態を表し離職意向への進行も把握できると推察される.そのため,精神健康の回復および職業継続意思を支える上で重要不可欠な概念であると考える.

第2因子【孤独な私】は,周囲から孤立し,周囲に対して疑心を抱き対人関係困難に陥っている状況を反映した質問項目で構成されていた.中堅前期看護師において,職場における対人関係困難は,抑うつ状態と離職意向につながる要因である(鶴田・前田,2013).そのため,対人関係の改善および離職防止の観点からも不可欠な概念であると考える.

第3因子【迷っている私】を構成している「迷い」や「悩み」は,中堅前期看護師は人として成長・発達の途上にあることや,看護の専門職業人としても専門・関心領域の模索の時期(水野・三上,2000)であることから不可避なものであると考える.したがって,専門職業人としてのキャリア発達や自己成長を促すためにも重要な項目であると考える.

第4因子【未熟な私】は,自分の未熟さを自覚し,自信が持てない状況を反映していた.本研究の対象者は,平均臨床経験年数から中堅レベルに相当すると考えられるが,全く新しい事例に遭遇した場合には一人前レベルへと後退する(Benner, 2001/2005).力量の不安定さから起こる未熟さや自信のなさは,キャリア発達の途上にある中堅前期看護師が当然抱く心情と考える.しかし一方では,自分の未熟さや自信のなさを認識できていることは,新たな事象に取り組む際の慎重さや緻密さにつながり,自己教育を促進させる要素にも成り得ると考える.したがって,今後のキャリア発達を促進させ将来の方向性を検討する上でも重要な項目であると考える.

第5因子【頑張っている私】は,将来に向けて努力している状況を反映した項目で構成されていた.第5因子の質問項目の内容は,平石による青年期を対象にした自己肯定意識尺度の自己実現的態度,充実感の項目と類似していた(堀・松井,2001).充実感や自己肯定感は,学びや生きることへの原動力を生み出し(佐々木,1999),仕事に対する有意味感は職業継続につながる(山内・戸梶,2004).そのため,第5因子の項目は中堅前期看護師の自己イメージの肯定的側面を把握する上で重要不可欠であると考える.

2. 自己イメージ評価表の信頼性・妥当性について

信頼性の検討について,内的整合性を表すα係数は,第2因子から第5因子については,尺度構成における基準値とされている0.8(村上,2006)を下回る結果になった.しかし,評価表全体としては.872であり基準値以上であることから,本評価表の内的整合性による信頼性は確保できていると判断できる.

併存妥当性については,外的基準としてSEとCES-Dを用いて検討した.本評価表は,得点が高いほど肯定的な自己イメージであることを示す.SEは,内面的に自己に満足している「Good enough」の側面を測定している尺度(星野,1970)であることから,本評価表と正の相関,抑うつ度を測定するCES-Dとの関連では負の相関が予測された.結果として,SEと有意な正の相関,CES-Dと有意な負の相関が認められたことから,本評価表の併存妥当性は支持されたといえる.

3. 自己イメージ評価表の活用可能性

看護専門職として成長するためには自己の省察が重要である(Donald, 1983/2001).本評価表は,16質問項目と項目数が少ないにも関わらず,一定の信頼性が保持されていたことから,回答する際の負担が少なく煩雑な日常業務の中でも簡便に活用できるといえる.中堅前期看護師が本評価表を用いることによって,下位因子に示された自己イメージ得点から,自分を多面的に認識し分析することが可能になる.その結果,自己省察が深まり,自己イメージの変容に向けた主体的な行動につなげられると考える.

自己評価的な意識の内的構造には,自信や誇りなどの肯定的なものと,自己不信や劣等感などの否定的なものが含まれている(梶田,1988).自己省察には,自己の肯定的側面と否定的側面の両面に注目することが重要であり(熊田・及川,2015),否定的自己に注目することは必ずしも自己評価の低下にはつながらず,二次的には自己評価の上昇につながることもある(原田,2006).そこで,下位因子の各得点だけでなく総得点を算出することによって,中堅前期看護師自身の総体的な自己イメージを認識できると考える.看護管理者にとっても,本評価表の結果をスタッフと共有することでスタッフの現況を客観的,多角的に把握でき的確な支援に結び付けることができる.

自己省察の過程において,独力で自分の体験と対峙し客観視することで心理的な痛みを伴うことがある.しかし,他者からのフィードバックによって自律的,自主的な自己への変容が可能になる(Brockbank & McGill, 2007).そのため,本評価表は中堅前期看護師と看護管理者の双方による活用が望まれる.

Ⅵ. 研究の限界と今後の展望

今回作成した自己イメージ評価表の中にはα係数が低い下位因子が含まれていたことが限界としてあげられる.今後さらなる評価表の洗練が必要である.しかし,信頼性,妥当性ともに一定の基準を充たしていたことから,今後は中堅前期看護師を対象に本評価表を効果測定の指標として使用し,肯定的な自己イメージの獲得に向けた支援を検討していきたい.

Ⅶ. 結論

本研究により,【疲れている私】【孤独な私】【迷っている私】【未熟な私】【頑張っている私】の5下位因子16質問項目から構成される中堅前期看護師の自己イメージ評価表を作成できた.評価表全体のα係数は.872であり,内的整合性による信頼性が確保されており,SEおよびCES-Dの外的基準との併存妥当性も認められた.以上より,本評価表は中堅前期看護師が自己イメージを把握し評価するために活用できると考える.

謝辞:本研究にご協力くださいました各施設の看護師の皆様ならびに看護部の皆様に心から感謝申し上げます.本論文は熊本大学大学院保健学教育部に提出した博士論文の一部を加筆,修正したものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:ATおよびMMは研究の着想およびデザインに貢献;ATは統計解析の実施および草稿の作成;MMは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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  •  山内 京子, 戸梶 亜紀彦(2004):看護職のキャリア形成と自己概念に関する研究,看統研,5(2), 6–17.
 
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