2016 Volume 36 Pages 263-272
がん患者とのEnd-of-life discussionsの概念分析を行い,定義を明確にすることを目的とする.方法はRodgersのアプローチを用い,2000年から2015年の間で45文献を対象に概念分析を行った.結果として,9個の属性として【End-of-life discussionsのタイミングを判断】【終末期の医療・ケアと死に行く過程に関する話し合い】【話し合いを書面化する】【療養の場に関する話し合い】【患者の望みや好みについての話し合い】【家族への知識提供と家族の価値観についての話し合い】【価値観,個別性の尊重】【医療者と患者・家族とのチームで共有する】【信頼関係を築き意思決定を援助】が抽出された.本概念を「がんが進行した状態にある患者に対して,患者の価値観や個別性を尊重しながら,患者と家族と医療者のチームアプローチと個々の信頼関係に基づいて,治療・緩和ケア・療養について話し合うこと」と定義した.
がん治療の発展と共に療養の選択肢が多様となっている.そのため,終末期にICU入室や新たな化学療法のレジメンを開始するといった積極的治療を受ける場合もあり(Sharma et al., 2015),終末期のQOL低下(Mori et al., 2013)や医療費の増加(Zakhour et al., 2015)が問題となっている.そのため,がん患者は積極的治療の継続や中止,終末期ケアとそれに伴う暮らし方について考えることが求められている.欧米では,このような内容に関する話し合いをEnd-of-life discussions と呼び,リビング・ウィルやAdvance Care Planning(以下ACP)を使用してend-of-life discussions(以下EOLd)を予後1年未満で行われるのが望ましいと考えられており,EOLdをすることは終末期での積極的な治療の減少や入院日数の減少やホスピス使用の増加に関連している(Wright et al., 2008;Mack et al., 2012).また,多くの患者はEOLdは重要であると考えている(Diaz-Montes et al., 2013).一方でEOLdが行われていない・EOLdの開始時期が遅いとの報告もあり(Zakhour et al., 2015)患者が主体的にEOLdに参加する機会が失われている.阻害要因の1つとして,EOLdの定義が臨死期での医療処置に限局している場合や積極的治療の中止や療養の場の選択も含む場合もあり明確ではないことが考えられる.そこで,本研究の目的はがん患者とのEOLdの概念を明確にし,構造を明らかにすることでがん患者とのEOLdにおける看護の臨床的な介入の基盤となる示唆を得ることである.
本研究の目的はがん患者とのEOLdの概念を明確にし,構造を明らかにすることでがん看護における臨床的な介入の基盤となる示唆を得ることである.
本研究ではRodgers(2000)の概念分析のアプローチを使用した.
2. 対象となる文献の選定対象となる英文献の選択はCINAHL Plus with full textとPubMed,日本語では医中誌を使用した.検索キーワードは“Neoplasms” [Mesh] AND(“Advance Care Planning” [Mesh] OR (end-of-life [All Fields] AND discussions [All Fields]))を使用し抽出した.また,和文献では,(腫瘍/TH or腫瘍/AL)and(アドバンスケア計画/TH orアドバンスケアプランニング/AL)or(end-of-life/AL and discussion/AL)or((ターミナルケア/TH or終末期/AL)and話し合い/AL)を使用し抽出した.出版年は2000年から2015年9月までの文献とした.
検索された英文献457件,和文献47件についてタイトルや要約を確認し,その適性を判断した.そのうち,重複している文献,がん患者・家族を対象としていない文献,内容がEOLdと無関係なもの,会議録,症例・事例報告,入手不可能な文献は対象外とした.その結果,適切な内容であったのは,英文献32件,和文献1件であった.さらに,ハンドサーチングにて重要な文献を追加し,45文献を対象に概念分析を行った.
3. データ分析データの分析は,概念の使用に注目するRodgers(2000)の概念分析アプローチを使用した.具体的には,文献の内容から概念を構成する特性である属性,その概念に先行して生じる先行要件,その概念の結果として生じる帰結についてRodgers(2000)が提唱する様式を参考に作成したコーディングシートに該当する内容を抽出し,カテゴリー化した.その結果から,本概念の定義を構築した.なお,分析の信頼性・妥当性の確保として,博士課程の学生間で意見交換を行うとともに,がん看護学,理論看護学の専門家のスーパーバイズを受けた.
がん患者とのEOLdの構成概念として属性,先行要件,帰結が抽出された(図1).以下,本文中の【 】はカテゴリー,[ ]はサブカテゴリーを示す.
がん患者とのend-of-life discussionsの概念図
がん患者とのEOLdの属性として9つのカテゴリーが抽出された.
カテゴリー | サブカテゴリー | コード | 著者 |
---|---|---|---|
終末期の医療・ケアと死に行く過程に関する話し合い(A) | 1)治療について話し合う | 身体状況に応じた受けたい治療について話し合う | Mori et al., 2013;Koh et al., 2016 |
医学的治療の限界と予後について話す | Wright et al., 2008 | ||
治療計画を立てる | Balaban, 2000 | ||
治療に関する意思決定 | Clayton et al., 2005 | ||
終末期ケアに関する一般的な医学情報と具体的な情報について考える | Koh et al., 2016 | ||
2)予測される症状や対応について話し合う | 予測される症状について | Clayton et al., 2005 | |
患者が終末期の身体的な状態やケアについて学ぶ | Emanuel et al., 2000;Gillick et al., 2004 | ||
3)予後について話し合う | 予後を明確化する | Balaban, 2000 | |
4)臨死期のプロセスとケアについて話し合う | DNRについて話合う | Mack et al., 2012;Hilden et al., 2004 | |
生命維持について話合う | Balaban, 2000 | ||
蘇生の程度について話し合う | Zakhour et al., 2015 | ||
死にゆくときの治療について話す | Maciejewski & Prigerson, 2013 | ||
臨死期に受けたい医療的ケアのゴールについて話し合う | Wright et al., 2008 | ||
死にゆく過程における病気が進行した場合のケアの内容を話合う | Tang et al., 2014 | ||
死に行くプロセスについて話し合う | Clayton et al., 2005 | ||
5)緩和ケアについて話し合う | ホスピスについて話し合う | Mack et al., 2012 | |
Mack et al., 2012 | |||
緩和ケアについて話し合う | Zakhour et al., 2015;Mack et al., 2012 | ||
6)ACPについて話し合う | ACPについて話し合う | Brown et al., 2014;El-Jawahri et al., 2010;Mori et al., 2013;Mack et al., 2012 | |
話し合いを書面化する(B) | 7)話し合いを書面化する | ACPに関する話し合いを書面化する | Zakhour et al., 2015 |
患者や家族との治療に関する話し合いを文書化する | Zaros et al., 2013 | ||
8)DNRの様式やアドバンスディレクティブを作成する | DNRの様式やアドバンスディレクティブを使用して行う | Hong et al., 2016 | |
アドバンスディレクティブの作成はEOLdを導く有効な手段になる | Koh et al., 2016 | ||
患者の望みや嗜好に関する話し合い(C) | 9)実存的な問題について話し合う | 実存的な問題について話す | Clayton et al., 2005 |
10)患者・家族の望みや嗜好について話し合う | 終末期ケアに対する患者のニード・ゴール・望み・嗜好について話し合う | Peppercorn et al., 2011;Koh et al., 2016;Gu et al., 2015;Diaz-Montes et al., 2013;Mack et al., 2012;Zakhour et al., 2015;El-Jawahri et al., 2010;Tang et al., 2014;Zaros et al., 2013;Laryionava et al., 2015;Mori et al., 2013 | |
終末期の目標を決める | Balaban, 2000 | ||
療養の場に関する話し合い(D) | 11)退院調整について話し合う | 将来の退院計画 | Hilden et al., 2004 |
12)亡くなる場所について話し合う | 亡くなる場所について話し合う | Mack et al., 2012;Clayton et al., 2005 | |
家族への知識提供と家族の価値観についての話し合い(E) | 13)家族へ病状と選択肢を伝える | 患者の病状や選択肢について家族が理解できるようコミュニケーションをとる | Cherlin et al., 2005 |
14)家族の望みや嗜好について話し合う | 終末期ケアに対する家族のニード・ゴール・望み・嗜好について | Mori et al., 2013 | |
15)家族力学 | 家族ダイナミックスが意思決定に影響する | Diaz-Montes et al., 2013 | |
family dynamics | Koh et al., 2016 | ||
価値観,個別性の尊重(F) | 16)価値観,個別性の尊重 | 個別的にダイレクトケアとサポーティブケアについて話す | Peppercorn et al., 2011 |
患者・家族の医療の理解を含む態度と価値を反映する | Hilden et al., 2004 | ||
患者・家族の見解を尊重 | Hilden et al., 2004 | ||
患者が価値観・信念を明確化する援助をする | Emanuel et al., 2000 | ||
患者の権利を守る | Hilden et al., 2004 | ||
医療者と患者・家族のチームで共有する(G) | 17)医療者と患者・家族とのチームワークで行う | 医師・看護師と患者・家族とのチームワークで決定を行う | Hilden et al., 2004 |
患者・家族と心配事を共有する | Balaban, 2000 | ||
信頼関係を築き意思決定を援助(H) | 18)信頼関係を築く | 信頼関係を築く | Clayton et al., 2005 |
19)ユーモアを交え感情面での援助を行う | 感情面での援助 | Clayton et al., 2005 | |
ユーモアを持つ | Clayton et al., 2005 | ||
EOLdのタイミングを判断する(I) | 20)患者・家族の理解・準備状況を評価する | 患者と家族が話題を上げるまで待つ | Clayton et al., 2005 |
患者が治療の限界について話し始めるまで待つ | Laryionava et al., 2015 | ||
患者の能力 | Koh et al., 2016 | ||
患者の自身の状態の認識を観察する | |||
患者の医学的状態に関する情報の欲求の程度 | |||
EOLdに対する患者・家族のレディネス | |||
療養過程を通して徐々に患者が準備をする | Laryionava et al., 2015 | ||
病気の進行時のEOLdの望ましいタイミングを見計らう | Diaz-Montes et al., 2013 | ||
21)医学的状況を評価する | 治療の選択肢がなくなるまで待つ | Laryionava et al., 2015 | |
根治不能な転移がんに対する系統的な治療が開始した時 | Laryionava et al., 2015 | ||
緩和ケアが開始した時 | |||
治療効果が無くなった時 | |||
根治不能な転移がんの診断の時 | |||
再発がんに対する最初の治療の時 | |||
治療の害が益を上回った時 | |||
治療の選択肢が無くなった時 | |||
患者の状態が悪くなった時 | |||
病気の進行時のEOLdの望ましいタイミングを見計らう | Laryionava et al., 2015 | ||
予後が数か月と判断される時 | Yoshida et al., 2014 | ||
予後が1年以内と判断される時 | Mack et al., 2012 | ||
根治不能な進行がんの早い段階 | Hong et al., 2016 | ||
亡くなる1か月前までに実施する | Brown et al., 2014 | ||
化学療法の終了 | Koh et al., 2016 | ||
一般的な治療が終了した時 | |||
終末期の状態と診断された時 | |||
終末期に近いと考えられる時 |
医療者は医学的な状況(Laryionava et al., 2015;表1 I-21)参照)と患者・家族のEOLdに対するレディネスや理解度を評価し(Koh et al., 2016;表1 I-20)参照)EOLdを開始するタイミングを判断していた.
2) EOLdの内容についてEOLdの内容については【終末期の医療・ケアと死に行く過程に関する話し合い】【患者の望みや好みに関する話し合い】【療養の場に関する話し合い】【家族への知識提供と家族の価値観についての話し合い】の4つのカテゴリーで構成されていた.EOLdでは,終末期ケアに関するAdvace care planningについて話し合いが行われていた(Mack et al., 2012;表1 A-6)参照).内容として,臨死期での生命維持装置・蘇生等の医療的ケアについて話すこととして使用されている(Balaban, 2000)場合や,積極的治療の中止(Wright et al., 2008)や緩和ケアの導入(Mack et al., 2012;表1 A-5)参照),病状や治療法の変化に伴う療養の場や方法についての話し合い(Hilden et al., 2004;表1 D-11)12)参照)として使用されていた.また,医療者は患者の価値観や好みについて話し合いを行い今後のケアへ反映させていた(Peppercorn et al., 2011;表1 C-10)参照).さらに,家族へ病状や治療法の選択肢についての情報提供(Cherlin et al., 2005)や,家族の価値観や好みについて話し合う(Mori et al., 2013)ことで家族内での情報共有や話し合いの促しを行いfamily dynamicsを促進していた(Diaz-Montes et al., 2013;表1 E-15)参照).
3) 【話し合いを書面化する】Advace care planningについて話し合う過程において,Advace derective やliving willやDNRの様式などを用いて,話し合いの内容の書面化を行っていた(Zakhour et al., 2015;表1 B-7)参照).
4) 【価値観,個別性の尊重】医療者は患者の権利を守ることを前提とし(Hilden et al., 2004),患者・家族が自身の価値観や思いを明確化し表出できるよう援助を行っていた(Emanuel et al., 2000;表1 F-16)参照).
5) 【医療者と患者・家族のチームで共有する】医療者と患者・家族と情報を密に共有する(Hilden et al., 2004)ことで,医療者と患者・家族が対等に話し合いを行えshared decision makingを実施していた.
6) 【信頼関係を築き意思決定を援助】日ごろの会話に冗談を交えて患者・家族の感情面への配慮を行い(Clayton et al., 2005)患者・家族と信頼関係を築くことでEOLdを円滑に行っていた.
2. 先行要因がん患者とのEOLdの先行要件として5個のカテゴリーが抽出された.
1) 【がんが進行した状態にある患者】EOLdの対象となる患者は,がんが進行した状態にある患者,もしくは終末期にある患者,もしくはステージ4の患者とされていた(Mori et al., 2015;Mori et al., 2013;Marc et al., 2013;Hong et al., 2016;Gu et al., 2015;Dev et al., 2013;Cherlin et al., 2005;Bradley et al., 2001;Wright et al., 2008;Mack et al., 2010;Koh et al., 2016;Clayton et al., 2005;Zaros et al., 2013;Zakhour et al., 2015;Balaban, 2000;Maciejewski & Prigerson, 2013;Tang et al., 2014;Sharma et al., 2015;Zhang et al., 2009).すなわち,EOLdを実施する患者像は病状が進行しており,積極的治療が難しくなりつつある患者や積極的治療が困難であり緩和ケア主体のケアに移行した患者であった.
2) 【医療者と患者の認識のずれ】がん治療の進歩とともに,治療の選択肢が増加している状況において,治療や療養の場の選択は患者・家族の価値観によって多様となる.そのため,患者は自分で意思決定をしたいと希望しておりEOLdへの関心は高かった(Clayton et al., 2005;Balaban, 2000;El-Jawahri et al., 2010;Diaz-Montes et al., 2013).しかし,多くの患者がEOLdの機会を失っているという報告もあり(Levin et al., 2008;Hilden et al., 2004;Earle et al., 2004;Zakhour et al., 2015;Clayton et al., 2005;Wright et al., 2008;Koh et al., 2016;Diaz-Montes et al., 2013),医療者が患者の価値観や希望について十分に理解のないまま治療方針が決定され,患者と医療者の認識にずれが生じていた(Tang et al., 2014).
3) 【医療者の背景】医療者の中には終末期ケアは敗北だという考え(Jackson et al., 2008)やEOLdを避ける(Wright et al., 2008;Mack et al., 2012;Lopez-Acevedo et al., 2013)ことが報告されていた.また,医療者が積極的治療の効果を過大評価し,すでに終末期の段階にある患者に対して積極的治療を継続する状況も報告されていた(Tang et al., 2014).このような状況は,医療者の感受性やコミュニケーション技術の程度に関係しており(Clayton et al., 2005),コミュニケーション技術や教育が不十分なため,医師が患者とのEOLdにおいて不安や困難感を抱いており教育の必要性が述べられていた(Granek et al., 2013).
4) 【終末期での積極的治療の実施と終末期ケアの不足】終末期に積極的治療を実施することで患者のQOLが低下することが報告されていた(Sharma et al., 2015).また,病状が不可逆的で予後が1か月以内と予測される患者へICUでの集中的な治療や抗癌治療を行うことで医療費の増加(Zakhour et al., 2015)や入院日数の延長や病院死の増加(Nilsson et al., 2009)という社会的な問題となっていた.
5) 【文化的・法的背景の影響】日本などのアジア諸国では,パターナリズムを好む(Marc et al., 2013),家族中心の意思決定や受動的な意思決定を好むことが指摘されていた(Koh et al., 2016).また,代理意思決定やリビングウィルに対する法整備が異なるため,それぞれの国の文化的・法的背景の影響を考慮する必要性がある(Gu et al., 2015).
3. 帰結がん患者とのEOLdの帰結として6つのカテゴリーが抽出された.
1) 【患者の自律した意思決定の増加】適切な時期にEOLdを実施することで,患者・家族へ状況に応じた情報が提供され(Zakhour et al., 2015),病状や予後に対する理解の向上(Wright et al., 2008;Maciejewski & Prigerson, 2013)に繋がっていた.また,患者が自身の状況や今後について適切に理解することで,自律した意思決定を促進させていた(Hilden et al., 2004).
2) 【患者の意向に沿ったEOLケアの増加】患者が自律した意思決定を行うことで,患者の価値観や好みに沿ったケアの増加に繋がっていた(Mack et al., 2010;Mack et al., 2012;Wright et al., 2008).また,そのようなケアを行うことで終末期ケアの質の向上にも寄与していた(Mori et al., 2013;Zakhour et al., 2015).
3) 【患者の安楽に焦点を当てたケアの増加】EOLdを実施することにより,治癒を目指した積極的治療から患者の苦痛緩和やADLの維持など,患者の安楽に焦点を当てたケアへ移行していた(Tang et al., 2014).患者の安楽に焦点を当てることで,早期にホスピスの紹介が行われ(Cherlin et al., 2005;Wright et al., 2008),在宅死の増加(Mack et al., 2012),ホスピスへの入院の増加(Maciejewski & Prigerson, 2013;Mack et al., 2012)に繋がっていた.
4) 【終末期の積極的治療の減少】EOLdを実施することで,終末期でのICUの入室や積極的な生命維持のための治療の減少(Wright et al., 2008;Tang et al., 2014;Zhang et al., 2009;Mack et al., 2012;Zakhour et al., 2015;Maciejewski & Prigerson, 2013;Zaros et al., 2013)や入院期間の短縮(Zakhour et al., 2015)に繋がっていた.
5) 【終末期のQOLの向上】EOLdによって,患者のストレスが減少し(Maciejewski & Prigerson, 2013;Wright et al., 2008;Mack et al., 2010;Zakhour et al., 2015),終末期のQOLの向上に繋がっていた(Zakhour et al., 2015;Lopez-Acevedo et al., 2013).
6) 【医療費の低下】積極的治療が適切な時期で中止され,緩和ケア主体のケアへと移行することで,不要な入院が減少し資源が有効利用され医療費の低下に繋がっていた(Zakhour et al., 2015).
4. 関連概念がん患者とのEOLdの関連概念として,ACPとその下位概念のadvance derective,living willが位置付けられている.また,EOLdとACPは同義語として使用される場合や異なる定義で使用される場合がある.ACPは「将来の医療的ケアについて計画するプロセス,特に患者が自身で意思決定できないときに使用される」(Emanuel et al., 2000)と定義されており,病状が安定している段階から定期的に医療ケア計画を行い,患者が意思決定能力を失った際の代理人の指定を含んでいる.一方で,EOLdは「現在差し迫った病状にあり,患者が望むケアの目標や願い,価値観を明らかにする対話のプロセス」(西川ら,2015)と定義されている.本研究では,EOLdの開始時期は「がんが再発した時」から「亡くなる1か月前まで」と時期に幅があるが将来的に終末期ケアが必要な患者に対して行われていた.そのため,がん患者とのEOLdは将来的に終末期ケアが必要になるがん患者に対して行われ,話合う内容の1つとしてACPがあると考えられる.
概念分析の結果を基に,本研究では「がん患者とのEnd-of-life discussions」を「がんが進行した状態にある患者に対して,患者の価値観や個別性を尊重しながら,患者と家族と医療者のチームアプローチと個々の信頼関係に基づいて,治療・緩和ケア・療養について話し合うこと」と定義した.
2. 本概念活用への有用性と課題先行要因として,【医療者の背景】や【文化・法的背景の影響】がEOLdの促進・阻害因子になることが分かった.Keating et al.(2010)は医師の背景が患者の予後に関する話の時期,ホスピスへの入院,亡くなる場所の好み,DNRの内容に有意に関連すると述べている.EOLdには医療者の感受性(Clayton et al., 2005)やコミュニケーション技術が必要(Emanuel et al., 2000)と述べられていることから,終末期ケアや緩和ケアについて正しい知識を習得し,医療者個人の倫理的感覚を磨き,コミュニケーション技術を向上させることで医療者の不安や困難感を軽減することに繋がり,EOLdに対するネガティブな感情が減少すると考えられる.また,患者の置かれている,文化・法的背景や患者の好みを理解することで,個々の意思決定様式や状況に応じたEOLdの方法を実施することができると考えられる.
属性として,医療者は【EOLdのタイミングを判断する】を行い適切な開始時期を見極めていた.しかし,この方法は変化にフレキシブルに対応する必要があり,時にタイミングを逃しEOLdの機会の喪失に繋がる要因となっていると考えられる.Koh et al.(2016)は終末期の状態とEOLdを開始する時期の決定は個々の状態を熟考することが求められると述べており,病状や残された治療の選択肢や患者・家族の理解度・レディネスについてアセスメントを継続していくことが必要である.しかし,先行研究の多くはEOLdはがん患者と医師との間で行われることとして記述されていた.だが,医師の診察時間は短く,診察時間内で患者・家族の理解度・レディネスや生活状況について詳細に把握することは難しい.そのため看護師や薬剤師など多職種が協働し,患者・家族の情報を得ていく必要がある.また,山口(2016)は日本において,EOLdは多くが病棟で実施されていると述べている.しかし,治療の外来移行が進み入院日数が短くなっている現状において,早期からEOLdを実施するためには,外来で積極的治療が難しくなりつつある患者に対して継続的にチームで関わることが求められていると考える.
帰結として,医療者はEOLdを行うことで患者にストレス与えると考え消極的になるが,実際にはEOLdを行うことで患者のストレスが低下することが示されていた(Maciejewski & Prigerson, 2013;Zakhour et al., 2015;Wright et al., 2008;Mack et al., 2010).このことから,終末期について考えることは終末期のQOLを向上するために重要であり,患者は適切な情報提供と話し合いの機会を求めていると考える.そして,医療者は積極的にEOLdの場を提供していくことが必要だと考える.
今回,がん患者とのEOLdの構成要素を明確化したことにより,EOLdを行うための看護介入の方向性が示唆されたと考える.以上のことから,がん患者とのEOLdの概念は,がん患者とのEOLdにおける看護に対して実践や研究において有用であると考えられる.
3. 研究の限界本研究の限界として,概念分析の手法として,限られた文献内での用語の使用について分析を行ったものであることが挙げられる.今後,概念モデルの検証につなげられるよう,概念の精錬を行っていく必要がある.また,がん患者に対する実践の有用性を検証していくことが課題である.
謝辞:本研究論文をまとめるにあたりご指導くださいました聖路加国際大学林直子教授,田代順子教授に心より感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.