2017 Volume 37 Pages 76-85
目的:ひとりで暮らす虚弱高齢者の希望と,老いの肯定的意識,健康状態,社会的役割,ライフスタイル,ソーシャルネットワーク,サポート受領との関連を明らかにする.
方法:65歳以上の独居高齢者を対象に質問紙調査を実施した.分析対象者は要介護度1から非該当者までの463名であった.希望レベルはHerth Hope Index(HHI)により測定し,HHI得点を従属変数とする重回帰分析を行った.
結果:対象者の年齢は83.4 ± 6.6歳で,HHI得点は33.1 ± 6.7点であった.HHI得点と有意な関連が認められたのは,老いの肯定的意識(β = 0.244),精神的健康(β = 0.241),社会的役割(β = 0.175),ソーシャルネットワーク(β = 0.027),訪問介護サービス(β = 0.124)であった.
結論:虚弱な独居高齢者の希望を高めるためには,人生経験を振り返りながら老いを生きることを肯定的に意味づけし,近隣とのかかわりや社会活動への参加を通して他者とのつながりがもち続けられ,精神的健康状態が維持できるように支援することが重要である.
加齢変化や長年の生活習慣により虚弱な状態にある高齢者は増加傾向にあり,そのうえ単身世帯が増加している(内閣府,2016).日本老年医学会(2014)によると,高齢者のFrailtyとは,生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し,生活機能障害,要介護状態,死亡などの転帰に陥りやすく,身体的問題のみならず精神・心理的問題や社会的問題を含む状態である.
老年期は,人生の統合と絶望のバランスをとりながら英知を発展させるという心理社会的発達課題に直面する.そのうえ,人生の初期の段階で発達した希望の力は,生涯に渡るかかわり合いの基礎となり,老年期において,心理社会的発達課題の再統合と非常に密接な関係があるといわれる(Erikson et al., 1986/1997).また,希望は,困難な状況に対処する内的な力として働き,生きる意味を促進し(Herth, 1992;平野,2009),高齢者は希望に向かって進むプロセスを通して困難や危機を乗り越えることができる(Duggleby et al., 2012;Tornstam, 2011;Wadensten, 2005)といわれている.したがって,虚弱な高齢者が希望をもつことは,今そしてこれからの自らの老いを生き続けることを支え,遭遇する危機や困難を乗り越える力となる.また,今までの人生を通して,よりよく生きたと自身の老いに対する肯定的な意識は,生きる希望を高め,Quality of lifeを支えることができると考えられる.
一方,これまでの希望に関する調査では,慢性疾患やがん(Herth, 1992),脳卒中(Bluvol & Ford-Gilboe, 2004),神経難病(平野,2009)など疾病に注目し,痛みなどの身体症状や社会的困難感が希望に関連していることが報告されている.しかし,これまでに,健康な高齢者の捉える希望については検討されてきたが(小泉ら,2000),加齢や疾病により虚弱な状態にある高齢者の希望とその関連要因について十分に検討されているとは言い難い.虚弱な高齢者は,老いの肯定的意識をもちながら健康状態が維持されていることが生きる希望につながるのではないかと考える.
他方,ひとり暮らしの虚弱高齢者が人生の最期まで自分らしくいきいきと老いを生きるためには,自らの心身機能の低下に向き合い,健康管理とともに社会生活機能を維持する必要がある.虚弱高齢者がひとりで暮らすうえで,健康管理と生活調整の双方において,多様な危機や困難な場面が想定される.これまでの地域在住高齢者に関する調査では,独居高齢者のソーシャルネットワークの充足が老年症候群の発症数を減らすことや(中居,2011),余暇活動や家庭内活動,仕事関連活動がソーシャルネットワークや抑うつと関連すること(角田ら,2011),高齢者の良好な精神的健康状態は趣味やボランティアなど日常的に目的意識をもって生活していることと関連すること(杉浦・早川,2015)が報告されており,地域在住高齢者のライフスタイル,社会的役割,ソーシャルネットワークといった社会参加は健康状態と密接に関係していると考えられる.したがって,ひとりで暮らす虚弱高齢者の希望は,自らの老いを肯定的に意識し,健康状態が維持されることによって希望を高めるだけでなく,社会参加が生きる希望につながることが想定される.さらに,子どもからのインフォーマルサポートとケア提供者によるフォーマルサポートの提供は,ひとりで暮らす虚弱高齢者の生きる希望を支えることができると推察する.
そこで,本研究は,ひとりで暮らす虚弱高齢者の希望は,老いの肯定的意識により高められ,さらに,心身機能に応じた日常的な運動や社会活動などのライフスタイルと社会的役割,ソーシャルネットワーク,フォーマルおよびインフォーマルサポート受領の状況が関連すると仮定し,ひとり暮らしの虚弱高齢者の希望とその関連要因を明らかにすることを目的とする.
本研究における虚弱とは,加齢や疾病に伴う心身機能の低下がみられても,ひとり暮らしが可能な程度の身体的,精神・心理的,社会的機能を維持することができている状態と定義し,虚弱高齢者とは,要介護認定における非該当から要介護1までで,地域包括支援センターまたは居宅介護支援事業所を利用している65歳以上の高齢者とする.
加齢に伴う役割や活動の喪失に対して適応するという活動理論では,高齢者は社会的役割をもち続け,その役割を通して他者あるいは社会との相互作用が維持できるといわれている(Atchley & Barusch, 2004/2005).活動理論や生涯発達理論から発展したサクセスフルエイジングでは,人生に満足し,自己を調整しながら加齢変化にうまく適応することによって老年期の発達課題を達成することができると考えられており,エイジングの肯定的側面に焦点をあて,深い知恵に基づく適応力や統合力に注目している(谷井,2001).さらに,サクセスフルエイジングの構成要素として,満足,健康,参加,自己保存などが挙げられている(松本・渡辺,2004).本研究は,活動理論およびサクセスフルエイジングに基づき,ひとりで暮らす虚弱高齢者の生きる希望は老いに対する肯定的な自己意識により規定されるという考え方に立脚する.そのうえで,①老いの肯定的意識は,ひとりで暮らす虚弱高齢者の希望に関連し,さらに,②健康状態,③健康状態に応じた社会参加として社会的役割,ライフスタイル,ソーシャルネットワーク,④健康状態と社会参加状況に応じたサポート受領の影響を受けながら希望に関連するという概念枠組みを構築した(図1).
本研究の概念枠組み
注.①モデル1~4すべてにおいて,老いの肯定的意識は希望に関連する.②モデル2は老いの肯定的意識と健康状態,モデル3はモデル2に加えて社会参加,モデル4はモデル3に加えてサポート受領で構成され,モデル内の構成概念が希望に関連する.
調査地は,中国・四国地方3県で,調査時の高齢化率はA県が約30%,B県が約26%,C県が約28%であり,全国平均と比べ高齢化率の高い地域である.また,65歳以上人口に占める単独世帯の割合は,各県それぞれ約13%,約15%,約18%であり,全国平均よりやや少ないが増加傾向にある地域である(総務省統計局,2010).対象者は,各県の居宅介護支援事業所または地域包括支援センター(以下,事業所)を利用している65歳以上の独居高齢者である.
3. 調査方法本研究は,独居高齢者の健康と生活に関する研究の全体構想のなかで複数の構成概念に基づいて作成した調査票により実施した.まずは,調査地の都道府県高齢者保健福祉部局に電話で研究の趣旨を説明し,各部局で把握している居宅介護支援事業所1,456か所および地域包括支援センター130か所の1,586か所を確認した.次に,層化無作為抽出法により,各県の約7割にあたる事業所数を算出し,各県全域の市区町における65歳以上の単身者世帯割合に応じて1,140か所を抽出した.事業所に研究の趣旨と調査票見本を同封した文書を郵送し,FAX返信により調査票配布の協力意思と配布可能数を確認した.調査票配布の協力が得られた事業所は265か所であった.配布可能数の調査票を送付し,担当の介護支援専門員等が回答可能と判断した独居高齢者に配布を依頼した.本人による回答を求めたが,記載が困難な場合は家族または担当の介護支援専門員による代筆とした.回答後の調査票は,返信用封筒に入れて密封し,直接研究者あてに郵送された.2014年9月から12月までの調査期間において,事業所から独居高齢者に配布された調査票は1,058,回収数は738(回収率69.8%)であり,回答に著しく不備のあるものを除外した数は 735であった.このうち,希望に関する調査項目に欠損値がある者,要介護度2から5と不明の者,認知症の有無についての選択項目に本人,家族または担当の介護支援専門員が認知症ありと回答した者を除外した.最終的に,本研究における分析対象者は463名であった.
4. 調査内容基本属性として年齢,性別,独居年数,要介護度を尋ねた.
希望は,日本語版Herth Hope Index(HHI)により測定した.HHIは12項目(得点範囲12~48点)で構成され,高齢者や患者に負担なく回答できるよう開発された希望の心理状態を測定する尺度で,信頼性と妥当性が検証されている(Herth, 1992;小泉ら,1999).得点が高いほど希望のレベルが高いと解釈する.本研究におけるクロンバックα係数は0.85であり内的整合性を確認した.
老いの肯定的意識として「年をとることはまんざら悪いことではない」,社会的役割として「家族のなかに家事手伝いや孫の世話など私の役割がある」,「友人や近所,社会活動のなかに私の役割がある」の項目を設定し,それぞれ,「まったくそう思わない」から「とてもそう思う」までの6件法とした.
ライフスタイルは,「散歩や運動をする」頻度と「クラブや習い事,ボランティアなど社会活動をする」頻度について「まったくしない」「月2~3回」「週2~3回」「毎日する」の4択で回答を得た.
健康状態として健康関連QOL(SF-8)を使用した.SF-8は身体的側面と精神的側面の2つの因子によって規定され,8項目で構成される健康関連QOL尺度で,信頼性と妥当性が検証されている(福原・鈴鴨,2004).8つの下位尺度は100点満点(得点範囲0~100点)で,得点が高いほど健康状態が良好であると判断する.8つの下位尺度得点により,国民標準値に基づいて2つのサマリースコア(身体的健康:PCS,精神的健康:MCS)が算出される.
ソーシャルネットワークはLubben Social Network Scale-6(LSNS-6)により測定した.LSNS-6は,Lubbenらが開発した高齢者のためのソーシャルネットワーク尺度の短縮版で,6項目で構成されており,30点満点(得点範囲0~30点)で得点が高いほうがソーシャルネットワークは大きく,さらに12点未満は社会的孤立状態を意味するとされ,信頼性と妥当性が検証されている(栗本ら,2011;Lubben et al., 2006).本研究におけるクロンバックα係数は0.86であった.
サービス受領は,子どもの状況と利用サービスの有無を尋ねた.
5. 分析方法記述統計量を求め,年代別にみた要介護度および要介護度別にみたライフスタイルの回答分布をχ2検定により確認した.次に,属性,老いの肯定的意識,社会的役割,ライフスタイル,サポート受領の状況におけるHHI得点の差をt検定または一元配置分散分析により分析した.また,年齢や性別,要介護度がライフスタイルや社会的役割,サポート受領に影響することを考慮し,HHI得点と老いの肯定的意識,社会的役割,ライフスタイル,サポート受領,健康状態との関連について,年齢,性別,要介護度を統制した偏相関分析を行った.さらに,単変量解析とステップワイズ法による結果および多重共線性を確認した.分析は,本研究の概念枠組みに基づいて,HHI得点を従属変数,年齢,性別,要介護度を調整変数として,①老いの肯定的意識(モデル1),②健康状態(モデル2),③社会的役割,ライフスタイル,ソーシャルネットワーク(モデル3),④サポート受領(モデル4)を順次加えて4つの分析モデルを設定し,これらを独立変数とする重回帰分析(強制投入法)を行った.解析にはSPSS ver.22を使用し,有意水準は5%とした.
6. 倫理的配慮対象者に,調査票とは別の協力依頼文書に,研究の趣旨,研究協力は自由意思であること,研究協力への拒否がサービスの利用や内容に影響を及ぼす等の不利益がないこと,個人情報の保護,結果公表の可能性と匿名性を遵守することについての説明を記述し,回答者からの調査票の返送をもって研究協力への同意とした.本研究は,島根大学看護研究倫理審査委員会の承認(第234号)を得て実施した.
対象者の平均年齢は83.4 ± 6.6歳で,85歳以上が48.8%であった.性別は女性80.8%,男性19.2%であり,独居年数は13.5 ± 12.8年であった.要介護度は,要支援1,要支援2,要介護1がそれぞれ約3割であった.健康状態は,PCSが40.6 ± 9.1,MCSが49.5 ± 7.7であった.子どもの状況では,約3割が子どもがすぐ近くにおり,約4割が数時間のうちに来られる距離にいた.また,5割以上が通所介護または通所リハビリテーション,訪問介護サービスを利用していた.ライフスタイルとして散歩や運動の頻度は,非該当者と要支援1は「毎日する」,要支援2と要介護1は「週2~3回」が多かったが,要支援1と2,要介護1の約2割は「まったくしない」と回答した.社会活動への参加は,要支援2と要介護1の約8割が「まったくしない」と回答した.
n | (%) | P | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
性別 | 女性 | 374 | (80.8%) | .000 | ||
男性 | 89 | (19.2%) | ||||
年代 | 65歳以上75歳未満 | 55 | (11.9%) | .000 | ||
75歳以上85歳未満 | 182 | (39.3%) | ||||
85歳以上 | 226 | (48.8%) | ||||
要介護度 | 非該当 | 66 | (14.3%) | .000 | ||
要支援1 | 124 | (26.8%) | ||||
要支援2 | 131 | (28.3%) | ||||
要介護1 | 142 | (30.7%) | ||||
健康状態 | 健康関連QOL(SF-8)a) | Mean ± SD | ||||
PCS(身体的健康) | 455 | 40.6 ± 9.1 | ||||
MCS(精神的健康) | 455 | 49.5 ± 7.7 | ||||
子どもの状況 | すぐ近くにいる | 132 | (28.5%) | .000 | ||
数時間のうちに来られる距離にいる | 174 | (37.6%) | ||||
その日のうちに来られない遠方にいる | 84 | (18.1%) | ||||
現在子どもはいない | 65 | (14.0%) | ||||
無回答 | 8 | (1.8%) | ||||
利用サービス | 訪問看護 | 36 | (7.8%) | .000 | ||
訪問介護 | 236 | (51.0%) | .676 | |||
訪問リハビリテーション | 13 | (2.8%) | .000 | |||
通所介護・通所リハビリテーション | 255 | (55.1%) | .029 | |||
ライフスタイルの状況 | ||||||
散歩や運動 | ||||||
まったくしない | 月2~3回 | 週2~3回 | 毎日する | P | ||
非該当 | 6.2% | 29.2% | 23.1% | 41.5% | .003 | |
要支援1 | 15.6% | 18.9% | 31.1% | 34.4% | ||
要支援2 | 22.9% | 11.5% | 38.2% | 27.5% | ||
要介護1 | 19.0% | 22.5% | 35.2% | 23.2% | ||
社会活動b) | ||||||
まったくしない | 月2~3回 | 週2~3回 | 毎日する | P | ||
非該当 | 40.9% | 36.4% | 19.7% | 3.0% | .000 | |
要支援1 | 67.8% | 26.4% | 4.1% | 1.7% | ||
要支援2 | 76.9% | 20.0% | 1.5% | 1.5% | ||
要介護1 | 80.7% | 13.6% | 5.7% | 0.0% |
注1.検定方法は,χ2検定
注2.利用サービスは複数回答
注3.a)PCSとMCSは,SF-8のサマリースコア.数値は,平均値±標準偏差
b)社会活動としてクラブや婦人会,ボランティアなどへの参加頻度
HHI得点の平均値は33.1 ± 6.7点であった.単変量解析の結果,HHI得点に有意差が認められたのは,「年をとることはまんざら悪いことではない」(P < .001),「家族のなかに家事手伝いや孫の世話など役割がある」(P < .001),「友人や近所,社会活動のなかに役割がある」(P < .001),「散歩や運動の頻度」(P < .001),「ソーシャルネットワーク」(P < .001)であった.
n | 平均値±標準偏差 | P | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
HHI得点 | 463 | 33.1 ± 6.7 | ||||
属性 | ||||||
性別 | 男性 | 89 | 32.0 ± 6.3 | .079 | ||
女性 | 374 | 33.4 ± 6.7 | ||||
年代 | 65歳以上75歳未満 | 55 | 32.6 ± 6.4 | .327 | ||
75歳以上85歳未満 | 182 | 32.6 ± 6.4 | ||||
85歳以上 | 226 | 33.6 ± 7.0 | ||||
要介護度 | 非該当 | 66 | 32.5 ± 6.2 | .308 | ||
要支援1 | 124 | 33.9 ± 6.4 | ||||
要支援2 | 131 | 33.3 ± 7.1 | ||||
要介護1 | 142 | 32.5 ± 6.7 | ||||
老いの肯定的意識 | ||||||
年をとることはまんざら悪いことではない | とても/そう/まあそう思う | 244 | 34.9 ± 6.2 | .000 | ||
まったく/そう/あまり思わない | 213 | 31.1 ± 6.6 | ||||
社会的役割 | ||||||
家族のなかに家事手伝いや孫の世話など私の役割がある | とても/そう/まあそう思う | 127 | 35.1 ± 6.4 | .000 | ||
まったく/そう/あまり思わない | 314 | 32.3 ± 6.7 | ||||
友人や近所,社会活動のなかに私の役割がある | とても/そう/まあそう思う | 150 | 36.1 ± 5.8 | .000 | ||
まったく/そう/あまり思わない | 299 | 31.5 ± 6.6 | ||||
ライフスタイル | ||||||
散歩や運動の頻度 | まったくしない | 80 | 31.5 ± 6.6 | .001 | ||
月2~3回 | 89 | 31.7 ± 7.1 | ||||
週2~3回 | 153 | 33.3 ± 6.3 | ||||
毎日する | 138 | 34.6 ± 6.5 | ||||
社会活動の頻度b) | まったくしない | 322 | 32.7 ± 6.8 | .075 | ||
月2~3回 | 101 | 34.3 ± 6.6 | ||||
週2~3回 | 28 | 33.0 ± 5.7 | ||||
毎日する | 6 | 37.3 ± 5.9 | ||||
ソーシャルネットワーク(LSNS-6)c) | ||||||
社会的孤立あり | 210 | 30.8 ± 6.4 | .000 | |||
社会的孤立なし | 241 | 35.0 ± 6.3 | ||||
サポート受領 | ||||||
子どもの状況 | すぐ近くにいる | 132 | 33.6 ± 6.5 | .382 | ||
すぐ近くにいない | 323 | 33.0 ± 6.7 | ||||
利用サービス | ||||||
訪問看護 | 利用あり | 36 | 31.1 ± 7.2 | .060 | ||
利用なし | 427 | 33.3 ± 6.6 | ||||
訪問介護 | 利用あり | 236 | 33.4 ± 6.7 | .384 | ||
利用なし | 227 | 32.8 ± 6.6 | ||||
通所介護・通所リハビリテーション | 利用あり | 255 | 33.1 ± 6.7 | .936 | ||
利用なし | 208 | 33.1 ± 6.7 |
注1.検定方法はt検定または一元配置分散分析
注2.a)Herth Hope Index(HHI)得点は12点から48点までの範囲で,得点が高いほうが希望レベルが高い
b)社会活動としてクラブや婦人会,ボランティアなどへの参加
c)Lubben Social Network Scale-6(LSNS-6)は30点満点で,12点未満で社会的孤立あり
年齢,性別,要介護度を統制変数としてHHI得点との偏相関分析を行った結果,偏相関係数が0.3以上の有意な正の相関が認められた項目は,「年をとることはまんざら悪いことではない」,「友人や近所,社会活動のなかに役割がある」,「ソーシャルネットワーク」,「MCS」(すべてP < .001)であった(表3).
偏相関係数 | P | |||
---|---|---|---|---|
老いの肯定的意識 | 年をとることはまんざら悪いことではないと思うa) | .328 | .000 | |
社会的役割 | 家族のなかに家事手伝いや孫の世話など私の役割があるa) | .181 | .000 | |
友人や近所,社会活動のなかに私の役割があるa) | .309 | .000 | ||
ライフスタイル | ||||
散歩や運動の頻度(はい=1,いいえ=0) | まったくしない | –.108 | .029 | |
月2~3回程度する | –.082 | .096 | ||
週2~3回程度する | .008 | .869 | ||
毎日する | .147 | .003 | ||
社会活動の頻度b)(はい=1,いいえ=0) | まったくしない | –.084 | .090 | |
月2~3回程度する | .080 | .108 | ||
週2~3回程度する | –.043 | .390 | ||
毎日する | .075 | .131 | ||
ソーシャルネットワーク(LSNS-6)c) | 社会的孤立の状況 | .373 | .000 | |
サポート受領 | ||||
子どもの状況(いる=1,いない=0) | すぐ近くにいる | .025 | .609 | |
利用サービス(あり=1,なし=0) | 訪問看護 | –.083 | .096 | |
訪問介護 | .064 | .194 | ||
通所介護・通所リハビリテーション | .028 | .572 | ||
健康状態 | ||||
健康関連QOL(SF-8)d) | PCS(身体的健康) | .143 | .002 | |
MCS(精神的健康) | .338 | .000 |
注1.検定方法は Herth Hope Index(HHI)得点との偏相関分析
注2.数字は年齢,性別,要介護度を統制した偏回帰係数
注3.a)「とてもそう思う」=6から「まったくそう思わない」=1まで
b)社会活動としてクラブや婦人会,ボランティアなどへの参加頻度
c)Lubben Social Network Scale-6(LSNS-6)は30点満点で,得点が高いほうが社会的孤立なし
d)PCSとMCSは,SF-8のサマリースコア
HHI得点を従属変数とする重回帰分析では(表4),モデル1から4すべてにおいて,「年をとることはまんざら悪いことではない」がHHI得点と有意な関連が認められた.モデル2以降では,モデル2から4すべてにおいて「MCS」,モデル3以降では,モデル3と4において「友人や近所,社会活動のなかに役割がある」と「ソーシャルネットワーク」,モデル4では「訪問介護」がHHI得点と有意な関連が認められた.統制変数として投入した属性は,モデル2では「性別」が,モデル3では「要介護度」が有意な関連を示したが,モデル4では有意な関連を認めなかった.
モデル1 | モデル2 | モデル3 | モデル4 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
β | P | β | P | β | P | β | P | |||
老いの肯定的意識 | 年をとることはまんざら悪いことではないと思う a) | .306 | .000 | .248 | .000 | .233 | .000 | .244 | .000 | |
属性 | 年齢 | .033 | .443 | .067 | .109 | .060 | .161 | |||
性別(男性=1,女性=0) | .108 | .012 | .041 | .327 | .046 | .284 | ||||
要介護度 | .017 | .693 | .102 | .019 | .067 | .205 | ||||
健康状態 | ||||||||||
健康関連QOL(SF-8)b) | PCS(身体的健康) | .116 | .008 | .073 | .085 | .072 | .089 | |||
MCS(精神的健康) | .303 | .000 | .236 | .000 | .241 | .000 | ||||
社会的役割 | 家族のなかに家事手伝いや孫の世話など私の役割があるa) | –.023 | .622 | –.014 | .761 | |||||
友人や近所,社会活動のなかに私の役割があるa) | .178 | .000 | .175 | .001 | ||||||
ライフスタイル | 散歩や運動の頻度d) | .061 | .158 | .049 | .256 | |||||
社会活動の頻度c)d) | –.060 | .187 | –.058 | .193 | ||||||
ソーシャルネットワーク(LSNS-6)e) | 社会的孤立の状況 | .282 | .000 | .027 | .000 | |||||
サポート受領 | ||||||||||
子どもの状況 | すぐ近くにいる(いる=1,いない=0) | –.004 | .914 | |||||||
利用サービス(あり=1,なし=0) | 訪問看護 | –.076 | .083 | |||||||
訪問介護 | .124 | .007 | ||||||||
通所介護・通所リハビリテーション | .000 | .994 | ||||||||
R2 | .09 | .21 | .34 | .36 | ||||||
Durbin-Watson | 1.81 | 1.82 | 1.84 | 1.85 |
注1.重回帰分析(強制投入法)による分析.βは,標準偏回帰係数を示す.
注2.a)「とてもそう思う」=6から「まったくそう思わない」=1まで
b)PCSとMCSは,SF-8のサマリースコア
c)社会活動としてクラブや婦人会,ボランティアなどへの参加頻度
d)「まったくしない」=0から「毎日する」=3まで
e)Lubben Social Network Scale-6(LSNS-6)は30点満点で,得点が高いほうが社会的孤立なし
本調査において,ひとりで暮らす虚弱高齢者のHHI得点は33.1点で,性別,65歳以上の年代,要介護度による有意な差は認められなかった.先行調査では,都市部在住の60歳代では36.5点で女性の方が高く(Hirano et al., 2007),難病を有する在宅療養者では32.4点(平野,2009),地域サービスを利用している健康な高齢者では39.2点であった(小泉ら,2000).欧米では,中規模都市で配偶者とともに暮らす脳卒中患者は37.7点(Bluvol & Ford-Gilboe, 2004),外来患者や訪問看護または訪問介護を利用している人を含む地域住民は34.5点であった(Herth, 1992).中国・四国地方でひとりで暮らす虚弱高齢者の場合,HHI得点は都市部在住の健康な高齢者や同居家族がいる高齢者よりも低い傾向にあり,難病患者など医療依存度の高い在宅療養者や訪問サービスを利用している米国の在宅療養者と同程度の得点であった.85歳以上が約5割を占める本研究対象者では,ある程度自立した生活が可能であっても,虚弱な状態でひとりで生活することは,難病患者のような医療や介護を常時必要とする人と同様に,人生において将来に向けた長期的な展望のなかで,自らの人生を前向きに捉えることができるかどうかという点で共通していると考える.
2. ひとりで暮らす虚弱高齢者の希望に関連する要因希望に関連する要因として,老いの肯定的意識,健康状態,社会的役割とライフスタイルおよびソーシャルネットワーク,サポート受領を順次投入したモデルでは,老いの肯定的意識がすべてのモデルにおいて有意な関連が認められ,健康状態や社会参加状況,サポート受領の有無にかかわらず,自身の老いを肯定的に意識することによって希望を高めるという結果が得られた.日本の高齢者の希望は,未来が明るいという感情に,積極的な感覚や自他の一体感が伴い(大橋,2002),過去の出来事を現在の時点でポジティブに意味づけなおす作業は,未来への明るさをもたらす(渡辺,2005)といわれる.虚弱な状態でひとりで暮らす高齢者に対して,一人ひとりが歩んできた長い人生経験を振り返り,これまでの自らの人生を肯定的に意味づけられるように支援することによって,高齢者が,今,老いを生きることを前向きに捉えることができ,それが生きる希望につながると考えられる.
モデル2の結果から,社会参加やサポート受領の状況にかかわらず,老いを肯定的に意識し,身体的にも精神的にも良好な健康状態でいることが希望につながることがうかがえる.また,モデル3・4では,健康状態のうち身体的健康との関連は認められなかったが,精神的に良好な状態で,コミュニティのなかで自分の社会的役割を認識し,ソーシャルネットワークが大きく他者とのかかわり合いの機会があり,老いを肯定的に意識していることが希望につながることがうかがえる.希望は,毎日の生活のなかで変化しながら育まれ失われるものであり(大橋ら,2003),疾病や症状が異なる場合であっても,他者や社会との相互関係によって脅かされるものである(松本・土居,2006)といわれる.また,自分が価値ある存在であるという自己信頼や自己肯定感そのものが希望であるという見解もある(渡辺,2005).単身者が家庭内役割意識をもちにくいのは容易に想像でき,しかも虚弱な状態にある高齢者においては,身近な地域社会で,年を重ね人生経験を積んできた今の自分だからこそ人のために役に立つという役割認識をもつことが生きる希望を高めるために重要であると考えられる.
また,子どもやフォーマルサービスによるサポート受領を追加したモデル4の結果から,子どもから直接的な支援を日常的に受けられなくても,ホームヘルパーによる生活援助によって希望を強めることができることがうかがえる.希望は心理的サポートが十分得られていることと関連することや(Hirano et al., 2007),困難な体験を乗り越えようとしてもそれがかなわないときに高齢者の希望が抑制されること(Herth, 1993)が報告されている.独居高齢者は,些細なことであっても自分にとって困難な出来事に遭遇したとき,タイムリーに頼れる家族が身近にいない環境で暮らしており,自分一人でできないことへの無力感や孤独感を体験する機会が日常的に存在すると思われる.本研究の対象者は,要介護度が1より軽度で,多くは高度な医療的支援を必要としない虚弱な状態で,同居家族のいないひとり暮らし高齢者であるため,訪問によるホームヘルパーとの会話や生活援助による日常的なかかわり合いによって精神的安寧による快の感覚が得られ,他者との関係性を実感することによって希望を強めているのではないかと考えられる.したがって,ひとりで暮らす虚弱高齢者に対して,普段の生活のなかで近隣とのつながりや社会活動への参加を促進し,フォーマルサービスの利用に限らず,地域住民を巻き込みながら他者とのつながりをもち続けられるように支援することが生きる希望を高めるうえで重要である.
3. 看護実践への示唆本研究の結果より,ひとりで暮らす虚弱高齢者は,老いの肯定的意識をもつことが生きる希望を強めており,心身機能の低下とともに,自身を取り巻く人や生活環境,社会的役割が変化するなかで,高齢者の人生経験を聴き取りながら自らの老いを肯定的に意味づけることができるよう支援する必要がある.
また,社会的役割やソーシャルネットワーク,精神的健康が希望と関連していたことから,ひとりで暮らす虚弱高齢者が他者と日常的なかかわり合いをもつことや,誰かのために自分ができることをしているという認識をもつことが重要である.本研究では,独居期間が13.5年であり,75歳以上の後期高齢者が約9割を占めている高齢者群において,散歩や運動をまったくしない人が約2割を占めていた.日常的にほとんど身体活動を行わないライフスタイルを継続していくことは,容易に独居高齢者の身体および精神機能の低下や家事機能の低下による栄養状態の悪化を引き起こす恐れがある.精神機能の低下は,抑うつ状態や社会的孤立状態によって独居高齢者の希望を弱めることが予測されるだけでなく,要介護状態への移行も懸念される.したがって,看護職者は,医療ニーズの高くないひとり暮らしの虚弱高齢者に対して,高齢者が利用している訪問介護サービスや地域活動を通して生活の様子や精神状態をよく知るホームヘルパー等の介護職や地域住民と情報を共有し連携する必要がある.さらに,今後ますます増加が見込まれる後期高齢者を見据えて,介護予防の視点において,高齢者個人およびコミュニティ全体に働きかけ,健康状態が維持できるよう支援する必要がある.
4. 本研究の限界と今後の課題本研究は,要介護1以下で自立して生活できる程度の身体的・精神的状態にあり,本人,家族または担当の介護支援専門員の判断により認知症がないと判定された高齢者を対象とした結果である.また,今後,家族背景や居住地の違いなど地域特性を踏まえた分析を重ね,中等度から重度の要介護者や認知症高齢者を対象とした調査を進めていく.
ひとりで暮らす虚弱高齢者の希望に関連する要因として,老いの肯定的意識,精神的健康,社会的役割,ソーシャルネットワーク,訪問介護が認められた.虚弱な状態にある独居高齢者の希望を強めるために,老いを生きる独居高齢者の人生経験を振り返りながら今を生きることを肯定的に意味づけられるように支援すること,近隣とのつながりや社会活動への参加を促進し,他者とのつながりをもち続けられるように支援する必要性が示唆された.
謝辞:本研究にご参加いただきました高齢者の皆さまに深く感謝いたします.また,調査票配布にご協力いただきました事業所関係者の方々にお礼申し上げます.本研究は,科学研究費助成事業基盤研究(C)による助成を受けて実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.