Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Outcomes of Inter-Professional Team Care for Terminal-Stage Residents in Special Nursing Homes for the Elderly: Qualitative Inductive Analysis
Katsue TanakaMayumi Kato
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2017 Volume 37 Pages 216-224

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Abstract

目的:特別養護老人ホーム入所者の終末期に関わる多職種チームケアによって得られる成果とその構造を明らかにし,チームが目指す成果を検討する.

方法:専門職員を対象とした全国アンケート調査,職種別のフォーカス・グループ・インタビュー(FGI),多職種チームFGIによって得た質的データを質的帰納的に分析しカテゴリの関係を検討した.

結果:【本人が望んだ生活の維持と死】【本人と家族のよい関係】【家族の参加と不安の軽減】【他の入所者が死を肯定的に受け入れ】【チームケアの質の向上】【職員の成長と満足】【施設全体のケアの質の向上】の7カテゴリが見出された.【本人が望んだ生活の維持と死】【本人と家族のよい関係】【家族の参加と不安の軽減】【他の入所者が死を肯定的に受け入れ】【チームケアの質の向上】はチームケアによる直接的成果であり,残りの2カテゴリは間接的成果であった.

結論:直接的成果を指標に多職種チームで評価しケアを展開することで,よりよい終末期ケアの実施が期待できると示唆された.

Ⅰ. 諸言

日本では,特別養護老人ホーム(以下,特養)で死を迎える人が徐々に増加し,入所者や家族の求めに応じて約8割の特養が看取りを実施している(みずほ情報総研,2014).高齢者の終末期には,疾病や心身機能の低下から医療的ニーズが高まるが,従来,特養は家庭的な生活の場であり,そのニーズに対応できる医療環境が整っていない(岩本,2009).そのため医師や看護職員,介護職員などの多職種連携・協働が必要となる.また,特養において終末期にある入所者の日常生活を支えるケアを実施するのは主に介護職員であり,介護職員の負担感の軽減のためにも多職種連携が求められている(大河原ら,2016).

2015年の特養の看取り介護加算改定において,質の高い看取り介護を実施するために多職種連携が強調され,実施した看取り介護の検証が推奨された.実施したケアの質を検証するには,ケアのよい結果,つまり成果を評価する必要がある.ケアの質の評価は入所者や家族によって行われることが望ましいが,終末期の入所者には認知症や意思疎通が困難な者もいるため,本人にその評価を求めることは難しい.また特養は老人福祉施設であり,身寄りがない者,家族と疎遠になっている者もいる.さらに,入所者が希望する死亡場所や死を迎える数日前の痛みの有無を把握していない家族は約3~4割との報告(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室,2010)があるように,家族が入所者の状態や提供されたケアを把握し評価することは難しい.そのため,本人や家族に代わって職員が実施したケアを客観的に評価する必要が生じる.

特養で実施される終末期ケアは施設の体制や入所者のニーズの違いなどにより一様ではないため,提供されたケアの成果を評価することは容易でない.しかし,約8割の施設において夜間は看護職員のオンコール体制をとっている(三菱総合研究所,2012)こと,特養の看取りの原因として老衰が最も多い(みずほ情報総研,2014)ことなどから,多職種チームが目指すべき普遍的な成果があると考えた.ケアの成果が明らかになれば,実施したケアを成果の視点から評価し,その後のケアに活用できる.さらに,関わる多職種チームがよりよい終末期ケアを目指す際の指標とすることで,施設の医療体制や事情に応じたケアを検討し展開できると考えた.特養の終末期ケアおよびチームの評価に関する日本国内外の先行研究を概観すると,看護職員の看取りの実践能力を測るもの(大村ら,2015)や学際的チームをアプローチの側面で評価するもの(杉本・亀井,2011)はあったが,成果に関するものは確認できなかった.

そこで本研究では,多職種チームが目指す成果を検討するために,終末期ケアを実践する多職種から3つの調査によって収集した質的データを分析し,特養入所者の終末期に関わる多職種チームケアによって得られる成果とその構造を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

特養における終末期ケア:日常生活の延長に死期が近づき,人生の最期の場面を迎えようとしている特養入所者とその家族に対し,心身だけでなくその人の置かれた状況や環境,その人の思想や宗教をも含めて,多角的に多職種協働で取り組む支援(看取りおよび看取り後の支援も含む).

多職種チームケアの成果:入所者の終末期における様々なニーズに対応するために,関わる職種・職員が連携・協働して提供した支援によって得られた多様なよい結果.

Ⅲ. 研究方法

1. 調査対象者とデータ収集方法

本研究では,調査1から調査3の3つの調査によってデータを収集した.

1) 調査1:全国アンケート調査

介護サービス情報公表システムで「看取り介護を実施」と公表されていた全国老人福祉施設3,108施設を対象とした.2013年2~4月,施設の終末期ケアをよく把握している人に郵送による無記名自記式質問紙調査を実施した.回答者の選定は施設長に一任した.調査票は483件回収(回収率15.5%)できた.「体験した終末期ケアの中でよりよい終末期ケア・支援が実施できたと思われる1事例において,多職種が連携・協働したことで何らかのよい成果があったか」の問いに回答があった411件(有効回答率13.2%)のうち,成果の内容について自由記述があった353件の質的データを本研究の分析対象とした.

2) 調査2:職種別フォーカス・グループ・インタビュー

職員個々では気づかない成果などをグループ討議により見出すことを目的に,2014年11月にフォーカス・グループ・インタビュー(以下,FGI)を実施した.介護サービス情報公表システムで「看取り介護の実施」と公表されている中部地方の特養から無作為抽出した施設に電話をかけ,施設長に研究協力を依頼した.協力の承諾を得た16施設の施設長に,協力者への募集案内書と研究協力同意書の配布を依頼した.同意書の返送があった22人を研究対象者とした.対象者は,終末期ケアの経験が3回以上ある多職種とした.職種間の軋轢を回避しメンバーの同質性を高めるために,看護職員,介護福祉士,介護支援専門員・生活相談員,管理栄養士の4グループを編成した.介護支援専門員と生活相談員は業務の重なりがあるため1つのグループとした.FGIは筆者の所属大学の会議室を使用し,他のグループと接触しないように開催日時を設定した.開催回数は各グループ1回,討議時間は約90分であった.そのうち「終末期ケアにおいて多職種が連携・協働することにより得られるよい成果とは何か」をテーマに約30分討議し,適宜,司会者が話された討議内容を要約して確認した.インタビューの内容は参加者の同意を得て録音し,逐語録を作成した.

3) 調査3:多職種チームFGI

同じ終末期ケアを体験した多職種が話し合うことで個人や同職種間では表出が難しい成果の内容を見出すことを目的に,2015年9月に介護サービス情報公表システムで「看取り介護の実施」と公表されているI県の特養のうち,施設長の承諾が得られた2施設の多職種職員を対象に多職種チームFGIを実施した.対象者の条件は施設の終末期ケアにおいて中心となる職員で,終末期ケアの経験が5回以上の者とした.A施設では8人,B施設では5人が研究に参加した.FGIを各施設1回,施設の会議室において開催し,「特養の終末期ケアにおいて多職種の連携・協働によって得られるよい成果とは何か」について約90分討議した.参加者の同意を得てインタビュー内容を録音し,逐語録を作成した.

2. 分析方法

調査1によって得た質的データは,多職種の成果と思われる記述を一つの記録単位として意味内容を吟味しコード化した.次に,類似したコードを集める作業を繰り返してサブカテゴリ化した.調査2および調査3によって得た質的データは,Vaughnら(1996/1999)が紹介する手法を用いて,老年看護学の研究者および介護福祉の専門家と共に「特養の終末期ケアにおいて多職種の連携・協働によって得られるよい成果とは何か」を分析テーマに分析した.まず全員で全データを眺め,終末期にある本人およびその家族,多職種チームや職員に関することなど,多様な内容があることを確認した.その後3人の分析者が単独でデータを熟読し,分析テーマに関する記述を抽出してコード化し.コード化したデータを読み返し類似するものを集める作業を繰り返してサブカテゴリ化した.研究者がそれぞれサブカテゴリ化したデータを持ち寄り,全員で意見が一致するまで協議しサブカテゴリを決定した.次に,各調査データにおいて抽出されたサブカテゴリを統合し,内容の類似性を確認してカテゴリを生成し,さらにサブカテゴリおよびコード,生データからカテゴリ間の構造を検討した.

本研究結果の信頼性と妥当性を高めるために量的調査と質的調査のミックス法を採用し,高齢者看護学および質的研究に精通する研究者からスーパーバイズを受け,調査3の研究協力者に分析結果の確認を依頼した.

3. 倫理的配慮

調査1では,施設長宛に文章で研究の目的,意義,任意性,個人情報の保護などを説明し,調査票の返送を持って研究への同意を得たものとした.調査2および調査3では,調査を実施する特養の施設長と調査対象者に文章と口頭で研究の目的,方法,意義,任意性,個人情報の保護などを説明し同意書を得た.なお,本研究は金城大学研究倫理委員会(承認番号2012年度第1号,第27-12号)の承認を得て実施した.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の概要

調査1では,回答者の現在の主たる職種を1つ尋ねたところ看護職員が最も多く116人(32.9%)であった.次いで生活相談員92人(26.1%),介護支援専門員62人(17.6%),介護職員45人(12.7%),施設長26人(7.4%)の順であった.調査2の職種別FGI参加者は看護職員6人,介護職員6人,生活相談員4人,介護支援専門員1人,管理栄養士5人で生活相談員と介護支援専門員を兼務する者はいなかった.調査3の多職種チームFGI参加者は看護職員2人,介護職員6人,生活相談員と介護支援専門員兼務者が3人,管理栄養士1人,機能訓練指導員として理学療法士が1人であった.対象者の性別,専門職としての経験年数は表1の通りである.

表1 対象者の概要
調査1:アンケート自由記述1)n = 353) 調査2:職種別FGI2)n = 22) 調査3:多職種チームFGI3)n = 13)
度数 % 度数 % 度数 %
性別 男性 106 30 7 31.8 3 23.1
女性 244 69.1 15 68.2 10 76.9
無回答 3 0.8 0 0 0 0
職種 看護職員 116 32.9 6 27.3 2 15.4
介護職員 45 12.7 6 27.3 6 46.2
生活相談員 92 26.1 4 18.1 兼務4) 3 23.1
介護支援専門員 62 17.6 1 4.5
管理栄養士 0 0 5 22.7 1 7.7
機能訓練指導員 0 0 0 0 1 7.7
施設長 26 7.4 0 0 0 0
事務員 1 0.3 0 0 0 0
その他 8 2.3 0 0 0 0
無回答 3 0.8 0 0 0 0
経験年数 5年未満 62 17.6 3 13.6 1 7.7
5年~10年未満 65 18.4 5 22.7 2 15.4
10年~15年未満 61 17.3 4 18.2 2 15.4
15年~20年未満 46 13.0 5 22.7 4 30.7
20年~25年未満 44 12.5 2 9.1 2 15.4
25年~30年未満 19 5.4 1 4.5 1 7.7
30年~35年未満 20 5.7 0 0 1 7.7
35年以上 26 7.4 2 9.1 0 0
無回答 10 2.8 0 0 0 0

1)全国アンケート調査において多職種連携・協働のよい成果内容の自由記述があったデータの回答者.

2)看護職員,介護職員,生活相談員・介護支援専門員,管理栄養士の4グループのFGI参加者.

3)看取りを実施する施設の2つの多職種チームを対象としたFGI参加者.

4)調査3の職種のうち生活相談員と介護支援専門員は全て兼務.

2. 特養入所者の終末期に関わる多職種チームケアの成果の内容

本研究において見出されたカテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉,コードを《 》,生データを「 」内に表記する.

3つの調査のサブカテゴリとコードを統合すると7カテゴリ,17サブカテゴリ,55コードとなった.抽出されたカテゴリは【本人が望んだ生活の維持と死】【本人と家族のよい関係】【家族の参加と不安の軽減】【他の入所者が死を肯定的に受け入れ】【チームケアの質の向上】【職員の成長と満足】【施設全体のケアの質の向上】であった.サブカテゴリとコードの詳細は表2の通りである.

表2 特養入所者の終末期に関わる多職種チームケアの成果
カテゴリ サブカテゴリ コード 調査1:アンケート自由記述 調査2:職種別FGI 調査3:多職種チームFGI
本人が望んだ生活の維持と死 本人の生活の維持 本人が最期まで施設で生活できた
本人が居心地のよい環境で看取り期を過ごせた
本人が死の間際までこれまでの生活様式を維持できた
本人が看取り期に信じる儀式や信仰を継続できた
本人が看取り期に他の利用者と触れ合えた
本人が穏やかに看取り期を過ごせた
本人の望ましい心身の状態 看取り期の本人に苦痛がなかった
看取り期の本人に新たな褥瘡ができなかった
看取り期に本人の身体が清潔だった
本人の望ましい死 本人が穏やかに死を迎えられた
本人が希望する場所で死を迎えられた
本人が望まれる形で死を迎えられた
本人の満足 本人の看取りに関する希望が叶えられた
最期まで本人らしい生活を送ることができた
本人が看取り期に寂しい思いをすることがなかった
本人は提供された終末期ケアに満足した様子だった
本人と家族のよい関係 本人と家族のよい関係 看取り期に本人と家族が関わる時間を持てた
看取り期に本人と家族がお別れの準備をできた
看取り期に本人と家族がよい関係だった
家族の参加と不安の軽減 家族が看取り介護に参加 家族が看取り介護に参加できた
家族に死を迎える準備ができていた
家族が臨終に立ち会えた
家族の不安の軽減 家族が本人の死を受容できた
家族の看取りに関する不安が軽減した
家族が利用者の看取り期の様子に安心した
家族の満足 家族が提供された終末期ケアに満足した様子だった
他の入所者が死を肯定的に受け入れ 他の入所者が死を肯定的に受け入れ 他の入所者が本人の退所を見送ることができた
他の入所者が本人の死を肯定的に受け入れた
チームケアの質の向上 本人または家族との良好な関係 家族から看取り介護に関するよい評価を受けた
本人と関わる職員の信頼関係が深まった
家族と関わる職員の信頼関係が深まった
施設の看取りについて家族の理解が得られた
目指す終末期ケアの達成 関わる職種・職員が本人の思いに沿った終末期ケアを実践できた
関わる職種・職員が家族の看取りに関する意向に添うことができた
関わる職種・職員が統一された終末期ケアを実践できた
看取り介護計画の目標が達成できた
チームアプローチの向上 関わる職種・職員が一丸となって終末期ケアに取組めた
関わる職種・職員の連携・協働が深まった
関わる職種・職員が情報を共有できた
関わる職種・職員が同じ目的を持って終末期ケアに取り組めた
外部の医師との連携が良くなった
関わる職種間の理解が深まった
職員の成長と満足 職員の成長 関わる職種・職員の死生観が培われた
関わる職種・職員の終末期ケアの実践能力が高まった
関わる職種・職員の終末期ケアへの取り組み意欲が高まった
職員の満足 関わる職種・職員が実践した終末期ケアに満足できた
関わる職種・職員が実践した終末期ケアに達成感を感じた
関わる職種・職員の終末期ケアに関する不安が軽減した
施設全体のケアの質の向上 施設のケアの改善 その後の施設の終末期ケアの改善に活かされた
その後の日常のケア(終末期ケア以外)の改善に活かされた
看取り体制の構築 看取り体制ができた
看取り介護加算を算定できた
施設のよい評判 施設の信頼が高まった
地域における施設の知名度が増した
在宅に変わる施設としての役割が果たせた

【本人が望んだ生活の維持と死】は,終末期において,《看取り期の本人に苦痛がなかった》などの〈本人の望ましい心身の状態〉や,《本人が穏やかに死を迎えられた》などの〈本人の望ましい死〉だけでなく,《本人が死の間際までこれまでの生活様式を維持できた》などの〈本人の生活の維持〉を含んでいた.そして,「看取り期にある胃瘻の方でよく『食べたい』と言われる人がいて,介護職から看護職に『一口でも食べたらだめですか?』と相談がありました.皆で相談して,嘔吐の可能性もあるが食べてもらいました.一口二口だったけど本人さんも喜んでいた.」とあるように,《本人の看取り期に関する希望がかなえられた》などの〈本人の満足〉が得られたとあった.

【家族の参加と不安の軽減】では,職員が家族に働きかけることで「家族の手によって,本人のお好きであったビールで口内を潤してもらうことができた.」「面会の都度,家族に状態などの話をする事により,家族も心の準備ができていった.」などの語りから,《家族が看取り介護に参加できた》《家族に死を迎える準備ができていた》など,〈家族が看取り介護に参加〉が見出された.また,《家族の看取り期に関する不安が軽減した》など,〈家族の不安の軽減〉が図れたとあった.そして,「ここ(施設)に来てから,歯もずっと残ってたし,こう(最期に)なっても褥瘡一つ出来なかった」などの家族の言葉から《家族が提供された終末期ケアに満足した様子だった》と捉え,利用者のよい状態や結果を通して〈家族の満足〉が得られたと捉えていた.

【本人と家族のよい関係】では,「唯一の子と連絡がとれず,終末期ケアの方針もなかなか決まらなかったが,死の約3ヶ月前に一度だけ面会に来られ平穏死の方針が確認された.また死亡時に葬儀,火葬の立ち会いはなかったが,その後,分骨を願い出,それを叶えてあげられた.」「日々のカンファレンスの中で体調や様子がわかり,職員も状態を把握できた.そして家族へ密に連絡ができた.終末が近づいた時,親戚の方が面会にきてくれた.」とあるように,職員の働きかけや連携により《看取り期に本人と家族の関わる時間を持てた》《看取り期に本人と家族がお別れの準備をできた》などと捉えていた.

【他の入所者が死を肯定的に受け入れ】では,「夜間に身寄りのない人が亡くなられた.職員が施設長に相談し,9時まで施設におられたことで,家で亡くなられた方と同じように他の利用者が部屋まで手を合わせに行ったりしていた.」「ここは以前から正面から入居者の皆さんと一緒に見送り,死を隠さない.必ずみんなが行く道だから,かえって多くの人から暖かく見送ってもらって『あんなふうに逝くがか』とほっとされる人もいた.」とあるように,職員が相談し対応することで〈他の入所者が死を肯定的に受け入れ〉と語られた.

【チームケアの質の向上】では,「家族と接する時間が多くなるにつれ,職員との信頼関係も少しずつ深まり,葬儀の時の家族の挨拶で施設の事を大変褒めていただいた.」とあり,《本人と関わる職員の信頼関係が深まった》など,〈本人または家族との良好な関係〉が語られた.また「家族の強い希望で胃瘻の減量中止にむけた,かつ痛みのない平穏死にむけたケアを多職種で協働し共通認識してできたことは成果だと思う.」とあり,《関わる職種・職員が家族の看取りに関する意向に沿うことができた》など,〈目指す終末期ケアの達成〉が見出された.そして「多職種が連携し情報共有しながら看取りケアをする事で,家族も職員も職種に関係なく同じ方向性や目標を持ってケアができ,一体感と達成感が生まれたと思う.」とあり,《関わる職種・職員が同じ目的をもって終末期ケアに取り組めた》など,〈チームアプローチの向上〉を感じていた.

【職員の成長と満足】では,「やっぱ(介護職員として終末期に関わることへの)怖さもありますよね.その,死を迎えるにあたっては,どうしたらいいのかの戸惑いもあるし.でもなんか,なんか特別なものじゃないっていうような感覚を持つことでちょっと,ね,少し見えたのかなというのがあります.」とあるように,《関わる職種・職員の死生観が培われた》などの〈職員の成長〉が見られたとあった.また「自分たちはご家族の希望や以前あんなことをしたいとか言っていたことを思いだし,『最後にこんなことをしてあげたい』ということを皆で一緒に取り組む.そして『ありがとう』という言葉が聞かれれば『やってよかったな』と思うしそれが成果だと思う.」とあるように,本人や家族の満足した様子が見られたことで〈職員の満足〉が得られたと語られた.

【施設全体のケアの質の向上】では,「看取りのカンファレンスにおいてのスタッフの想いを聞くことで連携・協働の大切さを改めて知る事になったし,家人には最後の引渡しの時に想いを伺い,満足や後悔の想いを伺うことで次のケアにつながっている.」とあり,《その後の施設の終末期ケアの改善に活かされた》などの〈施設のケアの改善〉につながったと語られた.また,「看取りの経験を通して,看護職員は介護職員からの情報をもとに医師に報告する体制が確立した.」とあるように〈看取り体制の構築〉が挙げられた.そして「職員との信頼関係も少しずつ深まり,葬儀の時,『家族の挨拶』で施設の事を大変ほめていただいた(再掲).職員も士気が上がり,地域への知名度も増す結果となった.」とあり,〈本人または家族との良好な関係〉を築くことにより《地域における施設の知名度が増した》などの〈施設のよい評判〉が得られたとあった.

3. 抽出されたカテゴリの関連

多職種チームケアの成果の内容で述べたように,【本人が望んだ生活の維持と死】【本人と家族のよい関係】【家族の参加と不安の軽減】【チームケアの質の向上】【他の入所者が死を肯定的に受け入れ】は,多職種がチームとして連携・協働して終末期ケアに取り組むことで得られた直接的な成果であった.一方,【職員の成長と満足】と【施設全体のケアの質の向上】は,【本人が望んだ生活の維持と死】や【家族の参加と不安の軽減】〈本人または家族との良好な関係〉などが見られたことで得られた間接的な成果であり,図1に示す構造となった.

図1

特養入所者の終末期に関わる多職種チームケアと成果の構造

全国アンケート調査自由記述,職種別FGI,多職種チームFGIの分析結果より

Ⅴ. 考察

1. 特養入所者の終末期に関わる多職種チームケアの成果

本研究において,特養の多職種が連携・協働して終末期ケアを実施した成果として,ケア対象者である本人とその家族だけでなく,ケアを提供する立場にあるチームや職員・施設,その他の入所者に関するものが見出された.

本人とその家族に関する成果は【本人が望んだ生活の維持と死】【本人と家族のよい関係】【家族の参加と不安の軽減】であった.概念を構成するサブカテゴリのうち〈本人の生活の維持〉〈本人の望ましい心身の状態〉〈本人の望ましい死〉〈本人の満足〉〈本人と家族のよい関係〉〈家族の不安の軽減〉〈家族の満足〉はStewartら(1999)が報告する臨死期にある患者とその家族を対象としたヘルスケアのアウトカムの内容と概ね一致する.しかし,相違が2つあった.1つは,Stewartら(1999)はケアのアウトカムの一つに余命の長さを提示しているが本研究では確認できなかった点である.Stewartら(1999)の研究は緩和ケアを対象としているため対象患者の年齢層は厚く,余命の長さを重要な指標と捉えていたと考えられる.一方で特養入所者は高齢者であり,高齢者の終末期は生活の延長線上にあるものである.長江(2014)は,エンド・オブ・ライフにある「その人が最期まで最善の生を生ききる」ために望ましい状態でその人が存在することを支えるケアが重要であると述べているが,職員も終末期であると診断されてからの余命の長さよりも,その人らしく苦痛のない終末期を過ごしていただくケアに関心があったと推察される.2つ目の相違は,本研究で〈家族が看取り介護に参加〉が見出されたことである.入所者の家族の中には施設に入所させたことへの自責の念を抱く者や,自分にできることをしてあげたいと思う者がいる(那須・深堀,2014).一方で家族との触れ合いを求め,最期は家族に見守られて死にたいと思う高齢者がいる(曽根ら,2015).臨死期を見極めることは難しいが,看護職員が高齢者の心身の状態から予測を立て職員間で情報を共有して関わったことで〈家族が看取り介護に参加〉し,〈本人と家族のよい関係〉の構築や〈家族の満足〉につながったと考える.

チームや職員,施設に関する成果は【チームケアの質の向上】【職員の成長と満足】【施設全体のケアの質の向上】であった.効果的なヘルスケアチームのアウトカムにケアコーディネーションの改善やコミュニケーションの強化などのチームのメリットがある(Mickan, 2005)ように,多職種が連携・協働することでコミュニケーションが強化されケアの調整などにより〈チームアプローチの向上〉や〈目指す終末期ケアの達成〉が得られたと考える.また,終末期ケアの課題の一つに終末期に関する本人の意思確認の難しさがある.本人から確認できない場合は家族に代理意思決定を求めることになるが,必ずしも家族の意向が本人の意思をくみ取っているとはいえず,本人にとって何が最善であるか多専門職種チームで本人や家族と十分に話し合い合意を形成することが推奨されている(厚生労働省,2015).このように,多職種が連携して本人や家族と十分に話し合うことで《施設の看取りについて家族の理解が得られた》結果となり,〈本人または家族との良好な関係〉を築くことができたと考える.そしてケアを実践することで職員の学びの機会となり(小野,2011),死生観が培われたなどの〈職員の成長〉や〈施設のケアの改善〉が見られたと考える.終末期ケアにおいて本人の死は避けられないため関わる職員の精神的負担は重く,バーンアウトの状態に陥ることがあるが,職員の死生観がバーンアウトやケアに影響を与える(辻󠄁・田渕,2016河村,2013)とあるように,多職種チームケアを実践し死生観を培うことで,職員のバーンアウトを回避するだけでなく,よりよい終末期ケアの実践が期待できると考える.

本研究において,成果の一つに【他の入所者が死を肯定的に受け入れ】が抽出された.これはヘルスケア領域の先行研究で確認できなかったものである.病院は治療の場であるため,死者は裏口からひっそりと自宅に戻る.一方で特養は生活の場であり,入所者は皆同じ生活圏に居住する住人である.他の入所者は終末期にある本人の様子を気にかけ,自分を重ねて不安になるなど,少なからず何らかの影響を受ける.それゆえ職員は他の入所者の関わりを重視し,【他の入所者が死を肯定的に受け入れ】を目指して支援していたと推察する.以上から,【他の入所者が死を肯定的に受け入れ】は特養に特有な成果と考える.

終末期に関わる多職種チームケアの成果の捉え方は,職員の死生観や価値観,職種などの影響を受けると考える.そのため調査1において一人の回答者が記述した成果の内容は少ないが,大勢の意見を合わせることで多様な成果の内容を確認できたと推測する.また,多職種FGIのみに【他の入所者が死を肯定的に受け入れ】が確認できた.これは調査2と調査3の成果に関する討議時間が異なるため,その影響を否定できない.しかし,多職種が集まりそれぞれの専門的な視座からケアを振り返ることで自分では経験できなかった点を知る機会となり(島田ら,2015),個人や単一職種では気づかなかった内容が語られた可能性がある.これらのことから実施したケアを一人より多人数で,単一職種より多職種で振り返ることで,より多角的な評価ができるといえよう.

2. 多職種チームケアの成果の構造と多職種チームが目指す成果

Donabedian(1988)は,ケアの質の評価はストラクチャー,プロセス,アウトカム(成果)の視点でアプローチすることが効果的であると述べているが,本研究の調査1で得られた多職種チームケアの成果は,職員が「よりよい終末期ケア」を実施したとする事例にみられたものである.それゆえ,本研究で見出された成果を指標にチームで何をすべきか考え取り組むことで,よりよい終末期ケアの実施が期待できると考えている.

ここで注意すべきは,多職種チームが目指す成果として適切なものを設定することである.平澤ら(2005)は,研究開発政策による「意図した結果」は「直接的」成果であり政策実施者が実施責任を負うべき所掌領域であると述べ,「意図した結果」以外の「波及効果」は「間接的」成果であると述べている.先述したように,特養の多職種チームによる終末期ケアは本人と家族の成果を期待し,他の入所者への配慮を必要とする.そして,質の高い終末期ケアを実践するために多職種がより連携・協働を強化して取り組む.そのため,【本人が望んだ生活の維持と死】【本人と家族のよい関係】【家族の参加と不安の軽減】【他の入所者が死を肯定的に受け入れ】【チームケアの質の向上】は,特養の終末期ケアに関わる多職種チームが意図的に目指すべき直接的成果であり,これらを指標に多職種チームケアを展開することが望ましいと考える.一方で,【職員の成長と満足】や【施設全体のケアの質の向上】は,多職種チームがよりよいケアを提供することによって得られる波及効果であり,間接的成果といえよう.

3. 研究の限界と今後の課題

本研究は,看取りを実施する特養の様々な職種の職員を対象とした研究であり,終末期にある高齢者本人やその家族を対象としていないことが本研究の限界である.今後は,本人や家族の視点からケアの質を検討すると共に,本研究で明らかとなった成果について検証することが課題となる.

Ⅵ. 結論

特養入所者の終末期に関わる多職種チームケアの成果として7カテゴリが見出された.このうちの直接的成果【本人が望んだ生活の維持と死】【本人と家族のよい関係】【家族の参加と不安の軽減】【他の入所者が死を肯定的に受け入れ】【チームケアの向上】が見られたことで,間接的成果【職員の成長と満足】【施設全体のケアの向上】が得られていた.直接的成果を指標に多職種チームで評価しケアを展開することで,よりよい終末期ケアの実施が期待できると示唆された.

謝辞:本研究にあたり,調査にご協力いただいた特養のみなさまをはじめ,データ分析にご協力いただいた金城大学舞谷邦代先生と新口春美先生に深く感謝申し上げます.本研究は,平成24~26年度科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号24616018)の一部として,また平成27年度金城大学特別研究費の助成を受けて実施した研究成果の一部であり,ここに深く感謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:KTは研究の着想から原稿作成の全般に渡って貢献;MKは研究プロセス全体への助言および原稿への示唆に貢献.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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