Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Survey to Compare Experienced Versus New Nurses’ Employment and Turnover in Japanese Hospitals
Minako ItoHaruhiko MitsunagaToshiko Ibe
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2017 Volume 37 Pages 254-262

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Abstract

目的:既卒採用者の離職の状況が不明であることから,全国的な調査を行い,既卒看護師の採用・離職の特徴を明らかにする.

方法:都道府県毎の病院数や病床数によって層化し,無作為抽出された1,200病院の看護部門長を対象に,病院属性と2013年度の採用数および年度内離職者数を尋ねる質問紙調査を行った.既卒と新卒の結果について比較した.

結果:246施設の回答を分析した.2013年度に採用を行った施設は240病院であった.既卒者は300床未満,一般病院,療養病床や精神病床を主とする病院で採用され,新卒者は300床以上,特定機能病院や地域医療支援病院,一般病床を主とする病院で採用される傾向があった.また,新卒は非常勤採用が0.8%とほぼ常勤で採用されるのに対し,既卒は24.3%が非常勤採用であった.採用年度内の離職率は新卒7.9%に対し既卒は17.9%と高く,特に100床未満の病院において既卒者が離職しやすい傾向があった.

結論:既卒採用者は,新卒採用者より早期離職に至りやすく,定着対策,離職対策を早急に検討する必要がある.

Ⅰ. 研究の背景と目的

第7次看護職員需給調整見通し(厚生労働省,2010)によると,2025年までに約 200 万人の看護職が必要で,今後の人員確保のためには養成促進や現職者の定着促進の他,再就業支援が重要な課題となっている.2014年には「看護師等の人材確保の促進に関する法律(人確法)」が改正され,迅速な復職支援・継続的なキャリア支援の強化を図るため,看護職が病院等を離職する際には連絡先等を都道府県ナースセンターに届け出ることを努力義務とする届け出制度が開始された.退職に伴い働く病院を替える看護師は多く,今や過半数を超える者に転職経験があり,今後看護職の組織間移動がますます活発になっていくことが予想されている(日本看護協会,2014a).

看護師免許は国家資格であることから,国内である限り,働く病院を替えたとしても理論上は個人のパフォーマンスに影響はないはずである.ところが実際は,前職場とのシステムや組織文化の違いから,新たな職場への適応・定着が困難となるケースが少なくない(市本,2007伊東,2011松月,2014).既卒の看護師の職場適応を促す試みは過去数年に亘り報告され(近藤,2009小林ら,2010藤田,2010),その定着に課題があることは経験的にはよく知られている.しかし実際にどれだけの看護師が転職先を離職しているかに関する全国的な調査例はない.これは,同じ新採用者として新卒看護師の離職率が経年的に追跡されている(日本看護協会,20132014b2015)のとは対照的と言えよう.

そこで今回,病院における既卒看護師の早期離職に関する研究を行った.本稿はその一部で,国内病院の2013年度の採用と年度内離職の状況,および既卒か新卒か,常勤か非常勤かといった看護師の背景と,病院属性との関連を記述することにより,既卒看護師の採用・離職の特徴を明らかにする.

Ⅱ. 用語の操作的定義

新卒:免許取得後に初めて就労する看護師.

既卒:看護師として以前に別の施設での就業経験を経て,初めて当該病院に採用された看護師.年度途中の採用者(中途採用者)を含む.

Ⅲ. 研究方法

1. 調査方法

郵送調査法を用い,国内1,200病院に質問紙を配布した.

病院の抽出に際しては,病院の規模に偏りが出ないよう,厚生労働省(2013)が示した全国病院に占める病床数別比率を適用し,「100床未満」から「500床以上」まで100床区切りの6カテゴリーそれぞれに割り当てる病院数を決定した.病院の選定には,一般社団法人日本病院会の会員病院リストを利用した.同会ホームページ上では病院所在地,病床数が一覧でき,リストを作成する上で利便性が高かったためである.リストから抽出する際は地域の偏りが出ないよう,以下の手順を踏んだ.①会員病院を病床数別6カテゴリーに分類した,②各カテゴリーの会員病院数合計に対する都道府県ごとの病院数から,各都道府県の抽出比率を算出した,③各カテゴリーの割り当て病院数に,各都道府県の抽出比率を適用して各都道府県の抽出病院数を決定し,無作為に病院を抽出した.

回答は,新採用者の動向を把握していると考えられる看護部門長もしくは看護部門教育研修担当者に依頼し,2013年度の既卒採用者数と,そのうち同年度内に離職した者の数を常勤・非常勤別に尋ね,比較のために新卒についても同様の回答を依頼した.病院属性として所在地域,病床数,病院の種類,主な病床の種類を尋ねた.データ収集期間は2014年7月~8月であった.

2. 分析方法

まず記述統計量の算出,項目間クロス集計を行った.離職率の算出方法は日本看護協会の調査(2015)と同様,2013年度離職者数/2013年度採用者数×100とした.次に病院属性及び看護師の背景別に,雇用形態および離職率について差がみられるか検討するため,χ2検定を行った.さらに,従属変数を採用および離職,独立変数を既卒および新卒,病院属性,雇用形態とするロジスティック回帰分析を行った.有意水準は5%未満(両側)とし,統計処理にはSPSS Statistics23を用いた.

3. 倫理的配慮

研究対象者には,本調査の目的,依頼内容,無記名調査で個人・施設の特定はできないこと,調査参加による利益不利益,回答するかどうかは任意であり回答をもって同意とみなすこと,調査結果は公表することを文書で説明した.本研究は,聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:14-010).

Ⅳ. 結果

259部が回収され(回収率21.6%),採用数・離職数について回答のないケースを除き246部を有効回答とした(有効回答率95.0%).表1に病院属性ごとの回収状況を示した.

表1 調査対象病院の属性
配布数 回収率(%) 度数 度数に対する割合(%)
計1,200 21.6 計246
病院所在地 北海道 47 34.0 16 6.5
東北 61 24.6 15 6.1
関東 319 21.9 70 28.5
北陸・甲信越 104 21.2 22 8.9
東海・近畿 396 16.2 64 26.0
中国・四国 145 22.8 33 13.4
九州・沖縄 128 20.3 26 10.6
病床数 100床未満 440 15.0 66 26.8
100~200床未満 386 22.3 86 35.0
200~300床未満 157 25.5 40 16.3
300~400床未満 100 26.0 26 10.6
400~500床未満 54 20.4 11 4.5
500床以上 63 27.0 17 6.9
病院の種類 特定機能病院 7 2.8
地域医療支援病院 46 18.7
一般病院 167 67.9
その他病院 21 8.5
無回答 5 2.0
主な病床の種類 一般病床 206 83.7
療養病床 19 7.7
精神病床 5 2.0
その他病床 12 4.9
無回答 4 1.6

1. 採用

分析に先立ち,病院ごとの採用状況データを全ての回答病院について統合し,個人単位で各人が採用された病院の属性(所在地,病床数,病院の種類,病床の種類)がわかる形にデータを変換した.変換の結果,246病院を単位としたデータから5,119名分の回答結果を得た.

2013年度1年間に全く採用がなかった6施設を除く240施設で5,119人が採用され,うち既卒は常勤1,977人(38.6%),非常勤633人(12.4%)の計2,610人(51.0%)が,新卒は常勤2,489人(48.6%),非常勤20人(0.4%)の計2,509人(49.0%)が採用されていた.

1) 既卒採用比率(表2

2013年度採用者に占める既卒採用者数を既卒採用比率とし,病院属性ごとに求めた.北海道,東海・近畿,中国・四国,九州・沖縄は既卒採用比が5割を超え,新卒より既卒が採用されていた.病床数別では100床未満で84.2%と最も高く,病床数増とともに減っていき,500床以上では26.3%にとどまった.特定機能病院においては既卒採用比率が15.3%と低く,新卒採用が優位であった.療養病床,精神病床の既卒採用比率はそれぞれ84.7%,70.8%と高かった.

表2 2013年度病院属性別採用数,既卒採用比率,既卒・新卒非常勤採用比率
a b c d x y z
既卒常勤(人) 既卒非常勤(人) 新卒常勤(人) 新卒非常勤(人) 既卒採用比(%) 既卒非常勤採用比(%) 新卒非常勤採用比(%)
1,977 633 2,489 20 51.0 24.3 0.8
病院所在地 北海道 160 32 144 0 57.1 16.7 0.0
東北 58 17 104 0 41.9 22.7 0.0
関東 720 215 1,108 6 45.6 23.0 0.5
北陸・甲信越 108 34 148 3 48.5 23.9 2.0
東海・近畿 460 179 548 5 53.6 28.0 0.9
中国・四国 221 97 287 4 52.2 30.5 1.4
九州・沖縄 250 59 150 2 67.0 19.1 1.3
病床数 100床未満 305 78 64 8 84.2 20.4 11.1
100~200床未満 554 143 317 6 68.3 20.5 1.9
200~300床未満 347 171 298 2 63.3 33.0 0.7
300~400床未満 393 120 529 0 49.2 23.4 0.0
400~500床未満 61 44 179 0 40.0 41.9 0.0
500床以上 317 77 1,102 4 26.3 19.5 0.3
病院の種類 特定機能病院 91 6 538 1 15.3 6.2 0.2
地域医療支援病院 495 113 838 2 42.0 18.6 0.2
一般病院 1,234 445 1,022 13 61.9 26.5 1.3
その他病院 105 28 52 1 71.5 21.1 1.9
無回答 52 41 39 3
主な病床の種類 一般病床 1,787 576 2,409 15 49.4 24.4 0.6
療養病床 103 35 25 0 84.7 25.0 0.0
精神病床 13 4 7 0 70.8 23.5 0.0
その他病床 58 15 38 2 64.6 20.5 5.0
無回答 16 3 10 3

x:既卒採用比(%)=(a + b)/(a + b + c + d) y:既卒非常勤採用比(%)=b/(a + b) z:新卒非常勤採用比(%)=d/(c + d).「病院の種類」「主な病床の種類」は無回答を分析から除外した.

2) 非常勤採用比率(表2

採用数に占める非常勤採用数を非常勤採用比率とすると,既卒は24.3%,新卒は0.8%で,既卒は約4人に1人が非常勤で採用されていたのに対し,新卒はほぼ常勤で採用されていた.

所在地別では,中国・四国が既卒非常勤採用比率が30.5%と最も高かった.新卒はどの地域でもほぼ常勤で採用されていた.病床数別では,既卒は400~500床未満で非常勤採用比率が41.9%と最も高く,次いで200~300床未満が33.0%,その他の病床数カテゴリーは約20%であった.新卒は100床未満で11.1%である他は,ほぼ常勤で採用されていた.特定機能病院は既卒・新卒ともに非常勤採用比率が低く,常勤主体の採用であった.

3) 既卒採用と雇用形態,病院属性との関連(表3)(表4

表3に病院の属性及び看護師の雇用形態(常勤/非常勤)と採用の関連を示した.常勤においては既卒者に比べて新卒者が多かった一方,非常勤においては既卒者が多かった(P < .001).所在地別では,最も回答病院が多かった関東においては新卒者が多い一方で,次に回答病院が多かった東海・近畿では既卒者が多いといったように,地域によって差の方向性が異なった(P < .001).また病床数では300床未満のカテゴリーであれば既卒者が多く,300床以上のカテゴリーでは新卒者が多かった(P < .001).病院の種類では一般病院及びその他病院で既卒者が,特定機能病院及び地域医療支援病院では新卒者が多かった(P < .001).さらに,病床の種類では,一般病床を除く3カテゴリーで既卒者が多かった(P < .001).

表3 2013年度病院属性及び看護師の雇用形態と採用の関連
既卒(人) 新卒(人) Pa
全体 2,610 2,509
常勤/非常勤 常勤 1,977 2,489 <.0001
非常勤 633 20
所在地 北海道 192 144 <.0001
東北 75 104
関東 935 1,114
北陸・甲信越 142 151
東海・近畿 639 553
中国・四国 318 291
九州・沖縄 309 152
病床数 100床未満 383 72 <.0001
100~200床未満 697 323
200~300床未満 518 300
300~400床未満 513 529
400~500床未満 105 179
500床以上 394 1,106
病院の種類 特定機能病院 97 539 <.0001
地域医療支援病院 608 840
一般病院 1,679 1,035
その他病院 133 53
主な病床の種類 一般病床 2,363 2,424 <.0001
療養病床 138 25
精神病床 17 7
その他病床 73 40

a:χ2検定.「病院の種類」「主な病床の種類」は無回答を分析から除外した.

表4 既卒採用の有無と雇用形態,病院属性との関連N = 4,960
独立変数 オッズ比 P 95% CI下限 95% CI上限
定数 4.802 <.0001
雇用形態
(基準:常勤) 1.000
非常勤 46.328 <.0001 ** 26.948 79.646
所在地
(基準:関東) 1.000
北海道 1.406 .026 * 1.041 1.899
東北 0.728 .091 0.504 1.052
北陸・甲信越 0.718 .030 * 0.532 0.969
東海・近畿 0.835 .049 * 0.698 0.999
中国・四国 0.738 .010 * 0.587 0.929
九州・沖縄 1.251 .072 0.980 1.596
病床数
(基準:100床未満) 1.000
100~200床未満 0.361 <.0001 ** 0.265 0.493
200~300床未満 0.259 <.0001 ** 0.188 0.356
300~400床未満 0.179 <.0001 ** 0.131 0.244
400~500床未満 0.081 <.0001 ** 0.054 0.122
500床以上 0.097 <.0001 ** 0.070 0.135
病院の種類
(基準:一般病院) 1.000
特定機能病院 0.300 <.0001 ** 0.223 0.403
地域医療支援病院 0.845 .037 * 0.721 0.990
その他病院 0.989 .965 0.621 1.577
主な病床の種類
(基準:一般病床) 1.000
療養病床 3.441 <.0001 ** 2.025 5.848
精神病床 4.010 .011 * 1.373 11.710
その他病床 1.180 .486 0.741 1.880

既卒採用の有無(1,0)を従属変数とするロジスティック回帰分析.アウトカムは「新卒」(0)を基準カテゴリとした.Nagelkerke R2 = 0.370

* P < .05 ** P < .01

既卒者の採用について,雇用形態,病院属性との関連を探るために,独立変数を雇用形態,病院属性,従属変数を既卒採用の有無とするロジスティック回帰分析を行った.ロジスティック回帰分析には,5,119名分のデータから独立変数のいずれかが欠損しているケースを除外し,N = 4,960のデータを用いた(表4).その結果,既卒は新卒に比べ,非常勤採用である確率が有意に高く,所在地別では関東に比べ北海道で有意に既卒採用「あり」が多く,北陸・甲信越,東海・近畿,中国・四国で有意に既卒採用「あり」が少なかった.病床数では100床未満に比べ他の全ての病床数カテゴリーで,病院種類では一般病院に比べて特定機能病院及び地域医療支援病院で既卒採用「あり」が有意に少なかった.また,病床の種類では一般病床に比べて療養病床,精神病床で有意に既卒採用「あり」が多かった.

2. 離職

採用のあった240施設の69.6%にあたる167施設で離職が発生していた.

1) 離職と雇用形態,病院属性との関連(表5

離職に至る背景として病院属性のうち何が主要な要因かを探るために,個人単位の分析を行った.まず,採用のあった240施設5,119名のデータを用い,離職の発生状況について検討した.表5の「離職の有無」の列に,病院の属性及び看護師の背景(既卒/新卒,常勤/非常勤)別に,離職がどの程度発生しているかを示した.総離職者数は665人で,2013年度新採用者全体の離職率は13.0%であった.既卒離職率は17.9%で,新卒離職率の7.9%に比べ高かった(P < .001).また,非常勤の看護師の方が,常勤の看護師よりも離職率が高かった(P < .001).所在地の違いによる離職率に顕著な差はなく,その他の病院属性については,「100床未満」「その他病院」「療養病棟」の離職率が高い傾向が見られた(いずれもP < .05).表5の右2列には,既卒/新卒それぞれの離職率を示した.既卒常勤が16.2%,既卒非常勤が23.4%,新卒常勤が7.8%,新卒非常勤が20.0%と,常勤非常勤とも既卒離職率が新卒離職率を上回った.また,「九州・沖縄」を除く全ての属性で既卒離職率が新卒離職率を上回った.

表5 2013年度病院属性及び看護師の背景(既卒/新卒,常勤/非常勤)と離職の関連
離職の有無 既卒/新卒別の離職率
離職せず(人) 離職(人) 離職率(%) Pa 既卒(%) 新卒(%)
全体 4,454 665 13.0
既卒/新卒 既卒 2,142 468 17.9 <.0001
新卒 2,312 197 7.9
常勤/非常勤 常勤 3,953 513 11.4 <.0001 16.2 7.8
非常勤 501 152 23.3 23.4 20.0
所在地 北海道 290 46 13.7 .146 19.8 5.6
東北 159 20 11.2 14.7 8.7
関東 1,799 250 12.2 18.1 7.3
北陸・甲信越 257 36 12.3 22.5 2.6
東海・近畿 1,014 178 14.9 19.6 9.6
中国・四国 522 87 14.3 19.2 8.9
九州・沖縄 413 48 10.4 10.4 10.5
病床数 100床未満 355 100 22.0 <.0001 25.6 2.8
100~200床未満 862 158 15.4 19.7 6.5
200~300床未満 712 106 13.0 15.1 9.3
300~400床未満 919 123 11.8 14.8 8.9
400~500床未満 252 32 11.3 16.2 8.4
500床以上 1,354 146 9.7 15.7 7.6
病院の種類 特定機能病院 574 62 9.8 .009 21.6 7.6
地域医療支援病院 1,271 177 12.2 16.0 9.5
一般病院 2,337 377 13.9 18.5 6.4
その他病院 154 32 17.2 21.1 7.5
主な病床の種類 一般病床 4,180 607 12.7 .023b 17.6 7.8
療養病床 129 34 20.9 23.2 8.0
精神病床 22 2 8.3 11.8 0.0
その他病床 96 17 15.0 16.4 12.5

a:χ2検定.「病院の種類」「主な病床の種類」は無回答を分析から除外した.

b:期待度数が5未満のセルが見られたため,Fisherの正確確率検定を行った.

2) 既卒離職と雇用形態,病院属性との関連(表6

離職率の分析結果から,既卒/新卒の違いが,病院の属性や看護師の雇用形態の違いを表す多くの変数と関連している傾向が明らかになった.表3に示した病院属性別の既卒/新卒の採用状況の違いも考慮すると,ロジスティック回帰分析においても,既卒/新卒の違いをモデル上で表現する必要がみられた.そこで,既卒/新卒の違いによって離職が発生する病院属性が異なるかを検証するため,「既卒/新卒と所在地」「既卒/新卒と病床数」及び「既卒/新卒と病院の種類」の交互作用項を仮定したロジスティック回帰分析を行った.その際「既卒/新卒と主な病床の種類」については,表3に示したクロス集計において,人数が少ないセルが存在したため,交互作用項は入れなかった.独立変数のいずれかが欠損しているケースは除外し,N = 4,960のデータを分析に用いた.

表6 既卒離職の有無と雇用形態,病院属性との関連N = 4,960
独立変数 オッズ比 P 95% CI下限 95% CI上限
定数 0.018 <0.001 **
雇用形態
(基準:常勤) 1.000
非常勤 17.151 <0.001 ** 3.559 82.646
既卒/新卒
(基準:新卒) 1.000
既卒 5.601 .023 * 1.266 24.775
所在地
(基準:関東) 1.000
北海道 0.776 .517 0.361 1.670
東北 1.217 .617 0.564 2.629
北陸・甲信越 0.418 .108 0.144 1.212
東海・近畿 1.292 .187 0.883 1.891
中国・四国 1.153 .598 0.679 1.961
九州・沖縄 1.383 .301 0.748 2.555
病床数
(基準:100床未満) 1.000
100~200床未満 3.205 .152 0.652 15.748
200~300床未満 4.487 .064 0.917 21.945
300~400床未満 3.917 .090 0.809 18.958
400~500床未満 4.007 .096 0.782 20.543
500床以上 2.875 .186 0.601 13.750
病院の種類
(基準:一般病院) 1.000
特定機能病院 1.574 .113 0.898 2.760
地域医療支援病院 1.546 .026 * 1.052 2.270
その他病院 1.329 .625 0.425 4.159
主な病床の種類
(基準:一般病床) 1.000
療養病棟 1.140 .594 0.703 1.849
精神病棟 0.686 .636 0.144 3.261
その他病床 0.973 .928 0.539 1.759
常勤非常勤 * 既卒/新卒
(基準:常勤で新卒) 1.000
非常勤 0.302 .119 0.067 1.362
所在地 * 既卒/新卒
(基準:関東で新卒) 1.000
北海道 1.235 .635 0.517 2.951
東北 0.635 .389 0.226 1.783
北陸・甲信越 2.998 .062 0.946 9.503
東海・近畿 0.772 .279 0.483 1.234
中国・四国 0.964 .912 0.506 1.836
九州・沖縄 0.363 .007 ** 0.173 0.762
病床数 * 既卒/新卒
(基準:100床未満で新卒) 1.000
100~200床未満 0.241 .086 0.048 1.223
200~300床未満 0.113 .009 ** 0.022 0.576
300~400床未満 0.135 .015 * 0.027 0.678
400~500床未満 0.126 .020 * 0.022 0.721
500床以上 0.176 .037 * 0.034 0.900
病院の種類 * 既卒/新卒
(基準:一般病院で新卒) 1.000
特定機能病院 1.038 .930 0.448 2.404
地域医療支援病院 0.659 .084 0.411 1.058
その他病院 0.742 .638 0.215 2.568

離職の有無(1,0)を従属変数とするロジスティック回帰分析(交互作用項を仮定したモデル).アウトカムは「離職なし」(0)を基準カテゴリとした.Nagelkerke R2 = 0.077 * P < .05 ** P < .01

交互作用項を仮定したモデルについて,推定結果を表6に示した.主効果におけるオッズ比の推定結果から,常勤・非常勤の違いや既卒/新卒の違い,病院の種類の違いによって,離職に至る確率が有意に異なる傾向がみられた.具体的には,常勤に比べて非常勤が,新卒に比べて既卒がより離職に至りやすい傾向が見られた.また一般病院に比べて,地域医療支援病院において離職に至る傾向がみられた.

一方,交互作用項の結果から,所在地別では関東を基準とした時,九州・沖縄の病院において,新卒に比べて既卒の離職が起こりにくい傾向が有意であった.病床数別では100床未満の病院を基準としたとき,「200~300床未満」「300~400床未満」「400~500床未満」「500床以上」の病院において,新卒に比べて既卒が有意に離職しない傾向が見られた.

交互作用項について有意なカテゴリーが見られた所在地,病床数の既卒/新卒別離職率は表5に示した通りで,所在地別では九州・沖縄において既卒10.4%,新卒10.5%と同等であったものの,それ以外の地域では既卒離職率が新卒離職率を上回り,最も高い北陸・甲信越は22.5%であった.病床数別ではいずれのカテゴリーでも既卒離職率が新卒離職率を上回り,最も高い100床未満では25.6%,最も低い300~400床未満の病院でも14.8%に上った.これらの結果から,離職に至る傾向は,既卒・新卒だけではなく,病院の所在地や病床数といった要因との交互作用で左右されることが示唆された.

交互作用項を仮定したことの妥当性を検討するため,モデルの当てはまりを示す指標としてAIC(Akaike Information Criterion)を用いて交互作用項を仮定しないモデルと仮定したモデルで比較したところ,前者は3701.131,後者は3691.439であった.わずかではあるが交互作用項を仮定したモデルで当てはまりが向上した.また,Hosmer-Lemeshow検定では,交互作用項を入れたモデルは「モデルと実測値の乖離が見られない」という帰無仮説を保持(χ2(8) = 10.96, P > .05)したのに対し,入れなかったモデルは「モデルと実測値との乖離が見られる」という対立仮説を採択(χ2(8) = 23.289, P < .05)する結果となった.すなわち,表6で示した既卒/新卒の違いという交互作用項を入れたモデルが,交互作用項なしのモデルに比べて実際のデータをよく説明していることがわかった.交互作用項を仮定しないモデルと仮定したモデルで有意となった変数を比較すると,両者はおおむね一致していた.ただし,交互作用項を仮定したモデルで有意となった「病院の種類」の主効果が,交互作用項を仮定しないモデルでは有意でなかった.

Ⅴ. 考察

新採用者の離職について,これまで多くの場合議論の対象となってきたのは新卒であった.本調査では既卒の看護師の採用・離職状況について全国規模でデータを収集し,既卒の離職率が新卒のそれと比べて高いことを示した.本調査で分析対象とした病院数246は,本調査の対象年となった2013年の国内病院数8,540(厚生労働省,2014)の2.9%に過ぎない.しかし,本調査で示された新卒常勤離職率7.8%と,日本看護協会が国内4,016病院から回答を得た調査(2015)から算出した2013年度の新卒常勤離職率7.5%について二項検定を行うと有意な差はない(P = .87)ことから,本調査の結果は国内病院の既卒看護師の採用,離職の実態について,一定程度反映しているものと考える.この観点から以下に病床数,病院種類,病床種類との関連に焦点をあてて,既卒看護師の採用・離職の特徴について考察を行う.

1. 既卒看護師の採用が多い病院特性

分析の結果,既卒看護師の採用の傾向が病院属性によって異なることが示された.病床数別では,300床未満の施設では既卒採用数が多く,100床未満の病院はそれ以上の規模の病院に比し「既卒採用あり」が多かった.病院種類では,一般病院,その他病院で既卒採用数が多く,特定機能病院,地域医療支援病院では新卒採用数が多かった.ロジスティック回帰分析においても,特定機能病院,地域医療支援病院は一般病院に比べると「既卒採用あり」が少なかった.病床種類では,療養病床,精神病床,その他病床で既卒採用数が多く,ロジスティック回帰分析の結果においても一般病床に比べて療養病床や精神病床で「既卒採用あり」が多かった.これらの結果から,新卒者は300床以上,特定機能病院や地域医療支援病院,一般病床を主とする病院で採用される傾向があり,既卒者は300床未満,一般病院やその他病院,療養病床や精神病床を主とする病院で採用される傾向があると考えられる.こうした病院では,大規模病院,特定機能病院,一般病床を主とする病院ほど看護師配置が手厚くないため,看護師1人が担う業務の質量が重いことが考えられる.そのため即戦力となりうる既卒人材へのニーズが高まるのであろう.また,新卒採用が大規模病院,特定機能病院や地域医療支援病院に集中した結果,中小規模病院には新卒の応募自体がなく,代替的に既卒が採用されているケースもあると推測する.

2. 既卒看護師の非常勤採用比率の高さ

採用に占める非常勤採用比率は,新卒がほぼ0%であるのとは対照的に,既卒は24.3%と高かった.ロジスティック回帰分析でも同様であり,既卒は新卒に比べ非常勤で採用される傾向が示された.ここから,新卒時には常勤採用であるが,転職に伴い非常勤化するパターンがあると考えられる.初職を辞した看護師が再就業する際に非正規化する現象は先行研究でも示され,そのきっかけは結婚,出産,育児等のライフイベントであることが指摘されている(宮崎,2010).つまり組織や看護管理者は,既卒と新卒を単に過去の就業経験があるか否かだけで区別するのではなく,雇用形態や社会的背景の多様さを考慮する必要があり,既卒採用に伴う看護管理に多様性への対応が求められる.例えば本調査の結果では,400~500床未満の病院は既卒採用比が40.0%,既卒非常勤採用比が41.9%であった.つまり新採用者の6割が新卒,4割が既卒で,既卒採用者の6割が常勤,4割が非常勤であり,このような集団に対し配置,教育訓練,労働時間管理,職務遂行能力の評価や賃金管理等を適切に行うことが求められているのである.

3. 既卒採用者の早期離職の様相

ロジスティック回帰分析の結果,新卒に比べて既卒が約5倍の確率で離職に至りやすい傾向が示された.既卒看護師の採用年度内の離職率は17.9%で,新卒離職率の7.9%に比べて高く,病床数別分析ではどの病床数カテゴリーにおいても,既卒離職率は新卒離職率を上回った.中でも100床未満の病院においては既卒採用比率が84.2%と新採用者の8割が既卒であるにもかかわらず,その25.6%が1年以内に離職に至っており,回転の速さが指摘できる.雇用形態別分析では,常勤非常勤とも既卒離職率が新卒離職率を上回った.ロジスティック回帰分析では,常勤非常勤の違いと既卒/新卒の違いの交互作用は有意ではなかったが,常勤非常勤の違いという要因単独では有意であった.よって,既卒採用数の4分の1を占める非常勤の離職率の高さが,既卒全体の離職率を押し上げていることが考えられ,既卒非常勤採用者の早期離職対策は急務であると考える.常勤の離職率においても,新卒7.8%に対し既卒は16.2%と高く,同じ常勤採用でありながら既卒が早期に離職していると言える.新卒の離職率は,新人看護職員研修制度の導入に伴い低下傾向にある(日本看護協会,2013)が,病院組織においては離職対策の重点が新卒採用者に偏り,既卒採用者への対策が後手に回っていないかを検討する必要があろう.

4. 既卒採用者の早期離職防止に向けて

看護師としての就業経験がある人材が,全国規模でみた時に新卒採用数とほぼ同じ割合で採用されているのにもかかわらず,その17.9%が1年と持たず離職しているということは,人材活用の非効率に他ならない.届け出制度の目的である看護師の復職支援,キャリア支援を進めていく上では,既卒の看護師が職務を継続でき,活躍できる職場を創ることが看護管理上の大きな課題である.先述したように,新卒者の離職抑制には研修制度の充実が貢献していると考えられている.しかし,看護師が再就職先の施設に求める条件には,子育て支援や確実な休日の確保,時間外労働が少ない等ワーク・ライフ・バランスの支援が多くを占める(松月,2014).特に非常勤採用者にはそのニーズが強いことが考えられる.このことから,既卒に対しては新卒とは異なる定着対策や離職対策が必要であることが示唆される.どのような対策が有効であるのかは,今後の研究で明らかにしていく必要があるが,その際は本研究で行ったように,既卒・新卒の違いを考慮した分析が可能となるデザインとなることが望まれる.また表2に示した通り,病院属性による非常勤採用比率に違いが見られるため,非常勤採用比率に影響する病院属性の検討を行う必要があると考えるが,本調査においては新卒非常勤数が少なかったため,検討を行えなかった.あわせて今後の研究課題としたい.

本調査は2013年単年度のデータを分析した結果である.採用・離職の動向は本来経年的な推移をみていくことが重要であることから,調査手法を確立し,定期的な調査を継続する必要がある.

謝辞:本研究にご協力いただきました皆様に深く感謝いたします.本研究はJSPS科研費JP24792415の助成を受けたものです.

著者資格:IMは研究の着想,デザイン,データ収集,分析,解釈,草稿の作成;MHは分析,解釈,草稿の作成;ITは研究プロセス全体への助言,原稿への示唆.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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© 2017 Japan Academy of Nursing Science
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