2017 Volume 37 Pages 390-398
目的:看護基礎教育課程における小児看護学シミュレーション教育の研究を概観し,今後の教育上の課題を明らかにする.
方法:CINAHL,PubMed,医学中央雑誌Web版に2015年12月までに公表されたシミュレーションによる小児看護学教育に関する38論文を対象とした.
結果:シミュレーションによる小児看護学教育の研究は近年急増し,小児の発達段階に焦点をあてたアセスメント・ケアをマネキン・高性能シミュレーターを用いたシナリオにより,講義・演習,一部は臨地実習を代替して実施していた.評価では知識,学習経験,技術・パフォーマンス,批判的思考,臨床判断力,自信・満足度等が用いられ,特にわが国では介入後のみの評価や学生の主観的評価であった.
結論:小児の発達段階を踏まえたアセスメント・ケアを強調するシナリオ,一連の講義・演習におけるシミュレーションおよび臨地実習を含む教育デザイン,評価指標と測定方法等の研究デザインの課題が示唆された.
看護基礎教育課程における小児看護学教育は,その到達目標の達成に向けて厳しい課題を抱えている.昨今の学生は子どもと接する経験が少なく,臨地実習環境では病床の縮小化や子どもの疾病の重症化・複雑化が進んでいる.また臨地実習の場の確保が難しく,従来の病棟や保育園等の他,障がい児施設や外来へと実習施設が拡大している(宮谷ら,2013;太田ら,2014).さらに子どもは乳児・幼児・学童・思春期という発達段階の異なる対象であり,学生にとって子どものアセスメントは年齢によるバイタルサインの意味の変更(Lambton, 2008)を求められる.急性期では不機嫌かつ啼泣し,恐怖で怯える子ども,疲労やストレスを抱える母親や家族を観察し,関係の構築に努めなければならない.特に乳幼児では親がベッドサイドに付添うことも多く,親や家族との協働は小児看護の技である一方,学生にとっては脆弱で小さな子どものケアを親が見ている不安がある(Harris, 2011).このように小児看護実践力の習得は難しく,それゆえ教育者はその本質を効果的に学習する方略を模索し続ける必要がある.
近年,看護学教育においてシミュレーションの使用が拡大している(Felton et al., 2013).シミュレーション教育は学習者の主体的学びを可能にし,理論と実践をつなぎ,知識・技術・態度を統合する経験的学習の教授法として注目され,看護実践力の育成に向けて必要性が指摘されている(厚生労働省,2011).小児看護学教育では臨地実習においても直接的な看護に制約がある現状から,より効果的なシミュレーション教育の検討は重要と考えられる.そこで本研究は看護基礎教育課程における小児看護学シミュレーション教育の研究を概観し,今後の教育上の課題を明らかにすることを目的とする.
本研究の対象は看護基礎教育課程学生を対象とした小児看護学教育においてシミュレーションを用い,実証的に評価する研究論文である.具体的には書誌情報データベースCINAHL,PubMed,医学中央雑誌Web版を用い,論文形式や収載誌発行年を指定せず検索した(2015年12月検索).本研究に関する論文を複数読み,医学図書館司書のコンサルテーションを受け,司書が本研究の目的を踏まえてキーワードで実施したinitial search結果の論文リストの表題・要旨を確認した.それを踏まえて国外では小児child or pediatrics,シミュレーションsimulation or manikin,看護nursing,学生student,国内では小児,看護,シミュレーションのキーワードをANDでつないで検索し,計334論文が抽出された.一次スクリーニングで重複論文を除き,表題・書誌情報・要旨を確認し,①小児看護学教育が主目的ではない,②看護基礎教育課程の学生以外を対象,③独自の具体的な教育内容および評価の実証データを含まないもの,④英語・日本語以外は除外した.次に二次スクリーニングで抽出の35論文の全文を精読し,各文献に引用され,本研究目的に関連し,除外基準に非該当の3論文を加えた38論文を対象とした(図1).
対象論文の文献検索フローチャート
先行研究(Jeffries, 2012;Rhodes & Curran, 2005)を参考に,著者・発行年・国,研究デザイン,協力者数,セッティング・学習者,シミュレーション場面・事例,ツール・忠実度,ブリーフィング,デブリーフィング,評価方法,評価指標の項目のマトリックスを作成した.上述した先行研究で示されているシミュレーション教育の枠組みの各要素はこの教育方法を捉える上で重要と考え,採用した.次に対象論文を繰り返し精読し,マトリックスに整理して記述した.別の研究者1人が対象論文を精読し,マトリックス内容を確認し,再修正を加えた.
本研究の対象論文の発行年は,2010年以降に30論文(78.9%)と急増し,国外31論文(81.6%),国内7論文(18.4%)であった.研究デザインでは量的研究18論文(47.4%),量的・質的研究14論文(36.8%),質的研究6論文(15.8%),準実験計画法20論文(52.6%),介入後の評価18論文(47.4%)であった.
2. シミュレーションによる小児看護学教育シミュレーション場面・事例は子どもの呼吸(LeFlore et al., 2012;松田・中村,2010),発熱(Kim et al., 2014;Shin et al., 2015),脱水(Butler et al., 2009),疼痛(Lambton et al., 2008;MacLaren et al., 2008)等の症状アセスメントとケア,薬物・輸液管理(Cazzell et al., 2011;Pauly-O’Neill, 2009;Pauly-O’Neill & Prion, 2013),緊急・救急受診時対応(Kim et al., 2014),救急蘇生(Kaplan et al., 2011),成長発達アセスメント(Meyer et al., 2011;Parker et al., 2011),患者識別(Bowling, 2015),環境整備(長尾ら,2008;豊口ら,2009),子ども・家族とのラポール形成(Shin & Kim, 2014;Shin et al., 2015),子どもと看護師の相互作用(Reid et al., 2014),医療者への報告,チームワーク・多職種連携(Luctkar-Flude et al., 2013;Stewart et al., 2010),プリパレーション(生田・宮里,2013),災害のトリアージ(Austin et al., 2013;Austin et al., 2014)であった.
ツールはマネキン,高性能シミュレーター(Darcy Mahoney et al., 2013;Megel et al., 2012;松田・中村,2010;松澤ら,2013),模擬患者(Parker et al., 2011;Shin & Kim, 2014;Shin et al., 2015),パペット(Reid et al., 2014),コンピュータプログラム(Klaassens, 1988),3Dバーチャルゲーム(LeFlore et al., 2012)が活用されていた.また子どもボランティア(Austin et al., 2013)や劇団の若者(Felton et al., 2013)の参加もあった.さらに異なる年齢の事例を用いて(Bowling, 2015;Lambton et al., 2008)発達段階を強調する他,学生自身がシナリオを作成(Oldenburg et al., 2012;Valler-Jones, 2014),PBL(Problem-Based Learning)との組み合わせ(Kang et al., 2015)等も用いられていた.またブリーフィングやデブリーフィングを含んで実施され,デブリーフィングに焦点化する研究もあった(小西ら,2013).これらのシミュレーションは講義・演習,多職種連携ワークショップ,災害教育プロジェクト,臨地実習のオリエンテーション(Harris, 2011)や臨地実習の一部を代替していた(Lambton et al., 2008;Megel et al., 2012).
3. シミュレーションによる小児看護学教育の評価評価では知識,学習経験,技術・パフォーマンス,批判的思考・臨床判断力,学生の学習の満足度や知識・技術への自信等の他,自己効力感(Cardoza & Hood, 2012),OSCE(Objective Structured Clinical Examination)実施後の気分・信念・態度(Cazzell et al., 2011),教育デザイン(Butler et al., 2009;Cantrell et al., 2008)が指標であった.また測定では学生による質問紙等において既存の尺度や独自に作成した項目を用いる他,LCJR(Lasater Clinical Judgement Rublic)(Shin & Kim, 2014),OSCE(Bowling, 2015;LeFlore et al., 2012)による測定,また複数の指標を用いる研究が多かった(表1).
著者(出版年),国名 | デザイン1) | 協力者数 | シナリオ | 評価指標3) | 評価方法4) | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1.セッティング・学習者2) 2.シミュレーション場面・事例 3.ツール・忠実度 |
ブリーフィング | デブリーフィング | |||||
Austin et al.(2013),米国 | 量・質/介入後評価 | 263 | 1.大学と地域の協働による災害教育プロジェクトに参加した4年生・卒業生他 2.竜巻時の子どものトリアージ 3.ボランティアの子ども(6~15歳)・親 |
+ | + | 知識 自信 子ども・親の経験 |
質問紙 インタビュー |
Austin et al.(2014),米国 | 量/介入後評価(一部,準実験計画・前後比較) | 26 | 1.大学と地域の協働による災害教育プロジェクトに参加した4年生他 2.非テロの爆発のトリアージ(事前学習・8歳頭部外傷・脳震盪のトリアージ) 3.高校生 |
+ | + | 知識 自信 |
質問紙 |
Bowling(2015),米国 | 量/準実験計画法(対照群・前後比較) | 73 | 1.小児看護の臨地実習コース学生 2.入院中の喘息児のアセスメント・ケア・評価の学習と臨地実習前後でOSCE ①3ケ月・ 細気管支炎のアセスメント・医師とのコミュニケーション ②12歳・輸液管理(点滴・抗生物質投与)・患者識別 ③5歳・脱衣・肺炎の疼痛のアセスメント・薬物管理・患者識別 3.中レベルの忠実度のシミュレーター |
+ | + | パフォーマンス(患者識別・安全な薬物管理・医療者とのコミュニケーション) 知識 自信 |
筆記試験 質問紙 OSCE |
Butler et al.(2009),米国 | 量/準実験計画法(RCT) | 31 | 1.小児看護コース終了学生(短大生・準学士) 2.小児の体液・電解質の異常のアセスメント・ケア 3.マネキン・高性能シミュレーター |
– | + | 教育デザイン(SDS) 学習経験(EPQ) 満足度・自信(SSSCLS) |
質問紙 |
Cantrell et al.(2008),米国 | 量・質/介入後評価 | 66 | 1.小児看護コース4年生 2.①入院中・幼児の気管支喘息 ②13歳・鎌状赤血球血管閉鎖性クリーゼ ③健康な9ヶ月児の成長発達のアセスメント・ケア 3.マネキン・高性能シミュレーター |
+ | + | 教育デザイン(SDS) 学習経験(EPQ) 満足度・自信(SSSCLS) |
質問紙 FGI |
Cardoza & Hood(2012),米国 | 量/準実験計画法(前後比較) | 52 | 1.母性・小児看護コース4年生 2.①急性虫垂炎術後 ②敗血症 ③喘息 ④トラウマ・終末期のアセスメント・ケア 3.高性能シミュレーター |
+ | + | 自己効力感(GSE) | 質問紙 |
Cazzell et al.(2011),米国 | 質/介入後評価 | 105 | 1.小児看護コース4年生 2.乳児・幼児・学童・思春期の薬物管理(薬用量の計算・発達に応じた管理等) 3.記載なし |
– | – | OSCE後の気分・信念・態度 | FGI |
Darcy Mahoney et al.(2013),米国 | 量・質/介入後評価 | 131 | 1.小児看護コース3年生 2.①生後6日・脱水 ②10歳・喘息 ③7か月・熱性けいれん ④15歳・MRSAを伴う創傷のアセスメント・ケア 3.高性能シミュレーター |
+ | + | 学習経験(アセスメント・インストラクターの教育・教育の有効性等) | 質問紙 |
Davies et al.(2012),英国 | 量・質/介入後評価 | 41 | 1.小児看護コース3年生(3年課程) 2.①2か月・鼠径ヘルニア術後 ②9歳・下痢・嘔吐 ③7歳・脳障害・気管切開 ④6か月・呼吸障害のアセスメント・ケア ⑤病棟ミーティング 3.マネキン・高性能シミュレーター |
+ | + | 学習経験(楽しさ・自信・技術の向上・経験のリアルさ) | 質問紙 |
Felton et al.(2013),英国 | 質/介入後評価 | 16 | 1.小児看護・精神看護コース3年生 2.思春期の自傷行為に関する事例のアセスメント・ケア ①16歳・薬の過剰摂取で入院 ②16歳・リストカットで救急受診 3.劇団の若者 |
– | + | 学習経験 | 質問紙 FGI |
Harris(2011),米国 | 量/準実験計画法(対照群) | 71 | 1.小児の臨地実習コース3年生(実習オリエンテーションとして実施) 2.①乳児の基本ケア(オムツ・体重測定・栄養・筋肉注射) ②薬物療法 ③乳児・異常呼吸音聴取・呼吸不全 ④6歳・呼吸・嘔気・下痢による重度脱水 3.マネキン・高性能シミュレーター |
+ | + | 知識 臨地実習コースの成績 |
筆記試験 |
生田・宮里(2013),日本 | 量・質/介入後評価(前後比較) | 51 | 1.小児看護学の科目を履修する3年生 2.学生が設定・アセスメント・問題点を考え,ツール作成,プレパレーション 3.記載なし |
– | – | 知識・工夫 よかったこと・学び 困ったこと |
質問紙 レポート |
Kang et al.(2015),韓国 | 量/準実験計画法(対照群・前後比較) | 205 | 1.基礎・小児看護コース受講後の4年生(3大学) 2.輸液ポンプとネブライザーの使用・両親のサポート 3.高性能シミュレーター |
+ | + | 知識 自信 満足度(SSSCLS) |
質問紙 |
Kaplan et al.(2011),米国 | 量/準実験計画法(前後比較) | 43 | 1.小児の臨地実習コースの4年生・救急NP学生 2.発熱・活気低下により救急受診した乳児の救急蘇生 3.高性能シミュレーター |
+ | + | 知識 満足度 自信 |
筆記試験 質問紙 |
Klaassens(1988),米国 | 量/準実験計画法(RCT) | 10 | 1.小児の臨地実習コース4年生 2.先天性心疾患(心室中隔欠損)のアセスメント 3.コンピュータープログラム |
– | – | 臨床判断力 | 質問紙 |
Kim et al.(2014),韓国 | 量・質/介入後評価 | 147 | 1.小児看護コース4年生(2大学) 2.救急受診の15か月児の発熱・熱性けいれん 3.高性能シミュレーター |
+ | + | 批判的思考 満足度(SSE) |
チェックリスト |
小西ら(2013),日本 | 量・質/介入後評価 | 43 | 1.小児看護学の科目を履修する3年生 2.入院中の3歳・川崎病のアセスメント・全身清拭・環境整備 3.マネキン |
– | + | 学習経験(技術習得に役立ったか・技術の習得・習得できなかった理由等) | 質問紙 |
Lambton et al.(2008),米国 | 量・質/介入後評価 | 47 | 1.小児の臨地実習コース2年生(実習の25%として実施) 2.①健康な6か月児検診時のアセスメント・予防接種 ②2歳児の救急受診時の疼痛管理・虐待のアセスメント ③8歳・喘息・呼吸困難のアセスメント・教育 ④入院中の呼吸器感染症・無呼吸・無反応のcode-blue ⑤13歳・二分脊椎 ⑥6か月・ダウン症 ⑦15歳・白血病・重度免疫抑制 3.中レベルの忠実度のマネキン |
– | – | 学習経験(自信・医師・看護師との協働・子ども・家族のコミュニケーション・技術の向上・アセスメント等) | 質問紙 |
LeFlore et al.(2012),米国 | 量/準実験計画法(RCT・前後比較) | 93 | 1.小児看護コース4年生 2.①喘息 ②細気管支炎 ③肺炎 ④嚢胞性線維症の乳児のアセスメント・ケア 3.3Dバーチャルゲーム・高性能シミュレーター |
+ | + | 知識 パフォーマンス(アセスメント・ケアのスキル) |
筆記試験 OSCE |
Luctkar-Flude et al.(2013),カナダ | 量・質/準実験計画法(対照群) | 86 | 1.小児の理論・臨床に関するコース3年生・医学部3年生 2.①気管支喘息 ②敗血症のアセスメント・ケア・チームのコミュニケーション 3.高性能シミュレーター |
+ | + | 知識・自信 パフォーマンス(アセスメント・チームスキル) |
質問紙 チェックリスト |
MacLaren et al.(2008),米国 | 量/準実験計画法(対照群) | 58 | 1.小児看護コース3年生 2.①腫瘍 ②術後 ③骨折の疼痛管理・アセスメント 3.ロールプレイ |
– | – | 知識(KAPMQ)・態度 パフォーマンス(認知行動疼痛管理スキル) |
質問紙 |
松澤ら(2013),日本 | 量/準実験計画法(前後比較) | 50 | 1.ヘルスアセスメントの科目を履修する2年生 2.呼吸器系・心血管系・腹部のヘルスアセスメントスキル 3.高性能シミュレーター |
– | – | アセスメントスキル 学習への興味・難しさ |
質問紙 |
松田・中村(2010),日本 | 質/介入後評価 | 3 | 1.研究参加希望の3年生 2.咳・発熱・元気がなく受診した2か月児への呼吸の評価と緊急対応 3.高性能シミュレーター |
– | – | 学び・感情 学習への要望 |
インタビュー |
Megel et al.(2012),米国 | 量・質/準実験計画法(対照群) | 52 | 1.小児の臨地実習コース2年生 2.幽門筋切離術後・生後6週の児のバイタルサイン測定・アセスメント 3.高性能シミュレーター |
+ | + | 不安(STAI) 満足度・自信(SSSCLS) アセスメントスキル |
FGI チェックリスト |
Meyer et al.(2011),米国 | 量/準実験計画法(対照群) | 116 | 1.小児の臨地実習コース3年生(実習の25%として実施) 2.①訪問による乳児の成長発達のアセスメント ②喘息・小児の吸入 ③RSウイルス感染の乳児の吸引 ④1型糖尿病・小児の血糖測定・注射 ⑤細気管支炎乳児の体位ドレナージ ⑥急性虫垂炎の小児の術後観察 ⑦けいれんの乳児の静脈注射 ⑧小児の敗血症・腰椎穿刺補助 3.マネキン |
+ | + | パフォ-マンス(コミュニケーション・臨床判断・治療的スキル・記録等) | 質問紙 |
長尾ら(2008),日本 | 量・質/介入後評価 | 81 | 1.小児看護学の科目を履修する学生(2年・3年課程の専門学校) 2.点滴静脈注射中の6か月と2歳への事故の特性・防止 3.マネキン |
– | – | 学習経験(理解度・グループワークの学び等) | 質問紙 レポート |
Oldenburg et al.(2012),米国 | 質/介入後評価 | 119 | 1.小児理論コース4年生 2.けいれんの乳児・髄膜炎の学童のシナリオ例を提示し,学生がシナリオ作成 3.高性能シミュレーター |
– | + | 学習経験 | レポート |
Parker et al.(2011),米国 | 量/準実験計画法(RCT・対照群) | 41 | 1.小児保健コース2年生 2.①疼痛アセスメントツールの使用 ②成長発達曲線 ③SBAR ④体重に応じた薬物量の計算 ⑤家族中心ケア 3.中程度から高性能シミュレーター・模擬患者 |
+ | + | 知識・教育デザイン(SDS) 学習経験(EPSS) 満足度(SSSCLS) 自信(SCR) |
筆記試験 科目成績 質問紙 |
Pauly-O’Neill(2009),米国 | 量/準実験計画法(前後比較) | 59 | 1.小児の薬物管理コース3年生(科目の試験として実施) 2.薬物管理(患者識別・適切な投与方法の選択・5Rなど) 3.なし |
– | – | パフォーマンス(薬物管理スキル) | チェックリスト |
Pauly-O’Neill & Prion(2013),米国 | 量/準実験計画法(前後比較) | 32 | 1.小児看護コース3年生 2.薬物管理(静脈注射準備・輸液ポンプ使用・薬物量計算・バイアル溶解) 3.なし |
– | – | 知識 自信 |
質問紙 |
Reid Searl et al.(2014),オーストラリア | 質/介入後評価 | 15 | 1.基礎看護コース1年生 2.糖尿病と喘息の6歳児・看護師と小児患者の相互作用 3.手動のパペットとプログラム可能なパペット |
– | + | 学習経験 | FGI |
Stewart et al.(2010),英国 | 量・質/介入後評価 | 46 | 1.多職種連携教育のワークショップに参加の3年生・医学部4年生他 2.細気管支炎・クループ・気管支喘息・敗血症・急性胃腸炎・心不全のアセスメント・管理・協働 3.高性能シミュレーター |
+ | + | 知識・技術習得 コミュニケーション・協働 専門職・役割の認識 学び合う態度 |
質問紙 |
Shin & Kim(2014),韓国 | 量/準実験計画法(前後比較) | 95 | 1.小児の臨地実習コース4年生 2.①新生児のアプニア ②乳児の発熱のアセスメント・ケア 3.高性能シミュレーター・模擬患者 |
– | + | 臨床判断力(LCJR) 批判的思考(YCTD) 満足度(SET) |
質問紙 |
Shin et al.(2015),韓国 | 量/準実験計画法(対照群・前後比較) | 237 | 1.小児の臨地実習コース4年生(3大学) 2.①親・子どもと看護師のラポール形成 ②ハイリスク新生児のアプニア ③乳児の発熱のケア 3.高性能シミュレーター・模擬患者 |
+ | + | 批判的思考(YCTD) 満足度(SET) |
質問紙 |
田村・岡本(2013),日本 | 質/介入後評価 | 86 | 1.小児看護学の科目を履修する3年生 2.1歳3か月児(①肺炎:発熱・咳・鼻汁 ②左手背に点滴 ③母親 付添い)の観察・バイタルサイン測定・母親への声かけ 3.バイタルサイン人形 |
– | – | 学び・課題 | レポート |
豊口ら(2009),日本 | 量・質/介入後評価 | 114 | 1.小児看護学の科目を履修する学生(2年・3年課程の専門学校・短大) 2.持続点滴中の8か月児・4歳6か月児の環境整備 3.マネキン |
– | – | 学習経験(理解度・演習の興味・関心,グループワークの学び等) | 質問紙 レポート |
Valler-Jones(2014),英国 | 量・質/準実験計画法(前後評価) | 24 | 1.小児の臨地実習コース2年生 2.危篤状態の気道確保・心肺蘇生を含む小児のシナリオを学生が開発・実施 3.マネキン |
– | + | パフォーマンス(新生児・乳児・小児の蘇生) 自信・満足度・達成感 |
OSCE 質問紙 |
Valizadeh et al.(2013), イラン |
量/準実験計画法(RCT・前後比較) | 45 | 1.看護・助産学部学生 2.乳児への末梢静脈カテーテル挿入 3.マネキン |
– | – | 自信 | 質問紙 |
1) RCT; Randamized Control Trial, PBL; Problem-based learning 2) NP; Nurse Practitioner 3) SCL; Self-Confidence in Learning using simulation scale, SDS; Simulation Design Scale, EPQ; Educational Practices Questionnaire, SSSCLS; Student Satisfaction and Self-confidence in Learning Scale, SSE; Satisfaction of Simulations Experience Scale, GSES; General Self Efficacy Scale, CTS; Communication and Teamwork Scale, KAPMQ; Knowledge and Attitudes of Pain Management Questionnaire, STAI; State-Trait Anxity Inventry, CTD; Clitical Thinking Disposition Tool, EPSS; Educational Practices in Simulation Scale, LCJR; Lasater Clinical Judgment Rubric, YCTD; Yoon’s critical thinking tool, SET; Simulation Efffectiveness Tool 4) OSCE; Objective Structured Clinical Examination, FGI; Focus Group Interview
小児看護学教育のユニークさは,状況を踏まえたアセスメント・判断・ケアのすべてに子どもの発達段階の視点を含めて思考・行動できるよう支援することである.本研究の対象論文では,子どもの身体的・心理社会的特徴を踏まえたアセスメント・判断,実践力の習得に向けてシナリオ上,子どもの発達段階を強調していた.小児看護学教育でこそ学習すべき子どもの発達段階を踏まえた思考・行動を,子どもとかかわる経験の少ない昨今の学生が学習することは簡単ではない.特に状況に応じた様々な発達段階の子どもの健康状態のアセスメントと判断力を獲得するためには,事例を通じて具体的に子どもの発達段階と状況を統合して思考する経験が必要である.Jeffries(2005)が学生が妥当性のある臨床的判断,批判的かつ反省的論証のスキルを取り入れるためにはシナリオ開発が重要と述べているように,考え抜かれたシナリオの役割は大きい.また本研究の対象論文では伝統的なマネキンの他,近年,高性能シミュレーターが活用されていた.小児看護学教育では実際の子どもの参加は難しく,シナリオをより忠実に再現することは課題である.高性能シミュレーターの活用をはじめ,シナリオの忠実度を上げるツールの活用・工夫が重要と考えられる.
2. 小児看護学教育におけるシミュレーションを導入した教育デザイン本研究の対象論文ではブリーフィングやデブリーフィングが実施される一方,本研究の方法論的な限界もあるが,ブリーフィングやデブリーフィングの記載がない論文も散見された.シミュレーション教育の中で特に学習者が主体的に思考・パフォーマンスの振り返りから気づきを得るデブリーフィングは必要不可欠で(Dreifuerst, 2009),多くを統合する重要なパートであり,最も多くの学びを得ることができる(Shinnick et al., 2011).また学生と学習効果を結びつけるためにはブリーフィングが重要であるが,先行研究ではそのプロセスが不明確(Page-Cutrara, 2014)と指摘されている.このようにシミュレーション教育の効果を最大限発揮させるためには一連の教育デザインが重要である.
また本研究の対象論文ではシミュレーション教育は講義・演習の他,臨地実習のオリエンテーションやその一部として実施されていた.日本の看護教育は教室や実習室で事例を用いたり,学生がお互いに看護師役・患者役をしたり,技術演習と称した広義のシミュレーション教育を行ってきた(阿部,2013).またわが国に限らず伝統的に教室での教育と臨床での教育は明確に二分されてきたが,ベナー(2011)は臨床と教室の学びの統合が学習者の経験している断片化の問題を解消できると述べている.本研究の結果からシミュレーション教育をデザインするにあたって,講義・演習と臨地実習等をつなぎ,カリキュラム全体を通じた一連の教育デザインとして検討していく必要性が明らかになった.
3. シミュレーションによる小児看護学教育の評価と研究シミュレーションによる小児看護学教育の研究は近年急増し,学習者による自記式,既存の尺度および独自の作成項目を用いた主観的指標が多かった.特に初学者にとって自信や満足感等は評価指標の一つだが,まずは実施した教育介入による学習者の目標達成度を示す評価指標が重要である.特にどの次元の成果を測定するかを明確にし,どの方法・ツールにより把握するか,それに伴ってどの研究デザインが適切か,充分な検討が必要である.効果的な看護のシミュレーション教育の研究は初期段階であり(Landeen & Jeffries, 2008),より強固なシミュレーション教育の研究の必要性(Foronda et al., 2013),シミュレーションの学習成果を測定する信頼性・妥当性が検証された尺度の不足(Kardong-Edgren et al., 2010)等が指摘されている.この点はわが国も同様であり,本研究の対象の国内論文では介入後のみの評価が多く,すべて学生の主観的指標であった.これらのことからシミュレーション教育の根拠を示す研究デザイン,学習成果を反映する評価指標の設定,適切な測定方法の工夫とツール開発が必要である.特にシミュレーション教育の利点である思考・判断・行動を把握する指標は有用であり,OSCEや臨床判断力を測定するルーブリックによる測定が可能である.
4. 本研究の限界と今後の課題本研究の限界として,検索時期(2015年12月まで)以降および本研究で用いたデータベース以外にのみ収載の論文は含まれていない.また教育効果に影響を与えうる教員の教育歴・能力,学生人数,シミュレーションの時間等は考慮できていない.小児看護学実習の場の確保はわが国以外でも厳しく,本研究の対象の一部では臨床実習の25%をシミュレーションで代替し,その効果を検証していた(Lambton, 2008).わが国も同じ課題に直面しており,可能かつ最適な学習方略を検討し続けることも課題であろう.
1.シミュレーションによる小児看護学教育は,子どもの発達段階と状況を具体的に統合して思考する経験に向けて,発達段階を強調したシナリオをマネキン・高性能シミュレーターを用いて展開していた.またブリーフィング・デブリーフィングを含んでデザインされ,講義・演習の他,一部では臨地実習を代替して実施されていた.
2.シミュレーションによる小児看護学教育の研究は近年急増し,評価では学生の主観的指標が多かった.特にわが国では介入後のみの評価,学生の主観的指標による評価であった.
3.小児看護学教育の目標を達成しうる小児の発達段階を踏まえたアセスメント・ケアを強調するシナリオ,一連の講義・演習におけるシミュレーションおよび臨地実習を含む教育デザイン,学習成果を示す評価指標の設定と適切な測定方法・ツール開発,根拠を提示できる研究デザインの検討が課題であることが示唆された.
謝辞:本研究の計画・遂行にご協力・ご助言くださったUniversity of Minnesota, Bio-Medical Library の司書Liz Weinfurter氏,Del Reed氏,ほか皆様に心からお礼申し上げます.なお,本研究は第36回日本看護科学学会学術集会にて発表した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:AMは研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,原稿作成までの研究プロセス全体に貢献,YSはデータ収集・解釈と原稿への示唆,研究プロセス全体への助言,STはデータの解釈と原稿への示唆,研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.