Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Creation a Scale of Father Identity in the Transition Period and Examining Its Reliability and Validity
Yoshiko Matsuda
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2018 Volume 38 Pages 9-17

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Abstract

目的:『親になる移行期の父親らしさ』尺度を作成し,その信頼性・妥当性を検証することである.

方法:尺度の開発は,先行文献から37項目を抽出し,内容妥当性と表面妥当性を検討した.本調査は,2016年1月~3月の期間に近畿圏6か所の病院で出産した妻の夫372名へ質問紙調査を実施し,データの項目分析および尺度の信頼性と妥当性を検討した.

結果:検討の結果,21項目3因子の尺度を完成した.尺度のクロンバックα係数は.908と高い信頼係数であり,再テスト法では級内相関係数がr = .846(P < .01)と強い関連を認めた.また既存グループ法において,子ども数が1人と複数の夫との間(P = .00)と,立ち会い出産が初めてと複数回の夫との間(P = .03)に有意差を認めた.因子分析により抽出された3因子は,「子どもの存在から沸き立つ思い」「父親意識の高まり」「妻への思い」であった.

結論:本尺度は3つの因子から構成され,信頼性と妥当性が確認された.

Ⅰ. 緒言

近年における核家族化が進むなか,出産後も仕事を続けることを希望する女性が増加しているにも関らず(内閣府,2007),子育てにおけるソーシャルサポートが充足しているとは言えない.このような背景からも,2010年には厚生労働省によるイクメンプロジェクトが発足し,イクメンという言葉は社会的ブームになるほど,男性の家事・育児参加の必要性が推奨されてきた.しかし,日本の父親の育児時間の平均は1日39分と,欧米諸国と比べて半分程度であり(総務省統計局,2012),育児休業取得者の割合も女性が70.6%であるのに対し男性は0.56%と,父親の育児参加が増えているとは言い難い.

親になることとは,赤ん坊という新しいメンバーとの相互作用の要求に応えるための役割移行を必要とすることであり,母親と父親は個々に異なるペースや異なる方法で変化していく(Cowan, 1991).母親は,妊娠によって子どもとの一体感を得ながら,出産や授乳という体験によって子どもに対する愛情を徐々に育むことができる.しかし父親は,妻を介して子どもの存在を感じ取り,生まれた我が子との対面や触れ合いによって,子どもへの関心を高めていく.つまり,妻の妊娠・出産という劇的な変化のなかで,妻を介して子どもからのサインを感じ取り,様々な新しい気づきから自分が親になることを空想していく.Meleis(2010)は,移行を役割の変化という観点で捉え,親となることを発達的移行と位置づけており,その特性として起こっている変化に個人が気づくことが必要である.父親になる移行期において,様々な刺激を受けながら今まで感じたことのない気持ちに気づくことで親意識を高めていくことは,その後の父親役割獲得に影響を与えるとして重要な時期であると考える.

Rubin(1967/1997)は,女性は妊娠・出産体験を重ねるごとに女性の自己システムのなかに新しいパーソナリティ領域を組み込んでいき,次第に分離出来ないもの,つまり母親らしさ(Maternal identity)が生まれるとしている.男性もまた,妻を介して妊娠中から間接的な関わりのなかで新しいパーソナリティを確立していくことは重要であり,父親らしさ(Father’s identity)という概念で捉えていく必要があると考える.しかしこれまでの父親になっていく過程においては,妻の妊娠や出産という父親への移行期に焦点をあてるのではなく,子どもとの関わりやそれを取り巻く様々な要因が複雑に絡み合い影響を与えながら長期的な経過のなかで親として発達し続ける視点で捉えられている.しかし父親への移行期とは,これまでの夫婦2人の生活から子どもを含む3人の関係性へと発展していく初期段階である.核家族化が進むなか,夫婦一緒に子育てをしていかなければならない環境へと変化してきた今日において,夫は出来るだけ早い時期から家庭における役割を発揮していかなければならない.特に産後1か月頃までの時期は,医療専門家の手から離れ,育児不安が最も高くなる時期であるとともに,育児行動を通して子どもへの愛着を高めていく基盤となる重要な時期である(前原,2006).そこで今回,妻や子ども(胎児)の3者関係に焦点を当てた『親になる移行期の父親らしさ』の尺度を作成し,因子分析を通じてその構成概念を明らかにすること,またその信頼性・妥当性を検証することを目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

1. 親への移行期

妻の妊娠から出産後1か月頃の時期は,新しい我が子を向かえ入れながら,親意識を高めていく時期であり,その後の親役割獲得に関与する時期.

2. 父親らしさ

妻や子ども(胎児)との3者間の関係性のなかで,自分が父親になっていくことへの肯定的な思いやイメージを持つこと.

Ⅲ. 『親になる移行期の父親らしさ』の作成

1. 開発する尺度の概念の明確化

親としての実感が得られにくい妻の妊娠から出産後1か月頃の時期は親としての準備期であり,その後の父親役割獲得を円滑にしていくための重要な時期といえる.本尺度は,妊娠による妻の身体的・精神的変化や子ども(胎児)の存在から様々な新しい気づきを得るなかで,これから父親になっていくことへの肯定的な思いやイメージをもつことである.

2. 項目の作成

開発する尺度は,親への移行期において,子どもと妻との関係性のなかで,父親になっていく肯定的な思いやイメージを測定することを目的とすることから,妻と子どもそして父親の3者間に焦点をあてた.これまでの父親役割獲得に関連する文献でも,妊娠期からの夫婦関係の良好さが児への愛着を高めることにつながり,その後の父親役割を円滑にすることが明らかとなっている(鈴木・島田,2013).よって,育児経験や社会,親との関係性など時間的な経過や経験により影響されると思われる内容は除外し,妊娠期や出産時における親としての実感が乏しい時期の父親になることへの気づきや思いを表す言葉を12の先行文献から吟味した.先行文献の検索にはデータベースの医学中央雑誌web版,PubMed,CINAHLを使用した.キーワードは「父親」「役割」「父性」「father & role」「fatherhood」「paternity」とし,検索年は限定なしとした.検索の結果,父親になることに関連する思い17項目,子どもに関連する思い11項目,妻に関連する思い9項目の計37項目を抽出した(表1参照).その際は内容の相違点・共通点に着目し,共通点に関しては,看護学の専門家によるスーパーバイズを受けて尺度の原案を作成した.

表1 父親になる気づきや思いの項目
質問項目
I.父親になることに関連する思い
1. 妻を介して胎児の存在を感じることは親を実感するのに重要である
2. 身近な人に妊娠や出産・育児の話をするとき父親になると感じる
* 3. 子ども(胎児)と接していくなかで父親としての実感が高くなると思う
* 4. 父親としての責任を感じる
5. 他人の子どもにも関心が出てきた
6. 仕事をもっと頑張ろうと思う
7. 先輩パパからの体験談やアドバイスを聞く(聞こうと思う)
* 8. 子どもの誕生は自分の人生において貴重な体験だと思う
* 9. 子どもが誕生することで父親としての気持ちが高まる
* 10. 最も父親を実感するのは初めて子どもを抱く瞬間だと思う
11. 自分が育児をしている姿を想像する
12. 育児を通して自分も成長していける
* 13. 自分にできる家事や育児など家庭内での自己の役割を考える
14. 生活していく中で自分にしかできない役割があると思う
* 15. 今まで以上に健康で過ごさないといけないと思う
* 16. 自分がどんな父親になれるか考える
Ⅱ.子どもに関連する思い
17. 子ども(胎児)に話しかける
* 18. 子ども(胎児)のことをよく考える
19. 子ども(胎児)とずっと一緒にいたい
21. 子ども(胎児)が自分に似ていると嬉しい気がする
22. 子ども(胎児)を守ってあげたい
23. 子どもが望むことはできる限り叶えてあげたい
24. 子どもの良き父親になりたい
* 25. 子どもをどのように育てたいかを考える
* 26. 子どもが授かって他の誰かのために生きるという実感がある
27. 子ども(胎児)にはみんなを幸せにする不思議な力があると思う
28. 妻の妊娠や出産,子ども(胎児)を通して生命の神秘さや力強さを感じる
Ⅲ.妻に関連する思い
29. 妻(パートナー)は頼りになる
* 30. 妻(パートナー)とは言葉に出さなくても分かり合える
31. 妻(パートナー)とならどんな困難をも乗り越えられる
32. 妻(パートナー)を心から尊敬している
33. 妻(パートナー)がいない生活は考えられない
* 34. 妻(パートナー)とこれからの生活や育児について話し合う
* 35 妻(パートナー)と共に子どもも大切にしたい
* 36 立ち会い出産は夫婦2人で産んだ感が得られる体験だと思う(思った)
* 37 家族の新たな生活について考える

*は因子分析で除外した項目

3. 内容・表面妥当性の検討

1) 対象

内容妥当性の評価は,大学院修士課程以上を修了した母性・助産・小児の大学教員10名で行った.また表面妥当性の評価は,妻が出産してから5日以内の夫10名と内容妥当性の評価者10名の計20名で行った.

2) 方法

評価方法は,内容妥当性では尺度全体と各項目の概念について,「該当する」または「該当しない」のいずれかを選択し,表面妥当性では,明瞭または不明瞭のいずれかを選択した.配布と回収は,大学教員へは直接依頼または郵送法で実施し,夫に対しては病棟スタッフを介して配布と回収を行った.

3) 結果

(1) 内容妥当性

尺度全体の評価は90%の支持であった.Lynn(1986)による内容妥当性指標(Content Validity Index)の評定では,評価者10名において8名(80%)以上の指示が必要となることから,内容妥当性が支持されたと考えられる.

37項目の評価の範囲は70~100%であり,「子どものためなら何でもしてあげたい」,「父親としての責任を感じる」,「仕事をもっと頑張ろうと思う」の3項目において70%の支持であった.「子どものためなら何でもしてあげたい」に関しては,「何でも」という表現が抽象的であること,また何でもすることがすべて良いことではないという指摘であった.しかし,まだ自分の子どもであるとの認識が乏しい時期の父親の情動としては,曖昧かつ無償の意味合いが強いと判断し「子どもが望むことは出来る限り叶えてあげたい」と表現を一部修正して保留とした.また「親としての責任を感じる」と「仕事をもっと頑張ろうと思う」に関しては,その意味合いが同じ要素を含むのではないかとの指摘であった.しかし,同じような意味合いと認識することができたとしても,親になることには様々な要因が相互に関連することが考えられることからも必要な項目であると判断し,採用とした.

(2) 表面妥当性

項目全体の明瞭性は82%以上の支持であった.37項目のうち「胎動を感じることは親になることを実感するのに重要な機会である」,「子どもとは繋がっている感じがする」の2項目においては60~70%程度の支持であった.「胎動を感じることは親になることを実感するのに重要な機会である」とは,主語が誰であるかが不明瞭であり,母親が認識するものとして捉えられるとの指摘であったため,「妻を介して胎児の存在を感じることは,親を実感するのに重要である」と修正した.また「子どもとは繋がっている感じがする」の項目は,抽象的で分かりにくいという指摘であった.「繋がり」とは子どもを自分の子どもとして実感しているかという結びつきの意味あいを意図していることから「子どもとは親子として繋がっている感じがする」と加筆した.

Ⅳ. 本調査

1. 対象

近畿圏内の産科個人病院6カ所で出産した妻の夫で,妻の出産後から退院までの期間の夫531名である.また母児に何らかの異常が生じた際は,精神的な支援が必要となることが推測され,本研究の目的に影響を及ぼす可能性があることから,母体搬送および新生児搬送になったケースは除外した.

2. 調査期間

2016年1月~3月

3. 調査方法

1) データ収集方法

研究者が調査対象施設へ研究協力の依頼を行い,病棟スタッフから対象者またはその妻へ研究の協力を依頼した.質問紙は,妻の退院までに回答し,病棟内に設置した回収ボックスへの投函することで回収を行った.基準関連妥当性の検討として,調査対象施設のうち1施設で,及川(2005)の親性の発達尺度を同時に調査した.安定性の検討に関しては,上記調査対象施設とは異なる1施設において,2週間の期間をおいた再テスト法も同時に依頼した.再テスト法の質問紙の回答は,出産後約1か月頃までに夫の自由な時間で回答し,返信用封筒に入れたものを1か月健診時に妻が持参することで回収した.なお,得られた結果の一致性を検討するため,調査票の右上に識別番号を記載した.

2) 調査内容

(1) 対象者の属性

年齢,職業,子どもの人数,立ち会い出産の有無,これまでに妻の出産に立ち会った回数,今回の出産に立ち会った時間,分娩様式とした.

(2) 『親になる移行期の父親らしさ』尺度

父親になることへの思いに関する内容について,父親になることに関連する思い,子どもに関連する思い,妻に関連する思いの3要因から精錬し,37項目で作成した.回答は4段階リッカート評定とし,得点が高いほど父親になることへの肯定的な思いやイメージが高いことを示す.

(3) 親性の発達尺度

親性の発達尺度は,及川(2005)によって開発された尺度である.本尺度は,ある程度の期間のなかで子どもや妻,社会との関わりのなかで形成されていく親性を測定する尺度であり,6つの下位尺度,計35項目で構成されている.回答は5段階のリッカート尺度であり,各尺度のCronbach’s α係数は.718~.893と,尺度の信頼性・併存的妥当性が確認されている.

及川の親性の発達尺度は,親性の獲得過程における変化とその影響要因を検討して作成されたものであることから,本尺度の基準関連妥当性を検討する目的で採用した.

4. 分析方法

分析には,統計解析用ソフトSPSS ver. 21を使用した.

1) 項目分析

『親になる移行期の父親らしさ』尺度に関する37項目について項目分析を行った.記述統計および天井・フロア効果を確認し項目の除外を検討した.

2) 因子分析

質問項目の構造を明らかにするため,探索的因子分析(主因子法によるプロマックス回転)を行った.因子数は,スクリープロットの傾きや解釈可能性も検討し,固有値が1以上を基準とした.また因子分析では,因子負荷量が.40以上を採択の基準として.40未満の項目や複数の因子に高い負荷量を持つものを除外した.抽出された因子に基づき構成概念の命名を行い,その後各因子間相関を確認するためSpearmanの順位相関係数を算出した.

3) 信頼性の検討

内的整合性の検討として,尺度全体と各因子のCronbach α係数を算出し,安定性の検討として,同一対象に行った2度の調査の得点間における級内相関係数を算出した.

4) 妥当性の検討

基準関連妥当性の検討では,及川の親性の発達尺度との相関を,Spearmanの順位相関係数にて算出した.また既知集団妥当性を検討するために,経腟分娩と帝王切開,子どもの数を1人と複数人,立ち会い出産の有無,立ち会い出産の回数が初めてと複数回に分け,正規性を確認してからt検定を行った.

5. 倫理的配慮

内容・表面妥当性の検討は自記式無記名で依頼し,匿名性の保持に努めた.研究協力施設へは,研究協力依頼書にて説明をし,承諾書の署名によって同意を得た.対象者へは倫理的配慮について明記した依頼書を質問紙に添付し,質問紙の回答と回収をもって同意を得たものとした.倫理的配慮については,自由意思を尊重し,辞退しても不利益を被らないこと,学会発表や論文投稿の際も個人情報および匿名性の保護に努めること,また得られたデータは研究目的以外には使用しないことなどを明記した.なお,本研究は宝塚大学看護学部研究倫理委員会の承認を受けてから実施した(承認番号2015-研倫-10).

Ⅴ. 結果

質問紙票は531名に配布し,381名より回収(回収率71.75%),そのうち欠損値があった9名を除外したところ有効回答は372名であった(有効回答率70.05%).安定性の検討では,1施設に依頼し30名に配布した結果21名より回収(回収率70.00%,有効回答率70.00%),基準関連妥当性の検討では,異なる1施設に依頼し72名に配布した結果65名より回収した(回収率90.27%,有効回答率87.50%).

1. 対象者の属性

対象の平均年齢は33.47(±5.68)歳であり,立ち会い出産をした夫は291名(78.20%)であった.(表2参照).

表2 属性n = 372
人数 % 平均値(±SD)
年齢(歳) 372 33.47(±5.68)
職業 会社員 306 82.25
自営業 51 13.70
無職 1 0.26
その他 14 3.76
分娩様式 経腟分娩 323 86.82
帝王切開 42 11.29
無回答 7 1.88
子どもの数 1人 191 51.34
2人 131 35.21
3人 40 10.75
4人 6 1.61
5人 1 0.26
無回答 3 0.80
立ち会い出産の有無 291 78.22
81 21.77
立ち会い出産の回数 初めて 186 50.00
2回目 88 23.65
3回目 14 3.76
4回目 2 0.53
5回目 1 0.26
立ち会った時間 273 7.28(±8.38)

2. 『親になる移行期の父親らしさ』尺度の構成項目の検討

1) 項目分析

項目の最低得点は31,最高得点は84,平均64.80(±8.02)であり,37項目全てにおいて天井効果およびフロア効果は認められなかった.

2) 因子分析

37項目全てを使用して探索的因子分析を行った.因子のスクリープロットの形状,固有値の変化から3因子構造が妥当であると考え,主因子法・プロマックス回転による因子分析にて16項目を削除した.項目基準に満たない項目を削除しながら因子分析を繰り返した結果,3因子21項目の尺度を作成した(表3参照).

表3 移行期の父親らしさ尺度の因子分析と全項目間相関,平均値(標準偏差)n = 372
項目内容 共通性 全項目間相関 平均値(±SD)
Ⅰ 子どもの存在から湧き立つ思い α = 0.867
21 子ども(胎児)が自分に似ていると嬉しい気がする .741 .038 –.145 .302 .577 2.37(±.77)
19 子ども(胎児)とずっと一緒にいたい .693 .072 –.088 .445 .610 2.53(±.60)
23 子どもが望むことはできる限り叶えてあげたい .662 –.212 .104 .303 .468 2.51(±.57)
24 子どもの良き父親になりたい .625 .002 –.062 .226 .511 2.71(±.53)
20 子ども(胎児)とは親子として繋がっている感じがする .616 .164 –.027 .355 .667 2.49(±.62)
22 子ども(胎児)を守ってあげたい .591 –.170 .175 .489 .495 2.87(±.36)
27 子ども(胎児)にはみんなを幸せにする不思議な力があると思う .543 .082 .029 .389 .574 2.65(±.57)
12 育児を通して自分も成長していけると思う .538 .097 .112 .345 .642 2.56(±.60)
28 妻の妊娠や出産,子ども(胎児)を通して生命の神秘さや力強さを感じる .484 .152 .092 .350 .623 2.65(±.54)
14 生活していくなかで自分にしかできない役割がある .473 .004 .138 .443 .519 2.55(±.65)
Ⅱ 父親意識の高まり α = 0.789
2 身近な人に妊娠や出産・育児の話をするとき父親になると感じる –.020 .712 –.059 .470 .555 2.24(±.75)
11 自分が育児をしている姿を想像する .139 .604 –.049 .531 .609 2.20(±.72)
7 先輩パパからの体験談やアドバイスを聞く(聞こうと思う) –.149 .595 .167 .695 .501 2.16(±.78)
17 子ども(胎児)に話しかける .001 .544 .009 .479 .475 2.42(±.78)
6 仕事をもっと頑張ろうと思う .047 .530 –.027 .471 .475 2.48(±.73)
5 他人の子どもにも関心が出てきた –.113 .515 .066 .324 .391 2.20(±.75)
1 妻を介して胎児の存在を感じることは親を実感するのに重要である .279 .492 –.043 .487 .641 2.22(±.71)
Ⅲ 妻への思い α = 0.843
29 妻(パートナー)は頼りになる –.066 –.036 .865 .486 .503 2.67(±.52)
32 妻(パートナー)を心から尊敬している –.006 .161 .737 .654 .639 2.64(±.59)
33 妻(パートナー)がいない生活は考えられない .060 –.056 .693 .351 .485 2.75(±.51)
31 妻(パートナー)とならどんな困難をも乗り越えられる .222 .115 .498 .544 .642 2.66(±.54)
因子間相関
.635*
.597* .558*

因子抽出法:主因子法 プロマックス回転

Spearmanの順位相関 * <0.05 ** <0.01

3) 因子構造

抽出された3因子構造についてその内容を解釈した.第1因子は10項目であり,子どもを認識することで感じる思いであることから,「子どもの存在から沸き立つ思い」と命名した.第2因子は7項目であり,自己が父親になることを考えその姿を想像するといった思いの変化をあらわすものであることから,「父親意識の高まり」と命名した.第3因子は4項目であり,夫にとって妻の存在がどのようなものであるかをあらわしていることから,「妻への思い」と命名した.

3. 信頼性の検討

Cronbach’s α係数は,全項目でα = .908であった.各因子では,第1因子「子どもの存在から沸き立つ思い」α = .867,第2因子「父親意識の高まり」α = .789,第3因子「妻への思い」α = .843であり,高い信頼係数が得られた.

また3つの下位尺度相関では,有意な正の相関(0.558~0.635)がみられ(P < 0.1),安定性の検定である再テスト法では,級内相関係数r = .846(P < .01)と強い関連を示していた.

4. 妥当性の検討

併存妥当性として,親性の発達尺度との関連を検討した結果,父親らしさ尺度との相関はr = .476(P < .01)であり,中程度の関連が認められた.また既知集団妥当性の検討では,分娩様式,子どもの数,立ち会い出産の有無,立ち会い回数と,『移行期の父親らしさ』尺度のt検定を行った.結果,子どもの数が1人の夫と複数人の夫(P = .00)との間に,また初めて立ち会い出産をした夫と複数回の夫(P = .03)との間に有意差が認められた(表4参照).

表4 属性における父親らしさ尺度の平均値の比較n = 372
n 平均値(±SD) P
分娩様式 経腟分娩 323 64.68(±8.05) .81
帝王切開 42 65.00(±8.10)
子どもの数 1人 191 66.49(±7.13) .00***
複数人 178 62.89(±8.55)
立ち会い出産の有無 291 65.02(±7.85) .35
81 64.02(±8.60)
立ち会い出産の回数 初めて 186 66.05(±7.79) .03*
複数回 105 63.23(±7.55)

t検定

* P < 0.05 ** P < 0.01 *** P < 0.001

Ⅵ. 考察

1. 尺度の因子構造

1) 子どもの存在から沸き立つ思い

子どもの存在から沸き立つ思いとは,妻の妊娠中から子どもの存在を認識することによって触発され,現在から未来にかけての子どもに対する肯定的な思いがあらわれている.父親になることの影響要因には,我が子への関わりが重要であり,我が子への直接的な関わりの中で,子どもから何らかの反応が返ってくる過程を繰り返すことで我が子への愛情が高まると言われている(小笠原,2010).これは,妊娠中の妻を介して胎動や腹部の増大から子どもの存在を感じ,出産によって生まれた我が子をお腹の中にいたときの我が子と結び付けながら,自然に湧き出る情動の変化といえる.しかし,父親になるということは同時にストレスを伴うものであり,ライフサイクル上の危機ともいえる(Hobbs, 1984).このことからも,子どもに対する肯定的な思いを得ることは,その後の父親役割を適応していくことにおいて重要な要因であると考える.さらに,妊娠や出産という妻や子どもの変化について関心を持ち,これから先の生活について想像することもまた,これから先の父親としての自己役割を考える契機となり得る.早い時期から妻や子どもに感心を抱く者は,父親としての自覚や責任を感じていることからも(安藤ら,1996),親になる移行期から子どもの存在から沸き立つ思いを高めていくことが,その後の父親役割獲得にも影響するとして重要であるといえる.

2) 父親意識の高まり

父親意識の高まりでは,妊娠という事実に伴い父親自身が実際に変化した行動や体験などから,親を意識する内容が含まれている.行動を起こすには理由があり,動機づけることが重要である.動機づけとは「人が一定の目標に向かって行動を開始し,それを維持する一連の動き」であり,その中には内的動機づけと外的動機づけがある.内的動機づけとは,好奇心や関心によってもたらされるものであり,内的動機づけの方が行動によりよい結果をもたらすとされている(無藤ら,2004).このように,父親が自主的に妻の妊娠をきっかけに子どもへの感心を抱き,先輩パパからの体験談やアドバイスを聞くといった行動の変容は,父親になることへの関心の高まりといえる.親としての実感が得られにくい親への移行期において,父親になることの好奇心を抱き,何らかの行動変容を起こすことはその後の親役割獲得においても重要な要因と考える.

3) 妻への思い

妻への思いでは,夫にとっての妻に対する存在の大きさや尊敬といったこれからの生活においてかけがえのない存在としての思いである.妊娠中からの妻との良好な夫婦関係は,夫が父親となる発展的な展開の要であり,その後の親役割獲得に影響を与える(保田・畑下,2012松田・吉永,2014).しかし親になると夫婦間の親密性は低下することも明らかとされている(小野寺,2003).つまり,パートナーとの関係性は親への適応において重要な要因であり,親になることが夫婦の危機にもなる可能性があることからも,親への移行期に良好な夫婦関係を構築していくことが重要であると考える.

親になる移行期は,子どもとの積極的な関わりの程度や社会的な環境を受けにくい時期である.つまり一番身近な存在である妻や子どもや,そして父親としての気持ちに関連した3つの要因が抽出されたことは本尺度の3要因を支持するものである.さらに岩田・森(2004)は,父親役割を「父親としての価値観,態度,行動を含む文化的総体であり,父親と母親,および子どもを含む家族システム内のメンバーに対する責任を負うもの」と定義している.『親になる移行期の父親らしさ』は,これから先の父親としての役割を獲得していくうえにおいて,その適応状況を予測することを期待するものでもあることから,このように妻や子どもに関連した要因が抽出されたことは,『親になる移行期の父親らしさ』を測定する因子として妥当であると考える.

2. 尺度の信頼性

本研究でのCronbach’s α係数は,0.789~0.867であり,全項目では0.908であった.また,再テスト法でも強い関連を示していたことから,十分な信頼性を持つ尺度であるといえる.

3. 尺度の妥当性

既知集団妥当性において,初めての子どもであり,また初めて立ち会いをした夫に対して有意な差が認められた.親への移行期において夫婦は親になる意識を発達させながら親としてのIdentityを受け入れる準備をする(Cowan, 1991).父性意識の発達は,子どもの成長と共に育児や子どもとの関わりを通して発達していくものである(杉山・後閑,2012).複数子どもをもつ父親は,これまでの子どもとの関係性のなかで既に父親としての認識や役割観,子どもへの親和性など,ある程度の発達を得ているものと考えられる.特に親になる父親は,出産や子どもとの接触などから初めて親になる気づきを得ながら新しい家族関係を構築するための変化を必要とする最も重要な時期である.そして,自己の無力感や女性の強さを実感しやすいがため,新たに感じる他者への思いや自己の価値観に大きな変化を及ぼし成長を促す(竹原・須藤,2014).そのことが,複数の子どもをもつ父親より,初めての子どもをもつ父親のほうが有意な差を認めたと考える.勿論,2人目以降であってもこれまでの生活に新しいメンバーが増えることによって,生活環境は変化を余儀なくされる.しかし,特に初めて親になることにおいては,これまで経験のない新しい役割を獲得し,それに適応していかなければならず,本尺度は初めて経験する妻や子どもの変化を通して自分が父親になっていくことに気づきながら,父親になる肯定的イメージを獲得していく程度を測定する尺度として有用であるといえる.

また,及川によって開発された親性の発達尺度と『親になる移行期の父親らしさ』尺度との関連では,中程度の関連が認められた.及川の親性の尺度は,ある程度の期間のなかで子どもや妻,社会との関わりのなかで形成されていく親性を測定する尺度であり,本尺度よりも長い期間を要した親性を測定するものである.よって,忍耐強くなったなどの社会とのつながりを示す社会環境因子は,出産後1か月という短期間における『親になる移行期の父親らしさ』の発達にはあまり関連しないことが推察される.しかし,子どもの愛情や親子関係を示す次世代育成要因やパートナーとの愛情の深まりといった家族の絆因子においては,本尺度の下位概念に共通する因子である.これらのことから,親性の発達尺度と本尺度は,中程度の相関がみられたと考える.

Ⅶ. 結論

『親になる移行期の父親らしさ』尺度の作成を行い,その信頼性と妥当性の検討を行った.構成概念妥当性において,21項目から成る3因子が抽出され,併存妥当性では,親性の発達尺度と『親になる移行期の父親らしさ』尺度との間に中程度の関連が認められた.また内的整合性では高い信頼係数が確認でき,再テスト法においても強い関連が認められ,安定性が確認された.

Ⅷ. 研究の限界

本調査の対象は,妻の出産から退院までの時期のみでのデータ分析であったことより,妊娠中の夫に対する本尺度の有用性を検討するには限界がある.今後は妊娠中の夫を対象に本尺度を活用した調査を実施することで,その有用性について検討していく必要がある.

謝辞:本研究にご協力下さいました皆様と,ご指導頂きました京都橘大学の中島登美子教授,遠藤俊子教授に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
  • 安藤正子,有井良江,松土良子(1996):周産期における父性意識の発達と影響を与える要因,第27回母性看護,42–45.
  •  保田 ひとみ, 畑下 博世(2012):妊娠初期から産後1か月における初めて父親となる夫の体験,家族看護研究,17(2), 52–63.
  • Cowan P. A. (1991): The individual and family life transitions: A proposal for a new definition, In P. A. Cowan & M. Hillsdale, 3–30, Family transition, Laurence Erlbaum, NJ.
  •  Hobbs  M. (1984): Crisis intervention in theory and practice; A selective review, Br. J. Med. Psychol., 57, 23–34.
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  • Meleis A. I. (2010): Transition Theory: Middle-Range and Situation-specific Theories in Nursing Research and Practice, 52–83.
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  •  杉山 希美, 後閑 容子(2012):父親の役割獲得に関する文献検討,岐阜看研会誌,4(59), 59–68.
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