Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Examination of the Preceptor Education Program to Facilitate Clinical Reflection of New Nurses
Masako MutoHitomi Maeda
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2018 Volume 38 Pages 27-36

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Abstract

目的:新人看護師(以下,新人)のリフレクション支援を目指したプリセプター育成プログラム(以下,プログラム)の有効性を検討する.

方法:【研究デザイン】単一対象への介入研究.【対象者と対象者数】A大学病院のプリセプター76名.【分析方法】リフレクション支援4回の自己評価を比較した.2組のリフレクション支援場面について,問いかけのタイプと新人の発語を数量的に分析した.

結果:プリセプターの自己評価は,支援スキルの「発言を待つ」等20項目中14項目,支援態度の変化の「自己の傾向に気づく」等3項目で,3回目以降が有意に高かった(P < .05).2組の支援場面では,継続的な支援によって,プリセプターAは「追及型」から「確認型」が増え,プリセプターBは「確認型」から「引き出し型」が増え,それぞれ新人の考えを引き出すような問いかけができるように変化していた.

結論:プリセプターの支援の変化から本プログラムは,新人の臨床体験のリフレクションを支援できるプリセプター育成に有効であることが示唆された.

Ⅰ. 諸言

田村・池西(2014)は,患者の個別性を捉えて複雑な状況で最善の看護行為を行うには,患者を含むその状況の何を観察して,どう感じ・考え・判断して,どんな看護行為をするかという「思考と行動をつなぐプロセス」がきわめて重要であると述べている.また,Schön(1987)は,専門職の日々の実践はユニークで不確かさや矛盾がある複雑な状況に直面していることから,実践中も立ち止まり考え,見方を変えることによって新たな発見に繋がるリフレクション思考の重要性を強調している.リフレクションとは,深く省みるという意味で「内省」と訳されることが多く,青木(2003)は自分自身の姿を鏡に映してみるかのような自己認識や自己対話,自分自身を振り返り,熟慮,熟考することと述べている.実践での経験から学びを深めるにはこのリフレクションを意図的に実施して,新しい知識や概念の発見につなげる必要がある.

我が国でも2000年頃から看護学生,看護教員,看護職を対象とした研究に於いて,リフレクションによって気づきや思考が促進されることが報告されている.リフレクションは自分自身だけではなく,他者との対話によって感情や自己に気づき,発言が促されるという効果が示されてきた(奥田,2012青木,2014中村ら,2014).その一方で,奥田(2012)は,失敗したことを振り返る場合,対話の仕方によっては,話し手の自尊心を傷つけたり,自己否定し,モチベーションの低下や看護という仕事に対する拒否感を抱かせる可能性があると述べている.Schutz(2013)は,リフレクティブな学びにおけるファシリテーターの役割は極めて重要であり,リフレクティブな経験の成功を左右すると述べ,Duffy(2008)も学生のリフレクションのアセスメントを成功させるためにファシリテーターのトレーニングは極めて重要であることを強調している.リフレクションのプロセスを尊重し,対話による学習を促進するためには,リフレクションにおける思考レベルを理解し,実際にリフレクションの思考を十分に行えるファシリテーターの存在は欠かせない(桜井ら,2012奥田,2012青木,2014).しかし,リフレクションに関する国内外の研究は,リフレクションのツールやリフレクションの効果を示したものが多い.リフレクションの支援者育成としては,永井(2013a, b)の新人指導をする実地指導者のためのものや,Brockbank & McGill(2007)のデブリーフィングセッションにおける発言者,観察者,報告者3人組のワークショップ等があるが,いずれも概念的な紹介が主で,リフレクションの支援者育成プログラムを具体的に示したものはない.これらの状況から,リフレクションを効果的にファシリテートできる支援者育成プログラムを作成する必要があると考えた.

Ⅱ. 研究目的

プリセプター制度に着目し,新人看護師の考えや思いを引き出すリフレクション支援を目指したプリセプター育成プログラム(以下プログラム)を作成した.継続したプリセプターのリフレクション支援の変化から,プログラムの有効性を検討する.

Ⅲ. 用語の定義

リフレクション:看護師が患者や家族との関わりの後に,その場を離れて,その体験での実践を意識的に振り返り,気づきや考えたことの意味を再考し,新たな学びを発見するプロセス.

臨床体験のリフレクション:印象深い臨床体験を自己で振り返り,体験の事実や気づきの記述を基に支援者と共に振り返るという2段階の振り返り.

リフレクション支援:新人看護職の印象深い臨床体験を基に支援者が新人看護職の気づきや思考を促進させる関わり.

Ⅳ. 研究方法

1. 本研究の概念枠組み(図1

先行研究からリフレクションによって新人の自己理解や実践につながる思考を促進するには複数回の支援が必要であること,そして,リフレクションの効果的な支援としては新人の行動の承認や新人個々を尊重した対応などが抽出され,非効果的な支援としては,一方的な助言や新人の状況を理解しない断定的な指導が抽出された(武藤・前田,2016).この研究結果から,プリセプターの問いかけは,事実を確認する問いかけである「確認型」,新人の考えや思いを引き出す問いかけである「引き出し型」,詰問調の問いかけである「追及型」の3つに分類できると考えた.

図1

本研究の概念枠組み

「確認型」,「引き出し型」の問いかけは,対話が双方向的になり,新人は思考が促進され発言量が増加し,自己への気づきにつながり,プリセプターはそのプロセスで支援スキルや支援態度が向上すると考えられることから,これらを効果的な問いかけとした.一方,「追及型」の問いかけは,対話が一方向性になる可能性があり,新人の思考や発言は抑制される可能性があると考え,非効果的な問いかけとした.

本研究では,作成した4回のリフレクション支援を含んだプログラムの有効性を,プリセプターの問いかけ,支援スキル・支援態度の変化と新人の発言量の変化から検討することとした.

2. 研究デザイン

単一対象への介入研究

3. データ収集期間

2014年5月16日~2015年3月31日

4. 研究対象者

プログラムの対象者は,1大学病院で社会人経験のない2014年度の新人看護師(以下新人とする)のプリセプター76名とした.対象施設は29診療科を有する高度救急救命医療を提供する3次救急医療機関であり,肝疾患連携拠点病院,がん診療連携拠点病院,災害拠点病院,地域医療支援病院等の指定機関である.また,新人とプリセプターのリフレクション場面の参加観察については,新人とプリセプターの両者から同意が得られたペアとした.

5. プログラムの作成と運用過程

1) プログラムの作成過程

我々が先行研究として実施した面接調査(武藤・前田,2016)の結果をもとに,新人看護師が安心して体験を語り,思考を深められるようなリフレクションを,継続的に支援できるプリセプターを育成することを目的とした1年間のプログラムを作成した(図2).

図2

新人のリフレクションを促す支援のためのプリセプター育成プログラムの概要

プログラムにおけるプリセプターの集合研修では臨床体験の模擬事例を用いて,問いかけ例を考えるワークを取り入れた.プログラム案を教育担当者に示し,具体的な集合研修方法の確認を行った.教育担当者は,集合研修前の提出課題の確認やグループ割り振り,研修後の理解度の評価を行い,研究者はリフレクション支援方法の演示・情報提供,プログラムの疑問への説明,グループワークやリフレクション支援体験発表へのコメントを担当することにした.

集合研修の前後にプリセプターのリフレクション支援への新人の反応とプリセプターの集合研修への感想を情報源として,教育担当者と研修で扱う模擬事例の難易度や研修内容を毎回協議した.

2) プログラムの運用の実際

(1)プリセプターによるリフレクション支援は3ヶ月に1回とし,2014年6月,9月,12月,2015年3月に実施した.

(2)リフレクション支援は,予め新人が印象に残った体験をGibbs(1988)のリフレクティブ・サイクルにそって,①過去1カ月間の看護実践の中で,最も印象に残っている看護場面,②その看護場面を気がかりに思った理由,③その看護場面での気持ちや思考,④その看護場面の中での行動で,良かったと思った,または問題だと思ったこととその理由,⑤その看護場面での判断や行動の根拠となる知識や経験,⑥再び同じような場面に遭遇した場合の行動と新たに習得する必要がある知識や技術,⑦この場面を振り返って気づいた自分自身の強み,弱みの質問項目から構成するリフレクティブ・ジャーナル(以下RJとする)に記述し自己リフレクションを行った後,RJをプリセプターに提出し,そのRJを基にプリセプターがリフレクション支援を行った.

(3)毎回のリフレクション支援1か月後にプリセプターの集合研修を開催した.集合研修は,リフレクション支援の情報交換やRJ記載例をもとに問いかけのワークを行うなどリフレクション支援のトレーニングも兼ねた.教育担当者が割り振った4~5人のメンバーで,リフレクション支援を行った感想や疑問について話し合い,模擬事例を用いてどのような問いかけをするかの検討を行った.3回目以降はリフレクション支援体験発表も取り入れた.

6. プログラムの評価

1) データ収集

プリセプターのリフレクション支援に対する自己評価質問紙は,前述した研究者の先行研究の結果から,①リフレクション支援スキル20項目と②の支援態度に関する10項目の計30項目で構成した.回答は「全くそうでない」から「常にそうである」の4段階のリッカート尺度とした.質問項目の妥当性を確保するために研究者間で検討し,教育担当者には質問の意図が理解できるか確認してもらった.

プリセプターの一年間の変化を分析するために,自己評価質問紙は各回のリフレクション支援終了後の集合研修時に配布し,無記名で記入してもらい,回収は郵送法と施設での留め置き法の2通りを自由選択とした.

新人とプリセプターの双方にリフレクション支援場面の観察への依頼文を配布し,両方から同意書が得られたのは2組であった.そこで,このペアのリフレクション支援場面に完全な観察者として参加し,会話内容の録音を行った.なお,対象者の参加観察にあたっては,自然な対話ができるように事前に訪問して研究の説明を行った.

2) データの分析方法

リフレクション支援終了後各回の自己評価質問紙による評価の分析は,Kruskal-Wallis検定を用い,有意差の見られた質問項目はMann-WhitneyのU検定を行った.解析には,SPSS for Windows Ver. 23を用い,有意水準は5%未満とした.

参加観察したリフレクション支援場面については逐語録を作成し,プリセプターと新人の発言量をText Mining Studio 5.1(以下TMS)を用いて数量的に分析した.発言量の変化は,句点での区切りを一文とし,その文字数である平均文長と,語りの全ての単語をカウントした延べ単語数で比較した.

本プログラムでは,集合研修に効果的な問いかけを習得するワークを取り入れた.そこで,参加観察した各回のリフレクション支援場面でのプリセプターの問いかけを抽出し,「確認型」,「引き出し型」,「追及型」に分類し,割合を比較した.問いかけの抽出と分類は信憑性を高めるために2人の研究者で意見が一致するまで検討した.

7. 倫理的配慮

活水女子大学倫理審査委員会(調査・研究番号1056)と熊本大学大学院疫学・一般研究倫理審査委員会(倫理第781号),対象施設の臨床研究倫理委員会の倫理審査の承認を受けて実施した.

対象者には研究の主旨とともに自由意思の尊重,随時参加拒否・撤回ができることと研究不参加の場合に業務上の不利益が生じないこと,匿名性,データ管理と研究終了後の電子・音声データの消去等個人情報の管理について,資料を用いて口頭で説明した.

リフレクション場面の参加観察の対象者は募集後に同意書の郵送によって決定し,個人の自由意思を尊重した.

Ⅴ. 結果

1. 対象者の概要

プリセプターの年齢の平均±標準偏差は25.7 ± 2.90歳であった.臨床経験年数は3~10年目であり,臨床経験年数の平均±標準偏差は2.8 ± 1.2年であった.プリセプターの経験回数は1回目が60名,2回目14名,3回目2名であった.基礎教育は大学51名(67.1%),養成所(3年課程)14名(18.4%),養成所(2年課程)9名(11.9%),5年一貫校2名(2.6%)であった.

新人の年齢の平均±標準偏差は22.9 ± 2.7歳であった.基礎教育は大学49名(64.5%),養成所(3年課程)12名(15.8%),養成所(2年課程)8名(10.5%),5年一貫校7名(9.2%)であった.

2. プリセプターの自己評価

自己評価質問紙の回収率は,1回目が22.4%,2回目が73.7%,3回目が48.7%,4回目が35.5%であった.

各リフレクションのプリセプターの自己評価の比較として,リフレクション支援スキルについては,「リフレクション前にジャーナルを読んで,どのような問いかけをするのか考えた(P = .038)」,「問いかけによって新人看護師の気づきを促すことができた(P = .003)」など20項目中14項目で有意差があった(表1).有意差のあった14項目のうち「新人看護師の発言を待つことができた」については,1回目の得点の中央値(範囲)は3(1~4)点であったが3・4回目は3(2~4)点と有意に高くなり,他の項目も3・4回目の方が1・2回目より有意に高くなった項目が多かった(P = .005~022).

表1 リフレクション支援スキルについての自己評価の各回比較
質問項目 1回目中央値(範囲) 2回目中央値(範囲) 3回目中央値(範囲) 4回目中央値(範囲) Kruskal Wallis検定 Mann Whitney検定
リフレクション前にジャーナルを読んで,対話の前に状況を十分に把握した 3(2–4) 3(1–4) 3(1–4) 4(1–4) P = .001** 1回目-4回目:P = .013*
2回目-3回目:P = .017*
2回目-4回目:P = .000***
リフレクション前にジャーナルを読んで,どのような問いかけをするのか考えた 3(1–4) 3(1–4) 3(1–4) 3(1–4) P = .038* 1回目-3回目:P = .044*
1回目-4回目:P = .007**
2回目-4回目:P = .042*
リフレクションの場所は個室を準備した 4(2–4) 4(1–4) 4(2–4) 4(1–4) P = .444
リフレクションの開始時間と所要時間を配慮した 4(2–4) 3(1–4) 3(1–4) 3(1–4) P = .305
リフレクションの目的を新人看護師に必ず確認した 2(1–4) 2.5(1–4) 2(1–4) 2(1–3) P = .252
新人看護師の表情や声のトーンなど最後まで関心を寄せていた 2(2–4) 3(1–4) 3(2–4) 3(2–4) P = .232
新人看護師の発言を待つことができた 3(1–4) 3(2–4) 3(2–4) 3(2–4) P = .004** 1回目-3回目:P = .022*
1回目-4回目:P = .010*
2回目-3回目:P = .018*
2回目-4回目:P = .005**
問いかけによって新人看護師の気づきを促すことができた 2(1–3) 2(2–4) 3(2–4) 3(1–4) P = .003** 1回目-3回目:P = .001**
1回目-4回目:P = .029*
新人看護師が本音を話せるように雰囲気作りに努めた 3(2–3) 3(2–4) 3(2–4) 3(2–4) P = .006** 1回目-3回目:P = .010*
1回目-4回目:P = .001**
2回目-4回目:P = .024*
新人看護師の発言は一切否定しなかった 3(2–4) 3(2–4) 3(2–4) 4(1–4) P = .033* 1回目-4回目:P = .003**
2回目-4回目:P = .034*
新人看護師の様子で気づきの引き出し方を変えた 2(2–3) 2(1–4) 2(1–3) 3(1–4) P = .029* 1回目-3回目:P = .003**
1回目-4回目:P = .020*
2回目-4回目:P = .017*
3回目-4回目:P = .021*
新人看護師の持っている感情の表出を促した 2(2–4) 3(2–4) 3(2–4) 3(2–4) P = .002* 1回目-2回目:P = .018*
1回目-3回目:P = .034*
1回目-4回目:P = .000***
2回目-4回目:P = .021*
3回目-4回目:P = .008**
新人看護師が体験の真実をそのまま話せているか関心を寄せた 3(2–4) 3(2–4) 3(2–4) 3(2–4) P = .033* 1回目-4回目:P = .004**
2回目-4回目:P = .049*
3回目-4回目:P = .029*
新人看護師が語る体験を整理できるように発言を支援した 3(2–4) 3(2–4) 3(2–4) 3(2–4) P = .009** 1回目-4回目:P = .001**
2回目-4回目:P = .006**
新人看護師が発言に困っているときは表現を変えたり,自分の体験談も提供した 3(2–4) 3(2–4) 3(2–4) 3(2–4) P = .015* 2回目-3回目:P = .005**
2回目-4回目:P = .024*
新人看護師の気づきやできたことについては承認した 2(2–4) 3(1–4) 3(2–4) 3(2–4) P = .348
リフレクションの体験から話が脱線しないようにした 3(2–4) 2(1–4) 3(2–4) 3(2–4) P = .040* 2回目-3回目:P = .033*
2回目-4回目:P = .019*
新人看護師がリフレクションの目的を達成できたのかを最後に確認した 3(2–4) 2(1–4) 3(1–4) 3(1–4) P = .004** 2回目-3回目:P = .013*
2回目-4回目:P = .001**
新人看護師がリフレクションの目的を達成できなかったときは最後に自分の考えを提案した 2(2–3) 3(1–4) 3(2–4) 3(2–4) P = .000*** 1回目-3回目:P = .004**
1回目-4回目:P = .000***
2回目-3回目:P = .010*
2回目-4回目:P = .000***
ジャーナルの記述とプリセプターとのリフレクションが負担ではないか新人看護師に確認した 2(1–3) 2(1–4) 2(1–4) 3(1–4) P = .092

*:P < .05,**:P < .01,***:P < .001

また,リフレクションの支援態度については,10項目中 3項目で有意差があった.「リフレクションをすることによって,新人をよく見るようになった」1回目の得点の中央値(範囲)は,2(1~3)点であったが,2回目以降は3(1~4)点となり,「新人の成長を支援することに自信がついた」1回目2(1~2)点であったが,2・3回目は2(1~3)点,4回目は2(1~4)点となり,「自己の傾向に気づけるようになった」2回目2(1~4)点であったが3回目以降は3(1~4)点と,有意に高くなった(表2).

表2 リフレクション支援態度についての自己評価の各回比較
質問項目 1回目中央値(範囲) 2回目中央値(範囲) 3回目中央値(範囲) 4回目中央値(範囲) Kruskal Wallis検定 Mann Whitney検定
自己の傾向に気づけるようになった 2(2–4) 2(1–4) 3(1–4) 3(1–4) P = .042* 2回目-3回目:P = .037*
2回目-4回目:P = .019*
新人が理解できるようになった 2(2–3) 3(1–4) 3(2–4) 3(1–4) P = .051
リフレクションをすることによって,新人をよく見るようになった 2(1–3) 3(1–4) 3(1–4) 3(2–4) P = .013* 1回目-2回目:P = .035*
1回目-3回目:P = .008**
1回目-4回目:P = .006**
リフレクションの内容を日頃の新人の指導に活かせるようになった 2(1–4) 2(1–3) 3(1–4) 3(2–4) P = .068
リフレクションの内容をスタッフの指導の連携に活かせるようになった 2(1–3) 2(1–4) 2(1–3) 3(1–4) P = .076
リフレクションの内容によっては事後学習をして知識の確認を行った 2(1–3) 2(1–4) 2(1–3) 2(1–3) P = .074
リフレクション後に新人と行動を一緒にするようになった 2(1–3) 2(1–4) 2(1–3) 2(1–4) P = .839
新人の成長を支援することに自信がついた 2(1–2) 2(1–3) 2(1–3) 2(1–4) P = .009** 1回目-2回目:P = .008**
1回目-3回目:P = .008**
1回目-4回目:P = .002**
新人の成長を支援することが楽しくなった 2(1–3) 2(1–4) 2(1–4) 2(1–4) P = .275
自分でも臨床体験をリフレクションするようになった 2(1–3) 2(1–3) 2(1–4) 2(1–3) P = .868

*:P < .05,**:P < .01,***:P < .001

3. プリセプターのリフレクション支援の実際

プリセプターのリフレクション支援場面への参加観察の同意が得られたのは2組であった.プリセプターAの臨床経験年数は10年目で,プリセプターBは3年目であった.

表3,4は2組のリフレクション支援における新人とプリセプターの語りのTMS分析で得られた基本情報である.プリセプターAの延べ単語数は毎回,新人Aより多かったが,回数を重ねると新人Aの延べ単語数が増加した(表3).

表3 プリセプターAと新人Aのリフレクションの基本情報
項目 1回目 2回目 3回目 4回目
総数 プリセプターA 新人A 総数 プリセプターA 新人A 総数 プリセプターA 新人A 総数 プリセプターA 新人A
総行数 51 26 25 83 39 44 100 47 53 115 57 58
平均文長 17 20 34.7 19.5 26.3 37.3 23.7 26.3 58.7 23.3 24.4 63.3
延べ単語数 1,113 803 404 1,186 821 448 2,066 1,437 778 2,220 1,457 1,121
単語種別数 407 336 189 411 325 209 567 442 309 663 456 416

毎回,プリセプターAの延べ単語数が新人を上回っていたのは,リフレクション終了時に臨床体験のまとめと今後に向けたアドバイスを1回102~295の単語数の長さで行っていたことが影響していた.

一方,プリセプターBの問いかけは,第1回目からコメントがないシンプルな問いかけであり,リフレクションの回数による単語数の変化は見られなかった.そのため第1回目から新人Bの方の延べ単語数がプリセプターBよりも多く,4回とも新人Bが上回っていた(表4).

表4 プリセプターBと新人Bのリフレクションの基本情報
項目 1回目 2回目 3回目 4回目
総数 プリセプターB 新人B 総数 プリセプターB 新人B 総数 プリセプターB 新人B 総数 プリセプターB 新人B
総行数 75 38 37 81 37 44 72 32 40 73 36 37
平均文長 17.8 17.4 30.5 15.4 15.2 60.3 45.4 29.5 58.3 19.1 16.4 37.7
延べ単語数 1,218 466 869 903 419 595 1,176 355 821 1,181 422 836
単語種別数 425 201 337 335 220 227 385 186 303 396 164 334

表5はプリセプターの問いかけの変化である.プリセプターAは,毎回「確認型」の問いかけが20~37回(62.5~75.0%)と多かった.「引き出し型」は支援回数を重ねるにつれて徐々に増えて2~8回(6.3~16.7%)となった.プリセプターAの引き出し型の問いかけは,1回目は,「今だったらどうしようか?」,2回目は「ほかには何か自分の傾向としてこの場面であるかな?」と振り返った段階での思いや考えたことを尋ねていた.しかし,3回目では,「(この時に)ほかに何か自分ができることをあるかなと考えられたかな?」「何か先輩にたったこれだけとか,何か言いづらかったのか,どっちだろうと思って?」,4回目では「例えば,どういうことをAさんなりにアセスメントとして退院指導を進めていこうと,そもそも言われる前,多分計画していたと思うけど,どうしようと思っていた?」「そのとき,ああどうしようって考えた?」といった,1・2回目では見られなかったリフレクション場面でのその時の思いや考えを引き出す問いかけを行っていた.そしてこのような問いかけは3回目よりも4回目の方が多かった.

表5 プリセプターの問いかけの変化
1回目 2回目 3回目 4回目
プリセプターA 確認型 20 62.5% 27 75.0% 35 63.6% 37 72.5%
引き出し型 2 6.3% 6 16.7% 8 14.6% 8 15.7%
追及型 10 31.2% 3 8.3% 12 21.8% 6 11.8%
合計 32 100.0% 36 100.0% 55 100.0% 51 100.0%
プリセプターB 確認型 14 77.8% 22 78.6% 14 70.0% 15 68.2%
引き出し型 4 22.2% 6 21.4% 6 30.0% 7 31.8%
追及型 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0%
合計 18 100.0% 28 100.0% 20 100.0% 22 100.0%

プリセプターBの問いかけも確認型が14~22回(68.2~78.6%)と毎回多かったが,追及型は全く見られなかった.プリセプターBも引き出し型が徐々に増えて4~7回(21.4~31.8%)であった.プリセプターBの1回目と2回目のリフレクション支援における引き出し型の問いかけは,「そのときはどういうふうに思った?」「ほかに先輩看護師がなかなかいなかったと思いますが,もしいて,今だったらどういうふうにすると思いますか?」とリフレクションのその場面とリフレクションをしている今の両方の思いに着目した問いかけをしていた.そして,3回目では「何回も説明して,そしてその度に『分かりました』と言われても,している患者さんの気持ちというか思いはBさん的にどう想像する?」「もしBさんが患者さんの立場だったら,何度も倒れてどうする?」,4回目では「(患者が)何かその動きたくない理由が何かあったとか,やっぱりきついだけかな?」「(患者は)動きたくないというか,(患者は)どうなりたいというのはないのかな?」といった患者の立場で考えるような問いかけを行っており,多角的な見方の振り返りを促していた.

Ⅵ. 考察

臨床体験のリフレクションの効果的支援を目指したプリセプターの育成プログラムを作成し,プリセプターによる新人看護師のリフレクションの支援を継続的に行った.今回,プリセプターのリフレクション支援場面の参加観察の同意が得られた2組ともに,リフレクション支援場面でのプリセプターの問いかけは,毎回「確認型」が多かった.リフレクション支援は新人がRJの記録内容に沿って体験したことや気づき・発見を最初に説明することから始まる.プリセプターの「確認型」の問いかけは,両者にとってRJの足りない情報を追加し,思考の整理,発言へのウォーミングアップといった役割がある.田村・池西(2014)はリフレクション学習における対話は,共有可能なテーマのもとで,聴き手と話し手で行われる創造的なコミュニケーション行為,すなわち,相手をよく知ることができるような意味のあるコミュニケーション行為であると述べている.プリセプターの自己評価では,2回目以降の方が 1回目のリフレクション支援よりも「リフレクションをすることによって,新人をよく見るようになった」,「新人の成長を支援することに自信がついた」の項目が有意に高くなった(P < .05).武藤・前田(2016)は,新人への複数回のリフレクション支援によって,新人看護職と支援者のお互いの理解が深まり,新人看護職個々を尊重した支援となり,単回のリフレクションよりも新人の気づきが促進されていたことを報告している.このことから,プリセプターが,新人の状況や思考を確認しながらリフレクションの支援を繰り返すことによって,新人への理解が深まり,ひいては,プリセプターと新人の良好な関係構築を促すと考えられる.

集合研修では,「リフレクション支援の目標は問題解決ではなく,新人の発言を引き出すこと」を繰り返し説明し,リフレクション支援のイメージ化を促進するために模擬事例をもとにした問いかけのワークを行った.そのためか,プリセプターの自己評価で,2回目までより3回目以降の方が,「リフレクション支援の前にRJを読んで,対話の内容や,問いかけを考えるようになった」ことが示された(P < .05).それを裏付けるように,参加観察したプリセプターAは,3回目から記述された場面でのその時の新人の考えや思いを引き出すような問いかけに変化していた.また,プリセプターBは,3・4回目では2回目までに見られなかった患者の立場で考えるような問いかけを行うなど.参加観察したプリセプター両者に問いかけの変化が見られた.

Schein(2013)は「問いかける」行為は相手に対して興味や好奇心を抱くという態度から導かれるものであると述べている.しかし,問いかけによっては,威圧感を与え,本音を引き出せない場合がある.そこで,集合研修ではリフレクション支援体験の発表を取り入れたり,引き出し型の問いかけの多かった事例を提示し,問いかけについての検討を行った.このように,繰り返し問いかけの検討やプリセプター自身のリフレクション支援体験の振り返りを行った結果,3回目以降の参加観察場面で得られた問いかけの変化や,プリセプターの自己評価の「新人看護師が本音を話せるように雰囲気作りに努めた」,「新人看護師の様子で気づきの引き出し方を変えた」,「新人看護師が体験の真実をそのまま話せているか関心を寄せた」などの変化につながったと考える.

今回,対象者となったプリセプターは新人の思考や発言を促すという根気のいる関わりを初めて体験し,1年という期間で試行錯誤しながら,リフレクションの概念を理解することと支援スキルを習得することに取り組んだ.小林(1986)は,自分が自分に気づくためには他人が必要であるとし,相互に信頼し合う関係から新しいものの見方が生まれ,それまでとは違った目でものごとの意味を発見すると述べている.プリセプターの自己評価で,3回目以降はそれまでよりも「自己の傾向に気づけるようになった」が有意に高くなっていた.これは,プリセプターが新人の臨床体験のリフレクションを支援することによって,自分とも向き合うことになり,自己への気づきや批判的分析のトレーニングにつながったことが考えられる.このことから,繰り返しリフレクション支援を行うことは新人の成長だけでなく,プリセプターの成長にもつながるといえる.

一方,プリセプターの変化として,プリセプター自身の臨床体験のリフレクションを行うところまでは至らなかった.Duke & Appleton(2000)は,クリティカル・リフレクションに必要なより高レベルのスキルは発達するのに困難を要し,更に長い時間がかかることを明らかにしている.今回の結果からも,リフレクション能力やリフレクション支援の力を獲得していくためには,単回ではなく,繰り返し継続して行っていくことが必要だと考える.

Ⅶ. 研究の限界と今後の課題

今回,プリセプターを対象とした年間4回のプログラムの評価として自己評価質問紙を用いたが,回収率が低かったことが限界の一つである.その原因として各回のリフレクション支援後の集合研修終了時に自己評価質問紙を配布し,郵送法または留置法による回収を行ったことが影響したと考える.また,リフレクション支援場面の分析が2組だけであったことや,今回の研究では,自ら作成した質問紙による変化を指標としたが,信頼性・妥当性の検討まで及ばなかったことが限界として挙げられる.しかしながら,自己評価質問紙の結果とリフレクション支援場面の分析の結果の両方ともに,1・2回目よりも3・4回目の方がプリセプターのリフレクション支援のスキルが向上していていたことから,今回作成したプログラムは,プリセプターのリフレクション支援スキルの育成に有効である可能性が示された.

今後は,本プログラムの効果について対象者を増やし,新人側の評価も加えながら検討していく予定である.その中で,質問紙の信頼性・妥当性について検討していきたい.また,プリセプターが安心してリフレクション支援をできるために,時間の確保や支援前後の相談体制など職場のバックアップや自由に発言できる部署の環境の醸成と組織への浸透を図れるプログラムについても検討が必要だと考える.

Ⅷ. 結論

新人看護師に対する継続的な臨床体験のリフレクションの効果的支援を目指したプログラムを作成した結果,プリセプターのリフレクション支援の変化として,以下の知見が得られた.

1.プリセプターの自己評価では,リフレクション支援スキルである「状況の把握」「発言を待つ」など20項目中14項目,プリセプターの支援態度である「自己の傾向に気づく」「新人をよく見る」など3項目において,3,4回目が有意に高くなった.

2.リフレクション支援を複数回実施することによって,プリセプターAは「追及型」から「確認型」が増え,プリセプターBは「確認型」から「引き出し型」が増えた.それぞれ新人の考えや思いを引き出すような問いかけができるように変化していた.

以上の結果から,今回作成したプログラムは,新人看護師の臨床体験のリフレクション支援のためのプリセプターの支援スキルの育成に有効であることが示唆された.

謝辞:本研究にご協力いただきましたA病院の看護部長様,並びにプログラムに参加いただきました看護師の皆様に深く感謝いたします.なお,本研究は2014年度活水女子大学特別研究費,平成23~26年度科学研究費補助金挑戦的萌芽研究(課題番号23660010,研究代表者前田ひとみ)を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MMは研究の着想,デザイン,データの入手,分析,草稿の作成に貢献;HMは研究デザイン,データ分析,原稿への示唆,および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
  •  青木 由美恵(2003):リフレクションの実際―Gibbsのリフレクティブ・サイクルを活用して―,Qual. Nur.,9(2), 51–61.
  •  青木 由美恵(2014):看護師における対話的グループ・リフレクションの認識,関東学院大看会誌,1(1), 57–64.
  •  Atkins  S.,  Murphy  C. (1993): Reflection: A review of the literature, J. Adv. Nurs., 18(8), 1188–1192.
  • Brockbank B., McGill I. (2007): Facilitating reflective learning in higher education (2nd ed.), Open University Press, London, England.
  • Bulman C., Schutz S.編(2013)/田村由美,池西悦子,津田紀子監訳(2014):看護における反省的実践原著(第5版),看護の科学社,東京.
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  •  Duke  S.,  Appleton  J. (2000): The use of reflection in a palliative care program: a quantitative study of the development of reflective skills over an academic year, J. Adv. Nurs., 32(6), 1557–1568.
  • Gibbs G. (1988): Learning by doing: A guide to teaching and learning methods. Further Educational Unit, Oxford Polytechnic, Oxford.
  • 小林純一(1986):創造的に生きる 人格的成長への期待,金子書房,東京.
  •  武藤 雅子, 前田 ひとみ(2016):新人看護師に対する複数回の臨床体験のリフレクション支援の効果,日看科会誌,36, 85–92.
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  •  永井 則子(2013b):実地指導者へのリフレクションの進め方~Part 2,看護,65(12), 88–93.
  •  中村 美保子, 東 サトエ, 津田 紀子(2014):新人看護師のリフレクションが専門職者としての成長に与える意味についての研究,南九州看研誌,12(1), 21–32.
  •  奥田 玲子(2012):対話リフレクションによる臨床看護師の学びの構成要素と学びを促進するファシリテーターのかかわり,国立看研会誌,8(1), 2–13.
  •  桜井 美貴, 脇田 美穂子, 金田 有里子,他(2012):部署リフレクションの推進の評価,旭赤医誌,26, 7–12.
  • Schein E. H. (2013)/金井壽宏(2015):問いかける技術 確かな人間関係と優れた組織をつくる,英治出版株式会社,東京.
  • Schön D. (1987): Educating the reflective practitioner toward new design for teaching and learning in the professions, Jossey-Bass, San Francisco.
  • 田村由美,池西悦子(2014):看護の教育・実践にいかすリフレクション 豊かな看護を拓く鍵,南江堂,東京.
 
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