2018 Volume 38 Pages 219-228
目的:慢性心不全患者への遠隔看護介入モデルが入院リスクの軽減,QOLの維持・向上に有用であるかを検証する.
方法:入院を繰り返す65歳以上の慢性心不全患者11名にビデオ通話による看護介入を1年間実践し,介入前・中・後の入院回数と入院期間,体重,血圧,BNP値と,介入前後のQOLの比較・検討を行う.
結果:介入1回あたりの平均通話時間は11.5±3.6分で,介入前の入院回数は全員が2~5回/年だったが,介入中は9名が入院することなく,そのうち5名は介入後の1年間も入院しなかった.BNP値等の数値に目立つ変化はなく,介入後のSF-36®による心理的側面の得点が有意に高かった.
考察:患者に合わせた短時間の集約的な介入の継続によってQOLを改善し入院を回避できたという結果から,遠隔看護介入モデルの有用性が確認できた.介入終了後も入院回避しており,在宅患者のセルフモニタリング能力の強化に繋がることが示唆された.
急速な高齢化に伴い慢性疾患患者数は年々増大しており,高血圧や心疾患患者の増加に伴う循環器疾患における疾病構造の変化は,心不全患者増加の大きな要因となっており(眞茅・筒井,2015),2030年には130万人に達すると推計されている(Okura et al., 2008).このような中,心不全患者の増加は,臨床上の問題に加えて,医療負担や医療経済も含んだ深刻な社会問題となってきている.厚生労働省(2015)は,2025年以降,国民の医療や介護の需要がさらに増加することが見込まれるため,「2025年を目途に,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進」している.そして平成30年度の診療報酬改定では,在宅患者を支えるためにスマートフォンやパソコンを用いて診察を行う遠隔診療の保険対象を拡大し,対面診療と適切に組み合わせ診察や日常生活の指導などを実施した場合の報酬が新設されることになっている(厚生労働省,2017).
慢性心不全治療ガイドライン(循環器関連学会合同研究班,2010)では,慢性心不全の治療における一般管理として,「患者の自己管理が重要な役割を果たし,自己管理能力を向上させることにより,予後は改善する.」とし,「医療従事者は患者の自己管理が適切に行われているかを評価し,患者および家族に対する教育,相談支援により患者の自己管理能力の向上に努める」ことが重要とされている.しかし,外来患者における毎日の体重測定や塩分制限の遵守率は約50%との報告(Kato et al., 2009)からもわかるように,自宅で自己管理を行い,生活を維持していくことは難しい状況にある.実際,慢性心不全患者の再入院率は高く,80歳以上の高齢者では4割以上との報告もある(Hamaguchi et al., 2011).このような状況を改善するために医療従事者は,患者の自己管理能力向上につながるサポートのための具体的な実践を導入する必要がある.しかし,多忙を極める現在の医療現場において,これを実施するためには多くの患者に対し個別に対応するための労力や時間といった物理的側面で限界がある.
そこで本研究では,短時間で効率よく,距離に関係なく,多くの患者に個別に対応することを可能にする遠隔手段を活用し,患者のセルフモニタリングをサポートする遠隔看護介入モデルを提案する.セルフモニタリングは,患者の自己管理能力の実現において重要な役割を担っており,「自らの健康や病気を適切に管理するために,病気の症状や身体感覚を定期的に測定したり,記録したり,観察して認識すること」(Wilde & Garvin, 2007)と定義されている.本研究では,Wilde & Garvin(2007)および服部ら(2010)による心不全患者のセルフモニタリングの概念スキームに立脚した高齢心不全患者への看護介入モデルを構成する.本モデルの特徴は,セルフモニタリングの概念スキームでの重要な属性である「測定」「自覚」「解釈」に対して,心不全症状の有無や程度,心不全をコントロールしながら生活できているかを看護介入者が「測定の確認」を行い,患者の「自覚を促す」ようにし,確認した情報について,患者の「解釈を助ける」ことである.すなわち,患者はモニタリングをすべて1人で行うのではなく,遠隔による看護介入者からのサポートを受け,看護介入者と共にモニタリングを行っていく.
慢性心不全患者は,心不全症状や重症度,心不全に対する理解度や健康管理に対する意識や取り組みの姿勢が1人1人異なっている.ここでの遠隔看護介入モデルは,患者1人1人の状況に合わせた個別のサポートを行いながら,徐々に介入度合いを減らし,最終的には患者自身でセルフモニタリングができるようになることを目指した実践的なスキームの提案となっている.
本研究の目的は,ビデオ通話を利用した遠隔看護による看護介入を実践し,入院リスクの軽減,QOLの維持・向上に有用であるかを検証することである.
本研究は,比較対照群を持たない介入前後で比較を行う1群事前事後デザインである.構成した「慢性心不全患者への遠隔看護介入モデル」の具体的な実施方法として,遠隔手段としてスマートフォンによるビデオ通話を使用し,看護介入を行う.在宅で生活する慢性心不全患者に遠隔看護介入を1年間実施し,実践的な検証を行う.
2. 研究対象者入退院を繰り返している65歳以上の慢性心不全患者とした.具体的には,慢性心不全と診断され,過去に心不全による入院の経験があり,自宅退院する65歳以上の者で,外来を定期的に受診し,スマートフォンの操作ができる,あるいはやってみようという意思がある者とした.対象者の選定については,循環器内科専門医および,慢性疾患看護専門看護師または慢性心不全看護認定看護師が対応している入院施設を有する病院に対して研究協力の依頼を行った.協力が得られた3病院の看護管理者より上記の条件を満たす候補者15名を紹介してもらい,その中から本研究への参加の同意が得られた11名を対象とした.
なお,サンプルサイズについては,「3-2)調査内容」の節で後述するSF36®質問用紙を用いた遠隔看護介入前後のQOL評価の平均値の差を検定することを考慮して,検定力分析ソフトG*Power 3.1.9.2(http://www.gpower.hhu.de/)によって算出した.その際,対応のある2群比較のノンパラメトリックなWilcoxonの符号付順位検定において効果量1.0,有意水準0.05,検出力0.8とした結果,サンプル数として10が得られたので,脱落者を考慮し15名とした.
3. 看護介入方法 1) 遠隔看護介入方法構成した遠隔看護介入モデルに基づき12か月間の遠隔看護による看護介入を行った.遠隔手段としてスマートフォンのビデオ通話機能を使用し,退院から1か月間は週に1回(1か月間に4回),退院後2~12か月間は1か月に1回(1年間で計15回)の頻度で,定期的に看護介入者より連絡を行い,健康状態を確認し看護相談および指導を行った.介入頻度については,再入院率が最も高い退院後1か月間を週1回,その後を月1回の介入を行うこととした.
健康状態の確認では,慢性心不全手帳(佐藤,2013)および協力施設の患者指導用パンフレットの内容を参考に設定した.具体的には,身体症状,日常生活行動,服薬や体調管理の状況,生活上困っている点等について,ビデオ通話を使用し,口頭および映像により確認を行った.遠隔看護介入時に急激な体重増加や呼吸困難感など心不全増悪症状がみられる場合には,状態を確認し,受診の緊急性について判断することとした.看護介入者は,セルフモニタリングの「測定の確認」や「自覚を促す」ことを意識した関わりを毎回行い,「解釈を助ける」ことで,セルフモニタリングを自ら行うことができるようにした.看護介入者は,循環器内科病棟での臨床経験が10年以上ある看護師1名である.
ビデオ通話には,iPhone 5s 16GおよびiPhone 5sに標準装備されているアプリケーションソフトFace Timeを使用した.遠隔看護に使用するスマートフォンについては研究者から対象者全員に貸与し,通信費については研究者が負担した.遠隔看護介入の実施期間は2014年3月から2016年5月である.
2) 調査内容 (1) 基本的属性年齢,性別,心不全の原因疾患とともに,遠隔看護介入前の心不全のコントロール状態を把握するため,介入前直近の体重,血圧,脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide,以下BNP)値,介入前1年間の入院回数および1回当たりの入院期間について確認を行った.また,心不全の重症度の確認のために,NYHA(New York Heart Association)分類を使用した.そのほか,貸与するスマートフォンの説明内容の追加や補足が必要であるかを判断するため,介入前のスマートフォンの使用経験について尋ねた.
(2) 遠隔看護介入期間中の取得データ収集するデータは以下のとおりである.①心不全のコントロール状況を把握するための生理的指標:体重,血圧,BNP値,②身体的症状:浮腫や尿量の変化,水分・塩分・食事の摂取状況,息切れ(呼吸苦)や咳嗽の有無などの呼吸状態,不眠や倦怠感の有無,③日常生活行動の状況,④服薬や体調管理の状況,⑤生活上困っている点や心配事など遠隔看護介入時のデータ:1回あたりの通話時間,患者の発言内容,表情,声の調子.これらの指標が安定していることで,再入院に至らず在宅で過ごすことができると考える.
このうち,体重,血圧については最低でも週1回は測定するよう依頼し,対象者の自覚を促すために,遠隔看護介入時に毎回測定値の推移の確認を行い,心不全症状の増悪の兆候が見られないか確認を行った.BNP値は外来で測定する度に確認するようにした.測定に使用する血圧計,体重計については研究者から対象者全員に貸与した.
(3) 遠隔看護介入期間1年間および介入終了後1年間の入院状況遠隔看護介入による入院リスク軽減の効果を検証するため,介入前1年間,介入期間中1年間,介入終了後1年間の入院回数および1回あたりの入院期間を確認した.
(4) 遠隔看護介入前後におけるQOLの状況QOLの評価には,SF-36® v2(福原・鈴鴨,2011)を使用した.著作権者の承諾を得ており,使用登録済みである.SF-36® v2は,健康関連QOLを測定するために開発された36問で構成された質問紙である.身体機能,日常役割機能(身体),体の痛み,全体的健康感,活力,社会生活機能,日常役割機能(精神),心の健康の8つの健康概念のQOLが,SF-36®のスコアリング方法に基づき点数の逆転化や再換算により算出できる.得点が高いほど各機能や健康度が高くQOLが良好であることを示し,信頼性・妥当性が確認されている汎用的な尺度である.この質問紙を使用し,遠隔看護介入直前および介入終了後に,面談式にてデータ収集を行った.
4. 分析方法以下の3点について比較,検討を行う.①遠隔看護介入前,介入中,介入後1年間の入院回数と1回当たりの入院期間,②遠隔看護介入期間1年間の介入1回あたりの通話時間の変化,③遠隔看護介入前,介入中期,介入終了前の体重,血圧,BNP値,心不全症状の変化,④介入者の関わり.
QOLの状況については,遠隔看護介入前後の比較のため,SF-36®の8つの下位尺度と各設問の平均得点について,Wilcoxonの符号付順位検定を行った.分析には,統計パッケージIBM SPSS. ver. 20.0を使用し,有意水準は5%とした.
以上の結果から,入院リスクの軽減やQOLの維持・向上に,遠隔看護介入が有用であるかを検証した.
5. 倫理的配慮対象施設の看護管理者と研究対象者に対して,研究の趣旨,研究協力への自由意思の尊重,調査に協力できない場合でも不利益のないこと,匿名性の保持,プライバシーの保護等について文書および口頭で説明し,署名をもって同意を得た.なお,研究は兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科倫理委員会および対象施設における倫理委員会の承認を得てから実施した.
対象者11名の基本的属性について表1に示す.平均年齢は72.7 ± 6.6歳,性別は男性7名,女性4名であった.心不全の原因疾患は拡張型心筋症が5名で最も多かった.NYHA分類はII M度,III度が各4名で,II S度が3名であった.遠隔看護介入直前のBNP値は75.6~1,866.5 pg/mlと個人差が大きく,一般に,「治療が必要となる心不全の可能性が低い」とされる40 pg/ml以下を超えている状況であった.遠隔看護介入前1年間の平均入院回数は3.5 ± 1.0回で,1回当たりの平均入院期間は1.6 ± 0.7か月であった.
年齢(歳) | 性別 | 心不全の原因疾患 | NYHA分類 | 介入直前のBNP(pg/ml) | 介入前1年間の入院回数 | 1回当たりの入院期間 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
A氏 | 70 | 男性 | 心筋梗塞 | III度 | 930.7 | 4回 | 2~3か月 |
B氏 | 66 | 男性 | 拡張型心筋症 | II M度 | 367.0 | 4回 | 1~2か月 |
C氏 | 72 | 女性 | 拡張型心筋症 | II S度 | 199.3 | 3回 | 1~2か月 |
D氏 | 65 | 男性 | 拡張型心筋症 | II S度 | 75.6 | 3回 | 1か月 |
E氏 | 73 | 女性 | 三尖弁閉鎖不全症 | II S度 | 240.0 | 2回 | 1か月 |
F氏 | 84 | 女性 | 心筋梗塞 | III度 | 1,866.5 | 2回 | 1か月 |
G氏 | 65 | 女性 | 狭心症 | II M度 | 419.9 | 3回 | 1~2か月 |
H氏 | 75 | 男性 | 拡張型心筋症 | III度 | 495.0 | 3回 | 1~2か月 |
I氏 | 75 | 男性 | 拡張型心筋症 | II M度 | 469.9 | 5回 | 1~2か月 |
J氏 | 84 | 男性 | 弁膜症 | II S度 | 313.0 | 5回 | 1か月 |
K氏 | 71 | 男性 | 僧房弁狭窄症 | III度 | 463.5 | 4回 | 1か月 |
スマートフォンの使用経験は,11名全員がなかった.しかし,遠隔看護介入前に簡単な使用説明書を渡し,15分程度の操作説明および練習を行うことで,介入期間中,トラブルなく使用することができていた.
2. 入院状況遠隔看護介入前1年間,介入期間中1年間,介入終了後1年間の各入院状況は,表2に示すとおりである.以下,それらの結果について述べる.
介入前1年間 | 介入中1年間 | 介入後1年間 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
入院回数 | 1回入院当たりの入院期間 | 入院回数 | 1回入院当たりの入院期間 | 入院回数 | 1回入院当たりの入院期間 | |
A氏 | 4回 | 2~3か月 | 0回 | ― | ||
B氏 | 4回 | 1~2か月 | 0回 | ― | 0回 | ― |
C氏 | 3回 | 1~2か月 | 0回 | ― | 0回 | ― |
D氏 | 3回 | 1か月 | 0回 | ― | 0回 | ― |
E氏 | 2回 | 1か月 | 0回 | ― | 0回 | ― |
F氏 | 2回 | 1か月 | 0回 | ― | 0回 | ― |
G氏 | 3回 | 1~2か月 | 0回 | ― | 1回 | 15日間 |
H氏 | 3回 | 1~2か月 | 0回 | ― | 1回 | 23日間 |
I氏 | 5回 | 1~2か月 | 0回 | ― | 2回 | 10日間・18日間 |
J氏 | 5回 | 1か月 | 1回 | 3週間 | ||
K氏 | 4回 | 1か月 | 1回 | 3週間 |
遠隔看護介入前1年間は,対象者11名全員が2回以上入院していた.1年間の入院回数が5回の者が2名,4回の者が3名,3回の者が4名,2回の者が2名であった.また,その1回あたりの入院期間は,2~3か月が1名,1~2か月が5名,1か月が5名であった.
遠隔看護介入期間中1年間は,11名のうち,9名(A~I氏)は入院することなく経過した.残る2名については,J氏が遠隔看護介入7か月後に3週間,K氏が介入5か月後に3週間,心不全症状の増悪により入院した.
遠隔看護介入終了後1年間は,介入期間中に入院しなかった9名のうち5名が介入終了後も心不全増悪による入院はなく,在宅での生活を継続していた.残る4名のうち3名は介入終了後1年間に心不全増悪により入院した.そのうち2名が1回,1名が2回入院しており,残る1名(A氏)については,介入終了後2か月目に,食事中の気道閉塞により死亡したため追跡不可能であった.
また,遠隔看護介入期間中に入院となった2名については,1名(K氏)が退院後に介護老人保健施設へ入所したため,1名(J氏)は遠方への転居に伴い本人からの申し入れがあったため中断となった.
これらの結果から,遠隔看護介入前と比較して,介入期間中は全患者に対して,入院を未然に防ぐことができていた.介入終了後の1年間についても,入院回数は減少しており,入院期間も短縮していた.
3. 遠隔看護介入の実際中断者2名(J氏,K氏)を除き,遠隔看護介入期間中に入院しなかった9名の1年間の通話時間,体重・血圧,BNP値の結果について,以下に述べる.
1) 通話時間介入期間1年間全体(介入回数15回)の遠隔看護介入に要した1回あたりの平均通話時間は11.5 ± 3.6分であった.介入1か月目(介入回数4回)における平均通話時間は12.4 ± 4.5分であるのに対して,介入終了が近い11か月目と12か月目における平均通話時間は10.8 ± 3.1分であり,両者の間には減少傾向がみられる.
対象者別に見ると,介入期間1年間の各人の平均通話時間が最も短かった者(D氏)は7.7 ± 3.0分(最短通話時間は介入3か月目5分),最も長かった者(E氏)は19.7 ± 9.7分(最長通話時間は介入2か月目33分)であった.通話時間が長い場合の会話内容の傾向としては,心不全の症状管理を中心とする健康状態に関する内容が10分程度であるのに加えて,残りは現在の心境や家族に関する内容とともに,近況報告,地域の話題などが主であった.
また,受電状況については,基本的に患者と相談し日時を決めているため不在であることはほとんどなかった.
2) 体重・血圧体重と血圧については,患者の自覚を促すために,最低でも週1回測定してもらうよう依頼し,毎回の介入時に確認を行った.その結果,介入前は測定の必要性を認識しながらも測定できていなかった者も,「いつも聞かれるから,毎日忘れずに測るようになった」「メモもしている」など,看護介入者が介入時に毎回確認することで,患者は確実に測定や記録をするようになっていた.
測定値については,体重は,個人差が大きく,介入期間中に変動が見られた.介入前と介入終了前を比較すると,5名に4~22%の増加が見られ,4名に1~5%の減少が見られた.各介入時に,前回の介入時と比較して2 kg以上の体重増加が見られた場合には,血圧とともに,浮腫や呼吸状態の変化等の心不全症状増悪兆候の有無について,口頭および映像にて確認を行い,患者とともに体重増加の原因を探り,状況を解釈し,生活の改善点や注意すべき点について助言を行った.その結果,入院治療が必要となる短期間での急激な体重増加には至らなかった.
血圧についても個人差があり,収縮期が高い者で150 mmHg程度,低い者で90 mmHg程度,拡張期が高い者で90 mmHg程度,低い者で60 mmHg程度であった.各介入時に前回までの推移と比較して,収縮期・拡張期に20 mmHg以上の変動が見られた場合には,測定時の状況や血圧の変化に伴う自覚症状や随伴症状の有無について確認を行い,緊急性がないかを判断し,助言を行った.その結果,介入期間中に患者からの連絡や緊急受診に至る事例はなく,全員比較的安定して経過していた.
3) BNP値遠隔看護介入期間中に,外来で測定されたBNP値は,個人差が大きく,変動が見られた.介入前と介入終了前を比較して BNP値が改善していた者が7名で,残る2名(C氏,I氏)は悪化していた.BNP値が改善していた7名のうち1名(F氏)は,介入前は1,866.5 pg/mlと高値を示していたが,介入中期以降は200 pg/ml台で経過し,介入終了前には37.2 pg/mlで顕著な改善が見られた.悪化していた2名については,介入中期までは悪化が見られ,介入中期以降はやや改善の傾向が見られた.
4) 症状浮腫については,9名全員に介入期間中に見られることはなかった.尿量については,一時的に減少が見られる者もいたが,医師の指示通り利尿剤を服用し,自己にて対処を行い,尿量を維持できていた.水分・塩分・食事の摂取状況は,季節による変動は見られたが,全員が意識して摂取している様子や患者なりに工夫して摂取する様子が覗えた.呼吸状態については,呼吸困難感は見られず,息切れが退院時から続いているものもいた(B氏,H氏,I氏)が,明らかな増悪はなかった.睡眠状態は良好で,全員が不眠になることはなかった.倦怠感については,A氏に一時的に見られたが,自分で自覚して体を休めるなどの行動ができており,持続したり増強することはなかった.
5) 介入時のやりとりの状況看護介入者と患者は,介入前の研究依頼時に初めて対面し,その後はビデオ通話による関わりのみとなる.そのため患者によって差異はあるが,介入1,2回目は,看護介入者の質問に敬語で答えるのみのぎこちないやり取りが多かった.しかしビデオ通話でお互いの表情を確認できるため顔馴染みとなった3回目辺りから,砕けた様子でプライベートな内容を患者自ら話すようになるというパターンで推移していた.患者が主体的に話そうとする局面では,時間を気にせず患者の話題に耳を傾け,看護介入者から積極的に話題にするようにした.たとえば,カラオケ好きのB氏が「この間カラオケに行って」と切り出した場合には「何を歌ったんですか?」と質問したり,孫のことが一番気がかりなC氏が「孫が就職で家を出て寂しい」と話した時には「それは寂しいですね」と共感していた.患者は総じて看護介入者とのコミュニケーションに協力的で,ビデオ通話での会話を楽しみにしてくれていた傾向がみられた.
健康管理については,患者が日々の生活の中で自分なりに努力したり,工夫している等の発言の局面には,まず「ご自分で工夫されてすごいです」「頑張っていますね」等,患者の頑張りを認め,症状の改善時には「良かったですね」と喜びを共有すると共に,「これからも頑張って続けて下さいね」等,患者が継続して取り組めるように意識して関わっていた.状態の変化が見られた場合には「その前に何かされていましたか?」等の質問を行い,その原因について患者とともに振り返り,「○○のような症状が出てきたら,すぐに病院に行って下さい」等,その後の対処方法について指導を行った.I氏の場合には,患者だけでなく妻の不安も強かったため,妻からの質問も併せて聞く形で対応していた.
このように患者や家族の思いに寄り添った関わりを通して,患者は日常における何気ない出来事や思いとともに,体調や気がかりなことを積極的に話してくれるようになり,個々の患者各人の状況に合わせた,より具体的な助言を行えるようになっていた.
4. QOLの状況SF-36®のスコアリング方法に基づき,健康概念である8つの下位尺度の得点を算出し,遠隔看護介入直前と介入終了後の各平均得点を比較した結果は表3に示すとおりである.有意な傾向が見られたのは,「社会生活機能(p = .078)」と「心の健康(p = .096)」で,それらに対応する質問内容は,普段の仕事や活動,人とのつきあい,気分に関連するものである.
介入直前 | 介入終了後 | 有意確率p(両側) | |
---|---|---|---|
身体機能(問3ア~コ) | 63.9 | 60.6 | .732 |
日常役割機能:身体(問4ア~エ) | 55.6 | 77.1 | .138 |
体の痛み(問7・8) | 88.0 | 86.6 | 1.000 |
全体的健康感(問1・11ア~エ) | 48.6 | 47.1 | .812 |
活力(問9ア・オ・キ・ケ) | 65.3 | 70.8 | .812 |
社会生活機能(問6・10) | 61.1 | 88.9 | .078† |
日常役割機能:精神(問5ア~ウ) | 52.8 | 77.8 | .138 |
心の健康(問9イ・ウ・エ・カ・ク) | 65.0 | 82.8 | .096† |
(†: p < 0.1)
各設問を介入前後で比較した結果は表4のとおりで,有意な傾向が見られた設問のうち,「仕事や普段の活動が心理的な理由でいつもほど集中してできなかった(p = .040)」,「あなたがどのように感じたか-楽しい気分(p = .031)」の2問では,表5のとおり,介入直前と比較して,p < 0.05で,介入終了後の平均得点が有意に高く,これらは下位尺度「社会生活機能」「心の健康」に関連する設問であった.
介入直前 | 介入終了後 | 有意確率p(両側) | |
---|---|---|---|
問1 | 2.56 | 2.78 | .589 |
問2 | 2.89 | 3.56 | .107 |
問3ア | 2.41 | 2.04 | .157 |
問3イ | 3.70 | 3.70 | 1.000 |
問3ウ | 3.33 | 3.52 | .705 |
問3エ | 2.41 | 2.22 | .564 |
問3オ | 3.15 | 3.33 | .705 |
問3カ | 4.63 | 4.63 | 1.000 |
問3キ | 3.70 | 3.33 | .414 |
問3ク | 4.63 | 4.44 | .317 |
問3ケ | 5.00 | 4.63 | .157 |
問3コ | 5.00 | 5.00 | 1.000 |
問4ア | 3.11 | 4.22 | .114 |
問4イ | 2.67 | 4.22 | .062† |
問4ウ | 3.33 | 3.78 | .609 |
問4エ | 3.78 | 4.11 | .609 |
問5ア | 3.11 | 4.11 | .140 |
問5イ | 3.11 | 3.89 | .251 |
問5ウ | 3.11 | 4.33 | .040* |
問6 | 3.44 | 4.78 | .078† |
問7 | 4.44 | 4.54 | 1.000 |
問8 | 4.67 | 4.56 | 1.000 |
問9ア | 3.11 | 3.44 | .623 |
問9イ | 4.33 | 4.44 | .679 |
問9ウ | 4.00 | 5.00 | .066† |
問9エ | 3.67 | 3.67 | 1.000 |
問9オ | 3.00 | 3.56 | .257 |
問9カ | 3.44 | 4.67 | .061† |
問9キ | 4.33 | 4.44 | 1.000 |
問9ク | 2.56 | 3.78 | .031* |
問9ケ | 4.00 | 3.89 | .783 |
問10 | 3.44 | 4.33 | .071† |
問11ア | 2.56 | 2.56 | 1.000 |
問11イ | 2.78 | 2.67 | .655 |
問11ウ | 3.56 | 3.33 | .527 |
問11エ | 3.00 | 2.78 | .608 |
(*: p < 0.05,†: p < 0.1)
介入直前 | 介入終了後 | 有意確率p(両側) | |
---|---|---|---|
(問4イ)過去1か月間,仕事や普段の活動が身体的な理由で,思ったほどできなかった(5段階:いつも1点-ぜんぜんない5点) | 2.7 | 4.2 | .062† |
(問5ウ)過去1か月間,仕事や普段の活動が心理的な理由で,いつもほど集中してできなかった(5段階:いつも1点-ぜんぜんない5点) | 3.1 | 4.3 | .040* |
(問6)過去1か月間に人とのふだんのつきあいが身体的あるいは心理的にどのくらい妨げられたか(5段階:非常に妨げられた1点-ぜんぜん妨げられなかった5点) | 3.4 | 4.8 | .078† |
(問9ウ)過去1か月間にどのように感じたか-どうにもならないくらい気分が落ち込んでいた(5段階:いつも1点-ぜんぜんない5点) | 4.0 | 5.0 | .066† |
(問9カ)過去1か月間にどのように感じたか-落ち込んでゆううつな気分(5段階:いつも1点-ぜんぜんない5点) | 3.4 | 4.7 | .061† |
(問9ク)過去1か月間にどのように感じたか-楽しい気分(5段階:ぜんぜんない1点-いつも5点) | 2.6 | 3.8 | .031* |
(問10)過去1か月間,人とのつきあいが身体的あるいは心理的な理由で時間的にどのくらい妨げられたか(5段階:いつも1点-ぜんぜんない5点) | 3.4 | 4.3 | .071† |
(*: p < 0.05,†: p < 0.1)
遠隔看護介入期間1年間および介入終了後1年間の入院状況を遠隔看護介入前1年間と比較すると,介入前1年間では11名全員に2回以上の入院が見られたが,介入期間中は9名に入院がなく,残る2名も入院回数は1回で,いずれも入院期間は短縮していた.心不全増悪による再入院のリスクが高い患者の特徴として「退院後外来受診が少ない」があり,外来受診頻度が1回/月以下の患者は,それ以上の患者より再入院のリスクが約3~5倍高い(Tsuchihashi et al., 2001)ことが明らかになっている.今回対象となった11名の患者の介入期間中の外来受診頻度は,1回/月以下であったが,介入前1年間の全体の延べ入院回数が38回であったのが介入中1年間は2回となり,再入院のリスクは激減していた(表2).このことは,外来受診の頻度を増やさなくても,看護介入による毎月のサポートで再入院の誘因となる塩分・水分制限や治療薬服用の不徹底等を指摘,確認することで入院回避のための十分な効果を上げることができることを示唆している.実際,遠隔看護介入中の患者の生理的指標と症状を見てみると,患者は介入期間中,大きな変化はなく比較的安定して経過していた.これは,ビデオ通話時に変動や変化が見られたときには看護介入者がその原因となることについて細かく確認し,患者と共に原因を探っていくことで,その後の日常生活において患者自身で意識するようになっていたためと考えられる.患者からは「この間言われたから,気にしてみている」等の発言が聞かれた.また,ビデオ通話では患者の様子を観察しながら会話ができるため,遠隔であっても情報収集やコミュニケーションを円滑に行い,的確に助言することができており,患者1人1人の日常生活の場において個別性に合わせて集約的に介入してきた効果であると考えられる.
具体的には,体重増加や血圧の変動などの心不全症状増悪の兆候となりうる変化が見られた場合には,患者と共に看護介入者が体重増加や血圧変動の原因を探り,状況の解釈を助けるように関わった.このことが,遠隔看護介入モデルにおける「解釈を助け」,患者にセルフモニタリングを促し,「適切なセルフマネジメント」に結び付いたといえる.
さらに,遠隔看護介入終了後1年間に心不全増悪による入院がなかった者は5名で,継続して入院を回避することができていた(表2).これは,遠隔看護介入によるモニタリングのサポートがセルフモニタリングを促し習慣化できたことで,その後,遠隔看護介入がなくてもセルフモニタリングを継続し,入院リスクを軽減できたためと考えられる.実際,患者からは「あれからも忘れずに測って書くようにしている」「あれだけ(サポートを)してもらったから気を付けている」との声がフォローアップの際に得られている.心不全増悪のため入院した3名についても,1年間の入院回数が3回から1回に軽減した者が2名,5回から2回に軽減した者が1名であり,さらに1回あたりの入院期間も短縮しており,入院リスクとしては軽減していた.
2) 遠隔看護介入時間の変化遠隔看護介入における通話時間を見てみると,1回の平均通話時間は,介入1か月間は12.4 ± 4.5分だが,介入2~12か月は11.1 ± 3.7分で,経過するにつれ通話時間は短縮される傾向が見られた.遠隔看護介入時に,毎回,看護介入者が体調管理や心不全のコントロール状況について,決まった項目の確認を繰り返し行ったことで,セルフモニタリングが定着し習慣化され,時間の短縮や患者の疾患への理解,意識の向上につながったと考えられる.
さらに,個人により時間の長短はあるが,平均して11分程度の通話時間によって効果がみられており,慢性心不全患者への遠隔看護介入は多忙な医療現場において,短時間の対応で効果が得られる有効な看護実践であるといえる.
3) QOLの維持・改善SF-36®の各設問の平均得点を遠隔看護介入前後で比較した結果,有意な改善の傾向が見られたのは表5の7つの設問項目であった.これらの設問内容からは,QOLを維持していくことが容易ではない高齢患者が遠隔看護介入中は身体的あるいは心理的な理由で仕事やふだんの活動や人とのつきあいを妨げられることなく生活し,さらに落ち込んで憂鬱な気分になることがなく,楽しい気分でいられたことがわかる.患者が仕事やふだんの活動,人とのつきあいや気分という面でのQOLの改善のもとで生活できていた状況が読みとれる.
これまでも,うつや不安等の精神症状や不十分なソーシャルサポートは再入院と関連し,心不全患者の予後に影響するため,心不全患者に対する支援には精神的支援も含む必要がある(Tsuchihashi-Makaya et al., 2009;循環器関連学会合同研究班,2010)とされてきた.看護師から定期的に連絡があり気軽に話すことができる遠隔看護介入モデルは,その役割を果たせていたといえる.実際,患者からは「いつでも相談できると思ったら安心できた」「病院から離れているから心強かった」等の声が聞かれた.さらに,心不全の症状管理に関する内容だけでなく,現在の心境,家族のことや地域の話など健康に関係のない話についても,丁寧に聞くように意識して関わった.そうすることで,患者からは「話ができてうれしい」等の声も聞かれた.これらのことから,患者のBNP値やNYHA分類などの臨床的な数値に目立った変化が見られなくても,遠隔看護介入によってQOL面での改善が可能であり,それによって再入院を大きく食い止めることにつながることが示唆された.
以上の結果をふまえ,慢性心不全患者のセルフモニタリングをサポートする遠隔看護介入モデルを図示したのが図1である.セルフモニタリングにおいて重要な「測定」「自覚」「解釈」が遠隔看護介入によって的確にサポートされ,その継続によって患者自身のモニタリングに近づけることができ,帰結として「適切なマネジメント」の実現につながっていた.また,退院後のQOLの維持・向上については,身体面での目立った改善はないが維持できており,「心の健康」「社会生活機能」においては向上している.このようなことから入院を阻止できると考える.
Wilde & Garvin(2007)および服部ら(2010)による心不全患者のセルフモニタリングの概念スキームに立脚した慢性心不全患者のセルフモニタリングをサポートする遠隔看護介入モデル
本研究は対象者数が限られており,高齢慢性心不全患者1人1人の症状や状況の多様性も考慮すると,今回の結果をもって介入効果を厳密に示すまでには至っていない.また,看護介入者は同一者(1名)であったことから,介入者による差異への知見は得られていない.そのため今後は,複数の看護介入者により実践の規模を拡大すると共に,対照群を設定し,更なる検証を行い,実用化を目指す必要がある.
慢性心不全患者への遠隔看護介入モデルの導入は,患者の都合に合わせた短時間で集約的な介入の継続によってQOLを改善し再入院を大きく食い止めることにつながり,その有用性が確認できた.また介入終了後も入院回避の効果が持続していたことから,在宅患者のセルフモニタリング能力の強化につながることが示唆された.今後,事例を増やしていくことで実践モデルの実用化や地域包括ケアシステムへの適用,および心不全患者だけでなく他の疾患の患者への活用などが期待される.
付記:本稿の一部は,これまで第17回医療情報学会看護学術大会(2016)および第13回感性工学会春季大会(2018)にて口頭発表,第38回日本看護科学学会学術集会(2018)にて示説発表した.
謝辞:本研究を実施するにあたり,ご協力いただきました研究対象者および病院関係者の皆様に深く感謝申し上げます.なお,本研究は平成24・25年度日本学術振興会科学研究費・挑戦的萌芽研究(課題番号24660052),平成26年度ひょうご科学技術研究助成金,公益信託山路ふみ子専門看護教育研究助成基金,平成27年度看護系学会等社会保険連合研究助成を受けて実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:NIは研究の着想,デザイン,データ収集,分析,解釈,原稿の作成;MAおよびSFは原稿への示唆および研究プロセスへの助言;HNは分析,解釈,原稿の作成.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.