2018 Volume 38 Pages 245-254
目的:臥床状態で負担が少なく細菌汚染を除去できる洗髪技術を考案しその効果を検証する.
方法:湯量(5 L・10 L),湯の流し方(手掌を椀状にして溜め湯をつくり揺らしながら流す・頭髪に指を通して流す)を組み合わせた4つの洗髪方法で健康成人各5名に実施し,洗髪前後の頭髪および頭皮の細菌数(ブドウ球菌),トリグリセライド(TG)量,主観的評価を調査し,実施前を基準として変化率を算出した.
結果:細菌数は,頭髪では10 Lで溜め湯の中で頭髪を揺らして流す方法で0.34 ± 0.05と減少した(p < 0.05).頭皮は全方法で1未満となったが湯量が多い方がより減少した(p < 0.05).TG量は,頭髪も頭皮も湯の流し方に関らず湯量が10 Lの方が減少した.主観的評価に有意差はなかったが,溜め湯をつくって流す方法で爽快感が高い傾向がみられた.
結論:10 Lの多めの温湯で,手掌を椀状にして溜め湯をつくり頭髪を揺らして流す方法が細菌汚染を効果的に減少させる.
頭髪および頭皮には,正常な範囲のブドウ球菌が生息している.この細菌は,皮脂を分解しバリア機能を発揮して病原菌の侵入を防ぎ,また自浄能力を調整して皮膚の保護を担う常在菌である.しかし,常在菌が一定の量を超えると,皮膚バリア機能の働きを妨げ,細菌生息の温床となる.
健康な成人の頭髪調査では,ブドウ球菌が40%から検出され(加藤,1998),患者や医療スタッフのからだの細菌付着部位の調査でも,入院患者では頭髪から40.3%,鼻腔から36.3%,看護師では鼻腔37.2%,頭髪27.4%と,頭髪や鼻腔から高い確率で検出され(Summers et al., 1965;工藤ら,2000),工藤ら(2003)による入院患者の頭髪調査でも,52%からブドウ球菌が検出されている.
病院では,免疫力が低下した患者が多く入院し,常在菌が起炎菌となって感染を起こす医療関連感染が問題になっている.この医療関連感染の起因菌について,Huebner & Goldmann(1999)は,先行研究の分析からブドウ球菌がカテーテル感染,尿路感染,心内膜炎などの起炎菌として院内感染の原因菌になっていることを明らかにしている.このことは,ブドウ球菌が付着あるいは生息している頭髪が,自分が持つ微生物によって自分自身が感染する内的感染と,他者からの伝播によって感染する外的感染の両方に関与し,伝播経路として着眼しなければならない存在であることを示している.
看護技術として実施される洗髪は,日本看護科学学会看護行為用語分類(2005)では「循環状態,呼吸状態が不安定な人,体力が著しく低下している人,動作障害がある人,頭頸部に安静が必要な人など自己にて洗髪が実施できない人あるいは頭頸部の疾患や頭頸部にドレーンやカテーテルが挿入されている人,頭頸部に創がある人を対象に,頭皮および頭髪の汚れを洗い流したり拭き取ったりすることである」と定義されている.洗髪による頭部の細菌数の変化に関する加藤・深田(2000)の研究では,洗髪直後でも20~40%の細菌が残り,洗髪後72時間で元に戻っていた.研究者が行った療養型病棟患者の調査においても,ブドウ球菌は洗髪前は65%,洗髪後は76%の患者から検出され,洗髪後に減少していなかった(社本・小松,2015).また,キューティクルに細菌が付着し洗髪では除去できないという報告もある(Mase et al., 2000).
これらの研究からは,現在臨床で実施されている洗髪方法では,細菌汚染除去に関しては効果が十分ではなく,日常的に洗髪ができない安静臥床患者,特に,免疫力や抵抗力が低下している患者,カテーテル類などが挿入されている患者では,頭髪に付着した細菌が敗血症などの重篤な感染に繋がりやすいことが示唆される.しかし,これまでの洗髪技術では細菌汚染に着目されておらず,基礎看護技術教育で使用されているテキストにも細菌汚染を効果的に減らす方法は記載されていない.
以上のことから,医療関連感染に対して抵抗力が低下している安静臥床患者の頭髪および頭皮の細菌,皮脂,落屑などを効果的に除去することができる洗髪技術を開発する必要があると考えた.
細菌除去に重要な洗浄(すすぎ)に焦点をあて,健康成人を対象として,臥床状態で負担が少なく細菌汚染を除去し得る洗髪方法を考案し,その効果を検証する.
検証する洗髪方法の条件を設定する目的で以下の手順で予備実験を実施した.本研究では,洗髪工程の「ブラッシング」「予洗い」「シャンプー剤での洗浄」「タオルでの泡の拭き取り」「洗い流し」「拭き上げ」の6段階のうち,特に「洗い流し」の「流す」「すすぐ」という工程に着眼した.この工程では,「湯量」が重要であるが,ベッドサイドで使用できる湯量に限界がある中で,効果的な「洗い方」を工夫する必要があると考え,湯量と頭髪の流し方の検討内容を絞り込むために,人工毛束を用いて予備実験を行った.
予備実験は,頭髪の揺らし方と揺らす時間,湯の流し方について検討した.可能な限り現実的な洗髪実施状況に即すよう考慮して実施した.揺らし方は,湯を張った容器の中の人工毛束がゆらゆらと揺れる緩やかな揺れ具合(1分間に左右に50往復手を動かす揺れ)と,毛束の毛同士が接触しながらシャバシャバと激しい揺れ具合(1分間に左右に100往復手を動かす揺れ)を比較した.湯の流し方は,人工毛束の表面に連続的に湯を流す方法での時間の違い(10秒,30秒)を比較し,また,連続的に湯をかけ流す方法と,一定量の湯に浸水して同時間揺らして湯を交換する方法(1回,2回)を比較した.洗浄効果は,毛束に付着させた細菌数の変化で比較した.
その結果,揺らし方の検討では頭髪から汚染を除去するには激しく長い時間でなくとも手掌をゆらゆらと揺らし,30秒ほどの時間でも効果が得られることがわかった.流し方では常に一定量の湯を流し続けるよりも湯溜まりの中ですすぎ,湯溜まりを交換していくことで洗浄効果が高まることがわかった.これらをふまえて以下の検証条件を設定した.
2. 洗髪技術の検証実験 1) 検証した洗髪方法(表1) (1) 統一した洗髪条件実施体位は仰臥位とし,被験者の上半身を右へ寄せベッドに対して斜めに位置するように体位を整えた.シャンプー剤は頭髪の長さ(20~40 cm)に必要な量(ポンプ式ボトル2プッシュ)とした.シャンプー剤は,販売されている10社のシャンプー剤の界面活性剤の種類および成分量に差はなかったため,売り上げ上位のいち髪(Kracie)を選択した.洗髪用具はケリーパッド,湯の流しはピッチャーを使用した.すすぎ用の温湯温度は40~42°C,湯量は容量15 Lのバケツに10 Lまたは5 L準備し,洗い流しは1 Lピッチャーを用いてここから汲みだして行った.
実施条件 | 方法 | ||||
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統一条件 | 洗髪の各工程の実施時間と内容 | ||||
洗髪工程 | 実施時間 | 実施内容 | |||
ブラッシング | 15秒 | 全体を5回 | |||
予洗い | 2分30秒 | 比較パターンと同じ方法 | |||
シャンプー剤での洗浄 | 3分 | 使用する洗髪剤:いち髪(Kracie) 使用量:ポンプ式ボトルで2プッシュ 頭皮はZ型,N型で洗浄 |
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タオルでの泡の拭き取り | 30秒 | 頭部全体を包み込み1回 | |||
比較条件(すすぎ方) | A.湯量:[少ない(5 L)][多い(10 L)] | ||||
B.湯の流し方:[指を頭髪に通して湯を流す方法] [手掌を椀状にして溜めた湯中で頭髪を揺らし頭皮に湯をかける方法] |
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* [A][B]の組み合わせで4つのパターンのすすぎ方で実施(3分30秒) | |||||
湯の流し方 | 湯量 | ||||
少ない(5 L) | 多い(10 L) | ||||
指を頭髪に通して湯を流す方法 | 【パターン①】 湯量少なく,指を頭髪に通しながら頭髪に湯を流す |
【パターン②】 湯量多く,指を頭髪に通しながら頭髪に湯を流す | |||
手掌を椀状にして溜めた湯中で頭髪を揺らし頭皮に湯をかける方法 | 【パターン③】 湯量少なく,手掌を椀状にして溜めた湯中で頭髪を揺らし頭皮に湯をかける |
【パターン④】 湯量多く,手掌を椀状にして溜めた湯中で頭髪を揺らし頭皮に湯をかける |
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「湯量」と「湯の流し方」に焦点をあて,湯量は,10 Lと5 Lを比較した.5 Lは洗髪シート2~3枚で使用可能な湯量を意図して設定した.実施時間は10分以内とした.湯の流し方は,指を通しながら頭髪の表面に湯をかけ流す方法と,手掌を椀状にして溜めた湯の中で頭髪を揺らしながら流す方法を比較した.これらを組み合わせた4つのパターンについて,洗髪前後の細菌数,トリグリセライド(Triglyceride:以下TG)量,界面活性剤濃度を比較した.また,洗髪後の爽快感などの主観的評価を聴取した.使用物品は,細菌検出量への影響を考え,ケリーパッド,スカルプブラシの消毒方法を統一し,拭き上げ用タオル,防水用のシーツはディスポザブル製品を使用した.
2) 対象およびサンプル採取方法 (1) 対象者対象者は女子大学生の健康成人で,20名を対象とし4つのパターンそれぞれ5名に洗髪を行った.対象には,3日間洗髪をせず,最終洗髪時以降①頭部は雨や水でぬらさず,発汗の激しいスポーツは避ける.②入浴時はシャワーキャップをつけ,頭髪をぬらさない.③洗顔時に前髪が濡れる可能性がある場合はシャワーキャップをつけ,髪の生え際から奥や頭髪をぬらさない.④整髪剤などを使用しない.⑤櫛やブラシでとかすのはよいが,ドライヤーは使用しない.⑥帽子を着用しないことを依頼し,同意を得られた人を対象とした.サンプルサイズについては,本研究は設定した4つのパターンの検証を目的としており,統計学的に母分散は小さくとも検証可能と考え,各パターン5名とした.また無作為割付で被験者を割付して交絡を考慮した.
(2) サンプル採取方法 ① サンプル採取部位頭頂部(頭部正中線と左右耳輪を結んだ線との交点),前額部(頭部正中線に沿って額の生え際より2 cm頭頂部側の部分),側頭部(耳介の耳輪から耳垂の中間地点で生え際から2 cm頭頂部側の部分)の左右,後頭部(頭部正中線と左右耳垂を結んだ線との交点),耳の後ろ(耳介と側頭部の境目)の左右の7箇所とした.
② サンプル採取時期サンプルは洗髪前後に採取した.洗髪後の採取はすすぎの行程が終了し,滅菌タオルで軽く押して水分を拭きとった後に行った.
③ サンプル採取の手順a.頭皮拭き取り液:一定量の蒸留水で湿らせた滅菌綿棒(以下,綿棒)を使って採取した.採取時は,サンプル採取シートを用いて採取範囲(1.5 × 10 cm)の頭皮のみを露出させ,綿棒でひと拭いし,綿棒の面を変え,さらにひと拭いした.
b.頭髪拭き取り液:蒸留水で湿らせた滅菌ガーゼ(以下,ガーゼ)を使って採取した.サンプル採取範囲,拭い方は頭皮と同様に行った.
3) 疲労および主観的な気分の評価気分と疲労感は,坂野ら(1994)が作成した40項目からなる気分調査票を使って洗髪終了後に評価した.気分調査票は「緊張と興奮」「爽快感」「疲労感」「抑うつ感」「不安感」の5つの因子から構成され,それぞれ8項目合計40項目から構成され,得点は「非常に当てはまる」4点,「当てはまる」3点,「当てはまらない」2点,「全く当てはまらない」1点の4件法で点数化し,因子ごとに合計得点を算出した.したがって,各因子の得点範囲は8点から32点となる.
4) 測定方法 (1) リアルタイムPCRによる細菌数の測定ターゲットとした細菌はStaphylococcus aureus,Staphylococcus warneri,Staphylococcus epidermidisとした.採取したガーゼおよび綿棒から抽出したDNA抽出液からそれぞれの細菌数をリアルタイムPCR 法で測定した.PCRmix(SYBR PremixEXTaq 12.5Μl,PCR Forward primer 1 μL,PCR reverse primer 1 μL,template 2 μL,dH2O 8.5 μL,total 25 μL)を作成し,各ターゲットprimerの条件にあわせてThermal Cycler Dice Real Time System II Software version 4.02(タカラバイオ株式会社,滋賀)で実施した.反応は,酵素活性のための工程として94°Cで10秒,3 Step(95°C 10秒,各primerのannealing temperature(S. aureus:65°C,S. warneri:60°C,S. epidermidis:65°C)30秒,72°C 45秒)で行った.Positive controlはS. aureusはATCC43330,S. warneriはACTT29885,S. epidermidisはACTT12228を使用した.反応終了後,解析を行った.検量線を作成し定量化した(Iwase et al.,2007).
リアルタイムPCRを評価項目とした理由は,洗髪前と洗髪後のリアルタイムの細菌数を測定して正確にとらえることにより,汚染減少の程度と洗髪の効果を評価することができると考えたためである.生菌のみでなく生菌が増殖するための餌となる死菌も含めて計測できることから汚染の程度を知る有効な手法である.
(2) TG量の測定採取したガーゼ,綿棒をTG測定試薬(LabAssayTM Triglyceride/wako)に浸水,37°Cで5分間放置した.その後,吸光マイクロプレートリーダ(Multiskan FC/ThermoFisher)で測定(波長:600 nm)し,検量線を作成し定量化した.なお,今回使用したTG測定試薬は,血清中のTGを測定するための試薬である.そのため,あらかじめ頭髪および頭皮に付着したTGを正しく測定可能であるかを基準液と比較検討を行った.基準液をメーカーが推奨するプロトコールに従って調整し,頭髪および頭皮から採取したガーゼ,綿棒を,TG測定試薬に浸水,37°Cで5分間放置したものを2倍希釈し検量線と比較し相違のないことを確認した.
(3) 界面活性剤残留濃度測定用サンプルは,細菌数とTG量と同じ部位から採取した.採取したサンプルは,採取部位ごとにリン酸緩衝生理食塩水の入ったプラスチック製試験管に入れ,共立簡易水質分析装置「デジタルパックテスト」型式DPM-DET(共立科学研究所,東京)にて「陰イオン界面活性剤測定セット」による試薬を使用して測定した.なお,基準値は界面活性剤の発泡限界濃度0.05 mg/mL(田畑ら,1998)とした.
5) 分析方法洗髪前後の細菌数(3種類の細菌の総数),TG量,界面活性剤濃度の比較は,7箇所の測定値を合計し,実施前を1とし,洗髪前後の変化率を「実施後値/実施前値」で算出し分析した.変化がない場合「1」となり,「1」より大きい場合は増加したことを表し,値が大きくなるほど変化が大きいことを表す.「1」より小さい場合は減少したことを表し,値が小さくなるほど変化が大きいことを表す.疲労および気分の主観的評価は,それぞれの項目について平均値と標準誤差を算定した.データは,統計解析ソフトSPSS Ver. 20.0 for Windowsを用いてKruskal-Wallis検定を実施し,その後,Tukey-Kramer法で対比較を行った.有意水準は5%未満とした.なお,検定は各パターンの対象者が5名と少ないためノンパラメトリック検定のKruskal-Wallis検定を選択した.
6) 倫理的配慮本研究は,愛知県立大学研究倫理審査委員会(承認番号7-9号),および椙山女学園大学看護学部研究倫理審査員会(承認番号72)による審査の承認を得て実施した.学部長または学校長に,研究協力依頼文と研究計画書ならびに学生への募集用掲示文書を持参して研究協力依頼を行い,承諾が得られた後に,学生に対する研究協力の募集について掲示し,応募した学生を対象者とした.対象者に研究の目的と必要性,実験方法を口頭および文書を用いて詳細に説明し,文書による同意を得た.研究者は,洗髪技術,サンプル採取方法,採取技術を十分に練習し,被験者に負担をかけないように準備した後に実験を開始した.対象者には,事前にシャンプー剤での皮膚トラブルの無いことを確認した.実施後に,不快,苦痛の無いことを確認して終了した.
全員が21歳であった.頭髪の長さは,最長39 cm,最短21 cmで,平均30.7 ± 4.7 cmであった.4群間で頭髪の長さに有意差はなかった.発熱などの身体症状,服用している内服薬がないことを確認した.なお,対象者の洗髪前の細菌数,TG量に4群間の差はなかった.
2. 洗髪方法4パターンの細菌数および平均変化率の比較頭髪および頭皮の細菌数の変化率(平均値±標準誤差)の各洗髪方法の比較結果を図1a-1,a-2に示した.頭髪では,湯量が少なく(5 L)指を頭髪に通しながら湯を流すパターン1(以後,パターン1)は4.23 ± 1.24,湯量が多く(10 L)指を頭髪に通しながら湯を流すパターン2(以後,パターン2)は2.24 ± 0.28,湯量が少なく(5 L)手掌を椀状にし,湯を溜め頭皮や頭髪にふわふわと湯がかかるように行うパターン3(以後パターン3)は1.05 ± 0.61,湯量が多く(10 L)手掌を椀状にし,湯を溜め頭皮や頭髪にふわふわと湯がかかるように行うパターン4(以後パターン4)では0.34 ± 0.05であった.湯の流し方の違いでは,頭髪に通しながら湯を流す方法では,湯量の違いで有意な差はなく,洗髪後に細菌数が増加していた.湯量が多く手掌を椀状にして揺らす方法では,少ない湯量パターン3は洗髪前後で変化がほとんどなく,湯量が多く手掌を椀状にして揺らすパターン4では洗髪後に細菌数が有意に減少し,他の3パターンに比べ有意に減少していた(p < 0.05).また,湯量の違いでみてみると,パターン3はパターン2より有意に減少し,湯量が少なくても手掌で溜め湯をつくって揺らすパターンにおいて頭髪に細菌は残存するが数は減少した.
頭髪および頭皮の細菌数,TG量,界面活性剤残留濃度の変化率(平均値±標準誤差)の洗髪方法による比較
図中の数字は,平均変化率と標準誤差を示す.
変化率は,「1」は変化がない,「1」より大きいと増加,「1」より小さいと減少を表す.
図上では,上方に向かうほど多く増加し下方に向かうほど多く減少したことを表す.
実施前「1」を基準とし変化率を算出しKruskal-Wallis検定にて分析した.
*:p < 0.05
頭皮の平均変化率は,パターン1は0.44 ± 0.12,パターン2は0.09 ± 0.02,パターン3は0.32 ± 0.03,パターン4は0.09 ± 0.01であり,すべてのパターンで洗髪後には変化率1未満に減少していた.4つのパターンの比較では,湯の流し方の異なるパターン1とパターン3,パターン2とパターン4は有意差がなかった.湯量の異なるパターン1とパターン2(p < 0.05),パターン3とパターン4(p < 0.05)は有意な差があり,湯量が多い方が洗髪後に細菌数が減っていた.
3. 洗髪方法4パターンのTG量の平均変化率の比較頭髪および頭皮のTG量の洗髪方法4パターンの比較結果を図1b-1,b-2に示した.頭髪では,パターン1が2.11 ± 0.67,パターン2は0.79 ± 0.05,パターン3は1.33 ± 0.36,パターン4は0.95 ± 1.24で,指で通して流すパターン1とパターン2では湯量の多い方が有意(p < 0.05)に減っていた.頭皮では,パターン1が0.45 ± 0.06,パターン2は0.26 ± 0.03,パターン3は0.30 ± 0.07,パターン4は0.53 ± 0.14で,全てのパターンで洗髪後に1以下になっていた.有意差があったのはパターン1とパターン2のみで(p < 0.05),湯量の多い方が減っていた.
4. 洗髪方法4パターンの界面活性剤残留濃度の平均変化率の比較頭髪および頭皮の界面活性剤残留濃度の洗髪方法4パターンの比較結果を図1c-1,c-2に示した.頭髪の界面活性剤残留濃度の平均変化率は,パターン1は3.50 ± 0.81,パターン2は1.99 ± 0.34,パターン3は2.33 ± 0.47,パターン4は2.52 ± 0.78であった.頭皮では,パターン1は3.02 ± 0.68,パターン2は1.53 ± 0.21,パターン3は1.91 ± 0.47,パターン4は2.07 ± 0.61で,頭髪および頭皮のいずれも全てのパターンで残留していた.有意差があったのはパターン1とパターン2で(p < 0.05),湯量の多い方が減っていた.また,有意差はみられなかったが,頭髪も頭皮も多い湯で指で流す方法が残留が少ない傾向にあった.
5. 洗髪方法4パターンの洗髪終了時の気分の比較疲労および気分の評価結果を図2に示した.洗髪時の爽快感は,パターン4が27.4 ± 1.24点で最も高く,次いでパターン2が25.2 ± 1.36点,パターン3が22.8 ± 1.59点で,最も低かったのはパターン1の22.2 ± 2.20点であったが,4つのパターンに有意差はなかった.疲労感は,パターン4が9.4 ± 0.93点で最も低く,次いでパターン2が10.0 ± 1.27点で,パターン1が14.2 ± 2.24点と最も高かったが,有意差はなかった.緊張と興奮,抑うつ感,不安感は疲労感と同様の傾向であった.
洗髪終了時の気分の洗髪方法による比較
各気分の4群比較はKruskal-Wallis検定にて分析した.
図中の数字は平均値を,エラーバーは標準誤差を示す.
なお,パターン2とパターン4の「抑うつ感」の標準誤差は0.00であった.
4つのパターンでの頭髪の細菌数の変化率を比較した結果,指で通す方法のパターン1とパターン2では湯量の違いによる有意差はなく,洗髪後に細菌数が増加した.少ない湯であっても手掌を椀状にして揺らす方法のパターン3は細菌数が増えておらず,湯量が多く手掌を椀状にして揺らす方法のパターン4では有意に減少した.洗浄化学では,水の流れによっておこる流体力と遠心力や付着物への衝突や貫流といった機械作用が洗浄力を高めるといわれる(岩崎ら,1987).パターン3とパターン4で細菌が増加しなかったのは,湯を溜め頭髪および頭皮にふわふわと湯がかかるような手の動きによって不規則な揺れや振動が流体力を高め,頭髪1本1本に衝撃や貫流が起こり細菌除去に効果的な機械刺激となったからではないかと考える.また,手掌を椀状にして揺らす方法でも湯量が多い方が細菌数は減っていた.頭髪の含水量が増えると頭髪表面が膨張し汚染が遊離しやすくなるといわれる(皆川,2003).すなわち,湯量が多いと頭髪の含水量が増え細菌が遊離しやすくなり,機械刺激と相まって細菌除去に効果があったと考える.つまり,機械刺激や湯量は細菌除去を高める条件として重視すべき点と言える.また,手指の洗浄において,流水で泡をさっと流すのみでは洗い残し部位が多くなり細菌数は増加するが,しっかり擦りながら隅々まで流せば細菌数や洗い残しは減るとの報告もある(山本ら,2002).指で通す方法では湯が頭髪の表面を単に流れるだけになってしまい,重なり合った頭髪の中まで洗い流すことができなかったためにパターン1とパターン2では,浮き上がった細菌が残留し洗髪後に細菌数が増加したのではないかと考える.
頭皮では4つのパターンすべてにおいて洗髪後に細菌数が減少し,湯の流し方に関らず,少ない湯量では変化率に差がなく,多い湯量で著明に減少した.頭皮は通常の洗髪同様にシャンプー剤をつけてZ状に擦るように洗っていることから,頭皮の細菌数は,擦るという機械的動作と界面活性剤によって概ね除去できる可能性が示唆されたと考える.湯量の多い方がより減少したことについては,Winnefeld et al.(2002)が,看護師の手洗い後の皮膚の汚染状況を調査し,流水で擦り合わせながら十分なすすぎを行う方法は,擦式アルコール消毒法と石鹸による手洗いよりも細菌数が減少し手荒れも少なかったと報告し,山本ら(2002)も,石鹸を泡立てておこなう洗浄は時間経過とともに細菌数が増加し,流水で擦り合わせて洗浄すると時間経過とともに細菌が有意に減少したと報告していることから,十分な湯量が確保できる条件下であれば,シャンプー剤による通常の洗髪手技によって頭皮の細菌数を減らすことができる.
また,一定の湯量における溜め湯なしと溜め湯ありの比較においては,溜め湯ありの方が有意に減少率が大きかったことについては,手掌を椀状にして溜め湯をつくることにより,湯の中で頭髪を揺らすことができることに加え,頭皮にも十分に湯をかけることができ,効果的な細菌減少につながったと考える.
2. TG量の変化率の比較TGは,頭髪,頭皮ともに湯量が多く指で流す方法が最も減少した.また,湯量が少ない場合は,頭髪も頭皮も手掌を椀状にして揺らす方法で減少傾向がみられた.皮脂は,頭髪表面では油膜となって頭髪に付着している(Clarence, 2002/2006).皮脂の他に頭髪および頭皮に付着する汚れには落屑や細菌といった汚れがある.これらの汚れの除去は,汚れと温湯との間の表面張力を小さくし,汚れがはがれて温中に浮き上がるローリングアップによる.ローリングアップは,界面活性剤の存在と頭髪および頭皮表面の親水性すなわち温湯の存在が大きく関わってくるといわれ,親水性が高ければローリングアップ効果は高くなる(皆川,2003).今回,頭髪の皮脂が湯量の少ないパターン1とパターン3で除去できなった理由は,湯量が少なく頭髪の表面を濡らした程度となりローリングアップが十分に起こらなかったためと考える.湯量が少なくても手掌で溜め湯をつくって渦状の動きを起こす方法でTG量が減少したのは,この温湯の動きによって,頭髪および頭皮にローリングアップ作用が加わったためではないかと考える.また,湯量が少ないと頭皮から流れてきた皮脂が流れきれず頭髪にとどまり,結果として頭髪の減少率が低くなったとも考えられる.
頭皮では,全パターンで皮脂を除去することができたが,湯量が多く指で流す方法と,湯量が少なくても溜め湯をつくってから流す方法では,皮脂がより除去されやすい傾向にあった.TGなどで形成される皮脂膜は通常の洗髪でほとんど洗い流されるといわれる(中村,1994).この結果からは,湯量が多いときは豊富な湯で皮脂を洗い流す方法,湯量が少ないときには溜め湯を作り環流させる方法が皮脂の除去に有効であると考えることができる.
ベッド上の洗髪では十分な湯量は確保できず,また,患者の消耗を防ぐために短時間で終了させる必要があることから,手掌で溜め湯をつくって頭髪を揺らしてすすぎながら頭皮にも十分に湯をかける方法が,頭髪および頭皮の皮脂による汚れの除去に効果があると考える.
3. 界面活性剤残留濃度の変化率の比較界面活性剤残留濃度は,頭髪では,パターン4が最も少なかったが,すべてのパターンで基準値の0.05 mg/mLを超えて残存する結果となった.市販されているシャンプー剤の界面活性剤は,10~15 L/分の流量がある家庭用のシャワーで42°Cのお湯で50~60秒洗浄すれば流せるように生産されている.すなわち,界面活性剤の除去には十分な水量と水圧で流すことが必要であるが,浴室のシャワーと比較するとピッチャーやシャワーボトルでは温湯量も水圧も少ないため,十分に洗い流すことができなかったと考える.ベッド上で,限られた水量,水圧で洗髪する際の界面活性剤の効果的除去の方法の検討が今後の課題である.
4. 洗髪終了時の主観的な気分の比較主観的な気分の変化は,すべてのパターンで爽快感が高値であり,疲労感や抑うつなどは低値で,パターンによる差はなかった.これには適温の湯が頭髪や頭皮にかかることや,2日ぶりの洗髪による爽快感による影響も考えられる.傾向としては,湯の流し方に関らず,溜め湯のある方法が爽快感の得点が高かった.これは溜め湯によって温湯が長く頭皮にとどまるため温熱刺激が増したことが要因と考える.
湯量と湯の流し方の条件を変えた4つの洗髪方法による頭髪および頭皮の汚染除去の効果を検証し,以下の結果を得た.
5 Lの湯で,指を通しながら頭髪の表面に湯を流す方法は,頭髪では細菌数,TG量ともに洗髪後に増加し,頭皮では細菌数,TG量ともに減少した.5 Lの湯で手掌を椀状にして溜めた湯の中で頭髪を揺らしながら流す方法は,頭髪では細菌数とTG量ともに変化がなかったが,頭皮では細菌数,TG量ともに減少した.10 Lの湯で,指を通しながら頭髪の表面に湯を流す方法は,頭髪では細菌数は増加しTG量は変化がなく,頭皮では細菌数,TG量ともに減少した.10 Lの湯で手掌を椀状にして溜めた湯の中で頭髪を揺らしながら流す方法は,頭髪では細菌数は減少しTG量は変化がなく,頭皮では細菌数,TG量ともに減少した.全パターンにおいて界面活性剤は残留していた.心理的評価では全パターンで 爽快感の得点は高く疲労感や抑うつは低かった.
以上のことから,ベッド上の洗髪において,細菌,皮脂を減らし,疲労感が少なく爽快感を得ることができる洗髪方法としては,十分な湯量で,手掌を椀状にして湯を溜め,頭髪を湯の中で揺らし頭皮にふわふわと湯をかけて行う方法が適切であることが立証された.
本研究では,健康な女子大学生を対象として,各パターン5名の比較を行った.頭髪および頭皮の汚染環境は,年齢,性別,生活環境から影響を受けるため,一般化には限界があるが,洗髪のすすぎの工程における手掌の使い方及び湯の流し方による汚染減少に効果的な方法を導きだせたことは今後の洗髪方法の研究に有用な知見と考える.今後は,頭髪および頭皮環境の異なる対象者のサンプル数を増やして検証を重ねていきたい.
付記:本論文は平成27年度愛知県立大学大学院看護学研究科看護学専攻の博士論文の一部を加筆修正したものである.また,第36回日本看護科学学会学術集会にて発表した.
謝辞:本研究にご協力くださった皆様に深く感謝いたします.本研究は,平成24~26年度基盤研究(C)(一般)(課題番号24593262)の助成を受け実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:ISは,研究の着想,デザイン,データ収集,分析,論文執筆の全研究プロセスに貢献した.MYおよびMKは,研究の着想およびデザイン,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.