Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Structure of Health Characteristics that Affect Welfare Recipients’ Willingness to Participate in Workfare Programs
Maki TaniyamaMikako ArakidaRuriko YamashitaRieko Hashimoto-KoichiSuguru OkuboIchiro Kai
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2018 Volume 38 Pages 263-273

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Abstract

【目的】就労支援を受ける生活保護受給者,生活困窮者自立支援法対象者(以下,生活困窮者)31名への面接調査を通じ,就労意欲に影響を与える健康特性を明確化すること.

【結果】質的分析の結果,【他者から理解されがたい持続的な苦痛】,【ストレスへの脆弱さ】,【社会的適応の困難さ】,【自己流の健康管理】の4カテゴリーを抽出した.また,就労意欲への影響要因として,【就労することへの期待】,【生活保護廃止への不安と葛藤】,【社会から排除されているという感覚】の3カテゴリーを抽出した.これらが関連し〖健康課題を抱えながらの就労と,生活保護受給継続との間での就労意欲のゆらぎ〗を引き起こしていた.

【結論】今回抽出した健康特性からみると,生活困窮者の就労支援に医療や心理の専門職が参加することにより,効果的な就労支援につながる可能性が示唆された.

Ⅰ. 緒言

グローバル化を背景とする雇用形態の変化に伴い,我が国における経済的格差は拡大し,その格差は固定化している.さらに家族形態の変化に伴い,失職などにより経済的に困窮した際に家族の力を借りながら自力で状況を立て直すことが困難なケースが増加している.経済的困窮者に対する社会保障である生活保護の受給者(以後,受給者)も年々増加し,近年では稼働年齢世代の受給者が増加している(厚生労働省,2017a).これは世界的な傾向でもあり,先進諸国では能力のある受給者に就労を求める政策,Workfareが進められており,公的扶助から就労により自立した生活への移行を促進する取り組みが行われている(高間,2016).我が国でも稼働年齢世代の受給者を対象とした就労支援事業が2005年より開始され,2013年に改正生活保護法と生活困窮者自立支援法が成立し,就労自立支援や就労準備支援プログラムが提供されるようになったが,地域により実施状況に大きな差がある(厚生労働省,2017b).

経済的な困窮と健康問題については,国内外で多くの研究が行われており,経済的な困窮状態にあるものは,そうでない者と比べて主観的健康感は低く,うつ傾向にあり,不眠の割合が高く,好ましくない健康習慣を持つ者が多いことが報告されている(近藤,2007).また,糖尿病や高血圧の有病率や相対的死亡率の高さ(Banks & Marmot, 2006McDonough & Williams, 1999),受診を控えて,慢性疾患を悪化させる可能性の高さ(Murphy & Simpson, 2004),依存症を持つものの割合や自殺率の高さも指摘されている(四戸,2010厚生労働省社会・援護局保護課,2011a).このような中,受給者を対象とした健康管理支援事業が2005年度から開始された(厚生労働省社会・援護局保護課,2011b).この事業は保健師,管理栄養士,精神保健福祉士等により,日常生活の健康管理が困難な者に重点的に保健指導を行い,自立阻害要因の解消を図ることを目的としているが,実施自治体は限られている(浅沼,2016).さらに,福祉事務所における健康に関する支援体制の強化を目的とした体制づくりが2013年度より行われており,今後拡大が期待されているが,実施している自治体の割合は17%に過ぎないのが実情である(浅沼,2016).

米国において行われた福祉から就労への移行の阻害要因調査の結果,阻害要因として身体的・精神的健康問題,学歴・職歴,学習障害,物質依存,子どもの健康問題や発達障害が挙げられており(Taylor & Barusch, 2004),就労支援にはソーシャルワーカーのみではなく,保健師や理学療法士,カウンセラーなどの医療福祉職も多く関わっている(Derr et al., 2001CDSS, 2013).受給者は,もともと一般人口と比較して健康課題を持つものの割合が高い経済的困窮者であり,就労にも健康課題に関連した影響があると考えるが,日本においては受給者の健康問題が就労へ及ぼす影響について十分な調査が行われていない.就労意欲のある生活困窮者の健康問題が就労の妨げとなっている場合,医療従事者による支援が必要となる.これらは地域看護上の重要な課題であり,保健師や看護師が的確な相談や支援を提供する必要があると考える.日本においては就労支援を受ける生活困窮者がどういった健康特性を有しているかは明らかにされておらず,医療専門職が支援を提供することの妨げになっている可能性がある.本研究では,就労支援を受ける生活保護受給者,または生活困窮者自立支援法対象者の就労意欲に影響を与える健康特性の構造を明確化することを目的とする.なお,本研究では,生活保護受給者,生活困窮者自立支援法対象者を生活困窮者と示す.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

Corbin とStrauss(Corbin & Strauss, 2007/2014)のGrounded Theory Approachを用いて,就労支援を受けている生活困窮者へのインタビューによる質的研究を実施した.

2. 研究協力者

関東地方にあるA市において就労支援を受けている40歳から65歳までの生活困窮者を対象とした.A市において就労支援を受ける生活困窮者は,個々の就職活動のみでは就労に結び付かないものであり,担当の就労支援員が就職活動の状況の確認,マナーや就職に役立つ情報の提供を行っている.就労支援員が調査協力者募集のチラシを渡し,興味があれば研究者から調査の説明を受け,納得し同意するようであれば協力してくれるように伝えた.興味を持った生活困窮者は研究者から調査の説明を受け,同意が得られた方を対象としたインタビューを実施した.32名に説明を行い,31名から調査協力の同意を得た.

3. 研究方法

2016年11月から12月,行政機関内の面接室において,協力者とインタビュアー1対1で約1時間の半構造化面接を実施した.インタビューでは主に「就労に対する考え」,「現在の身体的,精神的,社会的健康状態」,「健康を保つために気を付けていること」,「就労準備を行うにあたり,感じている困難」について質問を行った.また,個人属性として,年代,婚姻関係,居住形態,就労経験を尋ねた.本人の許可を得て録音したインタビュー内容について逐語録を作成し,継続的比較分析を行った.生活困窮者の就労意欲に影響を与える健康特性を明らかにすることをテーマとし,逐語録から定義可能なすべての要素を抽出して切片化し,特性と次元を考慮しながらOpen Codingを行い,カテゴリーの把握と命名を行った.次に,カテゴリー同士の関連性を検討するAxial Codingを行い,抽象度の高い現象を把握するためのSelective Codingを行った.協力者1名の分析を行った後,次の協力者のデータと比較しながら分析した.分析とインタビューは並行して行い,分析過程で抽出された重要な概念については,その後に実施した他の協力者のインタビューにおいて詳細に聴くようにした.

分析の妥当性を確保するために,初期の分析段階からスーパーバイザーの指導を受け,Open Codingから分析結果のとりまとめまで,質的研究の専門家2名によるスーパービジョンを受けた.

4. 倫理的配慮

調査協力の任意性,回答の拒否が可能,匿名性の保持等を調査説明書に明記して口頭でも説明をし,署名による調査実施同意を得た上で調査を開始した.本研究への協力や拒否は,今後の生活保護受給には全く影響を与えないことを強調して説明した.過去の衝撃的な体験,苦悩の語りについては追体験やPost-Traumatic Stress Disorderをひき起こす可能性もあるため,就労に関連しない事項については 掘り下げて質問することを避け,協力者が自由に語る範囲での事象を聞くに留めた.個人が特定できる情報はトランスクリプトからも除去し,個別のプロフィールについて詳細な記述は避けた.本研究は,国際医療福祉大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号16-Io-103).

Ⅲ. 結果

1. 研究協力者の概要

協力者は男性25名,女性6名,計31名であり,年代は40歳代9名,50歳代14名,60歳代8名であった.調査説明後に調査参加を辞退したものが1名,31名は調査協力について同意が得られた.

協力者のうち,生活保護受給者は28名,生活困窮者自立支援法の対象者は3名であった.婚姻関係をみると,未婚11名,離婚9名,既婚3名,死別2名,離婚後再婚1名,不明5名であった.協力者の22名は単身者であり,そのうち11名は無料低額宿泊所に居住していた.無料低額宿泊所とは社会福祉法で「生計困難者のために,無料または低額な料金で,簡易住宅を貸し付け,または宿泊所その他の施設を利用させる事業」と規定されており(電子政府の総合窓口,2016),入居者の約9割が生活保護を受給している施設である(厚生労働省社会・援護局保護課,2015).協力者の過去の職業を分類した結果,サービス業(8名),製品製造(6名),営業,建築,販売(各5名)に従事した経験を持つものが多かった.研究協力者が有する疾患をみると,生活習慣病13名,運動器系疾患12名,精神疾患(うつ,依存症等)10名,ストレス関連疾患5名,感覚器系疾患3名であった.疾患を有する協力者は定期的に通院し,内服薬の処方を受けたり,必要な検査を受けるなどを行っていた.また,調査時点における自覚症状としては,疼痛7名,嘔気・嘔吐3名,身体可動性障害4名,排尿障害1名,疲労感2名,耳鳴2名,構音障害2名,自覚症状なし2名であった.なお,同一の協力者が複数職歴を有する場合や,疾患や症状の重複が多いため,協力者数と職歴総数,疾患や症状を有するものの人数は一致していない.これらの健康問題はあるものの,すべての協力者は,医師より就労可能との判定を受けていた.

2. 抽出されたカテゴリーと理論的飽和

インタビューの逐語録から,生活困窮者の就労意欲に影響を与える健康特性と関連する要因として,逐語録から1285セグメントを抽出し,そのうち,健康特性として878セグメント,4カテゴリーを抽出した.また,カテゴリー化の過程において,健康や就労意欲に影響を与える要因の存在が確認されたため,影響要因として 407セグメント,3カテゴリーを抽出した.表1に健康特性カテゴリー,表2に影響要因カテゴリーの生成結果を示した.文中の〖 〗はコアカテゴリー,【 】はカテゴリー,〔 〕はサブカテゴリー,〈 〉はラベルを表した.協力者28名の分析終了後,新たなラベルが抽出されず,カテゴリー間の関連性を説明できる統合図が完成したため,理論的飽和に達したと判断した.

表1 健康特性カテゴリーの生成結果
カテゴリー サブカテゴリー ラベル 発話内容例
他者から理解されがたい持続的な苦痛 身体機能障害による活動制限 疼痛や麻痺,身体の一部欠損による身体可動性制限
感覚器官の障害
長時間同一姿勢でいることが困難
排泄に関する機能障害
前職はお総菜をやっていた.お弁当屋だったんで,ちょこっとしたもんなら作れるんだけど.だけど,もっと手の込んだもんってなるとちょっと作れないし,もう今は包丁も,握るのもちょっと,細かいのがちょっとできなくなってきた(50歳代男性,脳梗塞)
清掃ぐらいであれば,そんなに細かい字を読むとか,そういったあれ(業務)がないじゃないですか.だから,ほかのことだとその,ねえ,何,パソコンをやったりしなきゃいけないじゃないですか,今の世の中は.ウエイターやるにしたって,例えばね,字を見たり,機械みたいのを今は操作したり,ねえ.そういったものもできないので.だから,必然的に,業種的にはもう絞られていくんです(40歳代男性,糖尿病)
頻繁にトイレに行くことがあるんで.ひどいと5分ぐらいで(トイレに行く).体調に合わせた仕事っていうと,ないんですね.ガスが結構出るんですけど,この病気は.そのこともやっぱりあるから.接客業が,駄目ですよね(60歳代男性,過敏性腸症候群)
客観的な評価が困難な症状 原因不明の症状
自分自身で症状を把握することが困難
強い疲労感
日や時間帯,季節により変動する症状
仕事へ向かってても,途中でもう,頭痛がすごかったりと.で,電話して仕方なく戻ってくるとか.そういうことがあったら,もう休み多いから,もう契約しないって言われて,雇い止め(60歳代女性,交通事故後遺症,うつ)
骨のほうは何とも異常はないよって.で,その先生によっては,これはそうやって,ほかの先生があれだけんども,たぶんこの首の痛風じゃないのかって.この筋膜炎っていうそういう,早く言えば,病名はないよって,言われたんです(50歳代男性,プレスで指を切断)
電車に乗れないんですよ.電車に乗ると何だか知らないけど,吐き気しちゃうんですよね,これで.めまいもするし.(電車に乗車して)5分か10分,満員じゃなくてもね.バラバラでも必ず,吐く.だからもう最近は一切,バスだけで(移動をしている).バスは大丈夫なんですね(50歳代男性,糖尿病,網膜出血)
ストレスへの脆弱さ ストレスに対する反応の強さ 生きることへの意欲の低下
意欲と身体状況の不一致
同じ仕事の継続が困難
精神的な健康問題
ストレスにより変動する症状
(数年前に)解雇になって,その後いろいろ転々として,あのA地域から始まって,B地域へ行って,で,C地域にも行って,Dにも行って,で,今は,E地域の結婚式場,そこなんですけど,そこで今は働いています(40歳代男性,腰痛,糖尿病,高血圧)
物音も怖かったですし,男の人の怒鳴り声も駄目だったんですね.作業服も,もちろん(駄目).(DVの加害者である)主人が作業服着てたんで,作業服も全然,そういう人たちいるともう固まっちゃったり,っていうような状態だったりとか,心臓がバクバクしたりとか.で,強烈だったので.何か過呼吸になったりとかしちゃう.(中略)一度はデイサービスで働いたけど,でも,やっぱり男の人の声とか,ケンカする声とか,大きな声っていうのは,ちょっと精神的に,かなりきつかったりとかして(40歳代女性,DV被害,うつ,糖尿病)
自分は生きててもしょうがないな.で,(中略)もう病気にもなったし,屋上にも行きましたし,河原に行ってナイフ持って行ったりもしました.何回もしましたね.人と話すのもいやだし,うーん.どっちかっていうと,そのこと(死ぬこと)しか考えてないです(50歳代男性,胃がん,うつ)
問題解決に至りにくいストレス対処 ストレス解消への不対応
偶然生じた出来事に対する負の意味づけ
現実逃避的な問題への対処
依存性のある物質使用や行動の選択
健康価値の低さ
ちょっと仕事にトラブルあって辞めたんですよね.そのころからちょっと,仲間っていうか,自分の意志も弱いんですけど,仲間とこうやって,覚醒剤とかね(使っていた).(詐欺などの)悪いことしてるのは,楽だからじゃないですか.(50歳代男性,薬物依存,高血圧)
ちょっとアルコール依存症なんでね.ほとんど今は飲まないですね.母親がお金をくれないって言った.働いてないからお金もらえない.飲みたくはなるよね.人と話してるときとか何かしてるときは飲みたくならないけど,1人で布団に入ってるときに飲みたくなるね.(中略)1週間に1回ぐらい飲んじゃうな.(今は)お金もらえないんで,(お酒を)買えないんでね(50歳代男性,アルコール依存)
(ギャンブルは)別に楽しみのためにやるんじゃないんだ,ああいうとこいうのはね.勝つか負けるか.やっぱりもともと職人だから.みんなそうだったんだ,職人なんていうのは(60歳代男性,高血圧,狭心症)
(精神的に不調なときは)何もしてなかったな(50歳代男性,うつ,腰痛)
社会的適応の困難さ 自ら支援を求めることが困難 相談相手の不在
自分で対処しなければならないという思考
ケアを要する家族の存在
頼ることが困難な家族
(子どもが)うつ病になっちゃって.(中略)(就労支援を受けている息子が)働かなかったら,病院通いも,具合悪い一方で,生活保護切られちゃうから.どうすんのよって言って.今悩んでます.(息子は)死ぬしかないかなって,そう言うの.「お母さん,生活保護切られたら死ぬんだよね」って(50歳代女性,うつ)
家庭持ってたらまた別なんでしょうけど,1人でしたんでね(60歳代男性,高血圧,手足のしびれ)
(寮の人と話は)それはする.みんな老人ばっかりだから.若いのは,いるけど(相談はしない)(40歳代男性,治療中の疾患なし)
他者との双方向的な関係構築が困難 安定した関係維持が困難
こだわりが強く,妥協が困難
他者への過剰な適応
他者への制限的な自己開示
異性への一方的な思い入れ
他者との協働が困難
激しい感情の起伏
こういうふうにしなくちゃいけないんだよって,かせをはめんのは結構好きですけどね.そういかないと,自分を裏切るようで,いやなんですよ.逆目に出ても,それは守りたいです.それで結構会社辞めてますからね(60歳代男性,過敏性腸症候群)
理不尽なこととか言われると,おかしいことはおかしいでしょうみたいな.リーダー・班長さんとか関係なくって,すごい攻撃性だって言われる.その前までは,もうグーッと我慢する時期があったんで,何を言われてもはいはいって,やればいいんでしょう的な感じだったんですけど.だけど今は何か,このリズムがちょっといま崩れているんですよね(40歳代女性,うつ)
ハローワークって一般の人でも,きれいな人がいるんですよ.あ,この人きれいだねって.これ,何とかならないかなって.だから,仕事を探しに行くというより,女性.女性がいるから(行っている)(60歳代男性,治療中の疾患なし)
変化への対応力の弱さ 就労に対する低い自己効力感
過去へのとらわれ
心身の負担となる職業を敬遠
予想していない事象への対応困難
メインの仕事は,そういう品だしとかなんだけど,相手先へ届けてほしいとか,取りに行ってほしいとか,そういうのもあるから,そっちもやってほしい.こっちも一緒にやってほしいみたいなのがあって(困ってしまった)(40歳代女性,不眠症)
車の運転でもしようかと思ったんだけど,それも年取るとみんないま事故が多くて,よく支援員さんとも相談してんだけどね.それやめてっから,駐車場の整備とか,そういうので.4時間か5時間ぐらいのパートで.駐車場のね,誘導何かあるから(60歳代男性,狭心症,がん,糖尿病)
(過去に稼いだお金が)どこに行っちゃったんだか.考えてもわかりません.ただ,とてつもない暮らしはしてました.月70・100万の生活をしてやってたんです.それをしたいがために,すべてを犠牲にしてきたから.そう,1年間休まない日もあった.人と違う暮らしをしたかったら,やっぱり何かを犠牲にしなきゃいけないわけで,(中略)たぶん時間を犠牲にしてきたんで(40歳代男性,治療中の疾患なし)
自己流の健康管理 苦痛の再燃予防を目的とした健康行動 依存物質からの離脱
苦悩した体験へのポジティブな意味づけ
苦痛の再燃を予防
他者との関係の維持
いいほうにいいほうに,自分で考えるようにはしてますね(50歳代女性,股関節亜脱臼)
(以前はお酒を)飲むなって言われてっから,一応少なくはしたんですけどね.飲み過ぎちゃうことが,たまにあったりして.食道静脈瘤がパンクして吐血して,救急車で運ばれて,そして,1週間で退院してきたのかな.(中略)もうそこからは,もう2年ぐらい飲んでなかった.今,もう(飲酒は)やめた(50歳代男性,アルコール性肝硬変)
一番(たばこを)吸ってたのは,(1日に)二箱.休憩所があって,そこで吸うから,1本自分が付けて消したばっかりで,ほかの人が吸っていると,つい持って行っちゃうんですよ.病気やってから,(たばこは)ぴったりやめたんですよ(50歳代男性,胃がん,うつ)
現状維持のための健康行動 定期的な運動の実施
可能な範囲での食事の工夫
自覚症状の観察
規則的な運動をする,食事をちゃんとする,散歩をして気分転換を図るなどを意識的にしています(40歳代男性,アルコール依存の既往)
できる限り朝と昼は,生野菜を自分で買って.食べるようにしてるんです.(昨年から)急に太ってしまって,ほんで,足にも負担を掛けてしまうんだろうって思って,ダイエットみたいなのをしてるんですね.ほんで,今まで朝昼晩3食食べてたんですけども,いま御飯は夕食のみの1杯でおかずと,ほんで朝はもう,朝昼は御飯食べずに,もうそれこそ朝は.昼は生野菜を食べて,そんで,夜は3食.この3カ月で大体,9キロ近く痩せて(50歳代男性,関節リウマチ)
(健康のために行っていたのは)散歩.30分.長ければ1時間ですけど.動けないと動けなくなっちゃうかもしんないから,わざと動いてないといけないなって.(中略)散歩とか自転車やってなかったら(今の仕事は)どうなんだろうという.続かなかっただろうなって(50歳代男性,脳梗塞)
表2 就労意欲に影響を与える要因カテゴリーの生成結果
カテゴリー サブカテゴリー 発話内容例
生活保護廃止への不安と葛藤 健康問題を理由とした再就職への諦め (症状自体は)ひどくなってるんですけど.かといって,就職活動ができないわけじゃない.だから,ちょっとびっこだけど歩けるし,書けないけど,一応できる仕事があるんじゃないかっていうふうなあれだから,お医者さんも,本人がやるんなら.やる気があるならば(就労することは可能)(50歳代男性,糖尿病,網膜出血)
土木関係をやってたんですけどね.そういう仕事をして腰を痛めて.だから,重いもん持ったり,そういうのはなかなか.ちょっときつい仕事はね.荷物持ちながらこうやって運んだりするのは駄目(50歳代男性,高血圧,腰椎ヘルニア)
就労により生活状況が悪化するとの予見 私の場合はもうね,病気と今はあと年齢.もう正社員で採ってくれるとこってもうほとんどないんですよ.よっぽど何か手に職でも持ってない限りは(50歳代男性,糖尿病,網膜出血)
就職できました.保護抜けてくださいってなっちゃうと,ちょっときつい(50歳代男性,脳梗塞)
社会から排除されているという感覚 再就職に至らないことによる挫折感 清掃業でも最近保証人を取る会社は,多いんですね,非常に.だから自分の場合も,保証人がいないもんで,だから,なかなか清掃,そういった会社も決まらず(40歳代男性,糖尿病,腰椎ヘルニア)
僕なんかは,要するに障害者なんですけど,頭とか,そういうんでちょっと(重度の障害者は),手厚く国とか施設とかで,そういう働くステージを与えられているじゃないですか.結局,中途半端な障害者は,その中途半端な障害を理由に断られるのが多いのかなっていうのが,すごい自分で,それは本当に痛感しますよね(50歳代,糖尿病,下腿切断)
生活保護受給に対する否定的な認識 相手側がもう,住所とか見るとわかるんですね.生活保護を受けてる施設の者だっていうのは.そういったあれもあって,なかなか受からず(40歳代男性,糖尿病,腰椎ヘルニア)
(生活保護を受けること)それもいやでしたね.もう恥ずかしい話だけど,(生活保護の)お世話になっちゃってるから,もうしょうがないんですよ.本当,人には言えないですよ,みっともなくて.こんな悲しいこと言えねえですよ,みっともなくて.でも,しょうがないんだよなって,我慢するしかないときもあるんで(50歳代男性,胃がん,うつ)
地域とのつながりが制限された生活環境 (宿泊所の住人とは)あんまり話はしませんね.会うのは,食事のときだけ.朝夕,夜かは会いますけど.食事のときは,一切(話しては)駄目(50歳代男性)
住むとこあったらみんな(無料低額宿泊所を)出たいんだよ.(中略)人間のいるとこじゃない.今どきエアコン付いてねえんだもん.ストーブも時間になると切られちゃうし.(中略)11万幾らの(生活保護費が)出るのに,9万幾らも取られるんだから(60歳代男性,高血圧,狭心症)
就労することへの期待 就労によりもたらされる利益の認知 やっぱり1人でジーッとしているのと,やっぱり働きに出たほうが,やっぱり全然違いますよね.やっぱり働き行けば,仕事は1人でやる仕事なんですけど,やっぱり休み時間とかそういうときは,朝とかそういうときは仲間っていうか,人と口きくっていうのは,やっぱり違いますよね.他人と関わりをもつっていうか.(一人でいる時と比べて)気持ちがやっぱり,張りが違いますよね.何もしないでいるより,やっぱり,たとえ1日短くても,働いてたほうが,充実感っていうのは違うと思うんですけどね(60歳代男性,高血圧)
今の生活から抜け出すとか,自立したいと思ってるんで,いま仕事を探して.自分もこういう生活から,まあこれ以上やっちゃうと,ダラダラしてるから,早く仕事を見つけて,そっちのほうに専念できたらなと思ってるんで(50歳代,喘息,高血圧)
就労への心理的バリアの低さ もう古い友達とも縁切りたくて(中略).断ち切ったんです.刑務所,これ,獄死しちゃうな.(中略)このままだったら.前回刑務所へ入ったとき,両親が死んじゃったんです.それが一番強かった(50歳代男性,薬物依存既往,高血圧)
仕事を選ばなければ,何とか探せるかなと思っています(40歳代男性,アルコール依存既往)
自分が周りからそんだけ求められて,求められるっていうか,頼りにされるとか,ね.あとは自分がそれに応えていけるか.家庭であり,職場であったり,地域だったり,それは自分の居場所だと思います.その3点がなくなったら,だっていたって仕方ないんだから,そういうところへ入っちゃえばいいんだから.逆に言えば,もうね,それがないと,やっていけないと思う.(中略)周りにまだ,こうやって励ましてくれる人もいるし,女房もいるから頑張るかってなるから,(仕事を始めて)早く安心して暮らせるようにしていかなきゃなんねえかって(50歳代男性,指をプレスで切断)

3. 就労意欲に影響を与える健康特性

就労意欲に影響を与える健康特性のカテゴリーとして,【他者から理解されがたい持続的な苦痛】,【ストレスへの脆弱さ】,【社会的適応の困難さ】,【自己流の健康管理】が抽出された(表1).

1) 【他者から理解されがたい持続的な苦痛】

このカテゴリーは,疾患や障害に由来する機能障害や苦痛を伴う自覚症状による活動の制限,また,客観的な評価が困難な状態であり,本人は苦痛を感じているものの,他者からはその苦痛を理解され難い状況を表していた.本人が感じている持続的で予測不可能な苦痛が就労活動に負の影響を与えているが,他者からの理解が得られず,適切な支援も受けられていないという状況についての多くの語りが聞かれた.

2) 【ストレスへの脆弱さ】

このカテゴリーは,ストレスに対する反応として,生きること,活動することなど,すべてのことに対する意欲が低下しており,ストレスによる症状の悪化や,就労することや就労継続に対する意欲がそがれる状態であり,ストレスに対し,問題を根本的に解決する方策をとるよりも,問題から気持ちをそらすための対応をとる傾向を表していた.数多くの協力者が[問題解決に至りにくいストレス対処]を行っていた.ストレス源となる問題を解決するというよりも,ストレス源となる問題から気をそらす〈依存性のある物質使用や行動の選択〉などのストレス対処について多く語られていた.

3) 【社会的適応の困難さ】

このカテゴリーは,他者との穏やかで継続的な関係を維持することが困難で,問題が生じても他者の力を借りずに自分で対処しようとし,変化に対する適応が困難である傾向を示していた.協力者の多くが他者からの助けを得るよりも,自身での対応を心がけており,〈他者への制限的な自己開示〉をする傾向が語られていた.変化への対応力も弱く,就労へも負の影響を与えていた.

4) 【自己流の健康管理】

これは,自己の健康状態の維持,または過去の苦痛を伴う体験の再燃を避けるために自分自身で考案し,継続している健康行動を示す.疾患や自覚症状は様々であり実施している健康行動はそれぞれに異なるが,苦痛の再燃を防ぐために依存物質の制限,食事,運動,休養,精神的・社会的な健康を保つための取組や,現状維持のために意識して取り組んでいる定期的な運動,食事の工夫などの健康行動を表すカテゴリーであった.協力者により語られた運動は,単独で行える「散歩」や「自転車に乗る」ことであり,他者と楽しむスポーツや活動を実施しているものは全くいなかった.

4. 就労意欲に影響を与える要因

就労意欲に影響を与える要因として,【生活保護廃止への不安と葛藤】,【社会から排除されているという感覚】,【就労することへの期待】の3カテゴリーが抽出された(表2).

1) 【生活保護廃止への不安と葛藤】

このカテゴリーは,就労による自立と生活保護の継続を比較し,生活保護継続による利益が勝っていると感じ,生活保護廃止へ不安を感じている状態を示していた.このカテゴリーに該当したのは,生活保護を受給しているすべての協力者の発言であり,ほとんどの協力者が今後就労できるか不安を抱え,さらに就労できたとしても〈生活保護と同等の収入を得ることが困難〉であると捉えており,就労意欲に対してネガティブな影響を与えていた.

2) 【社会から排除されているという感覚】

これは,保有しているスキルはあるものの,それを活かせる職場がないこと,生活保護を受給していることが影響して再就職に至らず,挫折感を抱いている状態を表すカテゴリーである.経済面も含め,不自由で孤立した生活をせざるをえない生活環境にあるため,生活保護受給者であることを受容しきれず,否定的な認識を高めている状態を示していた.就労して自立することを希望しているが,それが叶わず,生活保護に頼らざるを得ないという状況により生じており,さらに住居を失い,無料低額宿泊所へ入所することが,就労への足かせとなり,就労に対する意欲の低下を生じていることが語られた.

3) 【就労することへの期待】

健康状態が向上し,過去の就労経験や就労の意義を再確認することなどにより,就労に対する心理的な障壁が低い状態を示す.本カテゴリーは,31名中26名の発言から抽出されており,協力者のほとんどが就労することを前向きにとらえていることが示されていた.

5. カテゴリーの関連性とコアカテゴリー

就労意欲に影響を与える健康特性の4カテゴリーと,関連要因3カテゴリーの関連性から,コアカテゴリーとして,〖健康課題を抱えながらの就労と生活保護受給継続との間での就労意欲のゆらぎ〗を抽出した.このコアカテゴリーは,就労支援を受ける生活困窮者らは,就労を行うことでの利点はあるが,課題を持ちながら就労することの負担は大きく,生活保護受給を継続することで生活は成り立つため,就労したい気持ちはあるが,したくない気持ちも大きく,就労意欲が揺らいでいる状態を示す.

本研究で抽出した,就労意欲に影響を与える健康特性と関連要因相互の関連性について 図1に示した.【他者から理解されがたい持続的な苦痛】,【ストレスへの脆弱さ】と,【社会的適応の困難さ】は各要因が円環的に関わり合い,就労意欲のゆらぎに負の影響を与えていた.さらに就労意欲に影響を与える要因である【社会から排除されているという感覚】や【生活保護廃止への不安と葛藤】も,就労意欲に負の影響を与えていた.しかしながら,【自己流の健康管理】や【就労することへの期待】,また,【社会から排除されているという感覚】のうち[生活保護受給に対する否定的な認識],[地域とのつながりが制限された生活環境]から抜け出したいという認識は,就労意欲のゆらぎに対して正の影響を与えていた.

図1

就労意欲に影響を与える健康特性と関連要因カテゴリーの関連性

Ⅳ. 考察

本研究において,就労支援を受ける生活困窮者のほとんどが,身体的,精神的,社会的な健康課題を抱えていた。これらの課題は支援者などの他者が客観的に評価することが困難で,周囲の人々からの理解を得ることは難しく,さらに【社会的適応の困難さ】や【ストレスへの脆弱さ】から,孤立しやすく,他者からの支援を受けようとしない状況があることが明らかになった.彼らが有する健康課題は単一ではなく,ほぼすべての協力者は様々な課題を併せ持っていた.

1. 健康特性とその背景

協力者の多くは【他者から理解されがたい持続的な苦痛】を有していた.自らコントロールすること,予測することが困難な症状を有する協力者は,症状への対応に苦慮していた.医療機関を受診しても,原因が特定されず,さらに症状の日内変動があると,他者からの理解を得ることは困難になりやすく,他者から,また,医療従事者からも詐病を疑われることもある.他者から詐病を疑われると,無理をしてでも仕事に通わなければならなくなり,結果的に健康状態はより悪化することが予測される.日本では,医師の診断書を基に主に福祉事務所に所属するケースワーカーが就労の可否を判断している(荘村,2017).本人は苦痛を感じて継続的に診療を受けていても,通常の診察のみでは本人の訴えを充分に聞くだけの診療時間を確保することができず,医師も身体所見をもとに判断を下すしかない状況になるため,本人の認識とのギャップが生じ,医療従事者やスタッフとの信頼関係にも問題が生じる可能性がある.

【他者から理解されがたい持続的な苦痛】の一つに.医学的に明確な問題がなくとも身体的な症状を有すること,つまり,心理的な問題の身体化が生じている可能性も考えられる.身体化は,他者との愛着に関連することが知られており,特定の他者に対する不安定な愛着モデルを有するものは,高い確率で身体化が生じることが明らかにされている(Ciechanowski et al., 2002).この不安定な愛着は,幼少期のトラウマにより生じ,成人後の身体化を誘引する要因となると考えられている(Waldinger et al., 2006).今回の調査では,幼少期の経済状態や家族の状況について意図的に質問はしていないが,経済的に困窮状態にあるものは,貧困家庭に育ったものも多く存在する可能性があり,幼少期の経験により,他者との愛着に課題が生じ,結果的に身体化が引き起こされるという状況が 一般人口に比べてより高頻度に生じている可能性がある.また,症状の日内変動は,双極性障害や自閉症スペクトラムなどでも生じることも指摘されており(戸谷ら,2016鈴木ら,2014),原因と対策について丁寧なアセスメントを行う必要があると考えられる.

【ストレスへの脆弱さ】の側面をみると,就労や日常生活に対する意欲がわかないというだけではなく,希死念慮を有していた者や,自殺企図の経験を持つ協力者も複数存在した.厚生労働省の報告(厚生労働省社会・援護局保護課,2011a)によれば,受給者の自殺率の高さはうつ病,統合失調症,依存症を有するものの割合の高さによる影響があるものと推察されているが,本調査では精神科の受診をしていない協力者の中にも希死念慮を有していた者が複数存在していた.【ストレスへの脆弱さ】に加え,身体的健康状態や,【社会的適応の困難さ】,就労活動に対するプレッシャーなども関連して希死念慮につながる可能性も推察されるため,就労支援上,特に配慮すべき事項であると考えられる.

ストレスの対処行動を見ると,協力者の多くがストレス源となる問題から気をそらすという情動焦点型対処に依拠していた.ストレス対処として,飲酒,喫煙,ギャンブル,覚せい剤の使用など,〈依存性のある物質使用や行動の選択〉を行っていた協力者も多く,経済的困窮者の喫煙率やアルコール,薬物の問題を持つものの割合が高いとするこれまでの調査報告と一致していた(四戸,2010厚生労働省,2010富田・三徳,2011).調査時点において物質依存の状態にある協力者はいなかったが,就労による自立をきっかけに物質依存が再燃する可能性もあり,再発を防ぐための取り組みが求められると考えられるが,現状としては医療従事者や自助グループなどによる支援は受けていない状況にあった.

多くの協力者の身体的,精神的な健康状態は良好ではなく,さらに【社会的適応の困難さ】という特性を有するものも多かった.自ら支援を求めることが困難であることは,「自分の問題は自分で解決しなければいけない」といった規範意識により生じている可能性もある.自己コントロールという側面から考えると強みとなり得る意識ではあるが,自己努力のみで対処困難となった場合,他者からの助けを得ることができず,問題解決が困難となる可能性も高い.本研究の協力者の多くは家族や友人からのサポートを期待できない状況であるため,サポートを求める相手は公的なサービス提供者に偏りやすい.対応するのは生活保護のケースワーカーや,就労支援員になるが,支援に費やすことができる時間も内容も限定され,提供される支援には限界があるのが実情である.

2. 就労意欲の揺らぎと影響要因

身体的,精神的,社会的な健康課題を抱えながらの就労には困難が伴う.健康課題が完全に消失するものではなく,それらの課題を持ちながら就労しなければならず,就労に対する意欲が低減する可能性が高い.今回の調査協力者が持つ健康状態と就労に対する不安は,就労へのハードルをより高くし,生活保護への心理的な依存をより高めてしまう.生活保護受給のベネフィットは当事者でない者が想定するよりも,受給者にとって大きいものであると考える.そのため,健康状態がある程度改善した上で,就労の利点をイメージし,もっとよい生活を送りたい,もっと自立的な生活をしたいといった強いモチベーションを持たなければ,就労意欲は低下し,生活保護のベネフィットに頼ろうとする心理状態に容易にいたることが推察される.

3. 健康課題を持ちながら就労支援を受ける生活困窮者支援実践への示唆

本研究で抽出された生活困窮者らが抱えている【ストレスへの脆弱さ】や【社会的適応の困難さ】,また,【他者から理解されがたい持続的な苦痛】と複雑に絡み合っている問題の根底には,愛着の問題や自尊感情の低さなどの課題が存在する可能性がある.ケースワーカーや就労支援員のみでこれらの問題に対して対応することは困難であり,保健師や看護師,理学療法士や作業療法士などの医療職や心理領域の専門家が関わる必要があり,多職種が連携することで効果的な支援を提供できる可能性が高まると考える.看護師や保健師は,医療,福祉,教育,保健,行政など,多くの場で勤務し,これらの課題に対して幅広い対応が可能な職種である(Bulechek et al., 2008).就労意欲に負の影響を与える身体的な症状の緩和に向けた介入や,身体的症状への精神的,社会的な課題の影響をアセスメントし,それら一つ一つの課題の解決を目指しながら,対象者を全人的に捉えてエンパワーする役割を担える職種である.こういった立場から,多職種連携のなかでコーディネーターとしての役割を取ることも可能であると考えられる.

本研究結果からもわかるように,生活困窮者のこれまでの人生は過酷なものであり,死を意識したことがあるものも多く存在していた.苦悩を感じつつも生活を続け,生活保護をうけながら命を保っている状況であることを忘れてはならない.健康管理支援者がその過程を生活困窮者の「強み」と捉え,その人を支える姿勢を意識した対応を行うことで,生活困窮者の心理的苦悩が改善していくことが予想される.就労をゴールとして前面に押し出すのではなく,看護師や保健師による健康課題の改善を目的とした支援を通じてストレスに対するストレングスを高め,ソーシャルスキルをブラッシュアップし,周囲の人々との関わりを通じて社会との繋がりを感じてもらいながら,徐々に就労にシフトしていく方法を取ることは,就労による自立への支援としてより適切であると考える.

4. 研究限界と今後の課題

本研究は,限定された地域で実施した調査であるため,他の地域で実施した場合,異なるカテゴリーが抽出される可能性が考えられる.今後,様々な地域で質的調査のみでなく,量的調査も合わせながら研究を実施し,結果の一般化可能性を高めるための取り組みを行う必要がある.

付記:本論文の内容の一部は,第37回,第38回日本看護科学学会学術集会において発表した.また,本研究は,国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:インタビューにご協力をいただいた生活困窮者の皆様,行政機関職員の皆様に感謝申し上げます.

なお,本研究はJSPS科学研究費の助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MTは本研究の発想,研究計画の作成,研究の実施,インタビューデータの解釈,論文執筆を行った.MAはデータの解釈,考察についての助言を行った.

RY,RH,SO,IKは,研究計画の作成やデータの解釈についての助言を行った.すべての著者は,最終原稿を読み承諾した.

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