Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Achievements of Ongoing Implementation of the Progressive Muscle Relaxation for the Elderly with Dementia in the Group Homes and Small Multifunctional Satellite Home-care Services
Shiho IkemataYumiko Momose
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2018 Volume 38 Pages 328-335

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Abstract

目的:本研究は,認知症高齢者居宅事業所における研究者と施設職員によるアクションリサーチによって,認知症高齢者への漸進的筋弛緩法を継続実施した成果を明らかにすることを目的とした.

方法:研究者と施設職員によるミューチュアル・アプローチを使用した.研究者による施設職員へのインタビューと施設職員の実施状況のメモについて,帰納的に分析した.認知症高齢者の行動・心理症状(以下,BPSD)の調査データは,量的に分析した.

結果・結語:認知症高齢者に漸進的筋弛緩法を継続実施した成果は,施設職員が漸進的筋弛緩法を主体的に実施するようになったことであり,認知症高齢者のBPSDが減少したことであった.また,施設職員および認知症高齢者にとって漸進的筋弛緩法の実施が肯定的な意味を持つようになり,相乗効果として良い影響を及ぼしたと考える.

Ⅰ. 緒言

厚生労働省による認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)では,「認知症の人の意思が尊重され,できる限り住み慣れた地域の環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」とされている(2015).認知症高齢者が可能なかぎり住み慣れた地域で生活を継続できるよう介護サービスの整備が進められているが(河合・横山,2014),このような地域密着型の居宅サービスには,認知症対応型グループホーム(以下グループホーム)や,小規模多機能型居宅介護(以下小規模多機能)がある.新オレンジプランの7つの柱の一つに,認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供があり,行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;以下BPSD)への適切な対応が求められている.グループホームや小規模多機能には,医療職員が常置しておらず,BPSDに対して非薬物療法的な対応を工夫することが求められているが,BPSDへの対応方法がわからないため,直面するとどうしようと慌ててしまうことが多く,BPSDの出現が最も困る要因ともされている(吉田・服部,2013).

認知症高齢者への非薬物療法の一つとしてリラクセーション法があり,リラクセーション法を認知症高齢者に実施した先行研究には,アルツハイマー型認知症の高齢者を対象とした漸進的筋弛緩法(百々・坂野,2009Suhr et al., 1999)などがあり,BPSDが軽減したとの報告がある.しかし,対象数が少ないことや,対象者の背景にばらつきがあるといった理由から,一般化されるには至っていない.研究者らは,グループホームにおいて認知症高齢者への漸進的筋弛緩法の介入を行い,一部のBPSDを改善する傾向があることを明らかにしたが(Ikemata & Momose, 2017),主体を研究者から施設側に移行することが今後の課題であった.佐藤ら(2016)は,研究者主導による従来の介入研究では当事者のエンパワメントに基づいた住民主体の活動モデルを提示することが難しい,としている.本研究では,研究者と施設職員が協力して行うミューチュアル・アプローチを用い(Holter & Schwartz-Barcott, 1993),認知症高齢者に漸進的筋弛緩法を施設職員が継続実施したことによる成果を明らかにすることで,認知症高齢者居宅介護事業所における漸進的筋弛緩法の実施について提唱できると考える.

Ⅱ. 研究目的

認知症高齢者居宅事業所における研究者と施設職員によるアクションリサーチによって,認知症高齢者への漸進的筋弛緩法を継続実施した成果を明らかにすることを目的とした.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

アクションリサーチであり,研究者と施設職員によるミューチュアル・アプローチを使用した.

2. 研究参加者

A県B市にある1施設を対象とし,グループホーム2ユニット及び小規模多機能1フロアの施設職員と認知症高齢者を対象とした.施設職員の選定では,研究の同意の得られた者で,フロアでのレクリエーション実施を担当する常勤職員を主とした.認知症高齢者の選定基準は,1)グループホーム入所後3ヶ月以上経過していること,2)認知症の程度が軽度~中等度であること,3)レクリエーションへの参加が可能であること,4)BPSDが認められること{Neuropsychiatric Inventory Nursing Home Version(以下NPI-NH)得点が1点以上}とした.また,除外基準は1)3ヶ月以内に抗精神病薬,抗不安薬,抗うつ薬の内服を開始したもの,あるいは種類・量を変更したもの,2)治療中の急性疾患があるものとした.

3. 研究期間

平成27年5月~平成28年8月

4. 研究手順

研究者は,施設職員へ漸進的筋弛緩法の実施方法について集団教育を行った.集団教育では,研究者が施設職員へ実施手順を説明し,漸進的筋弛緩法の指導方法についてデモンストレーションを行った.漸進的筋弛緩法は,前腕・上腕,下腿・大腿部(前面),下腿・大腿部(後面),胸部,肩部,前額部,眼周囲・下顎の7筋群について行う簡易法とした(近藤ら,2011).研究者および施設職員にて実施計画を立て,施設職員による認知症高齢者への漸進的筋弛緩法の実施を開始した.実施後2週間頃までは,研究者は施設職員による認知症高齢者への漸進的筋弛緩法の実施状況を確認した.

5. データ収集・分析

認知症高齢者への漸進的筋弛緩法介入後,1,2,3,6ヶ月時に,研究者は施設職員へ半構造化面接(インタビュー)を行った.インタビュー内容では,“漸進的筋弛緩法を実施して,気づいたことや感じたことはありますか?”などとし,施設職員に語ってもらった.その過程で施設職員が漸進的筋弛緩法を実施する上での課題や困難が明らかとなった際には,研究者と施設職員が話し合い,その解決策を探った.施設職員は日々の実施状況をメモに残した.インタビュー内容は,ICレコーダーに録音し,録音した会話内容から逐語録を作成した.研究者は逐語録や実施状況のメモを読み,データと文脈から施設職員の反応,認知症高齢者の反応,両者の相互作用に関わる記述箇所や,実施上の課題や困難,解決策に関わる記述箇所を取り出し,帰納的に分析した.分析の厳密性については,研究指導者よりスーパーバイズを受けた.認知症高齢者に対する漸進的筋弛緩法の介入前後におけるBPSDの状況を把握するため,研究者は施設職員へNPI-NH(繁信ら,2008)とN式老年者用精神状態尺度(以下NMスケール)(小林ら,1988)の評価を依頼した.分析には,SPSS version.23を用いた.介入前後のNPI-NH及びNMスケールの平均値の差の検定については,ウィルコクソンの符号順位検定を行った.

6. 倫理的配慮

施設長及び施設職員,認知症高齢者,認知症高齢者の家族へ口頭と文書により研究の趣旨を説明し,同意を得た.本研究は,椙山女学園大学看護学部研究倫理審査委員会における承認(No. 137)を得て行った.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の概要

施設職員9名の平均年齢は45.56 ± 16.46歳,性別は男性1名,女性8名,職務経験は1年以上5年以下で3年経験未満は2名,3年経験以上が7名であった.資格はヘルパー,介護福祉士,看護師らであった.認知症高齢者は女性7名,平均年齢は85.36 ± 5.30歳,認知症のタイプは,アルツハイマー型5名,レビー小体型1名,不明1名,要介護度3~4(平均3.29),入所期間2~4年,NPI-NH得点の範囲は1~21点(平均9.29点)であった.

2. 施設職員における漸進的筋弛緩法実施上の課題や困難および解決に向けた研究者との関わり(表1

施設職員が認知症高齢者に対して漸進的筋弛緩法を実施する上で困難に感じたことは,「重症の方がいる時は,時間にゆとりがない」や,「職員間のコミュニケーションが取れていない」などがあり,その対応を検討し職員間での協力体制の調整や実施時間の調整が行われた.また,「動作の説明がうまく理解できない方もいる」などの課題に対して,研究者は認知症高齢者個々の理解度に応じた伝え方を工夫すること,漸進的筋弛緩法の意義・目的を施設職員に再度説明を行った.また,「カレンダーのコメントを実施方法の参考にしているが,続けていった方が良いのか」や「1日2回実施したいが,良いのか」との質問や提案に対しては,職員間の情報共有の方法や必要性を確認し,実施の継続や実施回数について研究者と職員で検討し決定した.「声を出してもらえるようにアレンジして行っているが,どこまでアレンジして良いのか迷う」に対しては,研究者が施設職員の実施方法を確認した.加えて,緊張・弛緩動作の方法を研究者と施設職員で再度確認し,認知症高齢者に声を出してもらうのは可能であることを研究者から施設職員に説明した.

表1 施設職員における漸進的筋弛緩法実施上の課題や困難および解決に向けた研究者との関わり
漸進的筋弛緩法実施上の課題や困難 施設職員と研究者の関わり
重症の方がいる時は,時間にゆとりがない 実施時間の調整を行うこことした
皆で輪になってやれると良さそうだ 実施時の配置を調整することとした
一生懸命に力を入れて行っているので心配になる 研究者が施設職員へ緊張動作の説明と確認を行った
動作の説明がうまく理解できていない方もいる 研究者は認知症高齢者個々の理解度に応じた伝え方を工夫すること,漸進的筋弛緩法の意義・目的を施設職員に再度説明した
ちゃんとできている感じがしない
音楽があると良さそうである CDやメトロノームの使用を検討することとした
力を入れる動作,力を抜く動作でテンポが変わるとわかりやすい
顔の動作は説明が難しい 研究者と施設職員にて顔の動作に合わせた声の掛け方を検討した
実施にあまり関わらない職員がいたり,職員間のコミュニケーションが取れていない 職員間のコミュニケーションの取り方,職員間での協力体制について調整していくこととした
実施しなければならないと思うと,負担になる職員もいるかもしれない 一部の施設職員だけで実施し,負担に感じる事が無いようフォローできる体制を整えていく必要性を確認した
施設職員の勤務体制に合わせ,職員同士で協力していくこととした
夜勤明けで実施する施設職員の時には,協力していくことを徹底することとした
介入前後での大きな変化は無いように感じる 研究者が施設職員へ実施前後の認知症高齢者の様子,変化や反応を捉えていくことを説明した
カレンダーのコメントを実施方法の参考にしているが,どうか 職員間の情報共有の方法や必要性を確認した
1日2回実施したいが良いか 実施の継続の確認と2回の実施でも良いことを研究者が施設職員へ説明した
声を出してもらう等アレンジしているが,どこまでアレンジして良いのか 研究者が施設職員の実施方法を確認し,アレンジしている方法で良いことを説明した

3. 漸進的筋弛緩法を継続実施したことによる施設職員への成果(表2

施設職員の反応に関して135のコードの中から,31のサブカテゴリーと11のカテゴリーが抽出され,3つの大カテゴリーが生成された.以下,コードを「 」,サブカテゴリーを〈 〉,カテゴリーを《 》として説明する.「初めは恥ずかしそうに実施していた施設職員が自発的に行うようになった」,「実施に慣れ,スムーズに取り組めている」など〈実施への慣れ〉や〈実施への浸透〉により《実施の習慣化》に至った.「職員全員が自信を持ってできるようになった」,「前向きな姿勢で取り組めている」など〈実施への満足や自信〉や〈実施への興味や意欲〉といった《実施への肯定的な姿勢》がみられた.「(認知症高齢者は)体を動かすことをしたくないと思っていたが,施設職員の思い込みであることに気づいた」など〈認知症高齢者への認識の変化〉といった《認知症高齢者の理解》がみられた.

表2 漸進的筋弛緩法実施による施設職員の反応と認知症高齢者の反応および両者の相互作用
大カテゴリー カテゴリー サブカテゴリー
施設職員の反応 実施の習慣化 実施への慣れ 初めは恥ずかしそうに実施していた施設職員が自発的に行うようになった
実施方法がわかり,できるだけゆっくりと丁寧に行っている
実施の浸透 施設職員へ浸透してきている
実施に慣れ,スムーズに取り組めている
施設職員が認知症高齢者に合わせた言葉の掛け方ができるようになっている
食事前に実施することが習慣づいている
施設職員の実施の仕方が上手になっている
実施への肯定的な姿勢 実施への満足や自信 人に教えることが苦手であったが,伝わっていることがわかってきた
楽しく実施することを意識している
職員全員が自信を持ってできるようになった
実施への興味や意欲 施設職員が気持ち良いねと関心を持ってくれている
自然とやろうと思えている
皆以前よりも前向きな姿勢で取り組めている
空いた時間にやる意識が芽生えた
楽しみやリラックス 施設職員自身のリラックスできる時間,息抜きになっている
施設職員自身が体が楽になって,リラックスできている
始めはどきどきして実施していたが,今は楽しい
実施方法の工夫 声の大きさを工夫し,力を入れる,入れない動作の強弱をつけ実施している
認知症高齢者への声掛けが多くなった
足の動作が行いやすいように工夫した
正確に行うよりも,そこに意識を向け集中してもらうようにした
足の動作はできる人だけ実施して,できない人は手を動かすように実施した
楽しくやろうとして施設職員も時々アレンジしている
実施回数の増加 できる範囲で実施する回数を増やしている
職員間の協力 職員同士で声をかけることが出来ている
他の職員も協力してくれている
レクリエーションへの意欲 他のレクリエーションでも皆で集まって何かできたら良いと思う
認知症高齢者への理解 認知症高齢者への認識の変化 嫌がっていても,本当は話をして欲しいのではないかと思った
体を動かすことをしたくないと思っていたが,施設職員の思い込みであることに気づいた
実施してみて(認知症高齢者)も体を動かしたいということを,感じた
認知症高齢者への関わりの変化 コミュニケーション方法を工夫しようと思うことは増えた
認知症高齢者の反応 実施の習慣化 実施への慣れ 慣れてきている感じがする
実施の浸透 実施に慣れ,認知症高齢者が素直に掛け声をかけながら実施している
疲れを表出する方もあるが,思い切り実施して,楽しみながら実施できている
できる動作が増えてきている
実施時に傍にいることを嫌がらなくなった
手を持って介助していたら,最初に比べて実施するようになった方がいる
参加の増加 絶対参加しないと思っていた方が,参加するようになった
参加してくれなかった方が参加するようになった
嫌々やっていた方もやるようになった
実施できる方,実施しようとする方が増えてきた
皆が刺激されて,実施しようとする方が増えた
じっとして動かなかった方も実施してくれるようになった
前は嫌々やっていたけれども,やろうかという姿勢の方が増えた
皆が手を上げたり体を動かしているのを見て,実施するようになった方がいる
利用者のやる気なのか,前より参加する方が多い時がある
出来ない人は輪の中に入っていなかったが,体だけでも向けるようになった
実施による肯定的な変化 言動や表情の改善 言葉や表情は良くなった
表情が穏やかになった
表情が明るくなった
自己効力感が下がっている方がいるが,一緒に行うことで笑顔が見られている
体操をした後に食べるおやつはおいしいと言っていた
「体操するよ」と声をかけると,「はいよー」と椅子を前に出すようになった
声を出してくれるようになった
不穏でも,体を動かすとその後のお茶の時間では不穏が見られにくい
実施していない時間は不穏で,皆と一緒に実施する時間は不穏がなかった
活気の出現 声掛けにも反応がなかった方が生き生きとしてきた
認知症高齢者がとても最近元気である
活気が出てきた方がいる
関心の出現 認知症の進んだ方でも周りへの関心が出てきている感じがする
実施するよと声をかけると,関心を示してくれるようになった気がする
他者との交流の増加 おしゃべりをする機会が増えた
認知症高齢者同士が話すことも増えた
リラックス反応 繰り返しの実施により血圧が下がって安定している
「気持ちがいい」,「体が温かくなった」とにこにことやっていた
肩回しや肩の上げ下げの運動をすると,よく効くとの声がある
興奮気味や血圧が高めの状態の方が実施後にはリラックスしている
リラックスしている様子である
実施して(認知症高齢者が)楽になったと感じているように思う
ADLの変化 トイレもリハビリだと自分で行けるようになってきた
部屋に閉じこもっている方が出てきて実施している
体を動かすことに喜びを感じ,自発的に行動する方がいる
介入を始めてから,自発的に歩行を始めた方がいる
実施への興味や認識の高まり 実施への興味 認知症高齢者が実施に興味を持って見ているようになった
体を動かすことに興味が出ている感じがする
前向きに体操をするようになった
実施への認識の出現 毎日体を動かしていることを覚えている方もいる
両者の相互作用 両者の肯定的変化 実施の楽しさ (施設職員と認知症高齢者が)楽しみながら実施できている
活気 施設職員や認知症高齢者が生き生きとしてきた
施設職員の認知症高齢者への関わりの変化 認知症高齢者にとって良いことだと実感し,空いた時間に実施している職員がいる
認知症高齢者にとって良いことだったらどんなこともやりたい
施設職員が手を取って介助をすると実施してくれるようになった
認知症高齢者の表情の変化 施設職員の声掛けで,(認知症高齢者の)表情が変わった感じがする
両者の一体感 実施による一体感の出現 実施により,一体感ができて,お茶の時間が知っている者同士の時間になっている
参加する認知症高齢者の増加と全員での実施 参加する認知症高齢者が増え,全体を巻き込んで実施している
皆で輪になって実施するようになった
施設職員の声かけで皆が実施するようになった

4. 漸進的筋弛緩法を継続実施したことによる認知症高齢者への成果

1) 認知症高齢者の反応

179のコードの中から,46のサブカテゴリーと11のカテゴリーが抽出され,3つの大カテゴリーが生成された.「できる動作が増えてきている」,「実施しようとする方が増えてきた」など〈実施の浸透〉や〈参加者の増加〉といった《実施の習慣化》がみられた.また,「言葉や表情は良くなった」,「周りへの関心が出てきている感じがする」など〈言動や表情の改善〉,〈周囲への関心の出現〉といった《実施による肯定的な変化》がみられた.「実施に興味を持って見ているようになった」,「毎日体を動かしていることを覚えている方もいる」といった〈実施への興味〉,〈実施への認識の出現〉といった《実施への興味や認識の高まり》がみられた.

2) 漸進的筋弛緩法介入前後のBPSDの変化

NPI-NH総得点の平均値は,介入前9.29 ± 8.42点,介入後7.43 ± 7.02点と減少し,有意差があった(p = 0.04).各症状の平均値は,妄想が介入前3.57 ± 3.31点,介入後3.71 ± 3.30点,幻覚が介入前0.14 ± 0.38点,介入後0.14 ± 0.38点,興奮が介入前1.29 ± 1.60点,介入後0.71 ± 1.50点,うつが介入前1.00 ± 1.73点,介入後0.86 ± 1.21点,不安が介入前1.71 ± 1.89点,介入後1.00 ± 1.53点,多幸が介入前,介入後共に0点,無関心が介入前0.29 ± 0.76点,介入後0.14 ± 0.38点,脱抑制が介入前,介入後共に0点,易刺激性が介入前0.71 ± 1.25点,介入後0.29 ± 0.49点,異常行動が介入前0.57 ± 1.51点,介入後0.57 ± 1.51点であったが,各症状の介入前後の有意差はなかった.NMスケール総得点の平均値は,介入前28.57 ± 7.74点,介入後29.71 ± 8.10点と増加していたが,有意差はなかった(p = 0.19).各項目平均値は,家事・身辺整理が介入前5.57 ± 1.90,介入後5.86 ± 2.27,関心・意欲・交流が介入前6.57 ± 2.15,介入後6.86 ± 2.04,会話が介入前6.14 ± 1.95,介入後7.00 ± 2.00,記銘・記憶が介入前4.43 ± 1.51,介入後4.43 ± 1.51,見当識が介入前5.86 ± 1.95,介入後5.57 ± 2.23と,各項目の介入前後での有意差はなかった.

5. 漸進的筋弛緩法を継続実施したことによる施設職員と認知症高齢者の相互作用

両者の相互作用に関して45のコードの中から,10のサブカテゴリーと6つのカテゴリーが抽出され,2つの大カテゴリーが生成された.「(施設職員と認知症高齢者が)楽しみながら実施できている」,「生き生きとしてきた」,「認知症高齢者にとって良いことだったらどんなこともやりたい」との〈実施への楽しさ〉,〈活気〉,〈施設職員の認知症高齢者への関わりの変化〉といった《両者の肯定的変化》がみられた.「実施により,一体感ができて,お茶の時間が知っている者同士の時間になっている」,「皆で輪になって実施するようになった」といった〈実施による一体感の出現〉,〈参加する認知症高齢者の増加と全員での実施〉という《両者の一体感》があった.

Ⅴ. 考察

1. 漸進的筋弛緩法継続実施による施設職員への成果が生じた要因

施設職員は漸進的筋弛緩法を日々実施する中で,スムーズに取り組めるようになったが,認知症高齢者の理解度が異なることなどから漸進的筋弛緩法をアレンジしても良いのか迷う,との疑問が生じた.それに対して研究者は施設職員に実施方法を再度説明し,両者で手技を確認するとともに漸進的筋弛緩法を実施することの意義や期待される効果の再認識を促す助言を行ったことで,施設職員が自信を持って行うようになり,〈実施への満足や自信〉といった肯定的な姿勢や,継続的実施につながったと考えられる.また,継続的な実施により職員個々の漸進的筋弛緩法の実践能力が高まり,実施が習慣化されたことが考えられる.職員間のコミュニケーションが取れていない,といった課題があったが,職員間のコミュニケーションの取り方や,職員間での協力体制について研究者と施設職員にて調整していくことを話し合って,「職員同士で声をかけることが出来ている」,「他の職員も協力してくれている」という〈職員間の協力〉につながったと考える.ミューチュアル・アプローチでは,研究者と施設職員が実施する時,見えてきたことを理解する時などそれぞれの過程で,互いに理解しあい進めていく(江本,2015).研究者,施設職員内で課題を共有し,漸進的筋弛緩法の実施に対して積極的ではなかった施設職員が認知症高齢者に少しでも良くなってもらいたいという思いを抱き,実践に積極的に関わるようになったと考える.また,声を出してもらう等アレンジしているが,どこまでアレンジして良いのか,との課題があり,研究者が施設職員の実施方法を確認し,アレンジしている方法で良いことを説明している.施設職員は〈実施方法の工夫〉や〈実施回数の増加〉といった実施への肯定的な姿勢を示すようになり,施設職員と研究者が互いの了解による意思決定をし,協働して実施を進めることができ,有効であったと考える(加藤,2018).武田は,非薬物療法の内,効果がみられる方法では,対象者が楽しみを感じ,自らやりたいと思っている点だとしている(2013).施設職員自身が楽しみながら実施し,生き生きとしてきたといった肯定的変化は,認知症高齢者にも影響し,参加する認知症高齢者の増加,施設職員と認知症高齢者全員での実施という《両者の一体感》につながっていったと考える.実施を通して,施設職員が認知症高齢者にとって良いことだと実感するようになり,空いた時間にも実施する,といった《施設職員の認知症高齢者への関わりの変化》が生じ,漸進的筋弛緩法の実施が浸透していったと考えられる.

2. 漸進的筋弛緩法継続実施による認知症高齢者への成果が生じた要因

認知症高齢者の反応では,〈言動や表情の改善〉,〈他者との交流の増加〉,〈リラックス反応〉といった《実施による肯定的変化》がみられており,実施によって,認知症高齢者がリラックスでき,弛緩反応が強化されていったためと考える(荒川・小板橋,2001).さらに,体を自発的に動かすようになるといった〈ADLの変化〉があり,実施時間以外においても良い影響を及ぼしていたことが明らかとなった.これは,認知症高齢者の〈活気の出現〉に示されるような活動意欲が生じてきたことで,体を動かすことへの肯定的な変化として表出されたものと捉えられる.BPSDに対しては,施設職員はゆとりのある態度,否定しない態度などが必要であるとされる(鈴木ら,2011).漸進的筋弛緩法が施設職員にとっての〈楽しみやリラックス〉,認知症高齢者にとっての〈リラックス反応〉を示す取り組みになり,両者にとって漸進的筋弛緩法の実施が肯定的な意味を持つようになり,相乗効果として良い影響を及ぼしたと考える.「施設職員の声掛けで,認知症高齢者の表情が変わった感じがする」のように,《両者の肯定的変化》が示されるようになったものと考える.

NPI-NH総得点の平均値は,介入前よりも介入後で有意な減少が見られ,BPSD出現を抑制する効果があった.興奮・うつ・不安・無関心・易刺激性が減少し,不安が最も減少していた.漸進的筋弛緩法は,不安や緊張を緩和し,適切なバランスを保つことができる方法(荒川・小板橋,2001)であり,技法の特徴を反映した結果となった.NMスケールの総得点の平均値では,介入前後で増加がみられ,会話は最も増加していた.漸進的筋弛緩法を集団で取り組んだことで,認知症高齢者同士の交流や会話の機会も増え,また施設職員から認知症高齢者への積極的なコミュニケーションが影響しているものと考える.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

本研究では,アクションリサーチを用い,1施設において漸進的筋弛緩法を継続実施したことによる成果を明らかにした.本研究結果を,他施設においても活用できるようさらに発展させていくことが今後の課題である.

Ⅶ. 結語

認知症高齢者に漸進的筋弛緩法を継続実施した成果は,施設職員が漸進的筋弛緩法を主体的に実施するようになったことであり,認知症高齢者のBPSDが減少したことであった.

謝辞:本研究にご協力いただきましたご利用者様,ご家族様,職員の皆様に深く感謝申し上げます.

本研究は,JSPS科研費(課題番号15K20788)の助成を受けて行った.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SIは,研究着想からデータ収集,データ分析,原稿作成を行った.YMは研究プロセス全体への助言,指導及び原稿指導を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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