2019 Volume 39 Pages 54-58
本研究は,A貯筋教室の高齢者32名(76.8 ± 6.2歳)を対象に,自宅で実施できる身体と口,頭の体操からなる介護予防プログラム「活きいき体操プログラム」の効果と,自宅での実施継続を検討した.
2013年と2014年の認知機能,うつ傾向,握力,片足立ち,嚥下機能について介入前後をt検定で比較し,教室への参加頻度と自宅での週1回以上の実施有無との関連を調べた.
結果,参加頻度と自宅での実施に差はなく,身体と頭の体操87%,口の体操65%が実施していた.介入前後の改訂版長谷川式簡易知能評価スケール得点は27.9 ± 2.9点から28.6 ± 2.4点と有意に向上した(p = .02).うつ傾向,握力,片足立ち,嚥下機能に差は見られず維持していた.
「活きいきプログラム」は,地域力を用いて自宅で実施することが可能な介護予防のプログラムであり,認知機能の向上と身体機能の維持に寄与する可能性が示唆された.
We examined the effect and practicality of a preventive care program (including physical, psychological, and cognitive exercises) conducted to utilize the regional power of the elderly.
The participants used the “A-CYOKIN-KYOUSHITU.” The preventive care program developed to be conducted at home is called the “IKI-IKI TAISOU PROGRAM.” The participants engaged in physical exercise, song time, and tea time activities once a week in the “A-CYOKIN-KYOUSHITU.” The cognitive, physical, and psychological function of 32 participants measured using the Hasegawa Dementia Scale (HDS), handgrip strength and 30-second one-leg standing with vision, and the Geriatric Depression Scale (GDS), respectively, were appraised and compared before and after the preventive care program. The participants’ the physical functions stayed the same after the intervention.
The HDS score improved after the intervention from 27.9 ± 2.9 to 28.6 ± 2.4 (P = .02). The physical and cognitive exercises were performed by 87% of the participants. Further, the preventive care program “IKI-IKI TAISOU PROGRAM” can be conducted at home by the elderly.
We found that the “IKI-IKI TAISOU PROGRAM” can help to improve cognitive functions and maintain physical functions among the elderly. It is important to foster and use the strength that the elderly provide to their community.
日本の高齢社会は極めて急速に進展しており,65歳以上の高齢者が総人口に占める高齢化率は,2017年で27.7%と高い水準で,2036年には3人に1人が高齢者になると推計(内閣府,2018)されている.住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,各地域で住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築が目指されている(厚生労働省,2017).その構成要素のひとつである介護予防は,標準化されたトップダウン型の行政ベクトルから,住民の主体性が尊重されたボトムアップ型の地域づくりベクトルへの発想の転換が求められた(株式会社日本能率協会総合研究所,2017).加齢とともに脳血管疾患や認知症,うつ傾向や主観的健康感の低下など,個人差はあるが衰退が生じる中,高齢になってもできる限り元気に過ごしたいという願いを実現するために,数多くの介護予防対策が実践されている.例えば,転倒予防体操,バランス体操,筋力アップ運動,口腔機能向上運動など,それぞれの機能向上にむけた介入効果の報告,集団で行うサロンの一環で運動を取り入れることによるQOLの向上など,身体機能の向上のみならず,心理面にも良い効果があるという研究報告が散見される(Beauchet et al., 2010;Kaliterna et al., 2004;神﨑,2006;菊池ら,2012;Masani et al., 2003).体操や運動を中心とした介護予防対策は,多くの地域で,地域包括支援センターを中心とした専門職(医師,保健師,看護師,理学療法士など)の働きかけにより,住民が主体的に継続できるよう関係づくりなどが準備されているが,定着させることが課題となっており(尾形ら,2011),専門職の働きかけなしには,継続ができていないのが実情である.
そこで本研究では,研究者が2006年から関わり,地域在住の在宅高齢者自身が主体となり運営しているA貯筋教室に参加している高齢者を対象に,専門職が直接的な介入を行わなくても自宅で実施できる介護予防プログラム「活きいき体操プログラム」を作成し,地域力を活かすことで自主的な取り組みとしての継続可能な介護予防プログラムであるかについて検討することを目的とした.A貯筋教室は,2005年に特定高齢者を対象としたモデル事業として開始し,従来は専門職(医師や保健師,看護師)が中心となり行っていたが,現在は,地域在住の在宅高齢者自身が中心となり,役員を選出し,週1回の開催で運営している.役員が中心となり,月ごとのプログラムを決定し,月1回に研究者が関わっていた.本研究で用いる地域力とは,在宅高齢者が主体となり,これまでの人生で獲得した力を地域活動に活かし,地域の支え合い(互助)の力として捉えている.本研究の地域力は,「活きいき体操プログラム」を高齢者自身が,A貯筋教室や地域で会った際に声を掛け合い,実施していくことを支え合う力としている.
O市内にあるA地区在住の在宅高齢者で,A貯筋教室の参加者42人のうち,2013年5月の測定日に参加し,本研究に同意した地域在住高齢者39名(92.8%)を対象とした.分析対象者は,2013年と2014年の5月の測定日に参加した32名(82.1%)であった.
2. 調査方法と測定方法対象者の基本的属性,高齢者うつ尺度,教室への参加頻度,活きいき体操の各体操の自宅での週1回以上の実施の有無は自記式質問紙を用い,認知機能検査,握力,開眼片足立ち,嚥下機能については,報告者と研究分担者が2013年5月と11月,2014年5月に測定した.認知機能は,認知機能の変化が観察できる改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS)を用いた.この尺度は,9項目の質問からなり,20点以下を認知症の疑い,21点以上を正常と判定し,信頼性と妥当性が検証されているものである(加藤ら,1991).うつ傾向は,信頼性と妥当性が証明されている15項目からなるGeriatric Depression Scaleの日本語版(以下,GDS)を用いて評価した.GDS得点が高いほどうつ傾向が強くなることを示し,総合計得点15点で5点以上をうつ傾向有と判断する(笠原ら,1995).握力と開眼片足立ち(以下,片足立ち)は,左右それぞれ測定し,握力は,ハンドグリップメーター6103(タニタ)を用い測定した.嚥下機能は,反復唾液飲みテストrepetitive saliva swallowing test(以下,RSST)を行った.RSSTは,3回以上で正常,2回以下では嚥下障害を疑う.
3. 介護予防プログラムの作成手順A貯筋教室では従来,体操(ラジオ体操を含めた準備体操,柔軟体操,転倒予防のための体重移動などのバランス体操),筋力トレーニング(二重課題を用いた体操でセラバンドを用い数字を大きい方から小さい方に声を出して数えながら座位にて上肢と下肢の開閉運動を行う体操「かぞえて体操(菊池ら,2012)」やダンベル体操),茶話会,合唱を行っていた.2013年5月の握力,片足立ち,嚥下機能の測定結果より,自宅での週1回以上の身体の体操(バランス体操とかぞえて体操),口の体操(あっかんべーとあっぷっぷー),頭の体操(「昨日の日記」の記載)を実施する介護予防プログラム案を作成した.
2013年5月より身体,口,頭の体操からなる介護予防プログラム案を全ての対象者に導入し,同年11月にHDS,GDS,握力,片足立ち,RSSTについて,介護予防プログラム案の評価を行い,介護予防プログラム案の効果が得られていることを確認し,「活きいき体操プログラム」を決定し,週1回の教室参加時にA貯筋教室で実施することと,自宅で週1回以上実施することとした.活きいき体操プログラムの内容は,身体の体操(体重移動などのバランス体操と二重課題を用いた「かぞえて体操」),口の体操(あっかんべーとあっぷっぷー),頭の体操(「昨日の日記」の記載)の各体操を週1回以上,自宅で実施することと,心の体操(1日1回の笑い)を加えたものであった.
4. 統計解析方法活きいき体操プログラムの導入後,活きいき体操プログラムが自宅で実施可能なプログラムであるかについて,2013年11月から導入6か月後の2014年5月時点での教室への参加頻度と自宅での各体操(身体,口,頭)の実施の有無について,カイ二乗検定を用いて比較した.その後,2013年5月と2014年5月測定のHDS,GDS,握力,片足立ち,RSSTについて対応のあるt検定を用いて比較した.
全ての解析は,SPSS Statistics 24を用いて,有意水準は5%未満とした.
5. 倫理的配慮国際医療福祉大学の研究倫理審査委員会で承認(承認番号13-Io-140)を得た後,対象者に文書と口頭によって,本研究の主旨とデータは研究目的以外で使用しないこと,研究拒否によって不利益が被ることがないこと,研究途中での協力辞退も自由であることを保障し,書面による同意を得て実施した.
対象者の平均年齢は76.8 ± 6.2歳,範囲は67歳から89歳,女性28名(87.5%),男性4名(12.5%)であった.教室への参加頻度と自宅での各体操(身体,口,頭)の週1回以上の実施の有無について表1に示した.教室に毎回参加している人は21名(65.6%)であったが,教室への参加頻度と自宅での各体操の実施の有無については,統計的有意差が認められず,自宅で各体操を実施していた人は,身体と頭の体操が87.5%,口の体操が65.6%であった.
| プラグラムの各体操 | 教室への参加頻度n(%) | p値 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 毎回(n = 21) | 月2回(n = 3) | 月1回(n = 7) | あまり参加できていない(n = 1) | ||
| 身体の体操 | .67 | ||||
| 実施した(n = 28) | 19(90.5) | 2(66.7) | 6(85.7) | 1(100.0) | |
| 実施しなかった(n = 4) | 1(9.5) | 1(33.3) | 1(14.3) | 0(0.0) | |
| 口の体操 | .49 | ||||
| 実施した(n = 21) | 15(71.4) | 2(66.7) | 4(57.1) | 0(0.0) | |
| 実施しなかった(n = 11) | 6(26.6) | 1(33.3) | 3(42.9) | 1(100.0) | |
| 頭の体操 | .88 | ||||
| 実施した(n = 28) | 18(85.7) | 3(100.0) | 6(85.7) | 1(100.0) | |
| 実施しなかった(n = 4) | 3(14.3) | 0(0.0) | 1(14.3) | 0(0.0) | |
カイ二乗検定
介入前後におけるHDS,GDS,握力,片足立ち,RSSTの比較を表2に示した.介入前後のHDS得点が27.9 ± 2.9から28.6 ± 2.4(t(30) = –2.39, p = .02)と,有意に向上した.一方,他の項目では統計的有意差はなく維持しており,GDS得点は3.0 ± 3.1から2.8 ± 3.1と,うつ傾向が低い人が多かった.
| 2013年値 | 2014年値 | p値 | |
|---|---|---|---|
| 平均±SD | 平均±SD | ||
| HDS得点(0–30) | |||
| 平均±SD | 27.9 ± 2.9 | 28.6 ± 2.4 | .02 |
| GDS得点(0–15) | |||
| 平均±SD | 3.0 ± 3.1 | 2.8 ± 3.1 | .75 |
| 握力(kg) | |||
| 右手,平均±SD | 22.9 ± 4.4 | 22.8 ± 4.3 | .80 |
| 左手,平均±SD | 21.9 ± 4.2 | 21.7 ± 4.7 | .66 |
| 片足立ち(秒) | |||
| 右足,平均±SD | 54.9 ± 42.4 | 45.0 ± 46.7 | .14 |
| 左足,平均±SD | 43.4 ± 37.8 | 40.7 ± 53.1 | .71 |
| RSST 平均±SD | 6.2 ± 3.5 | 7.1 ± 3.8 | .16 |
t検定 *欠損値を除く
本研究の結果より,A貯筋教室に参加の平均年齢76.8歳の対象者は,認知症の疑いなく,うつ傾向が低く,筋力やバランス機能,嚥下機能を維持していることが明らかとなった.本研究の介護予防プログラム「活きいき体操プログラム」は,A貯筋教室への参加頻度を問わず,身体や頭の体操を対象者の87.5%が,自宅で週1回以上実施していた.これは,定期的な運動などを行う健康教室への参加を行わなくても,自宅で「活きいき体操プログラム」を実施,継続することが可能な内容であったと推察できる.「活きいき体操プログラム」は,高齢者自身が可能な範囲で,自宅で,身体や頭,口の体操として,運動や日記記載を含む介護予防プログラムを行っており,その内容が,平均年齢76.8歳の対象者に合致していたと考えられる.加えて,本研究を実施した地域は,地域で日頃からの交流があり,参加高齢者同士が,教室以外で関わることも多く,互いに声を掛け合う互助の関係性が以前より構築されていた.これが「活きいき体操プログラム」を自宅で継続させる一つの要素であったと考える.
本研究の「活きいき体操プログラム」の身体の体操として実施した体操は,バランス体操とセラバンドを用いた二重課題を取り入れた体操であった.この身体の体操を集団である教室や,自宅で週1回以上行うことが,認知機能であるHDS得点の向上と,身体機能の維持に効果的である可能性が得られた.本研究では,身体機能が比較的良好で,認知症の疑いがなく,うつ傾向でない対象者が多いため,一概にいえないが,平均年齢が76歳以上の衰弱が生じる年齢であっても,認知機能や身体機能に寄与する可能性があると考える.身体機能の強化と改善による生活機能の維持は,精神的健康の維持に有効(神野ら,2005)であることが先行研究でも指摘されていることより,本研究においても,身体機能の維持が,認知機能の低下がない状態の維持やうつ傾向が無い状態の維持に寄与していると推察する.
以上より,「活きいき体操プログラム」は,自宅で実施することが可能な介護予防のプログラムであり,認知機能の向上と身体機能の維持に寄与する可能性が示唆された.さらに,参加頻度による自宅での各体操(身体,口,頭)の実施の有無に差がみられなかったことより,定期的な教室への参加より,高齢者自身への意識付けが重要であり,継続支援に地域力を用いることが有効と推察できる.今後,「活きいきプログラム」は,自宅で自身の意思があって実施できる,自身が希望するケアとしての発展や,活用の要素として,対象者への意識づけと,地域力が重要な鍵となると考える.
最後に,本研究では,対照群がなかったため,本プログラムのみがHDS得点の向上や身体機能の維持に効果があったとはいえず,解釈の上で限界である.今後は対象者を増やし,プログラムの効果を検証することが課題である.
謝辞:本研究を実施するにあたり,研究に参加していただいた対象者のみなさま,関係者のみなさまに深く御礼申し上げます.本研究は,公益財団法人勇美記念財団の助成によって実施させていただきました.深謝いたします.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YKは,研究の着想からデザイン,データ収集と分析,論文の作成;JMは,研究の着想からデザイン,データ収集と分析,論文作成への助言に貢献した.全ての著者は最終原稿を確認した.
付記:本研究の一部は,第57回日本老年社会科学会において発表した.