Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
Original Articles
Understanding the Status and Factors of Implementing Respite Care in Visiting Nursing Stations for Children: A Nationwide Survey
Naoko OtsukiSakiko FukuiYukihiro Sakaguchi
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 39 Pages 100-107

Details
Abstract

目的:本研究の目的は,医療的ケア児のレスパイトケア(以下,RC)に焦点をあて,小児の訪問看護を実施している訪問看護ステーションおよびその併設事業所におけるRCの実施実態とその関連要因を明らかにする.

方法:全国の小児の訪問看護を実施している事業所1,154か所を対象に,郵送法による自記式質問票調査を実施した.分析はχ2検定およびMann-WhitneyのU検定を用いた.

結果:381名(32.8%)からの有効回答を分析対象とした.RC実施率は57.1%であり,放課後等デイサービスの併設は実施率と関係がみられた(p = .004).また,RCの実施には,看護職員数,ニーズ,看護の質の統一化,人員確保,事業所スタッフの児とのコミュニケーション能力,家族との信頼関係構築能力が関連していた(p = .00–.036).

結論:RCの実施には,人員配置や看護の質の統一化,基本的看護スキルの習得などの整備を行う必要性が示唆された.

Translated Abstract

Aim: This study aimed to investigate the status and factors of implementing respite care in a visiting nursing stations and adjoining office for children requiring medical care.

Method: A survey questionnaire was distributed to 1,154 visiting nursing stations for children between August and September, 2017. Statistical analyses were performed using χ2 test and Mann-Whitney U test.

Results: There were 381 valid responses (response rate: 32.8%). The respite care implementation rate was 57.1% and there was a relationship between the adjoining of After-school day care service including child development support and respite care implementation rate (p = .004). The factors related to the implementation of respite care were the number of nursing staff, needs, standardization of the quality of nursing, recruiting personnel, staff's ability to communicate with children and family caregivers, and staff's ability to build relationships of trust with family caregivers (p = .00–.04).

Conclusion: As per this study, it was suggested that improvement of respite care implementation was necessary, based on factors such as personnel allocation, unified quality of nursing care, acquisition of basic nursing skills.

Ⅰ. 緒言

日本はヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め35ヶ国の先進国が加盟する国際機関であるOECD(経済協力開発機構)中で,もっとも低出生体重児が多く2011年で9.6%が2,500 g未満の低出生体重児である一方で,周産期死亡率はもっとも低いと報告されている(OECD,2011).その背景として,日本の周産期医療の発展が考えられ,0~19歳の子どもの死亡者数は1985年の18,488人に対し,2015年では4,834人と,大幅に減少している(厚生労働省,2017).今まで救命できなかった命が救命されるようになった一方で,医療依存度の高い医療的ケア児が増加している.

日本の医療体制は,在宅医療に重点を置きつつあり,今まで病院等で療養を行ってきた医療的ケア児が在宅療養に移行している.2008年に20歳未満の超重症心身障害児の約70%が在宅療養を送っていると報告されたが(杉本ら,2008),子どもの死亡者数の推移や,診療報酬の改定などの動向を踏まえると,今後さらに在宅療養をする医療的ケア児が増加してくることが予測される.

このような背景を受け,医療的ケア児を含む障害児の在宅療養支援体制が検討され,2012年の児童福祉法改訂を始め,多くの施策が講じられているが,課題も多い.なかでも家族介護者への休息支援であるレスパイトケア(Respite care,以下RC)は,その必要性が数多く報告されているにもかかわらず(Greenwood et al., 2012Jeon et al., 2005Hill, 2016),法制度でのカバーがなく,支援実態も曖昧であり,具体的な支援体制整備が遅れている現状がある.

日本の障害児支援は,相談支援専門員を中心に障害者総合支援法,児童福祉法等の福祉制度下での支援体制であるが,障害種別によって利用できる事業が異なり,また複数の事業を横断的に利用するケースが多い特徴がある.そのため,RCのような包括的支援では,その支援実態が見えづらくなると考えられる.さらに,医療的ケア児では医療的支援が不可欠であり,一定時間以上,医療的ケア児を預かるRCでは,相談支援専門員ではなく,小児の訪問看護を実施している訪問看護師あるいは家族介護者が中心的役割を担わざるを得ない現状があり,福祉施策の側面からの実態把握には限界があることも考えられる.

そこで本研究では,医療的ケア児の家族介護者に対するRCに焦点をあて,小児への訪問看護を実施している訪問看護ステーションおよびその併設事業所(以下,事業所)におけるRCの実施実態とその関連要因を明らかにすることを目的とした.これらが明らかとなることで,医療的ケア児の家族介護者におけるRCの実施にむけた具体的な示唆と実施課題の抽出が可能となり,今後の医療的ケア児の包括的支援のあり方を検討するための基礎的資料になり得ると考えられる.

Ⅱ. 研究方法

1. 対象

対象は,全国訪問看護事業協会の都道府県訪問看護ステーション連絡協議会の一覧に連絡先および小児への訪問看護を提供することが可能と情報開示している事業所,全1,154か所とした.回答は事業所の看護師資格を有する管理者に依頼した.なお,ホームページ上に連絡先のない都道府県,小児への訪問看護の提供についての情報開示のない都道府県は選定から除外した.

平成28年度の全国訪問看護事業協会(2017)が発表した全国訪問看護事業所数の調査結果によると,全事業所数は9,070か所と報告されている.さらに,先行研究では,小児への訪問看護を実施している事業所は全体の38.5~47.2%と言われている(谷口ら,2005吉野・吉野,2016).これらを踏まえ,全国の訪問看護連絡協議会に未登録の事業所および情報開示のない都道府県の除外率を60%と勘案すると,予測される小児の訪問看護を実施している事業所数は1,396~1,712か所であり,本研究で選定した対象事業所への全数調査は,概ね科学的合理性を確保していると考える.

2. 調査内容

調査方法は,量的記述研究デザインによる実態調査研究として,郵送法による自記式質問票調査とし,選定基準を満たす事業所に全数配布とした.

RCの定義は,先行研究での被引用数の比較的多い「障害児(者)をもつ親・家族を,一時的に一定の期間,障害児(者)の介護から解放することによって,日ごろの心身の疲れを回復し,ほっと一息つけるようにする援助(廣瀬,1993)」を採用した.RCの操作的定義として,日中の2時間以上の,長時間訪問看護,事業所での居宅介護事業,事業所での日中一時預かり,療養通所介護における放課後等デイサービス(児童発達支援含む.以下,放デイ)とした.

また,RCの対象は事業所が訪問看護を実施している15歳以下の医療的ケア児とし,事業所全体のRCの実態を把握するため,疾患や障害種別は限定しなかった.なお,医療的ケア児とは,医療技術の進歩等を背景として,NICU等に長期間入院した後,引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し,たんの吸引や経管栄養など医療的ケアが必要な障害児(厚生労働省,2016)とされる.

3. 調査項目

1) 医療的ケア児の家族介護者へのRC実施の有無,重要性,ニーズ

事業所での操作的定義に当てはまるRC実施の有無および,事業所が捉えるRCの重要性について,「あり」「なし」の2件法で回答を求めた.さらに事業所がレスパイトケアに対する利用者のニーズについてどのように考えているかについて,「あまりない」「大きくはないが,ニーズはある」「大きい」「非常に大きい」の4件法で回答を求めた.

2) RCの実施状況と今後の実施意向

事業所で提供可能なRCに該当する医療・福祉サービスの実施状況および今後の実施意向について,「いつも行っている」「たまに行っている」「今後行いたい」「行う予定はない」の4件法で尋ねた.事業所における各併設事業の有無は「あり」「なし」の2件法で回答を求めた.

3) 併設事業の実施状況

RCに関連する併設事業の実施状況を把握するために,「病院」「居宅介護事業」「診療所」「放デイ」の併設事業の有無を尋ねた.

4) RC実施の関連要因

RC実施の関連要因を検討するために,事業所の背景として事業所に従事する全職員,看護職員,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の人数を尋ねた.さらに,事業所が感じるRCを提供するにあたっての障壁および,RCに必要だと事業所が感じる看護師のスキルについて,それぞれ「そう思わない」「あまりそう思わない」「ややそう思う」「そう思う」の4件法で回答を求めた.RCの障壁に関する調査項目は,障害児の家族介護者5名に対するインタビュー調査と,2017年4月末日時点での国立情報学研究所論文検索CiNiiおよび医中誌に掲載されているRCに関する論文78本を用いて項目を抽出した.抽出した項目は,障害児の家族介護者6名へのパイロットテストで内容的妥当性を確認した.その後,小児の訪問看護を実施している訪問看護師2名,相談支援専門員2名と討議し,最終的にRCの障壁に関する13項目を抽出した.おもな抽出項目は,医療的ケア児に対する人員確保,制度上の障壁,医療的ケアへの対応の困難さであった.さらにRCに必要だと事業所が感じる看護スキルの調査項目は,先行研究と小児の訪問看護特化型の訪問看護ステーションに勤務している訪問看護師へのインタビュー調査により項目を抽出した.調査項目の内容的妥当性は訪問看護師5名と討議を行い確認した.おもな内容は,小児の疾患特性に伴う病態把握能力や看護技術に関するものと,連絡・相談・報告や連携等のケア提供のあり方に関するものであった.調査項目をRCに必要な看護スキルに限局した理由として,別の調査項目として小児在宅看護全般に該当する看護スキルや小児在宅看護上の課題について尋ね,小児在宅看護全般に該当する看護スキルや課題がRC実施の有無で相違があるかを確認的に分析した結果,有意差は認められなかったため,小児在宅看護全般に該当する看護スキルを包含する「RCに必要な看護スキル」をRC実施の関連要因とした.

4. 解析方法

調査対象事業所におけるRCの実施実態の記述統計量を算出した.さらに,各併設事業の有無とRC実施の関係,RC実施の関連要因を検討した.統計学的分析は,IBM SPSS Statistics Version 25を用い有意水準はp < .05とした.

5. 倫理的配慮

本研究は,関西学院大学人を対象とする行動学系研究倫理委員会の承認を得た(承認番号:2016-31).調査データは匿名化処理を行った上で,研究事務局の鍵のかかる場所に一定期間保管した.質問票は,調査データとしてデジタル化した後,破棄した.倫理的配慮として,調査への参加は無記名かつ自由な意思に任せ,調査協力の拒否によって不利益は生じないこと,事業所識別番号付与等の個人の特定が可能となるデータ管理は行わないこと,調査結果は個人が特定される形で公表しないことを明示した趣意書を同封し,対象者に対する十分な説明を行った.

Ⅲ. 結果

1. 対象(表1

質問票を配布した1,154か所の事業所のうち,回答の得られた事業所は395か所(回収率34.0%)であり,「小児への訪問看護は現在実施していない」と返答した12か所と,主たる変数において複数の欠損値がみられた2か所を除く,381か所の事業所の管理者からの回答を解析対象とした(有効回答率32.8%).

表1 事業所の背景
n %
各事業所の全職員数(n = 269) 2.5人以下 10 3.7%
2.6–5人 85 31.6%
5.1–10人 123 45.7%
11–15人 28 10.4%
16人以上 23 8.6%
各事業所の看護職員数(n = 290) 2.5人以下 17 5.9%
2.6–5人 121 41.7%
5.1–10人 128 44.1%
11–15人 13 4.5%
16人以上 11 3.8%
併設事業の有無(n = 379) なし 155 40.9%
あり 224 59.1%
他事業展開:病院(n = 379) いいえ 327 86.3%
はい 52 13.7%
他事業展開:居宅介護事業(n = 379) いいえ 201 53.0%
はい 178 47.0%
他事業展開:訪問介護事業(n = 379) いいえ 311 82.1%
はい 68 17.9%
他事業展開:重度訪問介護事業(n = 379) いいえ 356 93.9%
はい 23 6.1%
他事業展開:診療所(n = 379) いいえ 348 91.8%
はい 31 8.2%
他事業展開:※放デイ(n = 379) いいえ 361 95.3%
はい 18 4.7%
超重症児受入れ有無(n = 218) なし 132 60.6%
あり 86 39.4%
各月の超重症児の利用者数の中央値1,25–75パーセンタイル0–3
準超重症児受入れ有無(n = 242) なし 169 69.8%
あり 73 30.2%
各月の準超重症児の利用者数の中央値1,25–75パーセンタイル0–2
n %
レスパイトケアの実施の有無(n = 378) なし 162 42.9%
あり 216 57.1%
レスパイトケアの必要性(n = 374) なし 0 0.0%
あり 374 100%
事業所での利用者のレスパイトケアのニーズ(n = 364) ニーズはあまりない 5 1.4%
大きくはないが,ニーズはある 57 15.7%
大きなニーズがある 129 35.4%
非常に大きなニーズがある 173 47.5%
長時間訪問の実施と実施意向(n = 352) いつも行っている 89 25.3%
たまに行っている 141 40.1%
今後行いたい 73 20.7%
行う予定はない 49 13.9%
事業所一時預かりの実施と実施意向(n = 279) いつも行っている 7 2.5%
たまに行っている 7 2.5%
今後行いたい 46 16.5%
行う予定はない 219 78.5%
居宅介護の実施と実施意向(n = 277) いつも行っている 14 5.1%
たまに行っている 5 1.8%
今後行いたい 43 15.5%
行う予定はない 215 77.6%
行動援護の実施と実施意向(n = 272) いつも行っている 8 2.9%
たまに行っている 11 4.0%
今後行いたい 65 23.9%
行う予定はない 188 69.1%
重度訪問の実施と実施意向(n = 273) いつも行っている 13 4.8%
たまに行っている 3 1.1%
今後行いたい 45 16.5%
行う予定はない 212 77.7%
※放デイの実施と実施意向(n = 279) いつも行っている 14 5.0%
たまに行っている 1 0.4%
今後行いたい 37 13.3%
行う予定はない 227 81.4%
施設利用調整の実施と実施意向(n = 280) いつも行っている 11 3.9%
たまに行っている 50 17.9%
今後行いたい 66 23.6%
行う予定はない 153 54.6%

欠損値のためnに偏りがある

※放デイ=放課後等デイサービス(児童発達支援を含む)

2. RCの実施実態(表1

RC実施率は 57.1%であり,RCの重要性は全ての事業所が「ある」と捉えていた.事業所が把握している家族介護者のRCのニーズは,「非常に大きい」が47.5%と最も多く,次いで「大きい(35.4%)」,「大きくはないが,ニーズはある(15.7%)」「あまりない(1.4%)」の順であった.さらに,事業所におけるRCの実施状況と今後の実施意向では,長時間訪問の実施率は65.4%であり,今後実施を検討している事業所を含めると,86.1%が実施に対し積極的な回答であった.また,施設利用の調整の実施率は21.8%と多くはないが,今後行いたいと回答した事業所を含めると45.4%と約半数の事業所が実施に対して積極的な回答であった.一方で,他事業であることに加え,人員確保や多職種連携などの整備が必要となる居宅介護や,さらに施設整備なども必要となる放デイ,事業所での日中一時預かりは69~81%の事業所が実施に対して消極的な回答であった.

3. 併設事業別でのRC実施の関係(表2

併設事業別でのRC実施の関係性を把握するために,χ2検定を行った.RCの実施有無と関係性が示されたのは放デイの併設の有無であり,これらの併設がある事業所の方が,RC実施率が有意に高かった(p < .01).

表2 併設事業別でのレスパイトケア実施の関係
併設なし 併設あり χ2
レスパイト未実施 レスパイト実施 全体 レスパイト未実施 レスパイト実施 全体
n (%) n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
何らかの併設事業 74 (48.4) 79 (51.6) 153 (40.7) 88 (39.5) 135 (60.5) 223 (59.3) 2.934
病院 138 (42.6) 186 (57.4) 324 (86.2) 24 (46.2) 28 (53.8) 52 (13.8) 0.232
居宅介護事業 90 (45.2) 109 (54.8) 199 (52.9) 72 (40.7) 105 (59.3) 177 (47.1) 0.790
診療所 151 (43.8) 194 (56.2) 345 (91.8) 11 (35.5) 20 (64.5) 31 (8.2) 0.796
放デイ※ 161 (45.0) 197 (55.0) 358 (95.2) 1 (5.9) 16 (94.1) 17 (4.5) 10.872**

χ2検定,** p < .01

欠損値のためnに偏りがある

※放デイ=放課後等デイサービス(児童発達支援を含む)

4. RC実施の関連要因の検討(表3

RC実施の関連要因を検討するために,Mann-WhitneyのU検定を用いた.その結果,事業所の看護職員の人数が多く(p = .003),事業所が把握している家族介護者のRCのニーズが大きい方が(p > .000),RC実施が有意に高かった.さらに,RCを実施していない事業所の方が,RCに必要な看護ケアが統一化されていないこと(p = .012),人員不足(p = .001)をRC実施の障壁と捉え,それぞれRC実施に関連性が示された.事業所が必要と感じる看護スキルに有意差があったものは,児の病態アセスメントおよび対処能力(p = .036),事業所スタッフの児とのコミュニケーション能力(p = .036),家族介護者との信頼関係構築能力(p = .001)であった.

表3 事業所の規模,ニーズ,レスパイトケアに伴う障壁,レスパイトケアに必要な看護スキルがレスパイトケア実施に及ぼす影響
レスパイト未実施 レスパイト実施 p
n M ± SD n M ± SD
事業所の全職員数※1 124 8.04 ± 6.15 152 8.72 ± 6.76 0.277
事業所の看護職員数※2 128 5.74 ± 3.66 164 6.73 ± 3.62 0.003
ニーズの大きさ 153 3.04 ± 0.81 208 3.48 ± 0.69 0.000
レスパイトケア実施に伴う障壁 家族介護者が児に対して感じる罪悪感 145 2.28 ± 0.78 214 2.14 ± 0.86 0.079
制度上,レスパイトケアに利用できる時間が確保できない 145 3.20 ± 0.86 210 3.12 ± 0.86 0.316
家族が児の送迎ができない 139 2.66 ± 0.87 200 2.59 ± 1.08 0.591
レスパイトケアに必要な看護の質がスタッフ間で統一でない 145 2.93 ± 0.88 210 2.67 ± 0.94 0.012
実施することでの事業所の人的負担が大きい 147 3.31 ± 0.78 212 3.19 ± 0.83 0.154
訪問型での長時間自宅滞在に伴うトラブルのリスク 146 2.67 ± 0.79 213 2.50 ± 0.91 0.099
他職種の医療的ケアへの対応の難しさ 144 2.92 ± 0.78 204 2.88 ± 0.87 0.818
日程調整が難しい 146 3.07 ± 0.76 213 3.08 ± 0.71 0.941
家族が希望するスタッフを毎回派遣できない 145 3.35 ± 0.71 211 3.04 ± 0.90 0.001
重症児に対応するためのスタッフの人数不足 146 3.47 ± 0.74 214 3.22 ± 0.80 0.001
重症児に対応できる他職種が少ない 147 3.46 ± 0.70 211 3.35 ± 0.81 0.316
長時間訪問以外で看護師が訪問するのが難しい 143 3.34 ± 0.80 210 3.19 ± 0.98 0.322
経営上の負担がある 145 3.12 ± 0.83 214 2.92 ± 0.96 0.070
RCに必要な看護スキル 児の病態アセスメントおよび対処能力 158 3.84 ± 0.41 211 3.92 ± 0.31 0.036
児とのコミュニケーション能力 158 3.69 ± 0.55 211 3.82 ± 0.41 0.018
小児看護に必要な高度な看護技術 158 3.44 ± 0.70 211 3.50 ± 0.66 0.401
家族介護者とのコミュニケーション能力 158 3.74 ± 0.53 211 3.84 ± 0.38 0.068
家族との信頼関係構築能力 158 3.77 ± 0.48 211 3.91 ± 0.29 0.001
連絡・相談・報告能力 158 3.74 ± 0.53 211 3.83 ± 0.40 0.082
他スタッフ,他事業所との連携能力 158 3.66 ± 0.54 211 3.72 ± 0.49 0.266

Mann-Whitney U検定

欠損値のためnに偏りがある

※1 事業所に従事する保健師,助産師,看護師,准看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の総数

※2 事業所に従事する保健師,助産師,看護師,准看護師の総数

Ⅳ. 考察

1. RC実施の実態および併設事業別でのRC実施の関係

小規模な訪問看護事業所は,医療保険による訪問看護実施率が低く,医療的ケア児のような重症患者の受け入れが少ないと報告されている(厚生労働省,2011).本調査対象事業所での各月の超重症児の利用者数の中央値が1.0人,25~75パーセンタイルが0~3人であることや,事業所の看護職員数を勘案すると,調査対象事業所での小児の受け入れ状況には,ばらつきがあることが推測される.その上で,調査対象事業所でのRCの実施率は57.1%であり,全ての事業所でRCは重要と捉えていた.また,事業所が把握している家族介護者のRCのニーズは,「非常に大きい」と回答した事業所が47.5%と最も多く,約半数を占めていた.小児における在宅医療の継時的変化を調査した研究(吉野・吉野,2016)によると,訪問看護師からみたRCの充足率について,「あまり十分とは言えない」もしくは「ぜんぜん足りていない」割合が83.3%と報告されている.これらと必要性やニーズの大きさを勘案すると,RCの実施率は決して高いとは言えない.在宅療養を行う医療的ケア児が年々増加している現状や(前田,2015),家族介護者の身体的・精神的負担(田村・松本,2016)による健康障害(大槻ら,2018a)を踏まえると,RC実施を促進することは急務であると考える.

RCの実施状況は,長時間訪問の実施率が65.4%と最も高く,今後実施を検討している事業所を含めると,86.1%の事業所が実施意向を示した.また,他施設利用の調整の実施率は21.8%と高くはないが,今後の実施意向を示した事業所の割合は45.4%であった.これは前田(2015)が指摘しているように,障害福祉制度上のコーディネーターである相談支援専門員が,医療介入が必要な医療的ケア児に対応しづらく,介護保険でのケアマネージャーのように制度上,医療と福祉をつなぐ仕組みができておらず,小児在宅支援のコーディネーターが事実上不在であることが背景として考えられる.また,障害児の家族介護者が回答したRCの課題に関する研究において(大槻ら,2018b),医療スタッフが少ないことや,子どもへの十分なケア提供への家族介護者の不安を報告しており,医療的ケア児に十分なケアを提供するためには,相談支援専門員の福祉的視点だけでなく,訪問看護師や在宅医などの医療的視点や,養護教諭などの教育的視点を加えたコーディネートを行っていく必要があると考える.

一方で,他事業であり人員確保や施設整備を要する居宅介護,放デイ,事業所日中一時預かりは,69~81%の事業所が今後の実施意向はないと回答した.本研究での,放デイを併設する事業所のRC実施率が高いという結果からも考えられるように,RCの実施には,人員確保や多職種連携などのソフト面の整備だけでなく,医療的ケア児に対応するための施設整備などのハード面の整備も必要であり,これらが実施に影響を及ぼすと考えられる.

2. RCの実施関連要因の検討

RC実施の関連要因として,事業所の看護職員数や家族の希望するスタッフを毎回派遣できないこと,医療的ケア児に対応するための人員不足が挙げられた.重症児の場合,特定のスタッフの訪問で信頼感や安心感が増強できたという報告があるように(生田,2012),RCを実施していない事業所は,家族の希望するスタッフ派遣,重症児に対応するための人員確保の必要性を感じつつも,それが叶わないことを障壁と認識していた.一方で,RCを実施している事業所の方が,事業所の看護職員数が多く,医療的ケア児に対応できる人員を確保できており,人員確保はRC実施の促進的要因であることが示唆された.

さらに,北住ら(2014)は,長時間訪問看護をRCとして行うには,人事,業務管理上課題が大きいと述べているが,本研究においても,人事,業務管理上重要な位置づけである,RCに必要な看護ケアの統一化がRC実施の関連要因であった.これは家族が希望するスタッフの派遣にも波及するが,看護師間で看護ケアを統一することは,RCの質の担保につながるだけでなく,一定水準を満たす看護師が揃うことで人員配置もしやすくなると思われる.しかしながら,医療的ケア児におけるRCの質評価基準を定めた研究は見受けられず,曖昧な看護ケアを統一することでRCの質が保障されなくなることも懸念される.今後,医療的ケア児におけるRCの質評価指標開発による質を保障する評価基準を用いた,看護ケアの統一化が必要と考える.

RCに必要な看護スキル認識に関して,児の病態アセスメントおよび対処能力はRCの実施ありで必要性が高いと示されたが,一方で,その他を見るとRCを実施している事業所が実施していない事業所に比べ,より必要だと感じる看護スキルは,スタッフの児とのコミュニケーション能力と家族との信頼関係構築能力と,基本的な看護スキルであった.つまり,実際にRCを実施すると児の病態アセスメント能力および対処能力等は必要であるが,RCには高度な看護技術よりも,基本的な看護スキルが必要だと感じることが明らかとなった.一般的に重症児と言われる,在宅人工呼吸療法を受けている児へのRCを実施した研究(生田ら,2010)によると,高度な看護スキルというよりもむしろ,家族介護者の意思を尊重した姿勢や,看護師間のケアの統一など,信頼関係構築を心がけていた.本研究でも,小児看護の専門性に関するスキルは,他のスキルの必要性に比べて低かった.RCでは,高度な看護スキルが要求されているわけではなく,児や家族介護者と密にコミュニケーションをはかり,ニーズをくみ取りながら児と向き合い,適確な児の病態アセスメントや対応を行うことが重要であると示唆された.これらを行うことで,家族介護者との信頼関係構築にもつながっていくと思われる.

本研究では,医療的ケア児のRCに焦点をあて,実際に医療的ケア児を支える中心的役割を担っている小児訪問看護ステーションにおけるRCの実態把握をおこなった.本研究の対象事業所でのRCのニーズは大きく,すべての事業所がその重要性を認識していた.RC実施には,人員確保,ニーズの大きさ,家族介護者との信頼関係構築といった基本的な看護スキルが関連要因としてあげられ,人員配置やRCに必要な看護の質の統一化などの課題もまた関連要因であった.医療的ケア児のRCにおいて,事業所単位での利用者のRCニーズの把握や,基本的な看護スキル習得に対する自助努力も必要ではあるが,小児への訪問看護という専門性の高い領域においては,地域の各事業所が相互協力しあい,相補的に協働しながら,地域の医療的ケア児を支えるためのコーディネートが事業所の管理者には求められる.

他方で,医療的ケア児に対応できる人員確保やRCに必要な看護の質の統一化には,事業所の自助努力に頼る支援体制だけでなく,医療的ケア児を安定して地域で支える法整備や,各事業所のRCの質を担保するための実用的なRC実践モデルの構築など,RCの実施環境の整備も不可欠と考える.これらを行っていくことで,医療的ケア児および家族介護者の利益の保障や,エビデンスに基づく一定水準のケア提供によるRCのアカウンタビリティの担保が可能となり,さらには,訪問看護の発展にも寄与できると考えられる.

3. 本研究の限界と課題

本研究の限界として,標本抽出に関する偏りがある.本研究は,全国の訪問看護連絡協議会に登録しており,かつ情報開示されている事業所を対象とした.しかしながら,全事業所が全国の訪問看護連絡協議会に登録しているわけではなく,また,情報開示のない都道府県は調査対象から除外しており,対象の偏りは否定できない.さらに,本研究は,一時点の調査に基づくものであり,変数間の因果関係は結論づけられない.しかし,小児への訪問看護を実施している事業所に限定した大規模調査は本研究が初めてであり,本研究から得られた知見の臨床的意義は大きいと思われる.これらを踏まえ,今後さらに標本抽出誤差を統制した大規模調査および,変数間の因果関係の検証が可能な研究デザインでの調査研究が待たれる.

Ⅴ. 結論

本研究でのRC実施率は57.1%であり,医療的ケア児の家族介護者のRCのニーズは大きく,すべての事業所がその重要性を認識していた.RC実施には,人員確保,ニーズの大きさ,家族介護者との信頼関係構築といった基本的な看護スキルが関連要因としてあげられ,人員配置やRCに必要な看護の質の統一化などの課題もまた関連要因であった.今後は,RCを医療的ケア児が安定して地域で生活するための包括的支援の一つとして位置づけ,実用的なRC実践モデルの構築や法整備など,RCの実施環境を整えていくことが期待される.

謝辞:本研究にご協力いただきました全国の訪問看護ステーションの皆様に心より感謝申し上げます.本研究は,公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団2016年度後期研究助成を受けて実施しました.重ねて御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:NOおよびYSは研究の着想およびデザインへの貢献,統計解析の実施および原稿の作成;SFは原稿への示唆および研究全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
  •  Greenwood,  N.,  Habibi,  R.,  Mackenzie,  A. (2012): Respite; carers’ experiences and perceptions of respite at home, BMC Geriatrics, 12(1), 42.
  •  廣瀬 貴一(1993):レスパイトサービスについての基礎的研究の概要,月刊福祉,76(4), 74–79.
  •  Hill,  K. (2016): Respite services for children with life-limiting conditions and their families in Ireland, Nurs. Child. Young People, 28(10), 30–35.
  •  生田 まちよ, 永田 千鶴, 宮里 邦子(2010):在宅人工呼吸療法を行っている小児・家族へのホームベースレスパイトケアの可能性;小児の訪問看護の実態と長時間訪問看護の課題,熊本大保健紀,6, 11–22.
  •  生田 まちよ(2012):定期的ホームベースレスパイトケアを受けた在宅人工呼吸療法中の小児の母親の体験に関する事例研究,日小児看護会誌,21(2), 55–63.
  • 厚生労働省(2016):医療的ケア児について,Retrieved from: https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000118079.pdf.(検索日:2018. 10. 5.)
  • 厚生労働省(2017):平成27年人口動態統計月報年計の概況,Retrieved from: https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/dl/gaikyou27.pdf.(検索日:2018.12.30)
  • 厚生労働省(2011):訪問看護について,Retrieved from: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001uo3f-att/2r9852000001uo71.pdf.(検索日:2019. 1.16.)
  •  Jeon,  Y. H.,  Brodaty,  H.,  Chesterson,  J. (2005): Respite care for caregivers and people with severe mental illness; literature review, J. Adv. Nurs., 49(3), 297–306.
  •  北住 紀美子, 士野 につ子, 阪田 みゆき,他(2014):重度心身障碍児の在宅療養におけるレスパイトケアのあり方に関する研究,第44回日本看護学会論文集―地域看護,27–30.
  •  前田 浩利(2015)在宅医療の実際と問題点,小児内科,47(11), 1881–1885.
  • OECD: Health at a Glance 2011 (2011): Retrieved from: http://www.oecd.org/health/healthpoliciesanddata/healthataglance2011.htm.(検索日:2018.12.30)
  •  大槻 奈緒子, 坂口 幸弘, 井出 浩,他(2018a):障害児の在宅療養における家族介護者の休息状況が介護負担,睡眠障害,抑うつに及ぼす影響,日在宅ケア会誌,22(1), 57–64.
  •  大槻 奈緒子, 坂口 幸弘, 三谷 貴子,他(2018b):障害をもつ小児の在宅療養におけるレスパイトケアの利用満足度と課題,人間福祉学研究,11(1), 127–136.
  •  杉本 健郎, 河原 直人, 田中 英高,他(2008):超重症心身障害の医療的ケアの現状と問題点 全国8府県のアンケート調査,日小児会誌,112(1), 94–101.
  •  田村 正徳, 松本 吉郎(2016):小児在宅医療の現状と課題と解決策の検討―埼玉県での取り組み,小児保健研,75(6), 694–700.
  •  谷口 美紀, 横尾 京子, 名越 静香,他(2005):小児領域における訪問看護ステーションの活用第一報;訪問看護ステーションの立場からみた実情と課題,日新生児看会誌,11(1), 32–37.
  •  吉野 真弓, 吉野 浩之(2016):小児における在宅医療の継時的変化―訪問看護ステーションの視点を中心として,日小児会誌,120(12), 1818–1822.
  • 全国訪問看護事業協会(2017):平成28年度訪問看護ステーション数調査報告結果,Retrieved from: https://www.zenhokan.or.jp/new/new525/.(検索日:2017. 8. 30.)
 
© 2019 Japan Academy of Nursing Science
feedback
Top