Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Actual Condition of Visiting Nursing Care for Various User Needs in Function-enhanced Home Nursing Agencies
Naoko OtsukiSakiko FukuiJunko FujitaJunichi ShimizuKenshi HayashidaYumiko Kiyosaki
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2019 Volume 39 Pages 183-192

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Abstract

目的:本研究は,機能強化型訪問看護事業所での利用者特性に応じた訪問看護ケアの実施実態を明らかにした.

方法:全国の機能強化型訪問看護事業所と利用者515名を対象に開発したデータ入力システムを用いた調査を行った.

結果:利用者特性に関連する実施回数の多い訪問看護ケア項目は,がん末期では「疾病・治療の説明・指導(オッズ比(OR)=4.535)」,神経難病利用者への「衣生活のケア・指導(OR = 2.276)」,小児への「精神的援助(OR = 3.062)」「意思決定支援(OR = 3.701)」が特徴的であった.

結論:利用者特性別での実施回数の多い特徴的な訪問看護ケアが明らかになった.訪問看護のケア実施には,利用者特性を考慮する必要がある.

Translated Abstract

Aim: This study aimed to study the services offered by function-enhanced home nursing agencies for different patient needs.

Method: We targeted nationwide function-enhanced home nursing agencies and 515 users. A survey was conducted on care implementation using a data input system developed in advance.

Results: Most frequently availed home-visit nursing care services are “explanation and guidance on diseases and treatments (odds ratio [OR] = 4.535) towards the final stages of cancer,” “assistance and guidance for dressing users with intractable neurological diseases (OR = 2.276),” “mental support (OR = 3.062),” and “decision making support (OR = 3.701) for pediatric users.”

Conclusion: The services frequently availed by users of home nursing care were identified. It is necessary to consider user characteristics to provide the care of home-visit nursing.

Ⅰ. 緒言

日本では,2025年には人口のうち5人に1人が後期高齢者となり超高齢社会を迎える.人口の高齢化が急速に進展する中で,現行の社会保障制度の破綻が懸念され,高齢者の医療を支える在宅ケアの基盤整備の重要性が指摘されている(厚生労働省,2017).高齢者を支える在宅ケアの維持には,持続可能な医療・介護のシームレスな安定した制度設計が必要である(三菱総合研究所,2014).平成30年度の診療報酬改定では,重点課題として地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化,連携の推進が挙げられており,医療と生活を支える訪問看護師は,在宅におけるチーム連携の要としての役割発揮が期待される.

日本の訪問看護は1992年に改正老人保健法によりスタートし,その後の診療報酬改定および介護報酬改定において,訪問看護の発展に向けた訪問看護の数(量)の整備が行われてきた(福井ら,2015).創設後25年を経過した平成30年度全国訪問看護事業協会による訪問看護ステーション数調査では(全国訪問看護事業協会,2018),訪問看護事業所の稼働数は10,418か所と報告された.

一方,訪問看護の質という観点では,今後は高齢化に伴う医療情勢の変動を受け,在宅療養者の個別ニーズに対応する訪問看護の仕組みづくりの推進と普及を図る必要性が指摘されており(福井ら,2015),特に医療ニーズの高い在宅療養者への支援には,利用者特性を捉え,ケアの質確保や標準化を目指した訪問看護の実践展開を医療専門職の立場から推進していくことは不可欠である.しかし,日本は世界屈指の高齢社会であるにも関わらず,訪問看護の質評価に関する研究は未だ発展途上である(福井ら,2015).限りある人的・財政的資源で増大するニーズに対応するためには,サービス提供体制や医療保険・介護保険制度を効果的・効率的なものに変える必要があると言われており(松田ら,2018),日本でも効果的・効率的で質の確保された訪問看護の普及は急務である.

欧州ではケアの質を測るinterRAI,米国では支払い請求に伴うOASIS等のアセスメントツールが導入されている(三菱総合研究所,2014).なかでもinterRAIの活用状況として,各国が自国のケアの評価ツール開発のために,interRAIの指標を用いているものや(Betini et al., 2018Kim et al., 2015),Donabedian(1980/2007)の医療の質評価モデルである,ケア構造やケアのプロセス評価のためのあらたな測定ツールの開発時の妥当性の検証のためにinterRAIを用いているなど(e.g. Morris et al., 2016Van et al., 2016),質評価指標としてinterRAIが国際的にも標準的に活用されていることが推測できる.一方で,interRAIをはじめとした標準的アセスメントツールは,ケアアセスメントやケア指針を重要視したものであり,ケア構造やケアプロセスの評価は十分でなく,ケア評価には,ケアのプロセスを確立させた上で,評価にもケアのプロセスを含める必要があるとの指摘もある(Sales et al., 2012).近年の質評価に関する研究の動向として,interRAIそのものの妥当性を前提に,より発展的なケアのプロセス評価や,ケア構造およびケアのプロセスに着目した研究が,欧米,豪州などで多くみられるようになっており(Crilly et al., 2011Sales et al., 2015Kajonius & Kazemi, 2016Hardicre et al., 2018),世界有数の高齢社会の日本の文脈においても,ケアのプロセス評価が必要と考える.

そこで本研究は,ケアのプロセスを含めた,訪問看護ケアの標準化のためのパイロットスタディとして,質が担保されたケアが提供されていると考えられる機能強化型訪問看護事業所(以下,機能強化型ST)での利用者特性に応じた訪問看護ケアの実施実態を明らかにする.これらが明らかになることで,訪問看護におけるケアプロセスを含めたケア実施実態を捉える足がかりとなり,訪問看護ケアの標準化に向けたエビデンス集積への寄与が期待される.

Ⅱ. 方法

1. 調査対象

事業所の選定は,まず,全国訪問看護事業協会に登録している,機能強化型訪問看護管理療養費1または2を算定している全175か所の機能強化型STに,研究および調査説明を添付して調査協力依頼を行った.次に,調査協力の意向を示した機能強化型STの訪問看護師に入力マニュアルを用いて説明し,最終的な同意が得られた先着10か所の機能強化型STを調査対象として選定した.

利用者の選定基準は,医療保険もしくは介護保険対象の在宅の利用者(施設入居者除く)で,専門家パネルにより代表的な利用者特性を表すと考えられたがん末期,がん以外の終末期,神経難病,脳血管疾患,呼吸器疾患または循環器疾患,小児(6歳以下,7~19歳の2分類),精神疾患,認知症,その他の9分類の利用者とした.また,利用者の変化がみやすいことを勘案し,新規でのサービス利用開始時期が近い順から利用者それぞれ各5名程度を選定した.利用者特性の9分類は,先行研究(福井,2011永田ら,2013)を参考に,専門家パネルによるコンセンサスメソッドにより抽出し,信用性を確保した(宮田ら,2011).複数の疾患を有する場合等の選定基準は,①小児は,利用者の年齢による分類,②がん末期はターミナル期の利用者であり,主疾患が悪性新生物の利用者,③がん以外の終末期は,ターミナル期の利用者であり上記②以外の利用者,④神経難病は,主疾患が神経難病の利用者,⑤脳血管疾患は,主疾患が脳血管疾患の利用者,⑥呼吸器疾患または循環器疾患は,主疾患が呼吸器疾患または循環器疾患の利用者,⑦精神疾患は,主疾患が精神疾患の利用者,⑧認知症は,主疾患が認知症の利用者,⑨その他は,上記①から⑧に該当しない利用者とした.さらに選択時の優先順位として①>②>③>④~⑧>⑨とした.なお,小児に関しては年齢による訪問看護ケアの実施率の違いの可能性を鑑みて6歳以下および,7歳から19歳以下の下位分類を設けた.なお,本研究における専門家パネルには,研究者の他に訪問看護事業管理者,訪問看護データ収集システム研究経験者,訪問看護データ管理の専門家が含まれた.

2. 調査方法

本研究は,量的記述デザインによる実態調査研究として行われた.事前に調査項目のデータ入力システムを開発し,対象の機能強化型STの訪問看護師に対して説明会を開催し,入力マニュアルを用いて,入力方法や各訪問看護ケアの定義(表1)を説明した.その上で調査期間中,対象となる利用者を訪問した都度に,利用者への16項目の訪問看護ケアの実施の有無を訪問看護師にシステム入力してもらい,1か月間の16項目の訪問看護ケア実施状況を集積した.調査実施期間は2016年11月1日~2016年11月30日であった.なお,機能強化型STおよび利用者の背景情報は2016年11月1日時点のものとした.

表1 16項目の訪問看護ケアの用語の定義
訪問看護ケア 用語の定義
病状の観察 バイタルサインの測定,全体的状態の把握と観察,日常生活動作アセスメント,認知機能のアセスメント,水分出納のモニタリング,栄養モニタリング,循環機能のアセスメント,呼吸機能のアセスメント
清潔のケア・指導 入浴介助,シャワー浴介助,手浴,足浴,洗髪,洗面介助,全身清拭,陰部洗浄,新生児沐浴,目・鼻・耳・口腔・義歯・爪・足・臍部のケア,スキンケア,整容の援助
衣生活のケア・指導 衣類の調整,衣生活への支援,シーツ交換
食事や栄養のケア・指導 摂食の準備,食事のセッティング,食事・摂食介助,水分補給,食事指導,食生活指導・相談
排泄のケア・指導 排泄介助,排泄動作介助,腸管運動促進,便性調節,腸ガス排気
睡眠のケア・指導 就寝の準備,入眠を促す援助,睡眠パターンの調整,生活リズムを整える援助,気分転換,活動と休息のバランス管理
環境整備・調整 ベッドメーキング,病床周囲の整備,居室環境の整備,環境整備指導・相談,転倒・転落防止
リハビリテーション 身体機能リハビリテーション(関節可動域の維持・拡大,筋力の維持・増強,姿勢の保持と移動動作の介助,運動指導・相談など),呼吸リハビリテーション,嚥下リハビリテーション,言語訓練,作業療法,リラクゼーション法,マッサージ(リンパマッサージ含む)
疾病や治療に関する説明・指導(実施含む) 疾病の特徴や本人の病態の説明,病態に応じた生活指導,治療内容の説明や教育,治療のセルフケア指導や実施
薬剤の管理・指導(介助含む) 服薬管理,服薬指導,与薬,疼痛コントロール指導
医療処置の管理・実施・指導 カテーテル管理・医療機器の管理・排泄処置・皮膚処置・褥瘡および創傷部の処置・吸引・吸入・注射・点滴・中心静脈栄養の管理・麻薬の管理・検査(採血,検尿,検便,採痰,粘膜採取など)・冷罨法・温罨法・その他の診療の補助の実施および指導
精神的援助 傾聴,聴き沿う,共にいる,生きがい支援,なじみの場つくり,興奮・攻撃性の鎮静対応,自傷・他害行為への介入
意思決定支援 治療方針・療養場所・生活の仕方・最期の迎え方等,あらゆる在宅生活に関する利用者や家族の意向を聞き取り,意思決定できるための具体的説明や情報提供
ターミナルケア 死後の処置,悲嘆ケア,苦痛緩和のケア,最期を看取る方法およびその場所に対する利用者または家族の意向の確認
介護相談 介護指導・相談(用具関連含む),療養生活指導・相談
家族支援 家族指導・相談,家族教育,母子相互作用の形成促進

調査項目の設定は,医療の質評価モデルを提案したDonabedian(1980/2007)のモデルを概念枠組みとして用いた.項目の決定に関しては,interRAIではケアのプロセス評価は十分ではないと指摘される一方で(Sales et al., 2012),国内外で最も標準的に活用されているため,本研究ではinterRAI,OASIS(石橋,2015三菱総合研究所,2014)を土台とし,ケアプロセス項目の補填として,国内の先行研究で訪問看護サービス内容等のデータ蓄積を行っている,都道府県訪問看護連絡協議会,全国訪問看護事業協会,各訪問看護事業所等のデータ項目や,医療機関における「重症度,医療・看護必要度」,日本看護協会の「労働と看護の質向上のためのデータベース(DiNQL)」を参考に,専門家パネルで情報を集約し,概念枠組みを修正して調査項目を決定した.訪問看護ケア項目は,表1に示した計16項目とした.

また,本研究における対象の集団特性を把握するために,機能強化型STおよび利用者の基本属性を尋ねた.機能強化型STへの主な項目は,加算届出状況,法人等種別,平均利用者数および平均訪問回数などであった.利用者への主な項目は,利用者の年齢,性別,保険種別,日常生活自立度などであった.

3. 分析方法

調査期間における,利用者特性別での訪問看護ケア16項目の実施率を算出した.次に,利用者特性に関連する,ケア実施回数の多い特徴的な訪問看護ケア項目を検討するために,従属変数を各利用者特性に該当するかどうかの有無とし,独立変数を各訪問看護ケアの実施回数との関連を明らかにするために,まず単変量解析としてSpearmanの相関分析を行った.その上で,Spearmanの相関分析にてp < .05の関連性のみられた変数を一括投入するロジスティック回帰分析を実施した.分析はSPSS statistics Ver. 25を用い,有意水準は5%(両側)とした.

4. 倫理的配慮

本研究は,全国訪問看護事業協会の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2016-1).機能強化型STおよび利用者には,倫理的配慮として調査参加は自由意思であること,調査は無記名で行い,個人の特定がされないこと,プライバシーは保護されること,データ保存の方法を記した調査依頼状を送付した.また利用者には,機能強化型STの職員から紙面および口頭で調査説明し同意を得た.本研究は,調査時点の研究者の所属機関の承認を受けて実施した.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の背景

機能強化型STを利用している515名の1か月間の訪問看護ケア実施に関する回答を得た.対象者の特徴は,年齢は80歳代が最も多く,次いで70歳代であった.男女比は,男性が48.9%,女性51.1%であった.利用者特性は,呼吸器または循環器疾患が15.1%と最も多く,次いで脳血管疾患が多かった(表2).

表2 調査対象の機能強化型STおよび利用者の背景
機能強化型STの背景
機能強化型STの加算届出状況(n = 10) 事業所数
事業開設年 平成6年以前 2
平成7年~16年 5
平成17年~21年 3
法人等種別 医療法人 3
看護協会 1
医師会 1
社団・財団法人 1
社会福祉法人 1
営利法人 3
機能強化型訪問看護管理療養費 1 7
2 3
緊急時訪問看護加算 あり 10
なし 0
特別管理加算 あり 10
なし 0
看護体制強化加算 あり 1
なし 9
ターミナルケア体制 あり 8
なし 2
精神科訪問看護基本療養費 あり 7
なし 3
24時間対応体制加算 あり 10
なし 0
算定要件別該当数(n = 10) 平均件数 SD
ターミナルケア療養費の算定件数 20.9 9.97
ターミナルケア加算の算定件数 7.6 6.28
各月の超重症児の合計利用者数 44.5 46.31
各月の準超重症児の合計利用者数 26.0 22.3
利用者数(月)(n = 10) 医療保険 58.5 29.03
介護保険(要支援) 25.1 16.09
介護保険(要介護) 142.8 81.71
延べ訪問回数(月)(n = 10) 医療保険 545.6 328.26
介護保険(要支援) 99.3 61.99
介護保険(要介護) 834.7 419.44
利用者背景
利用者情報(n = 515) n %
年齢(n = 514) 0–3歳 31 6.0
4–6歳 13 2.5
7–9歳 12 2.3
10歳代 13 2.5
20歳代 7 1.4
30歳代 8 1.6
40歳代 10 1.9
50歳代 33 6.4
60歳代 50 9.7
70歳代 113 22.0
80歳代 147 28.6
90歳代 70 13.6
100歳以上 7 1.4
性別(n = 515) 男性 252 48.9
女性 263 51.1
保険種別(n = 514) 医療保険 211 41.1
介護保険 300 58.4
重複 3 0.5
日常生活自立度(n = 515) ランクJ(自立) 123 23.9
ランクA(準寝たきり:屋内自立) 132 25.6
ランクB(寝たきり:座位可能) 73 14.2
ランクC(寝たきり:ベッド上) 121 23.5
評価実施なし 66 12.8
利用者特性(n = 515) がん末期の利用者 38 7.4
がん以外の終末期の利用者 17 3.3
神経難病 59 11.5
脳血管疾患 61 11.8
呼吸器または循環器疾患 78 15.1
小児 (6歳以下) 44 8.5
(7~19歳) 25 4.9
精神疾患 29 5.6
認知症 53 10.3
その他 111 21.6

2. 利用者特性別の各訪問看護ケアの実施率(表3

病状観察は利用者特性に関係なくほぼ100%の実施率であった.「清潔ケア」や「介護相談」は,医療的ケアが比較的多く,病状が進行的に悪化してくることが予測される,がん末期やがん以外の終末期の利用者での実施率が高かった(76.3~94.1%).一方で,小児の利用者の実施率は41.7~79.2%にとどまった.「疾病や治療の説明・指導」や「意思決定支援」では,がん末期やがん以外の終末期の利用者の実施率が高かった(47.4~94.7%).「リハビリテーション」は神経難病(84.5%)や脳血管疾患利用者(75.4%)での実施率が高かった.

表3 利用者特性別の訪問看護ケアの実施率
全体n = 515 利用者特性
がん末期の利用者n = 38 がん以外の終末期の利用者n = 17 神経難病n = 59 脳血管疾患n = 61 呼吸器疾患または循環器疾患n = 78 小児 小児 精神疾患n = 29 認知症n = 53 その他n = 111
6歳以下n = 44 7~19歳n = 25
n(%) n(%) n(%) n(%) n(%) n(%) n(%) n(%) n(%) n(%) n(%)
病状観察 510(99.8) 38(100) 16(94.1) 58(100) 61(100) 77(100) 43(100) 24(100) 29(100) 53(100) 111(100)
リハビリテーション 325(63.6) 21(55.3) 11(64.7) 49(84.5) 46(75.4) 47(61.0) 30(69.8) 11(45.8) 10(34.5) 36(67.9) 64(57.7)
薬剤の管理・指導 357(69.9) 31(84.2) 11(64.7) 38(65.5) 38(62.3) 53(68.8) 21(48.8) 14(58.3) 23(79.3) 40(75.5) 87(78.4)
医療処置管理・実施・指導 356(69.7) 36(94.7) 16(94.1) 46(79.3) 34(55.7) 51(66.2) 37(86.0) 21(87.5) 7(24.1) 34(64.2) 74(66.7)
清潔のケア・指導 363(71.0) 35(92.1) 16(94.1) 49(84.5) 38(62.3) 50(64.9) 29(67.4) 19(79.2) 9(31.0) 39(73.6) 79(71.2)
衣生活のケア・指導 282(55.2) 28(73.7) 16(94.1) 43(74.1) 25(41.0) 38(49.4) 27(62.8) 15(62.5) 4(13.8) 31(58.5) 55(49.5)
食事や栄養のケア・指導 349(68.3) 33(86.8) 15(88.2) 40(69.0) 37(60.7) 49(63.6) 28(65.1) 12(50.0) 13(44.8) 39(73.6) 83(74.8)
排泄のケア・指導 347(67.9) 33(86.8) 15(88.2) 46(79.3) 34(55.7) 43(55.8) 31(72.1) 18(75.0) 12(41.4) 35(66.0) 80(72.1)
睡眠のケア・指導 197(38.6) 21(55.3) 11(64.7) 24(41.4) 20(32.8) 22(28.6) 14(32.6) 9(37.5) 13(44.8) 22(41.5) 41(36.9)
介護相談 273(53.4) 29(76.3) 15(88.2) 30(51.7) 34(55.7) 38(49.4) 20(46.5) 10(41.7) 11(37.9) 32(60.4) 54(48.6)
環境整備・調整 320(62.6) 29(76.3) 15(88.2) 41(70.7) 33(54.1) 45(58.4) 26(60.5) 17(70.8) 9(31.0) 37(69.8) 68(61.3)
疾病や治療の説明・指導 338(66.1) 36(94.7) 14(82.4) 36(62.1) 39(63.9) 45(58.4) 24(55.8) 14(58.3) 14(48.3) 31(58.5) 85(76.6)
精神的援助 378(74.0) 34(89.5) 11(64.7) 45(77.6) 43(70.5) 63(81.8) 20(46.5) 11(45.8) 28(96.6) 41(77.4) 82(73.9)
意思決定支援 110(21.5) 18(47.4) 9(52.9) 13(22.4) 6(9.8) 14(18.2) 5(11.6) 0(0.0) 8(27.6) 4(7.5) 33(29.7)
ターミナルケア 36(7.0) 24(63.2) 6(35.3) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 1(2.3) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 5(4.5)
家族支援 324(63.4) 31(81.6) 14(82.4) 40(69.0) 33(54.1) 34(44.2) 40(93.0) 20(83.3) 11(37.9) 34(64.2) 67(60.4)

3. 利用者特性に関連する訪問看護ケア項目(表4

ロジスティック回帰分析の結果,利用者特性に関連がみられた訪問看護ケアは,がん末期の利用者の「疾病や治療に関する説明・指導(調整済みオッズ比4.535:95%信頼区間1.018~20.201)」「ターミナルケア(72.256:21.569~242.063)」,がん以外の終末期の利用者での「ターミナルケア(3.198:1.019~10.035)」,神経難病の利用者での「衣生活のケア・指導(2.276:1.094~4.735)」,脳血管疾患の利用者での「リハビリテーション(2.030:1.111~3.710)」,小児の利用者での「薬剤の管理・指導(2.206:1.128~4.315)」「医療処置の管理・実施・指導(0.395:0.176~0.887)」「精神的援助(3.062:1.595~5.878)」「意思決定支援(3.710:1.362~10.052)」「家族支援(0.111:0.046~0.268)」,精神疾患の利用者での「衣生活のケア・指導(0.272:0.078~0.950)」「精神的援助(16.002:2.094~122.286)」であった.モデルの当てはまりに関しては,χ2検定を用いたモデル適合度により,すべてのモデルの適合は良好であった.なお,関連要因間のVariance Inflation Factorは,1.011~1.975の範囲であり,多重共線性はみられなかった.また認知症利用者の有無と訪問看護ケアの実施回数には相関はみられなかった.

表4 利用者特性に関連する訪問看護ケア
オッズ比 95%信頼区間 P モデル適合度χ2
下限 上限
〈がん末期に関連する実施回数の多いケア〉 112.1296***
医療処置の管理・実施・指導 2.069 0.428 9.999 .366
清潔のケア・指導 1.245 0.256 6.051 .786
食事や栄養のケア・指導 1.196 0.325 4.395 .788
排泄のケア・指導 0.855 0.233 3.137 .813
介護相談 0.544 0.175 1.694 .293
疾病や治療に関する説明・指導 4.535 1.018 20.201 .047
精神的援助 0.808 0.250 2.618 .723
意思決定支援 0.697 0.222 2.189 .536
ターミナルケア 72.256 21.569 242.063 <.0001
家族支援 0.810 0.256 2.561 .720
〈がん以外の終末期に関連する実施回数の多いケア〉 34.15863**
食事や栄養のケア・指導 2.631 0.279 24.815 .398
排泄のケア・指導 0.894 0.076 10.483 .929
睡眠のケア・指導 0.905 0.275 2.987 .870
介護相談 5.825 0.661 51.328 .112
意思決定支援 1.677 0.554 5.075 .360
ターミナルケア 3.198 1.019 10.035 .046
家族支援 0.908 0.164 5.044 .913
〈神経難病に関連する実施回数の多いケア〉 22.17323*
リハビリテーション 1.809 0.961 3.408 .066
医療処置の管理・実施・指導 1.244 0.566 2.734 .587
清潔のケア・指導 1.129 0.450 2.829 .796
衣生活のケア・指導 2.276 1.094 4.735 .028
排泄のケア・指導 1.303 0.625 2.717 .480
〈脳血管疾患に関連する実施回数の多いケア〉 17.42298**
リハビリテーション 2.030 1.111 3.710 .021
意思決定支援 0.437 0.187 1.019 .055
〈呼吸循環器に関連する実施回数の多いケア項目〉 22.79507*
排泄のケア・指導 0.633 0.372 1.077 .092
睡眠のケア・指導 0.796 0.464 1.366 .408
ターミナルケア 0.319 0.073 1.387 .128
家族支援 0.760 0.463 1.248 .278
〈小児に関連する実施回数の多いケア〉 88.79039***
薬剤の管理・指導 2.206 1.128 4.315 .021
医療処置の管理・実施・指導 0.395 0.176 0.887 .024
精神的援助 3.062 1.595 5.878 <.0001
意思決定支援 3.701 1.362 10.052 .010
家族支援 0.111 0.046 0.268 <.0001
〈精神疾患に関連する実施回数の多いケア〉 56.76973***
清潔のケア・指導 0.381 0.144 1.004 .051
衣生活のケア・指導 0.272 0.078 0.950 .041
食事や栄養のケア・指導 0.783 0.291 2.106 .628
排泄のケア・指導 0.926 0.339 2.526 .880
環境整備・調整 0.582 0.224 1.510 .266
精神的援助 16.002 2.094 122.286 .008
家族支援 0.651 0.279 1.520 .321

p < .001 ***,p < .01 **,p < .05 *

Ⅳ. 考察

1. 利用者特性別での訪問看護ケアの実施率

本研究における機能強化型STは,機能強化型訪問看護管理療養費1をとっている機能強化型STが7割,特別管理加算においては10割,ターミナルケア体制は8割であり,訪問看護ケアの質を一定水準有している対象であったと考えられる.

「病状観察」は,利用者特性に関係なくほぼ100%の実施率であり,病状観察が訪問看護の必須ケアであるだけでなく,在宅における訪問看護師の専門的な役割機能であることが考えられる.役割機能を十分に果たしていくためには,国外の研究ですでに指摘されているように(Sales et al., 2012),病状観察のプロセス評価を行い,実践現場にフィードバックすることが必要である.

「リハビリテーション」は,神経難病(84.5%)や脳血管疾患利用者(75.4%)の利用者の実施率が高かった(75.4~84.5%).これらの利用者特性では,機能改善だけでなく,疾患の進行に伴う日常生活動作機能低下の予防が重要である.予防の観点は,訪問看護アクションプラン2025でも重要視されており(高砂,2018),今後さらにリハビリテーションの機能を拡大していく必要がある.

「清潔ケア」や「介護相談」では,医療的ケアが比較的多く,病状が進行的に悪化してくることが予測される,がん末期やがん以外の終末期の利用者への実施率が高かった(76.3~94.1%).一方で,同じく医療的ケアが多いとされる小児への実施率は41.7~79.2%にとどまった.この結果は,これらのケアが小児には不要なのではなく,おもな介護者がケアを担っているためと考えられる.しかしながら,介護負担が介護者の健康に影響を及ぼすことは広く知られており(Schulz & Beach, 1999),家族の介護状況も考え合わせた上で,顕在的および潜在的なニーズを総合して,訪問看護ケアの実施を検討していく必要がある.

「疾病や治療の説明・指導」や「意思決定支援」では,がん末期やがん以外の終末期の利用者の実施率が高かった(47.4~94.7%).がん末期やがん以外の終末期の利用者では,病状進行に伴い療養生活上の意思決定を行う機会が多くなるため,結果に影響したと考えられる.一方で,国外ではがん末期やがん以外の終末期の利用者以外への意思決定支援の必要性も報告されており(Luckett et al., 2014Van et al., 2014),今後は利用者への個別的なケアアセスメントを行い,必要に応じたケアの実施が望まれる.

2. 利用者特性に関連する訪問看護ケア

がん末期およびがん以外の終末期の利用者では,おもにターミナルケアを目的として訪問看護が導入されているケースが多く,訪問開始直後からターミナルケアを積極的に実施する必要性がある.一方で,「ターミナルケア」と関わりが深い「意思決定支援」に関しては,関連性がみられなかった.日本では,自宅死亡の希望者の割合は43.7%と報告されており(Fukui et al., 2011),訪問看護における終末期ケアの中での意思決定支援の必要性が今後高まることが予測されるが(Ishikawa et al., 2018),本結果では利用者特性と「疾病や治療に関する説明・指導」に関連性が認められたにも関わらず,「意思決定支援」には関連性が認められなかった.これは意思決定支援の認識が訪問看護師にまだ十分に浸透していない可能性が考えられる.一方,国外では意思決定支援の重要性は数多く報告されており(e.g. Carmen et al., 2014),また近年では,より実践的な意思決定支援のあり方の検討の必要性が指摘されている(Lunder et al., 2017).石川ら(2017)は,「看護師は悪化期の症状の変化が起こるタイミングを逃さず,患者や家族の不安の原因となることを予測して生活への影響を踏まえた予後の説明をすることが重要である」と述べているが,谷本ら(2018)が指摘するように,日本では,実践現場でのケア実施実態の詳細な調査がなされていないのが現状であり,今後,訪問看護師への「意思決定支援」を含めた「ターミナルケア」や「疾病や治療に関する説明・指導」の実態把握および,訪問看護師へのケアの必要性の普及・啓発,さらに利用者へのケア実践が期待される.

脳血管疾患の利用者では「リハビリテーション」,神経難病の利用者では,「衣生活のケア・指導」がそれぞれ関連する訪問看護ケアであった.これらの利用者特性では,比較的病状が安定していることが推測され,日常生活動作機能の改善・維持,上記でも述べた日常生活動作機能の低下予防など,より生活の質の向上に直結する訪問看護ケアに関連性が認められたと考えられる.効果的かつ効率的にケアを実施するためには,利用者特性と利用者の個別的なニーズを総合的にアセスメントし(Hardicre et al., 2018),多職種連携を図りつつ(Brooten et al., 2012),より最適なケアを目指す必要がある.

小児では,「薬剤の管理・指導」「精神的援助」「意思決定支援」に関連性が認められた.周産期医療の発展に伴い,医療的ケアの必要な小児の在宅療養が増加しており(大槻ら,2018),これらの社会的背景に伴い,薬剤の管理・指導や意思決定をする機会が増えたためと考えられる.さらに在宅で障害児(小児)のケアをする家族介護者の負担感は,身体的なものだけでなく,精神的,心理的,社会的にも多く報告されており(e.g.大槻ら,2018),精神的援助にも関連性が認められたと考えられる.一方で,関連性の認められた「医療処置の管理・実施・指導」はオッズ比が1未満であり,おもな介護者(多くは母親)の医療処置の習得状況が影響していると考えられる.しかしながら,特に小児では医療的ケアが必要な重症児が多く,また医療の高度化に伴い療養期間が長期化しており,介護者の負担軽減を図るためにも訪問看護での積極的なケア実施が望まれる.また,「家族支援」もオッズ比が1未満のケアであった.核家族化に伴い,インフォーマルな介護代替者が少ない中で,家族介護者の休息状況は家族介護者の抑うつに関連すると報告されており(大槻ら,2018),今後,小児を中心とした家族全体を包含したケアを行っていくことが訪問看護に期待される.

精神疾患の利用者では,「精神的援助」が関連しており,一方で関連性のあった「衣生活のケア・指導」はオッズ比が1未満であった.これは,とくに精神疾患の利用者に対しては,直接的ケアよりも自立支援等の間接的ケアの重要性が言われており(川田・田嶋,2018),精神疾患の利用者では直接的な日常生活援助よりも,利用者が自立した生活をおくるためのケアが必要であることを示唆する結果と解釈できる.

3. 本研究の限界と課題

本研究では,利用者特性を9分類(小児は年齢でさらに2分類)としたが「その他」に分類される利用者の割合が多かった.これは限界である一方で,訪問看護の利用者特性が多岐にわたっている実態の反映とも考えられる.地域包括ケアの推進にあたり,この利用者特性の多様性を客観的に捉た,在宅医療・介護施策の検討は重要であり,多様性に着目した今後の発展研究が待たれる.

次に,標本抽出の偏りが挙げられる.本研究では,対象となる機能強化型STを地域特性や加算状況を勘案して専門家パネルで便宜上抽出した.これは選択バイアスが否めない.また,本研究は1か月間の調査に基づく結果であり,訪問看護ケアのように長期的に利用者へのケア実施が必要なものにおいて,変数間の因果関係を結論づけることはできない.しかしながら,本研究は機能強化型STの利用者のみを対象として1か月間の訪問看護ケアの実施を集積した初めての大規模調査であり,今後の訪問看護ケアの標準化を目指すに当たってのパイロットスタディとしては一定の成果が得られたと考える.したがって今後は,より検出力を考慮した対象群での縦断的な調査研究が期待される.

Ⅴ. 結論

本研究では,利用者特性別での実施回数の多い特徴的な訪問看護ケアが明らかとなった.高齢社会に伴う人的および財政的な資源の不足が今後急速に進む日本において,効果的・効率的な訪問看護のケアを提供することは必須であり,今後の訪問看護のケア実施には,利用者特性を考慮した訪問看護のケア実施が望まれる.

謝辞:本研究にご協力を頂きました,機能強化型STおよび利用者の皆様に心より御礼申し上げます.本研究は,平成28年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業(研究代表者:福井小紀子,実施主体:全国訪問看護事業協会)「訪問看護のケア実態及び必要性に関する調査研究事業」によって行われた成果の一部である.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:NOおよびSFは研究の着想およびデザインに貢献;NO,SF,JF,JSは統計解析の実施および草稿の作成;KHおよびYKは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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