2019 Volume 39 Pages 236-244
目的:本研究は,Weinerの帰属理論に基づき,自閉スペクトラム(ASD)者の困難場面に対する看護学生の原因帰属と支援行動意図との関連を明らかにすることを目的とした.
方法:看護学生351人を対象に質問紙調査を実施した.ASD者の困難場面をヴィネットとして提示し,それに対する原因帰属(統制可能性)や感情(怒り・共感),支援行動意図についてたずねた.分析では,統制可能性が怒りや共感を介して支援行動意図に影響を及ぼすとする仮説モデルを設定し,検討した.
結果:構造方程式モデリングの結果,仮説モデルはデータに適合していた.パス係数から,ASD者の困難場面に対する統制可能性認知が低い者ほど,共感が強く,支援行動意図が高いこと,一方,統制可能性認知が高い者ほど,怒りが強く,支援行動意図が低いことが示された.
結論:ASD者の困難場面に対する看護学生の原因帰属,とりわけ統制可能性への介入がASD者への共感や支援行動の促進につながる可能性が示唆された.
Objectives: The present study aimed to examine the relationship between controllability, a key attribution about the causality of behavior, and intention to help adolescents with autism spectrum disorder (ASD) among nursing students.
Methods: A total of 351 students from different nursing schools and universities were included in the study. An online survey utilizing a hypothetical vignette was conducted among nursing students after they read a vignette depicting the behavioral problems of adolescents with ASD.
Results: In total, 227 participants completed the survey questionnaire (response rate: 64.6%), and 192 responses were analyzed. Results of the structural equation modeling showed that our hypothesized model adequately fits the data about the attribution theory (CFI = 0.943, TLI = 0.931, RMSEA = 0.072). Controllability was indirectly related to the intention of helping through sympathy and anger. Students who believed that the behavioral problems of adolescents with ASD are attributable to less controllable characteristics were more likely to have a stronger intention of helping.
Conclusion: The findings of the present study indicate that interventions that alter nursing students’ controllability of the behavioral problems of adolescents with ASD may foster feelings of sympathy and enhance the intention of helping.
自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder: ASD)は,主に「社会性の障害」や「常同行動・思考」を特徴とする発達障害である(American Psychiatric Association, 2014).ASD者の中には,障害特性によって生じる周囲とのトラブルや誤解,理解不足による叱責や心ない対応などにより,適応障害をはじめ,さまざまな不安障害に類する精神疾患,気分障害,精神病性障害などの二次障害をもつ者も少なくない(Kamio et al., 2013).ASD者が適応的に社会生活を送るためには,周囲の支援や理解ある態度が必要である.
ASD者への態度や意識についてはこれまで数多くの研究がなされている.大学生を対象とした研究では,ASD者との接触経験が少ない者ほど,ASD者に対して誤解や偏見,ネガティブなイメージを抱く傾向にあることなどが報告されている(Nevill & White, 2011;Gardiner & Iarocci, 2014;岡本ら,2012;菊池,2011).また,ASD者に対するスティグマの低減を目的とした様々な啓発教育プログラムが開発され,一部の啓発教育プログラムについては,ASDに関する知識の定着やASD者に対するスティグマ的態度の低減,社会的距離の縮小に有効であるとの報告もある(Mavropoulou & Sideridis, 2014;Ranson & Byrne, 2014;Gillespie-Lynch et al., 2015).
このようにASD者への態度や意識を扱った研究の蓄積は進んでいるものの,それら研究の多くには,いくつかの方法上の課題が挙げられる.
第一に,看護職や看護学生を対象とした研究がないことである.これまでの研究は,地域住民や教育学部などの大学生を対象としており,得られた知見が看護職や看護学生にあてはまるか定かではない.看護職や看護学生は,患者や利用者としてのASD児・者と接する機会が少なくない.ASDの早期発見・早期支援のみならず,ASD児・者の継続的な支援においても看護職の果たす役割は大きいため,看護職や看護学生を対象にASD者に対する意識や態度を調査することは意義のあることといえる.
第二に,質問紙から想像されるASDの障害像が一様でないことが挙げられる.ASDは,重度の自閉症からアスペルガー症候群まで,異なる障害像を含む概念である.こうした用語を用いると,回答者により異なる障害が想像され,得られた回答がどのような障害を想像して回答されたのか曖昧となる可能性がある.この種の態度研究では一般にヴィネット調査が用いられることが多い.ヴィネット(vignette)は,回答者に提示される架空の人物や状況に関する記述を指し,ヴィネットを用いることで誤解や思い込みの入り込む余地が少なく,目的とする障害に対する回答者の知識や態度,イメージを調査することができるとされる(林,2010).
第三に,認知・行動科学理論に基づいた研究が少ないことである.ASD者は,大きなストレスを抱えたり,勘違いや思い込みのためにトラブルを起こすことがあるが,周囲は結果だけに注目し,注意したり,叱ったりすることがある.こういったASD児者の問題とされる行動を関係者が理解し,適切に対応していくためには,その行動が生起した原因を理論的に考えることが重要である.原因論の代表的な理論としてWeiner(2006/2007)の帰属理論がある.帰属理論では帰属させる原因の特性(例えば,統制可能性,原因の位置,安定性など)によって,その後の感情や行動が異なるとされる.この帰属理論に基づく研究では,ASD者の問題行動の原因をASD者の障害に帰属させる傾向が強い者は支持的対応をとりやすく,一方でASD者本人の意思に帰属させる傾向が強い者は懲罰的対応を取りやすいことが報告されている(Ling et al., 2010;Payne & Wood, 2016;Mogavero & Hsu, 2018).こうした理論に基づき得られた研究知見は,ASD者の周囲の人の心理や行動を理解したり,望ましい行動の促進に向けて必要な取り組みを考えたりするのに役立つといえる.
上記の課題を踏まえ,本研究では看護学生を対象に,帰属理論を用いてASD者の困難場面に対する原因帰属と支援行動意図の関連を明らかにすることを目的とした.検討を進めるにあたって,帰属理論を用いた先行研究(Corrigan et al., 2003;Ling et al., 2010)を参考に,本研究では次のような仮説を設定した.
1)ASD者の困難場面の原因がASD者自身に統制可能であると捉える,すなわち統制可能性認知が低い学生ほどASD者への共感感情が強く,支援行動意図が高い.
2)反対に,統制可能性認知が高い学生ほど,ASD者への怒り感情が強く,支援行動意図が低い.
横断研究
2. 調査対象と調査方法中国地方にある公立A大学看護系学生1~4年生255人・私立B専門学校看護系学生1~3年生118人の計351人を対象にオンライン調査を実施した.対象の学生は看護学を専攻し,卒業後,看護師保健師の国家試験受験資格が取得できるコースに所属している.調査はWEB上にアンケートフォームを作成して実施した.調査にあたっては,対象の学生にアクセス先のQRコードを記載した説明文書を研究者が教室で配布し,各自のスマートフォン等より回答フォームにアクセスし,一度だけ回答を送信するよう依頼した.回答期間は2週間とした.回答期間終了後,回答数,回答日時,重複回答データの有無を確認し,蓄積された回答をWebよりダウンロード取得した.調査期間は2017年5月から8月までの3ヶ月間であった.
3. 倫理的配慮本研究は新見公立大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号N0 131).研究者が学生担当者宛に研究の趣旨,倫理的配慮を説明し,対象の学生に対しては依頼文書にて配慮事項の説明を行い,回答をもって同意を得られたものとした.
4. 仮説モデル本研究では,帰属理論を用いた先行研究のモデルを参考に,「統制可能性」が「怒り」「共感」を介して「支援行動意図」に関連するとする仮説モデルを設定した.なお,以降,特に断りがなければ,「統制可能性」「怒り」「共感」「支援行動意図」をまとめて『態度変数』と総称する.
5. 調査内容ASD者の行動を表したヴィネット
本研究では,ASDの支援事例(日本学生支援機構,2018;梅永,2015)を参考にASDの障害特性「感覚過敏」「パニック」「状況認知の悪さ」をもつ人物(A氏)のヴィネットを作成した.なお,冒頭にA氏がASDの診断を受けていることを明記した(資料1).看護学生にはヴィネットをA氏のエピソードとして提示した後,ASD者の行動が統制可能な原因によって起こったかどうか(行為者の統制可能性),ASD者の行動に対してどのような感情を抱いたか(感情),そのASD者に対して支援的な行動をとろうと思うかどうか(支援行動意図)について,回答するよう依頼した.
1) ASD者の行動の原因帰属(行為者の統制可能性)Ling et al.(2010)の研究と同様,本研究の原因帰属次元として「統制可能性(Controllability)」を扱った.その理由は,行動の原因が本人に統制可能であるかどうかは支援行動の可否を判断する重要な要因と考えられるからである.統制可能性の測定には「Attribution Questionnaire:AQ(Corrigan et al., 2003;Ling et al., 2010)」で使用された「統制可能性」に関する項目を参考に独自に作成した3項目(「A氏は自分の行動を控えるべきだ」「A氏は自分自身の行動に責任を持つべきだと思う」「A氏に落ち度はない」)を用いた.各項目に対する回答は「1.全くそう思わない」から「6.とてもそう思う」の6件法で求め順に1~6点を与えた.ただし,「A氏に悪気はない」という項目は得点の与え方を逆転させた.したがって,得点が高いほど,ASD者の行動はASD者本人による統制が可能であると捉える傾向が強いことを意味している.予備解析の結果,項目「A氏に落ち度はない」の回答肢に極端な偏りが認められたため,この項目はその後の分析から除外した.なお,残る2項目を尺度とみなしたときのα信頼性係数は0.60であった.
2) ASD者の行動に対する感情帰属理論を用いた先行研究(Ling et al., 2010)を参考に,ASD者の行動に対する感情を「共感(Sympathy)」と「怒り(Anger)」の2つの側面から捉えることとした.
共感
共感の測定にはLing et al.の項目を参考に独自に作成した4項目「A氏の言動は理解できる」「A氏がこのような言動をする理由について関心を払うべきだ」「A氏がなぜそうした言動をとるか理解できる」「A氏はこの状況を悲しんでいると思う」を用いた.各項目に対する回答は「1.全くそう思わない」から「6.とてもそう思う」の6件法で求め順に1~6点を与えた.得点が高いほど,ヴィネット事例(A氏)に対する共感が強いことを意味している.なお,本尺度のα信頼性係数は0.67であった.
怒り
怒りの測定にはLing et al.の項目を参考に独自に作成した4項目「A氏の言動は非常識だと思う」「私はA氏のいう言葉が反抗的だと思う」「A氏は困った人だと思う」「A氏の言動は不快だ」を用いた.各項目に対する回答は「1.全くそう思わない」から「6.とてもそう思う」の6件法で求め順に1~6点を与えた.得点が高いほど,ヴィネット事例(A氏)に対する怒りが強いことを示している.本尺度のα信頼性係数は0.81であった.
3) ASD者に対する支援行動意図支援行動意図の測定には,Ling et al.(2010)の研究で用いられた「Helping intention」の項目を参考に独自に作成した5項目「A氏の障害(自閉症)についてもっと知りたい」「A氏の背景についてもっと知りたい」「A氏のために専門家に相談しようと思う」「A氏の言動を改善する手助けをしてあげたい.」「A氏の相談に乗ってあげたい」を用いた.各項目に対する回答は「1.全くそう思わない」から「6.とてもそう思う」の6件法で求め,順に1~6点を与えた.得点が高いほど,ヴィネット事例(A氏)に対して支援しようとする意図が高いことを示している.なお,回答者とA氏の間柄については,特に情報を与えず,第三者の立場から回答を求めた.本尺度のα信頼性係数は0.86であった.
4) 対象者の基本属性等対象者の基本属性として,「所属」「学年」「性別」「ASD者との接触経験(身近にASD者がいるかどうか)」を尋ねた.なお,これらの変数は分析の際に統制変数として使用した.
6. 分析方法まず,各態度変数の基本統計量を算出したのち,対象者の「所属」「学年」「性別」「ASD者との接触経験」の各水準間で各態度変数の平均値をt検定および一元配置分散分析にて比較した.「統制可能性」が「共感」および「怒り」を経由して「支援行動意図」に影響するとする分析モデルを構築し,そのモデルのデータへの適合度および各推定値の算出を構造方程式モデリングにより行った.なお,「統制可能性」「共感」「怒り」は潜在変数として表現し,各潜在変数を構成する指標は順序カテゴリカルデータとして扱い,推定方法にはロバスト重み付き最小二乗法WLSMV(Weighted Least Square Mean and Variance adjusted)を用いた.また,先行研究のモデルでは,所属,性別などの個人属性が統制変数として扱われていることから(Weiner, 2006/2007),本研究でも所属,学年,性別,ASD者との接触経験を統制変数として扱い,それぞれダミー変数化してモデルに投入した.モデルの適合度の評価にはCFI(Comparative Fit Index)TLI(Tucker-Lewis Index)とRMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)を用いた.一般にCFI,TLIは0.90以上,RMSEAは0.08以下であればそのモデルがデータに適合していると判定される.(豊田,2007).以上の統計解析にはMplus7.4(Muthén & Muthén, 2014)を用いた.
351人に依頼し,最終的に227人から回答が得られた(回収率64.6%).分析には各変数に欠損値のない192人のデータを使用した.分析対象者の所属は「4年制大学」60.9%(117人),性別は「女性」が88.6%(170人)が大半を占めていた.ASD者との接触経験については「なし」と回答した者が65.7%(126人)と多数を占め「あり」と回答した者は30.2%(58人)であった(表1).
度数 | % | |
---|---|---|
所属 | ||
4年制大学 | 117 | 60.9 |
3年制専門学校 | 75 | 39.1 |
学年 | ||
1年生 | 66 | 34.4 |
2年生 | 58 | 30.2 |
3年生 | 52 | 27.1 |
4年生 | 16 | 8.3 |
性別 | ||
女性 | 170 | 88.5 |
男性 | 22 | 11.5 |
ASD者との接触経験 | ||
なし | 126 | 65.6 |
あり | 58 | 30.2 |
知人 | 25 | 13.0 |
同級生 | 16 | 8.3 |
友人 | 8 | 4.2 |
親戚 | 3 | 1.6 |
きょうだい | 3 | 1.6 |
不明 | 8 | 4.2 |
各態度変数の項目別回答傾向を表2に示す.ヴィネットで提示した事例(A氏)に対する支援行動意図について,「とてもそう思う」「思う」と回答した者の割合に着目すると,その割合が半数以上であった項目は「障害(自閉症)についてもっと知りたい」64.1%(123人),「背景についてもっと知りたい」55.2%(106人)であった.一方,その割合が低かった項目は,「A氏のために専門家に相談しようと思う」24.5%(47人)であり,2割程度であった.
態度変数 | そう思う+とてもそう思う | どちらかというとそう思う+どちらかというとそう思わない | そう思わない+全くそう思わない | |||
---|---|---|---|---|---|---|
n | % | n | % | n | % | |
支援行動意図 | ||||||
X1 A氏の障害(自閉症)についてもっと知りたい | 123 | 64.1% | 65 | 33.9% | 4 | 2.1% |
X2 A氏の背景についてもっと知りたい | 106 | 55.2% | 76 | 39.6% | 10 | 5.2% |
X3 A氏の言動を改善する手助けをしてあげたい | 91 | 47.4% | 92 | 47.9% | 9 | 4.7% |
X4 A氏の相談に乗ってあげたい | 80 | 41.7% | 104 | 54.2% | 8 | 4.2% |
X5 A氏のために専門家に相談しようと思う | 47 | 24.5% | 136 | 70.8% | 28 | 14.5% |
統制可能性 | ||||||
X6 A氏は自分自身の行動に責任をもつべきである | 46 | 23.9% | 126 | 65.6% | 20 | 10.4% |
X8 A氏は,自分の行動を控えるべきだ | 13 | 6.7% | 134 | 69.8% | 45 | 23.4% |
共感 | ||||||
X9 A氏がこのような言動をする理由について関心を払うべきだ | 105 | 54.7% | 80 | 41.7% | 7 | 3.6% |
X10 A氏がなぜそうした言動をとるか理解できる | 76 | 39.6% | 104 | 54.2% | 12 | 6.3% |
X11 A氏の言動は理解できる | 48 | 25.0% | 125 | 65.1% | 19 | 9.9% |
X12 A氏はこの状況を悲しんでいると思う | 46 | 24.0% | 117 | 60.9% | 28 | 14.5% |
怒り | ||||||
X13 A氏の言動は不快だと思う | 37 | 19.3% | 128 | 66.7% | 27 | 14.1% |
X14 私はA氏の言動は非常識だと思う | 13 | 6.7% | 129 | 67.2% | 50 | 26.0% |
X15 私はA氏のいう言葉が反抗的だと思う | 13 | 6.7% | 114 | 59.4% | 65 | 33.9% |
X16 A氏は困った人だと思う | 11 | 5.8% | 97 | 50.5% | 84 | 43.8% |
対象者全体のASD者に対する各態度変数の平均値±標準偏差は,「統制可能性」10.2 ± 2.0点,「怒り」12.6 ± 3.6点,「共感」16.3 ± 3.0点,「支援行動意図」21.8 ± 4.3点であった.対象者の「所属」「学年」「性別」「ASD者との接触経験」の各水準間で各態度変数の平均値をt検定および一元配置分散分析にて比較した結果(表3),ASD者と接触経験が「ある」群は「ない」群に比べて怒り得点の平均値が有意に低かった(t(182) = –2.270, p = .024).また,「女性」は「男性」に比べて統制可能性得点(t(190) = –2.338, p = .020)および怒り得点の平均値が有意に高かった(t(190) = –2.115, p = .036).
統制可能性 | 怒り | 共感 | 支援行動意図 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
n | 平均 | SD | p値 | 平均 | SD | p値 | 平均 | SD | p値 | 平均 | SD | p値 | |
所属 | |||||||||||||
4年制大学 | 117 | 10.30 | 1.83 | 0.43 | 12.94 | 3.31 | 0.09 | 16.51 | 2.61 | 0.32 | 22.45 | 3.86 | 0.12 |
3年制専門学校 | 75 | 10.07 | 2.29 | 12.01 | 4.07 | 16.06 | 3.51 | 20.86 | 4.77 | ||||
学年 | |||||||||||||
1年生 | 66 | 9.83 | 1.90 | 0.16 | 11.77 | 3.88 | 0.08 | 16.10 | 3.07 | 0.66 | 21.83 | 4.91 | 0.94 |
2年生 | 58 | 10.33 | 2.05 | 12.83 | 3.64 | 16.60 | 2.66 | 21.98 | 3.94 | ||||
3年生以上 | 68 | 10.47 | 2.08 | 13.15 | 3.31 | 16.33 | 3.20 | 21.75 | 4.00 | ||||
性別 | |||||||||||||
男性 | 22 | 9.27 | 2.31 | 0.02 | 11.05 | 3.72 | 0.04 | 16.00 | 2.46 | 0.58 | 21.59 | 3.99 | 0.78 |
女性 | 170 | 10.33 | 1.95 | 12.78 | 3.60 | 16.38 | 3.06 | 21.86 | 4.34 | ||||
ASD者との接触経験 | |||||||||||||
あり | 58 | 10.07 | 2.21 | 0.78 | 11.67 | 4.00 | 0.02 | 16.65 | 2.90 | 0.31 | 22.65 | 3.95 | 0.11 |
なし | 126 | 10.26 | 1.94 | 12.98 | 3.46 | 16.17 | 2.99 | 21.57 | 4.38 |
t検定および一元配置分散分析
構造方程式モデリングの結果,モデルの適合度指標はおおむね良好な値を示しており(CFI = .916, TLI = .892, RMSEA = .081),本研究ではこのモデルを最終モデルとして採用した(図1).
ASD者の困難場面に対する態度変数の関連(標準化係数)
注1 推定方法にはロバスト重み付き最小二乗法WLSMV(Weighted Least Square Mean and Variance adjusted)を用いた.
注2 各観測変数の誤差変数を省略している
注3 図では省略しているが,「所属」「学年」「性別」「ASD者との接触経験の有無」をダミー変数として投入し,各潜在変数間のパス係数を調整している.
モデルの各パス係数(標準化推定値)はいずれも有意であり,「統制可能性」は「怒り」と正の関連(β = .937, p < .01)「怒り」は「支援行動意図」と負の関連(β = –.224, p < .01)を示していた.一方,「統制可能性」は「共感」と負の関連(β = –.408, p < .01),「共感」は「支援行動意図」と正の関連(β = .621, p < .01)を示していた.以上の結果は,ASD者の行動がASD者自身で統制が可能であると捉える学生ほど,ASD者に対して怒り感情が強く支援行動意図が低い傾向にあること,反対に,ASD者の行動は障害によるものでASD者自身で統制できるものでないと捉える学生は,ASD者に対して共感感情が強く支援行動意図が高い傾向にあることを示している.なお,「支援行動意図」の潜在変数の分散に対する説明率(R2)は.581であった.
本研究ではWeinerの帰属理論に基づき,ASD者の困難場面に対する看護学生の原因帰属と支援行動意図との関連を明らかにすることを目的とした.
1. ASD者に対する支援行動意図本研究の結果,看護学生の約半数がヴィネットで挙げた人物(A氏)の「背景についてもっと知りたい(64.1%)」「障害(ASD)についてもっと知りたい(55.2%)」と回答しており,看護学生のASDに対する関心の高さが明らかとなった.その一方で,「A氏の相談に乗ってあげたい(41.7%)」と回答した者は4割,「A氏のために専門家に相談したい(24.5%)」と回答した者は約2割にとどまった.この結果は先行研究の結果とも一致する.教育学部生を対象とした菊池の研究(2011)では,発達障害に関心があるものの,実際に発達障害児と関わる行動をとろうとする者は少ないことが報告されている.この背景には,支援の必要性を正しく認知することの難しさや,専門家に相談することに伴う心理的コストの高さなどがあると考えられる.また,本研究では,ヴィネットで提示した人物(A氏)とは無関係の,第三者の立場から回答を求めたため,A氏に対して感情移入できず,支援行動意図が低くなった可能性もある.ASD者が周囲の学生から必要な対応や支援を受けることができなければ,ASD者は孤立を強め,結果として精神的健康の悪化など二次障害につながる危険性がある.専門家への相談行動に伴う心理的コストを下げ,看護学生にとって負担にならないような相談先の整備をするだけでなく,ASDに対する学生の関心を高めるような取り組みが求められる.
2. 基本属性別にみた態度変数本研究の結果,ASD者との接触経験がある者ほど,支援行動意図が高い傾向がみられた.この結果は,先行研究の結果とも一致する.いくつかの先行研究では,ASD者との接触経験がASDに対する肯定的な理解や態度につながる可能性が示唆されている(Ranson & Byrne, 2014;Gardiner & Iarocci, 2014).ボランティア活動等を通じて,ASD者と直接関わる中で,看護学生はASD者に対する支援的な態度を獲得していると考えられる.一方で,ASD者との接触経験がASD者に対する拒否的感情をもたらすとの報告(Mavropoulou & Sideridis, 2014)もあることから,今後は,ASD者との接触経験の有無だけでなく,その質についても調査検討していく必要がある.
また,統制可能性認知と怒り感情に性差がみられ,いずれも女性のほうが男性より高い傾向が示された.大学生を対象とした調査では,女性は男性よりもASD者に対して受容的であるとの報告(Nevill & White, 2011)があるが,それとは異なる結果であった.本研究の調査対象者の特性であるのか,あるいは交絡の影響か,その理由は定かでない.今後の研究が待たれるところである.
3. 看護学生の認知行動プロセス構造方程式モデリングの結果,ASDをもつ人の行動に対する看護学生の原因帰属が,ASD者に対する感情を介して,ASD者への支援行動意図に影響を及ぼすとする仮説モデルが本研究のデータに適合することが明らかになった.また,仮説モデルのパス係数に注目すると,いずれも有意であり,「統制可能性」と「共感」との間に負の関連,「共感」と「支援行動意図」との間に正の関連を示すことが明らかとなった.Ling et al.(2010)は,中国の特別支援学級の教員を対象とした質問紙調査の結果,ASD児の反抗的な行動ヴィネットに対して,統制可能性認知が低い者ほど共感が高く,支援行動意図が高いことを報告している.また,心理学部の学生を対象とした宮崎ら(2015)の研究において,ASD者の困難場面に対して「自分も苦手である」「本人は大変な状況である」との共感を示す学生ほど,ASD者を手助けしようとする者の割合が多いことが報告されている.統制可能性認知が低い学生は,ASD者の困難場面がASD者本人の責めに帰す要因(故意,努力不足)ではなく,責めに帰さない要因(障害)によって生じていると正しく判断できるために,ASD者に対して共感を抱き,その結果として支援行動意図が高くなっていると推察される.
一方,「統制可能性」と「怒り」感情との間に正の関連,「怒り」感情と「支援行動意図」との間に負の関連が示された.これまでの研究でも,ASD者の行動の原因が自己統制可能であると認知された場合,その行動は行為者本人に責任があり,「反抗的」「努力不足」「周囲をわざと困らせる」行動とみなされることから,怒りや嫌悪感情を生起させ,支援行動を抑制することが報告されている(Ling et al., 2010;Payne & Wood, 2016;Mogavero & Hsu, 2018).本研究においても,看護学生の一部が,その困難場面の原因をASD者本人の責任と捉え,自分自身の言動に責任を取るべきと考えたことから,支援行動意図が低くなっていた可能性が考えられる.
4. 実践への示唆本研究の結果,ASD者に対する態度には,ASD者の困難場面に対する原因帰属,とりわけ統制可能性認知が重要であることが示された.したがって,看護学生のASD者の困難場面に対する統制可能性認知を修正・変更することが,ASD者に対する共感性を高め,ASD者に対する支援行動を促進するうえで重要であると考える.ASD者に対する差別やスティグマの軽減を目的とする介入プログラムの中には,当事者との直接的,間接的接触を通じて,ASDに関する知識の定着やASD者に対する支援促進に一定の効果を挙げているものもある.(Campbell, 2003;Mavropoulou & Sideridis, 2014;Ranson & Byrne, 2014;Gillespie-Lynch et al., 2015).こうした介入プログラムは,ASD者に対する否定的な感情の軽減のみならず,ASD者の行動に対する原因帰属の修正にも有効であると考えられる.
また,看護学生のASD者の困難行動に対する誤った統制可能認知は,怒り・嫌悪感情といったネガティブ感情を生起させ,支援行動を抑制する可能性があることが示唆された.しかし,仮にASD者の困難行動に対して誤った統制可能性認知がなされたとしても,また,それによって否定的な感情が生起したとしても,支援行動の抑制を防ぐことは可能である.Ling et al.(2010)は,怒りや嫌悪感情といったネガティブな感情をコントロールすることによって,ASD者に対する罰のような不適切な対応を抑制することができると報告している.アンガーマネジメントをはじめ,ネガティブな感情に対するマネジメント方法を学生に習得させることは,ASD者に対する不適切な対応を防ぐうえで有効であると考えられる.
5. 限界と課題最後に本研究の限界と課題を述べる.
第一に,本研究の結果は,無作為標本によって得られたものではない点が挙げられる.したがって,得られた回答は,ASDに対して関心が高い学生の回答に偏っている可能性がある.第二に,本研究では1種類のヴィネットしか用いていない点である.本研究では,「感覚過敏」「状況認知の悪さ」といった障害特性からなるヴィネットを用いたが,他のヴィネットを用いた場合,本研究とは異なる結果が得られる可能性がある.第三に,原因帰属の次元として,統制可能性のみに着目し,他の次元に着目していない点である.原因帰属には,統制可能性の他に,原因の位置(原因が本人にあるか状況にあるか),安定性(その行動が繰り返されるかどうか),行為者の統制可能性である対処可能性(その行動が対処可能かどうか)などがある(中谷,2015).ASDの困難行動に対する看護の態度をよりよく理解するため,今後はこうした看護学生の知識や対処能力を含む原因帰属の次元も含めて認知行動プロセスを検討する必要がある.
以上のようないくつかの限界・課題があるものの,本研究は看護学生の発達障害・ASD者に対する態度を帰属理論を用いて明らかにした日本で最初の研究である.今後は上記の課題を踏まえ,ASDの正しい理解に基づく看護師の支援行動を促進するため,更なる研究の蓄積が望まれる.
資料1 本研究で使用したヴィネット
大学生A氏のエピソード
A氏はASDの診断を受けて大学に進学しています.パソコンに詳しいA氏ですが,光,音が苦手です.ある時,A氏の友人がパソコンをつけたまま席を離れました.A氏は,パソコンの光が気になり,パソコンのプラグを勝手に抜いてしまいました.バックアップをしていなければ危険な行為です.戻ってきた友人はなぜパソコンの電源を切ったのか尋ねました.A氏は「パソコンの電源がついていたので切っただけだ」と言いました.反抗的に聞こえますがA氏にはそのようなつもりはありません.友人は,電源が抜かれている自分たちのパソコンを見て,怒りを感じ,さらにA氏の言葉にも唖然としてしまいました.
教示文
「A氏の行動に対するあなたのお気持ちや考えについてお尋ねします.あまり深く考えず思った通りをお答えください」
付記:本研究の一部は第38回日本看護科学学会学術集会にて発表した.なお,本研究は新見公立大学大学院看護学研究科に提出した修士論文の一部に加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本研究の実施にあたり,快くご協力して下さいました研究対象施設の皆様,研究を実施する中で多大なご協力・ご助言をいただきました皆様に深くお礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YFは研究の着想およびデザイン,データ収集,統計解析,結果の分析と解釈,原稿の作成を行った.YYは,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は,最終原稿を読み,承認した.