Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Relationship between Structural Empowerment, Affective Commitment, and Work Engagement among Japanese Nurses Working in Hospital
Hiroyuki ShinguHiroaki Ambo
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2019 Volume 39 Pages 270-277

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Abstract

目的:看護師を対象に,構造的エンパワメントと情動的コミットメント,ワーク・エンゲイジメントの関係を明らかにする.

方法:東北地方のA県ならびに政令指定都市B市内の病院に勤務する看護師を対象に,質問紙調査を行った.

結果:構造的エンパワメントから情動的コミットメントならびにワーク・エンゲイジメントには,それぞれ有意な正のパスがあった.また,構造的エンパワメントからワーク・エンゲイジメントを介した情動的コミットメントには有意な正のパスがあったが,構造的エンパワメントから情動的コミットメントを介したワーク・エンゲイジメントへのパスは有意な関係になかった.

結論:構造的エンパワメントは,看護師の情動的コミットメントならびにワーク・エンゲイジメントを高めることが示唆された.また,看護師における構造的エンパワメントと情動的コミットメント,ワーク・エンゲイジメントの関係には,方向性があることが示唆された.

Translated Abstract

Purpose: The aim of this study was to verify the relationship between structural empowerment, affective commitment, and work engagement among Japanese nurses, and to assess the mutual influence of Japanese nurses’ affective commitment and work engagement.

Method: Stratified random sampling was used. An anonymous self-administered questionnaire survey was conducted on nurses employed at hospitals in Prefecture A and ordinance-designated city B in the Tohoku region of Japan who agreed to take part in the study. Completed questionnaires were returned by postal mail.

Results: The questionnaire was distributed to 1,053 nurses at 12 hospitals; 594 questionnaires were returned (collection rate, 56.4%) and 508 contained valid responses (valid response rate, 48.2%). Structural equation modeling showed structural empowerment had a significant positive effect on affective commitment and work engagement, and structural empowerment had a significant positive effect on affective commitment via work engagement. However, structural empowerment had no significant effect on work engagement via affective commitment.

Discussion: Structural empowerment is suggested to increase the affective commitment and work engagement of nurses. Although high work engagement increases the affective commitment of nurses, high affective commitment does not necessarily increase the work engagement of nurses. The results of this study are expected to not only improve nurses’ affection for their organization, but also their work engagement.

Ⅰ. 緒言

医療従事者の雇用の質の向上は,医療の質の向上につながり,患者に質の高い医療が提供されることで,患者満足度が向上する(厚生労働省,2014).さらに患者満足度の向上は,経営の質の向上などを経て,雇用の質につながる好循環を生み出すことが期待できる.この好循環の起点となる雇用の質の向上には良好な職務環境の存在が重要であり,このことが職場で働く従業員の生産性を高め,活力の向上をもたらす.

ここで,医療従事者の生産性や活力といった内的要因を測定する有力な指標に,所属組織に対する前向きな心理状態を示す組織コミットメントと,労働に対する前向きな心理状態を示すワーク・エンゲイジメントがある.

組織コミットメントは,組織に対する心理的距離の概念で,Meyer & Allen(1991)は,情動的コミットメント,継続的コミットメント,規範的コミットメントから構成される,個人を組織に結びつける心理状態と定義した.情動的コミットメントは,従業員の組織への愛着等の好意的な感情に基づく心理的な結びつきを,継続的コミットメントは,従業員の組織を離れた際にかかる費用に基づく心理的な結びつきを,規範的コミットメントは,従業員の組織への義務感に基づく心理的な結びつきを指す.組織コミットメントの中でも特に情動的コミットメントが高いと,看護師の職務行動や健康,離転職の意思に好影響をもたらす(上野・西川,2005難波ら,2009).

次にワーク・エンゲイジメントは,活力・熱意・没頭によって特徴づけられる,仕事全般に向けられたポジティブで充実した心理状態(Schaufeli et al., 2002)と定義される,個人と仕事との心理的な結びつきである.ワーク・エンゲイジメントは,離職意志のない看護師と比べて離職意志のある看護師では有意に低く(川内・大橋,2011),ワーク・エンゲイジメントが高いほど身体症状やうつ症状が少ない(Laschinger, 2005)ことが知られ,さらに職務継続意思は年齢,教育,経験,在籍などの個人特性は影響せず,職場環境の健全性や進歩するための機会が必要(Hedd, 2006)とされている.

また,健全な職場環境として着目されつつある概念にLaschinger(1996)が提唱した構造的エンパワメントがある.この概念は,自分の能力や関心を発揮する機会がシステムとして存在することを意味し,機会,情報,支援,資源,フォーマルな権限,インフォーマルな権限から構成されており,これら6つの下位尺度は各々得点で数値化することができるため,健全な職場環境の具体的要因の特定が可能である.この構造的エンパワメントの高まりが,看護師の情動的コミットメントを高める(Cho et al., 2006)こと,看護師のワーク・エンゲイジメントを高める(Hassona, 2013)ことは,それぞれ単独かつ小規模の人数を対象とした研究には示されているものの,構造的エンパワメントが情動的コミットメントおよびワーク・エンゲイジメントの双方に寄与するかを検証した研究はなく,また,構造的エンパワメント個々の下位尺度と,情動的コミットメントおよびワーク・エンゲイジメントとの関連を検証した研究はない.さらに,情動的コミットメントとワーク・エンゲイジメントの関連を示した先行研究には,サービス企業に勤務する女性従業員を対象としたものはあるが(小川,2017),看護師を対象としたものは見当たらなかった.そこで本研究では,同一の看護師を対象に,構造的エンパワメントが情動的コミットメントおよびワーク・エンゲイジメントに与える影響と,構造的エンパワメントの下位尺度と情動的コミットメントとワーク・エンゲイジメントの関連の検証を目的とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 用語の定義

本研究では,保健師・助産師・看護師・准看護師免許を有し,かつ職務にあたっている看護職員を総称して看護師と表記し,職位については,看護部長や総看護師長,看護副部長,看護師長を管理者,看護副師長や看護主任を役職者,役職をもたない看護師をスタッフと分類して表記する.

2. 対象者と調査方法,調査期間

東北地方のA県ならびに政令指定都市B市内の病院一覧を自治体のホームページから取得し,各病院に勤務する看護師数を,病床の区分と病床数から推測して算出した.次に対象者の分布の偏りを避けるために,本邦の病院の一般病床:精神病床:療養病床の比である約3:1:1に近づくよう,くじ引きと乱数表を用いて病院を選出した.選出した病院の施設長ならびに看護部長に,文書にて研究の説明と研究への協力を依頼した.承諾を得た病院には担当者を通じて,所属する看護師全員への調査票と返送用封筒の配布を依頼した.調査票は,対象者自身が回答後,返送用封筒に厳封したうえで,研究者へ直接郵送するよう書面で依頼をし,回収した.調査期間は2018年2月17日から2018年6月30日までとした.

3. 調査項目

1) 構造的エンパワメント

構造的エンパワメントを測定する尺度として,Conditions for Work Effectiveness Questionnaire-II(以下CWEQ-II)を使用した.この尺度は,6つの下位尺度,機会,情報,支援,資源,フォーマルな権限,インフォーマルな権限の計19項目の質問で構成され,各質問に対し「全くない(1点)」から「たくさんある(5点)」までの5段階評定で回答を求め,得点が高いほど,機会と権限のある職務環境であることを意味する.原版の信頼性(Laschinger et al., 2000)と妥当性(Laschinger et al., 2001),日本語版の信頼性(金井,2014)が確認されている.使用に際しウェスタンオンタリオ大学Daryl Stephenson氏と日本語版翻訳者の金井 Pak 雅子氏の許可を得た.

2) 情動的コミットメント

看護師と組織との心理的距離を測定する尺度として,Allen & Meyer(1990)が開発し,高橋(1997)が日本語翻訳した3次元コミットメント尺度(改訂版)のうち,看護師の組織への愛着を主とする,最もポジティブな心理的な結びつきである情動的コミットメントを使用した.この尺度は,計6項目の質問で構成され,各質問に対し「全くそうでない(1点)」から「全くそうだ(7点)」までの7段階評定で回答を求め,得点が高いほど,看護師が組織に対して好意的な感情で結びついた心理状態であることを意味する.原版および日本語版で,信頼性と妥当性が確認されている(Allen & Meyer, 1990Meyer & Allen, 1991高橋ら,1998).使用に際し開発者のJohn Meyer氏と日本語版翻訳・開発者の渡辺直登氏の許可を得た.

3) ワーク・エンゲイジメント

仕事に関する前向きさを測定する尺度として,Schaufeli et al.(2002)が開発し,Shimazu et al.(2008)が訳した日本語版ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度短縮版(The Japanese short version of the Utrecht Work Engagement Scale:以下UWES-J)を用いた.この尺度は,3つの下位尺度,熱意,没頭,活力の計9項目で構成され,各質問に対し「全くない(0点)」から「いつも感じる(6点)」までの7段階評定で回答を求め,得点が高いほど,仕事に積極的に向かい活力を得て活き活きとしている心理状態であることを意味する.原版と日本語版で,信頼性と妥当性が確認されている(Schaufeli et al., 2002Shimazu et al., 2008).UWES-Jは,商用目的ではなく,研究目的の場合には自由に使用が可能であった.

4) 個人属性

対象者の性別,年齢,主に従事する職種,経験年数,在籍年数,勤務する病床の区分,職位,最終学歴,転職の有無と回数の計9項目を質問した.

4. 分析方法

分析はまず記述統計を確認し,単純集計を行った後,構造的エンパワメント,情動的コミットメント,ワーク・エンゲイジメントの三尺度について,Shapiro-Wilk検定による正規性の検定を行った.続いて,前述の三尺度間の相関係数を,Spearmanの順位相関係数を算出して求めた.次いで,三尺度の因果関係を想定したパス図(モデル1)を作成し,構造方程式モデリングで分析を行い,適合度指標を確認した.その後,従属変数を情動的コミットメントまたはワーク・エンゲイジメント,独立変数を構造的エンパワメントの下位尺度として,それぞれ多重ロジスティック回帰分析(変数増加法:尤度比)を行った.また,年齢を調整変数として投入した.多重ロジスティック回帰分析の結果から,ワーク・エンゲイジメントと有意差を認めた構造的エンパワメントの下位尺度で構造的エンパワメントを再構成し,パス図(モデル2)を作成した.モデル2もモデル1と同様に構造方程式モデリングで分析を行い,その結果をモデル1と比較した.なお,情動的コミットメントについては合計値を用い,ワーク・エンゲイジメントについては平均値を算出し用いた.

データの集計および分析には,統計解析パッケージソフトIBM SPSS Statistics Version 24 for Windows,Amos Version 24を使用した.統計学的検討における検定の有意水準は,すべて両側検定で5%未満とした.パス図(モデル1および2)の評価は,適合度指標GFI(Goodness of Fit Index),AGFI(Adjusted Goodness of Fit Index),CFI(Comparative Fit Index),RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation),AIC(Akaike’s Information Criterion)により検証した.

5. 倫理的配慮

調査票に,研究の目的や方法,研究協力の任意性,調査票は無記名かつ個人や病院が特定されないように処理すること,調査票に明示した研究者の連絡先で,問い合わせの対応を明示した,調査票の返送をもって研究協力の同意とした.なお,本研究は,第二著者の所属の倫理審査委員会の承認(承認番号1711-20 承認年月日 2017年11月21日)を得て実施した.

Ⅲ. 結果

1. 調査票の回答数および回答率,対象者の属性

東北地方のA県ならびに政令指定都市B市内の38病院に文書で研究協力を依頼した.承諾を得た12病院に勤務する看護師1,053名に調査票を配布し,回答数は594名(回答率56.4%)であった.調査票内の質問項目に欠損のない508名(有効回答率48.2%)を分析の対象者とした.対象者の属性を表1に示す.

表1 対象者の属性(n = 508)
項目 内容 人数(人) 割合(%)
性別 女性 461 90.7
男性 47 9.3
年齢(歳) 42.0 ± 11.2
経験年数(年) 17.9 ± 11.7
職種 助産師 5 1.0
看護師 445 87.6
准看護師 58 11.4
職位 管理者 50 9.8
役職者 109 21.5
スタッフ 349 68.7
病床の区分 一般病床 181 35.6
精神病床 71 14.0
療養病床 145 28.5
病棟以外(外来・手術室など) 111 21.9
尺度の得点 CWEQ-II 16.5 ± 3.0
情動的コミットメント 22.2 ± 7.5
UWES-J 2.68 ± 1.14

CWEQ-II: Conditions for Work Effectiveness Questionnaire-II

UWES-J: The Japanese short version of the Utrecht Work Engagement Scale

2. 三尺度の内的整合性と得点,正規性の検定,相関

三尺度のCronbachのα係数は,CWEQ-IIは0.87,情動的コミットメントは0.92,UWES-Jは0.94であった.三尺度の得点は,CWEQ-IIの得点は16.5 ± 3.0,情動的コミットメントの得点は22.2 ± 7.5,UWES-Jの得点2.68 ± 1.14であった.三尺度の正規性の検定では,構造的エンパワメントは正規分布に従うが(p = 0.148),情動的コミットメントとワーク・エンゲイジメントは正規分布に従わなかった(情動的コミットメント:p = 0.000,ワーク・エンゲイジメント:p = 0.005).三尺度間の相関は,構造的エンパワメントと情動的コミットメント間に中程度の正の相関(ρ = 0.555, p < 0.01),構造的エンパワメントとワーク・エンゲイジメント間に低程度の正の相関(ρ = 0.388, p < 0.01),情動的コミットメントとワーク・エンゲイジメント間に中程度の正の相関(ρ = 0.597, p < 0.01)があった.

3. 三尺度の因果関係(モデル1の作成)

構造的エンパワメントと情動的コミットメント,ワーク・エンゲイジメントの因果関係についてパス図(モデル1)を作成した(図1).構造的エンパワメントから情動的コミットメントには有意な正のパスがあり,構造的エンパワメントからワーク・エンゲイジメントにも有意な正のパスがあった.構造的エンパワメントからワーク・エンゲイジメントを介した情動的コミットメントには有意な正のパスがあったが,構造的エンパワメントから情動的コミットメントを介したワーク・エンゲイジメントは有意な関係ではなかった.

図1

構造的エンパワメントと情動的コミットメント,ワーク・エンゲイジメントのパス図(モデル1)

n.s. = not significant,*** p < .001

4. 構造的エンパワメントの下位尺度と情動的コミットメント,ワーク・エンゲイジメントの多重ロジスティック回帰分析の結果

従属変数を情動的コミットメント,独立変数を構造的エンパワメントの下位尺度で多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,構造的エンパワメントの下位尺度のうち有意差を認めたのは機会,支援,フォーマルな権限であった.また,従属変数をワーク・エンゲイジメント,独立変数を構造的エンパワメントの下位尺度で多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,構造的エンパワメントの下位尺度のうち有意差を認めたのは機会,フォーマルな権限,インフォーマルな権限であった(表2).

表2 ワーク・エンゲイジメントと構造的エンパワメントの下位尺度の関連(n = 508)
オッズ比 95%信頼区間 有意確率
下限 上限
構造的エンパワメントの下位尺度
機会 1.389 1.057 1.825 .018
フォーマルな権限 1.835 1.300 2.590 .001
インフォーマルな権限 1.813 1.322 2.484 .000

多重ロジスティック回帰分析(ワーク・エンゲイジメント高値群:1 ワーク・エンゲイジメント低値群:0)

投入変数:構造的エンパワメントの下位尺度「機会」,「情報」,「資源」,「支援」,「フォーマルな権限」,「インフォーマルな権限」,年齢

5. モデル2の作成とモデル2の結果

従属変数をワーク・エンゲイジメント,独立変数を構造的エンパワメントの下位尺度とした多重ロジスティック回帰分析の結果から,有意差を認めた下位尺度,機会,フォーマルな権限,インフォーマルな権限で構造的エンパワメントを再構成し,パス図(モデル2)を作成した(図2).モデル2でもモデル1と同様に,構造的エンパワメントから情動的コミットメントには有意な正のパスがあった.また,構造的エンパワメントからワーク・エンゲイジメントにも有意な正のパスがあった.構造的エンパワメントからワーク・エンゲイジメントを介した情動的コミットメントへのパスは有意な関係にあったが,構造的エンパワメントから情動的コミットメントを介したワーク・エンゲイジメントへのパスは有意な関係ではなかった.

図2

構造的エンパワメントと情動的コミットメント,ワーク・エンゲイジメントのパス図(モデル2)

n.s. = not significant,*** p < .001

Ⅳ. 考察

1. 各尺度の信頼性と既存の結果との比較,属性

使用した三尺度のCronbachのα係数は,いずれも0.8以上の値を示し,先行研究(金井,2014吉江,2014佐藤・三木,2014)と比較して,一定の内的整合性を確認した.また,本研究のCWEQ-IIの得点は16.5 ± 3.0で,先行研究(金井,2014)の得点は16.6であった.本研究の情動的コミットメントの得点は22.2 ± 7.5で,先行研究(吉江,2014)の得点は23.0であった.本研究のUWES-Jの得点は2.68 ± 1.14で,先行研究(川内・大橋,2011)の得点は2.8 ± 0.9であった.また,本研究の平均年齢・平均経験年数は,先行研究(伊藤ら,2018)と比較して高いものの大幅な乖離はなかった.よって本研究の対象者は,本邦の標準的な看護師とみなすことができると考えられる.

2. 構造的エンパワメントとワーク・エンゲイジメントに着目する意義

モデル1より,構造的エンパワメントから情動的コミットメント,構造的エンパワメントからワーク・エンゲイジメントにはそれぞれ有意な正のパスを認めた.また,構造的エンパワメントからワーク・エンゲイジメントを介した情動的コミットメントへのパスは,有意な正のパスを認めたのに対し,構造的エンパワメントから情動的コミットメントを介したワーク・エンゲイジメントへのパスは,有意な関係になかった.以上のことから,仕事に対して前向きに取り組めるように看護師に働きかけることは,複次的な効果も見込める可能性が十分にあり,島津(2016)の主張を看護師について裏打ちする結果であるといえる.

3. ワーク・エンゲイジメントと関連する構造的エンパワメントの下位尺度

ワーク・エンゲイジメントと有意差を認めた構造的エンパワメントの下位尺度は機会,フォーマルな権限,インフォーマルな権限であった.

機会は,新しい業務に挑戦する機会があること,仕事に関する新しい知識や技術を得る機会があること,自身が持っている知識や技術の全てを使う職務の機会があること,といった職場で看護師に与えられる仕事の機会の有無と認識の程度を問う質問から構成される.成長の機会があると感じる看護師は,職務継続意向が高く(御厩,2014),知識習得による成長の機会があることは,ワーク・エンゲイジメントによい影響を及ぼす(伊藤ら,2018)という点で,先行研究と一致する.加えて,知識や技術を習得するだけでなく,取得した知識や技術を存分に発揮することのできる機会があることも,看護師の仕事への前向きさを高めるために必要である.

次に,フォーマルな権限は,業務改善に対する報酬,業務における柔軟性の度合い,組織内での仕事に関する自身の活動の知名度,といった職場環境や業務の有無と認識の程度を問う質問から構成される.看護師に,業務における心理的報酬を含めた報酬や裁量権が付与されることは,ワーク・エンゲイジメントの規定要因(島津,2010)として明らかであり,本研究の結果を支持する.次いで,看護師の仕事に関する活動の知名度の高さも,ワーク・エンゲイジメントを高める要因であることから,看護師個人の活動が,組織内で広く認知されることの重要性が示された.

続いて,インフォーマルな権限は,医師と患者へのケアを協働する機会,問題をかかえた同僚や上司から助けを求められること,医師以外の専門職からのアイデアを求められること,といった看護師の仕事における活動の機会と認識の程度を問う質問から構成される.医師との協働は,看護師の職務満足の関連要因(草刈ら,2004)であり,仕事そのものの価値や意義の実感と上司,同僚,医師などからの承認,特に上司からの承認が,看護師と職務満足との関連が高い(撫養ら,2009)ことがわかっている.本研究の結果は,良好な人間関係に加えて職種を超えたチーム医療の推進が,看護師の仕事への前向きさを高めるために有用であることを証するものである.

モデル2は,ワーク・エンゲイジメントと有意差を認めた構造的エンパワメントの下位尺度,機会,フォーマルな権限,インフォーマルな権限で構造的エンパワメントを再構成し,作成したパス図である.モデル2をモデル1と比較したところ,適合度指数はいずれもモデル1よりモデル2の方が高かった.このことから,機会,フォーマルな権限,インフォーマルな権限の充実が,看護師の情動的コミットメントの向上をももたらすワーク・エンゲイジメントを高めるといえる.

4. 看護への示唆と本研究の限界,今後の展望

本研究の結果から,看護師には組織への愛着を高めることより先に,仕事への前向きさを高めることが重要であること,仕事への前向きさを高める具体的要因は,構造的エンパワメントの下位尺度,機会,フォーマルな権限,インフォーマルな権限であることが示された.これは,管理者や役職者といった病院内で権限をすでに保有する看護師が,新人や若手といった従属的な立場にある看護師を育成する際に,特に有効な知見である.

なお,本研究の対象者は,東北地方の計12病院に勤務する看護師であり,就業年数や,それに伴う役職の保有者の割合,文化的背景などに一定の特色を有する可能性がある.今後,就業年数に差の大きい首都圏や文化的背景が異なる地域,訪問看護ステーションなどの病院以外の機関を対象として調査を行い,本研究の結果と比較することで一般化に近づくであろう.

付記:本研究は,筆頭著者が,第二著者の所属大学の博士前期課程に提出した修士論文に,加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究に快く承諾し,ご協力いただきました看護師の皆様ならびに病院の皆様に,心より御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:HSは研究の実施と分析,主要な執筆を行った.HAは研究過程全般に有力な案を与えるなどの助言と一部の緒言および考察の分担執筆を行った.両者共に最終原稿を読み,承認した.

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