Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Evaluation of Nurse Managers for Care Provided to Families of Terminally Ill Patients in the Emergency Room and Related Systemic Organizational Factors
Yoshiyasu ItoMiyuki ObanaYukihiro Sakaguchi
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2019 Volume 39 Pages 288-297

Details
Abstract

目的:救急外来での終末期患者の家族ケアに対する看護管理者の評価および組織体制の実態とその関連について明らかとすることを目的とする.

方法:救急外来の看護管理者を対象に質問紙調査を実施した.救急外来での終末期患者の家族ケア30項目を使用,因子分析から評価得点を作成し,組織体制との重回帰分析を行った.

結果:有効回答は149名(51.6%)であった.救急外来での終末期患者の家族ケア30項目に対する肯定的な評価の割合は53.3~96.6%であった.重回帰分析の結果,合計得点と「救急外来での年間死亡患者数」(β = –0.21),「多職種連携体制あり」(β = 0.25),「ケアの評価あり」(β = 0.44),「標準化されたケアプラン・マニュアルあり」(β = 0.24)で関連を認めた.

結論:看護管理者が十分に実践されていないと認識しているケアの存在が明らかとされ,実践の促進には多職種連携体制やケアの評価・標準化に関する組織体制整備が必要であることが示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to have nurse managers in emergency rooms evaluate the care provided for families of terminally ill patients and identify systemic organizational factors related to that care.

Methods: A 30-item survey on the care provided to families of terminally ill patients was conducted among nurse managers working in emergency room. Factor analysis was used to score the responses, and regression analysis was performed on factors related to how the organization systematically provided the care.

Results: Valid responses were received from 149 (51.6%) of the targeted sample participants. The range of the percentage of positive ratings on the 30 items was 53.3–96.6%. Regression analysis showed that the systemic factors significantly predictive of total scores were “annual number of patient mortalities in the emergency room” (β = –0.21), “systematic multi-disciplinary collaboration” (β = 0.25), “systematic evaluation of care” (β = 0.44), and “existence of a standardized care plan manual” (β = 0.24).

Conclusion: This study showed that nurse managers perceived that, in some cases, more needs to be done in the way of care for the families of terminally ill patients. The findings also suggested that to promote better practice, health organizations need to have in place systems for multi-disciplinary collaboration and for the standardization and evaluation of care.

Ⅰ. 緒言

救急医療での患者の死が家族に与える衝撃や苦痛は強く,医療チームには終末期ケアにおける家族への重点的なケアが求められている(日本救急医学会,2014).特に,救急外来での患者の死は院外心停止や来院後心停止で急激に死に至ることが多く,予期せぬ突然の患者の死に直面する家族へのケアは非常に重要である.しかし,救急外来での終末期患者の家族ケアには実践を阻害する多様な障壁が存在し,十分に実践されていないことが報告されている(Alqahtani & Mitchell, 2019Gloss, 2017).わが国においても,救急外来での終末期患者の家族ケアの実践は非常に困難であることが示唆されている(竹安ら,2011上澤・中村,2013原田ら,2014佐竹・荒尾,2018).そして,救急外来での終末期ケアは時間や設備,人材といった資源不足によって実践することができず,これらは他部門の資源の利用ができないといったシステム上の問題にあることが指摘されている(Wolf et al., 2015).すなわち,実践が困難である要因のひとつはケアを実践するための組織体制が整っていないことにあり,終末期患者の家族ケアにおいても組織体制上の問題から実践が阻害されていることが示唆される.そのため,救急外来の看護管理者にはケアの実践状況を評価し,実践を可能とさせる組織体制整備が求められる.しかし,救急外来での終末期患者の家族ケアの実践状況や組織体制の実態は明らかとされておらず,ケアの実践を促進させるためにどのような組織体制整備が必要であるのか検討されてきていない.

そこで,本研究は救急外来での終末期患者の家族ケアの実践を促進する組織体制整備について検討するため,救急外来での終末期患者の家族ケアに対する看護管理者の評価および組織体制の実態とその関連について明らかとすることを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 用語の定義

救急・集中ケアにおける終末期看護プラクティスガイド(日本クリティカルケア看護学会,2019)において,終末期は「初療から集中治療において救命のための医療を尽くしても救命の見込みがないと医療者が判断した時期」,組織体制整備は「看護管理者が直接ケアと医療チームを推進するために,医療・看護チームを支援し人材と環境を整える」と定義され,「医療チーム」とは多職種が連携したチームである.これらの定義に基づき,本研究では救急外来での終末期を「初療において救命のための医療を尽くしても救命の見込みがないと医療者が判断した時期」,組織体制整備を「看護管理者が直接ケアと多職種での連携を推進するために,医療・看護チームを支援し人材と環境を整える」と定義する.

2. 対象者

本研究の対象者は,2018年4月1日時点に日本救急医学会が公表する救命救急センター289施設の救急外来に所属する看護管理者であり,各施設から1名を選定,計289名を対象とした.データの収集には自記式質問紙を使用した.自記式質問紙は2018年11~12月の間に救命救急センターの看護師長宛で郵送,質問紙には研究への協力の依頼状と返信用封筒を同封し,救急外来の看護管理者1名による回答を依頼した.

3. 調査内容

1) 救急外来の背景

対象者が所属する救急外来の背景として,基本属性と組織体制について尋ねた.基本属性では「施設の設立母体」「救急外来の運用形態」「救急外来での年間死亡患者数(平成29年度の数値)」の3項目について尋ねた.

組織体制では,救急外来での終末期ケアの実践に必要な組織体制に関する先行研究(Beckstrand et al., 2017Gloss, 2017)を参考に研究者間での協議を重ね「勤務体制」「教育・サポート体制」「ケアの質保証体制」「設備体制」の4領域13項目を作成した.勤務体制は,救急外来の診療・看護に従事する「専従医師数」「常勤看護師数」「看護体制(2交代・3交代・その他[変則勤務等の2交代・3交代以外の看護体制])」「専門・認定看護師の有無」「多職種連携体制の有無」を尋ねた.教育・サポート体制は,救急外来の終末期患者の家族ケアに関する「教育・指導担当者の配置の有無」と「教育方法」,救急外来の医療スタッフに対する「メンタルヘルス対策方法」を尋ねた.また,ケアの質保証体制について救急外来の終末期患者の家族ケアに関する「ケアの評価の有無」と「標準化されたケアプラン・マニュアルの有無」を尋ね,設備体制について「家族が利用できる個室の待機室の有無」と「家族が患者と過ごすための個室の有無」を尋ねた.

2) 救急外来での終末期患者の家族ケア

救急外来での終末期患者の家族に対する医師・看護師の実践内容を示した調査項目であり,先行研究(辻村ら,2013佐竹ら,2015岡林・森下,2018)と予備調査として救急科専門医1名と救急外来に勤務する看護管理者3名に行ったインタビューを参考に研究者間で協議し作成した.調査項目は,救急外来での終末期患者の家族ケアが「医師の説明」「看護師の精神的ケア」「看護師の実際的ケア」「医師・看護師の支持的な態度」「お別れの時間への配慮」「患者の尊厳を保つケア」の6つの要素から構成されることを想定し,各5項目計30項目の質問項目で構成されている.質問項目への回答は「まったくそう思わない」から「とてもそう思う」までの6件法での回答を求め,得点化の際には1点から6点を割り当て,得点が高いほど実践されていることを意味する.なお,「医師・看護師の支持的な態度」に関する質問項目「医師や看護師は表情や口調を変えず事務的に話している」については逆転項目として使用し,得点化の際には逆転済み得点(7-得点)を算出して使用した.

4. 解析方法

全ての調査項目の記述統計量を算出した.救急外来での終末期患者の家族ケア30項目は探索的因子分析から構成因子を抽出し,「救急外来での終末期患者の家族ケア評価得点」を作成,合計得点および因子得点間での相関係数とCronbachのα係数から内的整合性を確認した.また,救急外来での終末期患者の家族ケア評価得点の合計得点および因子得点のそれぞれを従属変数,救急外来の背景に関する調査項目を独立変数とした強制投入法による重回帰分析を行った.重回帰分析では独立変数のうちカテゴリカル変数をダミー変数として投入,Variance Inflation Factor(VIF)を算出し多重共線性の確認を行った.すべての統計処理にはSPSS Statistics ver. 25.0を使用した.

5. 倫理的配慮

調査では対象者へ紙面を用いて本研究の目的と方法,調査への参加は自由意思であり参加しないことによる不利益は生じないこと,質問紙への回答は無記名であり匿名性を確保することについて説明した.また,調査への参加の同意は質問紙の返送をもって同意とみなす旨を説明した.本研究は,関西学院大学人を対象とする行動学系研究倫理委員会の承認を得た(承認番号2018-28).

Ⅲ. 結果

1. 救急外来の背景(表1

救急外来に所属する看護管理者289名のうち157名(54.3%)から回答が得られた.そのうち,主要変数に欠損値を含む8名を除いた149名(51.6%)を分析対象とした.対象者が所属する施設の設立母体は「公的医療機関」(57.7%),救急外来の運用形態は「外来・入院ともに救急部が主として担当」(42.3%)がもっとも回答が多く,救急外来の年間死亡患者数の平均値±標準偏差は150.8 ± 96.7であり,中央値は129.0であった.

表1 救急外来の背景 N = 149
n %
施設の設立母体
公的医療機関 86 57.7
国立 30 20.1
医療法人 10 6.7
社会保険関係団体 2 1.3
その他 21 14.1
救急外来の運用状況
外来・入院ともに救急部が主として担当 63 42.3
外来のみ救急部,入院は各科が担当 46 30.9
外来・入院ともに各科が主として担当 31 20.8
その他 9 6.0
救急外来での年間死亡患者数
100人未満 36 24.2
100人以上~200人未満 53 35.6
200人以上~300人未満 18 12.1
300人以上 9 6.0
不明 33 22.1
専従医師数
10人未満 86 57.7
10人以上~20人未満 34 22.8
20人以上 11 7.4
不明 18 12.1
常勤看護師数
30人未満 68 45.6
30人以上~60人未満 50 33.6
60人以上 17 11.4
不明 14 9.4
看護体制
2交代 81 54.4
3交代 53 35.6
その他 15 10.1
専門・認定看護師
なし 22 14.8
あり 127 85.2
多職種連携体制
なし 117 78.5
あり 32 21.5
教育・指導担当者の配置
なし 116 77.9
あり 33 22.1
教育方法(複数回答)
カンファレンス 79 53.0
個別指導 61 40.9
勉強会 56 37.6
院内研修・講習会 38 25.5
院外研修・講習会 35 23.5
その他 2 1.3
メンタルヘルス対策方法(複数回答)
個別相談 83 55.7
研修への参加・受講 56 37.6
専門家の紹介 54 36.2
ピアサポート 14 9.4
その他 12 8.1
ケアの評価
なし 87 58.4
あり 62 41.6
標準化されたケアプラン・マニュアル
なし 119 79.9
あり 30 20.1
家族が利用できる個室の待合室
なし 80 53.7
あり 69 46.3
家族が患者と過ごすための個室
なし 79 53.0
あり 70 47.0

また,組織体制において,「多職種連携体制あり」21.5%,「ケアの評価あり」41.6%,「標準化されたケアプラン・マニュアルあり」20.1%であり,「家族が利用できる個室の待合室あり」46.3%,「家族が患者と過ごすための個室」47.0%であった.

2. 救急外来での終末期患者の家族ケアに対する評価の回答分布(表2

質問項目に対する「ややそう思う」「そう思う」「とてもそう思う」の回答を肯定的評価とし(質問項目16は逆転項目のため,「あまりそう思わない」「そう思わない」「まったくそう思わない」の回答を肯定的評価とする),以降,その割合について述べる.

表2 救急外来での終末期患者の家族ケアに対する評価の回答分布 N = 149
質問項目 まったくそう思わない そう思わない あまりそう思わない ややそう思う そう思う とてもそう思う
n % n % n % n % n % n %
医師の説明
 1.医師は患者の死因や治療内容について十分に説明している 0 0.0 1 0.7 13 8.7 30 20.1 78 52.3 27 18.1
 2.医師は患者の最期の様子や状況について十分に説明している 0 0.0 6 4.0 33 22.1 44 29.5 54 36.2 12 8.1
 3.医師は家族が質問できる時間を十分に設けている 3 2.0 7 4.7 26 17.4 52 34.9 54 36.2 7 4.7
 4.医師は家族の質問に答えようと努めている 0 0.0 4 2.7 9 6.0 56 37.6 67 45.0 13 8.7
 5.医師は家族が理解できる分かりやすい説明に努めている 1 0.7 3 2.0 19 12.8 62 41.6 56 37.6 8 5.4
看護師の精神的ケア
 6.看護師は治療を待つ家族に付き添うように努めている 4 2.7 20 13.4 45 30.2 44 29.5 31 20.8 5 3.4
 7.看護師は治療を待つ家族へ治療経過について十分に説明している 1 0.7 14 9.4 44 29.5 67 45.0 20 13.4 3 2.0
 8.看護師は家族の訴えや話しを聞くことに努めている 0 0.0 4 2.7 22 14.8 57 38.3 50 33.6 16 10.7
 9.看護師は家族が落ち着いた静かな場所で過ごせるように努めている 2 1.3 5 3.4 28 18.8 57 38.3 35 23.5 22 14.8
10.看護師は家族の心情や体調を十分に気遣っている 0 0.0 1 0.7 23 15.4 57 38.3 52 34.9 16 10.7
看護師の実際的ケア
11.看護師は家族に質問や要望がないか十分に気遣っている 0 0.0 3 2.0 26 17.4 65 43.6 43 28.9 12 8.1
12.看護師は家族が患者と面会する際に付き添うように努めている 0 0.0 1 0.7 14 9.4 34 22.8 56 37.6 44 29.5
13.看護師は家族が他の家族や友人と連絡が取れるように配慮している 0 0.0 3 2.0 16 10.7 32 21.5 66 44.3 32 21.5
14.看護師は家族に他の家族や友人が付き添えるように配慮している 1 0.7 6 4.0 25 16.8 37 24.8 58 38.9 22 14.8
15.看護師は家族の意向に応じて治療に立ち合えるように配慮している 4 2.7 9 6.0 50 33.6 38 25.5 38 25.5 10 6.7
医師・看護師の支持的な態度
16.医師や看護師は表情や口調を変えず事務的に話している 12 8.1 48 32.2 57 38.3 21 14.1 11 7.4 0 0.0
17.医師や看護師は身体を向け目や顔を見て話している 1 0.7 2 1.3 6 4.0 45 30.2 74 49.7 21 14.1
18.医師や看護師は家族の質問に正直に答えている 1 0.7 0 0.0 4 2.7 47 31.5 72 48.3 25 16.8
19.医師や看護師は礼儀正しい態度で接している 1 0.7 0 0.0 8 5.4 54 36.2 72 48.3 14 9.4
20.医師や看護師は自身の名前や職業について伝えている 1 0.7 4 2.7 12 8.1 45 30.2 65 43.6 22 14.8
お別れの時間への配慮
21.患者と家族が面会する十分な時間が確保されている 0 0.0 8 5.4 52 34.9 38 25.5 38 25.5 13 8.7
22.患者と家族だけで過ごせる十分な時間が確保されている 2 1.3 14 9.4 48 32.2 42 28.2 31 20.8 12 8.1
23.患者と家族が落ち着いた静かな環境で面会できるように配慮されている 2 1.3 19 12.8 38 25.5 51 34.2 29 19.5 10 6.7
24.家族が他の家族や友人と揃って患者と面会できるように配慮されている 2 1.3 17 11.4 37 24.8 48 32.2 36 24.2 9 6.0
25.プライバシーが守られる環境で面会できるように配慮されている 3 2.0 16 10.7 34 22.8 52 34.9 32 21.5 12 8.1
患者の尊厳を保つケア
26.患者の身体は清潔できれいな状態に整えられている 0 0.0 1 0.7 9 6.0 34 22.8 69 46.3 36 24.2
27.患者が過ごす部屋は清潔できれいな状態に整えられている 1 0.7 6 4.0 31 20.8 46 30.9 46 30.9 19 12.8
28.患者の身の周りの医療機器や寝具はきれいに整えられている 0 0.0 3 2.0 21 14.1 47 31.5 56 37.6 22 14.8
29.患者の衣類や私物は丁寧に扱われている 0 0.0 4 2.7 22 14.8 47 31.5 55 36.9 21 14.1
30.患者は丁寧で礼儀正しい対応を受けている 0 0.0 0 0.0 15 10.1 51 34.2 61 40.9 22 14.8

「医師の説明」に関する5項目での肯定的評価の割合は73.8~91.3%であり,「医師は患者の最期の様子や状況について十分に説明している」(73.8%)でもっとも低かった.また,「看護師の精神的ケア」「看護師の実際的ケア」に関する10項目においては53.7~89.9%であり,「看護師は治療を待つ家族に付き添うように努めている」(53.7%),「看護師は治療を待つ家族へ治療経過について十分に説明している」(60.4%),「看護師は家族の意向に応じて治療に立ち合えるように配慮している」(57.7%)の3項目で低かった.「医師・看護師の支持的な態度」に関する5項目においては,78.5~96.6%であり,「医師や看護師は表情や口調を変えず事務的に話している」(78.5%)でもっとも低く,「お別れの時間への配慮」に関する5項目では57.0~64.4%,「患者の尊厳を保つケア」に関する5項目では74.5~93.3%であった.

3. 救急外来での終末期患者の家族ケア30項目の因子分析結果(表3

救急外来での終末期患者の家族ケア30項目について,天井・床効果(6<平均値+標準偏差,平均値-標準偏差<1)を認める項目はなく,すべての項目による探索的因子分析を行った.因子抽出法には最尤法,回転法にはプロマックス回転を用いた.因子数の決定にはスクリープロット,固有値1.0以上,累積寄与率60.0%以上を基準とし,解釈可能性を考慮して判断した.因子分析の結果,6項目(質問項目9,12,13,14,16,26)を削除し,5因子24項目の「救急外来での終末期患者の家族ケア評価得点」を作成した.第1因子は「医師の説明」(5項目),第2因子は「看護師の精神的・実際的ケア」(6項目),第3因子は「お別れの時間への配慮」(5項目),第4因子は「患者の尊厳を保つケア」(4項目),第5因子は「医師・看護師の支持的な態度」(4項目)と命名した.因子分析によって採用された24項目全体でのCronbachのα係数は0.94,各因子では0.87~0.92であった.また,救急外来での終末期患者の家族ケア評価得点の合計得点および因子得点間の相関係数は0.39~0.81であり,すべて1%水準で有意であった.

表3 救急外来での終末期患者の家族ケアに対する評価30項目の因子分析結果
質問項目 因子負荷量
第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 第5因子
第1因子:医師の説明(α = .91)
 3.医師は家族が質問できる時間を十分に設けている 0.89 –0.01 0.01 –0.09 0.00
 4.医師は家族の質問に答えようと努めている 0.89 –0.08 –0.11 0.16 0.01
 5.医師は家族が理解できる分かりやすい説明に努めている 0.83 –0.09 –0.03 0.11 0.01
 2.医師は患者の最期の様子や状況について十分に説明している 0.72 0.19 0.07 –0.09 –0.02
 1.医師は患者の死因や治療内容について十分に説明している 0.70 0.05 –0.02 0.01 0.09
第2因子:看護師の精神的・実際的ケア(α = .89)
 7.看護師は治療を待つ家族へ治療経過について十分に説明している 0.05 0.85 0.01 –0.11 –0.04
 8.看護師は家族の訴えや話しを聞くことに努めている –0.09 0.84 –0.02 0.12 0.01
11.看護師は家族に質問や要望がないか十分に気遣っている –0.08 0.82 –0.03 0.08 0.10
10.看護師は家族の心情や体調を十分に気遣っている –0.11 0.80 –0.12 0.19 0.13
 6.看護師は治療を待つ家族に付き添うように努めている 0.16 0.63 0.18 –0.20 –0.16
15.看護師は家族の意向に応じて治療に立ち合えるように配慮している 0.27 0.46 0.13 0.04 –0.03
第3因子:お別れの時間への配慮(α = .92)
22.患者と家族だけで過ごせる十分な時間が確保されている –0.08 0.10 1.03 –0.12 –0.04
21.患者と家族が面会する十分な時間が確保されている 0.07 0.08 0.85 –0.04 0.05
23.患者と家族が落ち着いた静かな環境で面会できるように配慮されている –0.03 –0.07 0.67 0.26 –0.02
25.プライバシーが守られる環境で面会できるように配慮されている –0.03 –0.16 0.51 0.29 0.15
24.家族が他の家族や友人と揃って患者と面会できるように配慮されている 0.00 0.01 0.51 0.31 0.04
第4因子:患者の尊厳を保つケア(α = .87)
28.患者の身の周りの医療機器や寝具は,きれいに整えられている 0.07 –0.11 0.07 0.84 –0.04
27.患者が過ごす部屋は,清潔できれいな状態に整えられている –0.02 –0.03 0.14 0.78 –0.09
29.患者の衣類や私物は丁寧に扱われている 0.07 0.16 –0.07 0.76 –0.06
30.患者は丁寧で礼儀正しい対応を受けている 0.01 0.12 0.02 0.66 0.05
第5因子:医師・看護師の支持的な態度(α = .87)
18.医師や看護師は家族の質問に正直に答えている 0.00 0.00 –0.09 –0.01 0.93
17.医師や看護師は身体を向け目や顔を見て話している 0.11 0.00 –0.01 –0.08 0.84
19.医師や看護師は礼儀正しい態度で接している –0.04 –0.03 0.13 –0.04 0.76
20.医師や看護師は自身の名前や職業について伝えている 0.01 0.03 0.07 –0.02 0.64
因子寄与率(%) 37.19 10.74 6.95 6.89 4.93
累積寄与率(%) 37.19 47.92 54.87 61.77 66.69
因子間相関 合計得点 .72 .81 .81 .78 .66
第1因子 .50 .39 .45 .40
第2因子 .53 .50 .43
第3因子 .63 .42
第4因子 .43

因子抽出法:最尤法,回転法:プロマックス回転.24項目全体でのCronbachのα係数=.94

相関係数はPearsonの積率相関係数,全ての相関係数は1%水準で有意.

4. 救急外来での終末期患者の家族ケア評価得点と組織体制との関連(表4

重回帰分析の結果,救急外来での終末期患者の家族ケア評価得点との関連を認めた組織体制上の要因は,合計得点では「救急外来での年間死亡患者数」(β = –0.21),「多職種連携体制あり」(β = 0.25),「ケアの評価あり」(β = 0.44),「標準化されたケアプラン・マニュアルあり」(β = 0.24)であった.また,第1因子(医師の説明)では「ケアの評価あり」(β = 0.32),第2因子(看護師の精神的・実際的ケア)では「救急外来での年間死亡患者数」(β = –0.23),「多職種連携体制あり」(β = 0.25),「ケアの評価あり」(β = 0.30),「標準化されたケアプラン・マニュアルあり」(β = 0.27),第3因子(お別れの時間への配慮)では救急外来の運用形態が「外来・入院ともに各科が主として担当している」(β = –0.33),「ケアの評価あり」(β = 0.49),第4因子(患者の尊厳を保つケア)では「標準化されたケアプラン・マニュアルあり」(β = 0.29),第5因子(医師・看護師の支持的な態度)では「家族が利用できる個室の待合室あり」(β = 0.24)で関連を認めた.

表4 救急外来での終末期患者の家族ケア評価得点の関連要因
独立変数 VIF 合計得点 第1因子
医師の説明
第2因子
看護師の精神的・実際的ケア
第3因子
お別れの時間への配慮
第4因子
患者の尊厳を保つケア
第5因子
医師・看護師の支持的な態度
β t β t β t β t β t β t
救急外来の運用形態(vs該当しない)
外来・入院ともに救急部が主として担当 4.48 –0.08 –0.44 –0.20 –0.94 0.20 1.11 –0.08 –0.41 –0.22 –1.09 –0.10 –0.47
外来のみ救急部,入院は各科が担当 4.40 –0.07 –0.40 –0.07 –0.34 0.13 0.74 –0.10 –0.52 –0.20 –0.98 –0.11 –0.53
外来・入院ともに各科が主として担当 3.45 –0.16 –0.99 –0.15 –0.80 0.05 0.32 –0.33 –2.02* –0.08 –0.44 –0.05 –0.26
救急外来での年間死亡患者数 1.31 –0.21 –2.17* –0.09 –0.78 –0.23 –2.33* –0.17 –1.66 –0.19 –1.71 –0.09 –0.78
専従医師数 1.59 0.03 0.30 –0.04 –0.33 0.09 0.84 0.17 1.48 –0.03 –0.28 –0.17 –1.41
常勤看護師数 1.31 0.16 1.66 0.03 0.24 0.14 1.40 0.05 0.46 0.23 2.11 0.22 1.97
看護体制(vs該当しない)
2交代制 3.93 –0.14 –0.82 –0.07 –0.35 –0.07 –0.42 –0.16 –0.89 –0.23 –1.22 0.03 0.16
3交代制 3.88 –0.09 –0.52 0.01 0.07 –0.09 –0.54 –0.14 –0.80 –0.02 –0.08 –0.07 –0.35
専門・認定看護師あり(vsなし) 1.24 –0.02 –0.15 –0.13 –1.12 –0.02 –0.16 0.02 0.16 0.01 0.10 0.08 0.75
多職種連携体制あり(vsなし) 1.61 0.25 2.28* 0.19 1.45 0.25 2.35* 0.15 1.32 0.16 1.28 0.16 1.30
教育・指導担当者の配置あり(vsなし) 1.34 –0.10 –0.99 0.04 0.34 –0.12 –1.24 –0.08 –0.82 –0.14 –1.26 –0.05 –0.41
教育方法(vsなし)
カンファレンスあり 1.67 –0.11 –1.01 –0.15 –1.11 –0.02 –0.19 –0.09 –0.77 –0.09 –0.74 –0.09 –0.75
個別指導あり 1.21 0.05 0.58 –0.13 –1.19 0.09 0.94 0.10 1.05 0.13 1.19 –0.01 –0.09
勉強会あり 1.54 –0.10 –0.96 –0.02 –0.17 –0.10 –0.95 –0.02 –0.21 –0.17 –1.47 –0.08 –0.70
院内での研修や講習会あり 1.56 0.11 1.02 –0.04 –0.31 0.15 1.40 0.15 1.33 0.01 0.11 0.09 0.77
院外での研修や講習会あり 1.46 –0.04 –0.42 0.00 0.01 0.05 0.52 –0.13 –1.20 0.03 0.28 –0.14 –1.15
メンタルヘルス対策方法(vsなし)
個別相談あり 1.34 0.00 –0.02 –0.18 –1.55 0.12 1.21 0.03 0.32 0.11 0.99 –0.15 –1.38
研修への参加・受講あり 1.88 0.01 0.07 0.06 0.45 –0.05 –0.46 0.01 0.04 0.08 0.61 –0.05 –0.41
専門家の紹介あり 2.34 –0.05 –0.40 –0.04 –0.26 –0.02 –0.12 –0.08 –0.62 –0.12 –0.82 0.09 0.60
ピアサポートあり 1.76 0.19 1.64 0.24 1.76 0.12 1.09 0.04 0.33 0.15 1.16 0.20 1.53
ケアの評価(vsなし) 1.75 0.44 3.87** 0.32 2.40* 0.30 2.64* 0.49 4.16** 0.20 1.61 0.26 1.99
標準化されたケアプラン・マニュアル(vsなし) 1.26 0.24 2.52* 0.08 0.74 0.27 2.88** 0.18 1.78 0.29 2.67* 0.03 0.29
家族が利用できる個室の待機室(vsなし) 1.30 0.05 0.54 0.04 0.38 –0.10 –0.99 –0.01 –0.11 0.14 1.24 0.24 2.18*
家族が患者と過ごすための個室(vsなし) 1.19 0.10 1.10 0.04 0.40 0.07 0.71 0.12 1.26 0.05 0.52 0.09 0.83
R2-Value 0.46 0.25 0.47 0.42 0.33 0.31
F-Value 2.60** 1.03 2.68** 2.21** 1.50 1.35

* p < .05,** p < .01

Ⅳ. 考察

1. 救急外来での終末期患者の家族ケアに対する看護管理者の認識

救急外来での終末期患者の家族ケア30項目に対し,肯定的に評価した看護管理者は53.3~96.6%であり,看護管理者が十分に実践されていないと認識しているケアの存在が明らかとされた.

看護管理者の評価において,肯定的に評価された割合が高い質問項目は「医師・看護師の支持的な態度」「患者の尊厳を保つケア」に関する項目であり,多くの看護管理者が患者の尊厳を重視したケアが実践され,医師・看護師が家族に対して支持的な態度を示していると認識していることが明らかとされた.これまで,救急外来では患者の死をタブーとした意識があり,「患者の死に対するケア」という視点に乏しいとされてきた(木本・倉石,2003).しかし,近年では救急外来の看護師が死にゆく患者と家族へのケアに対する積極的な態度を有していることも報告されてきており(Wolf et al., 2015),本研究はわが国の救急外来においても,医師や看護師が患者の死に対するケアの視点をもち,終末期患者とその家族へケアを実践する積極的な態度を有していることを示唆した.

「医師の説明」に対しても全般的に肯定的に評価された結果であったが,死因や治療内容の説明に比べ,患者の最期の様子や状況の説明は十分に説明されていると認識している看護管理者の割合は低かった.救急医を対象とした調査においても通常説明すると回答した割合は「死因,病態,(鑑別)診断」で98.4%,「行った医療の内容」で92.6%であったのに対し,「警察・救急からの伝聞を含む死亡状況」では70.9%であったことが報告されており(辻村ら,2013),患者の最期の様子や状況については他の説明内容に比べ十分に説明されていない内容である可能性が示唆された.

「看護師の精神的ケア」「看護師の実際的ケア」に関する質問項目では,「看護師は治療を待つ家族に付き添うように努めている」「看護師は治療を待つ家族へ治療経過について十分に説明している」「看護師は家族の意向に応じて治療に立ち合えるように配慮している」の3項目に対し,看護管理者の40%以上が十分には実践されていないと認識していることが示された.救急外来では看護師が患者の治療に待機する家族の元へ行くことや関わる時間をもつことが困難であることが報告されているが(上澤・中村,2013),本研究は看護師の家族へのケアにおいては治療待機中の家族に対するケアの実践が不十分であることを示唆した.

また,救急外来で死亡した患者の家族の43%がお別れの時間が不十分であったと認識していたことが報告されているが(黒川ら,2011),本研究においても50%以上の看護管理者が患者と家族とが面会する十分な時間が確保されていないと認識していた.さらに,50%以上の看護管理者が患者と家族だけで過ごすことや,静かな落ち着いた環境で過ごすための配慮が不十分であると認識していることが明らかとされた.「お別れの時間への配慮」に関する質問項目への看護管理者の評価は全般的に否定的な評価の割合が高く,時間を確保することだけでなく,患者と家族が過ごす環境を整えるケアなどを含め,患者と家族とのお別れの時間へのケアの実践が不十分であることが示唆された.

2. 救急外来での終末期患者の家族ケアに対する組織体制の実態

救急外来での終末期ケアには人的資源が不足していると指摘されている(Gloss, 2017).本研究では救急外来の年間死亡患者数が施設によってバラツキが大きく,専従医師数・常勤看護師数から人的資源の過不足を判断することは出来ない.しかしながら,救急外来の85.2%に専門・認定看護師が所属しており,わが国の救急外来には高度な看護実践能力を有した人材が多く配置されていることが明らかとされた.救急外来での重要な看護実践能力にマネジメント能力があり,「状況に合わせて時間・人員・場を調整する能力」がそのひとつにあげられる(石丸,2017).人的資源が不足しているなかで家族へのケアを実践するためには時間や人を調整するマネジメントが必要であるが,救急外来にはこのような能力を有する専門・認定看護師が配置されており,終末期患者の家族ケアを実践するうでの重要な資源のひとつであると考えられる.

また,救急外来は治療のための設備環境を優先し設計されているため,終末期ケアにおいてはプライバシーへの配慮が不足した設計であることが課題として挙げられている(Gloss, 2017).本研究においても,「家族が利用できる個室の待合室」や「家族が患者と過ごすための個室」を有する救急外来は半数以下であり,多くの救急外来では患者・家族のプライバシーを確保するための設備が不足していることが示唆された.

3. 救急外来での終末期患者の家族ケアに求められる組織体制整備

「救急外来での年間死亡患者数」と「多職種連携体制の有無」は,合計得点と第2因子(看護師の精神的・実際的ケア)との関連を認めた.死亡患者数が多いほど救急外来へ搬送される重症患者数が多く,年間死亡患者数は救急外来の多忙な業務環境を示していると考えられる.そして,救急外来では患者数と医療スタッフ数とが不均衡であるがゆえに業務負担が大きく,看護師が終末期ケアに時間を費やすことが困難となっている(Gloss, 2017).つまり,重症患者が多いがゆえの救急外来全体での人的資源の不足は看護師の家族へのケアの実践を阻害し,ケアを実践するには多職種連携体制による他職種の活用が必要であることが示唆された.しかし,本研究から多職種連携体制をとる施設は少なく,看護師によるケアの実践を促進させるうえでは多職種連携体制の整備が求められる.

また,ケアの評価や標準化はその質保証において重要であるが,本研究においても「ケアの評価の有無」と「標準化されたケアプラン・マニュアルの有無」は複数の因子との関連を認めていた.本研究における「ケアの評価」とは,救急外来での終末期患者の家族に対する医師・看護師のケアの実践頻度や内容について振り返り,看護管理者がケアの質を評価する取り組みのことであり,ケアの評価を行い,標準化されたケアプラン・マニュアルを整備することがケアの実践の促進に関係することを示唆した.近年,様々な終末期ケアの評価指標が開発され(宮下ら,2007),終末期看護に関するプラクティスガイド等も策定されてきている(日本クリティカルケア看護学会,2019).救急外来での終末期患者の家族ケアの実践には各施設の実情に応じた指標やガイドを選択し,ケアの評価と標準化というケアの質保証の体制の整備が求められる.

4. 本研究の限界

本研究の結果は看護管理者の評価であるため救急外来での終末期患者の家族ケアの実態が十分には反映されていない可能性がある.今後はケアの受け手である家族・遺族による評価を得ていくことが課題となる.また,本研究では救急外来での終末期患者の家族ケア評価得点を作成し検討を試みたが,測定尺度としての妥当性・信頼性の検証が不足しており精緻化が課題である.

Ⅴ. 結語

看護管理者の認識から,わが国の救急外来では医師・看護師が終末期患者の尊厳を重視し,家族に対する支持的な態度でケアを実践していた.しかし,患者の最期の様子や状況に関する医師の説明,治療待機中の家族に対する看護師のケア,お別れの時間でのケアの実践が不足していた.そして,救急外来での終末期患者の家族ケアの実践には,「救急外来での年間死亡患者数」「多職種連携体制」「ケアの評価」「標準化されたケアプラン・マニュアル」が関連し,救急外来での終末期患者の家族ケアの実践を促進するには救急外来の人的資源の確保とケアの評価・標準化に関する組織体制整備が必要であることが示唆された.

付記:本論文の一部は,第21回日本救急看護学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究にご協力くださいました全国の救命救急センターの看護師の皆様に深く感謝申し上げます.また,神戸赤十字病院心療内科部長の村上典子先生に貴重なご指導をいただき深く感謝申し上げます.なお,本研究は科学研究費基盤研究C補助金(課題番号:17K04474,研究代表者:坂口幸弘)を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YIは研究の着想から原稿作成のプロセス全体に貢献,MOは研究の着想とデータ収集および結果の分析と解釈に貢献,YSは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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© 2019 Japan Academy of Nursing Science
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