Journal of Japan Academy of Nursing Science
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The Effect on Father Identity Obtained by Birth-Review for Couple in First Time Parents with Fathers who Attended Their Childbirth—A randomized controlled trial—
Yoshiko Matsuda
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2019 Volume 39 Pages 326-333

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Abstract

目的:初めて父親になる男性が,立ち会い出産後にBirth-Review for Coupleを受けることで得られる父親らしさへの効果を明らかにすること.

方法:立ち会い出産を希望する男性を対象に,無作為に介入群(22名)とコントロール群(23名)に割り付け,2群間比較を行った.介入群へは,出産後3日以内に夫婦一緒に出産の振り返りを行った.調査は,妊娠後期,出産後,産後1か月時に質問紙法を実施し,統計学的に分析した.

結果:二元配置分散分析の結果,父親意識の高まり(F = 10.969, p < 0.001)と子どもの存在から沸き立つ思い(F = 5.848, p = 0.007)に有意差が認められた.またこれらは,出産後および産後1か月ともに介入前より有意に高かった(p < 0.01~0.001).

結論:父親意識の高まりと子どもの存在から沸き立つ思いは,介入によって出産後に高くなることが明らかとなり,産後1か月まで維持されていることが示された.

Translated Abstract

Purpose: To clarify the effects on father identity of Birth-Review for Couple in first time parents with fathers who attended their childbirth.

Methods: We randomly assigned the intervention group (22 patients) and the control group (23 patients) from first-time fathers who were willing to attend their childbirth in order to compared the two groups. In the intervention group, a Birth-Review for Couple (a 30 to 60 minute Birth- Review within 3 days of childbirth) was provided to the couple. The survey was conducted at three points: in late pregnancy; after childbirth; and one month after childbirth. The results were then statistically analysed.

Results: As a result of two-way analysis of variance, significant differences were found in subordinate concepts of fatherliness, heightened paternal awareness (F = 10.969, p < 0.001) and positive feelings triggered by the child (F = 5.848, p = 0.007). In particular, these subordinate concepts were significantly higher both immediately after and one month after the childbirth than before intervention at the end of pregnancy (p < 0.01~0.001).

Conclusions: The Birth-Review for Couple was shown to increase “the upwelling consciousness of being a father” and “a rush of emotion coming from the existence of a child/children” after the childbirth, which continued to 1 month after childbirth.

Ⅰ. 緒言

初めて親になることは,新しい役割に適応していかなければならない移行体験であり,ライフサイクルにおける発達課題でもある.移行とは役割の変化であり,新しい知識を取り入れ,行動を変え,それによって自己定義を変えていくことを必要とする(Meleis, 2010).それは,親としてのidentityを獲得し発達していかなければならないが,母親と父親とでは異なった過程をもつ.母親らしさ(maternal identity)が,妊娠期に芽生え母親役割達成感と相互に関連しながら子どもに対する愛着を深め形成していく(Rubin, 1997)のに対し父親らしさ(paternal identity)は,妻への関心や愛情を基に妻を介して子どもの存在を感じ取り,実際に産まれてきた我が子との触れ合いや関係性のなかで,子どもへの愛着を深め形成していく(松田,2018).つまり母親は,主に子どもとの2者関係が重要であるのに対し,父親は母親と子どもの3者関係が重要であるといえ,夫婦関係の満足感と子どもへの愛着は重要な要因であるといえる.

父親の発達において柏木・若松(1994)は,子どもを育てる営みを繰り返すことが重要であり,立会い出産をすることによって子どもへの感情を大きく変化させ,自然な延長として子育てに深く関わるとしている.妊娠中から子どもの存在を間接的にしか認識できない父親にとって,初めて子どもの存在を感じることができる立会い出産は,その後の父親としての発達に重要であるとして推奨されてきた.さらに近年では,出産を肯定的な体験として位置づけることが,その後の母親役割に重要であるとして(荻田ら,2013),看護者とともに出産体験を振り返るBirth-Reviewが行われるようになり,父親に対してもその重要性が示唆されている(田島・和田,1995植松ら,2006松田,2014寺内ら,2010).しかし,そのほとんどが観察研究からの示唆であり,無作為化比較試験からの提言は見当たらない.また,仕事を持つ父親に対して妻の入院期間中にBirth-Reviewを行うことには時間的困難を要することからも,現在は主に母親に対して行われる傾向にある.しかし父親が,母親と子どもの3者関係のなかで父親らしさを高めていくことを鑑みると,母親と一緒に出産体験を振り返ることに重要な意味があると考える.夫にとっての出産体験とは,母親を介して行われた体験および支援であり,夫主体の体験ではないことから,母親と一緒に想起することは自然の事象と思われる.また体験で得られた父親の情動の変化を母親も一緒に理解しながら,互いにその思いを共感し合うことでの相乗効果が期待でき,夫婦一緒に起こった出来事に対しての内省を促進することができると考える.さらにBirth-Reviewとは「体験を語る」ことであり,ナラティブの要素も持ち合わせることから,出産体験のみならずこれまでの夫婦生活を語る機会となり,夫婦関係の満足感につながることも期待できる.

さらに親になることには,子育てを効果的に遂行できる可能性の認知,すなわち自己効力感を高めることも必要である.夫婦間での相互作用が期待できるBirth-Review for Coupleを通して,出産時における体験を内省することができれば,父親らしさの高まりによってこれから先の親としての自信にもつながり,自己効力感を高めることができると考える.よって本研究の目的は,夫婦一緒に出産の振り返りを行うBirth-Review for Coupleで得られる父親らしさへの効果を明らかにすることである.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

無作為割り付けにて介入群とコントロール群を設け,2群間比較を行う実験的介入研究

2. 研究協力者

研究協力者は,関西地方の1産科個人病院で次の要件を満たす初めて父親となる男性とした.①妊娠35~36週時で夫立ち会い出産を希望.② 妊娠合併症がなく経腟分娩予定.③里帰り出産予定でない.

看護研究に必要なサンプルサイズは,関連ある先行研究の結果がない場合,効果の期待値に基づいた便宜的なサイズを用いるが,そのほとんどが中程度の効果である(Polit & Beck, 2010).よって,中程度の効果量0.5,検出力0.8,有意水準5%としてG*powerを使用して算出した結果,各群22名とした.調査期間は,2016年8月~2017年2月であり,妊娠35~36週時に妊婦健康診査に来院した妊婦またはその夫によるくじ引きにて無作為抽出を実施し,介入群とコントロール群への割り付けを行った.くじは,介入,コントロールと記載した紙を各30枚ずつ中身が見えない箱に入れて作成し,引いたくじは箱に戻さず破棄した.また出産がトラウマ体験となる可能性への配慮として,母児が異常となったケース(アプガスコアが8点以下および新生児搬送,緊急帝王切開)は中止とし,介入および調査は実施しなかった.さらに介入前にも研究参加の意思を再確認し,介入によって心理的な害が及ばないよう配慮した.

3. 介入

介入は,出産後3日目以内に30~60分程度,研究者と夫婦が一緒に出産の振り返りを行うBirth-Review for Coupleである.Rubin(1961)は,産後の想起はわだかまりと感情の表出を助ける行為であり母親役割の出発点であると述べている.それは出産を一緒に体験した夫にとっても同様に重要な支援である考える.また分娩に立ち会っていない看護者の介入でも出産体験の想起・統合の有意性は確認されている(中野,2011).よって本研究では妊娠から産褥のケアには携わらなかった助産師免許を有する研究者1人が実施し,事前に分娩経過や新生児経過などをカルテから情報収集をして臨んだ.中野(2011)は,RubinやMercerの論文を根拠に,出産体験を感じたままの言葉で表現しやすい時期は産後72時間以内と論じている.夫婦ともに出産の疲労を回復し,出産体験の記憶が鮮明かつ感じた思いのままを言葉で表現できるよう,出産後3日以内と設定した.またプライバシーを確保し,落ち着いた環境のなかで自己の思いが表出できるよう,個室を設け3人で実施した.研究者は夫婦が体験した情動の変化を素直な気持ちで伝え合い,互いに内省を促すことができるよう「出産はどうでしたか?」「出産を終えて今,妻や子どもに対してどのように感じていますか?」と問いかけ,夫婦のどちらかが一方的に体験を想起することにならないよう,平等に想起できるよう促した.またそれぞれが表出した内容については,各パートナーへ「そのような思いに対してあなた(妻または夫)はどう思いますか?」と問いかけ,夫婦で互いに起こった事象や情動を深め合いながら肯定的な体験へと統合できるよう努めた.さらに終了予定時刻の設定は行わず,研究者はファシリテーターとしての役割を担い,素直な思いを言語化できるよう促した.また研究協力施設は,Birth-Reviewが標準ケアとして実施されていない.よって両群とも妻に対してのBirth-Reviewは行わず,また倫理的配慮を考慮し,介入で得られた情報は病棟スタッフと共有しなかった.

4. 調査内容

成果変数は,①父親らしさ②夫婦関係満足度③子どもへの愛着④自己効力感とし,各々に関連する尺度として下記の2)~5)の測定用具を使用した.

1)剰余変数:属性(年齢,家族構成,職業)および分娩経過(分娩様式,所要時間),出生児の状態(在胎週数,出生体重)を介入前に1回調査した.

2)親になる移行期の父親らしさ尺度(松田,2018):妻や子ども(胎児)の存在から父親になっていくことの肯定的な思いやイメージをもつことと定義し開発した尺度であり,21項目で構成される.下位尺度は,「父親意識の高まり」7項目,「子どもの存在から沸き立つ思い」10項目,「妻への思い」4項目の3因子であり,4件法で回答を求めた.全体の信頼性係数は0.91,下位尺度は0.72~0.89であり,得点が高いほど父親らしさが高いことを示す.本研究における信頼性係数は0.87,下位尺度は0.72~0.82であった.

3)夫婦関係満足度尺度(諸井,1996):Norton(1983)が夫婦関係の良さを満足度として定義し開発した尺度を,諸井が翻訳し作成した尺度であり,4項目を4件法で回答を求めた.尺度の信頼性係数は0.93であり,得点が高いほど夫婦の満足感は高いことを示す.本研究における信頼性係数は0.88であった.

4)母親の愛着質問紙(中島,2002):母親の愛着とは母親と子どもとの間に発達し長期に持続する情愛と定義し開発した尺度であり,8項目を4件法で回答を求めた.本尺度の父親に対する信頼性・妥当性は検討されていないが,父親の子どもに対する愛着も情緒領域として捉えられるとの見解から,著者の了承を得て父親へ使用した.尺度の信頼性係数は0.94であり,得点が高いほど子どもへの愛着が高いことを示す.本研究における信頼性係数は0.97であった.

5)主観的な感覚としての人格特性自己効力感尺度(三好,2003):日常生活においてたいていはできる気がするという感覚を全般的に抱きやすいかを主観的な感覚としての人格特性自己効力感尺度と定義して開発した尺度であり,6項目を5件法で回答を求めた.尺度の信頼性係数は0.81であり,得点が高いほど自己効力感が高いことを示す.本研究における信頼性係数は0.73であった.

5. 調査方法

剰余変数および成果変数に関連する尺度で構成された自記式質問紙調査は,くじ引き後に,妊娠後期,出産後,産後1か月の3回実施した.また研究協力者を継続的に調査する必要性から,連結可能匿名化を行った.妊娠後期の調査は,病棟スタッフまたは研究者が直接依頼し,次の健診日に回答した調査票をシール付き封筒に入れ,看護スタッフが回収した.出産後の調査は,出産後3日目(介入群においては介入後)に研究者が直接依頼し,退院日までに回答した調査票をシール付きの封筒に入れ,病棟スタッフが回収した.産後1か月の調査は,1か月健診の1週間前に郵送法で依頼し,1か月健診時に看護スタッフが回収した.よって,介入者・研究協力者・評価者・病棟スタッフは盲検化されていない.また産後1か月頃とは,初めての育児や生活に試行錯誤し,育児不安が最も強くなる時期であり(中島ら,2016),父親など周囲からの支援が必要な時期といえる.また授乳行動が主体となる産褥早期は,母と子の関係性が最も密となる時期でもあることから,父親になることに影響する育児などの交絡因子が少ない時期と考えたためである(図1).

図1

フローダイヤグラム

6. 分析方法

研究協力者の属性および分娩経過,新生児の状態,尺度については,各群で記述統計を算出した.また各群におけるベースライン特性に差異がないことを確認するために,シャピロ・ウィルク検定による正規性の有無によりt検定,Mann-WhitneyU検定,Fisher正確確率検定を行った.介入前後の比較においては,繰り返しのある2元配置分散分析およびBonferroniによる多重比較を行い,どの時期に有意差があったかについて検討した.また親になる移行期の父親らしさ尺度に関しては,3つの下位尺度を使用して分析を行った.有意水準は両側検定で5%未満とし,分析には統計ソフトSPSSver21.を使用した.

7. 倫理的配慮

研究協力者には,研究の趣旨に加えて自由意思の尊重と拒否する権利,プライバシーの確保,データ管理,学術論文の公表について,書面を用いて口頭で説明し同意を得た.本研究は,京都橘大学研究倫理委員会の承認(承認番号16-11)を得てから実施した.

Ⅲ. 結果

研究協力は58名に依頼した結果52名から承諾が得られた(承諾率89.7%).5名が中止となった理由は,4名は緊急帝王切開により立ち会い出産ができなかった為であり,1名はアプガールスコア6点で新生児搬送となった為である.よって最終的に介入群22名(88.0%),コントロール群23名(85.2%)を分析対象者とした.

1. ベースラインにおける研究協力者の特性

研究協力者の年齢は,介入群31.2 ± 5.3歳,コントロール群31.8 ± 6.8歳であり,分娩様式では両群とも6割が自然分娩,分娩所要時間,児の体重や在胎週数においても2群間に差は認めず,同質の集団であることを確認した.さらに各尺度全てにおいても,介入前(妊娠後期)における2群間の平均値の差に有意差は認められなかった(表1).

表1 研究協力者の概要 n = 45
対象特性 介入群(n = 22) コントロール群(n = 23) 有意確率(p)
平均値±SD/人数(%)
年齢(歳) 31.2 ± 5.3 31.8 ± 6.8 .7401)
家族構成 核家族 21(95.5) 21(91.3) .5172)
拡大家族 1(4.5) 2(8.7)
職業 会社員 18(81.8) 19(73.9) .9432)
自営業 3(13.6) 2(17.4)
公務員 1(4.5) 1(4.3)
無職 0(0.0) 1(4.3)
分娩様式 正常分娩 18(81.8) 16(69.6) .5412)
吸引分娩 4(18.2) 7(30.4)
分娩所要時間(時間) 16.42 ± 11.09 16.38 ± 10.48 .6381)
在胎週数(週) 39.3 ± 1.3 40.3 ± 3.3 .2331)
出生体重(g) 3029 ± 389 3039 ± 311 .5701)

1)t検定 1)Fisherの正確確率検定

2. 介入の効果

介入時間の平均は38分,最小値26分,最大値53分であり,実施日は,産褥1日目8名,2日目7名,3日目7名であった.父親らしさの下位概念である父親意識の高まり(F = 10.969, p < 0.001)と子どもの存在から沸き立つ思い(F = 5.848, p = 0.007)において,介入の有無の要因間に交互作用を認めた.また時期の主効果においても父親意識の高まり(F = 16.858, p < 0.001)と子どもの存在から沸き立つ思い(F = 19.034, p = 0.001)に有意差が認められた.しかし妻への思いにおいては,有意差は認められなかった.

交互作用を認めた父親意識の高まりと子どもの存在から沸き立つ思いを,Bonferroniによる多重比較を行った結果,父親意識の高まりでは,介入群において出産後は介入前の妊娠後期より有意に高く(p < 0.001),産後1か月は介入前の妊娠後期より有意に高かった(p < 0.001).また子どもの存在から沸き立つ思いでは,介入群において出産後は介入前の妊娠後期より有意に高く(p < 0.01),産後1か月は介入前の妊娠後期より有意に高かった(p < 0.001).

夫婦関係満足感,子どもへの愛着,自己効力感は,介入の有無における要因間に交互作用は認められなかったが,介入群において時期の主効果で,子どもへの愛着(F = 7.197, p = 0.002)と自己効力感(F = 12.004, p < 0.001)に有意差を認めた(表2表3).

表2 ベースラインおよび父親らしさ,夫婦関係,子どもの愛着,自己効力感における差の比較 介入群n = 22 コントロール群n = 23
時期 有意確率(P 時期 介入の効果
妊娠後期(ベースライン)
平均±SD
出産後
平均±SD
産後1か月
平均±SD
F値 有意確率
P
父親らしさ
父親意識の高まり
介入群 22.7 ± 3.2 .4421) 25.0 ± 2.8 26.3 ± 2.6 10.9692) 0.000***
コントロール群 23.5 ± 3.3 23.4 ± 2.9 24.4 ± 2.7
子どもの存在から沸き立つ思い
介入群 35.4 ± 2.8 .8811) 37.9 ± 3.0 38.5 ± 2.4 5.8482) 0.007**
コントロール群 35.6 ± 3.9 35.8 ± 3.3 36.41 ± 3.1
妻への思い
介入群 15.2 ± 1.0 .3151) 15.6 ± 1.1 15.7 ± 1.3 0.7002) 0.456
コントロール群 14.9 ± 1.7 13.8 ± 1.8 15.42 ± 1.5
夫婦関係
介入群 21.5 ± 2.5 .6311) 22.1 ± 2.4 22.4 ± 2.2 2.1472) 0.123
コントロール群 21.7 ± 2.7 21.2 ± 3.0 22.0 ± 2.6
子どもの愛着
介入群 29.4 ± 4.0 .6091) 31.6 ± 1.3 31.8 ± 0.8 0.9662) 0.376
コントロール群 28.9 ± 6.2 29.2 ± 4.2 30.5 ± 2.6
自己効力感
介入群 20.6 ± 2.5 .9171) 22.1 ± 2.7 22.6 ± 2.9 1.4732) 0.235
コントロール群 19.5 ± 2.5 21.0 ± 2.8 21.6 ± 2.9

* p < 0.05 ** p < 0.01 *** p < 0.001

1)Mann-WhitneyのU検定

2)二元配置分散分析

被験者内効果の検定は,モークリーの球面性の検定で棄却されたため,ホインフェルトのイプロシンを用いて修正した.

表3

父親らしさにおける測定時期の比較

 介入群n = 22

Ⅳ. 考察

本研究では,父親らしさの下位概念である父親意識の高まりと子どもの存在から沸き立つ思いが,介入によって出産後有意に向上し,1か月まで維持されることが明らかとなった.

父親らしさとは,妻や子どもとの3者関係のなかで,自分が父親になっていくことのへの肯定的な思いやイメージをもつことであり(松田,2018),父親としてのidentityを確立していくことでもある.父親としてのidentityの発達には,自分は誰のために存在するのか,自分は他者の役に立つのかという自己と他者との関係性としてのidentityが重要な柱であり,相手の気持ちを想像し他者に感謝する対人関係の発達的変化が起こる(八幡・島谷,2015).父親にとって妻の存在は,妊娠や出産といった自分にはできない役割を担ってくれる感謝や尊敬の念を生じる存在でもあり,父親らしさを高めるうえにおいても重要な存在といえる.Birth-Review for Coupleは,出産に対する自己の行った行為や体験の意味を,その重要な存在である妻と一緒に想起することで,意味あるものとして認識することを助ける.そして出産時に感じた思いを肯定的な共通体験として妻と言語化し合うことの相乗効果によっても,親になることへの思いが意識化され,父親らしさが高まったと考える.また,identityとは内省によって見いだされる自己の確立であることから,一度確立したものは後退することなく変化しながら発達し続けていくものといえる.よって介入によって向上した父親らしさは低下することなく1か月まで維持することができたと考える.

さらに父親にとって立会い出産は,これまで妻を介して胎動などから子どもの存在を感じることしかできなかった状況から一転し,実際に子どもが生まれる場面を見て触れるといった父親としての情動に刺激が得られる体験でもある.父親と子どもの絆を深めるためには,出産後のできるだけ早い時期に子どもに心を奪われるのめり込みの現象を得ることが重要であるが(Greenberg & Mortis, 1974),立会い出産体験とは正に子どもからの様々な反応に心を奪われ,そこから様々な思いを感じることのできる体験といえる.このような初めて体験した情動の変化において,記憶が鮮明なうちに改めて一緒に体験した妻と振り返り,その時の思いを共有する時間をもつことは,親として内省することを促進させる.特に初めて経験する子どもの存在から沸き立つ思いを言語化することは,改めて夫婦で無事に誕生することができた安堵感や幸福感を確認し合う機会ともなり,より肯定的な体験として位置付けることを可能とする.つまり,子どもの存在から沸き立つ思いの高まりを得ることは同時に,父親となる意識も高められていくものと考える.しかし本研究では妻への思いに効果は認められなかった.本研究において妻への思いのベースラインが高い傾向にあったことは,妊娠中から妻をかけがえのない存在として既に父親が認識していたことを意味しており,夫婦関係は安定した状態であったことが推測される.このよう安定した夫婦関係を維持していた集団であったことが,介入によって妻への思いには影響を示さなかったものと考える.

さらにCoupleでBirth-Reviewを行うことは,夫婦一緒に起こった出来事を振り返り内省することであることから,その時の互いの気持ちを確認し共感し合うことで,夫婦一緒に親となることの意味を見出す機会ともなる.子どもとの関わりの積み重ねで親役割を発達させていく特性をもつ父親において,Birth-Review for Coupleを通して出産後早期から父親意識を高めていくことは,これからの育児も夫婦一緒に乗り越えていかなければならないという認識にも繋がり,自然な形でその後の育児に参加していくことが期待できる.また出産とは,刻々と状況が変化するクリティカルな事象であり,ストレス体験でもあることから,起こった出来事に対して改めて向き合うことには,時に痛みを伴う可能性がある.そこに専門的な知識をもった看護者が介入する意味があるものと考える.中野(2011)は,ある程度の出産体験の想起・統合は自らの力で行えるが,看護者の専門的知識を活用しながら想起することを助け,統合に導き出すことが必須であるとし,さらに妻からの肯定的な評価が自己の存在価値を見出すと述べている.出産に関する専門的な知識を持つ看護者と共にBirth-Review for Coupleを受けることは,出産で行なった自己の行為や体験の意味を意味あるものとして導きながら想起し,内省することを助ける.よって介入者は,一緒に体験したからこそ分かり合える夫婦それぞれの思いを引き出しながら夫婦で共有できるよう促すとともに,夫のサポートに対する妻からの肯定的な評価が得られるよう関わることが重要であると考える.

また子どもの愛着と自己効力感は介入による効果は得られなかったが,時間的推移で向上していくことが明らかとなった.父親の子どもへの愛着過程は,実際に子どもが生まれた後の子どもとの直接的な関わりのなかで,何らかの反応が返ってくる過程を繰り返すことで愛着が深まっていく(小笠原,2010臼井・渡部,2001).つまり,出産に立ち会ったことで実際の我が子との直接的な関係性を得ることができたことで,子どもへの愛着を深めていったと考える.さらに自己効力感もまた,介入の有無に関わらず出産後は向上しており,立会い出産をすることによって自己効力感が高まる可能性が示唆された.Bandura(1977)は,強力な自己効力感を作り出す最も効果的な方法は成功体験を通したものであると述べている.今回の協力者は妊娠・分娩が正常に経過した夫婦としたことからも,無事に出産を乗り越えることができたという達成感や成功体験が自己効力感に影響した可能性がある. しかし,夫婦関係には介入の効果が認められなかった.本研究の協力者は,立ち会うことを夫婦自らで決定していたことからも,良好な夫婦関係であったことが推測される.さらに,協力者の9割が核家族であること,そして里帰りをせず出産後すぐに夫婦3人での生活を送ることを選択していることからも,夫婦で協力して育児をしていかなければならない状況であったといえる.父親の妻への愛情の高さは,子どもの愛着を高め,かつ親役割を果たそうとする傾向にあることからも(鈴木・島田,2015),妊娠中からの良好な夫婦関係が維持していたことが影響していると推察される.

Ⅴ. 結論

初めて父親になる男性が立ち会い出産後に受けるBirth-Review for Coupleの介入によって,父親らしさの下位概念である父親意識の高まりと子どもの存在から沸き立つ思いに向上が認められた.また,介入によって向上された父親意識の高まりと子どもの存在から沸き立つ思いは,その後1か月まで維持されることが明らかとなった.

Ⅵ. 研究の限界

本研究は1産科個人病院で初めて親になる男性に限定したものである.また妻の出産に立ち会うことを夫婦自らで決定するなど,夫婦関係が良好であったことが推察される.よって夫婦関係が良好でない場合や立ち会い出産をすることが不本意であった場合などは,夫婦間での十分な思いの表出が困難となり肯定的な体験としての統合に影響を及ぼす危険性がある.

また父親意識の発達には,子どもに対する親和性や父親自身の子ども時代の父子関係などが影響することが報告されているが(明野,2013河野,1993),本研究では,生育環境や養育態度,育児経験の有無などは調査できておらず,本研究の限界である.さらに,同じような効果が得られるための介入者の諸要件については検証できておらず今後の課題である.

付記:本研究は,京都橘大学大学院看護学研究科に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご協力頂きました皆様および施設の看護スタッフの皆様に心より感謝申し上げます.また,研究の全過程においてご指導くださいました遠藤敏子教授,新道幸恵教授,中島登美子教授に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究内容における利益相反は存在しない.

文献
 
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