Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
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ISSN-L : 0287-5330
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Verification of Reliability and Validity of Genetics Nursing Competency Scale
Hiroko SusakaAkiko TerashimaNaoko ArimoriYui NakamuraMikiko Aoki
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2019 Volume 39 Pages 341-349

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Abstract

目的:遺伝看護の実践能力を測定する尺度を開発し,信頼性と妥当性を検討した.

方法:先行研究から遺伝看護実践能力尺度を作成した.調査1では内容的妥当性と表面的妥当性,調査2では対象者293名のデータで信頼性,併存的妥当性,既知集団妥当性の分析,モデル適合度の検定をおこなった.

結果:内容的妥当性,表面的妥当性の検討により,6因子21項目の尺度が作成された.尺度全体のCronbach’s α係数は .96であり,信頼性が確認された.既知集団妥当性では,遺伝医療・看護の勉強会参加経験「あり」群と「なし」群を比較し,1%水準で参加経験「あり」群の総得点が高かった.また6因子21項目の仮設モデルの適合度を確認的因子分析で検討し,容認できる整合性を認めた.

結論:遺伝看護実践能力尺度21項目6因子構造を開発し,概ね信頼性と妥当性が確保できた.

Translated Abstract

Aims: To develop a scale to measure genetics nurses’ practical ability and to examine its reliability and validity.

Methods: We developed a scale to measure genetics nursing competencies based on the previous research. The first survey assessed the content validity and surface validity, and the second survey assessed the reliability, coexistence validity, known-groups validity, and test of model suitability using data from 293 nurses.

Results: A 21-item scale comprising six factors was developed by examining content validity and surface validity. Factor analysis showed that the Cronbach’s α coefficient for the entire scale was 0.96, confirming its internal consistency. For known-groups validity, the “yes” and “no” groups’ responses to the question about participation experience in study sessions for genetic medicine and nursing were compared; “yes” group with participation experience had a higher overall score (at 1% significance level). The fit factor of the six-factor, 21-item temporary model was examined in the confirmatory factor analysis, which showed acceptable consistency.

Conclusions: This study developed and tested a scale to measure genetics nursing competencies, and there was a certain extent of validity and reliability.

Ⅰ. 研究の背景

急速に進むゲノム解析技術の進歩により,今日では迅速かつ安価に全ゲノム情報を解析できる時代を迎えた.最近では複数の遺伝子を一度に調べる「パネル検査」が国内で保険収載され,医療において遺伝情報を活用するという選択肢がますます増えている.一方で,遺伝子や遺伝医学に関する教育や法的な体制整備は未だ十分ではない.このため看護職は,遺伝に特有の問題に関する倫理的な視点を持ち,患者・家族にわかりやすく説明するなどの援助を行い,遺伝医療による不利益を避けることが重要な職務となる.

看護職は,これまでも遺伝的課題を持つ患者や家族へのケアを行ってきた.かつては,保健所で医師と保健師が遺伝的課題を持つ患者・家族のリプロダクションの相談にのってきた歴史がある(高瀬,2001).最近では,認定遺伝カウンセラー®による遺伝カウンセリングが広まりつつある.それに伴い,遺伝についての相談が実施される場所も,保健所から大学病院などの病院内に移行している.相談内容も周産期領域,小児領域に特化したものではなく,悪性腫瘍や難病など成人を対象にすることも増え,疾患領域も多岐に渡るようになった.このように,あらゆる領域の看護職が遺伝医療を利用する患者・家族に接する時代となったことから,看護職の実践能力の範囲にも遺伝看護を加える必要があると考える.

遺伝看護とは,遺伝子/ゲノムや遺伝が健康に与える顕在的・潜在的影響に焦点を当てた看護である.遺伝情報を適切に用いて治療に役立て,また健康リスクを減らし,あるいは健康増進に役立てられるように介入を行う.遺伝看護の実践能力については,米国看護協会が遺伝/ゲノム学の知識が看護職には必要不可欠であると唱え,1995年からすべての看護師に必要となる遺伝看護実践能力の作成を行ってきた.現在では遺伝看護実践能力とその臨床指標を基にして,遺伝看護のカリキュラムが作成されている(Calzone et al., 2011).英国でも,2003年から遺伝学と看護実践を統合するための教育の重要性が唱えられ,遺伝看護実践能力の作成が行われた(Department of Health, 2008).また日本の遺伝看護実践能力は有森らが明らかにしている(有森ら,2004).

寺嶋は,上記の文献を含んだ国内外の文献レビューを通じて,遺伝看護の実践能力の構成要素を明らかにした(寺嶋,2014).これはすべての看護師を対象にした遺伝看護実践能力に焦点を当て,国内外の12件の文献から遺伝看護実践能力についての記述を抜き出してラベル化し,内容の類似性から分類したものである.用いられた文献は,米国(Jenkins & Calzone, 2007など),英国(Kirk et al., 2014など),EU(Skirton et al., 2010),日本(中込ら,2002など)の文献であった.そして遺伝看護実践能力の構成要素として,「専門職としての倫理観や態度をもつ」「包括的に理解する」「識別/同定する」「意思決定の支援をする」「生涯にわたって生活の支援をする」「協働する」の6概念31項目を明らかにした.この研究では,日本独自にみられた実践能力として,クライエント/患者の不安に対する精神的支援に焦点を当てた能力があげられた.また日本には見られず欧米の文献で共通していた能力としては,臨床遺伝学の最新の知識を持ち,家系図を作成する能力があった.このように,日本と国外では,明らかにされている遺伝看護実践能力に差異があったことから,日本に特有の能力を含んだ遺伝看護実践能力の尺度開発を試みた.

本研究の目的は,この遺伝看護実践能力の6概念31項目を検討して,これまでなかった「遺伝看護実践能力尺度」を開発し,その信頼性と妥当性を明らかにすることである.本研究の意義は,尺度が開発されることにより,遺伝看護の実践能力の初の実態調査へと発展し,さらに実態を踏まえた遺伝看護教育の充実へつながることが考えられる.これらにより,遺伝性疾患の患者・家族,あるいは遺伝的課題もつ人々のQOL向上に寄与することが期待される.

Ⅱ. 研究の対象と方法

1. 研究デザイン

本研究は,寺嶋の「遺伝看護実践能力」(寺嶋,2014)を尺度として用いた場合の,信頼性および妥当性の検討である.第1段階の調査は,遺伝看護実践能力を尺度化した場合の内容的妥当性,表面的妥当性を質問紙により明らかにする質的研究である.第2段階は,尺度の信頼性および妥当性を明らかにする量的横断的記述研究である.

2. 研究対象者と調査内容

1) 調査1 内容的妥当性,表面的妥当性の検討

対象は,遺伝看護の専門職5名,臨床遺伝専門医3名,認定遺伝カウンセラー®2名,遺伝性疾患の患者会及び親の会参加者3名,尺度開発の研究者2名,グラフィックデザイナー2名の計17名とした.グラフィックデザイナーは,質問紙や文字の視覚的な見やすさについて回答してもらうために対象とした.依頼方法は,メールにて依頼を行い,承諾が得られた場合に質問紙をメールか郵送にて配布した.回収は本人の希望する方法(郵送またはメール)を選択できるようにした.メールでの返信を選択した際には匿名化されない調査となるため,調査依頼時にその旨を記載し,参加者が自由意思で参加できるよう配慮した.

調査1における調査項目は,「遺伝看護実践能力」(寺嶋,2014)における構成要素を質問項目とした「遺伝看護実践能力尺度(案)」6概念31項目に対する内容的妥当性,表面的妥当性について自由記述で記載してもらった.その内容を集約し,意見を尺度に反映させた.その上で,「専門職としての倫理観や態度をもつ(以下「倫理と態度」とする)」,「包括的に理解する(以下「包括的理解」とする)」,「識別/同定する(以下「識別/同定」とする)」,「生涯にわたって生活の支援をする(以下,「日常生活の支援」とする)」,「意思決定の支援(以下,「意思決定支援」とする)」,「協働する(以下,「協働」とする)」の6概念30項目の,遺伝看護実践能力尺度原盤を作成した.

2) 調査2 尺度の信頼性,妥当性の検討

対象は,病院に勤務する看護職800人,および日本遺伝看護学会会員200人とした.看護職の約7割は病院で勤務しており,一般の看護職を対象とする遺伝看護実践能力尺度の開発のために妥当な集団と考えた.また遺伝医療に関わっている可能性が高い看護職として,日本遺伝看護学会会員も対象とした.

病院勤務の看護職の選定方法は,まず日本国内の医療機関から500施設を抽出した.500施設の中には,遺伝診療部を有する施設を含めることとし,「全国遺伝子診療部連絡会」に登録している施設より115ヶ所を選定した.残りの385ヶ所は,日本病院会のデータベースを用いて無作為に抽出した.このようにして選定された施設の看護責任者に調査依頼文を送り,同意が得られた後に調査用紙を郵送した.日本遺伝看護学会会員への依頼は,学会の設置する研究協力受付窓口に依頼文を送付し,承諾を得てから,学会事務局を通じて学会員200人に調査用紙を郵送した.調査用紙は無記名自記式とし,回答者個人から郵送で返信してもらう方法で回収した.データ収集期間は2018年9月~12月までであった.

3) 調査2における調査項目

(1) 遺伝看護実践能力尺度原盤

遺伝看護の実践能力について,質問項目に示した行動がどの程度あてはまるかを5段階尺度で問うもので,得点が高いほど実践を行っていると自己で認識していることを示す.6概念30項目からなり,質問文については調査1により加筆修正を行った.

(2) 協同作業認識尺度(9項目5件法)

長濱らにより協同作業の認識を測定するために開発されたもので,3因子構造9項目である.Cronbach’s α係数(以下α係数)は .83であり,信頼性は確認されている(長濱ら,2009).得点範囲は9点から45点であり,得点が高いほど仲間と共に協同作業する有効性が高いことを示す.遺伝看護は,他者と協働して遺伝に関する課題を解決する協力体制が重要である.このことから,本尺度が遺伝看護実践能力尺度と関連することが想定されたため,併存的妥当性の検証のために用いた.

(3) 個人属性(デモグラフィックデータ)

性別,年齢,職種,経験年数,遺伝事例との遭遇の有無,就業施設の種類,遺伝診療部の有無,遺伝医療や遺伝看護の教育を受けた経験の有無,最終学歴の回答を求めた.

4) 調査2の分析方法

統計解析ソフトSPSS 23.0 J for WindowsとAMOS ver. 23を使用し,以下の5項目について分析した.①各質問項目の基本統計量の算出,②各尺度の尺度全体,下位尺度の信頼性分析,③併存的妥当性を確認するための因子分析,相関分析,④既知集団妥当性を確認するためのt検定,⑤採択された遺伝看護実践能力尺度21項目を用いての確認的因子分析,モデル適合度の検定,以上の5項目の分析を行った.

3. 倫理的配慮

本研究への協力は任意であり,協力しない場合にも研究対象者,研究協力施設への不利益は生じないことを研究協力依頼文に明記し,対象者の自由意思の尊重を遵守した.また質問紙は無記名であり,回答者が個別に返信用封筒にて返信する方法で回収し,対象者の匿名保持を厳守した.さらに質問紙の返信をもって,研究協力への同意を得たものとした.本研究は新潟大学倫理審査委員会の承認を得た上で実施した(承認番号2017-0324).

Ⅲ. 結果

1. 対象者の特性

調査1の対象者は17人で,11人から回答が得られた(回収率64.7%).

調査2では,看護責任者の許可が得られた施設へ660通の質問紙を送付し,325部が回収され(回収率49.2%),そのうち有効な回答が得られた293部のデータ分析を行った(有効回答率44.4%).回答者は男性11人(3.8%),女性282人(96.2%)で,勤続年数の平均値は18.8 ± SD9.2年だった.年齢は,40代が最も多く119人(40.6%),次いで30代が82人(28.0%)だった.所持資格としては看護師が290人(99.0%)だった.最終学歴は専門学校が158人(53.9%),大学院が58人(19.8%),大学が42人(14.3%)だった.基礎教育の中で遺伝医療,遺伝看護について学んだ経験については,なしが232人(79.2%),ありが57人(19.5%)だった.遺伝医療,遺伝看護の勉強会に参加した経験は「あり」が111人(37.9%),「なし」が182人(62.1%)だった(表1).

表1 対象者の属性(n = 293)
項目 Mean SD
勤務年数 18.8 9.2
遺伝専門外来看護職人数 1.9 1.4
勉強会参加回数 6.5 7.2
n %
性別
男性 11 3.8
女性 282 96.2
年齢
20代 21 7.2
30代 82 28.0
40代 119 40.6
50代 64 21.8
60代 7 2.4
資格(複数回答)
看護師 290 99.0
助産師 40 13.7
保健師 32 10.9
認定遺伝カウンセラー 18 6.1
認定看護師 16 5.5
専門看護師 9 3.1
その他 7 2.4
最終学歴
専門学校 158 53.9
短大 33 11.3
大学 42 14.3
大学院 58 19.8
無回答 2 0.7
遺伝に関する教育経験
あり 57 19.5
なし 232 79.2
無回答 4 1.4
遺伝に関する対応経験
親から子 174 59.4
遺伝学的検査の受検 111 37.9
環境要因等の対応 119 40.6
遺伝性疾患の日常生活ケア等 117 39.9
経験なし 79 27.0
その他 7 2.4
所属施設
一般病院 174 59.4
特定機能病院 111 37.9
有床診療所 3 1.0
無床診療所 5 1.7
遺伝看護勉強会参加経験
あり 111 37.9
なし 182 62.1

2. 内容的妥当性,表面的妥当性の検討(調査1)

寺嶋(2014)による「遺伝看護実践能力」をそのまま質問項目化したものを,対象者に確認してもらった.その結果,「1つの項目の中で複数のことを聞いている」「言葉の意味がわかりにくい」「2つの項目が同じ内容である」という意見が得られた.得られた意見を研究メンバーと確認し,言葉をより平易に変更し,また項目の内容を整理して同じ内容にならないようにした.さらに内容が重複する項目と指摘されたQ30とQ31のうち,Q31を削除し,もともと31項目あったが30項目となった.

3. 項目分析(調査2)

I-T相関は .10~.88の範囲だった..2未満の相関係数を示す項目は,内容を吟味した結果,すべてが遺伝看護実践能力を示す重要な項目と考えたため残した(該当項目はQ20,Q21,Q30).また .7以上の相関係数を示す項目は,より遺伝看護実践能力を示していると思えるもののみを残して削除した(Q5,Q7,Q11,Q14,Q16,Q20,Q24,Q26).その結果,合計8項目を削除した.加えて,天井効果の高いQ3を削除し,残った項目は21項目となった(表2).

表2 遺伝看護実践能力尺度 31項目(灰色は削除された項目)
Q1 遺伝学が看護実践に有益となる領域であることを認識している
Q2 自分自身の遺伝に関する価値観や偏見を認識している
*Q3 遺伝学的情報が個人,家族に倫理的,法的,社会的影響があることを認識する
Q4 遺伝に関する情報は,ほかの医療情報とは異なる配慮のもと取り扱っている
**Q5 クライエントの状況を理解するために必要な臨床遺伝学の知識をもつ
Q6 クライエントに遺伝に関する情報提供をするために自己研鑽を積んでいる
**Q7 クライアントと家族が意思を表出しやすい環境作りに努める
Q8 クライエントの遺伝に関する不安を理解する姿勢をもっている
Q9 遺伝に関する情報の解釈や意思決定に影響を与えるクライエントの民族性(クライエントの属する集団特性),文化,宗教的な要因を理解している
Q10 遺伝に関する情報の解釈や意思決定に影響を与えるクライエントの知識レベル,発達段階,言語能力,心理的準備状況を理解している
**Q11 遺伝学的情報の解釈や意思決定に影響を与えるこれまでの家族の生活,家族関係,価値観を理解する
Q12 遺伝相談/遺伝カウンセリング時にクライエントの来談目的を確認する必要性を理解している
Q13 遺伝に関する情報がもたらすクライエントの心理・社会的な影響を理解している
**Q14 3世代の遺伝学的な家族歴の情報を収集することができる
Q15 必要時,3世代以上の家系図を標準化された記号を用いて書くことができる
**Q16 遺伝性疾患の特徴を示す指標を理解している
Q17 遺伝に関するサービスが必要であるクライエントを特定している
Q18 インターネットなどの情報を利用して,最新で正確な遺伝に関する情報を提供している
Q19 意思決定のために遺伝に関する情報や知識を理解できるように支援している
**Q20 治療方針を決定する場および何らかの意思決定をする場で,クライエントと家族が意思を伝えられるように支援する
Q21 すべての人々の自律的な意思決定権を擁護している
Q22 クライエントの意思決定後も継続的に支援している
Q23 家系内での遺伝に関する情報の共有範囲をクライエントとともに検討している
**Q24 クライエント自身が疾患をもちながら生活していく方法や自己管理できる方法を支援する
Q25 遺伝性疾患を持つクライエントの個別性に合わせた療養生活の支援を提供している
**Q26 遺伝性疾患に伴う症状の管理や療養上の世話を行う
Q27 健康促進や疾患予防のために遺伝学に基づく看護実践を行っている
Q28 クライエントの包括的な体調管理等の支援のために,院内外の遺伝に関する専門家や機関と協働している
Q29 必要時,クライエントに遺伝性疾患のサポートグループの情報を提供している
Q30 体調管理のために,遺伝性疾患を持つクライエントと協働している
●Q31 クライエントと家族の専門性を認め,体調管理をするために協働する

* 天井効果で削除した項目

** I-T相関で相関係数が .80以上のために削除した項目

● 内容的妥当性の分析で削除された項目

4. 主成分分析による成分負荷量の確認(調査2)(表3)

1) 信頼性の検討

項目分析で削除した9項目を除外した6下位尺度21項目で,下位尺度ごとに主成分分析を行った.先行研究により導き出した「遺伝看護実践能力」の6概念について研究メンバーで話し合い,この6概念が遺伝看護の実践にそれぞれが独立して重要な要素であることが確認されたため,6概念をそのまま6下位尺度とし,下位尺度ごとに主成分分析を行う方法を用いた.その結果,表3のとおり6下位尺度21項目が確認された.尺度全体のα係数は .96であり,内的整合性が確認された.

表3 遺伝看護実践能力尺度の主成分分析(n = 293)
原盤第1因子【倫理と態度】5項目 Cronbach’s α = .82 成分負荷量
Q6 クライエントに遺伝に関する情報提供をするために自己研鑽を積んでいる .817
Q1 遺伝学が看護実践に有益となる領域であることを認識している .811
Q8 クライエントの遺伝に関する不安を理解する姿勢をもっている .810
Q4 遺伝に関する情報は,ほかの医療情報とは異なる配慮のもと取り扱っている .762
Q2 自分自身の遺伝に関する価値観や偏見を認識している .616
寄与率 58.8%
原盤第2因子【包括的理解】4項目 Cronbach’s α = .91 成分負荷量
Q10 遺伝に関する情報の解釈や意思決定に影響を与えるクライエントの知識レベル,発達段階,言語能力,心理的準備状況を理解している .902
Q9 遺伝に関する情報の解釈や意思決定に影響を与えるクライエントの民族性(クライエントの属する集団特性),文化,宗教的な要因を理解している .885
Q12 遺伝相談/遺伝カウンセリング時にクライエントの来談目的を確認する必要性を理解している .884
Q13 遺伝に関する情報がもたらすクライエントの心理・社会的な影響を理解している .871
寄与率 78.4%
原盤第3因子【識別/同定】2項目 Cronbach’s α = .80 成分負荷量
Q17 遺伝に関するサービスが必要であるクライエントを特定している .917
Q15 必要時,3世代以上の家系図を標準化された記号を用いて書くことができる .917
寄与率 84.2%
原盤第4因子【意思決定支援】5項目 Cronbach’s α = .90 成分負荷量
Q19 意思決定のために遺伝に関する情報や知識を理解できるように支援している .908
Q23 家系内での遺伝に関する情報の共有範囲をクライエントとともに検討している .869
Q18 インターネットなどの情報を利用して,最新で正確な遺伝に関する情報を提供している .843
Q22 クライエントの意思決定後も継続的に支援している .800
Q21 すべての人々の自律的な意思決定権を擁護している .793
寄与率 71.2%
原盤第5因子【日常生活の支援】2項目 Cronbach’s α = .89 成分負荷量
Q27 健康促進や疾患予防のために遺伝学に基づく看護実践を行っている .948
Q25 遺伝性疾患を持つクライエントの個別性に合わせた療養生活の支援を提供している .948
寄与率 89.3%
原盤第6因子【協働】3項目 Cronbach’s α = .91 成分負荷量
Q29 必要時,クライエントに遺伝性疾患のサポートグループの情報を提供している .938
Q30 体調管理のために,遺伝性疾患を持つクライエントと協同している .919
Q28 クライエントの包括的な体調管理等の支援のために,院内外の遺伝に関する専門家や機関と協同している .918
寄与率 85.6%

尺度全体のCronbach’s α = .96(21項目)

因子ごとにみていくと,第1因子【倫理と態度】では,成分負荷量は .616~.817の範囲であり,全体の寄与率は58.8%,α係数は .82だった.第1因子はQ1,Q2,Q4,Q6,Q8である.第2因子【包括的理解】では,質問項目はQ9,Q10,Q12,Q13であり,成分負荷量は .871~.902,寄与率は78.4%,α係数は .91だった.第3因子【識別/同定】はQ15,Q17である.成分負荷量はいずれも.917,寄与率は84.2%,α係数は .80だった.第4因子【意思決定支援】は,Q18,Q19,Q21,Q22,Q23で構成され,成分負荷量は .793~.908,寄与率は71.2%,α係数は .90だった.第5因子【日常生活の支援】はQ25,Q27であり,成分負荷量はいずれも.948,寄与率は89.3%,α係数は .89だった.第6因子【協働】は,Q28,Q29,Q30で構成され,成分負荷量は .918~.938,寄与率85.6%,α係数は .91だった.

以上から,十分な成分負荷量と寄与率が得られているため,6下位尺度の構成概念は妥当であることが確認された.また下位尺度すべてのα係数が .80以上であり,尺度全体でも .80以上のα係数を示していたことから,内的整合性が得られていることが確認された.

5. 協同作業認識尺度を用いた併存的妥当性の検討

まず,長濱ら(2009)による協同作業認識尺度の信頼性と妥当性の確認を行った.協同作業認識尺度9項目は最尤法で因子分析を行った.その結果,共通性は9項目とも0.3以上あり,全項目に .62以上の因子負荷量が確認され,寄与率は60.4%で1因子9項目が確認された.α係数は9項目全体で .93であり,内的整合性があると判断し,信頼性は確保された.

続いて併存的妥当性の検討を行った.遺伝看護実践能力では,他職種や患者や患者家族会との「協働」が項目としてあることから,協同作業認識尺度との相関係数を算出した.その結果,Pearsonの相関係数はr = .34の正の弱い相関が1%水準で認められた.

6. 既知集団妥当性の検討

既知集団妥当性を検討するために,「これまで遺伝医療,遺伝看護に関する勉強会に参加した経験」の有無で2群に分け,遺伝看護実践能力尺度の総得点についてt検定を行った.勉強会参加経験ありは111人,なしは182人だった.総得点の平均値は,経験ありが100.02 ± SD19.82点,経験なしは64.74 ± SD18.18点であり,1%水準で有意に勉強会参加経験あり群の総得点が高かった(t値15.57,自由度291).

7. モデル適合度の検定(図1

6因子21項目の仮設モデルの適合度を,確認的因子分析で検討した.6因子を潜在変数とした場合の適合度指標は,GFIは0.819,AGFIは0.759,CFIは0.909であった.RMSEAは .1であったため,再分析で修正指数を確認し,誤差変数に共分散を設定する修正を行った.意思決定支援という点で関係が予測されるQ21「すべての人々の自律的な意思決定権を擁護している」と,Q22「クライエントの意思決定後も継続的に支援している」の間に誤差共分散を設定した.その結果,GFIが .853,AGFIは .804となり,CFIは .942,RMSEAは .079となった(図1).潜在変数―観測変数間には全質問項目において .50以上の妥当なパス係数が得られた.

図1

確認的因子分析の結果(修正後)

Ⅳ. 考察

1. 遺伝看護実践能力尺度の信頼性と妥当性

信頼性は内的整合性から検討した.21項目全体のα係数は .96であった.一般的に .7以上であれば信頼性の高い尺度とみなされることから,遺伝看護実践能力尺度の内的整合性が確認されたと考える.

妥当性は,内容的妥当性及び表面的妥当性を検討したうえで,併存的妥当性,既知集団妥当性から検討した.また主成分分析,モデル適合度の検定もおこなった.主成分分析では十分な成分負荷量,寄与率が得られた.6下位尺度は先行研究による「遺伝看護実践能力」を基盤に原盤が作成され,専門家による検討も行っているため,探索的因子分析は行わず,6下位尺度ごとに主成分分析を行う方法で適切であったと考える.これらは最終的に確認的因子分析でも許容される適合度が得られたことから,尺度が妥当であると判断できる.モデル適合度の検定においては,RMSEAは .079であった.Mohammad et al.(2019)によれば「RMSEA .05–.08はacceptable fit」とあり,このことからモデル適合度として適切な値であったと解釈することができる.一方,協同作業認識尺度を用いた併存的妥当性は,有意ではあるものの弱い正の相関であった.

既知集団妥当性の検討では,総得点の平均値は,遺伝医療・遺伝看護の教育を受けた経験あり群が100.02 ± SD19.82点,経験なし群は64.74 ± SD18.18点であり,1%水準で有意に勉強会参加経験あり群の総得点が高かった(t値15.57,自由度291).

以上より,「遺伝看護実践能力」から作成した尺度は,一定の信頼性と妥当性があり,確認的因子分析によりモデル適合度が一定の基準を満たしていることから,この6つの下位尺度での臨床活用が可能であると判断できる.ただし本研究では再テスト法は実施していないため,尺度の安定性は確認されていない.今後は再テスト法を用いて信頼性の確認を十分に行うことが必要である.

2. 遺伝看護実践能力尺度の意義と活用可能性

遺伝看護実践能力について,本尺度の元となる先行研究の後では,米国よりthe Genetics and Genomics in Nursing Practice Surveysが報告されている(Calzone et al., 2016).これは,看護師自身の態度,自信,家族歴の作成,一般的な遺伝学の知識などの8つの概念から構成されるリッカート尺度である.8つの下位尺度は「ゲノム医療に対する幅広い態度」「家族歴聴取時の態度と自信」「患者に家族歴を適用すること」「一般的なゲノムに関する知識」「より詳細なゲノムに関する知識」「個人的なゲノム実践能力のアセスメント」「社会システム」「自己研鑽」「人口統計」からなる.ただし再テスト法では妥当な結果が得られなかったとあり,まだ尺度としては完成していないとされている.さらに内容を見ると,遺伝/ゲノム医学についての知識を問うものが多く,本研究における尺度にあった「日常生活の支援」や「協働」についての内容はみられなかった.これらの点から,本研究における遺伝看護実践能力尺度は,より多面的に遺伝看護実践能力を捉えることができ,臨床応用可能性が高いと考える.

遺伝医療が進歩しているなかで,患者や家族が最適な健康上の利益を得る為には,主に看護師を含む医療提供者の遺伝に関する能力に依存するといわれている(Calzone et al., 2016).日本では,基礎看護教育の中で遺伝看護の教育はほとんどなされておらず,現任教育としても看護師個人の自主性に任せられている状況がいまだにある.本尺度を用いることにより,遺伝看護実践能力で欠如している能力を6下位尺度ごとに評価することで,遺伝看護教育のより具体的なプログラム開発へとつながることが考えられる.ただし,本尺度は自記式の尺度であり,実際にその実践がなされているかどうかを客観的に評価する尺度ではない.今後は本尺度のさらなる検討とともに,実際の実践を評価する指標や,患者/家族のアウトカムについても検討していく必要がある.

Ⅴ. 本研究の限界と今後の課題

本研究では再テスト法は実施していないため,尺度の安定性は確認されていない.今後は再テスト法を用いて信頼性の確認を十分に行うことが必要である.

Ⅵ. 結論

遺伝看護実践能力尺度の開発を試みた.その結果,21項目6因子が確認された.妥当性と信頼性の確認を行った結果,適切な妥当性と信頼性があることが確認された.

付記:本論文の内容の一部は,日本遺伝看護学会第18回学術大会において発表した.

謝辞:本研究のためにご協力くださいました対象者の皆様に心から感謝申し上げます.また研究の分析過程において多大なるご指導をいただきました東京保健医療大学准教授 朝澤恭子氏に深く感謝申し上げます.なお,本研究は科学研究費助成事業(挑戦的萌芽研究:課題番号16K15867)の助成を受け実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:すべての著者は,研究デザインの検討,尺度作成・検討,データ収集,データ分析,解釈の作業にかかわっている.その中でも,特に貢献した部分について以下に記す.HSは,特に研究デザインの検討,尺度作成・検討,データ分析,解釈,論文執筆に貢献した.ATは,特に尺度作成・検討,データ分析,論文執筆,論文の推敲に貢献した.NAは,特に研究デザインの検討,データ収集,データ分析,解釈,論文の推敲に貢献した.YNは,特にデータの分析,解釈,論文の推敲に貢献した.MAは,特に研究デザインの検討,論文の推敲に貢献した.すべての著者は原稿を読み,承認した.

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