2019 Volume 39 Pages 366-372
目的:地域共生社会実現を目指す上での訪問看護師による地域づくり推進の教育的示唆を得るため,地域づくりを推進する訪問看護師の実践を明らかにする.
方法:先駆的に地域づくりを推進する訪問看護師7名に半構造化面接を実施し,質的記述的に分析した.
結果:地域づくりを推進する訪問看護師の実践は,【個の看護にとことんこだわる】と【広く柔軟な発想のもと,自分たちのペースで歩む】実践を基盤とし,【安心して素の自分でいられる空間を共につくる】実践や【個の力を引き出し輝かす】実践の相互作用を受けながら【地域のつながりを広げる】実践とつながっていた.さらに醸成して【住民が自らの願いをかなえる過程を見守る】実践へと発展していた.
結論:地域づくりを推進する訪問看護師の実践は,訪問看護活動の特徴である「個」の視点と,制度やシステムに依らない柔軟な創造性を基盤とし,地域のつながりの拡大と,住民主体の取り組みを見守る実践を主軸とした構造であることが明らかとなった.
Aim: To elucidate the practice of home-visit nurses for promoting community development to ascertain the educational implications of community development promotion through home-visit nurses toward realizing a cohesive community.
Methods: Data were collected using semi-structured interviews with seven home-visit nurses who are pioneering community development. The practice characteristics were qualitatively and descriptively analyzed.
Results: The practice of home-visit nursing for promoting community development was based on the practices of “Focus on individual nursing” and “Working at one’s own pace based on a broad, flexible mindset”, and was connected to the practice of “Spreading community connections” while receiving the interactions of the practices of “Creating spaces where people can be themselves without worries” and “Working to bring out the best of one’s abilities”. This further fostered the development of the practice of “Watching over the residents’ process to achieve their goals”.
Conclusion: The study found that the practice of home-visit nurses for promoting community development is based on the “individual” perspective and flexible creativity that is unrestricted by systems, and clarified that this is structured around the central practices of expanding community connections and watching over resident-centered efforts.
近年の急速な少子高齢化に伴う担い手不足,財政難により,共助,公助の大幅な拡充は困難とされている(厚生労働省,2013).今後,地域共生社会実現を目指すべく,自助,互助の向上を目的とした地域づくりは焦眉の課題である.
しかし,自助,互助の向上を目指した地域づくりの実践,発展は,地域住民だけで行うことは難しく,地域のさまざまな関連機関や専門職が各々の強みを活かした支援を行う必要がある(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2017).この中で,在宅看護の機能においても「地域づくり」の重要性が示されており(川野・伊藤,2008),訪問看護アクションプラン2025(日本看護協会ら,2014)では,2025年問題に向け,地域のニーズに応じた地域包括ケアシステムの構築や地域での生活を包括的に支援する訪問看護ステーションの機能強化が掲げられている.訪問看護師は,個,家族の対応から,在宅療養者の暮らしの場である地域全体を視野に入れた活動を展開している.そのため,利用者との深い関係性の中で,その人の想い,つらさ苦しさ,喜び楽しみ,大切にしているもの等々,生活の実態を肌で感じることができるという強みがある(佐藤,2018).また,行政としての縛りがなく,自由な活動が展開しやすいことから,森(2011)は,制度の枠や決められたサービスの提供に終始せずに地域が求めることに応えていく発想をもつなど,地域のニーズを掘り起こす姿勢で活動する必要性を指摘している.実際に訪問看護師が行う地域づくりとして,暮らしに密着した医療,介護に関わるよろず相談を受ける場である「暮らしの保健室」や健康教育,認知症カフェなどの取り組みが一部の地域では始まっており,大きな効果をもたらし注目され始めている(秋山,2016;平原,2015).しかし,その実際は個々の実践報告にとどまり,これらの実践を統合し整理した学術的研究はなされていない.
そこで,本研究では,地域づくりを推進する訪問看護師の実践を明らかにすることを目的とする.訪問看護師の持つ強みや特性を活かした地域づくりを明らかにすることで,地域共生社会実現を目指す上での訪問看護実践の在り方や人材育成における貴重な基礎資料となり,訪問看護師による地域づくりの推進に寄与できると考える.
本研究における「地域づくり」は,「まちづくり」,「地域づくり」の用法の中から,概念分析により操作的定義を行った.岩永(1995);山田(2007);両羽(2010)などの論文の用法をモデルとし,本研究における「地域づくり」は,「地域住民の自助力,互助力などの地域力向上を目的とし,住民と共に,もしくは住民が主体的に,住民のニーズに合った健康で安心して暮らせる地域の構築を目指した活動」とした.インタビュー冒頭では,上記の定義を提示した上で,「地域」の範囲は問わないこと,具体例として地域の保健室や認知症カフェなどを挙げて説明を行った.
訪問看護活動の中で地域づくりを着想し,活動に中心的に関わっている訪問看護師で,かつ地域づくりの着想に至った経緯を具体的に語れて,詳細な経過を把握する者とした.文献等で地域づくり活動の報告を行っている訪問看護師に研究参加依頼を行い,在宅看護の研究者や実践者である相識者からの推薦,依頼によるネットワークサンプリング法を用いた.
2. 研究デザインとデータ収集方法本研究は,質的記述的研究デザインとし,平成30年5月~9月に,半構造化面接を行いデータ収集した.事前にフェイスシートとインタビューガイドを配布し,インタビュー前にフェイスシートを用いた情報収集を行った.インタビューでは,活動内容を詳細に把握した上で,1)地域づくりを開始するに至る動機や経緯,2)訪問看護師の強みや特徴をどのように活動に活かしているのか,3)活動を開始するにあたり,必要な能力や視点,4)活動を継続させるための工夫や課題について具体的に尋ねた.インタビューは,1時間程度,原則1名の研究参加者につき1回とし,同意を得てICレコーダーへの録音とメモを取った.
3. 分析方法逐語録を作成し,訪問看護師の特性,強みを活かした地域づくりのあり方に関する内容を主として導きだした.意味内容を損なわないようにコード化し,サブカテゴリ,カテゴリを形成した.録音の同意が得られない場合は,発言のメモによりコード化し分析した.指導教員のスーパービジョンと地域看護学領域院生のピアレビューを受け,データの解釈の信頼性や妥当性の確保に努めた.また,必要時,研究参加者に意味内容の確認を行うことで確実性を確保した.
本研究は,日本赤十字看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2018-10).研究参加者は,本研究内容について文書と口頭で説明した上で,同意を得た者とした.
研究参加者は7名で,訪問看護ステーションに所属する訪問看護師1名,管理者が6名であった.看護師経験年数は平均24.9 ± SD(標準偏差)13.9年で,そのうち訪問看護経験年数は平均15.6 ± SD 13.1年であった.保健師経験者は2名いた.インタビュー時間は平均74.3 ± SD 10.7分であった.
地域づくりを推進する訪問看護師は,訪問業務だけでなく地域全体を対象とし,地域のためにやるべきこと,やれることを模索し続けるという特徴がみられた.
2. 研究参加者が行っている主な地域づくりの内容(1)団地やステーションの一部を利用した住民の交流の場づくりが多く,(2)よろず相談や,がんや認知症カフェなどの定期的開催もあった.(3)住民に対する終活や意思決定に関する講演会の開催や,病院や地域の専門職に対し地域づくりの必要性の理解と専門職の意識変容を目的としたシンポジウムの開催も散見された.(4)地域住民の交流を目的としたお祭り,食事会,お花見などのイベントの地域住民共催があった.そして,参加者の1名以外が,(5)地域の会議体の委員や役職を担うことでの地域の専門職連携づくりを行っていた.
3. 地域づくりを推進する訪問看護師の実践分析の結果,地域づくりを推進する訪問看護師の実践を説明するためのカテゴリとして,【個の看護にとことんこだわる】【広く柔軟な発想のもと,自分たちのペースで歩む】【地域のつながりを広げる】【安心して素の自分でいられる空間を共につくる】【個の力を引き出し輝かす】【住民が自らの願いをかなえる過程を見守る】の6つの行動と,それらを構成する19サブカテゴリが抽出された(表1).
カテゴリ | サブカテゴリ |
---|---|
個の看護にとことんこだわる | 個の暮らしや人生に入り込み,内から真のニーズを感じ抜く |
希望を何とかかなえようとできることを全力で探す | |
広く柔軟な発想のもと,自分たちのペースで歩む | 制度に縛られず自由に柔軟に活動を展開する |
日頃の業務によって培われる創造力や発想力を活動に援用する | |
地道にできるところから自分たちのペースで淡々とやる | |
地域のつながりを広げる | 人との縁を温め,つながり続ける |
地域の資源を発掘し,適材適所を見極め,必要とする人につながることを支える | |
住民同士が交流する機会を設ける | |
気持ちを共有できたり,お互いに支えあえる仕掛けをつくり,住民同士の絆を育む | |
安心して素の自分でいられる空間を共につくる | 誰もが気軽に立ち寄れる心地の良い居場所をつくる |
フラットな関係を保つ | |
自分と向き合い,自身を取り戻す環境を一緒につくる | |
住民が集まる場所に入り込み,地域や住民を理解する | |
個の力を引き出し輝かす | 心から楽しいと思える空間を提供する |
自分の力に気づき,発揮できる役割を見つける機会を提供する | |
人の役に立つことで,個が輝ける生きがいを見出すことを見守る | |
住民が自らの願いをかなえる過程を見守る | 自己啓発を促し,モチベーションや連帯感を高める |
住民が自分たちでやりたいことに気づき,結束して自分たちで行動を起こそうとする姿勢を守る | |
住民が自分たちで考えて決めることを見守る |
以下に,カテゴリ毎に内容について詳しく記載する.本文中の【 】はカテゴリ,《 》はサブカテゴリ,〈 〉はコードを示す.研究参加者の語りは,斜体「 」,語りの最後に参加者(アルファベット)を記す.さらに研究者による説明の補足は( )で追記した.
1) 個の看護にとことんこだわる地域づくりを推進する訪問看護師は,個の〈生涯に伴走〉しながら,〈生きてきた過程,抱えてきた苦悩や困りごとから,看護が関われることに気が付く視点や感度〉を持つことで《個の暮らしや人生に入り込み,内から真のニーズを感じ抜く》実践をしていた.また,目の前のケアを必要としている人の《希望を何とかかなえようとできることを全力で探す》努力をしており,〈初めてでわからないことだらけでも,断らずに引き受け,手探りで実績を積み重ね〉ることで,地域でできることの可能性を広げていた.これらの経験から,〈個別のニーズにとことん立ち向かっていくと,それはもう地域を変えることになる〉ことを実感として持っており,〈地域づくりは個人のケアからの連続性〉と捉えていた.
「何か地域を変えようとかではなくて,いつもいつも真ん中にあるのは目の前にいるケアを必要としている人で,その人のケアは(中略)今の制度ではこれしかできないということではなくて,(中略)その枠を超える努力というか,そこに何かがないだろうかと探していく.」(F氏)
2) 広く柔軟な発想のもと,自分たちのペースで歩む訪問看護師が行う地域づくりは,〈枠や縛りにとらわれない民間だからこそ,決まりや基準をつくらずに,その人に合ったものを自由につくることができる〉こと,そして〈やると決めたときの行動力やスピード感〉を最大の強みとしていた.これらの訪問看護の強みに加え,《日頃の業務によって培われる創造力や発想力を活動に援用する》ことで《制度に縛られず自由に柔軟に活動を展開する》ことを可能としていた.
「訪問看護でうまくいっている人は結構そういう創造力とか発想ができる,常識にとらわれないっていうのは得意.」(B氏)
また,訪問看護師は〈自分ができることとやれる範囲を見極め〉ながら《地道にできるところから自分たちのペースで淡々とやる》ことで活動の継続と質の担保を図っていた.
3) 地域のつながりを広げる訪問看護師は,地域づくりを行う際,様々な分野の《人との縁を温め,つながり続ける》ことを大切にして活動の幅を広げていた.また,〈訪問先にあるさまざまな設備や機能も地域の資源〉と捉え,日々の訪問で個々の家にある物や設備,個,家族の経験や能力を把握し,それらを〈必要としている人をつなぎ,自立してつながっていけるようにサポート〉していた.このような《地域の資源を発掘し,適材適所を見極め,必要とする人につながることを支える》実践により,人と人とのつながりや助け合いの「和」を地域に地道に広げていた.
「関わったご家族で,この人は!と思う人には目をつけ,何かあったときには協力して欲しいことをなげかけて」(E氏)
さらに,〈今を生きる者としてお互いに時間と場所を共有する〉ための〈いろいろな人との交流の場が,療養者のリカバリーのプロセスには必要〉であると捉え,交流の場において,《気持ちを共有できたり,お互いに支えあえる仕掛けをつくり,住民同士の絆を育む》ことで,住民同士の関係性を深めることを支えていた.
4) 安心して素の自分でいられる空間を共につくる訪問看護師は,地域づくりの場を〈予約がなく無料〉で〈世代や疾患に限らず誰でも来られる〉ようにし,〈常時開放する〉ことで敷居を下げる工夫を施していた.そして,〈誰にも自分を責められずに安心していられる〉空間をつくることで,《誰もが気軽に立ち寄れる心地の良い居場所をつくる》ことを重視していた.また,地域づくりの場では,〈抱えている荷物も立場も状況も職種も関係ない《フラットな関係を保つ》〉ことで,その場にいる人同士が安心して対等に接することができるようにしていた.この環境下で,〈自分でどういう人生を過ごしていきたいのかを自分で考えていけるように導き〉,〈今までの人生を肯定的に捉えられるようになる〉ことや,《自分と向き合い,自身を取り戻す環境を一緒につくる》実践をしていた.さらに,住民が集まる場所に自ら足を運び,時には住民の井戸端会議を開き,《住民が集まる場所に入り込み,地域や住民を理解する》よう努めることで住民に溶け込み,生の声を引き上げていた.
5) 個の力を引き出し輝かす訪問看護師は,個の主体性とやりがいを生み出すために,〈興味を持った人が自分から活動に参加したいと思ってもらえるように活動の魅力や意義を伝える〉こと,そして《心から楽しいと思える空間を提供する》ことをしていた.また,〈相談者が社会的役割を持とうと変わっていくことを支えることで元気になっていく〉ことを捉えており,個のできることを認めて〈相談者が支えられる側でなく,支える側としても尊重されているように接する〉ことで,相談者が《自分の力に気づき,発揮できる役割を見つける機会を提供する》実践をしていた.さらに,訪問看護師は,《人の役に立つことで,個が輝ける生きがいを見出すことを見守る》ことをしていた.一人の地域住民として利用者と接することで,〈徐々に運営に利用者や家族が参加する〉ようになったり,〈相談者がボランティアになっていく〉など,相談者は地域住民との関わりの中で,自然に他の誰かの役に立とうとしたりしていた.このように,〈人の役に立つことで,活動性やモチベーションが上がる〉ことにつながり,〈どこにもでかけていなかった人が社会的な役割を持てる場〉となっていた.それにより,地域づくりの場は,ボランティアにとってなくてはならない〈ボランティアの活動の場であり,ボランティアを育てる場〉ともなっていた.
6) 住民が自らの願いをかなえる過程を見守る地域づくりを推進する訪問看護師は,訪問看護が入らない前段階の健康な地域住民の意識変容を目的とし,シンポジウムや講演会において住民の《自己啓発を促し,モチベーションや連帯感を高める》よう働きかけていた.また,〈住民の願いをかなえることを支え,自主的な活動の応援団となる〉ことが地域づくりにおいて最重要とし,《住民が自分たちでやりたいことに気づき,結束して自分たちで行動を起こそうとする姿勢を守る》実践を行っていた.地域づくりは〈住民が自分たちで決めることに意味があるため,口出しや判断をしない〉よう,住民の〈自主性にまかせて静観する〉立場を取ることで《住民が自分たちで考えて決めることを見守る》実践をしていた.
4. カテゴリ間の関連地域づくりを推進する訪問看護師の実践の各カテゴリの関連性を図1に示す.地域づくりを推進する訪問看護師の実践は,【個の看護にとことんこだわる】と【広く柔軟な発想のもと,自分たちのペースで歩む】実践が全カテゴリと関連しており,全ての行動を起こす際の基盤となっていた.さらに【地域のつながりを広げる】実践は,【個の力を引き出し輝かす】と双方向に作用している関係性がみられた.そして【地域のつながりを広げる】実践が地域づくりの主軸となり,【個の力を引き出し輝かす】実践と【安心して素の自分でいられる空間を共につくる】実践の作用を受けながら醸成し,【住民が自らの願いをかなえる過程を見守る】過程を経て,地域の健康を育んでいた.
地域づくりを推進する訪問看護師の実践の各カテゴリの関連性
本研究は,訪問看護師を推進する地域づくりの実践が,「個」の視点と,制度やシステムに依らない柔軟な創造性を基盤とし,地域のつながりの拡大と,住民主体の取り組みを見守ることを主軸とした構造であることを初めて示した.
まず,地域づくりを推進する訪問看護師の実践の基盤は,全てのカテゴリと関連した「個」の視点と,制度やシステムに依らない柔軟な創造性であることが明らかになった.地域づくりを推進する訪問看護師は,訪問看護活動の特色で基本となる【個の看護にとことんこだわる】中で,地域づくりの視点を持ち活動していた.秋山(2017)によると,地域づくりにおいて,一人ひとりに寄り添うことがポイントであるとしている.そして,相談支援の場に来る人は患者でなく,何かしらの「強み」を持った一人の住民として認識すべきであるとし,自分らしさのエンパワメントが重要,としている.同様に訪問看護活動の特色である【広く柔軟な発想のもと,自分たちのペースで歩む】実践が基盤となり,柔軟に住民の望みに合わせた地域づくりを可能としていた.これは山田(2015)が,「看護専門職とは『人々や地域への信頼を基に,個人の価値観,ペース,心身の状況に合わせて自らの役割を柔軟に変化させ,支え続けていく存在である.』」と示した看護職のあり方と一致する.これにより,制度やシステムの狭間にあるケースの対応や,即座の判断・行動が可能となっていた.
次に,地域づくりを推進する訪問看護師の実践は,【安心して素の自分でいられる空間を共につくる】実践と【個の力を引き出し輝かす】実践の作用を受けながら,【地域のつながりを広げる】実践を主軸としていることが明らかとなった.地域のつながりを広げる実践において,まず【安心して素の自分でいられる空間を共につくる】実践との関連は,安心できる場所や時間を共有する中で徐々に関係性が築かれ,仲間ができ,共鳴する人に出会い,人を支え支えられる活動へと変質し,つながりのコミュニティが形成される(佐藤ら,2011)と説明できる.次に【個の力を引き出し輝かす】実践との関連は,ネットワークにより,社会的参加と連帯が生じ,関与する機会を通じて意義のある社会的役割を明確にし,強化することができる(Berkman, 2007/2018)としている.他,【安心して素の自分でいられる空間を共につくる】は,【個の力を引き出し輝かす】にも作用していた.これは,Maslow(1962/1971)の,安全の欲求の充足によって承認(尊重)の欲求へ導かれるのと同様と解釈できる.
最終的に,訪問看護師が【地域のつながりを広げる】実践を主軸として醸成させることで,【住民が自らの願いを叶える過程を見守る】へと導いていた.また【住民が自らの願いを叶える過程を見守る】実践への発展にも,【安心して素の自分でいられる空間を共につくる】実践と【個の力を引き出し輝かす】実践の作用が必要であることも明らかとなった.過去の報告でも,住民同士の「信頼・尊重・対等な関係性」の構築が,協働する地域住民の自主性(主体性)を引き出すとしている(川崎,2018).訪問看護師が行う暮らしの保健室の活動実態報告をみると,住民は健康相談だけでなく住民同士のつながり支援を期待しており(福井ら,2013),こうした住民同士のつながりの強化は,自らの希望をかなえる機会や選択肢を広げ,自分らしい生活のための「手段」となるとしている(青木,2017).訪問看護師が行う地域のつながり拡大は,住民への社会参加の促進や安心できる場づくりの支援を行うことで醸成され,住民主体の活動へと発展し,その結果,地域の健康力向上に影響を与えることが示唆された.
本研究参加者は,訪問看護の礎を築き,訪問看護師による地域づくりの創成期から活躍する訪問看護師であった.豊富な経験と成果に基づく語りであり,結果の信頼性は高いと言える.研究の限界として,本研究結果はマネジメント能力に長けている訪問看護師の結果であり,今後は対象者条件を拡大し結果の一般化を図る必要がある.また,本研究は訪問看護師による地域づくりのみを焦点化しており,多職種連携による地域づくりを行う訪問看護師の専門性も含めた検討が今後必要である.
地域づくりの先駆者である訪問看護師は,地域づくりを行う際,「個」の視点と,制度やシステムにとらわれず柔軟な創造性を基盤に,住民同士をつなぎ「自助」「互助」の醸成を支援することで地域づくりを推進していたことが明らかになった.本研究の結果は,これから地域づくりを開始しようとする訪問看護師に対する教育的指針となると考える.本研究結果は,地域包括ケアの充実を図る上での訪問看護実践の在り方や人材育成における貴重な基礎資料となる.
付記:本論文は,日本赤十字看護大学大学院看護学研究科修士論文の一部である.
謝辞:本研究にご協力いただきました訪問看護師の皆様に心より御礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反はない.
著者資格:ANは研究の着想およびデザイン,データの入手,分析,解釈,原稿作成までの研究プロセス全体の実施;RTは,解釈・考察,原稿作成とレビュー,研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.