Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Perception of Recurrent Risk among Elderly Patients with Minor Ischemic Strokes
Megumi ToriyaMasumi HasegawaTomoko Aohda
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2020 Volume 40 Pages 14-22

Details
Abstract

目的:高齢軽症脳梗塞患者の体験に基づいた再発に関するリスク認知を記述する.

方法:65~88歳の軽症脳梗塞患者18名を対象に半構造化面接を行い,脳梗塞の再発リスクや疾患,健康管理に関する捉えについて質的記述的に分析した.

結果:高齢軽症脳梗塞患者の再発に関するリスク認知には,【再発への漠然とした気がかりがある】【再発に対して何に気を付ければよいかわからない】【脳梗塞になることを気にしても仕方がない】と深刻な再発の危機感を持っていないことが語られた.また,【自分の脳梗塞は軽くて回復している】【発症前から健康管理ができていた】という自身の疾患や健康管理の評価から再発を漠然と捉えていることが明らかになった.

結論:高齢軽症脳梗塞患者は再発に対する重大性や脆弱性を認識していず,再発予防への動機づけが不十分である.したがって看護師は患者の主観的な再発に関するリスク認知を把握し,個人の理解に応じた支援を行う必要性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study aims to describe the perceptions of recurrent risk based on the experience of elderly patients with minor ischemic strokes.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 18 patients with minor ischemic strokes, aged between 65 and 88, and the interview data about their thoughts of recurrent risk, disease, and health management were qualitatively and descriptively analyzed.

Results: Narratives of the elderly patients with minor ischemic strokes showed that they did not seriously perceive risks of recurrence, stating that [I cannot clearly imagine what the recurrence is like], [I do not know what to do to prevent recurrence], and [It is no use worrying excessively about recurrences]. It was also shown that they thought indefinitely about recurrences based on their evaluation of the own paroxysm of disease and their health management, stating that [My stroke was minor and I am recovering], and [Before the stroke occurred, I have been able to manage my health].

Conclusion: Elderly patients with minor ischemic strokes do not perceive the significance of and vulnerability to recurrence, and are insufficiently motivated to prevent the recurrence. These findings suggest that nurses need to understand the subjective patient perceptions of the recurrence risk, and attempt to provide support as appears necessary based on the understanding presented by individual patients.

Ⅰ. 緒言

脳卒中による死亡率は低下しているが(厚生労働省,2017),高齢者人口の増加や生活習慣病の影響から患者数は増加している(峰松,2019).脳卒中のなかでも脳出血は減少傾向にあり,脳梗塞や一過性脳虚血発作(Transit Ischemic Attack: TIA)の患者数が増えている(日本脳卒中データバンク,2018荒木・小林,2015).脳梗塞やTIAは発症のピークが70歳代以降にあり(長田・鈴木,2013加藤・棚橋,2015),高齢者の脳梗塞は今後も増加すると予測される.

日本における脳梗塞の再発率は1年間で3.8%(Suzuki et al., 2012),10年間では49.7%と報告されている(Hata et al., 2005).また,TIAの1年間の脳卒中再発率は8%とも言われている(Uehara et al., 2017).脳卒中の再発率は年齢とともに高くなり,70歳代では脳卒中発症全体の23.6%が再発脳卒中である(長田・鈴木,2013).つまり,脳卒中の再発リスクは発症早期から長期間にわたって継続し,高齢者の再発率が高いと言える.一方で,脳梗塞は軽症化しており(Kimura et al., 2004),日常生活に影響する後遺症がみられない場合も多いが,軽症例も再発により重症化する危険性がある.

脳卒中患者,特に軽症者の再発予防に関する健康行動は,再発の危機感や自己管理意識の低さによって中断されると報告されている(佐藤ら,2013).この研究では再発の危機感は,発症の鮮明な記憶や重症化への恐怖心などが含まれると述べられている.リスク認知とは望ましくない事象とその事象が生じる確率の主観的な判断であり(上市,2012),再発の危機感は脳卒中の再発という望ましくない出来事に関するリスク認知と言える.リスク認知の特徴として客観的なリスクと主観的なリスク認知にはゆがみが生じることが多いこと(木下,2006),リスク認知は経験や感情の影響を受けること(中谷内,2012)が指摘されている.したがって,患者の再発に関するリスク認知を捉えるには患者の語りから明らかにする必要がある.

高齢軽症脳卒中患者は,軽症だったことへの安堵を感じる一方で,漠然とした再発への心配があり,健康管理についてもあいまいな認識を持つことが報告されている(鳥谷ら,2017).健康行動は,自分は病気にかかりやすく,病気になった場合は重大な結果を引き起こすと認識しているかどうかに影響され,健康行動を実施した場合の利益と負担を比較し,自分にとって利益があると感じた健康行動を実施する(福田,2019)と言われている.したがって,漠然とした再発への心配といった認識では健康行動の実施にはつながりにくいと考える.

これまで,脳卒中患者への再発予防の介入研究では,健康行動を促す動機づけとして疾患や健康管理に関する知識提供を行ったり,健康行動の利益を感じることができるよう生活習慣や運動のセルフモニタリングを促進するプログラムが実施されてきた(Kim et al., 2013Wolfe et al., 2010).しかし,これらの介入研究において再発率低減の効果は確認されていず,喫煙や服薬遵守などの一部の健康行動や,健康への動機づけの改善などの部分的な効果にとどまっている.高齢軽症脳梗塞患者の再発予防に対する健康行動を促すためには,患者が再発に関するリスクや,健康行動の利益や負担をどのように捉えているのか検討する必要がある.

本研究では,脳卒中の中でも高齢者に多い脳梗塞患者を対象とし,高齢軽症脳梗塞患者の体験に基づいた再発に関するリスク認知を記述することを目的とする.看護師が患者の再発に関するリスク認知を知ることは,患者に適した再発予防支援を行うために重要な情報となり,再発予防支援方法の検討に役立つと考える.

Ⅱ. 用語の定義

「再発に関するリスク認知」は,脳梗塞の再発という望ましくない出来事および再発がおこる確率に対する主観的な判断とし,脳梗塞の発症やその健康管理に対する評価を含むものとする.高齢軽症脳梗塞患者の再発や健康に関する認識はあいまいであることが予測されるが,発症や健康管理の評価も含めてリスク認知を定義することにより,主観的なリスク認知を明らかにすることができると考える.

「脳梗塞」とは,脳卒中データバンクで虚血性脳卒中として分類されているアテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞,心原性脳塞栓症などの脳梗塞およびTIAとする(山口・小林,2015).

「軽症脳梗塞」は,脳梗塞後遺症としての障害の程度が軽く,病室内の歩行,食事,身だしなみの維持,トイレなど,自分の身の回りのことは,自立して行うことができ,介助を必要としない状態とする.なお,杖や歩行器の使用の有無は問わない.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

研究デザインは,質的記述的研究デザインとした.質的記述的デザインはある出来事について,出来事が起きている日常の中で,対象者にとっての事実の見方を理解しようとする方法である(北・谷津,2009).本研究は,高齢軽症脳梗塞患者の捉える再発に関するリスク認知について,患者の語る言葉や出来事から離れずに明らかにすることに意味があると考えた.

2. 研究参加者

研究参加者の選定基準は,①65歳以上,②脳梗塞(心原性脳塞栓症,アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞)またはTIAと診断された者とし,初発および再発は問わなかった.③入院後48~72時間の時点で,病室内の歩行,食事,身だしなみの維持,トイレなどには介助を必要としない状態である者とした.失語症などにより会話によるコミュニケーションが困難な者,認知機能障害のある者は除外した.これらの基準に合致する対象者の選定を研究協力施設の看護師に依頼した.

研究協力施設は,A市内の脳神経外科を標榜し,脳卒中急性期治療を実施している2施設である.当該施設では,入院中に医師による病状と今後の治療方針に関する説明,必要に応じて管理栄養士による栄養指導や薬剤師による服薬指導,リハビリテーション担当者による運動療法の指導などが実施されている.看護師による患者教育として,1施設は病院共通のパンフレットを使用し退院時指導を実施している.パンフレットの内容は脳梗塞の種類や原因,薬の服用,血圧管理,禁煙,水分摂取,飲酒制限,食事管理などの日常生活上の注意などである.もう1施設は共通のパンフレットは使用していず,看護師が患者に日常生活の注意を個別に指導している.どちらの施設も管理栄養士や理学療法士などによる個別指導は,必要に応じて実施されている.退院後の外来受診時は,2施設とも看護師による体調変化の有無などの問診後,医師による診察が行われている.

3. データ収集方法

データ収集方法は半構造化面接とした.インタビューの時期は入院から1週間以内(以下,入院中)と,退院後の初回外来受診時(以下,退院後)の2回実施した.入院中は,研究参加者の発症の記憶が鮮明な時期の再発に関するリスク認知を捉えるためであり,退院後は自身で健康管理を実施し,再発や健康に関しての意識の高い時期と予測され,再発の捉えや評価を確認するのに適切と考えた.入院中のインタビューガイドの内容は,発症時の症状や状況,診断や治療の受け止め,再発リスクの捉え,退院後の健康管理に関する考えについて尋ねた.退院後のインタビューガイドの内容は,退院後の生活や健康状況の受け止め,再発リスクの捉え,退院後の再発予防の実行状況などについて尋ねた.インタビューは病棟や外来の面談室などプライバシーが確保できる場所で行い,ICレコーダーに録音した.

研究参加者の年齢,性別などは研究参加者に確認し,既往歴は看護師に確認した.研究参加者の自立度については,病棟看護師に日本語版modified Rankin Scale(以下,mRS)(Shinohara et al., 2006)の評価を依頼した.mRSは脳卒中患者の機能を発症後の介助の程度で7段階に分類し,0が全く症候がない状態とし,5が重度の障害,6が死亡で評価される.再発リスクはFukuoka Stroke Risk Score for Japanese(以下,FSRJ)(Kamouchi et al., 2012)を用いて評価した.FSRJは日本で開発され,心原性脳梗塞と非心原性脳梗塞どちらも含んだ再発リスクスコアであり,年齢,高血圧,糖尿病,喫煙習慣,心臓細動,心疾患の既往,慢性腎臓病,非ラクナ梗塞,TIAないしは脳梗塞の既往の有無から算出する.3点以下は低リスク,4~5点が中リスク,6点以上は高リスクと評価され,Kaplan-Meier分析結果により3群の有意差が確認されている.FSRJの点数は既往歴と年齢から研究者が算出した.これらは入院後48~72時間の時点での情報をデータとした.データ収集期間は2018年1月~6月であった.

4. 分析方法

インタビューの録音データから逐語録を作成した.脳梗塞の発症や再発に関する研究参加者の受け止めや,健康管理に関する考えに着目し,意味ある文脈のまとまりごとにコード化した.入院中と退院後のコードを比較し,再発のリスク認知に関して変化や矛盾がないことを確認した.これらのコードの共通点と相違点に着目し,コードの抽象度を上げ,サブカテゴリー化,カテゴリー化を行った.カテゴリー,サブカテゴリー,コード間の整合性,妥当性について研究者間で繰り返し検討し,分析の真実性を確保した.

Ⅳ. 倫理的配慮

研究協力施設の施設責任者および看護責任者に対して,本研究の目的,方法,倫理的配慮について説明を行い,承諾を得た.次に,研究協力施設の病棟看護師に研究参加者の条件に合致する患者に対して,研究者が訪問することの諾否の確認を依頼した.承諾を得られた研究参加者に対して,研究者が研究の目的,方法,協力の任意性と撤回の自由,個人情報の保護,予期される危険性と対応,研究成果の公表,費用負担などの倫理的配慮等について説明し,同意書を交わした.インタビューの日時は研究参加者の希望に沿って設定し,治療への支障や研究参加者への負担が無いように配慮した.なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認(承認番号29-2-59)を得て実施した.

Ⅴ. 結果

1. 研究参加者の概要(表1

研究参加者は18名で,性別は男性9名,女性9名,平均年齢74.0歳であった.病名はラクナ梗塞7名,アテローム血栓性脳梗塞5名,心原性脳塞栓症5名,branch atheromatous disease(BAD)1名であり,TIAはいなかった.研究参加者の日常生活動作は,mRSにおいて0(全く症候がない)~2(発症以前の活動がすべて行えるわけではないが,自分の身の回りのことは介助なしに行える)のいずれかであった.FSRJによる脳梗塞の再発リスク評価は低リスク12名,中リスク3名,高リスク3名で,そのうち再発者は中リスク1名,高リスク3名であった.既往歴は,高血圧,脂質異常症,心房細動などであった.喫煙習慣があったのは4名であった.入院していた病院と退院後初回外来受診の病院が異なったため2回目のインタビューを実施できなかった2名を含む,18名全ての逐語録を分析対象とした.一人当たりの平均面接時間は44分(19~117分)であった.

表1  研究参加者の概要
No 性別 年齢 疾患名 mRSb FSRJc 脳梗塞初発/再発 既往歴
A 男性 70代前半 ラクナ梗塞 1 5 再発 高血圧
B 男性 70代前半 ラクナ梗塞 1 6 再発 高血圧  糖尿病
C 女性 70代後半 ラクナ梗塞 1 1
D 男性 70代後半 ラクナ梗塞 1 7 再発 高血圧  心房細動  心筋梗塞
E 女性 70代後半 ラクナ梗塞 1 2 心筋梗塞
F 女性 80代後半 ラクナ梗塞 1 1
G 男性 80代後半 ラクナ梗塞 2 3 高血圧  糖尿病
H 女性 60代後半 アテローム血栓性脳梗塞 2 1
I 男性 70代前半 アテローム血栓性脳梗塞 1 2
G 女性 70代前半 アテローム血栓性脳梗塞 2 1 脂質異常症
K 女性 70代後半 アテローム血栓性脳梗塞 1 2 脳動脈狭窄症  脂質異常症
L 女性 80代前半 アテローム血栓性脳梗塞 1 5 糖尿病  心房細動  心筋梗塞
M 男性 60代後半 心原性脳塞栓症 2 7 再発 高血圧  糖尿病  心筋梗塞
N 男性 60代後半 心原性脳塞栓症 0 1 脂質異常症
O 男性 70代前半 心原性脳塞栓症 1 1
P 女性 80代前半 心原性脳塞栓症 1 2 脂質異常症
Q 男性 80代前半 心原性脳塞栓症 1 4 高血圧  糖尿病  脂質異常症
R 女性 60代後半 BADa 2 3 高血圧

a BAD:branch atheromatous disease

b mRS:日本語版modified Rankin Scale

c FSRJ(Fukuoka Stroke Risk Score for Japanese)3以下:低リスク,4–5:中リスク,6以上:高リスク

2. 高齢軽症脳梗患者の再発に関するリスク認知

高齢軽症脳梗塞患者の再発に関するリスク認知として148のコードから,12のサブカテゴリーが抽出され,【再発への漠然とした気がかりがある】【再発に対して何に気を付ければよいかわからない】【脳梗塞になることを気にしても仕方がない】【自分の脳梗塞は軽くて回復している】【発症前から健康管理ができていた】の5つのカテゴリーが生成された(表2).以下,カテゴリーを【 】,サブカテゴリー〈 〉,コードを「 」で示す.また,前後の文脈で理解しにくいコードには( )内に意味内容を変えないよう言葉を補った.

表2  高齢軽症脳卒中患者の再発に関するリスク認知
カテゴリー サブカテゴリー コード(一部抜粋) 研究
参加者
再発への漠然とした気がかりがある 再発することが気になる 脳梗塞がいつ再発するのかわからないからそれが一番心配. A
(MRI)をみたらそんなに大きくないし,他にできないようにと思う E
(医師から)繰り返すことがあると言われて嫌なことを言われたなあと思う. F
一度で済まないようなので心配している. K
(再発は)いつ来るかわからない,いかなる時も気にしている. O
今度(血管が)詰まったら脳だと脳梗塞,心臓だと心筋梗塞になるから少し怖いが仕方ない. P
再発して身体が不自由になるのが心配* 半身不随の爆弾を抱えているようで怯える. F
寝たきりはちょっと嫌だなと思う. K
(脳梗塞は)気にしないようにしているが,身体が動かなくなることは気になる. N
再発したらどうなるのかよくわからない* 2回目が起きたときは,命のない人もいるが,自分がどうなるかわからない. I
(再発は)あるかもしれないし,どうなるかわからない. P
再発がどういう症状ででてくるのか経験がないからわからない. Q
再発に対して何に気を付ければよいかわからない 脳梗塞のはっきりとした原因がわからない 薬も飲むし,血圧も測っているので,何が原因で発症するかわからない. A
自分の兄弟は元気なのに,なんで自分だけこうなったのだろうか. E
自分は脳梗塞の本当の原因がわからないので知りたい. I
食事も.薬も言われたことは守っていたので,どうしようっていう感じ. K
どのように気を付ければよいのかわからない 水を飲めばいいのか,何をすればいいのかわからない. A
食事やたばこ,お酒に気を付けているが,あと何をすればよいのかわからない H
頭がスキッとしないが,病院へ行った方がいいのか待ってもいいのか考えてしまう. K
脳梗塞のなりかけがあるが,どう気をつけるかわからない. N
脳梗塞になることを気にしても仕方がない 脳梗塞は気にしすぎても良くない* のんきなもんだから気がかりや不安はない. C
具合が悪くなると動けなくなるはずだから,動けるうちはたいしたことないと思う. E
脳梗塞になることについてくよくよしても仕方ないと思う. K
血圧を測ると気になるだけなので,測るのをやめた. N
歳なので脳梗塞になるのも仕方がない 歳だし,脳梗塞ぐらいは仕方ない. D
脳梗塞はまさかと思ったけど,この歳だからなるものと開き直った. L
単純に生活習慣とか食生活とは言い切れない,年齢からくるものもあると思う. O
(健康については)こればかりは寿命なので,あんまり考えていない. Q
自分の脳梗塞は軽くて回復している 自分の脳梗塞は大したことはない 外で歩きづらくなって,立てなくて救急車を呼ぶといわれたが,家に帰ろうとした. B
病院に行かなくても寝ていれば治ると思った. C
手が開かなくなったが,手以外はなんでもない. D
(画像を)見せてもらったけど,そんなに大きくないし,右手も何でもない. E
いま,しゃべれるっていうことは脳梗塞にはなっていないぐらいに思っている. F
(退院後は)よく眠れるし,生活で不自由や困ることはない. H
入院前と動きは変わらないので,何をしに入院しているかわからない. I
自分の脳梗塞は他の人より軽い 足の方が悪いが,他の人よりは調子がいい. B
入院している人はほとんど半身麻痺だが,自分はしゃべる方(の障害)だけだ. G
集中治療室で他の患者と一緒だったが,五体満足の自分のいる所ではないと思った. I
自分は他の症状の重い患者と違うので,リハビリ室に行かなくても大丈夫と思う. Q
手足の動きはよくなったので,リハビリ室では軽い方だ. R
自分の脳梗塞は回復している 立てなくて心配だったが,入院した翌日には立ってトイレに行けた A
理学療法士に言われて歩くようにしたら正座ができるようになってびっくりした. M
自分では少しずつ回復していると思うからあとは時間の問題. N
自分でも症状はよくなっていると思うし,医師からの言われた. Q
発症前から健康管理ができていた 医療者から健康に対して良い評価をもらっていた* 掛かりつけ医から血圧も良好,何も言うことがないと言われていた. F
(掛かりつけ医では)血液検査では基準値が全部守られていた. K
血圧は健康診断に引っかからなかった. N
脳ドックでも大丈夫と言われた. R
健康でいるための対処ができていた たばこは前回の脳梗塞後に減らしたから(自分は)大したもんだ. B
食事は野菜をすごく食べるようにしている. C
お酒は飲まず,薄味にして気を付けていた. H
たばこもお酒もどっちもやっていたが,30歳代の前半にたばこをスパッとやめた. I
心房細動の薬を飲んでいるから大丈夫と思っていた. L
歩くことは健康に良いと思って歩いていた. R

* 初発者の語りのみから抽出されたサブカテゴリー

1) 再発への漠然とした気がかりがある

【再発への漠然とした気がかりがある】は,〈再発することが気になる〉〈再発して身体が不自由になるのが心配〉〈再発したらどうなるのかよくわからない〉が含まれた.

〈再発することが気になる〉は,「一度で済まないようなので心配している」「(医師から)繰り返すことがあると言われて嫌なことを言われたなあと思う」など,再発の可能性を認識しているが,再発を恐れているとまでは言えなかった.〈再発して身体が不自由になるのが心配〉は,「半身不随の爆弾を抱えているようで怯える」「寝たきりはちょっと嫌だなと思う」など,再発によって身体が不自由になることへの危惧が語られた.このサブカテゴリーは初発者のみで語られた.〈再発したらどうなるのかよくわからない〉は,「(再発は)あるかもしれないし,どうなるかわからない」「再発がどういう症状ででてくるのか,経験がないからわからない」など,再発後の変化について想像しにくいことが語られた.このサブカテゴリーは初発者のみで語られた.

2) 再発に対して何に気を付ければよいかわからない

【再発に対して何に気を付ければよいかわからない】は,〈脳梗塞のはっきりとした原因がわからない〉〈どのように気を付ければよいのかわからない〉が含まれた.

〈脳梗塞のはっきりとした原因がわからない〉は,「自分は脳梗塞の本当の原因がわからないので知りたい」「薬も飲むし,血圧も測っているので,何が原因で発症するかわからない」など,脳梗塞になった特定の原因を知りたいが,答えが得られていないことが語られた.〈どのように気を付ければよいのかわからない〉は,「食事やたばこ,お酒に気を付けているが,あと何をすればよいのかわからない」「脳梗塞のなりかけがあるが,どう気をつけるかわからない」など具体的な対処方法がわからないことが語られた.

3) 脳梗塞になることを気にしても仕方がない

【脳梗塞になることを気にしても仕方がない】は,〈脳梗塞は気にしすぎても良くない〉〈歳なので脳梗塞になるのも仕方がない〉が含まれた.

〈脳梗塞は気にしすぎても良くない〉は,「脳梗塞になることについてくよくよしても仕方ないと思う」「具合が悪くなると動けなくなるはずだから,動けるうちはたいしたことないと思う」など,脳梗塞の再発を心配しすぎないようにしていることが語られた.このサブカテゴリーは初発者のみで語られた.〈歳なので脳梗塞になるのも仕方がない〉は,「脳梗塞はまさかと思ったけど,この歳だからなるものと開き直った」「単純に生活習慣とか食生活とは言い切れない,年齢からくるものもあると思う」など,脳梗塞の要因が生活習慣だけでなく,年齢が関与していると捉えていることが語られた.

4) 自分の脳梗塞は軽くて回復している

【自分の脳梗塞は軽くて回復している】は,〈自分の脳梗塞は大したことはない〉〈自分の脳梗塞は他の人より軽い〉〈自分の脳梗塞は回復している〉が含まれた.

〈自分の脳梗塞は大したことはない〉は,「入院前と動きは変わらないので,何をしに入院しているかわからない」「(退院後は)よく眠れるし,生活で不自由や困ることはない」など入院前の自分自身と比較し,脳梗塞による生活への支障がないことが語られた.一方で,「手が開(ひら)かなくなったが,手以外はなんでもない」「外で歩きづらくなって,立てなくて救急車を呼ぶといわれたが,家に帰ろうとした」など,脳梗塞の症状が表れていても脳梗塞とは思わず,大したことはないと感じたと語る者も含まれた.〈自分の脳梗塞は他の人より軽い〉は,「集中治療室で他の患者と一緒だったが,五体満足の自分のいる所ではないと思った」「入院している人はほとんど半身麻痺だが,自分はしゃべる方(の障害)だけだ」「自分は他の症状の重い患者と違うので,リハビリ室に行かなくても大丈夫と思う」など,自分より症状の重い患者と比較し,自分が軽症であると捉えていることが語られた.〈自分の脳梗塞は回復している〉は,「自分では少しずつ回復していると思うからあとは時間の問題」「立てなくて心配だったが,入院した翌日には立ってトイレに行けた」など,発症時の自分と比較し,脳梗塞による症状の回復を感じていることが語られた

5) 発症前から健康管理ができていた

【発症前から健康管理ができていた】は,〈医療者から健康に対して良い評価をもらっていた〉〈健康でいるための対処ができていた〉が含まれた.

〈医療者から健康に対して良い評価をもらっていた〉は,「掛かりつけ医から血圧も良好,何も言うことがないと言われていた」「脳ドックでも大丈夫と言われた」など医療者から,良い健康状態であると評価されていたと語られた.このサブカテゴリーは初発者のみで語られた.〈健康でいるための対処ができていた〉は,「お酒は飲まず,薄味にして気を付けていた」「30歳代の前半にたばこをスパッとやめた」「歩くことは健康に良いと思って歩いていた」など,発症前から実施していた健康管理への自負が語られた.

Ⅵ. 考察

1. 高齢軽症脳梗塞患者の再発に関するリスク認知

これまで脳卒中患者の主観的体験に関する研究は,麻痺など障害体験の記述(Doolittle, 1992百田・西亀,2002)が中心で,障害の受け止めや回復の体験が語られ,再発に関するリスク認知は注目されていなかった.脳梗塞による障害が回復した患者を対象とした研究では,身体機能が奪われる鮮明な記憶や重症化する恐怖心など再発の危機感があること,これが再発予防の動機づけに影響していることが報告されている(佐藤ら,2013).しかし,これらの先行研究と異なり,本研究では高齢軽症脳梗塞患者の再発に関するリスク認知の特徴として,再発に対して気がかりを感じているが,深刻な危機感を持っていないことを明らかにしたと言える.また,本研究では再発者も初発者と同様に漠然とした疾患の受け止めであることが見いだされた.したがって,軽症脳梗塞者では再発の危機感が明確ではないため,再発予防の動機づけとはなりにくく,障害の重い患者とは異なる動機づけの支援の必要性が示唆された.

また,発症後,再発せずに長期間経過した高齢軽症脳卒中患者は,軽症であったことへの安堵や,余計な心配をしないなどの楽観的な健康認識であることが示されている(鳥谷ら,2017).本研究において,入院中や退院後初回外来など再発への関心が高いと考えられる時期においても再発の脅威は語られず,他者と比較して自分の病状は軽いと評価していることが明らかになった.

本研究では再発や疾患に対し漠然とした捉えが語られた.これは,再発に対する苦痛を軽減するための情動中心の対処と考えることもできる.情動中心の対処はストレスに対して出来事から注意をそらしたり,良い面だけをみようとするなどの方法をとることがある(Lazarus & Folkman, 1984/1991).この捉えが再発予防への対処として機能するのか,再発に対する防衛機制として捉えるのか,どちらの側面としても捉えることができる.

今回は,軽症脳梗塞患者のなかでも高齢者を対象としており,〈歳なので脳梗塞になるのも仕方がない〉のサブカテゴリーがみられた.同じく高齢者を対象とした慢性閉塞性肺疾患患者の息苦しさの経験に関する研究では(田中,2008),呼吸困難に対し死の恐怖を感じても,息苦しさが緩和されると,自分の症状は軽いと感じ,息切れや疲れは老いの影響であり当たり前の日常と解釈すること,息切れを病気として自覚できないことを指摘している.このように高齢脳梗塞患者においても疾患を加齢によるものと捉え,再発リスクや健康状態を客観的に自覚しにくいことが示唆された.

2. 高齢軽症脳梗塞患者の再発予防支援への示唆

看護師は,脳卒中患者に対して疾患や再発リスクを理解するための知識提供や,禁煙,食事療法,薬物療法などの健康行動についての指導の重要性を認識しており,入院中の患者に口頭による説明やパンフレットなどを用いて疾患の知識提供や食事,服薬など健康行動の指導を実施している(小林,2012).本研究対象施設においても,入院中に医師による病状説明,看護師や専門職による栄養指導,服薬指導,パンフレットによる疾患の知識提供などが実施されている.これらの介入は,脳梗塞の再発予防に対する健康行動の動機づけのための支援であると考えられるが,これらの支援が実施された後も,再発予防として何に気を付けたらよいかわからないと迷う様子が語られた.患者は【発症前から健康管理ができていた】と感じているにもかかわらず,脳梗塞を発症したことで健康管理への自負が揺らいでいる可能性がある.したがって,検査結果など客観的な指標を用いて継続すべき健康管理行動の支持や強化を行い,健康管理への関心を低下させないかかわりが必要である.

健康管理の行動化には,疾患に対するかかりやすさなどの脆弱性の認知や疾患にかかった場合に重い結果をひき起こす重大性の認知が関与することが指摘されている(福田,2019).しかし,本研究結果では軽症脳梗塞患者は発症後も,脳梗塞の脆弱性や重大性に関する明確な語りはなく,漠然とした捉えであった.したがって,軽症脳梗塞患者への再発予防の支援では,患者の疾患や再発に関するリスク認知を把握し,患者の理解に沿った患者教育が必要と考える.

これまで脳卒中の再発予防の介入研究ではセルフモニタリングが実施されてきたが(Kim et al., 2013Wolfe et al., 2010),これらは健康行動の利益や有効性の認識を促し,動機づけを高めようとする介入である.しかし,軽症脳梗塞患者の場合は,発症前からの健康管理への自負があり,健康行動の利益の提示だけでは,動機づけとして十分ではない.食事や服薬,禁煙など患者のこれまで行っていた,また実施しようとする健康管理の内容や理由を丁寧に確認し,患者の生活に合わせた具体的なフィードバックを行うことが必要である.

3. 研究の限界と今後の課題

本研究は,軽症脳梗塞患者として脳梗塞とTIAを研究対象としたが,最終的にTIA患者が含まれなかった.TIA患者は1年以内に脳梗塞を発症するリスクが高いことが指摘されており(Uehara et al., 2017),TIA患者を含めた軽症者の再発に関するリスク認知の一般化には限界がある.

また,初発者と再発者ではサブカテゴリーにいくつかの違いはあったものの,両者の再発に関するリスク認知について明確な違いを見出すことはできなかった.参加者は再発者も含め,FSRJによる再発リスクの低い者が多く,再発に関するリスク認知に影響した可能性も考えられる.今後は軽症者の中でも再発リスクレベルの違いも踏まえた研究も必要と考える.

本研究は軽症脳梗塞患者のなかでも高齢者を対象としており,壮年期患者の再発に関するリスク認知については言及していない.脳梗塞の好発年齢を考えると高齢者を対象にすることは妥当だが,生活習慣病の影響もあり壮年期の患者への支援も重要な課題と考える.今後は壮年期へ対象者を拡大し,年齢を問わず,軽症脳梗塞患者の再発に関するリスク認知の特徴を明らかにすることも必要である.また,本研究の再発に関するリスク認知は発症後比較的短期間の認知であり,漠然としたリスク認知がどのように推移するのかについては今後検討する必要がある.

Ⅶ. 結論

1.高齢軽症脳梗塞患者の再発に関するリスク認知は,【再発への漠然とした気がかりがある】【再発に対して何に気を付ければよいかわからない】【脳梗塞になることを気にしても仕方がない】と再発に対する重大性や脆弱性を明確には感じていないこと,【自分の脳梗塞は軽くて回復している】【発症前から健康管理ができていた】と自身の病気や健康管理の評価から再発を漠然と捉えていることが明らかになった.

2.高齢軽症脳梗塞患者の再発予防支援では,患者の主観的な疾患や再発の捉えを把握し,個人の理解に応じた支援を実施する必要性が示唆された.

付記:本研究の一部は第38回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究にご協力いただきました患者様に心より感謝申し上げます.また,研究協力施設の看護部の皆様には研究に対するご理解とご協力に深く感謝します.本研究はJSPS科研費15K11759の助成を受け実施した研究課題の一部である.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MTは研究の着想,研究デザイン,データ収集,分析解釈,論文執筆のすべてに貢献:MH とTAと研究デザイン,分析解釈,論文執筆のすべてに貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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