Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Experience of Relatives of Patients with Huntington’s Disease
Kayo NomasaYoshie Yokoyama
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2020 Volume 40 Pages 23-31

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Abstract

目的:本研究は,ハンチントン病患者の血縁者がもつ遺伝に関する体験を明らかにし,看護職の役割を検討するための基礎資料とすることを目的とした.

方法:半構造化面接法を用いてデータ収集し,質的記述的研究にて分析した.

結果:研究参加者は10名,年齢は平均53.6歳(SD = ±28.5)であった.分析の結果,7つのカテゴリーと39のサブカテゴリーを抽出した.研究参加者は,【発症者への違和感】を持ち,【漠然と気づく家系の病気】を感じていた.【発症者の人格の変化による生活への支障】が生じ,【遺伝家系であることに囚われ(る)】,【自分が発症した時を脅え(る)】,【遺伝について伝えることを躊躇(する)】していた.さらに,【発症者自身やその家族が孤立(する)】していた者もいた.

結論:ハンチントン病患者の第一度近親者は,漠然と家系の病気を気づき,遺伝について囚われ,自分が発症することに脅えながら,発症者とともに過ごしていた.

Translated Abstract

Objectives: The objectives of this study were to explore the experience of relatives of patients with Huntington’s disease and to develop a foundation for discussing nursing professional’s roles in the care of patients with this disease.

Methods: Data collected through semi-structured interviews were analyzed by a qualitative descriptive approach.

Results: Participants (mean age = 53.6; SD = ±28.5) were 10 first-degree blood relatives of patients with Huntington’s disease. Results of our analysis generated 7 categories and 39 subcategories describing participants’ experience about their families and the disease. Many appeared to have a “sense of alienation toward affected individuals” and only a “vague awareness of their kin’s disease,” given the existence of family members with similar symptoms. They also often reported they felt “constrained by their hereditary status,” and were “hesitant to tell others about their family history.” In addition, participants who spent time with patients often “imagined themselves contracting the disease,” and reported that “changes in their relative’s personality interferred with their lives.” Also participants felt that “patients and their families stood alone from the communities”.

Conclusion: These first-degree relatives of patients with Huntington’s disease appeared to have complicated feelings toward their own hereditary disease status as well as that of other family members and the affected relative.

Ⅰ. 緒言

ハンチントン病(Huntington’s disease,以下HD)は,常染色体優性遺伝様式をとり,舞踏運動を主体とする不随意運動,精神症状および認知症を主症状とする慢性進行性神経変性疾患である.有病率(厚生省特定疾患受給者証から調査)は,人口10万人あたり0.7人と稀な疾患であり,発症年齢は30~40歳で成人に多く,遅発性疾患とも言われる.現時点では治療法はなく,進行すると日常生活すべてに介助が必要となる(公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター,2017).

これまで,不随意運動から起こる安全安楽に対する看護介入の方法(小牟田ら,2004)や不随意運動に対する音楽療法の有効性(橋本ら,2014)など,生活の質の向上を目的とした研究や精神症状から起こる問題行動への介入方法(山口ら,1994)に関する報告がある.介護者を対象とした研究では,遺伝のリスクや発症の不安,遺伝のリスクがある子どもへ病気や遺伝の説明に苦慮していること,進行する患者の介護に伴う精神的,身体的苦痛や経済的不安があり,不安は多様で複雑であることが指摘されている(Williams et al., 2012Lowit & Teijlingen, 2005).

家族性アミロイドポリニューロパチー(familial amyloidotic polyneuropathy,以下FAP)の発症者や発症前遺伝子診断を受けて生きる人の体験を明らかにした研究では,患者・家族の包括的な遺伝看護を考えるために,さまざまな人の体験を知ることが重要である(柊中ら,2013柊中ら,2014)と指摘している.しかしながら,治療法が確立されていないHDの遺伝のリスクを知りながら生きる人の体験についての報告は全くない.

本研究は,遺伝のリスクを知りながら,地域で生活しているHD患者の血縁者の体験を明らかにし,看護職の役割を検討するための基礎資料とすることを目的とした.

Ⅱ. 方法

1. 研究デザイン

本研究では,遺伝的リスクを知りながら,地域で生活をしているHD患者の第一度近親者が持つ遺伝に関する体験を明らかにするため,半構造化面接法を用い,質的記述的研究による分析を行った.

2. 用語の定義

体験:自分が身をもって経験すること(新村,2013)と定義した.

3. 研究対象者

研究対象者は,A府の難病医療拠点病院であるB医療センターの難病センターで支援をしているA府内に在住のHD患者の第一度近親者で,病気や遺伝について知っており,健康上に問題のない者とした.

A府の難病医療拠点病院であるB医療センターの難病センターの医師あるいは看護師を通じて,研究対象者に研究の協力を依頼した.さらに,同意を得た者に対し,研究者が文書を用いて口頭で説明をし,承諾を得た.

4. データ収集方法

データ収集期間は,2017年2月から8月であった.データ収集は,インタビューガイドに基づいた半構造化面接を用いた.インタビュー内容は,第一度近親者の基本属性,遺伝についてどのように知ったのか,知った内容,知った時の思いや,現在の思い,悩みや相談の有無など,遺伝に関する体験を聞き取った.

インタビューは,プライバシーが保てる自宅もしくは医療機関の一室など,研究参加者が希望した静かに話せる場所で聞き取り,許可を得てICレコーダーに録音した.また,研究参加者は,遺伝についてセンシィティブに捉えている可能性があり,十分に配慮しながら聞き取った.

5. データ分析方法

インタビューにより得た全データを分析の対象とした.個人ごとに逐語録を作成し,データは個人が特定されるような表現は避け,記号化した.逐語録から,遺伝に関する体験内容を抽出し,可能な限り研究参加者の表現を活用しながらデータの意味を読み取り,コード化し,類似したコードをサブカテゴリーとしてまとめた.さらに類似したサブカテゴリーをカテゴリーとしてまとめた.

複数の研究者のスーパーバイズを受け,検討を繰り返すことで,信頼性・妥当性の向上に努めた.

6. 倫理的配慮

研究参加者に対し,研究の目的,方法,意義,研究参加への任意性,協力撤回の自由,結果の公表,倫理的配慮,守秘義務など文書と口頭で説明し,同意を得て実施した.本研究は,大阪市立大学大学院看護学研究科倫理審査委員会(承認番号第28-4-1)とB医療センター倫理委員会(承認番号28-C0304)の承認を得て実施した.

Ⅲ. 結果

1. 研究参加者の概要

研究参加者は10名(男性2名,女性8名)であった.インタビューは,1人につき1回とし,インタビュー時間は,最短36分から最長75分,平均57分(SD = ±30.1)であった.年齢は平均53.6歳(SD = ±28.5),研究参加者の概要を表1に示した.結婚歴がある者は7名,そのうち6名に子どもがおり,3名に孫がいた.研究参加者全員がHDや遺伝について知る前に,発症している(いた)可能性があると感じた者と過ごし,家系内に複数存在していたと語った者は8名であった.

表1  研究参加者の概要
研究
参加者
性別 年齢 病気を知った年齢 遺伝について
知った年齢
診断を受けた者 発症している(いた)
可能性があると感じた者
遺伝カウンセリングの利用
A 女性 50歳前半 18歳ぐらい 20歳代ぐらい 母・叔父2人・いとこ 妹・いとこ
B 女性 60歳前半 55歳 55歳 姉2人・兄 父・叔母・叔父・いとこ
C 男性 40歳後半 32歳ぐらい 32歳ぐらい 兄・いとこ 父・叔父・叔母・父のいとこ
D 女性 70歳前半 69歳 69歳
E 男性 70歳前半 70歳 71歳
F 女性 30歳前半 19~20歳ぐらい 22~23歳ぐらい 母・祖母・祖母の兄弟
G 女性 40歳前半 31歳ぐらい 31歳ぐらい 母・叔父2人 祖母
H 女性 30歳前半 20歳代前半 20歳代前半 祖母
I 女性 60歳前半 55~56歳ぐらい 55~56歳ぐらい 祖母・叔父
J 女性 60歳前半 55歳ぐらい 55歳ぐらい 母・祖母・いとこ

2. インタビュー内容の分析

研究参加者が語った内容から,遺伝に関する体験を抽出し,分析した.分析の結果,7つのカテゴリーと39のサブカテゴリーを抽出した(表2-1表2-2表2-3).以下,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを「 」,コードを〈 〉で示した.

表2-1  遺伝に関する体験
カテゴリー サブカテゴリー コード 研究
参加者
発症者への
違和感
荒い気性 (2番目の)姉が一番(症状)ひどく,若い時からわがままな人,自分の思いを人が反対しても通す人 B
(兄は)喜怒哀楽が少し激くなった C
父は暴言を吐き,母親に当たってた C
祖母は少し怒りやすくよく喧嘩をしていた I
祖母は2階から机とか椅子を放り投げていた I
暴力行為 父は暴力を振るう人だという感じはあった B
兄は暴力振るってどうしようもない人 B
認知力の低下 (A姉は)認知症,アルツハイマーという感じだった B
(兄は)すぐ忘れ,普通の仕事ができなくなり会社の人がおかしいと言い出した C
(父は)ちょっと脳のほうがおかしいと思って,いまでいう若年性の痴呆 C
(祖母は)ただボケてるってという(印象) F
言ったことを忘れる H
アルコール依存 叔父は飲んだくれの悪い人とみんな思っていた A
(父は)アルコール好きだったのでアルコール中毒かと思った C
(叔母は)お酒を飲んでいたので酒好きのアルコール中毒だと思った C
家事に無頓着 ぐうたらで家事をしない,片付けない,何もしない人と思っていた A
(私が)中学生の時(母が作った)お節の蓋を開けたら真っ茶色で全部醤油だけで煮て味付けせず驚いた A
親戚が(家に)来た時(母が)お茶碗にコーラを入れて出し恥ずかしかった A
祖母と比較すると母親は炊事をせず半分甘え,やる気がなかったと思う J
夫婦関係の不和 夫婦喧嘩し,仲が悪かった A
父は暴言を吐き母親に当たってた C
祖母夫婦はよく喧嘩をしていた I
無意識な動き 母は寝ている時足の指がぴくんぴくんって動いていた A
弟やみんなが(息子の)動きが年数が経つごとに激しくなってきたといった D
モゾモゾ動いていた G
お寺さんがお経をあげている時,(座っていた)母は揺れていた H
テレビを見てる時も動いていた H
(祖母は)口モゴモゴを動かしていたので飴を食べているようだった J
お布団に入っている時バタバタ動いてる状態 J
歩行動作の変貌 (小学校低学年の頃,母は)ちょっと酔っ払っているような歩き方だと思った A
(母は)歩く速度がどんどん遅くなり,歩けなくなっていた A
(叔母は)うちの祖母のところにふらふらながらよく来ていた C
スーパーのカートを持って腰がクニャクニャ,揺れてる感じで,頭が揺れず腰が揺れていた E
仕事中の事故や
トラブル
A姉は,通勤中に自転車で車や車よけのU字の柵にぶつかっていた B
(父は)自分自分の好きな仕事をしていたが上手くいかず,辞めてくれと言われた C
(兄は)会社で事務やパソコンが出来ずトラブルがあったみたい C
高いところで落ちる危険性があり,仕事のキャンセルが増えた. D
今までできていた仕事でケガをしてくるようになった E
漠然と気づく
家系の病気
類似した動きをする
家族の存在
動きが変なのは同じだったので同じ病気ではないかと思っていた A
比較的母と1番上の兄は不随意運動が多く,精神症状が少なめで似てた A
法事に行ったら父のいとこも体がおかしいんでそれ(同じ病気)かと思って C
祖母は今の母と同じような動きだと(思った) G
伯父の動きが祖母と似てると思った G
(叔父や祖母を見て)遺伝する病気となんとくはわかっていた G
(母も)多少動いていたので,祖母と一緒の病気だろうと薄々感じていた J
類似した精神症状を
持つ家族の存在
父と兄は暴力をふるっていた B
父と叔母がアルコール中毒だと思っていた C
叔母と兄はちゅうぶと思っていた C
母が(お酒で)酔う度に,自分(母)は祖母と一緒のようになると聞いていた F
表2-2  遺伝に関する体験
カテゴリー サブカテゴリー コード 研究
参加者
発症者の
人格の変化による
生活への支障
発症者の顔色を窺う 兄が腹を立てるような言葉は発しないようにしている B
(不随意運動が)わかるようになったら最悪と言うから,できるだけふらついてるよと言わないようにしてる D
どうなだめて,どう受け止めていくことがいいのかすごく悩む I
発症者と過ごす我慢 母は寝たきりだった A
兄は私の言うことを聞いてくれないから何もできない B
今はもう気にいらないことがあったら暴力振るわれる B
本人が制御できないから(家族が)ばらばらになるというか耐えられなくなる C
母親は我慢をしていたけど本人が制御できないから耐えられなくなる C
だんだん死に近づいていくのか,今はもう寝たきりでしゃべれない C
何回も家族で色んな修羅場があった D
ご飯の時のお茶碗を置く音が大きいけど言わないで黙ってる.暑い暑いって窓開けて,周りは寒いけど合わせてる D
誰にでも迷惑をかける E
保健・医療・
福祉サービス
導入の難しさ
兄は病気を認識していないので病院行こうと言っても,「病気ではないから」と言う B
姉も(病気を認識していないので)自分は病気ではないと思っている B
早めにケアとか入浴サービスとかデイとかを受けていたら良かったけど本人が嫌がってた C
本人が制御できないから母親が我慢して介護していた C
みんなが動きが年数が経つごとに激しくなってきたので病院に行ったほうが良いといった D
あまりにも震えるから友達から心療内科を勧められた D
私や孫たちがうるさく言って病院へお世話になった E
母は訪問看護師さんもヘルパーさん,保健師さんとか,自分が気に入らん人を殴る I
叔母が電話で祖母と一緒の病気だろうから病院連れて行ったほうがいいと言った J
病気からの
行いか否か悩む
最初知らなかったので,兄へご飯をこぼさずちゃんときれいに食べるように怒っていた C
どこからが症状か見極められない D
都合のいい時だけ障害者,難病と言い,他の時はわがままとしかとれず理解できない D
都合のいい自分勝手と思うけど,もうそれを言ってもしょうがない D
病気がそうさせてると思いながら(世話を)しているが本当にそうなのかと思い,腹が立つ時もある I
対応できない苦悩 物を投げたり家で面倒みれなくなったら強制的に施設に入れたほうがいいか,どう対応したらいいか C
やめなさいといってもやめない,制御できない人間をどうしたらいいか C
本人が制御できないことを母親は我慢していたがもう耐えられなくなる C
発症した時どういうふうに対処するのか,その対処がすごく大変だった D
病気で甘えてるという思いが家族の中では抜けず,こういう病気だと理解できなかった D
人それぞれ(症状が)出る場所が違い,対応がわからないと言われる F
私は「ちょっとこうしてみません」とか,対処法を教えてほしいと思った F
具体的に対応方法がわかれば介護する側も諦めがつくし,介護される側も追い込まれることがないと思う H
怒るのが母にはよくないので,どうなだめて,どう受け止めていくのかがいいのかすごく悩む I
遺伝家系で
あることに
囚われる
家族の中から
発症者を探す
うちの方は両親もないし親戚もない D
父は戦死しているし,もっと先祖はあるけどそれ以前は全然わかってない E
家内の方も全然出てない E
同病であると確信 父親,叔父,叔母も遺伝という話で父親から遺伝子を引き継いだと思った B
もう叔母を見ているからあーいうふうになると思って C
そこでやっと祖母とか叔父,母方の祖母側が遺伝するものとつながった G
だから祖母はあんな感じでそういう(遺伝する)病気だったのかと思った H
母が診断された時祖母と同じ病気だと初めて知った J
遺伝家系から
逃れられない
世の中からこの病気はなくならないし防ぐ手だてもない B
悲しい.病気は生まれてすぐわかるものでもないからどうしようもない. E
出るか出ない,持ってるか持ってないかはわからないけれど,自分は絶対抱えていかないといけない F
遺伝やから止めることできないじゃない I
考え続けることの苦痛 正直な話,考え出したら気が狂うのであんまり考えないことにしようと思ってる E
私自身,気にして生活してたら滅入ると思う F
考え出したらとことん考えてしまうので自分の中でもそんなに重きを置かないようにと思っている F
自分の存在を否定する 人より劣ってる,自分は削除される,淘汰される側の人間の遺伝子だという思いは常にどこかにある A
どうせあたしなんか生きていたっていう気持ちになる時もある A
内なる偏見,優性思想が強いのは患者の家族じゃないかなと思う.世間の人から言われもしないのに考えるということはそうだと思う A
結婚してはいけない (叔母の)結婚が決まった時もらってくれる人もいるんだと思った B
むやみに子どもには結婚させない B
結婚はダメと言われるのではないか(と思った) F
病気を伝えて,子どもたちから結婚をしたくないと言われたほうがショック J
出産してはいけない どうせ自分は産めない,産んではいけないというのを病気のせいにしていた A
(遺伝と)わかっていたら次の次の代に影響するからどっかで切らないと仕方ない E
こっちの原因とわかってたら養子を取る.(子どもは)とりあえず作らない E
次世代が発症するかもしれない心配 ずっと(遺伝について)悩んでいるから結婚もしなかったし子どもも作らなかった A
結婚したらまた血が受け継がれていくのではないかと悩む B
姉の子どもは結婚して子どもがいるし,他の子どもも多分結婚すると思う.その子どもにまで遺伝子が引き継がれなければいいけれど B
子ども達に50%50%(の確率)だったら,遺伝しないようにと毎日思っている D
孫達に50%だったら,うつらないほうの50%になって欲しいと思う D
うちの孫もまだ20歳代で,30代,40代になったら出るかもわからないけど E
出るとしたら私がこの世からいなくなった時(孫が)出てるかもしれない E
今後,何代先に出るかということが心配 E
表2-3  遺伝に関する体験
カテゴリー サブカテゴリー コード 研究
参加者
自分が発症した時を脅える 発症を恐れる (発症することを)考えたら怖いし,恐ろしいし,想像したくない A
実際自分がなった時にどうなるのか,全然判断がつかない F
自分自身が後10年ぐらいで発症するか,もっと早く発症する可能性がずっとついている G
発症したら怖いと思う H
発症者のようになるかもしれない絶望感 母みたいになるという中で(遺伝子を持っているか)調べる価値なんてない A
母と同じようになるかどうかわからないけど同じようになるとすごい周りに迷惑だと思う H
発症した時を心配 誰も介護する人間がいなく時,誰が私の面倒みてくれるのか C
実際自分がなった時にどうなるのか,みんなが(症状が)一緒じゃないと言われてるから F
(病気になったら)旦那とかに迷惑かけると思う H
発症した時の対応を考える 会社から言われたら,(兄の主治医)先生へ相談しようと思う C
どんな症状かわかっているのですぐ病院に行くと思う C
私が発症した時のことを考えるのであれば(子ども)に知っておいてほしい F
そういうこと(発症したら)になれば,母がかかってる先生に相談すると思う I
遺伝を伝えることに躊躇する 拒絶される恐れ 叔父や叔父の奥さんは(病気を伝えても)拒否するかもしれないので伝えてない B
従妹はたくさんいるが(遺伝について)受け入れて相談できる人はいない B
悩みや苦しみも引き継ぐ 遺伝を受けとめられるだけの精神力がない人,耐えられない人であれば伝えることで精神的な問題もでてくる B
父親の系列(血縁者の家系)だとその血が入ってるから悩ますことになる B
親戚に言うと悩ませたり苦しめたりするので言えない B
知った側がつらい思いをする可能性が高いから F
何も考えていなかったところに(遺伝が)降りかかってきたら受け止めきれなくなる人もいる F
隠すことの苦痛 なぜそこまで秘密にしなければならないのかと常に思っている A
私はなぜ母がこうなっているのか知らないまま,対応するのはやっぱり怖い F
(結婚相手に)言わなかったら言わないで隠してるという負担もある G
いつの間にか知られてしまう 発症していたいとこの妹は全部(病気のことを)知っているだろうと何気に話したら全く知らなかった A
内緒で(病気のことを)話していたら孫に聞こえていた D
誰にでも言えることではない 人によって言いやすい言いにくいがある B
みんなに言うのもあれだから特定の人にだけ D
家族以外の人に言うのは遺伝的なことがあるので少し気が引けるし言いにくい G
心配を与える必要はない (家族)みんなが(結婚相手に)いちいち言わんでいいのではないかという感じで言うたところでどうなんだろう I
私が発症しなかったら娘は遺伝しないと先生に聞いたので心配をかけるから教えないし言わない方がいい J
曖昧にしておく 元気な人間同士は病気のことはあんまりしゃべらず,そういう(遺伝についての)話題はあえてしないし,話題にのぼらない C
うやむやにしておこうかな,知らん方がいいかな H
破談を恐れる 別れたら縁がなかったと考えないとしょうがない D
(結婚することを)ダメだと言われるのではないか F
(相手へ遺伝について)言ったら,もう別れましょうとなるのではないかという負担 G
遺伝家系員になることを理解してもらえるか不安 妹が結婚する時に(遺伝病について)言わなくては相手の家族も巻き込むから A
(妹の結婚相手)旦那に説明しなくてはいけない,大変だと思った A
結婚する時相手の家族も親もいるから(理解してもらえる)難しいかな D
孫が結婚する時,彼女が理解したとしても彼女の親が理解するかどうか心配 E
結婚を前提に付き合うという話をしていたので,(遺伝病のことを)言わないといけないと思い,悩んだ F
娘が結婚したけど,(遺伝病のことを結婚相手へ)言わないといけないかどうか考えた I
発症者自身やその家族が孤立する 発症していた可能性がある者を隔離 私が小学校の時,叔母はずっと家におり部屋に隔離され全然外に出てこなかった B
祖母はしゃべったりあそんでもらった記憶はなく部屋にこもっていた H
親戚や友達づきあいの減少 家が汚いのがすごい嫌で人も呼ばなかった A
(他の家族と)もう絶縁状態だったから A
父が亡くなってから(親戚と)あんまり付き合いがなくなっていた C
母が育った環境からか1人も友達がおらず作ったことがない I

1) 【発症者への違和感】

研究参加者は,発症している(いた)可能性がある者の中に,〈(兄は)喜怒哀楽が少し激しくなった〉,〈父は暴言を吐き,母に当たってた〉など,「荒い気性」であった者や「暴力行為」をする者,「認知力の低下」から〈認知症やアルツハイマーと(いう)感じ〉ていた者,「アルコール依存」を疑われた者など,HDの症状である精神症状が出現していたと考えられる者と過ごしていた.発症している(いた)可能性があると感じた者が母親の場合,「家事に無頓着」であったことを語り,〈夫婦喧嘩をし,仲が悪かった〉,〈祖父母夫婦はよく喧嘩をしていた〉ことなどから,「夫婦関係の不和」を感じていた者がいた.また,HDの症状である不随意運動と考えられる〈母は寝ている時足の指がぴくんぴくんって動いていた〉,〈モゾモゾと動いていた〉など,「無意識な動き」や,〈(小学校低学年の頃,母は)ちょっと酔っぱらっているような歩き方だと思った〉,〈(母は)歩く速度がどんどん遅くなり,歩けなくなっていた〉など,「歩行動作の変貌」に気づいていた.〈好きな仕事がうまくいかない〉,〈今までできていた仕事でケガをする〉など,「仕事中の事故やトラブル」を起こす姿をみていた.様々な症状や行動から,【発症者への違和感】を持っていた.

2) 【漠然と気づく家系の病気】

家系内に発症している(いた)可能性があると感じた者が複数存在していたと語った研究参加者は,〈伯父の動きが祖母と似てると思った〉,〈(母も)多少動いていたので祖母と同じ病気だろうと薄々感じていた〉など,「類似した動きをする家族の存在」や〈父と兄は暴力をふるっていた〉,〈父と叔母はアルコール中毒かと思っていた〉など,「類似した精神症状を持つ家族の存在」を感じ,【漠然と気づく家系の病気】について語った.

3) 【発症者の人格の変化による生活への支障】

発症者への対応について,〈兄が腹を立てるような言葉は発しないようにしている〉,〈どうなだめていくか,どう受け止めていくことがいいのかすごく悩む〉などと語り,「発症者の顔色を窺(う)」いながら,〈今はもう気にいらないことがあったら暴力振るわれる〉,〈母親は我慢をしていたけど本人が制御できないから耐えられなくなる〉など,「発症者と過ごす我慢」を語る研究参加者がいた.医療や介護が必要な状況であると考えても,〈私や孫たちがうるさく言って病院へお世話になった〉,〈兄は病気を認識していないので病院に行こうと言っても,病気ではないからと言う〉と発症者は病識がない発言をし,自ら受診しようとせず,〈母は訪問看護師さん,ヘルパーさん,保健師さんとか,自分が気に入らん人を殴る〉などの行動から,「保健・医療・福祉サービス導入の難しさ」が窺えた.研究参加者は,そのような状況の中で,〈最初知らなかったので,兄へご飯をこぼさずきれいに食べるように怒っていた〉,〈どこからが症状か見極められない〉など,発症者の行動を「病気からの行いか否か悩(む)み」,「対応できない苦悩」を抱き,進行すると〈母は寝たきりだった〉,〈だんだん死に近づいていくのか,今は寝たきりでしゃべれない〉と,発症者を介護しながら,【発症者の人格の変化による生活への支障】を感じていた.

4) 【遺伝家系であることに囚われる】

家系内で初めて診断された者がいた場合,〈うちの方は両親もないし親戚もない〉,〈家内の方も全然出てない〉と「家族の中から発症者を探す」行動をした者や,〈そこでやっと祖母とか叔父,母方の祖母側が遺伝するものとつながった〉,〈母が診断された時祖母と同じ病気だと初めて知った〉と「同病であることを確信」したことを語った者がおり,〈世の中からこの病気はなくならないし防ぐ手だてもない〉,〈出るか出ない,持ってるか持ってないかはわからないけれど,自分は絶対抱えていかないといけない〉と「遺伝家系から逃れられない」思いを持っていた.〈私自身,気にして生活してたら滅入ると思う〉と「考え続けることの苦痛」を語り,〈どうせあたしなんか生きていたってという気持ちになる時もある〉と「自分の存在を否定(する)」し,人生設計に対し,〈むやみに子どもには結婚させない〉,〈どうせ自分は産めない,産んではいけないというのを病気のせいにしていた〉,〈こっちが原因(遺伝家系)とわかっていたら養子をとる.(子どもは)とりあえず作らない〉など,「結婚してはいけない」,「出産してはいけない」と,否定的に捉える者がいた.結婚や出産をしても,〈結婚したらまた血が受け継がれていくのではないかと悩む〉と「次世代が発症するかもしれない心配」を語り,【遺伝家系であることに囚われ(る)】ていた.

5) 【自分が発症した時を脅える】

発症者や診断された者と一緒に生活をしたり,会ったりする経験がある研究参加者は,〈(発症することを)考えたら怖いし,恐ろしいし,想像したくない〉,〈実際自分がなった時にどうなるのか,全然判断がつかない〉,〈発症したら怖いと思う〉と「発症を恐れ(る)」,〈母みたいになるという中で(遺伝子を持っているか)調べる価値なんてない〉,〈母と同じようになるかどうかわからないけど同じようになるとすごい周りに迷惑だと思う〉と「発症者のようになるかもしれない絶望感」を語った.また,〈実際自分がなった時にどうなるのか,みんな(症状が)一緒じゃないと言われてるから〉,〈(病気になったら)旦那とかに迷惑かけると思う〉と「発症した時を心配」し,〈どんな症状かわかっているのですぐに病院へ行くと思う〉など,「発症した時の対応を考え(る)」ながら,【自分が発症した時を脅える】様子が窺えた.

6) 【遺伝について伝えることを躊躇する】

研究参加者は,親戚や家族あるいは家族になろうとする者へ遺伝について伝えようとした経験を語った者がいた.遺伝家系であることを「拒絶される恐れ」や伝えることを「悩みや苦しみも引き継ぐ」と,否定的に捉える一方で,〈なぜそこまで秘密にしなければいけないのかと常に思っている〉と「隠すことの苦痛」を語る者がいた.遺伝について隠されていた家系員と話をし,〈発症していたいとこの妹は全部(病気のことを)知っているだろうと何気に話したら全く知らなかった〉,〈内緒で(病気のことを)話していたら孫に聞こえていた〉など,「いつの間にか知られてしま(う)」い,図らずも遺伝について伝えてしまった経験を語る者もいた.遺伝について,「誰にでも言えることではない」と捉え,〈私が発症しなかったら娘は遺伝しないと先生に聞いたので心配をかけるから教えないし言わない方がいい〉と「心配を与える必要はな(い)」く,〈元気な人間同士は病気のことはあんまりしゃべらず,そういう(遺伝についての)話題はあえてしないし,話題にのぼらない〉,〈うやむやにしておこうかな,知らん方がいいかな〉と「曖昧にしておく」と語った者がいた.結婚相手には,〈別れたら縁がなかったと考えないとしょうがない〉,〈(結婚することを)ダメだと言われるのではないか〉と「破談を恐れる」者もいた.きょうだいや子ども,孫の結婚を考える時には,〈妹が結婚する時に(遺伝病について)言わなくては相手の家族も巻き込むから〉,〈孫が結婚する時,彼女が理解したとしても彼女の親が理解するかどうか心配〉と結婚する相手の家族へ「遺伝家系員になるということを理解してもらえるか不安」と語った者がおり,【遺伝について伝えることを躊躇する】様子が窺えた.

7) 【発症者自身やその家族が孤立する】

研究参加者は,祖母や親戚の家を訪ねた時,〈私が小学校の時,叔母はずっと家におり部屋に隔離され全然外に出てこなかった〉,〈祖母はしゃべったり,遊んだりした記憶がなく部屋にこもっていた〉ことから,「発症している(いた)可能性がある者を隔離」していた状況を語った.また,親戚との付き合いについて,〈(他の家族と)絶縁状態だった〉,〈父が亡くなってから(親戚と)付き合いがなくなった〉と親戚との交流がなく,〈家が汚いのがすごい嫌で人も呼ばなかった〉,〈母が育った環境からか1人も友達がおらず作ったことがない〉と友達との付き合いがない状況を語り,「親戚や友達づきあい(の)が減少」し,【発症者自身やその家族が孤立(する)】していた者がいた.

Ⅳ. 考察

本研究結果から,HD患者の第一度近親者は,発症していた可能性がある者,あるいは診断された者と過ごす中で,病気や遺伝について知らされる前から,発症者への違和感を持ち,類似した症状をもつ複数の家族の存在により,漠然と家系の病気に気づいていた.FAP患者の子どもや家系員においては,遺伝病とは認識せず,原因不明の家系に広がる死に至る病気と認識していたことが報告されており(柊中ら,2013),HDとFAP患者の第一度近親者における遺伝性疾患に対する認知の過程が異なっていた.FAPは治療をしなければ予後不良である(公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター,2019)一方,治療法がないHDは,社会生活を独力で送ることが困難になるほど症状が進行するのは発病から10年以上かかる(公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター,2017).本研究結果から,HD患者の第一度近親者は,長期にわたり遺伝のリスクを知りながら生活し,第一度近親者自身もHD患者,家族,あるいは介護者となる可能性がある.医療従事者は,HD患者だけでなく,第一度近親者にも発症者への思いや遺伝についての思いを傾聴し支援する必要がある.また,遺伝のリスクを知るまで,家系の病気に気づいている可能性があることも心に留めながら,長期にわたり,病気や遺伝について理解できるよう継続した支援が求められよう.今後は,第一度近親者が遺伝について知った詳細な経緯や思い,病気に対する理解などについても調査し,遺伝について知る前の第一度近親者への支援について,さらなる研究が必要であろう.

第一度近親者は,複数の発症していた(いる)可能性がある者,あるいは診断された者が症状による人格の変化から,生活への支障が生じ,どのように対応すればよいか,苦悩していたことが明らかとなった.家族の中で病気や障害等により家族内の役割を遂行することができなくなった時には,家族機能の破綻を招かないよう家族構成員と患者の両者に支援が必要である(小島,2016).遺伝性疾患においては,家系内に複数の発症者が存在する可能性があり,HDにおいては希少疾患であるため,支援者の支援経験が乏しく,保健・医療・福祉サービス導入の難しさから,より家族機能の破綻を招きやすいと推察される.海外では,HDを発症した家族の中で育った若者のうち,幼い頃からHDについて知って育った若者は,より良い対処をしていたことが明らかとなっている(Keenan et al., 2007).HD患者の第一度近親者が早い時期から,適切な病気の理解ができるよう専門医や遺伝カウンセラーなどと連携しながら情報提供し,家族機能が維持できるような看護介入が求められよう.

第一度近親者自身は,遺伝家系であることに囚われ,自分が発症した時を脅えていることが判明した.さらに,親戚や家族あるいは家族になろうとする者へ遺伝について伝えることを躊躇していることも明らかとなった.海外においても,家族内で遺伝のリスクを伝えることは,非常に複雑で情緒的なプロセスであり,しばしば開示が遅れていることが指摘されている.開示が遅れることは,誤解,非難,秘密主義によって生じる家族の緊張の増大につながり,早い時期に,年齢にそって開示した場合,介護計画や生殖に関する意思決定などの将来の検討のために,より良い準備や対処ができると報告されている(Rowland & Metcalfe, 2013).日本でも家族性大腸線腫症やFAP患者の研究において,子どもへの遺伝の伝え方の難しさが明らかとなっており(柊中・志多田,2004川崎,2008),HD患者の第一度近親者も同様に,病気や遺伝について否定的に捉え,遺伝のリスクを伝えることの難しさがあることが判明した.そのため,医療従事者は,遺伝のリスクを伝えるために,精神的支援,ならびに適切な情報提供をする必要がある(Rowland & Metcalfe, 2013).しかし,従来から遺伝病対策を公衆衛生行政の一環として行ってきた欧米に比べ,日本の遺伝病対策は十分とはいい難く(福嶋ら,2014),病気や遺伝について相談できる体制は十分ではない.今後は,早期から,第一度近親者自身が持つ遺伝に対する悩みや健康相談あるいは健康診断等の体調管理,発症者への対処方法など,予防的観点から,身近な医療機関等で相談,支援ができる体制を構築することが望まれる(厚生労働省,2016).

第一度近親者の中には,HDの発症者やその家族が,親戚や友達との交流がなく,孤立していたと感じる者もいた.HDの発症者が人格の変化を呈し,かつ家族の生活にも支障が生じている場合,家族が遺伝に対し否定的に捉え,周囲に知られたくないとの思いから,その家族が孤立していったのではないかと推察される.Bombard et al.(2009)も,HDのリスクがある人々は,家族との歴史から心理的苦痛を受け,遺伝について否定的に捉えていることを報告している.HD患者の家族が孤立しないよう自助グループとして家族会などの支援を検討する必要もあろう.

本研究の限界として,研究参加者が病気や遺伝について知ってから,約1年から40年経過し,インタビューを実施するまでの年数に差があることから,研究参加者のその時の体験とは多少ずれが生じている可能性がある.HD患者の第一度近親者が体験しているその時をインタビューすることで,より時宜を得た支援を導き出せる可能性があり,今後はインタビューの時期と内容を一致させた調査も必要であろう.

Ⅴ. 結語

本研究結果から,遺伝のリスクを知りながら地域で生活をしているハンチントン病患者の第一度近親者は,病気や遺伝について知る前から,【発症者への違和感】や【漠然と気づく家系の病気】から遺伝性疾患であることを徐々に感じていた.また,【発症者の人格の変化による生活への支障】が生じ,病気や遺伝について否定的に捉えており,【遺伝家系であることに囚われ(る)】,【自分が発症した時を脅え(る)】,【遺伝について伝えることに躊躇(する)】していた.【発症者自身やその家族が孤立(する)】していた者もいた.

付記:本研究は,大阪市立大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えた.また,本論文の一部は,第7回日本公衆衛生看護学会学術集会において発表した.

謝辞:本研究にご協力いただきました対象者の皆さま,対象施設の医師,看護師の皆さまに深く御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反はない.

著者資格:NKは,研究の考案,計画,調査の実施とデータの分析,論文執筆まで,研究全体のプロセスを中心的に実施した.YYは,研究全体のプロセスにおいてスーパーバイザーとして助言し,論文執筆の推敲を行った.すべての著者は,最終原稿を承認した.

文献
 
© 2020 Japan Academy of Nursing Science
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