2020 Volume 40 Pages 40-46
目的:居宅介護支援を受けた独居要介護高齢者の在宅療養開始時における訪問看護利用の有無による特徴を明らかにすることである.
方法:在宅療養終了の転帰から5年間を遡り独居要介護高齢者100名の居宅介護支援者台帳と介護認定に関する書類よりデータを収集した.分析は在宅療養を開始した時点の訪問看護利用の有無の2群にわけ,独居要介護高齢者の特徴を比較検討した.
結果:居宅介護支援を受け在宅療養開始時に訪問看護を利用した者は21名(21%),利用しなかった者は79名(79%)であり,在宅療養期間は,疾患により有意な違いがあった(p = .024).また,訪問看護利用者の在宅療養開始時の主疾患はがんの者の割合が高く(p = .008),医療処置を有する者の割合が高かった(p = .013).
結論:居宅介護支援を受け在宅療養開始時に訪問看護を利用した独居要介護高齢者はがんの者であり,医療的ケアが必要である傾向が示された.
Purpose: To identify the characteristics of older adults living alone who received in-home long-term care support, were approved for long-term care, and used visiting nursing care services at the start of their in-home care.
Methods: Five-year data were collected from documentation related to long-term care certification and from in-home long-term care service records for 100 older adults who lived alone. In the analysis, the characteristics of those individuals were compared with those of older adults living alone who did not use visiting nursing care services.
Results: When they first began receiving support from long-term care support providers, 21 individuals (21%) in the sample used visiting nursing care and 79 (79%) did not. There were significant differences during the home-care period depending on the disease (p = .024). Among those who used visiting nursing care immediately, a significantly higher proportion had cancer (p = .008), had undergone a medical procedure (p = .013), or needed to use visiting medical care services (p = .019).
Conclusion: The results suggest that among older adults living alone who qualify for long-term care services, those who use visiting nursing care at the start of their in-home care with care management tend to be those with cancer or in need of medical attention.
超高齢社会におけるわが国では,65歳以上の高齢者世帯は既に全世帯の27.6%を占めている.また,高齢者世帯のうち,独居世帯は27.4%であり,年々その割合は増加傾向にある(厚生労働省,2016a).総人口が減少する一方,高齢化率は2065年には38.4%にまでに達すると推計されており(国立社会保障・人口問題研究所,2017),今後はさらに高齢化と独居世帯の増加は進展する.また,介護保険制度における要介護認定を受けた高齢者は約455万人(厚生労働省,2016b)であり要介護認定を受ける高齢者は増加しており,独居高齢者の医療,介護のニーズも急増する.
一方,独居高齢者を対象とした調査において生活に全介助が必要になった場合では15.5%の独居高齢者は自宅での療養を希望し,認知症により意思疎通が困難な状況においても12.8%の独居高齢者は自宅での療養を希望している(内閣府,2018).しかし,重度の要介護状態で在宅において生活している独居高齢者の割合は要介護4で4.5%,要介護5で3.8%とわずかである(厚生労働省,2016a).在宅死や入所した独居要介護高齢者は在宅療養継続において利用サービスを増やす傾向にあり(丸山ら,2019),独居高齢者が重度の要介護状態となった場合,限られた在宅ケアサービスの資源を調整しながら在宅療養を継続していることが推測される.
訪問看護は利用者が変化する環境や状態により良く適応できるように支援し,発生する問題を予知し,緊急事態には効果的な対応を行うサービスである(日本看護協会,2012).独居高齢者は家族との同居高齢者に比べ死亡率はより高く(Pimouguet et al., 2015;Udell et al., 2012),在宅療養の継続の障害になり得る生活機能障害(Saito et al., 2017),うつ病(Fukunaga et al., 2012),認知症の発症のリスクが高い(Soto et al., 2015).対象者をよく知り,生活に即したケアを共に考える(仁科ら,2019)訪問看護師の役割は大きく,訪問看護は在宅療養を開始する独居要介護高齢者において,重要なサービスの一つといえる.
これまで,要介護高齢者を対象としたケアマネジャーの訪問看護導入の判断では利用者の状況だけではなく,療養環境などの複雑な要因が関係している(下吹越・八代,2018)ことや訪問看護必要者のうち実際に訪問看護を利用した者は医療処置があり,要介護度が高い(永田ら,2010)という報告はみられるものの居宅介護支援を受け,在宅療養を開始した独居要介護高齢の在宅療養開始時における訪問看護利用の有無による特徴について調査したものはない.居宅介護支援により在宅療養を開始した独居要介護高齢者の実態を調査し,訪問看護の利用の有無による独居要介護高齢者の特徴を詳細に分析することは,今後,増加する独居要介護高齢者の在宅医療における支援体制を検討するうえでの基礎的な資料になり得るものであると考える.
本研究の目的は,在宅療養を終了した独居要介護高齢者を対象として居宅介護支援事業所の支援を受け在宅療養を開始した独居要介護高齢者の在宅療養開始時における訪問看護利用の有無による特徴を明らかにすることである.
なお,本研究は2017年に実施した調査(丸山ら,2019)について,二次分析を行ったものである.
対象者は研究施設である居宅介護支援事業所の支援を受けた65歳以上の独居要介護高齢者のうち,2014年12月から2016年11月の2年間に在宅療養を終了したすべての独居要介護高齢者100名であった.なお,研究協力施設は2017年4月時点において設立から5年以上経過した大阪府内(人口269.2万人)の研究協力が得られた居宅介護支援事業所11か所である.事業所の圏域はいずれも都心部から,約20 km範囲内にあり,診療所や病院へのアクセスは良好である.
2. 調査方法2017年4月から2017年6月に居宅介護支援事業所が保管する居宅支援者台帳と介護認定に関する書類から,研究者が在宅療養終了の転帰発生から遡って最長5年間の範囲のデータを収集した.
居宅支援者台帳とは介護保険制度において,利用者別に作成が義務付けられている書類のことであり,基本情報,サービス利用票,居宅サービス計画表,居宅支援経過,週間サービス計画が含まれる.介護認定調査に関する書類とは認定調査票,主治医意見書,介護保険証である.
3. 調査内容 1) 基本属性基本属性は年齢,性別,在宅療養期間(月数),同居する家族の有無,訪問診療の有無,主病名,医療処置の有無,障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度),認知高齢者の日常生活自立度(認知度),要介護度を把握した.年齢は在宅療養開始時年齢(歳)ならびに終了時年齢(歳)を把握した.主病名は「疾病,傷害及び死因の統計分類(ICD-10)」(厚生労働省,2013)に基づき,がん,生活習慣病(脳血管疾患,心疾患,高血圧,糖尿病),骨折,老齢疾患(老衰,肺炎,関節疾患),その他に分類し,在宅療養開始時のデータを把握した.要介護度は在宅療養開始時並びに終了時の要介護度を把握した.本研究では在宅療養期間を居宅介護支援事業所の支援開始日から在宅療養終了の転帰が発生した日までの期間と操作的に定義し,主病名は在宅療養開始時の主治医意見書の診断名の筆頭に記入されているものを主病名とした.
2) 在宅療養終了の転帰に関する情報在宅療養終了の転帰は要介護度の改善,入院,入所,在宅死のいずれかを把握した.本研究では要介護度区分が要介護から非該当,または要支援へ変更,あるいは,要介護認定の更新の申請をせず6ヶ月後もその状態を継続し,在宅療養を終了した高齢者を要介護度改善群とした.医療機関に入院し6ヶ月を経過しても,なお,退院せず在宅療養が再開しなかった高齢者を入院群とした.介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム),介護老人保健施設,介護療養型医療施設,認知症対応型共同生活介護適応施設(グループホーム),特定施設入居者生活適応施設(有料老人ホーム,軽費老人ホーム)に入所し,6ヶ月を経過しても,なお,退所せず在宅療養が再開しなかった高齢者を入所群とした.居宅にて主治医により死亡診断された高齢者を在宅死群とした.
4. 分析方法在宅療養開始時における訪問看護の利用の有無を独立変数とし,基本属性,在宅療養終了の転帰,疾患との関連を比較検討するため,連続変数にはt検定,名義変数にはFisherの直接法を用いた.要介護度については介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の入所基準となる要介護度を基準とし,「要介護1・2」,「要介護3・4・5」の2群にわけて分析した.障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)については屋内での生活がおおむね自立していることを基準とし,「J・A」,「B・C」の2群にわけて分析した.認知高齢者の日常生活自立度(認知度)については,在宅で自立した生活が可能なレベルを基準とし,「自立・I」「II・III・IV」の2群にわけて分析した.また,疾患と在宅療養開始時,終了時の年齢,在宅療養期間の比較は一元配置分散分析用い,群内の比較にはTukey法を用いた.統計学的分析には,統計ソフトSPSS Ver. 24を使用し,有意水準を5%未満とした.
5. 倫理的配慮本研究の対象者は居宅介護支援終了者や死亡者であることから対象者に直接協力を得ることが不可能であった.そのため居宅介護支援開始時に居宅介護支援事業所が業務上用いるデータを研究等に活用することを文書にて対象者より同意を得て,契約を締結している事業所を研究施設として選定した.なお,研究実施あたっては大阪市立大学大学院看護学研究科倫理委員会の承認を得て行った.(承認番号28-6-1)
対象者100名(100%)中,居宅介護支援を受け在宅療養を開始した独居要介護高齢者のうち,在宅療養開始時に訪問看護を利用した者は21名(21%),利用しなかった者は79名(79%)であった.対象者100名(100%)の在宅療養開始時の平均年齢(標準偏差)は79.6(6.6)歳,在宅療養終了時の平均年齢(標準偏差)は81.6(7.0)歳,平均在宅療養期間(標準偏差)は20.7(18.8)か月であった.また,在宅療養開始時に医療処置があった者は21名(21%)であり,訪問診療を利用していた者は32名(32%)であった.対象者全体の在宅療養終了時の転帰は要介護度が改善し終了した独居要介護高齢者が15名(15%),入院が45名(45%),施設入所が31名(31%),在宅死が9名(9%)であった.対象者全体の在宅療養開始時の独居要介護高齢者の主疾患は生活習慣病が24名(24%),認知症が18名(18%),がんが17名(17%),老齢疾患が13名(13%),骨折が8名(8%)であった(表1).
全体 | 訪問看護 | t値 | p値 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
なし(n = 79) | あり(n = 21) | ||||||
在宅療養開始時年齢(歳)1) | 平均(SD) | 79.6(6.6) | 81.2(6.1) | 75.4(6.6) | 3.79 | <.001 | |
在宅療養終了時年齢(歳)1) | 平均(SD) | 81.6(7.0) | 83.0(6.4) | 76.7(7.1) | 3.90 | <.001 | |
在宅療養期間(月数)1) | 平均(SD) | 20.7(18.8) | 21.7(18.9) | 16.7(17.9) | 1.06 | .294 | |
介護度2) | 要介護1・2 | n(%) | 81(81.0) | 68(86.1) | 13(61.9) | .024 | |
要介護3・4・5 | n(%) | 19(19.0) | 11(13.9) | 8(38.1) | |||
寝たきり度2) | J・Aランク | n(%) | 77(77.0) | 63(79.7) | 14(66.7) | .246 | |
B・Cランク | n(%) | 23(23.0) | 16(20.3) | 7(33.3) | |||
認知度2) | 自立・I | n(%) | 55(55.0) | 41(51.9) | 14(66.7) | .324 | |
II・III・IV | n(%) | 45(45.0) | 38(48.1) | 7(33.3) | |||
性別2) | 女性 | n(%) | 62(62.0) | 53(67.1) | 9(42.9) | .075 | |
別居する家族2) | あり | n(%) | 92(92.0) | 74(93.7) | 18(85.7) | .359 | |
訪問診療2) | 利用あり | n(%) | 32(32.0) | 18(22.8) | 14(66.7) | <.001 | |
医療処置の有無 | あり | n(%) | 21(21.0) | 12(15.2) | 9(42.9) | .013 | |
療養場所の希望2) | |||||||
本人 | 自宅希望 | n(%) | 89(89.0) | 70(88.6) | 19(90.5) | .106 | |
家族 | 自宅希望 | n(%) | 32(32.0) | 24(30.4) | 8(32.0) | .600 | |
在宅療養開始時の疾患2) | |||||||
がん | n(%) | 17(17.0) | 9(11.3) | 8(38.1) | .008 | ||
生活習慣病3) | n(%) | 24(24.0) | 21(26.5) | 3(14.2) | .388 | ||
骨折 | n(%) | 8(8.0) | 7(8.8) | 1(4.7) | 1.00 | ||
認知症 | n(%) | 18(18.0) | 15(19.0) | 3(14.2) | .757 | ||
老齢疾患4) | n(%) | 13(13.0) | 12(15.1) | 1(4.7) | .290 | ||
その他5) | n(%) | 20(20.0) | 15(19.0) | 5(23.8) | .759 | ||
在宅療養終了の転帰2) | |||||||
要介護度の改善 | n(%) | 15(15.0) | 12(15.1) | 3(14.2) | 1.00 | ||
入院 | n(%) | 45(45.0) | 37(46.8) | 8(38.1) | .623 | ||
施設入所 | n(%) | 31(31.0) | 26(32.9) | 5(23.8) | .596 | ||
在宅死 | n(%) | 9(9.0) | 4(5.1) | 5(23.8) | .019 |
1)t検定
2)Fisherの直接法
3)生活習慣病;脳血管疾患,心疾患,高血圧,糖尿病を含む.
4)老齢疾患;老衰,肺炎,関節疾患を含む.
5)その他;呼吸器疾患,消化器疾患,尿路系疾患,精神疾患,内分泌疾患(糖尿病を除く)神経難病を含む.
在宅療養開始時の訪問看護の利用の有無別に分析した結果,居宅介護支援を受け在宅療養を開始した独居要介護高齢者の在宅療養開始時の平均年齢(標準偏差)は在宅療養開始時に訪問看護を利用した者が75.4(6.6)歳,利用しなかった者が81.2(6.1)歳,在宅療養終了時の平均年齢(標準偏差)は在宅療養開始時に訪問看護を利用した者が76.7(7.1)歳,利用しなかった者が83.0(6.1)歳であり,居宅介護支援を受け在宅療養を開始した独居要介護高齢者の在宅療養開始時において訪問看護利用した者は利用しなかった者に比べ在宅療養開始時(p < .001),終了時ともに平均年齢は有意に低かった(p < .001).また,居宅介護支援を受け在宅療養を開始した独居要介護高齢者のうち在宅療養開始時に訪問看護利用した者は,医療処置のあった者が9名(42.8%)であり,訪問診療を利用していた者が14名(66.7%)であった.居宅介護支援を受けた独居要介護高齢者の在宅療養開始時において訪問看護を利用した者は,利用しなかった者に比べ有意に高い割合で医療処置があり(p = .013),訪問診療を利用していた(p < .001).さらに,居宅介護支援を受け在宅療養を開始した独居要介護高齢者の在宅療養開始時において訪問看護を利用した者の要介護度は要介護1,2の者が13名(61.9%),要介護3,4,5の者が8名(38.1%)であり,利用しなかった者に比べ要介護3,4,5の者が高い割合で利用していた(p = .024).
在宅療養終了の転帰のうち在宅死した者は居宅介護支援を受け在宅療養を開始した独居要介護高齢者の在宅療養開始時において訪問看護を利用した者が5名(55.6%)であり,他の転帰で終了した者に比べ有意に高い割合で訪問看護を利用していた(p = .019).
居宅介護支援を受けた独居要介護高齢者の在宅療養開始時において訪問看護を利用した者の主疾患のうちがんの者は8名(47.1%)であり,他の主疾患の者に比べ有意に高い割合で訪問看護を利用していた(p = .008)(表1).
3. 疾患と在宅療養開始時・終了時の年齢と在宅療養期間在宅療養開始時,終了時の年齢,在宅療養期間を在宅療養開始時の疾患別に分析した結果,居宅介護支援を受け在宅療養を開始した独居要介護高齢者の在宅療養終了時の平均年齢(標準偏差)はがんの者が77.3(7.1)歳,生活習慣病の者が82.2(7.7)歳,骨折の者が84.2(5.0)歳,認知症の者が84.0(3.4)歳,老齢疾患の者が83.9(5.9)歳であり有意に年齢に違いがあった(F値=2.61,p = .029).その後の検定による群内比較では,がんの者と認知症の者に有意に年齢に違いがあった(p = .046).また,在宅療養期間(標準偏差)においてもがんの者が6.9(6.2)か月,生活習慣病の者が22.3(19.5)か月,骨折の者が20.6(14.5)か月,認知症の者が27.2(22.1)か月,老齢疾患の者が25.9(23.1)か月であり有意に療養期間に違いがあった(F値=2.72,p = .024).その後の検定による群内比較では,がんの者と認知症の者に有意に療養期間に違いがあった(p = .015)(表2).
全体 | 疾患 | F値 | p値 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
がん (n = 17) |
老齢疾患1) (n = 13) |
骨折 (n = 8) |
認知症 (n = 18) |
生活習慣病2) (n = 24) |
その他3) (n = 20) |
||||
在宅療養開始時年齢(歳) | 79.6 | 76.8 | 81.8 | 82.8 | 81.7 | 80.3 | 78.3 | 1.91 | .099 |
平均(SD) | (6.6) | (7.0) | (4.9) | (5.3) | (3.4) | (7.5) | (7.8) | ||
在宅療養終了時年齢(歳) | 81.6 | 77.3 | 83.9 | 84.2 | 84 | 82.2 | 80.2 | 2.61 | .029 |
平均(SD) | (7.0) | (7.1) | (5.9) | (5.0) | (3.4) | (7.7) | (8.2) | ||
在宅療養期間(月数) | 20.7 | 6.9 | 25.9 | 20.6 | 27.2 | 22.3 | 21.4 | 2.72 | .024 |
平均(SD) | (18.8) | (6.2) | (23.1) | (14.5) | (22.1) | (19.5) | (16.0) |
一元配置分散分析
1)老齢疾患;老衰,肺炎,関節疾患を含む.
2)生活習慣病;脳血管疾患,心疾患,高血圧,糖尿病を含む.
3)その他;呼吸器疾患,消化器疾患,尿路系疾患,精神疾患,内分泌疾患(糖尿病を除く),神経難病を含む
本研究では,居宅介護支援により在宅療養を開始した独居要介護高齢者における在宅療養開始時の訪問看護の利用の有無による特徴について以下の通り,明らかにした.
まず,在宅療養開始時に居宅介護支援事業所の支援を受けた独居要介護高齢者では訪問看護を利用した者は,訪問看護を利用しなかった者に比べ,在宅療養開始時において,平均年齢は低く,医療処置を有する者,訪問診療を受けている者,主疾患ではがんの者が多く,療養期間が短く,在宅死となった者の割合が高かった.また,在宅療養開始時に居宅介護支援事業所の支援を受けた独居要介護高齢者の疾患による,在宅療養期間,在宅療養終了時の平均年齢の違いが明らかになった.
訪問看護利用者が訪問看護に求めることとして,24時間対応や医師との連携,病状悪化への対応があり(厚生労働省,2015),ケアマネジャーは訪問看護導入にあたっては緊急時対応の必要性(下吹越・八代,2018)を考慮している.一般的にがんの患者は急激に病状やADLが悪化することや化学療法等による副作用への対応のほか医療処置に関するケアが必要であるため,他の疾患に比べ医療保険を利用した訪問看護利用者数が多い(厚生労働省,2017a).このことより,本研究の対象である独居要介護高齢者においても,がんである者や医療処置のある者に訪問看護が導入されていたことが示されたと考える.また,終末期の特に症状が急に変化しやすい場合には,急変などに対する24時間対応が必要であるため,在宅死となった者に訪問看護の利用割合が高かったと推測する.加えて,がんの者が居宅介護支援を受け,訪問看護を利用する場合は他の疾患と異なり末期状態であることが前提であり,本研究おいてもがんの者が末期状態であった可能性が考えられる.このことより,がんの者の在宅療養期間が他の疾患に比べ短くなり,在宅療養開始時の疾患により在宅療養期間,在宅療養終了時の平均年齢に違いがあったと考えられる.
第2に,訪問看護を利用していた独居要介護高齢者には,在宅療養開始時に要介護3以上の重度要介護者の割合が高かった.本結果については,訪問看護の利用者は要介護3以上の者が過半数を占め(厚生労働省,2017b),ケアマネジャーの判断によって,実際の訪問看護利用者は要介護度が高いことが示されており(永田ら,2010),これらと同様の結果であったと考えられる.しかし,一方では訪問看護の利用単価は他の訪問系の介護保険サービスに比べ高く,軽度の要介護者の中には訪問看護が必要であっても他のサービスの利用が優先され,区分支給限度基準額内にて訪問看護の利用ができなかった可能性があると考えられる.
以上より,居宅介護支援事業所の支援を受けた独居要介護者では,在宅療養開始時に訪問看護を利用した者は訪問看護を利用しなかった者に比べ,在宅療養開始時の年齢が低く,がんの者が多く,医療的ケアが必要であり,重度の要介護度である傾向が示された.また,居宅介護支援事業所の支援を受け在宅療養開始する独居要介護高齢者は疾患により,在宅療養期間,在宅療養終了時の年齢に違いがある傾向が示された.
本研究は都市部の限られた地域での調査であること,対象者数が100名と数が少なく,統計解析の適用に限界があることから,今後,多様な地域において大規模調査を行い,本研究で得られた知見について多方面から検討することが課題である.しかし,本研究により在宅療養開始時において居宅介護支援を受け在宅療養を開始した独居要介護高齢者において,訪問看護を利用した者の特徴が明らかとなった.これらの特徴を踏まえたうえで,独居要介護高齢者の意思を尊重した療養継続が可能な支援の在り方の検討が必要であり,本研究は今後の独居要介護高齢者の支援を検討するうえでの基礎的な資料となり得ると考える.
謝辞:本研究の実施にあたり,協力いただきました居宅介護支援事業所のみなさま,ならびに関係者の方々に深謝申しあげます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:筆頭著者MKは研究の着想および,研究デザインと実施,分析,論文執筆のすべてを行った.KAは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を確認し,承認した.