Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Original Articles
Development of a Scale to Assess End-of-life Nursing Care Provided by Home-visit Nurses for Cancer Patients and Its Reliability/Validity
Fumie UchidaShizuko Tanigaki
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2020 Volume 40 Pages 91-99

Details
Abstract

目的:訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度の開発と,信頼性と妥当性の検証を目的とする.

方法:フィールド調査により質的帰納的に抽出したデータと文献検討を基に,訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度原案を作成した.全国の訪問看護師に23項目5段階のリカート法にて自記式質問紙調査を行い,669名を解析対象とした.

結果:最尤法プロマックス回転による因子分析の結果,2因子15項目が採択され,【がん患者および家族の安心・安寧の日常生活支援】【在宅療養の安定と急変対応に向けたチーム連携による支援】と命名された.また,信頼性,妥当性を確認した結果,尺度全体のCronbach’s α係数.948,基準関連妥当性.745,モデルの適合度は,GFI = .882,AGFI = .841,CFI = .925,RMSEA = .097であった.

結論:本尺度の信頼性,妥当性は,統計量的に許容範囲であることが確認され,在宅療養がん患者,家族を支援する訪問看護師や訪問看護ステーション管理者が支援内容の性質や程度を知る指標として活用できる.

Translated Abstract

Objective: The present study aimed to develop a scale to assess end-of-life nursing care provided by home-visit nurses for cancer patients and examine its reliability and validity.

Methods: A draft of the Scale to Assess End-of-life Nursing Care Provided by Home-visit Nurses for Cancer Patients was created based on data extracted qualitatively and inductively from the results of a field survey and literature review. A self-completed questionnaire survey involving home-visit nurses across Japan was conducted, using a 5-grade Likert method with 23 items, and 669 nurses were selected as analysis subjects.

Results: A factor analysis based on the maximum likelihood promax rotation was conducted. Two factors (15 items) were extracted: [Support provided for cancer patients and their families to live a secure and peaceful life] and [Support provided through interprofessional collaboration to provide reliable home care and respond to sudden changes in conditions]. The reliability and validity of the scale were examined, Cronbach’s alpha coefficient of the entire scale was .948, and the criterion-related validity was .745. The goodness of fit of the model was as follows: GFI = .882, AGFI = .841, CFI = .925, and RMSEA = .097.

Conclusion: The results of the study suggest that the reliability and validity of the scale were within the permissible ranges, and that it can be used by home-visit nurses and managers of home-visit nursing stations who support cancer patients living at home and their families, as indices of the characteristics and levels of their nursing care support.

Ⅰ. 緒言

わが国は,人口の高齢化を主な要因として,がんによる死亡数,罹患数ともに増加している(厚生労働省,2018).がんに罹患した際には,ターミナル期の療養や死を迎える希望の場所として「自宅」と回答する人は5割を超え(Sanjo et al., 2007),自分らしい生き方を重視した在宅終末期医療に対するニーズが高まっている.しかし,ターミナル期の在宅療養がん患者は,在宅療養期間が短く,急変の可能性や医療依存度は高い傾向にある(Yamagishi et al., 2011).また,がんの浸潤による症状コントロールの難しさから,在宅でターミナル看護支援をおこなう訪問看護師は負担感や困難感を抱えながらケアをおこなっていることが指摘されており(清水,2007),在宅療養がん患者に関わる訪問看護の質の向上を妨げることが懸念される.こうした,在宅療養がん患者のターミナル看護支援に焦点を当てた内田・谷垣(2018)の研究では,支援行動に影響し得る要因を検証し,組織的な取り組みが訪問看護師の意欲を高め,がん患者への支援行動を促進することを明らかにしている.しかし,訪問看護師の実践能力を高めるには外的要因の調整だけでは限界があり,実践現場の提供者である訪問看護師が主体的に支援のあり方を検討していくことが不可欠であると考える.Holzemer(1989)は,評価研究は専門職である看護師が療養者のケアに対して要求される質をどうやって満たすかという,その責任を全うするための手段であると述べている.したがって,効果的なケアを提供していくためには,日々の実践内容を訪問看護師自身が振り返り,看護支援の促進に向けて必要な対策を講じる手段が必要であると言える.

これまでのターミナル期のがん看護に関する測定用具の開発では,一般病棟に勤務する看護師を対象としたがん看護に関する困難感尺度(小野寺ら,2013)やスピリチュアルケア能力測定尺度(江口ら,2011)のほか,ターミナルケア態度尺度(中井ら,2006)があり,それらを活用した実証研究も数多く散見される(中西ら,2012).これらの尺度は,在宅看護に限定されたものではなく,がん患者に対する看護師のかかわりや認識を評価するものである.一方,在宅看護においては,在宅ケアに対する態度を測定するAttitude Scale for Home Care(Karadag et al., 2015)が開発されている.しかし,諸外国における訪問看護サービスの提供体制はさまざまで,それに伴い訪問看護師が担う業務内容も大きく異なることから,既存の尺度を適応することは難しいと言える.国内においては,緩和ケアに関する医療者の実践尺度(Shimizu et al., 2016)が開発されているが,この尺度は,名前が示す通り「緩和」におけるがん患者支援に有用であると考えられる.しかしながら,在宅でターミナル期を迎えるがん患者と家族に対する訪問看護師のケア行動を測定する尺度はこれまで報告されていない.病院内とは異なる環境下でターミナルケアにかかわる訪問看護師の看護実践を適切に評価できる指標を開発することで,看護実践が可視化され,より質の高い看護を行うためのツールとして用いることが期待できる.そこで,本稿では,訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度を開発し,その信頼性と妥当性を検証することを目的とした.

Ⅱ. 用語の操作的定義

ターミナル期の訪問看護支援とは,「回復が期待されず,かつ死期が迫っている在宅療養中のがん患者とその家族に対して,訪問看護師がおこなうすべての看護活動」と定義する.

Ⅲ. 研究方法

1. 訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度の原案作成

1) アイテムプールの作成

予備調査として,看護師経験年数5年以上および訪問看護師経験年数3年以上の経験を有する訪問看護師5名を対象に,がん患者を支える訪問看護支援の内容を質的帰納的に探索した.結果,[自分らしい生き方を支える],[がんと共に生きる生活を支える],[支援環境の調整により在宅生活を支える]の3つの下位概念が導出され,全26項目からなるがん患者の折り合いを支える訪問看護支援内容が明らかとなった(内田・谷垣,2017).開発を目指す尺度は,訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援を表す項目として文献検討を重ね,構成概念と項目の整合性から4項目を削除し,新たに1項目を追加した合計23項目のアイテムプールが得られた.

2) 内容妥当性の検討と尺度原案の修正

内容的妥当性の確認を行うため,研究の同意が得られた訪問看護師4名,専門分野の研究者2名に尺度原案のプレテストを実施した.また,訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援を表す調査項目について,分かりやすく,回答し易い表現であるか,意味内容に重複した項目はないか専門的立場からの助言も依頼し検討を重ねた.最終的に,調査項目のうち3項目の表現を修正し,見解の一致をもって訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度(原案)とした.

2. 本調査

1) 調査対象

対象者は,研究協力が得られた訪問看護師とした.サンプリングは,母集団を捉えるために設定した質問項目数の10~20倍となる500~1,000程度の標本数(南・野嶋,2017)が必要になると考えられた.回収率及び欠損による有効回答率は20~30%程度になることを目標に標本規模を検討し,調査対象を3,000名とした.全国訪問看護事業協会(2015)の調査による訪問看護ステーション届出数および稼働数が人口規模に対して偏りがないことを確認した上で,ホームページに掲載されている5,156箇所の訪問看護ステーションの約2割にあたる1,000箇所を都道府県別に層化無作為抽出し,各訪問看護ステーションに3名ずつ調査紙を配布した.

2) 調査方法

2016年5月~7月の間,自記式質問紙調査を郵送法で実施した.調査は,研究への依頼状と自記式質問紙,および返信用封筒を3名分同封し,訪問看護ステーションの責任者を通して対象者となる訪問看護師に配布を依頼した.3名の選定には,勤務者氏名を用い,五十音順とした.回答後は,無記名で返信用封筒を用いた個人投函を依頼した.

3. 調査内容

1) 個人属性

個人属性は,[性別],[年齢],[看護師経験年数],[訪問看護師経験年数],[勤務形態],[職位],[最終学歴]の7項目とした.

2) 訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度

作成した合計23項目からなる訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度(原案)は,5段階リッカート尺度とした.得点が高くなるほどターミナル期の在宅療養がん患者と家族を支える看護活動がおこなえていることを示すよう設定した.

3) 在宅看護の質自己評価尺度(Scale on Home Health Care Nursing)

在宅看護の質自己評価尺度(三浦ら,2005)は,[問題の明確化と訪問家族との問題の共有][知識・技術の提供,他職種との協力による問題解決・回避とその個別化][訪問家族の問題対処の補足と強化][訪問家族との関係性維持と発展][訪問家族のプライバシー擁護とプライバシーへの過剰侵入回避][家族構成員間の関係性維持と強化]の6下位尺度30項目を用いた.尺度使用に際しては開発者の承諾を得た.

4. 解析方法

統計解析にはSPSS Statistics Version25.0J,AMOS25.0Jを用いて分析を行った.

1) 項目分析

各項目得点の尖度と歪度,天井効果(mean + SD > 5)とフロア効果(mean – SD < 1)を確認した.さらに,Item-Total Correlation Analysis(以下I-T相関とする),Good-Poor Analysis(G-P分析)によって項目分析を行った.

2) 妥当性の検証

(1) 構成概念妥当性の検証

項目分析で整理した項目に対し,最尤法,プロックス回転による探索的因子分析を行った.因子数は固有値およびスクリープロットによって判断し,共通性,パターン行列,全分散を確認し,下位尺度の因子を解釈して因子を命名した.次いで,共分散構造分析を用いた確認的因子分析により因子構造を確認し,モデルの適合度を算出した.適合度指標にはGFI(Compara tive Fit Index),AGFI(adjusted goodness-of fit index),CFI(comparative fit index),RMSEA(Root Mean Squared Error of Approximation)を用いた.

(2) 基準関連妥当性の検証

外的基準である在宅看護の質自己評価尺度は,クライエントの看護問題に対応する看護職者の行動を表しており,ターミナル期のがん患者に対する看護支援に相応の関連性を確認できると考え選択した.作成尺度と在宅看護の質自己評価尺度を用い,両尺度の合計得点および下位尺度因子ごとにPearsonの積立相関係数を算出した.

3) 信頼性の検証

内的整合性を検証するために,尺度全体と下位尺度の因子についてCronbachのα係数を算出した.また,本研究における既存尺度の信頼性を確認するために在宅看護の質自己評価尺度全体と下位尺度の因子についてもCronbachのα係数を算出した.再テストについては,実施までの期間に訪問看護師が経験するターミナルがん患者の背景やその看護によって,回答内容に影響を及ぼす可能性があることや対象者への負担も考慮して,折半法を用いた信頼性の追求を行った.

5. 倫理的配慮

調査の実施にあたっては,対象となる訪問看護ステーションの責任者に,研究の趣旨を文章で説明し同意を得た.訪問看護ステーションの責任者を通して,対象者へ研究の目的および方法,研究協力の自由,匿名性の確保,研究結果の公表について説明した書面を配布した.また,依頼状には質問紙の返送をもって同意とみなす旨も明記して協力を依頼した.本研究は,岡山大学大学院保健学研究科看護学分野倫理審査委員会(承認番号D15-06)の承諾を得て実施した.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の属性(表1

訪問看護師3,000名に質問紙を配布した結果,宛名不明の理由で返信のあった9名を除く2,991名のうち750名(25.0%)から返答を得た.そのうち,無効回答であった44名と,有効回答のうち訪問看護師としてのがん看護の経験および終末期看護の経験を有しないと回答した37名の合計81名を除いた669名(22.3%)を解析対象とした.対象者の概要は,「性別」は女性が650名(97.2%),「年齢」は40歳以上が530名(79.2%)であった.「看護師経験年数」は平均18.43 ± 9.23(mean ± SD:以下同様)年で,「訪問看護師経験年数」の平均は8.47 ± 5.97年であった.

表1  対象者の属性 n = 669
項目 n %
性別 19 2.8
650 97.2
年齢 35歳以下 41 6.1
36歳~40歳 95 14.2
41歳~45歳 132 19.7
46歳~50歳 170 25.4
51歳以上 228 34.1
無回答 3 0.5
看護師
経験年数
10年未満 126 18.8
10年以上~20年未満 229 34.2
20年以上~30年未満 214 32
30年以上 93 13.9
無回答 7 1.1
訪問看護師
経験年数
10年未満 421 62.9
10年以上~20年未満 216 32.3
20年以上~30年未満 31 4.6
30年以上 1 0.2
勤務形態 常勤 580 86.7
非常勤 88 13.2
無回答 1 0.1
職位 スタッフ 436 65.2
主任 58 8.7
所長・統括管理 146 21.8
その他 26 3.9
無回答 3 0.4
最終学歴 専門学校 550 82.2
短期大学 62 9.3
大学 34 5.1
大学院 7 1
その他 15 2.2
無回答 1 0.2
FATCOD-B-J合計得点(mean ± SD) 117.78 ± 11.14

2. 項目分析(表2

項目分析に着手するにあたり,各項目の度数分布と基本統計量から,得点の偏りや分散の小さい項目がないことを確認した.次いで,天井効果およびフロア効果を確認したところ,天井効果に該当した項目は7,8,12で,フロア効果に該当する項目はなかった.なお,天井効果に該当した3項目については,すべてを削除することとした.Item-Total相関は項目と尺度全体において.575以上と有意な相関がみられた(p < .001).さらに,合計得点から全体を2群に分け,各項目の上位群(186名)下位群(191名)の平均得点をt検定により比較したところ,すべての項目はp < .01を示した.

表2  訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度原案と削除項目 n = 669
項目 mean SD I-T相関 GP分析P
1.本人の思いを親身になって聴いている 4.11 .58 .62 <.01
2.その人らしさを認めている 4.16 .61 .68 <.01
3.やりたいことの実現に向けて援助している 3.65 .75 .62 <.01
4.死に対する思いを事前に聞いている 3.10 .90 .58 <.01
5.家で過ごしたいという思いに応じている 4.10 .70 .72 <.01
6.在宅療養を困難にする障壁に対応している 3.53 .78 .71 <.01
7.必要な時には迅速に訪問している 4.30 .76 .68 <.01
8.訪問看護師間で協働し援助している 4.36 .70 .63 <.01
9.スムーズに主治医(かかりつけ医)と連携を取り対応している 4.28 .68 .71 <.01
10.在宅チームによる多職種と連携・協働している 4.13 .70 .71 <.01
11.状況把握をするために様々な機関と情報交換をしている 3.97 .77 .70 <.01
12.急変時の対応を主治医(かかりつけ医)と確認している 4.35 .78 .71 <.01
13.本人と主治医の架け橋になるよう支援している 4.00 .81 .79 <.01
14.心身の状態をアセスメントしている 3.97 .73 .78 <.01
15.がんによる痛みのコントロールをしている 3.97 .78 .74 <.01
16.精神的安寧にむけて援助している 3.97 .69 .80 <.01
17.日常生活を維持できるように工夫している 3.94 .67 .80 <.01
18.今後起こりうることを予測している 4.00 .68 .75 <.01
19.家族の生活環境を理解し助言している 3.85 .70 .78 <.01
20.家族の抱える不安に対してサポートしている 3.84 .71 .81 <.01
21.本人及び家族の揺れ動く思いに添い続けている 3.89 .73 .79 <.01
22.本人及び家族との継続的コミュニケーションを図っている 4.03 .67 .79 <.01
23.看取りに向けた質の高い援助をしている 3.61 .77 .77 <.01
尺度全体 91.08 12.00

[注]※は,訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度を構成する項目

表中の薄い網掛けは,項目分析において除外対象となった項目

表中の濃い網掛けは,探索的因子分析において除外対象となった項目

3. 構成概念妥当性の検証

1) 探索的因子分析と因子の命名(表3

項目分析で削除された3項目を除いた20項目について,正規性の確認で分布の偏りを確認した後,探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った.因子数は,スクリープロットの確認と,固有値1以上を基準に2因子に決定した.各項目のうち,共通性.16,因子負荷が.50に満たない(小塩,2010)3,4,5,6,13の5項目を除いて再度因子分析を行った.さらに,尺度の精度を高めるために項目決定基準の変化を繰り返し確認した.項目内容,項目数を検討し,解釈可能性を考慮したうえで,最終的に累積寄与率61.602を示す2因子15項目を本尺度の構成因子として採用した.因子間相関はr = .675で,第1因子は,「家族の抱える不安に対してサポートしている」など11項目が含まれた.医療者が常在しない環境下で,最期までがん患者とその家族が日常の生活を過ごせるように,心身の状況と生活に着目した支援を表した内容と考え,【がん患者および家族の安心・安寧の日常生活支援】と命名した.第2因子は,「在宅チームによる多職種と連携・協働している」などの3項目が含まれた.ターミナル期の療養生活を維持し,症状変化にも迅速に対応できる在宅での多職種連携を表した内容と考え,【在宅療養の安定と急変対応に向けたチーム連携による支援】と命名した.

表3  訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度の探索的因子分析 n = 669
変数(質問項目) 因子負荷量
第1因子 第2因子
第1因子:がん患者および家族の安心・安寧の日常生活支援
(α = 0.946)
20.家族の抱える不安に対してサポートしている .883 –.029
17.日常生活を維持できるように工夫している .861 –.047
19.家族の生活環境を理解し助言している .834 –.010
16.精神的安寧にむけて援助している .831 –.016
21.本人及び家族の揺れ動く思いに添い続けている .802 .016
22.本人及び家族との継続的なコミュニケーションを図っている .757 .079
18.今後起こりうることを予測している .739 .042
14.心身の状態をアセスメントしている .727 .082
15.がんによる痛みのコントロールをしている .719 .022
23.看取りに向けた質の高い援助をしている .641 .148
 2.その人らしさを認めている .556 .124
 1.本人の思いを親身になって聴いている .507 .112
第2因子:在宅療養の安定と急変対応に向けたチーム連携による支援
(α = 0.857)
10.在宅チームによる多職種と連携・協働している –.065 .964
11.状況把握をするために様々な機関と情報交換をしている .070 .740
 9.スムーズに主治医(かかりつけ医)と連携を取り対応している .144 .660
回転後の負荷量の平方和 8.16 5.59
累積寄与率 55.74 61.60
因子間相関 第1因子 .675
第2因子

[注]因子抽出法:最尤法,回転法:Kaiserの正規性を伴うプロマックス法

全分散を説明する割合61.602%

尺度全体のCronbach’s α係数=0.948

2) 確認的因子分析(図1

本尺度の構成概念妥当性を検証するため,共分散構造分析を用いて確認的因子分析を行った結果,2因子15項目のモデルの適合度指標は,X2/df値 = 5.749,p = .000,GFI = .882,AGFI = .841,CFI = .925,RMSEA = .097,(p = .000)で収束した.各因子間のパス係数は.71を示し,下位項目へのパス係数は.59~.89の範囲を示した.

図1 

「訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度」の確認的因子分析(n = 669)

3) 基準関連妥当性の検討(表4

相関分析の結果,本尺度の合計得点と在宅看護の質自己評価尺度合計得点間で,r = .745(p < .001),本尺度の合計得点と在宅看護の質自己評価の下位尺度間ではr = .593~.711であった.また,本尺度の2下位尺度と在宅看護の質自己評価の6下位尺度においては,r = .432~.738(p < .001)で,在宅看護の質自己評価尺度を外的基準としてP < .001水準で有意な相関がみられた.

表4  訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度と在宅看護の質自己評価尺度の関連 n = 669
訪問看護師のがん患者
ターミナル看護支援尺度
合計得点 第1因子 第2因子
在宅看護の質自己評価尺度合計得点 .745** .738** .569**
第1因子 .647** .653** .454**
クライエント・家族との関係性を維持し,発展させる行動
第2因子 .608** .602** .467**
問題を明確化し,クライエント・家族と問題を共有する行動
第3因子 .654** .652** .489**
家族の問題対処を補足し,強化する行動
第4因子 .595** .589** .459**
クライエント・家族のプライバシーを擁護し,プライバシーへの過剰な侵入を回避する行動
第5因子 .593** .594** .432**
家族構成員間の関係性を維持し強化する行動
第6因子 .711** .684** .625**
知識・技術を提供し,他職種と協力して問題を解決・回避する行動

[注]Pearsonの相関係数,**:p < .001

4. 信頼性の検証(表3)

訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度全体のCronbach’s α係数は.948であり,第1因子α = .946,第2因子α = .857を示した.また,本研究における在宅看護の質自己評価尺度全体のCronbach’s α係数は.960,各因子ではα = .778~.902であった.折半法のGuttman法による信頼性係数は.917であり,Spearman-Brownの信頼性係数は.917で内的整合性が保たれていた.

Ⅴ. 考察

本研究は,層化無作為抽出法によりサンプリングした全国の訪問看護師による回答状況から検討した.回答による訪問看護師の属性は,看護関係統計資料(日本看護協会,2018)による男女比率や看護職員需給見通しに関する検討会資料(厚生労働省,2014)による年齢階級別割合の結果と近似しており,この点において一定の代表性は確保されていると考えた.

1. 訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度の構成要素

訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度は,【がん患者および家族の安心・安寧の日常生活支援】【在宅療養の安定と急変対応に向けたチーム連携による支援】の2因子構造であることが検証された.予備調査から得られた3つの下位概念との合致性では,第1因子の【がん患者および家族の安心・安寧の日常生活支援】は,[自分らしい生き方を支える],[がんと共に生きる生活を支える]の内容と合致していた.和泉(2007)は,ターミナルケアにおける看護師の役割として,その人らしさを尊重した関わりや身体的苦痛だけでなく精神的苦痛や不安,不快感などの緩和が重要であると述べており,本尺度の第1因子である【がん患者および家族の安心・安寧の日常生活支援】は,さまざまな様相を呈するがん患者と家族を支えるため,状況変化に合わせながらQOLを捉えて生活を調整していく,ターミナル看護支援の主要な概念を表す内容が集約されたと考える.第2因子の【在宅療養の安定と急変対応に向けたチーム連携による支援】は,[支援環境の調整により在宅生活を支える]の内容に合致すると解釈した.終末期がん患者の在宅療養継続の障害に注目した大園ら(2015)の研究では,在宅療養継続に必要な要因として「療養環境の調整」,「在宅医を含めた多職種との連携強化」を抽出しており,ターミナル期における支援体制の充実を示した第2因子を裏付ける知見であると言える.以上のことより,在宅でターミナル期を迎えるがん患者と家族に必要な2つの異なる支援内容を適切に抽出できたと判断した.

2. 訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度の妥当性と信頼性

1) 構成概念妥当性の検証

本尺度の I-T相関は全項目において0.3以上(Polit & Beck, 2004/2010)を示していることから,関連性の低い項目はなく,尺度全体の15項目は独自性をもった内容項目であることが確認された.また,G-P分析において,上位群および下位群との間に有意差を認め,高低を測定できる尺度であることが確認された.さらに,構成概念を検証するためにおこなった確認的因子分析の結果では,GFIおよびAGFI,CFIが.841~.925,RMSEが.097の値を示し,当てはまりが良いとは言えないが,いずれも統計学的に許容範囲を示す適合度で(豊田,1998小塩,2010),因子間,各因子と項目間において一定の説明力を有することが示唆された.また,2つの因子間の相関係数はr = .675であり,中程度の正の相関が認められることから,構成概念の共通性が確認された.

2) 基準関連妥当性の検証

外的基準である在宅看護の質自己評価尺度と本尺度の合計得点で強い相関を認めた.また,下位尺度の相関係数はr = .432~.684の間を示し,特に,在宅看護の質自己評価尺度の[知識と技術を提供し,他職種と協力して問題を解決・回避する行動][クライエント・家族との関係性を維持し,発展させる行動],[家族の問題対処を補足し,強化する行動]と本尺度の第1因子の間において比較的強い相関が認められた.これにより,本尺度は,在宅看護の質の視点を包含した項目内容であると考えられ,基準関連妥当性が確認された.

3) 信頼性の検証

本尺度は,Cronbach’s α係数とGuttman法およびSpearman-Brownの信頼性係数が,いずれもα = .800以上であることから測定用具として許容可能な基準を満たしており(Grove et al., 2005/2008),内的整合性は確認された.Cronbach’s α係数は,項目数が少ないほど低下するが,本尺度全体でα = .948と,十分な信頼性を保持していることが示された.さらに,項目決定基準の変化を繰り返し確認したところ,いずれの場合も信頼係数は.800以上を示すことが確認され,再現性と安定性は担保されていると考えられた.一方,在宅看護の質自己評価尺度全体のα係数は.960で,既存の尺度についても本研究における信頼性が確認された.

3. 尺度の実用性の検討

本尺度の項目は,さまざまな個別事情を背景として,在宅で人生の最終段階を迎えるがん患者とその家族への訪問看護支援を測定できる用具であることが確認された.日常の看護支援を見直すことは,看護の内容に影響を及ぼし,ケアの質を高めることに繋がる(江口ら,2011).本研究で開発された尺度は,各下位尺度や尺度全体の合計得点を算出することが可能であり,自己評価による支援内容の測定に役立つとともに,自己の課題や改善に向けた具体的な手立てを検討するためのツールとして活用することができると考える.さらに,訪問現場においては,訪問看護師が一人で看護展開する場面が多く,個別の対応となるが,こうした実践状況や経時的変化をステーション内で共有することによって,組織として機能面の強化や教育的介入に役立てることも期待できる.つまり,本尺度は訪問看護師個人だけでなく訪問看護ステーション管理者の双方において実用性の高いツールであり,実践能力の向上に有用であると考える.

4. 本研究の課題と限界

本研究は,国内の全地域を対象に調査を実施したが,地域の偏りがあった可能性は否めず,交差妥当性が不明であること,横断的データによる信頼性の確認に留まっていることが限界点として挙げられる.さらに,項目分析で偏りの強い項目や因子分析による因子負荷量の低い項目のうち,重要な支援内容でありながら弁別性がなく除外された項目のある可能性も否定できない.そのため,本尺度が,がん患者のターミナル看護支援に必要なすべての項目が含まれた指標という解釈には限界がある.あくまでも看護支援を評価し,内容を検討するためのツールとして有用であると言える.今後は,対象者の属性やサンプルサイズを考慮しながら信頼性,妥当性を検討し,尺度の構成項目を精緻化していくことが課題と考える.

Ⅵ. 結論

在宅で提供される訪問看護師のがん患者ターミナル看護支援尺度は,【がん患者および家族の安心・安寧の日常生活支援】【在宅療養の安定と急変対応に向けたチーム連携による支援】の2因子15項目で構成された.本尺度の信頼性および妥当性は統計学的に許容範囲内であることが確認された.

謝辞:本研究にご協力くださいました訪問看護師の皆様に厚く御礼申し上げます.なお,本研究は公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団の研究助成を受けて実施したものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:FUは研究の着想から原稿作成のプロセス全体に貢献;STは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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