2020 Volume 40 Pages 244-251
目的:訪問看護師のICTを用いた遠隔からの医師の死亡診断を補助することへの自信感や不安と遠隔死亡診断に用いる看護技術の自信等の関連を明らかにし,遠隔死亡診断が普及するための課題を検討する.
方法:全国1785カ所の訪問看護ステーションの看護師に無記名自記式質問紙調査を実施した.単純集計後,死亡診断に関する認識と看取り体制,看護技術の自信等との関連をみた.
結果:325名を有効回答(18.2%)とした.死亡診断に関する認識として,遠隔死亡診断をできないと思う者は176名(54.2%)であり,理由は「家族が納得しない」が最も多かった.死亡診断に関する認識は,身体観察項目に対する自信,死亡診断等GLや医師法21条の認知等と関連した.
結論:訪問看護師が遠隔死亡診断をできると認識するには,死亡診断関連の情報を得ることや身体観察技術の向上が重要と示唆された.
Objective: To elucidate the relationship between the sense of self-confidence and anxiety of visiting nurses regarding remote death diagnosis by physicians using information communication technology (ICT) and the confidence of nursing skills used for remote death diagnosis, and so on, and consider the issues for the spread of remote death diagnosis.
Methods: Anonymous self-administered questionnaires were administered to nurses at 1,785 visiting nursing stations in Japan. After a simple tabulation, the relationship of perception of death diagnosis to the end-of-life care system, the confidence of nursing skills used for remote death diagnosis, and so on, was examined.
Results: A total of 325 participants provided valid responses (18.2%). In regard to the perception of death diagnosis, 176 participants (54.2%) responded that they did not believe physicians could diagnose death remotely using ICT, and the most cited reason was “the family would not accept it.” The perception of death diagnosis was related to the confidence in physical observations, as well as awareness of guidelines for diagnosing death and Article 21 of the Medical Practitioners’ Act.
Conclusions: For visiting nurses to acknowledge that physicians can remotely diagnose death using ICT, it is suggested that information regarding the death diagnosis should be obtained and physical observation skills improved.
最期を迎えたい場所として自宅を希望する者が多いが,2017年では自宅で最期を迎えている者は13.2%である(厚生労働省,2018a).我が国の死亡者数は,2015年は約129万人だったが,2035年には約165万人まで増加すると推計されており(人口問題研究所,2017),在宅での看取り体制を整備することが急務となっている.
在宅での看取りの課題の一つとして,臨終時の死亡診断が挙げられる.石川(2011)は,訪問看護師が医師の死亡確認を待つために患者に触れずに待った経験があると回答した者は48.0%と報告している.また,医師の立ち合いがない時に死亡確認を行った経験がある者は26.7%,医師の死亡確認を待たずに死後の処置を行った経験がある者は17.3%と報告している.このような医師の到着を長時間待つことや,診察を受けるための救急搬送を回避するために,厚生労働省(2017)は「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」(以下,死亡診断等GL)を発表した.これにより,法医学等に関する教育を受けた看護師など一定の条件のもと,看護師が死亡診断に必要な情報を医師に報告し,医師が直接対面せずに死亡診断ができるようになった.看護師は,医師と通話もしくは写真の送信等での連絡を取りながら,対象者の死の三徴候や外表検査などの全身観察を行うこととなっている.死亡診断等GLが作成される前に,日本法医学会(2017)は死亡診断等GLに対する見解として,担当する看護師の法医学の知識が,数日程度の研修の受講のみでは質的,量的に不十分であり,死体の異状を見落とす危険性があると指摘している.このような異状死の見落とし等が起こらぬように,看護師には適切に死の三徴候や全身観察を行うこと,医師への情報提供を行うことが求められる.しかし,藤内ら(2012)の死亡診断等GLの発表前の調査では,看護師が想定範囲内の死亡確認を行うことに対して「看護師の責任が重い,自信がない」「看護師の死亡診断で家族が納得するか」等の意見がみられ,死亡診断に携わることに戸惑う看護師もいる.死亡診断等GLが作成され,今後,看護師が死亡診断の場面に携わる機会が増加することを踏まえ,看護師にとっても安全に死亡診断が実施できる体制が必要であると考えられる.
訪問看護師が遠隔死亡診断の補助を行うには,訪問看護師による身体観察やICTの操作,医師との協力を含むステーションの看取り体制が必要となる.そこで本研究では,これらの内容と訪問看護師の遠隔死亡診断を補助することへの自信感や不安との関連を明らかにし,訪問看護師側の視点から遠隔死亡診断が普及するための課題を検討することとした.
ICTを用いた遠隔からの医師の死亡診断に携わる可能性がある看護師の認識を調査したいため,対象者は,死亡診断等GLが示す法医学等に関する研修の受講要件を満たす訪問看護師とした.受講要件は,「看護師経験5年の実務経験を有し,患者の死亡に立ち会った経験が3例以上ある」,「訪問看護または介護保険施設等にて3年以上の実務経験を有し,患者5名にターミナルケアを行った」の両方を満たすことである.また「ターミナルケアを行った」は,訪問看護では,患者(利用者)の死亡日及び死亡前14日以内に,2回以上の訪問看護を実施し,ターミナルケアに係る支援体制について患者及びその家族等に説明した上でターミナルケアを行った場合とされる.また介護保険施設等では,当該施設の看取りに関する指針等に基づき,看護師が対象とする入居者のターミナルケアに関する計画を立案し,当該計画に基づいてターミナルケアを行った場合とされる.
調査対象の選定方法として,全国訪問看護事業協会のホームページで確認した訪問看護ステーション(以下,ステーション)5,492か所(2017年11月27日時点)から,約1/3の1,800か所となるよう都道府県毎に層化無作為抽出を行い,各ステーションから条件に該当する1名を調査対象とした.全国の訪問看護ステーションの管理者を対象とした2文献(飯田ら,2019;佐々木ら,2015)によると,管理者の訪問看護経験は8年以上と報告されており,今回対象とするステーションにおいても,実務経験の要件をクリアする調査対象が少なくとも1名は存在する可能性が高いと考えた.
2. 調査方法郵送法による無記名自記式質問紙調査を行った.1,800か所のステーションの管理者宛に研究協力依頼文書(管理者用と対象者用),質問紙を1部送付し,協力いただける場合,管理者から対象者に,研究協力依頼文書(対象者用)と質問紙の配布を依頼した.調査期間は2018年10月~11月である.
3. 調査内容先行研究(石川,2011;藤内ら,2012)を参考に下記項目を設定した.
1) 対象者の背景対象者の基本属性として「性別」,「年齢」,「看護師経験年数」,「訪問看護師経験年数」を尋ねた.また,所属ステーションの「開設主体」,「所在地」と看取り体制として「職場の看取り時の対応マニュアル」,「看取り時のスタッフ増員などのバックアップ体制」,「利用者本人と看取り場所の合意」,「利用者の家族と看取り場所の合意」,「利用者の家族と看取り場所の合意(利用者本人の意思が確認できない場合)」,「医師と死亡時の対応についての話し合い」の6項目の体制の有無を尋ねた.
2) 看取りに関する経験看取りの経験としては「医師の死亡診断を待つために本人に触れずに待った」,「医師の死亡診断前に死後の処置を行った」,「本人・家族が在宅死を希望していたが意向に反して病院へ救急搬送または警察に連絡した」の3項目の経験の有無を尋ねた.
3) 死亡診断に用いる看護技術に対する自信「聴診による心音消失」,「聴診による呼吸音消失」,「呼吸筋,呼吸補助筋の収縮の消失」,「左右瞳孔径」,「対光反射の消失」,「頭部・頚部・顔面(眼球,鼻腔,口腔など)・体幹・四肢などの損傷,出血,溢血点」の6項目とし,「一人で確認(測定)できる」「一人でおそらく確認(測定)できる」「一人で確認(測定)することは少し不安である」「一人で確認(測定)することはとても不安である」の4件法で回答を得た.
4) 死亡診断に関する基本的知識死亡診断に関する基本的な知識として「医師による遠隔での死亡診断をサポートする看護師を対象とした研修会(以下,法医学研修会)を知っているか」,「死亡診断等GLを知っているか」の2項目を尋ねた.また,死亡診断に関する医師法20条,21条について,質問紙上で原文を示した上で「医師法20条を読んだことがあるか」,「医師法21条を読んだことがあるか」の2項目を尋ねた.
5) 職場のICT活用状況「普段の業務でICT(PC,スマートフォン,タブレットなど)を活用したシステムがあるか」の1項目とした.
6) ICTを用いた遠隔からの医師の死亡診断に関する認識「看護師がICTを用いて遺体の観察や写真撮影を行い情報提供することで,遠隔からの医師の死亡診断を行うことはできると思うか」(遠隔死亡診断のための情報提供への自信感),「自分がICTを用いて遺体の観察や写真撮影を行い情報提供し,死亡診断に携わることに不安はあるか」(遠隔死亡診断への不安)の2項目とした.
4. 分析方法各項目の単純集計を行った.さらに,死亡診断に関する認識の2項目遠隔死亡診断のための情報提供への自信感,遠隔死亡診断への不安と「看取り体制(6項目)」,「死亡診断に用いる看護技術に対する自信(6項目)」,「死亡診断に関する基本的知識(3項目)」,「職場のICT活用状況(1項目)」の項目間にてχ2検定を実施した.期待度数5未満のセルが20%以上ある場合はFisherの正確確率検定を行った.統計的有意水準は5%未満とし,統計処理にはIBM SPSS ver. 25を用いた.
5. 研究における倫理的配慮施設の管理者と対象者には,研究協力依頼文書にて,研究目的,研究参加は自由意思であり不参加による不利益は被らないこと,研究以外の目的でデータは使用しないこと,返送をもって同意を得ること,データの管理方法,結果の公表等について示した.なお,本研究は豊橋創造大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号H2018005).
15か所のステーションは,閉鎖等の理由により研究者に返送されたため除外し,1,785か所を対象とした.407部の返送があり(回収率22.8%),χ2乗検定を行う項目に欠損のない325部を有効回答とした(有効回答率:18.2%).
1. 対象者の背景(表1)対象者の平均看護師経験年数25.1 ± 7.9年,平均訪問看護師経験年数10.5 ± 6.7年であった.所属ステーションの開設主体は,営利法人114名(35.1%),医療法人97名(29.8%)等であった.また,ステーションの看取り体制として,看取り時の対応マニュアルがある者は191名(58.8%)であった.利用者本人と看取り場所の合意を得る者は257名(79.1%)であった.利用者の家族と看取り場所の合意を得る者は,利用者本人の意思が確認できる場合283名(87.1%),利用者本人の意思が確認できない場合277名(85.2%)であった.また,医師と死亡時の対応についての話し合いは296名(91.1%)が行っていた.
n | % | ||
---|---|---|---|
性別 n = 323 |
男性 | 16 | 5.0 |
女性 | 307 | 95.0 | |
年齢 n = 323 |
20歳代 | 3 | 0.9 |
30歳代 | 23 | 7.1 | |
40歳代 | 118 | 36.5 | |
50歳代 | 163 | 50.5 | |
60歳以上 | 16 | 5.0 | |
看護師経験年数 n = 323 |
平均 SD | 25.1 | 7.9 |
訪問看護師経験年数 n = 323 |
平均 SD | 10.5 | 6.7 |
開設主体 n = 325 |
営利法人 | 114 | 35.1 |
医療法人 | 97 | 29.8 | |
社会福祉法人 | 28 | 8.6 | |
社団・財団法人 | 27 | 8.3 | |
医師会 | 14 | 4.3 | |
都道府県・市区町村 | 10 | 3.1 | |
看護協会 | 8 | 2.5 | |
特定非営利法人 | 8 | 2.5 | |
消費生活協同組合及び連合会 | 7 | 2.2 | |
その他 | 12 | 3.7 |
n | % | |||
---|---|---|---|---|
職場の看取り時の対応マニュアル n = 325 |
有 | 191 | 58.8 | |
無 | 134 | 41.2 | ||
看取り時のスタッフ増員などのバックアップ体制 n = 325 |
有 | 149 | 45.8 | |
無 | 176 | 54.2 | ||
利用者本人と看取り場所の合意 n = 325 |
有 | 257 | 79.1 | |
無 | 68 | 20.9 | ||
利用者の家族と看取り場所の合意 (利用者本人の意思が確認できる場合) n = 325 |
有 | 283 | 87.1 | |
無 | 42 | 12.9 | ||
利用者の家族と看取り場所の合意 (利用者本人の意思が確認できない場合) n = 325 |
有 | 277 | 85.2 | |
無 | 48 | 14.8 | ||
医師と死亡時の対応についての話し合い n = 325 |
有 | 296 | 91.1 | |
無 | 29 | 8.9 | ||
所在地 n = 321 |
北海道・東北地方 | 31 | 9.7 | |
関東・甲信越地方 | 117 | 36.4 | ||
東海・北陸地方 | 40 | 12.5 | ||
近畿地方 | 66 | 20.6 | ||
中国・四国地方 | 29 | 9.0 | ||
九州・沖縄地方 | 38 | 11.8 |
北海道・東北地方:北海道,青森,岩手,宮城,山形,福島
関東・甲信越地方:茨城,栃木,群馬,埼玉,千葉,東京,神奈川,山梨,長野,新潟
東海・北陸地方:富山,石川,福井,岐阜,静岡,愛知,三重
近畿地方:滋賀,京都,大阪,兵庫,奈良,和歌山
中国・四国地方:鳥取,島根,岡山,広島,山口,徳島,香川,愛媛,高知
九州・沖縄地方:福岡,佐賀,長崎,熊本,大分,宮崎,鹿児島,沖縄
看取りの経験について,医師の死亡診断を待つために本人に触れずに待った経験がある者が233名(71.7%)であった.医師の死亡診断前に死後の処置を行った経験がある者が191名(58.8%)であり,その理由は,看護師による死亡確認時に「医師から指示があったため」139名(72.8%),「事前に家族,医師と申し合わせていたため」115名(60.2%),「医師の立ち会える時間が遅かったため」89名(46.6%)であった.また,これまでの本人・家族の意向に反して病院へ救急搬送または警察に連絡した経験がある者は152名(46.8%)であり,その理由は,実際に急変,死亡した際に「家族が望んだため」81名(53.3%),「医師から指示があったため」43名(28.3%),「主治医が往診を行っていないため」38名(25.0%),「医師と連絡が取れなかったため」30名(19.7%)であった.
3. 死亡診断に関する訪問看護師の認識の現状遠隔死亡診断のための情報提供への自信感は「できると思う」が149名(45.8%),「できないと思う」が176名(54.2%)であった.できないと思う理由は「家族が納得しない」120名(69.0%)が最も多かった(表2).遠隔死亡診断への不安が「あまりない」「ない」は53名(16.3%),「ある」「ややある」は272名(83.7%)であった.不安があると回答した理由は,「責任が重い」207名(77.2%)が最も多かった(表3).
n | % | |
---|---|---|
家族が納得しない | 120 | 69.0 |
医師の協力が得られにくい | 70 | 40.2 |
看護師は死亡診断のための遺体の全身観察をしたことがない | 67 | 38.5 |
n | % | |
---|---|---|
責任が重い | 207 | 77.2 |
医師との協力体制に不安がある | 124 | 46.3 |
遺体の全身観察に不安がある | 68 | 25.4 |
ICT(スマートフォン,タブレット等)の操作,情報管理に不安がある | 68 | 25.4 |
死の三徴候の観察に不安がある | 28 | 10.4 |
遠隔死亡診断のための情報提供への自信感と関連があった変数は,死亡診断に用いる看護技術に対する自信の「聴診による心音消失」(p = .026),「聴診による呼吸音消失」(p = .007),「呼吸筋,呼吸補助筋の収縮の消失」(p = .006),「頭部・頚部・顔面・体幹・四肢などの損傷,出血,溢血点」(p < .001),死亡診断に関する基本的知識の「死亡診断等GLの認知」(p = .002),「医師法21条」(p = .007)であった.遠隔死亡診断への不安と関連があった変数は,死亡診断に用いる看護技術に対する自信の「聴診による心音消失」(p = .049),「呼吸筋,呼吸補助筋の収縮の消失」(p = .009),「左右瞳孔径」(p = .001),「頭部・頚部・顔面・体幹・四肢などの損傷,出血,溢血点」(p = .002),死亡診断に関する基本的知識の「死亡診断等GLの認知」(p = .026),「医師法21条」(p = .049),職場のICT活用状況の「普段の業務でのICTの活用」(p = .041)であった.
遠隔死亡診断のための情報提供への自信感 | 遠隔死亡診断への不安*1 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
できると思う n(%) |
できないと思う n(%) |
p値 | ない n(%) |
ある n(%) |
p値 | |||
看取り体制 | 看取り時の対応マニュアル | |||||||
有 | 95(29.2) | 96(29.5) | .093 | 35(10.8) | 156(48.0) | .240 | ||
無 | 54(16.6) | 80(24.6) | 18(5.5) | 116(35.7) | ||||
看取り時のスタッフ増員などのバックアップ体制 | ||||||||
有 | 69(21.2) | 80(24.6) | .878 | 25(7.7) | 124(38.2) | .833 | ||
無 | 80(24.6) | 96(29.5) | 28(8.6) | 148(45.5) | ||||
利用者本人と看取り場所の合意(利用者本人の意思が確認できる場合) | ||||||||
有 | 122(37.5) | 135(41.5) | .253 | 47(14.5) | 210(64.6) | .060 | ||
無 | 27(8.3) | 41(12.6) | 6(1.8) | 62(19.1) | ||||
利用者の家族と看取り場所の合意(利用者本人の意思が確認できる場合) | ||||||||
有 | 132(40.6) | 151(46.5) | .454 | 49(15.1) | 234(72.0) | .202 | ||
無 | 17(5.2) | 25(7.7) | 4(1.2) | 38(11.7) | ||||
利用者の家族と看取り場所の合意(利用者本人の意思が確認できない場合) | ||||||||
有 | 123(37.8) | 154(47.4) | .210 | 48(14.8) | 229(70.5) | .231 | ||
無 | 26(8.0) | 22(6.8) | 5(1.5) | 43(13.2) | ||||
医師と死亡時の対応について話し合い | ||||||||
有 | 140(43.1) | 156(48.0) | .093 | 48(14.8) | 248(76.3) | .797*3 | ||
無 | 9(2.8) | 20(6.2) | 5(1.5) | 24(7.4) | ||||
看護技術の 自信 |
聴診による心音消失*2 | |||||||
一人で確認できる | 138(42.5) | 149(45.8) | .026 | 51(15.7) | 236(72.6) | .049 | ||
一人で確認は不安 | 11(3.4) | 27(8.3) | 2(0.6) | 36(11.1) | ||||
聴診による呼吸音消失*2 | ||||||||
一人で確認できる | 143(44.0) | 154(47.4) | .007 | 52(16.0) | 245(75.4) | .061*3 | ||
一人で確認は不安 | 6(1.8) | 22(6.8) | 1(0.3) | 27(8.3) | ||||
呼吸筋,呼吸補助筋の収縮の消失*2 | ||||||||
一人で確認できる | 138(42.5) | 145(44.6) | .006 | 52(16.0) | 231(71.1) | .009 | ||
一人で確認は不安 | 11(3.4) | 31(9.5) | 1(0.3) | 41(12.6) | ||||
左右瞳孔径*2 | ||||||||
一人で測定できる | 125(38.5) | 141(43.4) | .379 | 52(16.0) | 214(65.8) | .001 | ||
一人で測定は不安 | 24(7.4) | 35(10.8) | 1(0.3) | 58(17.8) | ||||
対光反射の消失*2 | ||||||||
一人で確認できる | 143(44.0) | 161(49.5) | .100 | 52(16.0) | 252(77.5) | .220*3 | ||
一人で確認は不安 | 6(1.8) | 15(4.6) | 1(0.3) | 20(6.2) | ||||
頭部・頚部・顔面・体幹・四肢などの損傷,出血,溢血点*2 | ||||||||
一人で確認できる | 127(39.1) | 112(34.5) | <.001 | 48(14.8) | 191(58.8) | .002 | ||
一人で確認は不安 | 22(6.8) | 64(19.7) | 5(1.5) | 81(24.9) | ||||
基本的知識 | 死亡診断等GLの認知 | |||||||
知っている | 80(24.6) | 65(20.0) | .002 | 31(9.5) | 114(35.1) | .026 | ||
知らない | 69(21.2) | 111(34.2) | 22(6.8) | 158(48.6) | ||||
医師法20条 | ||||||||
読んだことがある | 94(28.9) | 99(30.5) | .211 | 34(10.5) | 159(48.9) | .440 | ||
読んだことがない | 55(16.9) | 77(23.7) | 19(5.8) | 113(34.8) | ||||
医師法21条 | ||||||||
読んだことがある | 78(24.0) | 66(20.3) | .007 | 30(9.2) | 114(35.1) | .049 | ||
読んだことがない | 71(21.8) | 110(33.8) | 23(7.1) | 158(48.6) | ||||
ICT 活用状況 |
普段の業務でのICT(PC,スマートフォン,タブレットなど)の活用 | |||||||
活用している | 130(40.0) | 155(47.7) | .823 | 42(12.9) | 243(74.8) | .041 | ||
活用していない | 19(5.8) | 21(6.5) | 11(3.4) | 29(8.9) |
*1:「ない」は,「あまりない」「ない」の選択者数.「ある」は,「ややある」「ある」の選択者数.
*2:「一人で確認(測定)できる」は,「一人で確認できる」「一人でおそらく確認できる」の選択者数.「一人で確認は不安」は,「一人で確認することは少し不安」「一人で確認することはとても不安」の選択者数.
*3:Fisherの正確確率検定を行った.それ以外はPearsonのχ2乗検定を行った.
石川(2011)は,死の三徴候がみられた後,患者に触れずに医師を待った経験があった訪問看護師は48.0%,医師の死亡確認を待たずに死後の処置を行った経験があった訪問看護師は17.3%と報告している.1県内の調査であり単純比較はできないが,本研究のどちらの項目においても経験している訪問看護師の割合が増加していた.自宅での死亡者数は,2011年156,491名,2017年177,473名と6年間で約2万名増加し(厚生労働省,2018a),在宅看取りを実施する医療施設も年々増加している(厚生労働省,2012,2018b).このように,死亡者数,在宅看取りを実施する施設数の増加等から,訪問看護師が看取りの場面に立ち会う機会が増えていると考えられる.
ステーションの看取り体制として,約80%の訪問看護師が利用者とその家族と看取り場所の合意形成を行い,医師とも死亡時の対応が話し合われていた.また,医師の死亡診断前に死後の処置を行った訪問看護師の約70%が医師から指示があったため,約60%が事前に家族,医師と申し合わせていたためと回答していた.日頃から利用者が最期を迎える準備を行い,必要時に医師の指示を確認しながら死後の処置の実施に至っていると考えられる.
その一方,本人・家族の意向に反して病院へ救急搬送または警察に連絡した経験がある看護師が半数近くいた.理由は「家族が望んだ」が最も多く,訪問看護師は緊急時でも柔軟に家族の想いを汲み取り対応している様子が窺えた.
しかし,家族が望まない救急搬送もあるだろう.後藤ら(2019)は,死亡確認・死亡診断に関する文献検討から,往診可能な医師の不足,すぐに往診できない診療体制等により,安寧な看取りが損なわれていると述べている.本研究においても「医師からの指示」「往診を行っていない」等,医師の方針や診療体制の課題と考えられる理由が約25%みられた.このような場合,死亡診断等GLの活用の可能性があると考えられ,望まれない救急搬送等の減少が期待される.
2. 訪問看護師の死亡診断に関する認識の現状 1) 看護師が死亡診断に携わることについて死亡診断に携わることに不安があると回答した訪問看護師は83.7%であった.その理由は,死の三徴候の確認や遺体の全身観察に対する不安に比べ「責任が重い」が多かった.平林(2008)は遺体の異常所見の有無の判断は,専門的判断が必要となる絶対的医行為であると述べている.そして看護師も死亡診断は医師が行うべき行為と認識している(長谷川ら,2016).看護師は,これまで絶対的医行為とされる死亡診断に看護師が携わることがよいのかという不安から責任が重いと回答したと考えられる.また,訪問看護師が遠隔からの死亡診断をできないと思う理由の約7割が「家族が納得しない」であった.看護師も絶対的医行為と認識する死亡診断が,医師の直接対面なく実施されることに対して,家族が納得しないことを懸念していると考えられる.
2) 遠隔からの医師の死亡診断が普及するための課題遠隔死亡診断のための情報提供への自信感と不安には,心音や呼吸音等の死亡確認に必要な観察ができること,死亡診断等GLを知っていること,医師法21条を知っていることが関連していた.これらより,遠隔死亡診断への不安の理由は責任が重いであったが,看護師自身の身体観察技術の向上や死亡診断に関する情報を得ることにより軽減すると考えられる.そのうち死の三徴候等の死亡確認に必要な項目は,75%以上の訪問看護師が一人で確認できると回答している.そのため,死亡診断に必要な法医学の知識,関連情報を得ることができれば,訪問看護師は安心して死亡診断の場面に携わることができると考える.法医学の知識・実地研修,家族への接し方等が含まれた法医学研修会の受講の必要性が再確認できた.
しかし,死亡診断等GL,法医学研修会を知っている看護師は約半数であった.今回の調査は,死亡診断等GLが公表され約1年経過した段階での調査であったこともあり,まだ訪問看護師に認知されていない現状があったと考えられ,看護師への周知を継続して行う必要がある.
さらに,看護師は家族が受け入れないことを懸念しているため,医療関係者のみでなく,一般市民に医師の遠隔からの死亡診断を受け入れられるよう周知し,看護師にとって死亡診断に携わりやすい環境を作ることが必要と考える.
本研究では,有効回答率が18.2%と低かった.死亡診断等GLが示す法医学研修会の受講要件を満たす看護師個人を対象としたが,精神疾患に特化したステーションや看取りを行っていないステーション等も対象に含まれていると考えられ,対象の選定方法を検討する必要があった.また,死亡診断に関する訪問看護師の認識を明らかにしたが,ステーションまたは地域の医療提供体制や地理的条件等は検討しておらず,地域性が与える看護師の認識への影響は検討できていない点が限界と考える.
ICTを用いた遠隔からの医師の死亡診断をできないと思う訪問看護師は54.2%であり,その理由は「家族が納得しない」が最も多かった.また,死亡診断に携わることに不安がある訪問看護師は83.7%であり,これまで絶対的医行為とされる死亡診断に対して「責任が重い」と感じていた.
訪問看護師がICTを用いた遠隔からの医師の死亡診断をできると認識するには,身体観察技術の向上や,死亡診断等GL,法律などの死亡診断に関する情報を得ることが重要と示唆された.また一般市民に遠隔からの死亡診断を受け入れられるよう周知し,看護師が死亡診断に携わりやすい環境を作ることが必要と考えられた.
付記:本論文の内容の一部は,第39回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究にご協力いただきました看護師の皆様に深く御礼申し上げます.本研究は公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団研究助成により実施した.
利益相反:本研究における利益相反はない.
著者資格:YTおよびTFは研究の着想およびデザインに貢献,YTはデータの入手,統計解析の実施および草稿の作成,HM・TFは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言,全ての著者は最終原稿を読み,承認した.