Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Verification of The Usefulness of Salivary Secretion Measurement Associated with Food Perception—Targeting The Elderly and Young People—
Eriko KawazoeKazuhiko Mori
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2020 Volume 40 Pages 396-402

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Abstract

目的:口腔粘膜の乾燥状態を測定する器具である口腔水分計は,食事認知に伴う唾液分泌測定に有用なのかどうかを検証した.

方法:65歳以上の男女10名と20代の男女10名を対象に口腔水分計を使用し,食品刺激前と後(プリン,白飯をそれぞれ目の前,口元に持っていく)で口腔内乾燥度に差が生じるのかを調査,分析した.

結果:食品刺激の前後で口腔内乾燥度に有意差があった.高齢者で有意差はなかったが,若者ではプリン口元,白飯目の前で有意差を認めた.

結論:プリンは口元まで持っていかないとにおわない,白飯は目の前に置いた時点でにおうことを鑑みると,食品の香りが食事認知に伴う唾液分泌に影響していることが示唆された.高齢者では有意差は出なかったが,食事認知に伴う唾液分泌の変化を捉える器具として口腔水分計が有用である可能性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: To determine whether the Oral Moisture Checker for Mucus®, a device that measures dryness of the oral mucosa, is useful for measuring salivation associated with food perception.

Methods: Presence of a difference in mouth dryness after food stimulation using pudding and rice, which were each placed before the subject’s eyes and near his or her mouth, was examined using an oral moisture meter in 10 healthy men and women aged 65 years or older and 10 healthy men and women in their 20s. The data were then analyzed.

Results: There was a significant difference in the dryness of the mouth before and after food stimulation. Although there was no significant difference among the elderly, In the young subjects, a significant difference in mouth dryness was seen between before and after food stimulation when pudding was brought near the subject’s mouth and rice was placed in front of his or her eyes.

Conclusion: In view of the fact that the subjects did not smell the pudding unless it was brought near their mouth and smelled the rice the moment it was placed before their eyes, the results suggested that the smell of food affected salivation associated with food perception. Although no significant difference before and after food stimulation was seen for the elderly subjects, suggesting that the oral moisture meter may be a useful device for determining changes in salivation associated with food perception.

Ⅰ. はじめに

現在,我が国では高齢化が進み,高齢者の健康寿命を延ばすことは喫緊の課題である.健康な生活を高齢者が送るためには,安全な食事は欠かせないものであり,特に唾液分泌は,口腔内に侵入した細菌の増殖を抑える,食べ物の中の味物質を溶解することで味覚を促進するというだけでなく,口腔粘液を湿らせ,咀嚼・嚥下を円滑にする上でも重要な役割を果たしている(柿木・山田,2005福村,2016).そのため,環境による唾液分泌の変化を知ることは安全な食生活を送る上で必要であると考える.しかし,食事認知による唾液分泌の変化を客観的に知る方法は確立されていない.食事に関する認知では,味や香りの感じ方に関与するのは,記憶,対象物に対する注意のむけ方,他の感覚を介して得られる情報など様々な要因があるとの報告がある(岡本,2019).加えて認知は「様々な精神活動の集積.注意,記憶,言語,知覚,行為,抽象化力,判断と問題解決など適応行動の手段を構成するすべて」(Pryse-Phillips, 1999)とされている.本研究でいう食事認知は「食事に関する記憶,対象物に対する注意のむけ方,他の感覚を介して得られる情報のすべて」と操作的に定義し,食事認知による唾液分泌の変化を客観的に知る方法として,口腔内乾燥度の測定に用いられている口腔水分計を使用できないかと考えた.口腔水分計は,舌を突き出した状態で,感染予防のためのセンサーカバーを装着し,2秒間と簡易に口腔内の水分量測定が可能であリ,口腔乾燥に対する臨床的予測精度が高いことは実証されている(齊藤ら,2008a).日本で取り扱われている口腔水分計には口腔水分計モイスチャーチェッカームーカス®(スカラ社製,以後,従来型とする)と口腔水分計ムーカス®(ライフ社製,以後,改良型とする)の2種類があり(齊藤ら,2008a),加齢や疾患による口腔内乾燥の実態(熊坂ら,2013新川ら,2009Murakami et al., 2009友寄ら,2005齊藤ら,2008b大槻ら,2008),含嗽液の唾液分泌効果(吉川ら,2013),保湿剤の効果(黒澤・荻野,2004田村ら,2009),口腔ケアの効果(玉置ら,2008),など様々な臨床研究で用いられている.従来型,改良型の測定器の精度はどちらも比較的良好であるが,口腔乾燥に対する臨床的予測精度は,従来型よりも改良型のほうが高いと考えられおり,先行研究の約9割で使用されている.我々は,食事認知と唾液分泌の関係性を明らかにすることで,より良い食事環境についての検討を行っていきたい.本研究は,口腔粘膜の乾燥状態を測定する器具である口腔水分計を食事の認知に伴う唾液分泌測定に有用なのかどうかを検証することを目的とした.

Ⅱ. 目的

口腔粘膜の乾燥状態を測定する器具である口腔水分計を食事の認知に伴う唾液分泌測定に有用なのかどうかを検証する.

Ⅲ. 方法

1. 研究デザイン

実験研究

2. 対象者

A地域の集まりに参加している高齢者,研究者が勤務する大学以外のB地域の若者で書面により同意の得られた65歳以上の男女10名,20代の男女10名とした.なお,①日常生活において自立した生活が難しいもの②意思疎通に問題があるもの③口腔,鼻腔に何らかの疾患を抱えているもの④糖尿病を患っているもの(空腹での実施であり,低血糖症状が出現する恐れあり)⑤実験当日の健康状態に問題があるものは除外した.実験当日の食事は午前8時までに済ませてもらい,飲水は自由であるが,糖分を含む飲み物は不可とした.朝食後,約5時間後までに調査を終了し,朝食後水分を摂っていない場合は,調査前に水分摂取を促し,調査終了後すぐに摂取できるようお茶,ジュース,お菓子を用意した.加齢に伴う影響を考慮し,若者を高齢者の比較対象とした.

3. 調査期間

2018年8月8日から8月24日

4. 測定環境

本学の人工気候室内にて室温24~25°C,湿度60%に設定し実施した.

5. データ収集

1) 測定方法

(1) 口腔水分計による口腔内乾燥度の測定

口腔内乾燥度の測定は改良型(以後,口腔水分計とする)を使用した.毎回,研究者1名が行い,測定者に起因する測定誤差を最小限とするため事前に訓練した.測定は舌を突き出した状態で,舌背先端から約10 mmの舌背中央部に垂直となるように一定の測定圧(200 g程度)で測定するのが妥当とされており(福島ら,2007),デジタルお料理はかりKD173(タニタ社製)を用い200 g程度の測定圧で実施することが出来るよう体得し,いづれも研究者1名が測定した.また,口腔水分計使用の正確な測定をおこなう上で,測定する前は5分間程度,身体的,精神的に安静状態を設定することで,より再現性の高いデータが得られるとされており(福島ら,2009),基本的に各データの測定間隔は5分間ずつとした.

(2) 食事認知に伴う口腔内乾燥度の測定

はじめに,研究対象者がいすに座った状態で口腔水分計を使用し,舌背部に口腔水分計を2秒間あて口腔内乾燥度を測定した.1分後,その5分後に再度口腔乾燥度を測定し,その後,食品1(プリン)が目前にある状態(以下,プリン目の前とする),食品1(プリン)を口元に運んだ状態(以下,プリン口元とする),食品2(白飯)が目前にある状態(以下,白飯目の前とする),食品2(白飯)を口元に運んだ状態(以下,白飯口元とする)の1分後に口腔内乾燥度を測定した.食事認知に伴う口腔内乾燥度を調査する上で,まず食品2(白飯)は日常的な食べ物であること,好みの違いを考慮し手軽に準備できるものということで食品1(プリン)を選定した.なお,食品1,2の順番に関してはランダムとした.口腔内乾燥度の測定については3回の測定を行い,その中央値をとることが妥当であるとする研究はあるが(福島ら,2007),本研究においては,測定回数が多くなることでの対象者の負担を考慮し,食品での刺激後の口腔乾燥度の測定は1回のみとした.また,研究対象者の行動の変化の有無の確認,データの正確性の確認のため,対象者の許可を得た上で,ビデオで撮影を行った.

2) 研究対象者の基礎情報の収集

(1)質問紙を用いて性別,年齢,職種,健康状態(空腹を含む身体症状の有無・服薬状況の有無,夜間の睡眠状況など),好みの食品,主観的乾燥感を確認した.

(2)研究対象者の座高を計測し,オーバーテーブルの高さを決定する.オーバーテーブルの高さは,座高の3分の1の値から2~3 cm減じた値が適当とされており(小原ら,1967),それを用いた.

6. 分析方法

対象者の測定前口腔内乾燥度と4回の刺激後(プリン目の前,プリン口元,白飯目の前,白飯口元)の口腔内乾燥度を調査し,測定前口腔内乾燥度は,座った状態,1分後,5分後の計3回の中央値を求めた.各データは,Shapiro-Wilk検定を用い正規分布しているか確認した上で,①高齢者と若者の年代差による測定前口腔内乾燥度の差②男女の性差による測定前口腔内乾燥度の差③口渇の有無による測定前口腔内乾燥度の差④測定前口腔内乾燥度と4回の刺激後の口腔内乾燥度の差⑤高齢者,若者別での測定前口腔内乾燥度と4回の刺激後の口腔内乾燥度の差を検討した.なお,②③④は,高齢者,若者を分けずに分析を行った.検定では,①②③はステューデントt検定,④は対応のあるt検定を用い,p < 0.05をもって有意差ありとした.また⑤は,高齢者,若者別で二元配置分散分析(two-wayANOVA)を用い,群間の有意差を確認後,多重比較(Tukey法)を行った.統計処理はSPSS Ver. 26 for Windows を用いた.

7. 倫理的配慮

本研究は,大阪市立大学生活科学部・生活科学研究科研究倫理委員会(承認番号:18-12)の倫理審査で承認を得た後に行った.研究実施前に研究の目的を文書と口頭で説明する.さらに,研究協力は自由意思であること,協力を拒否した場合でも不利益がないこと,データは個人が特定されないように処理し,プライバシーを厳守すること,この研究以外にデータを使用しないこと,結果の公表は文書と口頭にて説明し,研究の同意が得られたものを対象とした.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の特徴

高齢者は,65歳以上の男女10名で,そのうち測定に不備があった高齢者10名中1名を分析から除外した.若者は,20代の男女10名で,高齢者9名と若者10名の計19名を分析対象とした.対象者の特徴は表1に示す.高齢者は,男性3名,女性6名で平均年齢は71.2 ± 5.9歳であった.若者は,20代の男性3名,女性7名で平均年齢は22.5 ± 1.6歳であった.歯の本数は,高齢者では平均本数は25.1 ± 5.5本,若者では平均本数は28.9 ± 1.7本であった.そのうち,高齢者では人工歯を使用していたものは2名であり,Hは差し歯10本を含む25本,Iは部分入歯5本を含む23本となっていた.空腹であると答えたものは,高齢者の約3割,若者7割であった.口渇があると答えたものは,高齢者の約6割,若者4割であった.喫煙者は高齢者1名のみであった.飲酒は,高齢者の約6割,若者3割がありと答えていた.食物アレルギーは全員なく,高齢者1名,若者1名のいづれも男性がプリンを好きではないと答えていた.服薬は,口腔内乾燥につながる可能性のあるものとして高齢者では5名が降圧剤,うち1名が利尿剤を服薬していたが,若者では服用している薬剤はなかった.

表1  対象者の特徴
対象 年齢 性別 座面からの
オーバー
テーブル
高さ(cm)
歯の本数 空腹 口渇 喫煙 飲酒 食物
アレルギー
プリン 白飯 服薬
A 70代 男性 28 30 なし なし なし あり なし 嫌い 好き 降圧薬,抗血栓薬,高脂血症治療薬
B 70代 男性 29.8 30 なし なし なし なし なし 好き 好き 降圧薬,抗血栓薬,利尿剤
C 60代 女性 25.2 28 なし なし なし なし なし 好き 好き 降圧薬
D 60代 女性 25.5 20 なし あり なし あり なし 好き 好き なし
E 60代 女性 26.5 30 あり あり なし あり なし 好き 好き 降圧薬,高脂血症治療薬,漢方薬
F 70代 女性 28.3 26 なし あり なし なし なし 好き 好き なし
G 70代 女性 25.3 29 なし あり なし あり なし 好き 好き 降圧薬,睡眠薬
H 60代 女性 27.9 25(うち差し歯10本) あり なし なし なし なし 好き 好き なし
I 60代 男性 26.1 23(うち部分入歯5本) あり あり あり あり なし 好き 好き なし
J 20代 女性 27.9 30 あり あり なし なし なし 好き 好き なし
K 20代 女性 26.2 28 なし あり なし なし なし 好き 好き なし
L 20代 女性 26.5 32 あり なし なし あり なし 好き 好き なし
M 20代 男性 29.3 28 なし なし なし なし なし 好き 好き なし
N 20代 男性 29.2 28 あり なし なし あり なし 好き 好き なし
O 20代 女性 28.5 28 あり あり なし なし なし 好き 好き なし
P 20代 女性 27 27 あり なし なし あり なし 好き 好き なし
Q 20代 女性 27 28 あり あり なし なし なし 好き 好き なし
R 20代 女性 28.2 32 あり なし なし なし なし 嫌い 好き なし
S 20代 男性 27.5 28 なし なし なし なし なし 好き 好き なし

2. 実験結果

対象者の測定前口腔内乾燥度と4回の刺激後(プリン目の前,プリン口元,白飯目の前,白飯口元)の口腔内乾燥度の各データは,Shapiro-Wilk検定を用い正規分布しているか確認した結果,いづれも正規分布していた.その結果を踏まえ分析を行った.各群における口腔内乾燥度の比較を表2に示す.①年代差による測定前口腔内乾燥度では,高齢者9名,若者10名であり,高齢者の平均値29.1 ± 1.9,若者の平均値29.7 ± 1.3,②男女の性差による測定前口腔内乾燥度では,年齢に関係なく男性6名と女性13名を対象とし,男性の平均値28.5 ± 1.9,女性の平均値29.9 ± 1.2,③口渇の有無による測定前口腔内乾燥度の差では,年齢,性別に関係なく口渇のあるもの9名と,口渇のないもの10名を対象とし,口渇のあるものの平均値29.2 ± 1.5,口渇のないものの平均値29.7 ± 1.7であった.ステューデントt検定を用いて分析し,順にp値は,①0.41②0.80③0.49であり,有意差を認めなかった.④測定前口腔内乾燥度と4回の刺激後の口腔内乾燥度の差では,測定前口腔内乾燥度の平均値29.4 ± 1.6,4回の刺激後の口腔内乾燥度の平均値30.7 ± 1.1で対応のあるt検定を用いて分析し,p値は0.00で有意差を認めた.刺激後の口腔内の方が潤っていた.⑤高齢者と若者それぞれで二元配置分散分析(two-wayANOVA)を用い,測定前口腔内乾燥度と4回の刺激後の口腔内乾燥度の差を分析した.高齢者では,測定前口腔内乾燥度の平均値29.1 ± 1.9,4回の刺激後の口腔内乾燥度の平均値はプリン目の前29.7 ± 1.2,プリン口元30.4 ± 1.5,白飯目の前30.1 ± 2.0,白飯口元30.3 ± 1.2であり,p値は0.24で有意差を認めなかった.若者では,測定前口腔内乾燥度の平均値29.7 ± 1.3,4回の刺激後の口腔内乾燥度の平均値はプリン目の前30.3 ± 2.0,プリン口元31.8 ± 1.8,白飯目の前31.7 ± 1.3,白飯口元30.9 ± 0.9であり,p値は0.01で有意差を認めた.また,若者に多重比較(Tukey法)を行った結果,p値は測定前口腔内乾燥度とプリン口元間で0.01,測定前口腔内乾燥度と白飯目の前で0.03と有意差を認めた.プリンでは,対象者の食品に対する意見はなかったが,白飯は目の前においた時点で,「いい香りや」と口にする高齢者は1名いた.

表2 

各群における口腔内乾燥度の比較

Ⅴ. 考察

1. 測定前の口腔内乾燥度の検証

健康な高齢者と若者の口腔内乾燥度を比較した研究は見当たらないが,本研究では,高齢者と若者の測定前口腔内乾燥度に差はなかった.口腔内乾燥度の測定については,測定前は3回,食品刺激後の口腔乾燥度の測定は1回のみとしたが,対象者からは更なる口渇の訴えはなかったため,本研究においての測定回数は,対象者の負担を考慮すると妥当であったと考える.事前の調査で口渇があると答えたものは高齢者の約6割,若者4割であり,全体の約半数を占めていた.口渇に関する先行研究では,成人の歯科受診者を対象とした喫煙が唾液に及ぼす影響に関する調査において,口腔内湿潤度は喫煙者の方が非喫煙者に比べて有意に低値であるとする報告(田野ら,2016),韓国の高齢者集団における口渇の有病率と重症度の調査において,口渇は喫煙者では増加するとの報告がある(Chung et al., 2010).本研究では,唯一の喫煙者である対象者Iの測定前をみると26.3でどの対象者よりも口腔内乾燥度が高く,主観的な口渇を認めた.しかし,喫煙者でなおかつ口腔内乾燥度が高かったとしても,食事認知により口腔内乾燥度は変化しており,喫煙者であっても食事の認知により口腔内が潤っていることがわかった.しかし,1事例のみであり,食事認知における唾液分泌への影響は,さらなる調査が必要であると考えられる.同時に,口渇は女性,そして年齢や服用回数の増加に伴って増えるとしている(Chung et al., 2010).まず,男女の性差については,高齢歯科患者の口腔不快症状の実態調査において,70歳以上の高齢女性は口腔乾燥感,および唾液の粘稠感出現率は男性よりも高いとする研究がある(下山ら,1995).一方,口腔内乾燥度では,施設入所者を対象とした口腔粘膜水分量の調査において,女性のほうが口腔内乾燥度は高いとする研究(齊藤ら,2008b)がある.本研究は対象者が少なく口腔内乾燥度では有意差がでなかったものの,口渇があると答えた高齢者5名のうち,喫煙者である対象者H(男性)を除く4名が女性,若者では4名すべてが女性であったことから口渇,つまり口腔乾燥感という自覚症状においては,先行研究とほぼ同様の結果であったといえる.次に年齢による測定前口腔内乾燥度の平均を比較すると,高齢者では口腔内乾燥度の平均は29.1,若者では29.7であり,年齢が高くなると口腔内乾燥度が高くなるという先行研究と同様の傾向を示していた.服薬回数の増加については,ナーシングホームの高齢者を対象とした口腔乾燥症による生活の質への影響に関する調査において,口腔乾燥症は消費された薬物の数によって有意に影響を受けているとする研究(Herrmann et al., 2015),歯科患者を対象とした口腔乾燥症の危険因子に関する調査においても,歯科患者にとって薬の使用と年齢が口腔乾燥症の重要な危険因子であるとする研究がある(Villa et al., 2011).本研究では,服薬ありと答えたものは,高齢者5名のみであり,そのうち口渇ありと答えたものは2名であった.1名は降圧薬,睡眠薬,もう1名は降圧薬,高脂血症治療薬,漢方薬を服用していた.口腔内乾燥に影響する可能性がある薬剤として降圧剤を服用しているが,この2名の高齢者が服用している降圧剤は,血管を広げて末梢血管抵抗を減らし血圧を下げるタイプのものであったため(カルシウム拮抗薬,アンギオテンシンII受容体拮抗薬),口渇に影響しているとはいえない.また,口渇ありと答えたものの割合は少なく,本結果において薬物使用が口腔内乾燥度に影響しているとは言いがたいと考える.加えて,歯の本数については,高齢者では平均本数は25.1 ± 5.5本,若者では平均本数は28.9 ± 1.7本であった.20本以上の歯があれば,食生活にほぼ満足することができるという理由から,1989年(平成元年)より当時の厚生省と日本歯科医師会が推進している8020運動,80歳になっても20本以上自分の歯を保つことが重要視されている.本研究では,高齢者の約8割が20本以上の歯を保つことを達成できており,達成できていない場合は,部分義歯,差し歯などの人工歯を用いることで,年代による口腔内乾燥度に差は生じない可能性があることがわかった.

2. 食事認知における口腔水分計使用の検証

本調査は,口腔粘膜の乾燥状態を測定する器具である口腔水分計は,食事認知に伴う唾液分泌測定に有用なのかどうかを検証する目的があり,測定前口腔内乾燥度と4回刺激後の口腔内乾燥度測定の結果,有意差を認めた.プリン,白飯のどちらを先に出したのかということ,プリンのみ好きではないと答えた対象者がおり,それにより結果が異なるのかについても検討したが,規則的なものを見つけることはできなかった.また,食品刺激前と刺激後の口腔内乾燥度において,高齢者では有意差を認めなかったが,若者ではプリン口元,白飯目の前で有意差を認めた.プリンは口元まで持っていかないとにおわない,白飯は目の前に置いた時点でにおうことを鑑みると,食品の香り,しいては嗅覚による情報が食事認知に大きく影響していることが示唆された.今回の調査結果を踏まえると,食事介助を行う際,食べ物によっては食品の配置に留意しないと口腔内が潤わず,唾液分泌が促されない可能性がある.そうなると食事を楽しむことだけでなく,食事が安全なものでなくなる可能性があり,本研究は,高齢者の食事介助のあり方を考える上でも一助になりうると考える.今後,食事認知と唾液分泌の変化を捉えていく中で,その人の嗅覚ならびに主観的な意見と食品の香りの関係も検討に加えていく必要があると考える.いづれにせよ若者では,測定前口腔内乾燥度とプリンや白飯といった食品を目の前で見せる,あるいは口元にもっていくでは,口腔内乾燥度に差が生じており,食欲など食事認知に伴う唾液分泌の評価に口腔水分計による口腔内乾燥度の測定は有用である可能性が示唆された.

Ⅵ. 結語

本研究において,空腹な状態では,測定前口腔内乾燥度とプリンや白飯といった食品を目の前で見せる,あるいは口元にもっていくでは,口腔内乾燥度に差が生じていた.プリンは口元までもっていかないとにおわない,白飯は目の前に置いた時点でにおうことを鑑みると,食品の香りが食事認知に伴う唾液分泌に影響していることが示唆された.高齢者では有意差は出なかったが,食事認知に伴う唾液分泌の変化として口腔水分計が有用である可能性が示唆された.

付記:本研究は,第39回日本看護科学学会学術集会で発表した.

謝辞:本研究に積極的にご協力いただいた研究協力者の皆様,関係者の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:EKは,研究の着想,研究デザイン,データ収集,統計解析,分析解釈,原稿作成に貢献した.KMは,研究デザイン,分析解釈,原稿への示唆に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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