Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Effects of Self-management Behavior on QOL, Biometric Data and Medical Cost among Kidney Transplant Patients: One-year Prospective Cohort Study
Naotaka IkedaAyumi Kono
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2020 Volume 40 Pages 439-447

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Abstract

目的:腎移植患者の自己管理行動がQOLと生体データと医療費に及ぼす影響を1年間の前向きコホート研究で明らかにする.

方法:腎移植患者225名に,自記式質問紙調査を実施した.自己管理行動の評価に腎移植患者自己管理尺度,健康関連QOLの評価にSF-12を測定した.電子カルテデータより,分析対象者の基本属性と生体データを把握し,レセプトデータの診療報酬請求情報から医療費を算出した.

結果:分析対象者132名のうち,役割/社会的QOL得点(F(1, 50) = 14.85, p < .001)とトリグリセリド値(F(1, 61) = 9.83, p < .001)において自己管理行動と時期の交互作用を有意に認めた.医療費では,自己管理高群が有意に外来行為明細点数料を削減していた(F(1, 123) = 4.06, p = .044)が,外来医療費総計と医療費総計では有意な差はなかった.

結論:腎移植患者の適切な自己管理行動がQOLの向上と生体データの維持に効果を及ぼすことが示唆された.

Translated Abstract

Aim: The purpose of this study was to clarify the effects of self-management behavior, quality of life (QOL), biometric data, and medical costs on kidney transplant patients in a 1-year prospective cohort study.

Methods: The participants were 225 patients who underwent kidney transplantation. Self-management behavior was measured using the self-administered Kidney Transplant Self-management scale (Japanese version), and health-related QOL was examined using Medical Outcomes Study 12-Item Short-Form Health Survey. Participant characteristics and biometric data were obtained from the patients’ electronic medical record data, and medical costs were calculated from medical fee billing information (EF files).

Results: Among the 142 participants whose data were analyzed, the interaction of self-management behavior and time was identified as significant in Role/Social component summary QOL score (F(1, 50) = 14.85, p < .001)and Triglyceride (TG) value (F(1, 61) = 9.83, p < .001). Regarding medical expenses, the high self-management group had reduced outpatient medical expenses (F(1, 123) = 4.06, p = .044), but there was no significant difference in the total outpatient and total medical costs.

Conclusion: The results suggested that appropriate self-management behavior of kidney transplant patients had a positive effect on quality of life, biometric data.

Ⅰ. 緒言

末期腎不全患者における腎代替療法には,血液透析,腹膜透析,腎移植の選択肢が挙げられる.中でも腎移植は身体的・時間的制限を伴う透析療法からの解放によって生活の制約が少なく,食事制限も緩和されるため,Quality of Life(以下QOL)の大きな向上が期待できる(Tonelli et al., 2011).また,他の腎代替療法に比べ,生存予後に優れており,心血管疾患の発生率が低く(Gill et al., 2007),医療経済的にも優れた治療法とされている(近藤・牧野,2011).

腎移植患者の移植後1年間の医療費は,生体間腎移植で平均667万円,献体間腎移植で平均852万円と高額であるが,2年目以降の年間総医療費は約4分の1程度まで低下する(仲谷ら,2010).一方で,施設血液透析の医療費は年間480万円と腎移植患者の1年目に比べて低額であるが,経年的変化はみられないことから,移植後20か月が経過すると生体腎移植の積算医療費は施設血液透析療法の積算医療費を下回る(内田・仲谷,2017).このことから,移植腎の長期生着を目標としたケアとその支援体制が必要である.

腎移植患者の移植腎機能の低下には,免疫反応による拒絶反応と肥満・生活習慣病などによる非免疫要因があると報告されている(Kaplan, 2006).腎機能が高度に低下した場合,他の腎代替療法である透析療法を余儀なく導入せざるを得ず,腎移植患者のQOLが著しく低下する(Maglakelidze et al., 2011)とともに医療費の増大に繋がる.移植腎の長期生着のために腎移植患者は,適切な日常生活管理と服薬継続,感染予防行動や定期的な受診行動などの自己管理行動が必要である(Kosaka et al., 2013).海外においては,腎移植患者の良好な生活習慣が移植後合併症の予防に有用とされているが(Faenza et al., 2007),本邦においては,腎移植患者における自己管理行動の実態調査や定質的に検討した横断研究の報告に留まる(田邉ら,2015中尾ら,2019).

以上より,本研究では,腎移植患者の自己管理行動が健康関連QOLと生体データと医療費に良好な影響を及ぼすと仮説を立て1年間の前向きコホート研究により検証する.

Ⅱ. 方法

1. 研究デザイン

本研究のデザインは前向きコホート研究である.

2. 研究対象者

対象者は,2018年6~8月に腎移植外来に通院する腎移植患者全数307名のうち,質問紙への回答が困難な患者5名,入院患者5名を除外した297名(100%)とした.調査期間内に腎移植外来に通院し調査の同意を得られた225名(75.7%)に質問紙を配布し,その結果,回収数170名(57.2%)のうち有効回答数132名(44.4%)を分析対象者とした.調査対象の選定要件は1)20歳以上であること,2)腎移植術を受けて透析再導入に至っていないこと,3)言語的コミュニケーションが可能なこと,4)日本語の質問紙に回答が可能なこと,5)2018年6月時点で腎移植後1年以上経過しているものとした.

3. 調査項目

1) 自己管理行動

腎移植患者の自己管理行動として,日本語版Kidney transplant self-management scale(Kosaka et al., 2013)を使用し把握した.本尺度は24項目の適切な自己管理行動の実行に関する質問に対して,「まったくあてはまらない」から「とてもあてはまる」で回答し1~4点として加算した合計点で評価する.調査項目は「セルフモニタリング」,「移植後の日常生活管理」,「移植後の異常に対する早期対処」,「ストレス管理」の4つの下位尺度と臨床的に重要な4つの単一項目であり,合計点が高いほど自己管理が良好であると判断する.本研究では,2018年6~8月に行った自記式質問紙調査の合計スコア四分位範囲(Interquartile range:以下IQR)における第1四分位数をカットオフとして自己管理低群/高群に分類した.

2) 基本属性

対象者の基本属性として,質問紙から氏名,性別,年齢,就労状況を把握し,電子カルテデータからは,ドナーソース,移植前透析期間,移植後経過期間,合併症(糖尿病,高血圧,脂質異常症)の有無を把握した.

3) QOL(健康関連QOL)

対象者のQOLとして,MOS 12-Item Short-Form Health Survey(以下SF-12v2)を使用して健康関連QOLを把握した.SF-12v2(福原・鈴鴨,2004)は,健康関連QOLを測定する信頼性・妥当性が検証された自記式尺度であり,本研究では,SF-12v2によって測定される身体的側面のQOLサマリースコア(Physical component summary以下PCS),精神的側面のQOLサマリースコア(Mental component summary以下MCS),役割/社会的側面のQOLサマリースコア(Role/Social component summary以下RCS)を用いた.QOLサマリースコアは,国民標準値と比較して算出される偏差得点であるため,50以上であればQOLが国民標準値より高く,50未満であればQOLが国民標準値より低いと判断する(Suzukamo et al., 2011).

4) 生体データ

腎機能として,電子カルテより推定糸球体濾過量(Estimated Glomerular Filtration rate:以下eGFR)を把握した.その他の生体データとして,腎移植患者の腎機能維持に重要な高血圧,糖尿病,肥満など生活習慣病に関連する要因のBody mass index(以下:BMI),収縮期血圧(Systolic Blood Pressure:以下SBP),拡張期血圧(Diastolic Blood Pressure:以下DBP),ヘモグロビンA1c(Hemoglobin A1c以下:HbA1c),トリグリセリド(Triglyceride:以下TG),低比重リポタンパク質(Low density lipoprotein:以下LDL),高比重リポタンパク質(High density lipoprotein:以下:HDL)を把握した.

5) 医療費

医療費として,入院・外来の医科点数表による診療報酬請求情報(以下EFファイル)における,各データエレメント(データ識別番号,円点区分,行為明細点数,行為明細薬剤料,行為明細材料料,行為回数,実施年月日など)を把握した.円・点区分における点数記載は1点10円として換算し,行為明細点数,行為明細薬剤料,行為明細材料料の総和を医療費の総計とした.なお,行為明細薬材料には外来処方箋から推定した必要な薬剤費を加算した.

4. 調査方法

データ収集方法は自記式質問紙調査と電子カルテデータ・レセプトデータの収集である.自記式質問紙調査は2018年6~8月と2019年6~8月の2回行った.1回目の自記式質問紙調査で研究の同意を得られた対象に,QOLに関する2回目の自記式質問紙調査を行った.2回目の自記式質問紙調査の未回答数28名はQOL得点の欠損者とした.分析対象者132名の電子カルテデータの収集は2018年6月と2019年6月に行い,レセプトデータは2018年6月~2019年5月までの1年間のデータを収集した.

5. 分析方法

正規性の検討のために基本属性の各項目にコルモゴロフ-スミルノフ検定を行い,生体データに正規性がないことを確認した.自己管理行動と基本属性の関連を検討するために,連続変数の基本属性はマンホイットニーのU検定を行い,中央値(IQR)で示した.同様に自己管理行動との関連を検討するために,離散変数の基本属性はχ2検定を行った.

自己管理行動とQOL・生体データとの関連を検討するために,変量効果に対象者,固定効果に共変量を投入した自己管理行動(低群・高群)×時期(開始時・1年後)の2要因混合効果モデルを行った.変量効果は,腎移植患者全体を母集団として,本研究の対象者はそのサンプルであると想定されることから,対象者を選択した.共変量は,QOLと生体データに関連すると予測される,対象者の基本属性である性別,年齢,移植後経過期間(ヵ月),合併症の有無,ドナーソースを選択した.最後に自己管理行動と医療費との関連を検討するために,変量効果に対象者,固定効果に共変量を投入した1要因混合効果モデルを行った.なお,生体データと医療費については,2回目のQOL自記式質問紙調査の未回答者28名を除外した104名で同一の解析を行った.統計解析には,SAS University Editionを用い,危険率5%未満を有意とした.

6. 倫理的配慮

本研究は,大阪市立大学大学院看護学研究科倫理審査委員会(承認番号 29-7-3).対象者には調査の趣旨や目的を明記した文書を配布し,目的,意義,方法,匿名性の維持,参加の自由,不参加による不利益がないこと,電子カルテデータとレセプトデータの転記を行うことを口頭にて説明した.質問紙の回答ならびに提出をもって調査に同意したとみなし,対象者はIDにて匿名化し,管理・分析した.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の基本属性

対象者の基本属性についてはベースライン時点で,女性が46.2%であり,年齢の中央値は55歳(IQR:46~65)歳,就労ありの者は57.6%であった.ドナーソースは生体間腎移植が89.3%と多数を占め,移植前透析期間の中央値は23ヵ月(IQR:7~73),移植後経過期間の中央値は86ヵ月(IQR:40~149)であった.合併症は,糖尿病の診断があるものは15.1%,高血圧の診断があるものは83.3%,脂質異常症の診断があるものは56.8%であった.自己管理行動との関連では,移植後経過期間が,自己管理高群の中央値は74ヵ月(IQR:35~120)に比べ自己管理低群の中央値は131ヵ月(IQR:59~173)であり,有意に移植後経過期間が長かった(U = 2804.0, p = .01).

健康関連QOLサマリースコアは,PCSの中央値46.9点(IQR:40.3~53.1),RCSの中央値40.8点(IQR:32.6~48.6)であり,国民標準値の50点を下回っていた.MCSの中央値は53.3点(IQR:48.7~58.3)点で国民標準値の50点を上回っていた.自己管理行動と健康関連QOLサマリースコアには有意な差はなかった.

生体データでは,収縮期血圧の中央値124 mmHg(IQR:112~132),拡張期血圧の中央値72 mmHg(IQR:66~78),BMIの中央値21.8 kg/m2(IQR:19.1~24.6),HbA1cの中央値5.8%(IQR:5.5~6.4),TGの中央値108 mg/dL(IQR:77~147),HDLの中央値68 mg/dL(IQR:54~82),LDLの中央値102 mg/dL(IQR:85~21),eGFRの中央値42.5 ml/min/1.73 m2(IQR:34.3~53.8)であり,腎機能以外は正常値の範囲であった.自己管理行動との関連では,HDLが,自己管理高群の中央値は70 mg/dL(IQR:58~83)に比べ,自己管理低群の中央値は59 mg/dL(IQR:51~76)であり,有意にHDLが低かった(U = 1873.5, p = .03)(表1).

表1  対象者の基本属性(n = 132)
n(%)or Median(IQR) n(%)or Median(IQR) χ2値or U値2) p
全数
n = 132)
自己管理高群1)
n = 97)
自己管理低群1)
n = 35)
基本属性
性別 女性 61(46.2) 45(46.4) 16(45.7) <0.1 .94
男性 71(53.8) 52(53.6) 19(54.3)
年齢 55(46~65) 56(47~65) 50(44~62) 2120.5 .28
就労 あり 76(57.6) 56(57.7) 20(57.1) <0.1 .95
なし 56(42.4) 41(42.2) 15(42.8)
ドナーソース 生体 118(89.3) 88(90.7) 30(85.7) 0.6 .52
献腎 14(10.6) 9(9.2) 5(14.2)
移植前透析期間 ヵ月 23(7~73) 23(5~68) 24(10~121) 2,508.5 .35
移植後経過期間 ヵ月 86(40~149) 74(35~120) 131(59~173) 2,804.0 .01
合併症
糖尿病 あり 20(15.1) 17(17.5) 3(8.6) 1.6 .21
なし 112(84.8) 80(82.4) 32(91.4)
高血圧 あり 110(83.3) 81(83.5) 29(82.8) <0.1 .93
なし 22(16.6) 16(16.4) 6(17.1)
脂質異常症 あり 75(56.8) 57(58.7) 18(51.4) 0.5 .45
なし 57(43.2) 40(41.2) 17(48.6)
健康関連QOL3)
身体的QOL 46.9(40.3~53.1) 46.8(40.9~53.3) 48.3(37.6~52.4) 2,234.5 .63
精神的QOL 53.3(48.7~58.3) 54.0(49.6~58.9) 52.2(46.7~56.9) 2,055.5 .16
役割/社会的QOL 40.8(32.6~48.6) 41.4(33.6~49.4) 40.1(31.0~48.0) 2,187.5 .47
生体データ
収縮期血圧 mmHg 124(112~132) 122(112~130) 126(112~134) 2,453.0 .51
拡張期血圧 mmHg 72(66~78) 72(64~78) 72(66~82) 2,448.0 .53
BMI kg/m2 21.8(19.1~24.6) 21.7(19.1~24.4) 21.9(19.1~24.8) 2,333.5 .97
HbA1c % 5.8(5.5~6.4) 5.8(5.5~6.4) 5.7(5.3~6.0) 2,239.0 .11
TG mg/dL 108(77~147) 105(77~143) 117(82~151) 2,576.0 .20
HDL mg/dL 68(54~82) 70(58~83) 59(51~76) 1,873.5* .03
LDL mg/dL 102(85~121) 97(81~120) 109(89~122) 2,519.5 .32
eGFR ml/min/1.73 m2 42.5(34.3~53.8) 43.5(36.1~54.7) 38.5(30.9~51.3) 2,051.0 .15

1)日本語版Kidney transplant self-management scale合計スコアの第1四分位数をカットオフとして低群/高群に分類した.

2)自己管理高群と低群の連続変数はU検定を行い,カテゴリカル変数はχ2検定を行った.

3)健康関連QOL(n = 104),自己管理高群(n = 74),自己管理低群(n = 30)

2. 対象者の自己管理行動と生体データ・QOLの関連

健康関連QOLにおいては,PCS得点の交互作用に有意差はなかったが,自己管理行動の主効果に有意差が認められた(F(1, 175) = 5.16, p = .025).RCS得点については,交互作用に有意差が認められ(F(1, 50) = 14.85, p < .001),自己管理行動の単純主効果にも有意差が認められた(F(1, 175) = 9.23, p = .003).RCS得点における最小二乗平均の差では,高群は開始時から1年後に推定値4.6点t(50) = 3.65,p < .001有意に上昇し,低群は有意な差はなかった.

生体データとの関連においては,TGについて交互作用に有意差が認められ(F(1, 61) = 9.83, p < .001),自己管理行動(F(1, 193) = 6.67, p = .011)と時期(F(1, 61) = 12.12, p < .001)の単純主効果にも有意差が認められた.最小二乗平均の差では,高群は開始時から1年後に有意な差はなかったが,低群は推定値34.1 mg/dL t(61) = 3.99,p < .001有意に上昇した.eGFRについては,交互作用に有意差はなかったが,自己管理行動(F(1, 193) = 3.99, p = .041)と時期(F(1, 193) = 19.33, p < .001)の単純主効果に有意差が認められた.最小二乗平均の差では,高群は開始時から1年後に推定値1.7 ml/min/1.73 m2(t(61) = 2.76, p = .044)有意に低下し,低群は推定値3.3 ml/min/1.73 m2(t(61) = 3.44, p < .001)有意に低下した.なお,QOL未回答者28名を除外した104名でのeGFRについては,交互作用に有意差が認められ(F(1, 50) = 4.7, p < .001),時期の単純主効果にも有意差が認められた(F(1, 175) = 18.23, p < .001)(表2).

表2  対象者の自己管理行動と生体データ・QOLの関連(n = 132)
平均推定値(SE 交互作用 自己管理行動 時期
自己管理高群1)
n = 97)
自己管理低群1)
n = 35)
F F F
健康関連QOL2)
身体的QOL(PCS) 開始時 46.7(1.5) 42.5(2.1) 0.6 5.2* 0.8
1年後 45.2(1.6) 42.0(2.2)
精神的QOL(MCS) 開始時 52.3(1.8) 51.1(1.5) 0.06 0.8 3.0
1年後 50.4(1.2) 49.6(1.6)
役割/社会的QOL(RCS) 開始時 38.5(1.7) 37.5(2.8) 14.9** 9.2** 0.03
1年後 43.2(1.8) 33.3(2.3)
生体データ
収縮期血圧 開始時 122.2(2.3) 124.6(2.7) 0.04 1.8 0.3
1年後 120.3(3.4) 124.7(2.3)
拡張期血圧 開始時 71.8(1.1) 72.2(2.0) 0.4 0.3 2.4
1年後 69.0(2.6) 69.0(2.2)
BMI 開始時 21.8(1.0) 22.4(1.1) 1.6 1.5 0.2
1年後 21.6(1.0) 22.5(1.2)
HbA1c 開始時 5.9(0.1) 5.7(0.1) 1.3 1.4 0.3
1年後 5.9(0.1) 5.8(0.2)
TG 開始時 106.3(21.1) 150.5(27.9) 9.8** 6.7* 12.1**
1年後 108.4(20.4) 184.6(28.0)
HDL 開始時 65.4(2.9) 60.4(4.7) 0.2 2.3 1.0
1年後 63.8(3.3) 58.7(5.0)
LDL 開始時 105.9(4.8) 107.9(5.7) 0.6 2.0 1.2
1年後 98.6(4.6) 104.8(5.1)
eGFR 開始時 46.6(2.0) 42.8(2.7) 1.7 4.0* 19.3**
1年後 44.8(1.8) 39.5(2.3)

* p < .05 ** p < .01

混合効果モデル:固定効果の調整変数として性別,年齢,移植後経過期間(ヵ月),合併症の有無,ドナーソース,変量効果として対象者を投入した.

1)日本語版Kidney transplant self-management scale合計スコアの第1四分位数をカットオフとして低群/高群に分類した.

2)健康関連QOL(n = 104),自己管理高群(n = 74),自己管理低群(n = 30)

3. 対象者の1年間の医療費と自己管理行動の関連

調査期間内における入院患者数は41名(31.1%)であり,自己管理高群では32名(33.0%),自己管理低群では9名(25.7%)であった.そのため,1年間の医療費においては,入院関連医療費の行為明細点数料(IQR:0~306,250),行為明細薬材料(IQR:0~43,278),行為明細材料料(IQR:0~950),入院医療費総計(IQR:0~435,497)の中央値は0円であった.自己管理行動と入院関連医療費には有意な差はなかった.

外来関連医療費における行為明細点数料の中央値は231,495円(IQR:178,695~299,005),行為明細薬材料の中央値は1,308,700円(IQR:968,194~1,778,981),行為明細材料料の中央値は0円(IQR:0~0),外来医療費総計の中央値は1,565,118円(IQR:1,192,470~2,107,016)であった.自己管理行動と外来関連医療費には有意な差はなかった.

入院と外来の薬剤費を加算した薬剤費総計の中央値は1,347,811円(IQR:1,009,151~1,840,191),全ての医療費を総和した医療費総計の中央値は1,776,752円(IQR:1,283,052~2,568,687)であり,薬剤費が医療費の大部分を占めていた.自己管理行動と薬剤費総計と医療費総計には有意な差はなかった(表3).

表3  対象者の1年間の医療費(n = 132)
Median(IQR) Median(IQR) U値2) p
全数(n = 132) 自己管理高群1)n = 97) 自己管理低群1)n = 35)
入院関連医療費3)
行為明細点数料 0(0~306,250) 0(0~427,130) 0(0~139,800) 2,059.0 .12
行為明細薬材料 0(0~43,278) 0(0~63,264) 0(0~9,585) 2,073.0 .14
行為明細材料料 0(0~950) 0(0~950) 0(0~0) 2,105.5 .19
入院医療費総計 0(0~435,497) 0(0~523,676) 0(0~14,489) 2,060.0 .12
外来関連医療費
行為明細点数料 231,495(178,695~299,005) 225,210(176,950~287,280) 237,200(189,790~314,920) 2,473.0 .45
行為明細薬材料 1,308,700(968,194~1,778,981) 1,345,525(1,000,698~1,798,763) 1,141,465(753,043~1,730,946) 2,064.0 .17
行為明細材料料 0(0~0) 0(0~0) 0(0~0) 2,310.0 .56
外来医療費総計 1,565,118(1,192,470~2,107,016) 1,582,572(1,242,012~2,101,943) 1,382,802(1,005,010~2,123,851) 2,120.0 .29
薬剤費総計4) 1,347,811(1,009,151~1,840,191) 1,409,629(1,049,172~1,849,325) 1,147,963(753,043~1,730,946) 2,028.0 .12
医療費総計5) 1,776,752(1,283,052~2,568,687) 1,810,357(1,383,051~2,607,845) 1,630,705(1,005,010~2,567,606) 1,999.0 .09

1)日本語版Kidney transplant self-management scale合計スコアの第1四分位数をカットオフとして低群/高群に分類した.

2)自己管理高群と低群のU検定を行った

3)全数の入院患者数(n = 41),自己管理高群の入院患者数(n = 32),自己管理低群の入院患者数(n = 9)

4)入院行為明細薬材料と外来行為明細薬材料の加算から算出した

5)入院・外来の行為明細点数,行為明細薬剤料,行為明細材料料の総和から算出した

共変量を投入した1要因混合効果モデルを行った結果では,外来行為明細点数料において,自己管理行動の高群の平均推定値は243,080(SE = 12,859)円,低群の平均推定値は294,894(SE = 21,819)円であり,良好な自己管理行動を実行しているほど外来行為明細点数料が有意に低かった(F(1, 123) = 4.06, p = .044).しかし,外来医療費総計と医療費総計,その他の医療費項目については,自己管理行動と医療費に有意な差はなかった(表4).

表4  対象者の自己管理行動と医療費の関連(n = 132)
平均推定値(SE
自己管理高群1)n = 97) 自己管理低群1)n = 35) F
入院関連医療費
行為明細点数料 340,982(65,226) 164,551(110,729) 1.8
行為明細薬材料 63,706(15,241) 35,353(25,872) 0.9
行為明細材料料 40,107(19,184) 5,186(32,364) 0.8
入院医療費総計 445,235(89,139) 202,726(151,322) 1.9
外来関連医療費
行為明細点数料 243,080(12,859) 294,894(21,819) 4.1*
行為明細薬材料 1,501,707(138,482) 1,427,046(138,220) 0.2
行為明細材料料 825(32.8) 653(27.6) 2.0
外来医療費総計 1,745,010(83,369) 1,721,350(141,527) 0.02
薬剤費総計2) 1,565,413(84,240) 1,462,399(143,005) 0.3
医療費総計3) 2,190,245(125,551) 1,924,076(213,135) 1.1

* p < .05

混合効果モデル:固定効果の調整変数として性別,年齢,移植後経過期間(ヵ月),合併症の有無,ドナーソース,変量効果として対象者を投入した.

1)日本語版Kidney transplant self-management scale合計スコアの第1四分位数をカットオフとして低群/高群に分類した.

2)入院行為明細薬材料と外来行為明細薬材料の加算から算出した

3)入院・外来の行為明細点数,行為明細薬剤料,行為明細材料料の総和から算出した

Ⅳ. 考察

本研究の特徴は,自宅で生活している腎移植患者を対象に1年間の縦断研究によって,自己管理行動が及ぼす影響を,QOLと生体データと医療費から検討したことである.その結果,以下に得られた知見について考察する.

第1に,本研究における腎移植患者の基本属性の特徴と自己管理行動の関連について述べる.本研究の対象者の年齢,性別,ドナーソース割合,移植前透析期間などの基本属性は,腎移植の臨床登録集計の結果(八木ら,2019)と比べて大きな差はなかった.また,健康関連QOLは,身体的側面のQOL得点と役割/社会的側面のQOL得点が国民標準値と比較して下回り,精神的QOL得点が国民標準値を上回った.この結果も,国内外の先行研究の結果と概ね一致していた(McAdams-DeMarco et al., 2018池田・河野,2018).自己管理行動と基本属性の関連では,自己管理高群に比べ自己管理低群は,有意に移植後経過期間が長く,HDL値が低かった.移植後経過期間については,先行研究でも報告されているように(Kosaka et al., 2013),長期間になるほど適切な自己管理行動を継続する有用性を実感しづらくなり,自己管理行動への意識が薄れたためと考えられる.また,HDL値が低かったことについては,自己管理低群のHDLの中央値59 mg/dL(IQR:51~76)と第1四分位数は正常範囲の値であるため,臨床的に意義のある解釈は難しいと考える.

第2に,本研究では,適切な自己管理行動が役割/社会的QOLを向上させていた.自己管理行動は,自己で主体的に行う行動であり,先行研究では,腎移植患者の自己管理行動は自己効力感と抑うつ・QOLに関連することが報告されている(Weng et al., 2008Weng et al., 2010).また,一般的な慢性疾患患者の自己管理行動を向上させることで,自己申告による身体障害と社会的/役割活動の改善,入院回数と日数が軽減されることも報告されている(Lorig KR et al., 1999).自己管理高群は日常における適切な自己管理行動を実行していることから,自己効力感が向上し抑うつを予防することで社会復帰が促進され,役割/社会的QOLの向上に関連したと考えられる.

第3に,本研究では,適切な自己管理行動を実行できていないことがTG値を上昇させていた.腎移植患者は心血管系合併症のハイリスク群であり,脂質異常症を予防することは,生命予後にとって重要である.Kidney Disease Improving Global Outcomesガイドライン(Kasiske et al., 2009)および日本臨床腎移植学会によるガイドライン(日本臨床腎移植学会ガイドライン作成委員会編,2011)では,禁酒・血糖コントロール・適切な運動療法,体重コントロールおよび食事管理といった生活習慣の是正が治療の第一選択とされている.脂質異常症は高頻度にみられる腎移植後内科合併症の一つであり(Kasiske et al., 2004),本研究の対象者でも,56.8%が脂質異常症の診断を受けていた.自己管理低群は,食事・服薬管理,体重維持などの適切な自己管理行動が実行されていなかったために,TG値が悪化したと考えられる.

腎機能については,交互作用は認められなかったが,適切な自己管理行動が実行されていないことが,eGFR値を低下させる傾向が見られた.前述の通り,自己管理低群はTG値が有意に高く,脂質異常症は糸球体障害や尿細管間質障害を引き起こすことで,腎移植患者の移植腎生着率の低下に関連すると報告されている(Del Castillo et al., 2004Kasiske et al., 2004).このことから,適切な自己管理行動が実施されていなかった自己管理低群の腎機能がより低下したと推測される.QOL未回答者28名を除外した104名での解析では,適切な自己管理行動が実行されていることが,eGFR値の低下を予防していたため,今後対象者数をより拡大し,長期的にその影響を検討する必要があると考える.

第4に,腎移植患者の医療費の特徴と自己管理行動の関連について述べる.本研究の対象者である維持期の腎移植患者の医療費については,医療費の総計は中央値約180万円であった.維持透析療法に必要な医療費が約500万円とされている(近藤・牧野,2011)ことから,腎代替療法における腎移植術の医療費削減効果が示唆された.また,医療費の大部分は,外来関連医療費とりわけ薬剤費が占めていた.腎移植後1年間が経過した維持期の腎移植患者においては,入院関連医療費の中央値は0円と低く抑えられており,この結果は,先行研究の結果と一致している(内田・仲谷,2017).

本研究では,良好な自己管理行動を実行しているほど外来行為明細点数料が有意に低かったが,外来医療費総計・医療費総計ともに有意な差は認められなかった.本研究の外来行為明細点数料は,外来での採血や画像診断などの検査に関する項目と指導管理料が含まれており,自己管理低群は高TG値であることから,生活習慣病指導管理料の算定が多く行われていると予測される.しかし,前述した通り維持期の腎移植患者の医療費の大部分が薬剤費であることから(仲谷ら,2009),総計すると自己管理行動との関連は認められなかった.腎移植の医療経済的優位性は,移植腎の長期生着によってより示され,薬剤費は生体データと関連することも予測されることから,今後も継続して長期的な調査を行い,医療費の推移に着目する必要があると考える.

次に,本研究の限界と課題を以下に述べる.まず,本研究の対象者は1回目の質問紙調査で同意を得たものに限られるため,未回答者の実態は把握出来ず,未回答者の中に低い自己管理行動の対象が多く含まれている可能性がある.同様に2回目のQOL質問紙調査の回答者に,QOLの高い対象が回答している可能性もある.また,一時点における自己管理行動の評価のため,対象者の自己管理行動における経時的な変化を考慮出来ない.さらに,研究施設が1施設のみの調査研究であり,他施設への結果の一般化には限界がある.

これらの限界と課題はあるが,本研究では,腎移植患者の自己管理行動の効果を縦断的に定量評価した点は新規性が高いと考えられる.また,本研究では,腎移植患者の適切な自己管理行動の実行がQOLの向上と生体データの維持に効果を及ぼすことが示唆された.退院後の腎移植患者の適切な自己管理行動を支援する中・長期的な看護介入プログラムの企画と実装化を検討することが今後の課題である.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない

著者資格:NIは,研究計画から調査実施,分析,論文執筆まで中心的に行った.

AKは,研究のコンセプト・デザインに関する助言を行い,データの収集と解析・解釈を行った.

著者全員が本論文を承認し,本誌への投稿に同意します.

著者全員が原稿の最終版を承認し,この研究に対する責任を持つことに同意します.

文献
 
© 2020 Japan Academy of Nursing Science
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