Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
Original Articles
Structure of Learning Tasks Required for “Integration of Practice and Theory” in Clinical Practice of Child Health Nursing
Yuko TomariFumiko OhnishiJunko TakemuraTeiko NishizonoMiho Kawashima
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 40 Pages 474-483

Details
Abstract

目的:小児看護学実習において,実践と理論の統合を必要とする学習課題とその構造を明らかにする.

方法:直接実習指導に当たる教員が,参加観察法を用いて実践と理論の統合を必要とする場面の記述を行い,質的分析を行う.

結果:52場面から10のサブカテゴリを見出し,そこから6つのカテゴリに分類できた.カテゴリは実践的理解と,病気の子どもの理解と対応に大きく2つの課題群に分けられた.

実践的理解には【健康障害に対する知識の活用不足】と【初学者の思考スタイル】があった.病気の子どもの理解と対応には【子どもの表現の真意の理解不足】,【子どもの反応と症状との関連の検討不足】,【子どもとの人間関係スキルの未熟さ】と【子どもに適したアプローチ方策の立案困難】があった.

結論:学習課題の構造は,その基盤として初学者が陥りやすい思考スタイルを背景とした実践的理解に関する課題群を有していた.その基盤の上に,病気の子どもの理解と対応に関する課題群が積みあがっており,その両課題群が相互に関連していた.

Translated Abstract

Objective: To clarify learning tasks requiring integration of practice and theory as well as its structure in clinical practice of child health nursing.

Method: A qualitative analysis was conducted on a description of a situation in which a teacher who directly instruct the practice to integrate the practice and theory based on participant observation method.

Results: 10 sub-categories extracted from 52 scenes were classified into 6 categories. Those categories were roughly divided into two groups, i.e., practical understanding as well as understanding and response to sick children.

Practical understanding included [Lack of utilization of knowledge for health disorders] and [Thinking style of novice learners]. Understanding and response to sick children included [Lack of understanding on real meaning of children’s expression], [Lack of consideration of relationship between children’s response and symptoms], [Immature skill to establish relationship with children] and [Difficulty in planning approaching methods suitable for children].

Conclusion: The structure of learning tasks that require integration of practice and theory had, as its base, the task group on practical understanding against the background of thinking styles that beginners are likely to fall into. The task group on understanding and response to sick children was piled upon the base, these two groups being related to each other.

Ⅰ. はじめに

学士課程における看護基礎教育では学生の看護実践能力の向上につながる基盤づくりが重要と考えられている.看護実践能力は,学生が行う看護実践を通して,看護サービスを受ける対象者と相対し,緊張しながら学生自ら看護行為を行うという過程で育まれていく(看護学教育の在り方に関する検討会,2002).その過程では,現実のあらゆる状況を考察し看護ケアに結び付ける応用能力や,既習の知識を具体的な場面に応用する統合力が求められる.この統合力とは,実践と理論の統合という,実習における経験的学習により机上の知識と実際の眼前にある事柄を結び付け,実践において使えるような知識とする思考と考えている.

実践において使えるような知識とする思考については,Benner(2010/2011)がいう初学者が臨床状況の中で知識を統合し判断していく臨床推論ではないかと考えられる.初学者が臨床推論を学ぶには,知識の統合が必要になる実践の場での「状況に基づく学習」が必要と述べている(Benner, 2011/2012高木,1992).複雑で流動的な「状況に基づく学習」である実習は,その臨床状況に対して知識を基に思考を働かせる臨床推論を行う学習の場であり,それは実践と理論の統合の場と思われる.

看護学実習では,小児看護学と母性看護学以外は基本的には成人を対象として学んでいるために,小児看護学では,実際の看護場面をイメージしにくく,小児であるという対象の特殊性が学生には問題となることがあり,教員は場のイメージづくりにも力を注がなければならない困難性がある(増尾ら,2016).

一方,西田・北島(2005)は小児看護学実習における学生の困難感のプロセスの研究から,①未知な子どもと未知な病児への当惑,②病児との対面の脅威,③援助技術の未遂行による落胆,④複雑な統合と応用であることを報告している.このように学生は困難感をもつ臨床状況において知識を基に思考を働かせる臨床推論をしていたのであろうか.当惑や脅威や落胆,複雑な統合と応用という困難感の中には,小児看護学ならではの,どのような実践と理論の統合を必要とする課題があったのか,どのような躓きであったのだろうか.

本研究では小児看護学実習において,理論(知識)との統合を必要とする場とはどのような状況や事柄であるのか,どのような学生の躓きや問題があるのかに着目した.

Ⅱ. 研究目的と意義

小児看護学実習において実践と理論の統合を必要とする学習課題とその構造を明らかにする.

本研究結果が明らかになると,実習指導にあたる教員・臨床指導者,特に経験が浅い教員は,学生が抱える学習課題の状況を事前に予測し把握しやすくなる.また,小児看護学実習目標の作成の際に最低限押えておく内容を検討するための資料となりうると考える.

Ⅲ. 用語の定義

実践:実際に行う意.語源は「活動」を意味するPracticeである.人間の自然や社会に対する働きかけ(活動),目的意識的に働く(廣松ら,1998)ことを意味する.本研究では,実習中,学生が眼前に見聞きした情報に対する認識を含む患児に対して行っている行為を指す.

理論:科学研究において,個々の現象や事実を統一的に説明し,予測する力をもつ体系的知識を指す.実際の経験から離れて純粋に思考の中で組み立てられた知識とする(松村,2019).本研究では,学生がこれまでに授業で学び理解している体系的知識とする.

実践と理論の統合:学生が実習での実施や眼前で見聞きした事柄への認識に既習の知識を結び付け考えられることや,結び付きを基に実践することを指す.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究対象およびデータ収集方法

研究対象としたのは,小児看護学実習(2単位)のうち医療施設での実習において,実践と理論の統合ができない場面の記述資料である.この資料の収集には,看護系大学2校の小児看護学実習指導にあたる複数の教員が参加観察法(Spradley, 1980/2010)を用いて取り組んだ.場面を同じ視点で収集するために,共通する場面シートを用いた.このシートには,学生と患児,家族,看護師等の状況と,指導の意図・内容および学生の成果(変化)を教員の記憶が新しい間に正確に記録した.

2. 分析方法

質的帰納法を用いて下記の手順で分析した.

1)収集した全68場面シートを共同研究者全員で実践と理論の統合の定義を確認しながら,実践と理論の統合を必要とする場面であるかどうかについて吟味し,学生の態度面や記録の書き方の指導など場面の状況が実践と理論の統合と異なるものを外して,最終的に合意が得られた52場面をデータとして用いることにした.

2)データの客観性を高めるために共同研究者間で,場面シートに書かれている学生と患児,家族,看護師等の状況と指導の意図などを読み合わせ,状況の整合性などを確認した.

3)次に場面シートを幾度も読み,学生がどのような現象に躓いているのか,躓きの問題の意味を要約して,コードとした.

4)3)のコードを類似性と相違性から分類しサブカテゴリを抽出した.

5)サブカテゴリの意味内容を検討し,カテゴリを抽出した.

6)サブカテゴリ,カテゴリの意味を検討し,それぞれ定義した.

3. 調査期間

2013年5月から2016年3月

4. 倫理的配慮

場面シートの記録は,患児・家族・看護師および学生を特定できる個別性のある記録を避けた.患児の年齢,疾患名は使用せず,状況が理解できる程度に抽象度を上げた.また,「実践と理論の統合を必要とする場面」を拾うにはかなりの労力を必要とすると考えるため強制にならないように収集の数や期間の限定を行わず依頼した.場面の対象となった学生には,全員が実習を終了し成績確定後,卒業前に,本人に関する場面を提示して,研究目的,方法,参加の任意性,同意後も撤回できること,参加による利益・不利益および結果の公表について,実習担当教員以外が書面と口頭で説明し同意を得た.

なお,研究者が所属する大阪医科大学研究倫理委員会の承認(1230)を得て行った.

5. 本研究の妥当性の検討

分析結果について,研究者の所属する大学以外の小児看護学実習を担当する熟練教員21人に提示し,これまでの看護学実習指導における課題との一致や了解できるかを尋ね,妥当性の確認を行った.

Ⅴ. 結果

1. 分析結果の概要

分析の結果,52場面から10のサブカテゴリと6つのカテゴリが抽出された.さらに,6つのカテゴリは,大きく2つの課題群に分けられた.実践的理解に関する課題群と病気の子どもの理解と対応に関する課題群であった.(表1).

表1  小児看護学実習における実践と理論の統合を必要とする学習課題
カテゴリ サブカテゴリ
実践的理解に関する課題群 健康障害に対する知識の活用不足 病態を踏まえた症状や治療の理解ができない
初学者の思考スタイル 事実と一般知識を照合しないまま判断する
ひとつの情報だけで判断する
解決策がパターン化している
病気の子どもの理解と対応に関する課題群 子どもの表現の真意の理解不足 子どもの発達に適した接し方ができない
子どもの特徴的な表現(泣き・拒否)に戸惑う
子どもの反応と症状との関連の検討不足 病状の影響による子どもの反応を理解できない
子どもとの人間関係スキルの未熟さ 子どもとの関係悪化を恐れて対応できない
子どもに適したアプローチ方策の立案困難 立案した計画が行動レベルになっていない
ケアを拒む子どもへの対応方法がわからない

以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを『 』で示す.

実践的理解に関する課題群には,【健康障害に対する知識の活用不足】と【初学者の思考スタイル】の2つがあった.【健康障害に対する知識の活用不足】は,『病態を踏まえた症状や治療の理解ができない』の1つ,【初学者の思考スタイル】は,『事実と一般知識を照合しないまま判断する』『ひとつの情報だけで判断する』と『解決策がパターン化している』の3つのサブカテゴリから構成された.

病気の子どもの理解と対応に関する課題群には,【子どもの表現の真意の理解不足】,【子どもの反応と症状との関連の検討不足】,【子どもとの人間関係スキルの未熟さ】と【子どもに適したアプローチ方策の立案困難】の4つがあった.【子どもの表現の真意の理解不足】は『子どもの発達に適した接し方ができない』と『子どもの特徴的な表現(泣き・拒否)に戸惑う』の2つ,【子どもの反応と症状との関連の検討不足】は『病状の影響による子どもの反応を理解できない』の1つ,【子どもとの人間関係スキルの未熟さ】は『子どもとの関係悪化を恐れて対応できない』の1つ,【子どもに適したアプローチ方策の立案困難】は『立案した計画が行動レベルになっていない』と『ケアを拒む子どもへの対応方法がわからない』の2つのサブカテゴリから構成された.

2. 学習課題の定義と内容

6つのカテゴリの学習課題の定義と内容をサブカテゴリの例示を用いて述べる.コードは〔 〕で示し,例示を斜体で示した.

1) 【健康障害に対する知識の活用不足】

疾患や生理学などの既習知識が思い浮かばないことや眼前の患児の疾患・治療の理解に知識が使えない状態を示す.

『病態を踏まえた症状や治療の理解ができない』

定義:患児の疾患・病態に基づく症状把握ができない.

このコードは,〔患児の病状の変化が把握できていない〕〔病態と症状の関連が理解できていない〕〔患者の状態や疾患をみてアセスメントできない〕〔骨髄穿刺に必要な清潔保持の意味がわからない〕〔病状の変化と薬剤変更のつながりがわからない〕などであった.

〔患児の病状の変化が把握できていない〕

ウイルス性感染症の治療目的にて入院中の患児.受けもち当時,呼吸状態は安定していたが,ここ数日高熱が続き敗血症を疑う検査データが出ていた.学生は入院当初の診断名だけに着目し,現在,悪化している病状を把握できておらず,身体状態の変化を理解する必要があると,教員は判断した.

2) 【初学者の思考スタイル】

短絡的結び付きや1つの情報でよしとしたり,単純なパターン化での考え方を指す.

『事実と一般知識を照合しないまま判断する』

定義:検査データ,治療経過,眼前の子どもの身体状況,生活パターン等の情報を一般知識(病気の知識,一般的な子どもの成長発達)と合わせてアセスメントできない.

このコードは,〔立案した計画が患児の身体状況に合わせられていない〕〔立案した計画が患児の行動パターンに合わせられていない〕〔立案した計画が患児の実状に合わせられていない〕〔感染予防行動を身につけている患児への介入が見いだせない〕〔立案した計画が患児の個別性に合っていない〕であった.

〔立案した計画が患児の身体状況に合わせられていない〕

ステロイド内服中の患児の最優先の看護問題に,ボディイメージの変容をあげていた.教員は,患児にムーンフェイスの出現がないことや,患児がボディイメージへの違和感をもっていない状況から,「優先順位の高さが患児の身体状況に合わせられていない」と感じた.学生に患児の状況へのアセスメントを確認し,患児にボディイメージの変容に関する情報の有無を発問すると,外来実習でムーンフェイスが著明な他児を見たので,受けもち児にも伝えなければならないと思ったとの返答であった.

『ひとつの情報だけで判断する』

定義:ひとつの事実と照合できると全体に合致すると考えて,他の情報と併せる視点に広がらない.

このコードは,〔患児の発言だけでアセスメントしている〕〔患児の言葉にとらわれ全体像が見えない〕〔患児との会話のみでアセスメントする〕〔一場面だけを見て判断してしまう〕〔説明されたらそのまま捉える〕〔指導=パンフレットというパターン〕などであった.

〔患児との会話のみでアセスメントする〕

思春期の患児のバイタルサイン測定時,学生が「しんどくはない?」と質問すると患児は「ないです」「大丈夫です」と答えたが,顔が赤く,常にアイスノンと額に冷却シートを貼付していた.教員は,学生の関わりの様子から,患児からの訴えがなければ,アイスノンTMの交換に気が回らないだろうと思い,「アイスノンTM交換しようか」と聞くと患児はすぐに「お願いします」と答えた.

『解決策がパターン化している』

定義:自分の知っている画一的な方法に当てはめる.

このコードは,〔解決策がパターン化している〕〔清拭は午前中に行うものだという考えに固執している〕などであった.

〔指導=パンフレットというパターン〕

超低出生体重であった乳児の免疫力は低いから感染予防を考えるようにスタッフに助言された学生が,家族に対してパンフレットを用いた指導が必要かを教員に質問してきた.

家族は頻回に付き添いを交代しており,画一的なパンフレットよりもその場で声をかけたほうが適切に思えた.家族の誰に指導が必要なのか,どんな行動が問題と思うのかを,学生に問い返すと「患児は何でも口に入れるが,床に落としたおもちゃを祖父はそのままベッドに戻すので気になる」と話した.

3) 【子どもの表現の真意の理解不足】

子どもの言葉や動作・行為の裏側にある意味をくみ取れない状況を示す.

『子どもの発達に適した接し方ができない』

定義:子どもに特徴的な動作や態度を理解した話し方や関わりができない.

このコードは,〔発達段階に応じたコミュニケーションがわからない〕〔泣いている乳児へのあやし方がわからない〕〔幼児の体温測定への了承をいつまでも待っている〕などであった.

〔幼児の体温測定への了承をいつまでも待っている〕

幼児前期の男児.学生は,初回の検温で子どもに体温測定の説明を行い「ピッピしてもいいかな?」と問いかけ,母のそばで下を向いている児の返事を待ち続けていた.教員は,学生が子どもの特徴を捉えていないことや初めての検温のため緊張していると思い,その場で「ピッピするから,ばんざいしようか」と児に声をかけ,学生に体温計を挟むように促した.

『子どもの特徴的な表現(泣き・拒否)に戸惑う』

定義:子どもの泣き叫ぶ表現になす術を失っている.

このコードは,〔泣き叫ぶ子どもにひるんで,何をすべきか考えられない〕〔痛がる患児への軟膏塗布の仕方がわからない〕であった.

〔泣き叫ぶ子どもにひるんで,何をすべきか考えられない〕

幼児前期の男児.肺炎にて入院し,前日まで酸素療法を行っていた.訪室時,回診中であり,患児は母親に抱かれ,泣きじゃくり嫌がってしがみついていた.学生は,何もできずにただ立っているだけであった.教員は床頭台にあったおもちゃを使用し,ディストラクションを行い,患児の関心が向くように働きかけると,学生も真似をして,あやし始めた.

4) 【子どもの反応と症状との関連の検討不足】

子どもが見せる反応と子どもに見られている症状との関連を検討できない様子を示す.

『病状の影響による子どもの反応を理解できない』

定義:子どもの機嫌の良否を感情レベルで受けとり病状や症状との関連から考えられない.

このコードは,〔病状によって機嫌や行動に影響する幼児の特性がわからない〕〔患児の拒否発言をそのまま受け取り,関わりの糸口がもてない〕などであった.

〔患児の拒否発言をそのまま受け取り,関わりの糸口がもてない〕

幼児後期の患児で化学療法による消化器症状でほぼ臥床していた.初対面の人を警戒する傾向があったので,教員が学生と一緒に訪室していたが,学生と患児が二人になると「学生さんはあっち行って.来なくていい」と言われ,出てきていた.学生に声をかけると「Aちゃんは私のことが嫌いみたいです.一人になりたいAちゃんの気持ちを尊重して出てきました」と話した.

教員は,学生が子どもの疾患の理解が不十分な上に,拒否されたことで自信を無くし,何をすべきか考えられない状態と判断し,「お母さんが不在で,吐き気が強い幼児が本当に一人になりたいのかな」と問いかけた.

5) 【子どもとの人間関係スキルの未熟さ】

子どもの状況に適した対応ができない状況を示す.

『子どもとの関係悪化を恐れて対応できない』

定義:子どもの機嫌を損ねることを恐れて必要なことができない.

このコードは,〔患児との関係悪化を恐れて注意できない〕であった.

〔患児との関係悪化を恐れて注意できない〕

小学生の男児.海外生活が長く,日本の生活になじめていない様子で,イライラして他の患児に物を投げる等の問題行動が多く見られた.学生との関係はおおむね良好であった.バイタルサイン測定時に,患児が体温計をおもちゃに突き刺す等乱暴に扱ったが,学生は注意できず苦笑する様子であり,患児に振り回されているように思えた.

学生に,何故何も言わなかったのかを聞くと「機嫌が悪くなったら手が付けられない…」と返答した.

6) 【子どもに適したアプローチ方策の立案困難】

子どもの看護問題やしなければならないケアはわかっているが,その具体的な方法がわからない状態を指す.

『立案した計画が行動レベルになっていない』

定義:抽出した看護問題と計画の方向性は合っているが,具体的行動レベルで考えられない.

このコードは,〔病状に合った個別性のあるケアを思いつかない〕〔立案した計画が行動レベルに具体化していない〕〔患児の発達に合わせた具体的行動がわからない〕などであった.

〔病状に合った個別性のあるケアを思いつかない〕

化学療法による症状緩和のケアは必要だと考えているが,嘔気・嘔吐が強い患児に圧倒され,どのように援助をしていいのかわからず,訪室を控え何もできないと訴えてきた.教員は,母親や患児が行っている嘔気・嘔吐への対処行動について問いかけ,状況を冷静に見られるように試みた.

『ケアを拒む子どもへの対応方法がわからない』

定義:ケアを嫌がる子どもに対するケアの遂行手段や方法がわからない.

このコードは,〔乳幼児に対するバイタルサイン測定の方法がわからない〕〔気分の乗らない患児へのケアの方法がわからない〕などであった.

〔気分の乗らない患児へのケアの方法がわからない〕

化学療法中の6歳児.処置の前にバイタルサイン測定を行うため訪室すると,患児は折り紙をしていた.学生がすぐに「お熱とか測ってもいい?」と尋ねると,機嫌が悪く学生の測定を拒否した.処置までの時間が限られていたため,教員がどうしたら測らせてもらえるかを患児に尋ねると,「看護師さんならいい」と答えたので,担当看護師に同席を依頼した.看護師は訪室すると,患児の折り紙の様子を見ながら話かけていたが,患児が次の折り紙に移るタイミングで,「折りながらでいいから,そっちの腕で血圧測らせてくれる?」と声をかけ,患児の承諾を得て学生に測定を指示した.

Ⅵ. 考察

1. 小児看護学実習における実践と理論の統合を必要とする学習課題の構造

小児看護学実習における学生の学習課題として,6つのカテゴリが見いだされた.これらの学習課題は,既習の知識と実習の状況から観察し得た情報とどのように繋げて理解しているのかを検討し,学習課題の構造を考えた(図1).

図1 

小児看護学実習における学習課題の構造

実践的理解に関する課題群は,実践で出合う状況のとらえ方の問題や,知識の使い方や理解の仕方がわからず生じた課題群であり,一方,病気の子どもの理解と対応に関する課題群は,子どもとの対峙により生じた課題群であるので,実践的理解に関する課題群が基盤となると考え,子どもの理解と対応に関する課題群の下に配置した.これらの学びは相互に影響し相乗作用を起こしていると考えられたので,双方向矢印で示した.

【健康障害に対する知識の活用不足】は,基礎知識の病態等を眼前の子どもの症状や治療と基礎知識の病態等が結び付けられない状態であり,一つの情報だけでの判断やパターン化の思考である【初学者の思考スタイル】と相互に行き来し,繰り返し学習課題を体得していると思われたので,左右に配置した.

病気の子どもの理解と対応の課題群では【子どもの表現の真意の理解不足】と【子どもの反応と症状との関連の検討不足】は相互に状況を考え理解しながら,子どもの実体を把握できるようになっていたと思われる.それらの体験が積み上がる形で【子どもとの人間関係スキルの未熟さ】と【子どもに適したアプローチ方策の立案困難】を体験しながら学んでいるため,上向きの矢印で示した.4つの学習課題はそれぞれに相互作用し学びの克服をしていたので,中心に十字の相互矢印を配置した.実践的理解の訓練をしつつ病気の子どもの理解と対応を体験し,行き来しつつ相乗効果を生み,学びを繋げて実践と理論の統合をしているといえる.

実践的理解に関する課題群の【初学者の思考スタイル】と【健康障害に対する知識の活用不足】は,これまでの日常的な単純に原因と結果を結びつける思考方法といえ,それを実習という臨床状況に切り替える必要性を示している.この実践的理解に関する課題群を基盤とする上にある病気の子どもの理解と対応の課題群は,子どもとの対峙により生じる学習課題であり,子どもの態度や言葉の裏にある気持ちをこれまでの知識を活用し状況からの意味を考え推論していく思考を必要とする.この課題群の基盤となる実践的理解に関する課題群の思考判断が徐々にできるという相互に好循環が生まれ,子どもの反応の意味を推論できるようになると考えられる.

2. 実践と理論の統合を必要とする学習課題が生じる背景の検討

看護学実習において,実践と理論の統合とは,どのようなことであったのか.既習の知識を現実の事象の理解に活用する場合,乾ら(2010)が,理解は頭の中にある知識だけでなく,状況(人や物)から「分かちもたれている」と述べているように,その対象となる状況から如何に情報収集や気づきができるようになるか,また,そのようにできる思考方法の習得が重要と考える.

実践という場では,時間変化という要素に子どもの反応を受けとめ,同時に考察し,対応しなければならないという複合的な課題が学生の目の前で繰り広げられる.

本研究の【健康障害に対する知識の活用不足】の『病態を踏まえた症状や治療の理解ができない』の例示では,高熱が続き敗血症を疑う検査データが出ていたが,学生は入院当初の診断名だけに着目し,悪化している病状を把握していなかった.学生は患児の疾患の理解を入院当初の病名で行い,その後の経過の変化を把握する必要性を理解できていなかったのかもしれない.また,高熱の継続に気づき,その高熱が病態に及ぼす影響の知識をもっていたとしても,この患児とは結び付かなかったのかもしれない.

学生は,頭の中だけでは既習知識をリアルな状況に結び付けにくいとも思われる.また,学内のペーパーペイシェントの学習は,初めに示された情報から時間変化の動きがなく,刻々と変わる患児の病状変化を把握しにくくさせたのではないかと考えられる.

また,もう一つの例として,【子どもの反応と症状との関連の検討不足】の〔患児の拒否発言をそのまま受け取り,関わりの糸口がもてない〕では,この子どもの病気の症状の発現と,1日の中でも時刻,その時の子どもの心理等の考慮すべき要素が含まれる.これまでの学生のもっている知識では子どもの心理の理解が追いつかず,「Aちゃんは私のことが嫌いみたいです.」と感情的に受け止め,次に「一人になりたいAちゃんの気持ちを尊重して出てきました」と学生は病室を離れた理由を述べた.小代・楢木野(2010)が,学生の子どもとのかかわりに躊躇する要因の一つに否定されたと感じる子どもの反応と報告している.このケースも患児へのかかわりを躊躇したのだろうと思われる.病状の影響による子どもの反応と思い至ると学生の理解は進むと考えられる.学生には,「子どもに拒否される」ことはよくあるという情報がなくその時にどのようにすればよいか,という予測ができなかったと思われる.

3. 子どもの反応の意味を考え理解する難しさ

小児看護においては,『子どもの特徴的な表現(泣き・拒否)に戸惑う』『子どもとの関係悪化を恐れて対応できない』は学内では到底学ぶことのできない学習内容である.表現力が未熟な子どもの反応を読み取る難しさ,子どもの拒否的な反応に対する学生自身の感情を乗り越える難しさや子どもの反応に合わせて具体的な方法を考える難しさがある.

本研究結果で小児看護学特有の発達を踏まえた対応技術が求められた〔泣き叫ぶ子どもにひるんで,なにをすべきか考えなれない〕場面では,教員がディストラクションをして見せた.学内で学んでいるプレパレーションの知識を学生がそれを実際の場に応じて使うという活用はできなかった.上でも述べたように既習知識を学生一人の力では結び付けにくい.例示では教員の役割モデルを見るという働きかけで,具体的な方法を経験的知識へと繋げることができたと思われる.既習知識と結び付くには,その場を想定した準備などの働きかけが必要と考える.

本研究結果から,①発達途上で表現力が未熟な子どもの反応を読み取る難しさ,②子どもの反応の意味に病状を含めて理解する難しさ,③子どもの拒否的な反応に対する自分の感情を乗り越える難しさ,④子どもの反応に合わせて具体的な方法を考える難しさが,小児看護特有の課題の特徴と考えられる.

山本・上山(2018)が文献研究により小児看護学実習での学生が直面する課題の一つに,疾患の影響がある患児と関わる難しさを報告した.それは本結果の『病状の影響による子どもの反応を理解できない』からこそ,生じる難しさといえ,そこを統合する実践的理解の訓練が不可欠と考えられる.

4. 推論という思考が学習課題の達成を導く

学習課題の【初学者の思考スタイル】は推論という思考が学習課題の達成を導くと考えられる.初心者レベルの学生は実際の事例と教科書を照らし合わせるだけで精一杯であるが,やがて,Benner(2006/2006)のいう臨床推論を身につけていくと思われる.

初学者の思考スタイルは,教員からみると短絡的な思考であるが,学生は自分の知っている範囲での合致するデータを見つけて判断している.例示では,学生は「患児が大丈夫と答えた」から観察せずに,アイスノンTMの交換の必要性に気づいてなかったが,教員は「アイスノンTMを交換しようか」と患児に声をかけ,患児が必要としていることに気づかせた.子どもの心理を推しはかれるように情報を提供し,言葉だけでない,多角的視点を体得させたと考えられる.この例示では,学生が,小児看護特有の子どもの反応の裏にある気持ちを推測する機会となったといえる.

学生は,既習の知識と目の前で展開されている状況において,もたらされる新しい情報との照らし合わせという既習の知識と関連づけた理解が生じ,新たな知識として習得されると思われる.体験したこれらの学習課題の意味を理解できると既有の知識と結び付けられ(森ら,2011),文脈の異なる状況でも問題解決に活用できる知識となると考える.

Ⅶ. 結論

本研究結果から下記のことが明らかとなった.

1.小児看護学実習における実践と理論の統合を必要とする学習課題とは,初学者が陥りやすい思考スタイルの【健康障害に対する知識の活用不足】と【初学者の思考スタイル】の実践的理解に関する課題群と,病気の子どもの理解と対応に関する課題群の【子どもの表現の真意の理解不足】【子どもの反応と症状との関連の検討不足】【子どもとの人間関係スキルの未熟さ】【子どもに適したアプローチ方策の立案困難】の4つであった.

2.これらの学習課題は,実践的理解に関する課題群を基盤として,病気の子どもの理解と対応に関する課題群が積み上がる構造となっていた.学生にとって病気の子どもとの対峙から生じる子どもの理解と対応への困難など小児看護の特殊性が,既習の知識の活用を難しくしていると考えられた.

3.実践的理解に関する課題群の思考判断が徐々にできると,この基盤の上にある病気の子どもの理解と対応の課題群の子どもの態度や言葉の裏にある気持ちなどを推論していく思考方法も相互に好循環が生まれ進展していくと考えられた.

Ⅷ. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,小児看護学実習における実践と理論の統合を必要とする場面を研究対象としたので,領域別実習のローテーションの時期の違いなど学生のレディネスは今回の研究テーマの範囲に含めなかった.そのため,どの学習課題が実習進行のどの時期に出やすいかなどを検討できていない限界がある.

今後は本研究結果を基に実践と理論の統合のしにくさをさらに検討し,学内演習の方法の改善や臨床推論を導く指導方法の検討が必要と考えている.

付記:本研究の一部を日本看護学教育学学会第28回学術集会において発表した.

謝辞:研究への協力を快く応じてくれました学生諸氏に心からお礼申し上げます.データ収集に協力していただきました諸先生方に,また,本論文を校閲してくださいました日本赤十字豊田看護大学准教授岡田摩理氏に感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YT,FO,JT,MKは研究計画,データ収集・分析,論文作成のプロセス全体に関与した.TNは研究計画,データの分析,論文作成のプロセスに関与し,すべての著者は最終論文を読み,承認をした.

文献
  •  Benner,  P. (2006)/ 伊藤 りつ子(2006):看護実践における臨床知の開発,経験的学習とエキスパートネス,日赤看大紀,20, 64–78.
  • Benner, P., MoLLY, S., Victria, L., Lisa, D. (2010)/早野ZITO真佐子(2011):ベナー ナースを育てる,125–125,医学書院,東京.
  • Benner, P., Kyriakidis, P. H., Stannard, D. (2011)/井上智子(2012):ベナー看護ケアの臨床知―行動しつつ考えること 第2版,12–14,18–22,医学書院,東京.
  • 廣松渉,子安宣邦,三島憲一(1998):岩波哲学・思想事典,663–664,岩波書店,東京.
  • 乾敏郎,吉川左紀子,川口潤(2010):よくわかる認知科学,108–109,116–119,ミネルヴァ書房,京都.
  • 看護学教育の在り方に関する検討会(2002):大学における看護実践能力育成の充実に向けて(看護学教育の在り方に関する検討会報告書),Retrieved from: https://www.umin.ac.jp/kango/kyouiku/report.pdf.(検索日:2019年7月10日)
  •  小代 仁美, 楢木野 裕美(2010):小児看護学実習において看護学生がこどもと関わることを躊躇させる影響要因,日看研会誌,33(2), 69–76.
  •  増尾 美帆, 泊 祐子, 竹村 淳子,他(2016):小児看護学実習における看護実践と理論を結び付けるための指導方法の検討,日看教会誌,26(1), 79–88.
  • 松村明(2019):大辞林(第四版),三省堂,2892–2892,東京.
  • 森敏昭,岡直樹,中條和光(2011):心理学の世界 基礎編学習心理学―理論と実践の統合をめざして,培風館,172–175,東京.
  •  西田 みゆき, 北島 靖子(2005):小児看護実習における学生の困難感のプロセスと対処行動,日本看護研究学会雑誌,28(2), 59–65.
  • Spradley, J. P. (1980)/田中美恵子,麻原きよみ(2010):参加観察法入門,68–79,医学書院,東京.
  •  高木 光太郎(1992):状況論的アプローチにおける学習の概念の検討―正統的周辺参加(Legitimate Peripheral Participation)概念を中心として―,東京大学教育学部紀要,32, 265–273.
  •  山本 裕子, 上山 和子(2018):小児看護学実習の困難とその対策に関する文献検討,新見大紀,39, 163–169.
 
© 2020 Japan Academy of Nursing Science
feedback
Top