Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Concept Analysis of Values Held by the Elderly in Their End-of-Life Stage Seen from the Care Providers
Momoko Kotaki-TezukaKeiko Tsuboi
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2020 Volume 40 Pages 495-501

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Abstract

目的:ケア提供者からみたエンド・オブ・ライフに対する高齢者の価値観の概念分析を行い,定義を明らかにすることを目的とする.

方法:日本国内の50文献を対象に,Rodgersの概念分析の手法を用い分析した.

結果:【他者から尊重される】【多様で個別性のある長い人生経験により物事の考え方が形成される】【その人なりの暮らし方に現れる】【残された時間を意識し揺れ動き変化する】【その人が望む最期を選択する決定要因となる】の5属性,5先行要件,4帰結が抽出された.

結論:本概念は「他者から尊重される多様で個別性のある長い人生経験により形成された物事の考え方であり,その人なりの暮らし方に現れ,残された時間を意識し揺れ動き変化しながら,その人が望む最期を選択する決定要因」と定義された.

Translated Abstract

Objective: To clarify the concept of values held by the elderly in their end-of-life stage seen from the care providers.

Method: A total of 50 references published in Japan were analyzed by using the Rodgers (2000) method of concept analysis.

Results: From the references we extracted 5 attributes (“awareness that the elderly are respected by others”, “ways of thinking that are formed by various and individualized long life experiences”, “appearance in the elderly’s way of living”, “shaking and changing considering the remaining time”, and “determining factors in choosing their desired last term”), 5 prerequisites, and 4 consequences.

Conclusion: The concept of values of the elderly in their end-of-life stage seen from the care providers was defined as “a ways of thinking formed by various and individualized long life experiences that are respected by others, appearing in the elderly’s way of living, and determining factors in choosing their desired last term, but shaking and changing considering the remaining time”.

Ⅰ. 背景

わが国の高齢化率は上昇し続けており,超高齢社会,多死社会を迎えている.医療やケアの現場では,あらゆる疾患や年齢を対象に最期までその人の最善の生を支援するエンド・オブ・ライフケアが重要視されている(Izumi et al., 2012).また,エンド・オブ・ライフケアでは,その人がどう生きたいかの意思決定支援が重要となる(長江,2014).

諸外国では,意思決定支援の方法として,Advance Care Planning(以下,ACP)が広まっている.英国のNational Health Service(2009)は,ACPを将来のケアについて,本人およびケア提供者との間で行われる話し合いのプロセスと定義しており,話し合いの内容には,個人の価値観も含まれる.日本では,ACPの概念が広まりつつある段階であり,その人の意思を明確にするためのコミュニケーション技術の向上が求められている(角田,2015).

意思決定の根底には,その人の価値観が影響し(Noone, 2002),何が最善の医療・ケアかは高齢者本人が持っている価値観による(大内ら,2012).以上のことから,高齢者の意思決定支援には,その人の価値観を含めた話し合いが重要といえる.意思決定支援については川崎(2016)による,がん患者を対象とした共有型看護相談モデルの開発,米国から我が国に導入された患者の終末期医療の意思決定の根拠となる価値観を顕在化する自記式回答を要件とした研究(高橋ら,2019)等,意思決定支援の研究が散見される.しかしながら,高齢者の価値観の概念を検討した文献は見当たらない.加えて,高齢者の意思決定支援においては,認知症,脳血管障害,脱水,発熱などによって判断能力が永続的または一過性に失われる特徴を踏まえる必要がある(橋本,2000).

そこで本研究は,意思決定支援における看護実践への適用を目指して,ケア提供者からみたエンド・オブ・ライフに対する高齢者の価値観の概念分析を行い,定義を明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 方法

本研究では,Rodgers(2000)が提唱した概念分析の手法を用いた.この手法は時間や状況の変化を伴う概念の変化に着目している.「ケア提供者からみたエンド・オブ・ライフに対する高齢者の価値観」は,時代背景,医療技術の進歩,看取りの場の変化など時間や状況の変化を伴うと考えこの手法を選択した.

1. 対象文献の選定

対象となる文献の収集は,医学中央雑誌Web版を使用し,検索可能日であった1993年11月から検索日の2017年2月15日までの会議録を除きかつ可読電子ジャーナルの文献とした.検索語は,価値観&高齢者,価値観&看取り,価値観&終末期,価値観&エンド・オブ・ライフとした.検索語の価値観&エンド・オブ・ライフにおいては,可読電子ジャーナルだけでは件数が少なかったため研究者が入手可能な17文献も対象にした.検索語から抽出された124文献のうち,アブストラクト,論文中に価値観の用語がないもの,小児,成人,国外の高齢者について述べられているものは除外した.分析対象文献は,それぞれの検索語から抽出された文献のうち,重複を除いた50件とした.

2. データ分析方法

分析方法は,各文献を精読した後,価値観という用語に注目し,用語の前後の文脈を詳細に読んだ.文献ごとに,概念を構成する特性の属性,その概念に先立って生じる先行要件,その概念に後続して生じた帰結に関する記述をそれぞれ生データとして抽出した.次に抽出した記述を内容の意味を損ねないようコード化し,類似性に基づき分類しカテゴリー化した.また老年看護学分野の研究者および看護理論の専門家によるスーパーバイズを受け,カテゴライズを必要時修正し,検討を重ねることで分析結果の妥当性の確保に努めた.

Ⅲ. 結果

分析の結果,図1に示すように5の属性,5の先行要件,4の帰結が抽出された.以下の文章において,【 】はカテゴリー,〈 〉はサブカテゴリーを示す.

図1 

ケア提供者からみたエンド・オブ・ライフに対する高齢者の価値観の概念図

1. 属性

属性として5カテゴリーが抽出された.(表1

表1  ケア提供者からみたエンド・オブ・ライフに対する高齢者の価値観の属性
カテゴリー サブカテゴリー 代表的なコード(文献)
他者から尊重される 他者から尊重される ・他者から重視される(藤本ら,2013
・総合的に人を診る医療では,重視し尊重するもの(大島,2009
・看護実践に重要視されるもの(北村ら,2014
・介護職員は大切にすべきもの(藤井ら,2010
多様で個別性のある長い人生経験により物事の考え方が形成される 生活史・人生の物語から形成される ・個々の人生を経て得られるもの(中村,2005
・個人の生育歴や社会的背景により個々に違い様々である(中村・三木,2003
・他者の物語と重なり合って形成する(会田,2013
・生活様式,生活史からなる(藤井ら,2010
コミュニティや文化に影響を受ける ・人生を歩む上で様々な文化の影響を受けてきた(高梨,2015
・コミュニティの文化に影響を受ける(大倉ら,2008
長い人生経験の蓄積により特有になる ・長い人生経験の蓄積により強化され築いたもの(原ら,2011
・長い人生経験により個性的になる(高梨,2015
・長い生活過程から続くその人なりの思いや考え経験からなるもの(加藤,2011
物事に対する独自の考え方・評価基準がある ・長い人生で培った独自のものの見方や考え方(田中,2008
・人それぞれの考え方(稲野,2015
・多様な環境で多様な経験を経たその人の特性や真意(藤本ら,2013
・尊重する,重要である,好む,意味があると考える基準や特性(吉岡,2015
・大切にしていること,意味があると思うこと(八尋・秋元,2012
その人なりの暮らし方に現れる 人それぞれの生き方に関わる ・高齢者の生き方(稲野,2015
・一括して捉えられるべきではない人それぞれの生き方(石田,2009
大切にしてきた習慣やこだわりに影響する ・自分が大切にしていることや,こだわってきたこと(有田,2014
・大切にしてきた生活習慣やこだわりに影響を受ける(高梨,2015
・本人が人生において大切にしてきたこと(近藤,2012会田,2013
暮らしの中の言動に反映する ・言葉として表現していること(八尋・秋元,2012
・現在の入院生活での状況や治療場面で発せられた言葉,動作と過去の経験の積み重ねや語りから得られる(田中,2008
・自分で意識しないうちに物事の捉え方や行動に影響する(稲野,2015
・日常の中で意識することなく暮らしの中に反映している(会田,2013
・物事の選択に基づくもの(和田,2015
・一見些細な個人的な好み(和泉,2007
・日々の暮らしの中で容易に見いだされ,発する言葉や振る舞いから推察できる(吉岡,2015
残された時間を意識し揺れ動き変化する 残された時間を意識し揺れ動き変化する ・別れが現実的になった時には変わる,揺らぐ(藤田,2015
・病状による環境の変化によって揺らぐ(原ら,2011
・病状による環境の変化に適応することを通して肯定的に変化する(大西ら,2004
その人が望む最期を選択する決定要因となる 終末期医療・ケアの選択の根底となる ・終末期医療の根幹である事前指示に繋がるもの(有田,2014
・終末期医療に関する意思表示の根底(猪飼ら,2015
・どのように生き,どのような医療やケアを受けながら自分の人生をどう生き切りたいかという選択の根底(藤田,2015
・本人の人生にとっての最善を達成するという観点,何を目指し,どれを選ぶかを判断するもの(大内ら,2012
・人生の選択や決定を左右する動機(吉岡,2015
最期まで自分らしく生きることの願いや望みの基となる ・最期まで自分らしく,自律した存在でいるという本人の望み(田中,2013
・人生の積み重ね,様々な経験をされた中で培われた,最期まで自分らしく生き,死ぬことについてのかけがえのない願い,望み,思い(藤田,2015
・希望を構築,維持するための基礎(原ら,2011
・最期までどう過ごしたいかという本人の希望(和泉,2007
・本人らしさやQOLを決めるもの(会田,2013

1) 【他者から尊重される】

高齢者の価値観は,医師,看護職,介護職など,ケア提供者にとって尊重,重視するもの(大島,2009藤井ら,2010北村ら,2014)として示されており,【他者から尊重される】とした.

2) 【多様で個別性のある長い人生経験により物事の考え方が形成される】

ケア提供者は,高齢者にはそれぞれの長い人生で培った〈物事に対する独自の考え方・評価基準がある〉と捉えていた.それらは,〈生活史・人生の物語から形成される〉,〈コミュニティや文化に影響を受ける〉,〈長い人生経験の蓄積により特有になる〉過程が存在していた.よって,【多様で個別性のある長い人生経験により物事の考え方が形成される】とした.

3) 【その人なりの暮らし方に現れる】

高齢者の価値観は,一括して捉えられるべきでない〈人それぞれの生き方に関わる〉もので(石田,2009),長い人生の中で〈大切にしてきた習慣やこだわりに影響する〉(高梨,2015)ことが抽出された.それは,自分で意識しないうちに物事の捉え方や行動に影響し(稲野,2015),〈暮らしの中の言動に反映する〉ことから推察できるものであった(吉岡,2015).よって,【その人なりの暮らし方に現れる】とした.

4) 【残された時間を意識し揺れ動き変化する】

高齢者は,自分自身の病気や家族の死を感じる事柄が生じたとき,価値観は動揺し変化していた(原ら,2011藤田,2015)ことから,【残された時間を意識し揺れ動き変化する】とした.

5) 【その人が望む最期を選択する決定要因となる】

高齢者の価値観は,人生の積み重ねや様々な経験をした中で培われた,〈最期まで自分らしく生きることの願いや望みの基となる〉ものであった(藤田,2015).そして,人生の選択や決定を左右する動機(吉岡,2015)となり,最期をどのように迎えるかの〈終末期医療・ケアの選択の根底となる〉ことが抽出された.よって,【その人が望む最期を選択する決定要因となる】とした.

2. 先行要件

先行要件として5カテゴリーが抽出された.

1) 【高齢者とケア提供者との間で価値観がずれる】

看取りの方針など話し合われる際,ケアの基盤となる看護観や職業的倫理観と患者家族・チーム内での関わりで生じる齟齬(藤本ら,2013)が生じていたことから,【高齢者とケア提供者との間で価値観がずれる】とした.ずれが生じることで,高齢者の価値観が認識されると捉えた.

2) 【最期の過ごし方に関わる選択肢を提示する】

医療者が,本人へどのような生き方を選び人生を全うするかの自己決定ができるように病気や身体状況についての情報と選択肢を提示(大島,2009)するなど,最期の暮らし方に関わる選択には高齢者の価値観が影響していたことから,【最期の過ごし方に関わる選択肢を提示する】とした.

3) 【高齢者を理解しようと働きかける】

ケア提供者は,高齢者の過去から現在に至るまでの〈生活史・習慣・こだわりに関心を向ける〉ことや,「意思ある存在」として理解し,高齢者の反応を見定めながら誠意をもって尋ね,説明し,確認し,コミュニケーションをとる(和田,2015)等,高齢者の〈ありのままの姿を捉えようとする〉こと,そしてどのように最期を過ごしたいと望んでいるか率直な思いを聞く(和泉,2007)といった未来に向けて〈最期を見据えた対話を日頃からする〉関わりを行っていた.ケア提供者が高齢者の過去,現在,未来について関心を向け理解しようとする内容が抽出されたことから,【高齢者を理解しようと働きかける】とした.

4) 【人生を振り返り生きる意味を考える】

高齢者は,病気と向き合う過程で,自分の価値観や信念を見つめ,何が自分にとって大切なのかを問い続けている(近藤,2012)等の内容が抽出されたことから【人生を振り返り生きる意味を考える】とした.

5) 【安心できない環境に影響を受ける】

高齢者は,入院などの非日常の世界に置かれ不安になり(高梨,2015),高齢者の長い生活過程から続くその人なりの行動が危険行動と見なされる(加藤,2011)ような〈居心地の悪い環境にいる〉ことや,今まで大切にしてきた生活習慣への信頼が揺らぎ,それにともなう自尊心の低下(原ら,2011)により〈精神が不安定になる〉ような状況に置かれることで,価値観に基づいた普段の行動や心情に影響を与えていた.よって,【安心できない環境に影響を受ける】とした.

3. 帰結

帰結として4カテゴリーが抽出された.

1) 【関わりの中で言語化を促す】

高齢者の言動には,生活過程やその人の思い,考えが含まれ,環境との相互関係の中で統合され言語化が実現する(加藤,2011)ことや,高齢者とコミュニケーションを重ね,考えていることの言語化を支援する(猪飼ら,2015)等の内容が抽出され,【関わりの中で言語化を促す】とした.

2) 【納得のいく意思決定に繋ぐ】

高齢者の価値観は,ケア提供者が,高齢者が人生を全うできるよう〈自己決定を支援する〉(大島,2009)ことや,意思表示が困難な場合でも表明可能なら何を望むかと考える(会田,2013)等,〈高齢者の物語を中心に話し合う〉ことに繋がっていた.よって,【納得のいく意思決定に繋ぐ】とした.

3) 【最期までその人らしく生きることを支援する】

この帰結は,長い人生経験の中で培われた望みが叶うことは,本人の存在やありようの全てを承認する意味を持つ(藤田,2015)等,高齢者の〈ありのままを承認する〉ことや,より良い人生の完結期に寄り添うケアの質の向上(藤本ら,2013)等,〈最善のケアを模索する〉ことが抽出された.よって,【最期までその人らしく生きることを支援する】とした.

4) 【その人らしさを保証する】

高齢者の価値観は,自分らしさを取り戻し,自己の人生を肯定的に考える(中村,2005)等の〈自尊心を保つ〉や,精神的なよりどころが自分のなかで再構築され〈安心感を得る〉(有田,2014)こと,そして終末期をその人らしく満足して過ごせる(園田ら,2008)等の〈その人らしい最期が実現する〉ことに繋がっていた.よって【その人らしさを保証する】とした.

4. 概念の定義

本概念分析の結果より,ケア提供者からみたエンド・オブ・ライフに対する高齢者の価値観は「他者から尊重される多様で個別性のある長い人生経験により形成された物事の考え方であり,その人なりの暮らし方に現れ,残された時間を意識し揺れ動き変化しながら,その人が望む最期を選択する決定要因」と定義された.

Ⅳ. 考察

1. 概念の特徴

本研究で得られた属性,先行要件,帰結から作成した概念図を図1に示し,それぞれの特徴について説明する.

概念の属性として【他者から尊重される】が抽出された.会田(2019)は,人工的水分・栄養補給法の第一選択の決定に有意な影響を及ぼしていたのは,医師の価値観・死生観であったと述べている.このようにケア提供者の価値観が高齢者の意思決定に及ぼす可能性が高いなかで,足立(2016)は,倫理的に適切な意思決定となるためには,患者の意思をいかに尊重し,自己決定を支えるかどうかと述べていることから,【他者から尊重される】は,高齢者を中心に置いた意思決定を導く上で重要な属性であると考える.また【多様で個別性のある長い人生経験により物事の考え方が形成される】において,浅井(1994)は,価値観とは,人が成長,発達していく過程で,自然環境,社会環境などとの関わりが様々な経験として積み重ねられ,それらの蓄積から生み出されると述べている.このことから,高齢者の価値観を本人及び看護職が知ろうとするとき,高齢者の生活史を丁寧に遡ることが不可欠と考えられる.次に,【その人なりの暮らし方に現れる】属性は,高齢者の何気ない言動がその人の価値観を反映していることを示している.訪問看護師による高齢者の意思把握する方法として,本人や家族の暮らしぶりから推測し,日常生活の関わりのなかで,気持ちに沿って把握することが報告されている(高橋・布施,2012).加えて,本研究では,認知症高齢者など自身の思いを語ることが難しい状況においても,日常生活援助を通して価値観を推測できる可能性が示されたことから,認知症高齢者への意思決定支援において重要な示唆が得られたものと考える.そして,長い人生経験により形成された価値観は,他者から尊重されるものであり,より良い意思決定を導く【その人が望む最期を選択する決定要因となる】ことが示された.しかし,【残された時間を意識し揺れ動き変化する】側面も抽出された.会田(2019)は,人生の最終段階の医療とケアに関する意思決定には不確実性が内在することを念頭に,対話を通して揺れ動く本人・家族の気持ちに寄り添う姿勢が医療者に求められると述べている.したがって,看護職は,高齢者が何を大切にして生き,日々変化する高齢者の暮らしの中で,その都度何に価値を置き過ごしているのか,そして,どのように未来を見据えているのかに着目し,日々の生活援助などを通して意図的に把握しようとする姿勢が求められるといえよう.

先行要件には,【高齢者とケア提供者との間で価値観がずれる】ことが生じていた.ケア提供者要因として【最期の過ごし方に関わる選択肢を提示する】,【高齢者を理解しようと働きかける】ことにより高齢者の価値観を捉えるきっかけとなる行動が示された.高齢者要因として,【人生を振り返り生きる意味を考える】という内面が抽出され,石垣(2012)は,自分の価値観は日頃あまり意識しないが,自分の価値観は何かということに直面した時,何を大切にし,どんなふうに生きたいと思っているのかなどを意識すると述べている.また,【安心できない環境に影響を受ける】という環境面の変化も抽出された.この先行要件は,高齢者にとっての当たり前が当り前ではない状況になったとき,そこに生じる訴えや不安,行動が,裏を返して高齢者の価値観として浮かび上がるという新たな知見が提示されたといえよう.よって,入院・入所などの環境が変化する際には,属性で示した【多様で個別性のある長い人生経験により物事の考え方が形成される】,【その人なりの暮らし方に現れる】といった高齢者の大切にしてきた習慣やこだわり等に影響している言動はないかを観察し【高齢者を理解しようと働きかける】ことで価値観を知る手がかりになると考えられた.

帰結として,ACPのように対話を重視するプロセスに加え,日常生活の傍らにいる看護職が意図的な質問や対話,高齢者の日ごろの何気ない行動に関心を向けることにより,高齢者の価値観が【関わりの中で言語化を促(す)】されることが示された.角田(2019)は,価値観を共有し大切にすることは,本人のこれまでの生き方や考えに承認を与える行為にもなり,エンパワメントの側面も持つと述べている.言語化された価値観は,【納得のいく意思決定に繋ぐ】,【最期までその人らしく生きることを支援する】さらには,【その人らしさを保証する】ことに繋がり,その人の最善の生を最期まで支援するエンド・オブ・ライフケアの基盤となるものと考えられた.

Ⅴ. 研究の限界と今後の課題

本研究の結果は,分析対象文献の範囲という限界がある.今後は,他のデータベースも含めて概念の精錬を行う必要がある.また,今後の課題として,この概念図を用いて看護実践を行い,活用可能性を検討していく必要がある.

付記:なお本研究は,2017年度神戸市看護大学大学院看護学研究科の修士論文の一部を加筆・修正したものである.

謝辞:本研究において,ご教授いただきました石原逸子名誉教授,故安藤幸子名誉教授に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MTは研究の着想,デザイン,データ収集,分析,論文作成の研究プロセス全てを主導し執筆した.KTは研究プロセスへの助言,分析,考察,論文作成に関与し,すべての著者は最終原稿を確認し承認した.

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