2020 Volume 40 Pages 511-519
目的:維持血液透析見合わせにおける高齢者の思いに添った意思決定支援の内容を明らかにする.
方法:透析看護認定看護師13名に半構造化面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.
結果:透析看護認定看護師は【透析治療や予後に関わる高齢者の価値観や固有の状況の把握】をし,【高齢者の価値観や固有の状況に応じた透析治療や予後に関する情報提供】をする必要があると語った.【維持血液透析見合わせの選択に関わる高齢者と家族の受け止め方の把握】により,見合わせを選択した後も【維持血液透析見合わせの撤回も見据えた継続的な支援】を行い,【高齢者の意思に基づいた選択を行うための支援】と【多職種連携に基づく高齢者にとっての最善の策の検討】が重要であると明らかになった.
結論:これらの支援は高齢者の思いの揺れに添って,繰り返し継続して実施する必要性を示した.
Purpose: The purpose of this study is to clarify the contents of decision-making support aimed to respect the thoughts of older adults in relation to withdrawing maintenance hemodialysis.
Methods: Semi-structured interviews were conducted targeting 13 Certified nurses in dialysis nursing, and analysis was conducted using a Modified Grounded Theory Approach.
Result: According to the certified dialysis nurses, it is necessary to “understand each specific situation of older adults as well as how they view dialysis treatment and prognosis” and to “provide information on dialysis treatment and prognosis in line with each specific situation and views of older adults.” It also became clear that, even after a patient has opted to withdraw treatment, it is important to provide “continuous support with future reversal of the decision to withdraw maintenance hemodialysis in mind” by “understanding how the older adult and his/her family view the decision to withdraw maintenance hemodialysis,” and it is important to provide “support in making a decision that is based on the desires of older adults” as well as “examination of optimal measures for older adults based on interprofessional collaboration.”
Conclusion: Results suggested that it is necessary to repeatedly conduct these types of support in accordance with the fluctuating moods of older adults.
我が国の透析技術の向上により透析導入年齢は上昇し,2016年の透析導入患者の平均年齢は69.4歳,男女別では男性68.57歳,女性71.19歳と,透析患者の高齢化が進んでいる(日本透析医学会,2018a;2018b).このような状況の中で,2014年に日本透析医学会は「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」を出し,維持血液透析とは血液透析を継続的に行うことであるが,状態によっては開始や継続を見合せる必要があることを示した(秋澤ら,2014).この提言は人生の最終段階にあたる維持血液透析患者に対象を限定していたが,2020年4月には腹膜透析患者および末期腎不全と急性腎障害の血液透析導入期患者も対象に含め,より良い医療とケアを提供することを目指し,「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」として改訂が行われた(日本透析医学会,2020).改訂された提言では,患者の意思決定の尊重,腎代替療法に関する情報提供,患者とのアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning,以下,ACP)と共に,医療チームによる人生の最終段階における透析見合わせの提案や,理解力や認知機能が低下した患者への意思決定支援が示されている.このように,維持血液透析見合わせは人生の最終段階に限らず様々な状況において生じるが,2014年の提言後の実態調査においては,透析施設が透析を見合わせた患者の89.7%が高齢者であり,46.1%が認知症患者であったことが示されている(岡田,2019).また,動脈硬化,心機能低下,虚血性心疾患などを有している高齢者は,体外循環を用いる血液透析ではリスクを伴いやすく(内田ら,2016),合併症や加齢に伴う障害によって血液透析の継続が困難となる(大平,2002).さらに,高齢者は認知機能の低下に伴い意思決定が困難となることがあるため,透析患者が尊厳ある終末期を迎えるためには,意思決定能力低下に備えたACPを行う必要があることも指摘されている(吉本・竹田,2018).これらのことから,維持血液透析見合わせに関する高齢者への支援は重要であり,意思決定の過程を高齢者や家族と共有し適切に対応する必要があるといえる.
高齢者や家族の意思決定支援は,維持血液透析だけでなく人工的水分・栄養補給や,人生の最終段階における医療・ケアにおいてもみられるが,これらの意思決定場面については,看護師の役割や実践状況が明確化されている.しかし高齢者の血液透析に関しては,透析室の看護師を含めた多職種による患者の意思決定を尊重した退院支援(縄田ら,2011)や,維持血液透析患者の事例を通して意思決定支援の必要性を示した研究(藤倉・宮崎,2017)はみられるが,維持血液透析見合わせに関わる高齢者にどのような支援を行うべきかは明確にされていない.国外では,透析患者は終末期においても生きることを選択する傾向にあることや(Calvin, 2004),選択した結果が自分の人生に及ぼす影響を想像して意思決定していること(Winterbottom et al., 2012)が示されている.また,透析治療において患者が十分な個人的支援を受けていないと感じていることや(Lazenby et al., 2016),患者の話を十分に聞いた上で問題を明らかにするテーラーメイドアプローチを行った事例も示されている(Piccoli et al., 2017).このように患者が自らの思いを尊重され治療の選択に関与するためには,維持血液透析に関わる看護師は,医療チームにおける自らの役割を認識し,患者の意思決定に積極的に関わっていく必要があると考える.
そこで本研究は,維持血液透析に関する専門職者である透析看護認定看護師を対象とし,維持血液透析見合わせにおける高齢者の思いに添った意思決定支援の内容を明らかにすることを目的とした.本研究結果より,高齢透析患者への意思決定支援のあり方や看護師の役割を示すことができ,高齢者や家族の支援において活用できると考える.
維持血液透析見合わせ:文献(秋澤ら,2014)を参考に,「継続的な血液透析を開始しないもしくは中止することであり,いつでも透析の開始または再開を再考するという含みを持っている状況」とする.
意思決定支援:日本看護協会の看護者の倫理綱領(日本看護協会,2018)を参考に,「患者・家族の意思と選択を尊重し,できる限り自分自身で選択することができ,個人の判断や選択が,そのとき,その人にとっての最良のものとなるよう支援すること」とする.
研究デザインは修正版グラウンデッドセオリー(Modified Grounded Theory Approach:以下,M-GTA)を用いた質的帰納的研究とした.M-GTAは,誰が,何のために,なぜ,その研究をするのかという問いを曖昧にせず,社会的,現実的背景も含めて明確化するための研究方法である(木下,1999,2003,2017).本研究では,維持血液透析見合わせにおける高齢者への意思決定支援において高齢者や家族との対話や信頼関係の構築が重要であり,直接的な関わりを通した相互作用のもとで透析看護認定看護師が行っている意思決定支援を明確化するため,M-GTAは研究方法として適していると考え選択した.
2. 研究参加者透析看護認定看護師の資格を有する看護師とした.透析看護認定看護師は,安全かつ安楽な透析治療管理のもとでセルフケア支援および自己決定の支援を行う役割を有しているため,豊かな知識と経験に基づき専門職者としての見解を語ることができると考え研究参加者とした.
3. データ収集期間及びデータ収集方法データ収集期間は2018年12月から2019年7月であり,同意が得られた研究参加者に所属施設のプライバシーが保たれる一室において半構成的面接を行った.インタビューガイドとしては,維持血液透析見合わせにおいて高齢者の意思決定を支援するために実施している看護の内容とその意図,実施した看護に対する高齢者の反応,看護の役割や支援のあり方,自身の考え等を設定した.
4. 分析方法分析は木下の示すM-GTAの手順(木下,1999,2003,2017)に則り,分析テーマを「維持血液透析見合わせにおける高齢者の思いに添った意思決定支援」,分析焦点者を「高齢者への看護を実施している透析看護認定看護師」とした.分析手順としては,維持血液透析見合わせにおける高齢者の思いに添った意思決定支援の内容を抽出し,それを1つの具体例として,他の類似例および対極例と比較した上で概念を生成した.概念を生成する際には1つの概念に対して1つの分析ワークシートを作成し,具体例・概念・定義・理論的メモを記入した.
データの収集と分析を交互に行うため,最初の数例のデータ収集を行った後にデータの分析を行い,その結果をふまえて次のデータの収集を行った.データ収集と分析を繰り返しながら概念を検討し,カテゴリーを生成した.概念相互の関係,カテゴリー相互の関係,全体としての統合性などを検討した上で,更なる概念やカテゴリーが見出せないことを確認し,カテゴリーおよび概念の相互の関係から分析結果をまとめ,結果図とストーリーラインを作成した.
分析の過程ではM-GTAに精通した研究者,社会学の研究者,老年看護学の研究者からスーパーバイズを受け,分析結果の精度がより高まるように努めた.また,データの解釈が妥当であるか,3名に対して個別にインタビューの分析結果を示し,自己の体験との類似・差異について確認した.
5. 倫理的配慮本研究は三重県立看護大学研究倫理審査会の承認を得て実施した(通知書番号185801).同意の手続きとして,公益社団法人日本看護協会のホームページに公開されている登録者一覧を参考に,一般病院に勤務している透析看護認定看護師1名を便宜的に選定し研究協力を依頼した.1名のインタビューを行った後は,研究参加者に研究者が意図する次の研究参加者の特徴を伝え,紹介を依頼するスノーボールサンプリングを行った.研究参加者に対しては,自由意思による研究参加,研究参加撤回の権利,個人情報の保護,厳重なデータの取り扱い,ICレコーダーによる録音について書面と口頭にて説明し,同意を得た.
研究参加者は女性11名,男性2名,合計13名の透析看護認定看護師であった.研究参加者の平均年齢は44.4 ± 7.1歳であり,看護師としての平均経験年数は21.8 ± 7.5年,透析看護認定看護師としての平均経験年数は6.5 ± 3.7年であった.研究参加者は透析室や透析に関わるセンター,もしくは腎疾患を対象とした病棟に勤務しており,10名は何らかの役職を有していた.1人あたりのインタビュー時間は60分から116分,平均72.9分であった.11名にインタビューした段階で,これ以上重要な新しい概念やカテゴリーは抽出されないと判断し,さらに認定看護師としての経験年数の幅を広げ2名の研究参加者を加えた上で,新たな解釈がみられないことを確認しインタビューを終了した.
2. ストーリーライン得られたデータを分析した結果,6のカテゴリー,23の概念が生成された(表1).生成されたカテゴリーの関係性は図1に示した.以下,【 】はカテゴリーであり,研究結果のストーリーラインは次のとおりである.
カテゴリー | 概念 | 具体例 |
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【透析治療や予後に関わる高齢者の価値観や固有の状況の把握】 | 〈高齢者の価値観や背景に関する情報を収集する〉 | 高齢者を理解するために話を聞いて,高齢者や家族を取り巻く環境も把握した上で関わる |
〈高齢者の判断能力を把握する〉 | 看護師や家族との関わりや言動から,高齢者の判断能力を観察する | |
〈高齢者の疾患や治療に対する受け止めを把握する〉 | 透析を受ける必要があることについて高齢者が理解しているか把握する | |
〈高齢者と家族の関係性を把握する〉 | 高齢者が家族にとって大黒柱のような存在なのか,疎遠になっているかなど,家族との関係をしっかりと捉えて関わる | |
【高齢者の価値観や固有の状況に応じた透析治療や予後に関する情報提供】 | 〈透析治療の利点やリスクについて説明する〉 | 透析導入する際に高齢者に生じる危険性について伝える |
〈透析治療による生活上の変化について説明する〉 | 高齢者が透析をした場合としなかった場合の生活がどのように変化するのかを説明する | |
〈高齢者が理解できるまで何度でも説明する〉 | 看護師が伝えたつもりでも高齢者には理解できていない可能性があることを自覚し,理解できるまで説明する | |
〈家族が高齢者の状況を理解できるよう支援する〉 | 家族に高齢者がこんな様子で透析をしているということを理解できるように説明する | |
〈高齢者の個別性に応じて提供する情報の内容や方法を検討する〉 | 最初から情報提供するのではなく,今後の人生をどのように過ごしたいかなど,高齢者の話を聞き,個別の状況に応じて情報を提供する | |
【維持血液透析見合わせの選択に関わる高齢者と家族の受け止め方の把握】 | 〈維持血液透析見合わせの意味を正しく理解しているか把握する〉 | 高齢者や家族が透析見合わせの意味を正しく理解できているかを把握する |
〈命に関わる選択であることを理解しているか確認する〉 | 透析を見合わせることが命に関わる選択であることを高齢者や家族が理解しているかはっきりと聞く | |
【維持血液透析見合わせの撤回も見据えた継続的な支援】 | 〈維持血液透析見合わせ後も引き続き支援することを伝える〉 | 透析見合わせ後も関わりが終わるわけではないので,心配しなくても継続した支援が続くことを伝える |
〈意思決定後の高齢者や家族の気持ちの揺れ動きを捉える〉 | 透析見合わせに対する高齢者や家族の気持ちの揺れ動きを確実に捉えられるような機会を持つ | |
〈透析見合わせ後の生活のために地域と連携を取る〉 | 透析見合わせ後,自宅や施設で過ごせるように,地域の在宅医や訪問看護と連携をとる | |
【高齢者の意思に基づいた選択を行うための支援】 | 〈高齢者・家族と信頼関係を築く〉 | 本音は信頼している人にしか言いたくないと思うため,高齢者や家族と信頼関係を築くことを第一前提としている |
〈さりげない会話の中から高齢者の思いを把握する〉 | 高齢者の思いについて,透析の話からだけでなく,日常生活場面のさりげない会話を通して知る | |
〈選択が高齢者の思いに添っているか把握する〉 | 高齢者は家族の意思に左右されることが多いが,高齢者自身が納得した上で選択できるように関わる | |
〈高齢者のその瞬間の思いを家族と共有する〉 | 高齢者のその瞬間の意思を大切にし,家族や看護師,皆で共有する | |
〈高齢者の思いに基づいた選択であるか家族と何度でも話し合う〉 | 高齢者本人であったら,今の状況の場合にどう判断するかを家族から聞きながら,何度でも話し合う | |
【多職種連携に基づく高齢者にとっての最善の策の検討】 | 〈医師が高齢者の状況を随時理解できるよう支援する〉 | 看護師が高齢者と関わり把握した内容について,看護師から医師に相談する |
〈維持血液透析見合わせに関する不確実さを自覚し支援する〉 | 透析見合わせに対する医療の現状が曖昧であることについて,医療者が認識した上で高齢者に関わる | |
〈高齢者・家族と多職種との架け橋となる役割を担う〉 | 高齢者や家族の代弁者となるため,そのチームの中の架け橋として,職種間をつなぐ役割を果たす | |
〈様々な職種の意見をふまえて高齢者の意思決定を支援する〉 | 医師や他の看護師の意見など,それぞれの職種や役割を持つ人の意見を合わせながら相談し合う |
維持血液透析見合わせにおける高齢者の思いに添った意思決定支援
透析看護認定看護師は,【透析治療や予後に関わる高齢者の価値観や固有の状況の把握】をし,高齢者自身の考えや思いを把握した上で【高齢者の価値観や固有の状況に応じた透析治療や予後に関する情報提供】をする必要があると語った.また,情報提供によって正しい理解を得た上で,【維持血液透析見合わせの選択に関わる高齢者と家族の受け止め方の把握】をし,見合わせを選択した後も【維持血液透析見合わせの撤回も見据えた継続的な支援】を続けることの重要性を示した.この4つの支援は,透析導入への思い,維持血液透析見合わせへの思い,見合わせ撤回への思いといった高齢者の思いに添った支援であり,図1に示したように高齢者の思いには揺れがあり,これらの思いは行きつ戻りつすると考えられることから,看護師の支援もその揺れに添って,繰り返し継続して行っていた.また,【高齢者の意思に基づいた選択を行うための支援】と【多職種連携に基づく高齢者にとっての最善の策の検討】は,高齢者の思いの揺れによらず,どのような状況においても欠かすことができない基盤となる支援であった.高齢者や家族の思いを繰り返し確認しながら必要な情報を提供し,高齢者の思いに添った選択ができるよう,継続的に高齢者と家族を支援することが維持血液透析見合わせに関わる看護師の支援であることが示された.以下,カテゴリーごとにデータを示す.〈 〉は概念,「 」内は概念の特徴的な語りであり,具体例の一部を表1に示す.なお,研究参加者の語りにおいて方言が強い箇所は一部修正して記載した.
1) 透析治療や予後に関わる高齢者の価値観や固有の状況の把握高齢者の維持血液透析見合わせにおける意思決定支援において透析看護認定看護師は,「その患者さんを理解するために,ちゃんと情報収集をして,話をちゃんと聞いて,その家族,患者さんの取り巻く環境も把握した上で関わっていく」と,〈高齢者の価値観や背景に関する情報を収集する〉ことを行っていた.その中でも「家族との関わり方ですね.その人がいないと崩れてしまうような,今までずっと家長としてやってきた人なのか.疎遠的になっている人なのか」と家族との関係を捉えていた.また,高齢者が意思決定を自身でできるか把握するために,〈高齢者の判断能力を把握〉していた.さらに,〈高齢者の疾患や治療に対する受け止め方を把握する〉ことで,高齢者が自身の疾患や透析に対してどのような考えや思いを持っているか,高齢者の価値観や抱える状況,家族との関係性を含めた固有の状況を把握する必要性を語った.
2) 高齢者の価値観や固有の状況に応じた透析治療や予後に関する情報提供透析看護認定看護師は高齢者の価値観や固有の状況を把握した上で,それらの状況に応じて〈透析治療の利点やリスクについて説明する〉ことによって,高齢者が透析治療や予後について十分理解した上で選択できるよう支援していた.また,透析導入後の生活の変化を高齢者がイメージできるよう,〈透析治療による生活上の変化について説明〉していた.さらに,高齢者に説明する際には,〈高齢者が理解できるまで何度でも説明する〉ことで,透析導入に対する正しい理解につなげていた.家族が高齢者に代わって意思決定をする必要がある場合には,「透析をしている所をご家族にみていただく.血圧が下がって本人がつらい所などをみていただく」ことによって,〈家族が高齢者の状況を理解できるよう支援〉していた.維持血液透析見合わせの選択については,「最初からどうしますかっていう感じじゃなく,透析を受けながらひ孫まで見たいと思っているんだなとか,透析せずにこのままゆっくり過ごしたいと思っているんだなとか,ずっと話を聞いて,それで透析をしようかなって言われたら情報を提供していますね」との語りにあるように,看護師は〈高齢者の個別性に応じて提供する情報の内容や方法を検討〉し情報提供を行っていた.
3) 維持血液透析見合わせの選択に関わる高齢者と家族の受け止め方の把握維持血液透析見合わせについて,高齢者と家族が「その見合わせるっていう意味,言葉とか,患者さんと家族の受け取り方も違ってくる」ため,〈維持血液透析見合わせの意味を正しく理解しているか把握する〉ことが重要であると透析看護認定看護師は語った.また,「透析見合わせに関して言えば,ほんとうにそれでいいのかっていうことは,はっきりと聞くようにはしていますね」というように,高齢者と家族の受け止めの把握は,維持血液透析見合わせの選択における重要な部分であるため,維持血液透析見合わせの選択が〈命に関わる選択であることを理解しているか確認する〉ことの必要性が示された.
4) 維持血液透析見合わせの撤回も見据えた継続的な支援透析看護認定看護師は,「ここで選ばなくても私たちの関わりは終わるわけではないですよ,透析をしないイコールここで医療が終わるってことではないから,そういう心配はしないでくださいね」と,維持血液透析見合わせを選択した高齢者と家族に対して,〈維持血液透析見合わせ後も引き続き支援することを伝える〉と,継続した支援を提供することが重要であると語った.また,「そこで1番言わなきゃいけないのは,やらない権利がありますよではなくて,その場合もちゃんと私たちはフォローし続けますから,選んでも大丈夫ですよってことを言えなければならない」と,見合わせを選択する場合であっても,高齢者が安心して選択できるようにする必要性が語られた.さらに,維持血液透析見合わせ後にも高齢者が安心して生活することができるよう,退院時には〈透析見合わせ後の生活のために地域と連携〉を取る必要があると語った.そして,維持血液透析見合わせを決定した後であっても,〈高齢者や家族の気持ちの揺れ動きを捉える〉ことが重要であると語った.
5) 高齢者の意思に基づいた選択を行うための支援透析看護認定看護師は,高齢者が自分の意思に基づき選択するために〈高齢者・家族と信頼関係を築く〉ことが重要であり,「透析の話ばかりではなく,普通の会話,日常の会話」といった〈さりげない会話の中から高齢者の思いを把握〉していた.また,〈選択が高齢者の思いに添っているか把握する〉ため,〈高齢者のその瞬間の思いを家族と共有する〉ことによって,高齢者の思いが家族や看護師に伝わっているか確認する必要があると語った.高齢者の代わりに家族が意思決定する場合であっても「患者さんの代理の意思決定者になるので,家族がどう思うかじゃなくて,ご本人がちゃんと今の状況をどう判断するかを聞くように心掛けている」と,〈高齢者の思いに基づいた選択であるか家族と何度でも話し合う〉ことによって,高齢者自身の意思を家族から聞くことができるよう努めていた.また,この支援は高齢者の思いの揺れによらず,意思決定支援におけるどの場面でも必要となるとの語りがあった.
6) 多職種連携に基づく高齢者にとっての最善の策の検討透析看護認定看護師は,高齢者の状況を見極めた上で〈医師が高齢者の状況を随時理解できるよう支援〉していた.また,「すごいグレーな感じで.結局誰がどこまで尊重されるのっていう.はっきりしてないですよね.その辺,曖昧な感じで」と,〈維持血液透析見合わせに関する不確実さを自覚し支援する〉必要があると語った.また,〈様々な職種の意見をふまえて高齢者の意思決定を支援する〉必要があり,〈高齢者・家族と多職種との架け橋となる役割を担う〉ことは,高齢者の思いの揺れによらず,意思決定支援におけるどの場面においても欠かすことのできない看護師の役割であると語った.
研究参加者は透析看護認定看護師経験年数が6.5 ± 3.7年であり,認定看護師としての経験年数に幅がみられたが,看護師としての平均経験年数は21.8 ± 7.5年と豊富であり,様々な高齢者と関わり透析看護を実践しているため,意思決定支援に関する経験や知見を広く把握することができたと考える.
カテゴリーに示されたように透析看護認定看護師は意思決定支援において【透析治療や予後に関わる高齢者の価値観や固有の状況を把握】し【高齢者の価値観や固有の状況に応じた治療や予後に関する情報提供】を行っていた.維持血液透析見合わせの意思決定は多様な形をとるため,透析見合わせを選択しないことも意思決定の1つである.先行研究においては,透析導入の決断時には患者が現状をどのように捉えているかを把握し,今後の見通しを共有する必要性が示されている(井上,2018).特に高齢者は人生経験を通して培った価値観や,身体状況も含めた固有の状況が多様であるため,高齢者がその人らしく選択できるよう,個別性に応じて必要な情報を提供することが重要と考える.
また,研究参加者は【維持血液透析見合わせの選択に関わる高齢者と家族の受け止め方の把握】を行っていた.維持血液透析見合わせには,血液透析を開始しないことを示す非導入と,継続していた血液透析を行わないことを示す中止の2種類の捉え方があるが,その違いや経過は高齢者にとって予想しづらく,「見合わせ」には中止だけでなく,その先には再開や再考も含まれていることも理解しづらい.そのため,高齢者や家族が見合わせの意味を正しく理解できているか,見合わせの選択が命に直結することを理解して選択しているかを,何度も確認する必要があることが研究結果として示されたと考える.
維持血液透析見合わせを選択した後にも,【維持血液透析見合わせの撤回も見据えた継続的な支援】が必要となる.先行研究において高齢患者のエンドオブライフケアとして,治療方針を決定した後も意思確認を行い支援することの意義が示されており(増田ら,2019),透析治療においても治療方針の決定後も変更が可能であることを伝え,高齢者や家族の迷いに対して寄り添うことが重要と指摘されている(山本・倉持,2019).本研究では概念〈意思決定後の高齢者や家族の気持ちの揺れ動きを捉える〉にあるように,治療方針だけでなく見合わせを選択した後も,撤回も含めて気持ちが揺れ動く高齢者や家族に対して,看護師がその揺れを認識して,継続的に支援する必要性を示している.
このような高齢者の思いをふまえて支援するためには,維持血液透析見合わせに関わるどの場面においても【高齢者の意思に基づいた選択を行うための支援】が必要となる.透析看護認定看護師は高齢者の意思を把握するためには,信頼関係を構築することが重要であると語った.限られた時間の中で信頼関係を構築するためにも,概念〈さりげない会話の中からも高齢者の思いを把握する〉ことは重要な支援と思われる.また,高齢者の意思決定支援においては,家族が代理意思決定する場面があるため,先行研究では代理意思決定により患者の意向に沿った終末期医療が行われない可能性や(多田・佐藤,2012),高齢者と家族のニーズの確認が不十分であると高齢者の思いに添わない意思決定となることが指摘されている(礒・飯島,2016).また,「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省,2018)」では,医療・ケアの方針や,どのような生き方を望むかを,日頃から繰り返し話し合うACPの重要性が強調されている.維持血液透析見合わせにおいても,高齢者本人であったらどのように選択するか,高齢者の立場から代理意思決定を行えるよう,高齢者と日頃から繰り返し話し合い,高齢者の意思を推定する者を前もって定めておくといった支援を行うことが重要と考える.
最後のカテゴリー【多職種連携に基づく高齢者にとっての最善の策の検討】は,先述の【高齢者の意思に基づいた選択を行うための支援】と共に,高齢者の思いの揺れによらず,意思決定支援のどの場面においても欠かすことのできない基盤となる支援であることが研究参加者の語りおいて示された.また,透析治療の開始,継続,見合わせは医師の指示のもとに行う治療であり,医師が中心となって進められている現状があることが,研究参加者の語りに多くみられた.しかし実際は,透析に関する説明や,透析中の状態の把握など,高齢者とのコミュニケーションを行う役割の大部分を看護師が担っているため,維持血液透析見合わせにおいて看護師は他の職種とも十分に連携をとりながら,常に高齢者にとっての最善の策について検討する必要がある.2020年に改訂された日本透析医学会の提言では,医療チームによる透析見合わせに関する意思決定プロセスがより広い範囲で示されたが,ガイドラインや法的根拠は示されていない.本研究結果で示した概念〈維持血液透析見合わせに関する不確実さを自覚し支援する〉にあるように,看護師は維持血液透析見合わせに関わる現状が未だ不確実さを含んでいることを十分に認識した上で,多職種チームで意見交換し検討を重ねながら,慎重に対応していく必要があると考える.
このように維持血液透析見合わせは今後も議論が必要な領域であり,エビデンスとなる先行研究も少ない中,透析看護に関する知識や経験が豊富な専門職者から意見を得て,透析導入から維持血液透析見合わせ,撤回も含め,看護師の支援内容を具体的に示した点は,本研究により明らかになった新たな知見であると考える.本研究結果から,維持血液透析見合わせにおいて看護師には高齢者の価値観や固有の状況を把握した上で個別性に応じた情報提供を行うことや,高齢者が選択する場面や家族が代理意思決定する場合においても,高齢者と家族が安心して意思決定できるよう支援するといった役割があることが示された.また,本研究ではこれらの支援は全て高齢者の立場から,高齢者の思いに添って行う必要があることを示し,カテゴリーや概念を通して看護師の支援内容を示している.維持血液透析見合わせは高齢者にとって人生の重要な選択となるため,本研究結果を実践の場において活用することによって,高齢者の思いに添った看護実践につなげることができると考える.
本研究の限界として,研究参加者は5県の透析看護認定看護師であるため,限られた地域における分析結果となっている.また,透析看護認定看護師のみを研究参加者としたため,今後は資格を有していない透析に関わる看護職者や他の職種にも対象を広げ,さらに検討していく必要があると考える.
付記:本研究は,三重県立看護大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本研究にご協力くださいました透析看護認定看護師の皆様に深くお礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MOは研究の着想,および研究デザイン,データ収集,分析,論文執筆の全てを行った.MK,TM,SUは研究への示唆および研究全体への助言を行った.全ての著者は最終論文を確認し,承認した.