Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Type 2 Diabetes Patients’ Awareness of Carbohydrate Consumption
Tomoko OginoHatsumi Kanzaki
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2020 Volume 40 Pages 520-528

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Abstract

目的:2型糖尿病患者の炭水化物摂取に関する認識を明らかにする.

方法:20~75歳の2型糖尿病患者11名に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.

結果:対象者11名の炭水化物摂取に関する認識は,【炭水化物を食べすぎない工夫をしている】【炭水化物に関する知識があいまい】【簡単に摂取できる炭水化物を好んで食べる】【炭水化物に関して付随して起こる感情】【生活や食事制限のストレスが重なることがきっかけで逸脱行動をとる】【満足感を満たす炭水化物】の6つのカテゴリーが抽出された.

結論:2型糖尿病患者は,炭水化物について手軽に満足感の得やすい食品と認識して摂取しており,生活や食事制限へのストレスの対処ができなくなると,炭水化物を渇望し逸脱行動へ繋がっていた.対象者全員が一度は栄養指導を受けていたが,次第に炭水化物に関する認識は曖昧になり,誤った認識が自己管理に組み込まれるようになっていた.

Translated Abstract

Purpose: To explore the awareness that diabetes patients have about their carbohydrate consumption.

Methods: Semi-structured interviews were held with eleven patients with type 2 diabetes, aged 20 to 75. A qualitative and descriptive analysis was performed to explore their awareness of carbohydrate intake.

Results: Six categories were identified; 1) “making efforts not to overeat”; 2) “vague knowledge about carbohydrates”; 3) “preferences for eating carbohydrates that are easy to obtain”; 4) “general feelings about carbohydrates”; 5) “deviant eating behaviors triggered by accumulated stress resulting from lifestyle or dietary restrictions”; and 6) “eating carbohydrates to gain satisfaction”.

Conclusion: Type 2 diabetes patients consume carbohydrates, and regard them as the food that satisfies them most easily. When they fail to deal with the stress resulting from their lifestyle or dietary restrictions, they yearn for carbohydrates, which leads them to deviant eating behaviors. All of them had received nutrition education at least once; however, their awareness became vague over time, and wrong perceptions and misconceptions undermined their dietary self-management.

Ⅰ. 緒言

糖尿病をコントロールし,合併症発症の予防,進行を遅らせる治療の基本は,食事,運動療法を中心としており,その自己管理は患者自身に求められている.特に,糖尿病患者の自己管理を困難にさせた要因を調査した研究において,ほとんどの患者が「食事療法に関する問題」を持っていることが示されていた(木下,1985).

日本における食事療法は主として「糖尿病食事療法のための食品交換表」(日本糖尿病学会,2013)に基づき,患者に適したエネルギー摂取量や栄養素の配分管理で実施されている.

2型糖尿病患者が通常の食事療法に加え,食後高血糖を防ぐために,炭水化物量を計算するカーボカウントを行った介入結果では,HbA1cを有意に低下させたが,BMIにおいて有意差は見られなかった.同時に行った患者満足度調査においては,炭水化物制限食は満足度が高く,また食事療法継続の苦痛が少ないことが明らかになっていた(矢神ら,2011).さらに,2型糖尿病におけるカーボカウント法の導入は,毎回の食事に適切な量の炭水化物を摂ることで食後の高血糖を防ぎ,薬物療法やインスリン療法の効果を高め,さらに患者満足度向上が期待できる(林ら,2014).

日本人2型糖尿病患者における非カロリー制限低炭水化物食の効果については,極端な低炭水化物食(炭水化物20%以下)は基礎代謝に必要なエネルギー源としてケトン体の必要性が高まるため,ケトン体が徐々に上昇したという結果が示されている(大櫛ら,2010).また,1型・2型糖尿病患者における低炭水化物食については,食直後の重症高血糖を避ける可能性はあるものの,極端な低炭水化物食(炭水化物20%以下)は長期の継続が困難であることが示され(角田・花野,2013),いかに炭水化物の少ない食事を日常生活に取り入れるかが課題となり,また,低炭水化物の長期的な影響についても不明で,更に検討が必要であると報告されている(角田・花野,2013).

先行研究からは,2型糖尿病患者の低炭水化物食摂取においては更なる検討が必要であると考えられる.これまで,2型糖尿病患者の炭水化物摂取に関する認識や,自己管理行動に焦点を当てた研究は行われておらず,質的研究においては,英国で行われている2型糖尿病患者における炭水化物に関する理解の研究(Breen et al., 2016)のみである.

本研究において,2型糖尿病患者の血糖コントロール改善を目指すうえで,血糖コントロールにおける炭水化物摂取や,炭水化物摂取についての自己管理行動を明らかにすることで,2型糖尿病患者の炭水化物摂取に関する認識を明らかにする.

Ⅱ. 研究目的

2型糖尿病患者の炭水化物摂取に関する認識を明らかにする.

1.血糖コントロールにおける炭水化物摂取に関する認識を明らかにする.

2.炭水化物摂取についての自己管理行動に関する認識を明らかにする.

Ⅲ. 用語の定義

・炭水化物摂取に関する認識:炭水化物に関する捉え方とする.

・炭水化物摂取についての自己管理行動に関する認識:炭水化物摂取に関する捉え方に基づいて自己の意思で実践する行動とし,認識や理解を含む.

・炭水化物:消化吸収される「糖質」と消化吸収されない「食物繊維」とする.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は質的記述的研究とした.

2. 研究参加者

研究参加者は,①小児・思春期における糖尿病では,食事で摂取すべきエネルギー量が思春期に最大となる②後期高齢者糖尿病患者は老年症候群をきたしやすく,治療上注意を要するため(日本糖尿病学会編・著,2018),20歳以上75歳未満の2型糖尿病患者とした.除外基準としては,顕性腎症期以降にある患者では,脂質や炭水化物でエネルギー確保する(日本糖尿病療養指導士認定機構,編・著,2016)ため,また,1型糖尿病では,治療としてカーボカウントを食事療法に取り入れるため除いた.診療において意思疎通が困難である者や,精神的負担が大きいと判断した者を除いた.また,2型糖尿病患者の炭水化物摂取に関する認識を幅広く調査するために,年齢以外の基準は設定しなかった.

研究対象施設は,食事療法を実施し,患者教育を実施している3施設を選定した.糖尿病外来の医師が研究候補者を選定した後,研究者が研究候補者に研究内容を説明し研究同意を得た者を研究参加者とした.

3. データ収集方法

2019年7月から10月の間に,研究対象者11名に対して平均57分の直接対面による半構造的インタビューを研究参加者1人につき1回実施した.面接は,研究協力施設が使用していない診察室または個室でプライバシーが保てる静かな環境にて,外来受診時の待ち時間か,外来診察終了後に実施した.11名中2名が家族同伴での面接であった.研究参加者の年齢,性別,直近のHbA1cのデータは主治医より口頭で聴取し,フィールドノートに記載した.半構造的面接時に熟考した回答ができるよう,面接直前に,10分程度で回答できる自記式質問紙への回答を依頼した.主な質問内容は,炭水化物摂取に関する認識や理解について,健康行動と食生活自己管理についてのマネジメント行動の影響について,医療者からのアドバイスの受け取り方と受容について質問を行った.面接内容は研究参加者の同意を得て,ICレコーダーに録音した.

4. 分析方法

本研究は,2型糖尿病患者の炭水化物摂取に関する認識や理解について,患者自身の語りから調査,分析する必要があると考えたため質的記述的研究とした.

データ分析手順を以下に示す.

まず,インタビューデータから作成した逐語禄を繰り返し読み,語りの中から,炭水化物摂取に関する認識及び自己管理に焦点をあてコード化した.コードの意味内容の類似点や相違点を比較検討しながら,意味が共通したまとまりを抽象化してサブカテゴリー,カテゴリー化していった.

信頼性の確保のために,全過程において,慢性看護学及び質的研究者3名によりスーパーバイズを受けた.分析の信頼性・妥当性の確保に努め以下の方法で担保した.炭水化物摂取に関する認識及び自己管理に焦点をあてコード化したものを,バイアスを最小限にするために共同研究者と再確認を行い,サブカテゴリー,カテゴリー化の再検討については,質的研究者2名が加わり,解釈の不一致がなくなるまで洗練した.

5. 倫理的配慮

本研究は,兵庫医療大学倫理審査委員会の承認(承認番号:第19003号),ならびにA病院倫理審査委員会より研究の承認を得た.B,Cの施設においては,病院長,看護管理者に研究実施に関する説明を行い,病院長から研究実施の許可を得た.研究参加者に対しては,研究目的,協力内容,面接所要時間,研究への協力は自由意思であり,辞退,中断を希望した場合でも不利益は生じないこと,プライバシーの確保をすること,本研究は自己管理能力を査定するものではなく,治療内容とは一切関係のないことを,口頭および書面を用いて研究者が説明した.その後研究参加の意思を確認し,了解を得られた場合に面接を行った.面接開始時には,再度上記内容を確認し,同意書に署名を得た.

Ⅴ. 結果

1. 研究参加者の概要

研究参加者11名(男性5名,女性6名)の概要を表1に示した.20歳以上75歳未満の2型糖尿病と診断されている外来通院中の患者で,平均年齢は64.6 ± 10歳であった.平均有病期間は14.8 ± 11.8年,平均BMIは25.4,平均HbA1cは7.5 ± 1.2%であった.運動療法を指示されていない5名のうち4名は,糖尿病合併症のため,他1名は,食事療法と薬物療法を中心とした治療を行っていた.

表1  研究参加者の概要
研究参加者 性別 年齢(歳) 糖尿病罹病期間(年) BMI HbA1c(%) 職業 同居家族 合併症 治療内容 調理者 どのような形で栄養指導を受けたか 指示カロリー
A 女性 66 40 22.0 7.6 神経障害 食事,薬物(経口薬 インスリン) 本人 栄養士から 1600
B 女性 72 35 34.1 8.2 脳梗塞 食事,薬物(経口薬 インスリン) 本人 栄養士から 1600
C 女性 57 7 25.1 5.6 網膜症,腎症 食事,薬物(インスリン) 栄養士から 1600
D 男性 56 15 23.5 6.6 妻,息子 食事,運動,薬物(経口薬) 栄養士から 1800
E 男性 69 10 20.4 7.7 食事,運動,薬物(経口薬) 栄養士から 1800
F 女性 54 2 27.6 6.7 夫,息子,娘 食事,薬物(経口薬) 本人 栄養士から 1600
G 男性 74 10 20.0 8.3 食事,運動,薬物(経口薬) 栄養士から 1600
H 女性 43 3 23.0 7.6 独居 網膜症 食事,薬物(インスリン) 本人 栄養士から 1600
I 女性 73 6 39.0 9.7 独居 網膜症,神経障害 食事,運動,薬物(経口薬,インスリン) 本人 糖尿病教室 1600
J 男性 74 20 22.6 7.0 網膜症,神経障害 食事,運動,薬物(経口薬) 栄養士から 2000
K 男性 73 15 21.7 8.1 神経障害 食事,運動,薬物(経口薬) 糖尿病教室 1800

2. 分析結果

11名のデータ収集と分析を終了した地点で,研究者間の合意によって理論的飽和に至ったと判断した.

11名の研究参加者から得られたデータを分析した結果,2型糖尿病患者の炭水化物摂取に関する認識を表す6つのカテゴリー,16のサブカテゴリーが形成された.炭水化物摂取に関する認識を表す6つのカテゴリーの関連性について,すべての対象者は栄養指導を一度は受けており,自己管理行動を行う上で,【炭水化物を食べすぎない工夫をしている】とすべての対象者が認識していたが,一部の対象者は,【炭水化物に関する知識があいまい】となっており,【簡単に摂取できる炭水化物を好んで食べる】行動となり,自己管理を行っている途中に【炭水化物に関して付随して起こる感情】を表出し,【生活や食事制限のストレスが重なることがきっかけで逸脱行動をとる】ことで,【満足感を満たす炭水化物】につながっていた.これらの構図を図1に示す.

図1 

2型糖尿病患者の炭水化物摂取に関する認識の構造

なお,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを《 》で示す.研究参加者の語りは斜体「 」で表記し,内容を補足,中略する場合には( )で示した.引用部分の後には参加者コードを[ ]で示す.

1) 【炭水化物を食べすぎない工夫をしている】

2型糖尿病患者は,普段の生活の中で自分に合わせた炭水化物との付き合い方を示していた.《外食の時の炭水化物に注意を払っている》《他者といる時は付き合いを優先する》《お菓子を食べたい時は自分なりの特別な根拠づけをして摂る》《菓子と果物を摂るために米飯を減らす》の4つのサブカテゴリーで構成されていた.

「外食はよく行く.けども,最初からすいません,ごはん半分にしてくださいとかそういう風に言って,これはちょっとカロリー高そうなのは,食べないというより減らす.」[C氏]この語りから,2型糖尿病患者が自己管理を行っていくなかで,外部からの誘惑がある状況時に,炭水化物を食べすぎない工夫を行っていた.また,2型糖尿病患者が自己管理をしている中で,食べたい食品がある時には自分の決めた制限内で自分なりの根拠づけをして摂取し,1日の指示カロリー内に摂取カロリーが収まらない時は,炭水化物を減らしてカロリー調整を行っていた.

2) 【炭水化物に関する知識があいまい】

研究参加者全員一度は栄養指導を受けているが,自己管理を行っていく中で炭水化物に関する誤った考え方や知識不足が生じている状況を示しており,《身体に良いと思い込んでいる炭水化物は食べた方が良いと思っている》《炭水化物がどのくらい含まれているのかがわからない》の2つのサブカテゴリーで構成されていた.

「冬はあの甘酒がええらしい.飲む点滴と書いてあるから,甘酒しよか言うて.冬は甘酒作って.」[C氏]という語りのように,普段の生活の中では健康に関する情報が溢れており,その健康情報は2型糖尿病患者に関する内容なのかの判断がつかず,誤った判断をし,炭水化物を摂取していた.研究参加者11名全員が一度は栄養指導の受講を経験済みであったが,どのような食品に炭水化物が多く含まれているのかがわからない状態が示されていた.

3) 【生活や食事制限のストレスが重なることがきっかけで逸脱行動をとる】

日常生活を過ごしている中でストレスを感じることや,食事制限に情緒的ストレスを感じた結果に逸脱行動を起している状況を示しており,《厳しい食事制限は炭水化物の過食行動につながる》《食欲が抑えられない時に食べてしまう》の2つのサブカテゴリーで構成されていた.

「それが先月くらいちょっとあったんです私.もう止まらなくて,カップ麺が食べたいって食べて,それにごはん入れてたったーって食べたんです.もうえらい目におうた(高血糖).それは後の祭り.私はもう,一線ひいとこうと(食べ過ぎないように我慢をすること)(略).」[B氏]という語りのように,生活の中で面白くないこと(ストレスに感じる事)や食事制限を行う上でのストレスが重なり,食欲が抑えられないと感じた時に炭水化物の過食(逸脱行動)をとっていた.

4) 【炭水化物に関して付随して起こる感情】

炭水化物を摂取することで付随して起こってくる体調や感情の変化を示しており,《お菓子が食べられずつらい》の1つのサブカテゴリーで構成された.

「もうほんとに,そのアイスクリームを夏場に食べないのが正解なんですけど.なんかそれでストレスがたまって体調が悪くなって精神的にきつくて.」[G氏]という語りから,自分の食べたい炭水化物が食べられないつらさ,炭水化物を制限する疲労感を示していた.

5) 【簡単に摂取できる炭水化物を好んで食べる】

自己管理を行っていく中で,炭水化物は忙しい時に手間が掛からず摂取でき,安価であるという理由で2型糖尿病患者にも摂取しやすい食品であることを示しており,《忙しいときには炭水化物が便利である》《炭水化物は手間がかからないので簡単に食べることができる》の2つのサブカテゴリーで構成されていた.

「おにぎりとかね.今から考えれば手軽でパッと食べれるものとかっていうのがやっぱり多かった.私はパソコンしながらなので(略).」[I氏]という語りから,2型糖尿病患者において炭水化物は血糖値に影響することがわかっていても摂取しやすい食品と認識し,摂取していた.炭水化物は,昼間独居になる高齢2型糖尿病患者が食事として摂取しやすく,また出掛ける際に食事として持参しやすいなどの理由であった.

6) 【満足感を満たす炭水化物】

2型糖尿病患者の自己管理を行っていく中で炭水化物がどのような存在なのかを示しており,《炭水化物は追い求めたくなる》《炭水化物は疲労を感じた時に食べたくなる》《炭水化物はつい口に入れてしまう》《炭水化物はくつろぎの時間に食べたくなる》《好きな炭水化物は一口食べたらやめられない止まらない》の5つのサブカテゴリーで構成されていた.

「行列ができてる何々屋さんとか,そしたらもう絶対その行列に並んで.美味しいマズいは関係なく,行って並びます.それで,食べてあーやっぱり美味しかったわと思うと物凄く幸せ.これで私死んでもいいわって思うくらいの満足感.(その時に血糖値の事は思わないのか,という質問で)それはもう全然関係ない.思わない.」[C氏]という語りから,美味しい炭水化物食品を追い求めるために糖尿病である事を考えず,並んででも食べたい気持ちを示していた.そして,2型糖尿病患者においても食後やくつろぎの時間には炭水化物が食べたくなる状況を示しており,2型糖尿病患者が炭水化物を摂取することは,糖尿病でない人でも一度は経験すると考えられる,炭水化物は食べだすと止まらない行動を経験していた.

Ⅵ. 考察

本研究結果から,2型糖尿病患者が自己管理を行う上で炭水化物摂取について捉えていた認識は,1.2型糖尿病患者が自己管理を行う上で,血糖値に影響があるので【炭水化物を食べすぎない工夫をしている】とすべての患者が認識していた.2.2型糖尿病患者の食事自己管理をしている中で【炭水化物に関して付随して起こる感情】としてお菓子が食べられないつらさを表出し,【生活や食事制限のストレスが重なることがきっかけで逸脱行動をとる】という炭水化物の過食行動をとっていた.そして炭水化物は【満足感を満たす炭水化物】として認識されていた.3.2型糖尿病患者は,自己管理を行う上で,炭水化物は血糖値に影響があると認識していたが,【簡単に摂取できる炭水化物を好んで食べる】と認識し摂取していた.4.2型糖尿病患者は,一度は栄養指導を受講していても,メディアや他者からの影響を受け,自分にとって身体に良いと思って食べる炭水化物や,炭水化物量や種類がわかりにくいという【炭水化物に関する知識があいまい】であった.

1. 炭水化物は食べ過ぎてはいけないと思っているが食べてしまっている認識

対象者は,炭水化物を摂取すると血糖値が上昇することは認識していたために,炭水化物でカロリーを調節する行動をとっていた.糖尿病者の日常生活の工夫行為のなかで,食事に関する工夫において特定の食品や料理を控えることや食べる量を減らす目安をもつことについて述べている(内堀・井上,2006).血糖値にもっとも影響を与えるのは炭水化物であることから,食後高血糖を抑えるために,お菓子や果物などのし好品である炭水化物との付き合い方に関する療養指導も行う必要があると考える.

日本においては,患者に適したエネルギー摂取量や栄養素の配分管理で食事療法を行っている.英国では長年にわたって糖尿病患者に対し,炭水化物量をカウントするカーボカウントにより食品を選択する食事療法が用いられてきた.文献検討の段階で,英国での炭水化物についての質的研究における対象者は,炭水化物を制限することには理解はあるものの,栄養指導を受けているが,炭水化物や糖質を中心とした食生活への思い込みや栄養バランスを無視して血糖コントロールのみに関心を寄せる傾向があった(McArdle et al., 2017).本研究結果でも対象者全員一度は栄養指導を受けているが,時間の経過とともに,知識が曖昧になり,自分の身体に良いと思う炭水化物は食べた方が良いという思い込みや,忙しさや満足感を高める理由で炭水化物を摂取しており,英国の対象者と同様の結果であった.

2. 炭水化物摂取の抑制が利かなくなっている認識

大部分の糖尿病患者は,病気や治療に対する怒り,悲しみ,孤独,絶望といった陰性感情を抱えており,自己管理に多大な障害をもたらしている(Anderson & Funnell, 2005/2008).本研究結果でも,【お菓子が食べられずつらい】という陰性感情が示されており,食事療法を遵守する際に自分の好きな炭水化物が食べられない感情を表現していた.成人期における2型糖尿病患者が抱く食事の自己管理行動に関する認識と情動の関係について,本来楽しみである食事が,糖尿病の食事療法を始めると,「食事の管理方法は難しい」と思い込み,それに伴う【負担感】や【意欲の減退】といった否定的情動によって“食事の自己管理行動ができない”につながっていた事を明らかにしていた(中村ら,2009).本研究結果でも,先行研究と同様に,お菓子が食べられないつらさや,炭水化物制限の疲労感による否定的感情を表出していた.エネルギー制限をメインとした食事療法は今までの食生活に対して大きな制約がかかり,食事療法の実行・継続にはストレスを生じやすいことを示している(矢神ら,2011).本研究結果から,食事療法に関する否定的感情を表出していることから,2型糖尿病患者に炭水化物量を意識させるカーボカウント法を用いることで,食事に関するストレスを軽減させ,食事療法の満足度が上がるのではないかと考える.

また,2型糖尿病患者は,炭水化物を過食する傾向にあることも報告されている(Yu et al., 2013).炭水化物に卑しいと感じる糖尿病患者ほど高血糖または血糖コントロール不良と密接に関連していることを示唆していた(Yu et al., 2013).65歳未満の血糖コントロール目標について,合併症予防のためのHbA1cの目標は7%未満,治療強化が困難な際の目標は8%未満であるが(日本糖尿病学会編・著,2018),本研究対象者の平均HbA1cは,7.5 ± 1.2%と血糖コントロール不良群であり,HbA1cの目標を満たしていたものは3名のみであった.本研究結果では,【生活や食事制限のストレスが重なることがきっかけで逸脱行動をとる】のカテゴリーに示されるように,生活や食事療法のストレスがきっかけで炭水化物を異常に欲求する逸脱行動を起こしていた.

また,【満足感を満たす炭水化物】は,自分の満足感や幸福感を満たすものであった.すべての対象者の語りからは自分の摂取できる正確な炭水化物量を把握する具体的な語りは出現しておらず,自分のさじ加減で管理していた.血糖コントロールを目的とした食事療法において,血糖値にもっとも影響を与えるのは炭水化物であるため,患者個々に応じた炭水化物量を認識することが食後高血糖是正につながり,HbA1cを低下させると考える.

また,過食行動は,ドーパミントランスポーターの遺伝子と関係があり,糖分の過剰摂取も側坐核のドーパミン放出量を高める(Kuhar, 2012/2014).過食することは,ドーパミン受容体の低下,渇望,健康被害(例:肥満)とつながっており,ドーパミンの受容体の低下現象もあることから(Kuhar, 2012/2014),「わかってはいるけど,甘い物が止められない.」「やめようとしても失敗する.」状況に陥りやすいのは,炭水化物の過食行動が炭水化物への依存的な行動に繋がり,それを制限すべきだが渇望が強まっていくというプロセスを示していたと考える.

3. 炭水化物は摂取しやすいという認識

主食の摂り方は性差,個人差が大きく,一般的に高齢になると手軽に摂れる朝食として,ご飯よりパン食を好む傾向があることが確認されている(松岡・山田,2017).2型糖尿病患者における食物摂取頻度の実態調査結果では,エネルギー適正群においても3大栄養素摂取量の「適正」者は2~3割で,約半数の者が炭水化物の「過剰」であった(加藤・松下,2016).本研究においては米に関する語りは少なく,手軽に摂取しやすいパンや麺類を多く摂取していた.米国糖尿病学会によれば,摂取後直接血糖に影響を与えるのは糖質のみであり,速やかに吸収され,120分以内にほぼ100%血糖に変わるとしている(Funnell et al., 1997/2001).食後高血糖予防のためにも,療養指導においては,3大栄養素の適正量の把握や過剰摂取にならないよう指導すること,血糖値にもっとも影響を与えるのは炭水化物であることを療養指導のなかで時間をかけて説明を行い,摂取カロリーだけでなく,炭水化物と食後血糖値の関係を患者に理解してもらうような指導が必要である.そして,食事をしても血糖値が上がりにくい低糖質食品や低GI食品の提示や,血糖値が上昇しにくい食事摂取の順番,食事摂取にかける時間(ゆっくり食べるなど)などを指導する必要がある.

日本における2型糖尿病患者に通常の食事療法に加え,食後高血糖を防ぐために,炭水化物量を計算するカーボカウントを行った介入結果からは,高血糖,低血糖を感じる頻度の減少,治療満足度及び治療の継続性について有意に改善を認めている結果となっていた(矢神ら,2011).しかし,低炭水化物食は短期的な体重減量や動脈硬化の改善に効果があるが,長期的な影響について十分には明らかになっていない.本研究結果からは血糖値などのデータ比較は行っていないが,食後高血糖による動脈硬化の予防の観点から,炭水化物摂取量に注目し,個々にあった炭水化物量を示すことで,良好な血糖コントロールを目指せるのではないかと考える.

4. 2型糖尿病患者の炭水化物に関する知識はあいまいな認識

今田・和田が行った高齢者155名の研究結果によると,健康についての関心が非常に高く,58.7%は健康に関して新聞,雑誌,テレビなどの情報を「よく見る」と示されていた(今田・和田,2017).2型糖尿病患者にとっては良くない情報でも,糖尿病治療をしている自分の身体に良いかどうか吟味されずに良いと思い込み,日々の生活に組み込まれていた.ある食品の栄養素が健康に与える影響を過大に評価したり,食品や栄養素に固執するなど,健康志向の高い高齢者は健康への効用があるとされるものを選択し,自分の価値観や信念に合うように食物選択を行っていることが,炭水化物に関する認識を曖昧にしている原因であると考える.

研究対象者全員が一度は栄養指導を受けているが,【炭水化物に関する認識があいまい】であった.糖尿病教育入院による教育効果は6ヶ月を経過すると減少するという報告があり(髙橋ら,2016),その後は初期教育で得た知識や技術を忘れてしまうために長期に渡る適切な療養が困難になると考えられている(髙橋ら,2016).また,行動変容ステージモデルのなかで,行動変容の逸脱が多い時期は行動変容開始後3カ月の時点であり,6カ月維持できれば,その後継続していく可能性が高いということが明らかにされている(Prochaska & Diclemente, 1983).本研究対象者の平均罹病期間は14.8年であり,栄養指導を受けても時間の経過とともに知識が薄れることが炭水化物に関する認識を曖昧にした要因ではないかと考える.経年的に認識が変化していたことを考えると,自己管理の状況や,炭水化物摂取に関する認識の把握を随時療養指導の中で行うことが必要である.糖尿病は長期的な治療を必要とする疾患のために,外来受診は療養行動の良否の確認としても重要な機会であると考えるので,患者が受診をする際には自己管理行動の振り返りや医療者に聞きたいことの準備をしてくることを提案できるような動機付けを取り入れることも必要であると考える.

Ⅶ. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,総合病院1施設,クリニック2施設という限られた医療機関からの選択であった.本研究においては,年齢,性別,HbA1c,社会的背景や家族背景を限定せず患者に聴取しただけであった.また,食物繊維における糖質の認識については,間接的に判断できるような質問になっておらず,炭水化物の摂取目的(主食,嗜好品)によっても認識が変化する可能性がある.今後は本研究で導き出した結果から患者の特性に沿った支援について開発し,必要な看護介入を効果的に実践できるような試みが必要である.

Ⅷ. 結論

2型糖尿病患者の炭水化物摂取に関する認識は,炭水化物を摂取することで血糖値が上昇すると理解していたが,炭水化物は手軽で便利なため好んで摂取していた.自己管理を行っている中で,生活や食事制限のストレスが重なることがきっかけで炭水化物摂取の抑制が利かなくなっている認識が抽出できた.対象者全員が一度は栄養指導を受けていたが,2型糖尿病患者が自己管理をするうちに,炭水化物に関する認識は曖昧になり,誤った認識が自己管理行動に組み込まれていたことが明らかになった.

付記:本稿は,兵庫医療大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.また,第40回日本看護科学学会学術集会にて発表したものである.

謝辞:本研究を実施するにあたり,ご協力いただいた方々ならびに研究参加者の皆様に心より感謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:TOは研究の着想,デザイン,データ収集,分析,論文執筆の全プロセスを行った,HKは原稿への示唆および,研究プロセス全体への助言を行った.両著者共に最終原稿を読み承認した.

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